緋弾のアリア ~飛天の継承者~   作:ファルクラム

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誠に勝手ながら、今回から投稿を始める合衆国編の終了をもちまして、本作の更新を、一時停止させていただきます。

理由としましては、前回の更新停止と同様、原作「緋弾のアリア」に内容が追い付いてきたため、今後の展開が不透明なまま更新を続ける事は出来ない為です。

また、ある程度、原作の方が進行しましたなら、更新再開するつもりですので、その際はよろしくお願い致します。

それでは、今しばらく、お付き合いください。


合衆国編
第1話「覇者の国へ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神などと言う想像の埒外にあるような存在に積極的に関わる事態は、少なくともこれまでの人生で一度も想像していなかった事態である。

 

 緋村友哉は、そのような事をぼんやりと考えていた。

 

 思い出されるのは昨夜の事。

 

 アリアが緋緋神として覚醒し、友哉たちと交戦になった。

 

 圧倒的な戦闘力で攻め立てる緋緋神を前に、苦戦を強いられた友哉達。

 

 幸いな事に、「緋色の研究」に対する知識を有するカナとパトラが援護に入ってくれた為、どうにか戦いを制し、緋緋神を眠りにつかせる事に成功した。

 

 だが、それは一時的な物に過ぎない。

 

 緋緋神は眠りについているものの、ふとしたきっかけで再び目覚めないとも限らない。

 

 それを防ぎ、事の解決に臨むため、今日、キンジとアリアはアリアの母、神崎かなえに会う為、彼女が収監されている東京拘置所へ来ていた。

 

 ここは拘置所正面の駐車場。ここに友哉は、バイクを停めて待機していた。

 

 護衛対象のクーパーの運転席では、欧州行きに同行した、チーム・コンステラシオンの島苺(しま いちご)が、こっくりこっくりと舟をこいでいるのが見える。

 

 今のところ、異常らしい異常は無い。

 

 友哉の傍らには、イクスのサブリーダーであり、友哉自身の恋人でもある瀬田茉莉が控えている。

 

 2人は、アリアとキンジの護衛だった。

 

 アリアは今、外務省とイギリス大使館の目を晦ます形で隠密行動をしている。

 

 イギリス政府は、世界に冠たるSランク武偵のアリアを手元に呼び戻そうと、あの手この手で謀略を仕掛けて来ており、外務省はそんなイギリスにおべっかを使い、ほいほいとアリアの身柄を差し出そうとしているのだ。

 

 勿論、周囲はおろか、アリア本人の意志すら徹底的に無視して、である。

 

 そこでアリアのパートナーであるキンジは、峰理子に依頼してアリアに変装させて日英両陣営の目を誤魔化しつつ、本物のアリアと行動を共にしているのだった。

 

 当初の目的は鬼たち、覇美一派の追撃と殻金の奪還にあったのだが、緋緋神覚醒によって、今は目的が変更され、よりダイレクトなアプローチが必要になった。

 

 その為の、かなえとの接触である。

 

 かなえは「緋色の研究」について、金一(カナ)やパトラ以上の事を知っている。それを引き出す事ができれば、あるいはアリアの緋緋神化に歯止めを掛けられるかもしれなかった。

 

「結構、時間がかかってるね」

「そうですね。面会時間は制限されているでしょうけど、手続きとか、それなりに時間がかかるでしょうから」

 

 ぼやくような友哉の言葉に、茉莉も頷きを返す。

 

 キンジとアリアが拘置所の中に入ってから、結構な時間が経っている。

 

 一応、2人とも周囲の警戒は怠っていないが、それでも、いつ何時、敵襲があるか判らない以上、緊張感は否が応でも増していた。

 

 理想としては理子の陽動が功を奏して、このまま何事も無く学園島に帰る事ができれば御の字なのだが。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 周囲の気配を探っていた友哉が、不意に眦を上げて眉を顰めた。

 

 それと同時に、茉莉もまた、菊一文字の柄に手を掛けて、鋭い視線を投げ掛ける。

 

 既に茉莉は、意識は戦闘レベルまで向上しているのが判る。いつもの儚げな危うさが消えて、鋭いまでの気配を発散していた。

 

