緋弾のアリア ~飛天の継承者~   作:ファルクラム

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第8話「覇者の路線」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に広げられた冷凍食品の数々は、今の自分達にとってはこの上なくありがたい物である。

 

 友哉は、目の前のテーブルに座って、テキーラをカッ喰らっているご老体を眺めながら、苦笑を漏らした。

 

「いやー 今日はめでたいめでたい!! まさか、こんな田舎のゴーストタウンに本物のヒーローが来てくれたんだからな!!」

 

 そう言うと老人は、ジーサードの肩を叩きながら大笑いしている。なかなか馴れ馴れしい。

 

 この老人、サンダース氏と言うらしいのだが、どうやら以前、所有していた油田が大火災を起こし、絶体絶命の危機に陥った事があるそうだ。

 

 そこへ颯爽と現れ、彼と彼の家族を救ってくれたのがジーサードだったそうだ。

 

 以来、ジーサードの隠れた大ファンになったらしい。

 

 ジーサードが言った通り、アメリカの男達は皆、ヒーローへ憧れる。そこに年齢は関係ないようだ。

 

 バーで休息を取っていた一行の元へと現れたサンダース氏は、大喜びで一行を自宅へと招いてくれた。

 

 このような、人通りすら皆無と思える砂漠のど真ん中で、まさかこちらの味方になってくれそうな人物と出会えるとは。まさに、奇跡としか言いようが無い。

 

 まして、吹き曝しに近いバーに比べたら、掘立小屋と高級ホテル、とまではいかずとも、場末の安ホテル並みには違いがあった。

 

「ほう、グレーム・レイク空軍基地・・・・・・エリア51を攻めたいと。ジーサードは?」

 

 メンバー達とポーカーをしながら、サンダースはそんな事を尋ねてくる。

 

 流石のこの窮状にあって、地元民なら何らかの解決策を持っていないか、と期待して尋ねてみたところ、サンダースは何やら、楽しげな調子で話に乗って来た。

 

「で、反撃喰らって遭難してたのか。奴等はUFOやら何やら飛ばしよるからな。騒音公害でワシもむかっ腹が立っとる。あんた、奴等に一泡吹かせに行くのか?」

「そんなところだ」

 

 ジーサードの答えに、サンダースはニヤリと笑う。

 

大戦争(ビッグゲーム)か、ジーサード?」

激戦(ホット)だぜ」

 

 対してジーサードも不敵な笑みを返す。

 

 どうやら世代こそ違えど、熱い魂を共有していると言う点でこの2人、なかなか似た者同士であるらしい。

 

 サンダースは、そんなジーサードに対して指を鳴らして見せる。

 

「悪くねえぜ小僧。力になってやる。困った時はお互い様(We need each other)じゃ」

 

 ここに来て、運は上がり始めている。

 

 このまま、一気に行く所まで行きたいところである。

 

「サンダース氏、車をお持ちでしたら、お貸し頂けませんでしょうか? 勿論、代金はお支払いいたします」

 

 アンガスの申し出に対し、しかしサンダースは頭を振る。

 

「車じゃ、エリア51までは行けんぞ。車道が無い。ワシゃ、ジープも持っとらん。馬だけだ」

 

 流石に、馬でエリア51に特攻を仕掛ける訳にもいかないだろう。いくらポジティブシンキングなジーサード・リーグの面々とは言え、そこまでは無謀になれない様子だ。

 

 しかし、そんな反応を予想していたかのように、サンダースは身を乗り出した。

 

「だがのォ 別にスペシャルな道がある。明日用意してやるから、楽しみに待っとれ」

 

 

 

 

 

 流石に1日歩き通して疲れたのだろう。ポーカーが終わったあと、そのまま皆、就寝する運びとなった。

 

 ざっくばらんなサンダース翁でも、どうやら最低限の倫理観は備えているらしく、個室は女子達に宛がわれ、野郎たちはリビングやソファーで雑魚寝と言う事になった。

 

 しかし、そこは大柄なアメリカ人。

 

 海斗、アトラス、コリンズ、アンガスの4人が横になると、リビングの床はいっぱいになってしまった。

 

 1軒ある馬小屋の方は、遠山兄弟が入って行くのが見えた。

 