 囲まれている。

 

 数は、恐らく20人以上。いずれも手練の面々だ。周囲から向けられる気配で、それが判る。

 

 やはり、そうそううまく事が運ぶと言う事は無いようだ。

 

 しかし正直、ここまで大規模な包囲網を敷いて来るとは予想外だった。

 

 友哉と茉莉、それにアリアとキンジを合わせても、あれだけの数を同時に相手どるのは難しいだろう。

 

「友哉さん・・・・・・」

「まだ、仕掛けないよ」

 

 逸るように呟く茉莉を、友哉は小声で制する。

 

 今回、敵はアリアの捕捉を目的としている。その為、アリアの姿を確認するまで仕掛けて来る事は無いだろう。

 

 ならば、相手が動きを見せるのを待つべきだった。

 

 敵がアリアに傾注し過ぎれば、その隙を突いて活路を見い出す事ができるかもしれない。

 

 やがて、接見を終えたらしいキンジとアリアが、拘置所の建物から出てくるのが見えた。

 

 同時に、周囲の気配も緊張感を増したのが判る。

 

 いよいよ、仕掛けてくる気なのだ。

 

 恐らく理子の陽動が功を奏していると思われ、敵は目の前にいるのが本物のアリアなのかどうか、思案しているのだろう。

 

 仕掛けて来るとしたらどこか?

 

 アリア達が車をスタートさせた瞬間か? あるいは走行中の包囲を狙うか?

 

 そんな事を考えていると、キンジとアリアがクーパーに乗り込むのが見えた。

 

 アリアが寝ている島のリボンを引っ張って起こした時だった。

 

「友哉さん、あれは・・・・・・」

 

 別方向に注意を向けた茉莉が、不思議な物を見るような目で言った。

 

 釣られて視線を向けた先には、確かに奇妙な生き物、ではなくて少女がいるのが見えた。

 

 外見はアリア並みに背が低いにもかかわらず、大人用のトレンチコートを無理に来ているせいか、かなりダブダブとした印象がある。顔には大きめな野暮ったい眼鏡を掛けているのが、妙に印象的である。

 

 少女はキンジとアリアが乗ったクーペの後部座席に無理やり乗り込むと、アリア達に対して何やら言っているのが見える。

 

 と、次の瞬間、

 

 いきなりアリアが、少女の首を絞めだした。

 

「友哉さん、あれは」

「間違いないね。敵だ」

 

 やがて車内での騒動が大きくなるのが見えた。

 

 明らかに穏やかな状況とは言い難い中、ついにキンジとアリアが、協力プレイで少女を車外へと放り投げるのが見えた。

 

 それと同時に、周囲の気配も大きくなる。

 

 取り巻くように状況を見守っていた連中も、動き出す気配を見せ始めたのだ。

 

 その様子を確認すると、友哉は刀の鯉口を切る。

 

「行くよ、茉莉」

「はい」

 

 短いやり取りで頷き合う2人。戦闘開始である

 

 次の瞬間、友哉と茉莉は、互いに示し合わせたように、別々の方向へと駆けた。

 

 次々と飛び出してくる、スーツ姿の男達。

 

 友哉はその中に、迷う事無く飛び込むと逆刃刀を抜刀。出会いがしらの一撃で、先頭の相手を昏倒させる。

 

「なッ!?」

「こいつ!!」

 

 友哉達の奇襲に、一瞬たじろく男達。

 

 その間に友哉は、相手の正体を確認する。

 

 胸に付けられた外交官徽章。

 

 どうやら、外務省の連中であるらしい。何人かが、懐に収めた銃を抜いて友哉に向かってくる。

 

 だが、その前に友哉は動いた。

 

 素早く敵の間をすり抜けながら移動しつつ、手にした刀を振るい、次々と薙ぎ払っていく。

 

 何人かの外交官が拳銃を放って応戦してくるが、弾丸の軌道は全て短期未来予測で先読みし回避、あるいは刀で弾く。

 

 目を転じれば、茉莉も外交官達を相手に大立ち回りを案じている。

 