 少し覗いてみたが、何やら兄弟水入らずで話しており、入って行ける空気ではない。

 

「・・・・・・さて、どうしようかな?」

 

 途方に暮れる友哉。

 

 流石に、氷点下の中、外で寝るのは憚られる。

 

 思案の末、先程までいたバーに戻って寝る事とした。

 

 来る時には集団徒歩で30分かかったが、友哉の足なら、単独で走れば5分で到着できる。

 

 サンダース宅に比べれば劣るものの、これでも壁と屋根がある為、寒さはある程度まで凌げる。

 

 友哉は借りて来た毛布を羽織ると、壁に寄り掛かる形で座り、静かに目を閉じた。

 

 流石に、友哉も砂漠の行軍で疲労がたまっている。すぐに意識は曖昧になり始めた。

 

「明日はいよいよ、敵地突入か・・・・・・・・・・・・」

 

 サンダースがどのような移動手段を提供してくれるのかは判らないが、再びマッシュの迎撃があると見て間違いない。

 

 それを切り抜けない事には、エリア51へは辿りつけないだろう。

 

 敵は最新兵器でガチガチに武装している。その防衛ラインをいかにして突破するかが、勝利のカギだろう。

 

 キシッ

 

 控えめに床のきしむ音が、落ちかけた友哉の意識を覚醒させる。

 

 とっさに、傍らに置いてある刀に手を伸ばそうとして、やめた。

 

 戸を開けて入ってくる気配が、よく知っている人物のそれだったのだ。

 

「友哉さん、もう寝ましたか?」

 

 肩から毛布を羽織った茉莉が、静かな声で尋ねてくる。

 

 どうやら、友哉が寝てるかもしれないと思って気を使っているらしい。

 

 そんな茉莉の仕草にクスッと笑いながら返事をした。

 

「まだ寝てないよ」

 

 その言葉に、茉莉は安心したように近付いて来ると、友哉の横に腰を下ろす形で、自分も壁に寄り掛かった。

 

「どうしたの?」

「トイレに行こうとしたら、友哉さんが出て行くのが見えたので、追って来てしまいました」

 

 そう言って、身を寄せてくる茉莉。

 

 何だか、それだけで寒さが和らぐようだった。

 

「あったかいです」

 

 どうやら、同じ気持ちだったらしい茉莉も、そう言って笑う。何だか、悪戯をしている子供のような気分で、少し可笑しかった。

 

 言い得て妙かもしれない。

 

 こうして、2人してこっそり仲間の元を抜け出した年頃の少年と少女が、身を寄せ合って一晩を明かそうとしているのだ。

 

 ちょっとした悪戯気分になるのも無理ないだろう。

 

「茉莉、もっとこっちにおいで」

 

 そう言って、友哉は茉莉の体を寄せ合い、ピッタリと身を付けると、自分の毛布を広げて祭りも包んでやった。

 

 自然、抱き合う形になる2人。

 

 吐息がそのまま、互いの顔を優しくくすぐるのが判った。

 

「・・・・・・・・・・・・あ、あの、友哉さん」

 

 程無くして、茉莉が躊躇いがちに声を掛けて来た。

 

「おろ?」

「その、言いにくい事なんですけど・・・・・・・・・・・・」

 

 茉莉は何かを躊躇うように、口をもごもごとさせる。

 

 やがて、意を決したように先を続けた。

 

「私達の間って、もっと進展させるべきなんでしょうか?」

 

 それは、茉莉がずっと思っていた事だった。

 

 日本では、瑠香や彩夏にさっさと進展させろと、口を酸っぱくして言われる日々が続いている。

 

 キスはした。

 

 付き合い始めてから何回かだが、そこはクリアしたのだ。

 

 しかし、自他ともに認めるほど奥手な性格の茉莉は、どうしても、そこから先に進めないでいた。

 

 勿論、茉莉も手を拱いていた訳ではない。

 

 ある時など、部屋に誰もいない事を厳重に確認した上で、パソコンのある机の前で足がしびれるまで正座した後、爆弾を解除するような慎重な手つきでパソコンを操作し、更に死体袋の中身を確認するような手付きでインターネットのアダルトサイトにアクセスした事がある。(ちなみに、決断から目的のホームページに辿りつくまで要した時間は3時間57分)

 

 開いて、いきなり男女が裸で絡み合っているシーンを見た時には、思わず頭から煙を発し意識を失ってしまったが。

 

 三日後、再度のアクセスを試み(今度は、なるべく写真は見ないようにしながら)読み進めた結果、付き合い始めた男女が肉体関係を持つに至るまでに、最短なら数日しか掛からないと言う。

 

 翻って、自分達は既に、付き合い始めて半年近く経っている。

 

 流石に、不安になってしまった。

 

 もしや、自分は友哉を失望させているのではないか、と。

 

 そんな茉莉に対し、

 

「・・・・・・・・・・・・僕も」

 

 友哉は、躊躇いがちに答えた。

 

「茉莉と、もっと関係を進められたらって思っているよ」

「友哉さん・・・・・・・・・・・・」

「けど、そう言う事って、お互いが本当に望まないうちは、するべきじゃないと思っている」

 

 男女双方にとって、それは軽い気持ちで踏み越えて良い問題ではないと友哉は思っている。

 

 だからこそ、今はまだ、その時ではないと思っていた。

 

 と、

 

 茉莉の頭が、崩れるように友哉の方へと押しつけられる。

 

「おろ?」

 

 気が付くと、茉莉は安心したように目を閉じて、静かな寝息を立てていた。

 

 その可愛らしい様子に、思わず微笑みを浮かべる友哉。

 

 そして、そのまま自分も眠りへと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物の中から出てきたそれを見て、誰もが目を見開いた。

 

 決して大きい、と言う訳ではない。むしろ、現在実用されている物と比べれば、若干小さい印象すらある。

 

 しかし、醸し出す存在感は、比ではなかった。

 

 黒光りする車体に、天に向かって突き出した煙突、まるで巨大な鉄塊を直に削り出したような姿には、小規模ながら「黒鉄の城」と言うイメージがぴったりと合う。

 

 翌朝になり、サンダースは一同を街の中央にある大きな建物へと連れてきた。

 

 どうやら西部開拓時代の駅だったらしい街は、側線が引かれていたらしい。そして、夜に見た時には暗がりで分からなかったが、どうやら中央の建物は車輌車庫だったらしい。

 

 封印を解くようにして鎖を外され、巨大な扉が開かれた中から、圧倒的な存在感とともに姿を現したのは、威風堂々とした佇まいを見せる蒸気機関車だった。

 

「どうじゃ、すごいだろう。ワシの爺さんが乗っていた車輌じゃ。多少錆びついとるが、灯を入れれば、ちゃんと走るぞい」

 

 自慢げに車体を撫でながら、サンダースは車体を撫でる。

 

 よく見れば、車輌前方に掲げている星条旗に描かれている星の数は、現在の50個ではなく、13個の星が円型を描いて書かれている。つまり、この汽車は本当に開拓時代の遺産なのだ。

 

 と、

 

Gosh(神様)!!」

 

 突然の声が上がり、一同がそちらに振り向くと、メンバーの中で一番年長の筈のアンガスが、少年のように目をキラキラと輝かせて車体を眺めている。

 

「何と。何と。これは・・・・・・セントラル・パシフィック鉄道の63C号車! アメリカの国宝の一つではございませんか。薪燃料から石炭燃料に切り替えた初期タイプがまだ現存していたとは、興奮を禁じ得ませんぞ。おおッ 何と美しい臙脂色をしたカウキャッチャー・・・・・・」

「あんた、見る目があるなアンガスさん。ちなみにこいつは大陸横断用(トランス-アメリカン)の車体でな。愛称は『トランザム』だ」

 

 何やら、老人2人が蒸気機関車を見上げて盛り上がっている。

 

「鉄オタか」

「鉄オタだね」

「鉄オタですね」

「・・・・・・」

 

 キンジ、友哉、茉莉、レキの4人が、呆れた調子で爺さんズを眺めている。

 

 トランザムと言うからには、謎粒子を放出しながら速力アップや攻撃力強化等の特殊能力を発揮してほしい所だが、流石にそれは期待できそうにない。

 