 友哉をも上回る健脚で陣形を引っかき回し、立ち尽くす相手を次々と討ち取って行く。

 

 茉莉の縮地は、このような戦闘でも有効である。外交官たちは、あまりの機動力に翻弄され、茉莉の姿を捉える事すらできないでいる様子だ。

 

 友哉はナイフを持って接近してきた外交官を、刀の一閃で顔面を殴り飛ばして黙らせると、キンジ達の方へと目を向ける。

 

 ちょうど、さっきの小柄な女の子を振り払い、島がクーパーを急発進させるのが見える。

 

「行かせるか!!」

 

 外交官の1人が、クーパーを停止させようと、懐から拳銃を抜こうとする。

 

 だが、

 

「させる、かッ!!」

 

 神速の踏み込みで背後から接近し、友哉は男の背中を容赦なく蹴り飛ばす。

 

 悲鳴を上げて昏倒する男を踏み付けにしながら、更に放たれる拳銃を刀で防御。走り去るクーペを見守る。

 

 そのままクーペは、駐車場の外へと一目散に走り去って行くのが見えた。

 

 これで、アリア達の安全は確保できたはず。ひとまずは安心と行った所だろう。もっとも、外務省が周囲にも包囲網を敷いている可能性は否定できない為、油断はまだできないのだが。

 

 と、

 

「逃がさないのですッ アリア女史ィ!!」

 

 先程、キンジとアリアによってクーパーから蹴り出された小柄な女の子が、ど根性を発揮して立ち上がると、駐車場の隅へと駆けていく。

 

 何をする心算なのか、と見守っていると、突然、大型車の陰から、ミニ原付、ホンダ・モンキーに乗った先程の少女が飛び出してきた。

 

 ナンバープレートが「外」から始まっている所を見ると、外務省所有の車両であるらしい。

 

 その様子に、友哉は唖然とする。

 

「随分と、しつこい人もいたもんだね」

 

 言いながら、踵を返す友哉。

 

 キンジ達が脱出し、それを敵が追った以上、これ以上この場での戦闘に意味は無い。自分達もキンジ達を追った方が得策だろう。

 

 そう思った時だった。

 

「ッ!?」

 

 突如、これまでにないくらい、鋭い殺気が向けられ、友哉は一瞬にして身を翻す。

 

 一拍おいて、駆け抜けた銀の閃光が、僅かに友哉の頬を掠めて行った。

 

 間一髪、相手の攻撃を回避する事に成功した友哉は、とっさに距離を置きながら、顔を上げて相手を見やる。

 

「今のかわすか。大した反応だ」

 

 感心したような声が、友哉に投げかけられる。

 

 若い男。と言っても、恐らく20代中盤くらいだろう。

 

 短く切った髪を丁寧にセットし、ピシッとしたスーツに身を包んでいる。

 

 左手に持っているのは、フェンシングのサーベルを連想させるレイピア。日本でもゲーム等でメジャーな刀剣である。その細身の外見から貧弱なイメージもあるが、反面、他の刀剣に比べて軽い為、使いこなせば素早い攻撃、防御が可能となる。接近戦においてはきわめて強力な武器だ。

 

「さて、銭形に付き合って来てやったんだが、こいつはとんだ大物が釣れたものだな。まさか、昨今噂の計算外の少年(イレギュラー)が相手とは。できれば(エネイブル)の方が良かったが、お前もなかなか楽しませてくれそうだな」

 

 どうやら、友哉やキンジの事は予め知っているらしい。

 

 まあ、それも無理は無い事だろう。

 

 直接介入こそしてこなかったが、日本政府も極東戦機の事は掴んでいた。それを考えれば、外務省に代表戦士の情報が入っていてもおかしくは無い。

 

 イクスやバスカービルの詳しい情報も、把握されていると見て間違いなかった。

 

 レイピアを構え直す男。

 

「塚山さん・・・・・・・・・・・・」

「下がってろ。お前等の敵う相手じゃない」

 

 言いながら、塚山と呼ばれた男は仲間を下がらせる。

 

 対抗するように友哉も逆刃刀を正眼に構えると、注意を塚山1人へ集中させる。

 

 片手間で戦える相手ではない。全力を傾注して戦う必要がある相手と判断したのだ。

 

 茉莉は、他の外交官たちを牽制するように睨み付けながら、友哉達の対峙を見守っている。

 

 次の瞬間、

 

 友哉と塚山は、同時に仕掛けた。

 

 鋭い軌跡を描いて旋回する友哉の剣閃。

 

 対して塚山の刺突が雷のように伸びる。

 

 ガキンッ

 

 両者の刃が激突し、空中に火花が散る。

 

 こすれ合う刃。

 

 振り切った状態から、友哉は刃を返して、再度斬り込もうとする。

 

 だが、

 

 それを見た塚山が、僅かに口元を歪めて笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間、殆ど間髪を入れない素早さで、塚山は再度の刺突を友哉に向けて繰り出した。

 

「クッ!?」

 

 その攻撃に対し、とっさに後退して回避する友哉。

 

 だが、

 

「おっと、そいつは悪手だぞ」

 

 低い呟きと共に、塚山は一気に距離を詰めて来た。

 

 鋭く繰り出されるレイピアの攻撃。

 

 その攻撃を、友哉は辛うじて回避していく。

 

 レイピアそれ自体の攻撃力は、決して高くない。細い刀身から繰り出される攻撃には、「重さ」がが決定的に欠落している。

 

 だが、それだけに「速さ」は群を抜いていると言っても良いだろう。加えて、素早い攻撃で繰り出される鋭い切っ先は、殺傷力抜群である。その威力は、「重さ」をカバーして余りあった。

 

 ほとんどノーウェイトで繰り出される攻撃を、必死で回避する友哉。

 

 離れようとしても、殆ど差の無い機動力で追随してこられるため、仕切り直す事も出来ない。

 

 龍巻閃でカウンターを狙おうにも、相手の方が攻撃速度が速い為、不必要な体の回転は大きな隙になってしまう。

 

 繰り出される鋭い刺突。

 

 その攻撃を、友哉は辛うじて刀で防ぎながら、どうにか反撃の隙を探る友哉。

 

 今まで友哉は、対峙した大半の敵を自らの「速さ」で凌駕して勝利してきた。

 

 今まで戦った敵の中で、友哉よりも素早い動きができたのは、それこそイ・ウー時代の茉莉くらいである。

 

 だが、

 

 この塚山と言う外交官は、明らかに友哉よりも速い動きで攻め立ててきている。

 

 勿論、身のこなし自体は友哉の方が早い。だからこそ、辛うじて回避も追いついている。

 

 しかし塚山は、レイピアと言う武器の特性を最大限に生かし、最小の動きで攻撃を繰り出す事で、友哉をも凌駕する攻撃速度を実現しているのだ。

 

 放たれる3連撃の切っ先。

 

 その内の一発が前髪を掠める中、友哉は辛うじて首を傾ける事で回避。同時に、後方へ大きく跳躍する事で、塚山の間合いから逃れた。

 

 塚山の方でも、友哉の機動力は脅威と判断したのだろう。その場にとどまって、追撃の構えは見せなかった。

 

 どうにか、仕切り直しに成功した形である。

 

 しかし、剣戟の打ち合いは友哉にとって不利である事に変わりは無い。

 

「どうした、まだ終わるには早すぎるぜ?」

 

 言いながら、塚山はステップを踏んで距離を詰めに掛かる。

 

「まずい・・・・・・・・・・・・」

 

 友哉は低い声で呟く。

 

 距離を詰められたら、また先程の繰り返しになる。

 

 そうなる前に、こちらから先制攻撃を・・・・・・・・・・・・

 

 そう思った、次の瞬間だった。

 

 突然の、轟音が鳴り響く。

 

 振り返れば、包囲網を敷いていた外交官たち複数が、まるで人形のように宙に舞っている姿が見える。

 

「な、何が?」

 

 あまりと言えばあまりな光景に、思わず友哉は唖然として見上げる。

 

 周囲の緊張が高まる中、

 

 人垣が、まるでモーゼの出エジプトのように、左右へと別れていく。

 