 だが、何はともあれ「足」は確保できた。

 

 線路はエリア51内部まで続いていると言う。つまり、上手く行けば一気に敵本拠地まで乗り込めると言う事だ。

 

 ただちに出発準備が始められる。

 

 P(パーソナル)A(アーセナル)A(アーマー)を着込んだアトラスが中心となって荷物が積み込まれ、燃料となる石炭も、たっぷりと積み込まれた。

 

 中には、車に使われるニトロ燃料も運び込まれた。これは万が一の時の加速用に用いられる事になっている。

 

 トランザム号は4両編成で、先頭の機関車と、その後方にあって燃料である石炭と水を積んだ炭水車、そして客車が2両から成っている。

 

 こうして、出発準備が着々と進められていく。

 

 そんな中キンジは、客車に乗り込もうとしているかなめ、レキ、茉莉を前にして手で制した。

 

「お前達は守備役(ギャリソン)に残れ。サンダース爺さんに家を貸してもらえるように、俺が頼んでおくから」

 

 自身もの客車に乗り込もうとしていた友哉が、その言葉を聞いて動きを止めて振り返った。

 

 昨日、サジタリウスが手も無く撃墜されたのを見て分かるように、今回の戦いは多大な危険が待ち受けている。

 

 その事を予測し、キンジは女子達を残そうと思っているのだ。

 

 だが、

 

「この任務では、守備役を配置できる人的余裕はありません」

 

 真っ先に反論したのは、普段は無口なレキだった。

 

 恐らくレキにも、キンジの意図は判っている。それが、自分達を心配した故に出た言葉だと言う事も判っている。しかし、それでも尚、今回の作戦に自分達が必要とされているのを自認している。

 

 だが、キンジは尚も言い募る。

 

「お前達はそもそもジーサードの部下じゃない。レキと瀬田は言うまでも無いし、かなめはもう解雇された身だろ。こんな特攻じみた強襲作戦に着いて来る義理は無いんだ。それに、お前達は女子だ。特にかなめは一番の年下なんだし、安全な所で待ってろ。心配するな。俺は・・・・・・俺達は必ず生きて帰って来るから」

 

 だが、

 

「心外だなァ 私はおはようからおやすみまで、お兄ちゃんを見守る妹だよ」

 

 そう言って微笑むかなめ。

 

 その間にレキは、さっさと客車に乗り込んでしまう。どうやらこっちも、意志を覆す気は無いようだ。

 

 そして茉莉も、曇りの無い笑顔をキンジへ向けた。

 

「遠山君のお気遣いは嬉しいです。けど、ここまで来て、仲間外れは嫌です。一緒に行かせてください」

 

 茉莉の言葉を受けて、友哉はキンジの肩をポンッと叩く。

 

「連れて行くしかないよ。正直、僕もキンジと同意見だけど、ここで置いて行ったら、後でお互い、ご機嫌取りに苦労しそうだし」

「・・・・・・みたいだな」

 

 友哉の言葉を聞いて、キンジは嘆息気味に肩をすくめる。

 

 とにかく衆議一決。全員参加で最終決戦に突入する運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝からマッシュ・ルーズヴェルトは緊急呼び出しで叩き起こされ、基地内の指令室へと足を運んだ。

 

 室内に入ると、既に司令部スタッフが招集され、それぞれの作業へと入っている。

 

 そして、この中では異質とも言える2人がマッシュの目に飛び込んできた。

 

 日本大使館員の塚山龍次郎武装書記官と、海兵隊のジェス・ローラット中将。

 

 どちらも、マッシュの協力者、および支援者と言う事で、本来なら畑違いの空運基地への立ち入りを許可されていた。

 

「こちらに接近する物体があるって本当かい?」

「はい。速度はそれほど速くありませんが、真っ直ぐこちらに向かってきます。既に偵察型のプレデターを発進させました。間も無く、対象と接触します」

 

 プレデターと言うのは、アメリカ軍が配備を進めている無人航空機である。

 

 昨日、ジーサードリーグのサジタリウスを撃墜したのも、この機体だった。

 

「偵察機が接触しました。光学映像、出ます!!」

 

 オペレーターの声に、マッシュは視線を大パネルに向ける。

 