 あっという間に、綺麗な形で左右に分かれる外交官一同。

 

 そして、別れた人垣の先では、

 

 刀を携えた1人の男が、静かにたたずんでいた。

 

 スラリと背の高い痩せ型の体格に、特徴のあるプロテクターを装着し、顔はバイザーで覆っており、手には近代的な拵えの日本刀が握られている。

 

 その姿を見て、友哉は歓喜の声を上げた。

 

「海斗!!」

 

 エムアインスこと、武藤海斗は、友の呼び声に対してニヤリと笑うと、尚も周囲を囲んでいる外交官たちを威圧するように前へと出た。

 

「ジーサード同盟(リーグ)のエムアインスだ。この場での戦闘は、俺が預からせてもらう。それでも尚戦おうと言うなら、アメリカ合衆国を敵に回す事になるが、それでも良いか?」

 

 話がいきなり大きくなったものである。

 

 その言葉に、外交官たちにも動揺が走る。

 

 彼等は武闘派だが、同時に国際関係のエキスパートたちである。そんな彼等が「外国と争う」事のリスクを知らない筈がない。

 

 この場での戦闘に、お流れムードが漂い始める。

 

 一方、友哉と対峙していた塚山も、一つ舌打ちするとレイピアを鞘に納めた。

 

 どうやら彼も、アメリカと事を構えるリスクは避けるべきと考えているようだった。

 

「ここは退いてやる。立場上、アメリカと事を構える訳にはいかないからな」

 

 クルリと踵を返しながら、塚山は低い声で言い捨てる。

 

「だが、これで終わりではない。お前達が緋弾の独占を続ける限り、俺達との戦いは避けられないと知れ」

 

 別に緋弾を独占しているつもりはない。友哉やキンジのみならず、当のアリア本人ですら、できる事なら手放したいと思っている筈だ。

 

 彼等が言っている事は、完全に一方的な主張であり、こちらにとっては迷惑千万な話なのだが、それを言ったとしても問題の解決にはならないだろう。どうやら、彼等には彼らなりの事情があって動いているようだし。

 

 だが確かに、彼等の目的がアリアの身柄を利用して勝手にイギリス等の外交関係に利用しようと言う話であるなら、それは友哉達にとって受け入れられる物ではない。

 

 彼等とは、近いうちに再び激突する事になる。

 

 去って行く外交官たちの背中を見ながら、友哉はおぼろげにそう思うのだった。

 

 やがて、駐車場には友哉と茉莉、そして海斗の3人だけが残された。

 

「それにしても海斗。何か、すごい良いタイミングで来てくれたけど、そもそも何で、日本にいるの?」

 

 つい先日、欧州の決戦で共闘したばかりの海斗がいる事に、友哉は首をかしげる。

 

 ここは何かしらの用事があったと考える方が自然である。

 

「お前達に用があって来たんだが、戦闘中だったのは予想外だった」

 

 海斗は苦笑しながらバイザーを上げると、キョトンとしている友哉と茉莉を見やった。

 

「緋村、それに瀬田も、サードがお前達に会いたがっている。すまないが、一緒に来てくれないか?」

「おろ?」

「今から、ですか?」

 

 茉莉の質問に、海斗は頷きを返す。

 

 どうやら、事態は思っている以上に複雑な意味合いがあるらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キンジの実家は、東京巣鴨の下町にひっそりと佇んでいる。

 

 遠山兄妹は両親がすでに他界しているが、両祖父母は健在であり、キンジ達は時々規制しては、祖父母に顔を見せて孝行しているのだとか。

 

 祖父の遠山鐡(とおやま まがね)は大戦中に零戦のパイロットをしていたつわものであり、ある時、撃墜されて不時着した島で、300人の米兵相手に大立ち回りを案じたと言う伝説の持ち主である。

 

 祖母の遠山セツも、本人は隠しているようだが、どこかの戦闘部族の出身らしく、その戦闘実力は高いらしい。

 

 エムアインスの案内で遠山家へとやって来た友哉と茉莉は、家主の鐡に挨拶してから屋内に上がり込んだ。

 

 丁寧にあいさつする2人に対し、鐡は人のよさそうな笑みを浮かべて

 

「おうおう、今日は良い日じゃのう。またまた、可愛らしい娘さんが2人も来てくれるとは。キンジも隅に置けん・・・・・・な、なにー!? お前さん、男じゃったのかァァァ!?」

 

 などと、友哉を見て驚愕していたが、その後は特に問題も無く遠山家に上がり込む事が出来た。

 

 考えてみれば、友哉もキンジの家に来るのは初めての事である。まさかkのような形で訪れる事になるとは、思いもよらなかったが。

 

 ジーサードが使っていると言う部屋に通されると、既に外務省を振り切って合流していたらしいキンジとアリア、それに遠山家の末娘たるかなめ。

 

 そして、布団の上で胡坐をかいたジーサード事、遠山金三の姿があった。

 

「よう、お前等。悪いな、急に呼び出したりしちまって」

 

 気さくに挨拶をしてくるジーサードだが、

 

 そんな彼の姿を見て、友哉と茉莉は絶句してしまった。

 

 体中にギプスやテープを巻き、元々義手だったらしい左腕も、今は外された状態にある。

 

 更に、布団の脇には酸素吸入器も置かれていた。

 

 明らかに重症であるにもかかわらず、何事も無いように笑っていられるタフさは相変わらず大したものだが、それでも痛々しい外見である事に変わりは無い。

 

「ちょ、どうしたの、それ?」

「里帰りして喧嘩で返り討ちにされたんだと」

「やられてねえ。ちょっと掠っただけだっつってんだろ」

 

 呆れ気味にコメントする兄に、キレながら噛みつくジーサード。

 

 とは言え、あのジーサードがここまでボコボコにやられる程の相手だ。かなりの強敵である事が伺える。

 

「来てもらったのは他でもねえ。緋村、瀬田、お前等に、一緒にアメリカに行ってもらう為だ」

「あ、アメリカ、ですか?」

 

 行き成りの申し出に、茉莉が目を丸くする。

 

 驚いているのは、友哉も同様である。

 

 何だか急に、話が大きくなってしまっていた。

 

「アメリカに、何かあるんですか?」

 

 茉莉が思っている疑問をぶつけてみた。

 

 ジーサードがわざわざ自分達にまで声を掛けてくるくらいだから、よほどの物があるのが予想できる。

 

 対いして、ジーサードは頷くと口を開いた。

 

「エリア51って知ってるか?」

「あの、UFOで有名な?」

 

 エリア51と言えば、その昔、墜落した未確認飛行物体(UFO)が運び込まれた、と言う都市伝説が有名である。一説によると、宇宙人の死体も収容され、研究されているのだとか。

 

「それもあるが、今の問題はそこじゃねえ」

 

 さりげなく、否定しないジーサード。

 

 だが、宇宙人以上に重要な問題となると、

 

「色金だ」

 

 ジーサードの言葉に、友哉と茉莉は一瞬にして緊張感が増した。

 

 色金は今、自分達が最優先で確保したいアイテムである事は間違いない。まさかそのうちの一つが、アメリカにあったとは。

 

「今日、ママに会って聞いた事なんだけど、あたしの緋緋神を止める為には、他の色金、璃璃色金とか瑠瑠色金に頼るしかないみたい。だから、アンタ達にも協力してほしいの」

 

 アリアが、ジーサードの説明を補足する。

 

 考えてみれば、緋緋色金には緋緋神が付いていた。と言う事は、他の色金にも神様が付いている可能性はある。

 

 どうやらアリア達は、自身の緋緋神化を押さえる為に、他の神から知恵を授かろうとしているようだった。

 

「兄貴は了承してくれた。お前等もそこに加わってくれるとこっちとしても助かるんだが、どうだ?」

 

 ジーサードがわざわざ、こっちにまで声を掛けて来ると言う事は、相当な激戦が予想されるだろう。

 

 だが、事が色金絡みだと言うなら、断る理由は無い。

 

「判った、行くよ」

「異論はありません」

 

 そう言って、2人は頷きを返した。

 

 

 

 

 

第1話「覇者の国へ」      終わり

 


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