 そこには、先行偵察に出撃したプレデターから届いたカメラ映像が投影された。

 

 次第に鮮明になる映像。

 

 そこには、煙を吐き出しながら線路の上を突き進む、トランザム号が映し出された。

 

 それを見た瞬間、

 

 マッシュは思わず笑い転げた。

 

「いやー 楽しいッ 実に楽しいよジーサードッ 君にはコメディアンの才能があるみたいだね。まさか、そんなポンコツで、この僕と戦おうと言うのかい!?」

 

 ライバルの意外な復活が、可笑しくてたまらないとばかりに笑い転げる。

 

 それに追従するように、ローラットも大いに腹を震わせて笑う。

 

「ジーサードめ、とうとうヤキが回ったようだなッ どうやらこの勝負、我々の勝ちで決まったも同然だッ」

 

 愉快そうに笑うローラットを横目に見ながら、マッシュは自身の仕事に掛かる。

 

 あのまま、砂漠に埋もれて余勢を過ごすなら、そのまま見逃してやってもいいと思った。何だかんだ言っても同じアメリカ人なのだ。砂漠の端っこくらいに住処を作ってやるくらいの度量はマッシュにもある。

 

 だが、不遜にもさらなる挑戦を続けると言うのなら、相応のもてなしをしてやるまでだった。

 

「稼働全部隊に出撃を命じるんだ。敵はおろかにも、真っ直ぐこちらに向かって来ている。これはボーナスゲームだ。遠慮なく、ハチの巣にしてやるんだ」

 

 マッシュの中でも、既に戦いのシナリオは自分の勝利で終わると確信している。

 

 いかにジーサードが強大でも、自分の持つ戦力に敵う筈がないのだから。

 

「私が連れてきた、海兵隊の精鋭も出撃させよう。念には念を入れるべきだからな」

「ええ、お願いします」

 

 ローラットの言葉に、マッシュは頷きを返す。

 

 本来なら、この男の手など借りたくも無いのだが、確かに相手はあのジーサードだ。打てる手は全て打っておくべきだった。

 

「では、部隊の出撃に合わせて、私も出撃します」

 

 そう言って、席を立ったのは龍次郎である。

 

 既に、手には鞘に納めたレイピアを所持しており、意識は戦闘に向けられているようだ。

 

「頼むよ」

 

 その背中に、マッシュは小馬鹿にするような口調で言う。

 

「君の国の人間があっちに加担しているんだ。責任は、しっかりと取ってもらうからね」

「・・・・・・ええ、判っています」

 

 静かな口調で頷きを返すと、龍次郎はそのまま指令室を出て行った。

 

 その姿を見て、ローラットはあからさまに不機嫌そうな顔で鼻を鳴らした。

 

汚らわしい日本人(イエロー・ジャップ)め。ご機嫌取りに必死と見える。そんなにご主人様に尻尾を振るのが好きなのかね、極東の猿は? プライドの無い連中だ」

「まあ、弱者は強者に頼らないと生きていけないのは世の中の常識ですからね。せいぜい、どんなふうに足掻くのか、見物させてもらいましょう」

 

 そう言うと、マッシュは自分の席に腰掛けて端末を起動する。

 

「さてと、始めようか」

 

 まるで楽しいゲームを始める子供のような、軽い口調でマッシュは言い放った。

 

 

 

 

 

 蒸気機関車の速度は、お世辞にも速いとは言えない。

 

 無理も無い。元々が西部開拓時代の遺物だ。まともに動くだけでも御の字と言わざるをえまい。

 

 加速用のニトロ・パッケージはいざという時の切り札である為、おいそれと使う事はできない。

 

 その為、トランザム号は通常速度を維持したまま、線路の上を驀進していた。

 

 そんな中、いちはやく「それ」の存在に気付いたのは、レキだった。

 

 その茫洋とした瞳を空へと向け、一角を指差す。

 

 促されるように空を仰いだキンジは、視界の中に奇妙な物が浮かんでいる事に気付いた。

 

「何だ? エイ? ・・・・・・いや、クジラか?」

 

 とにかく、相手がかなりの大型である事は間違いない。

 

「航空機のようです。全幅は40メートル強。速度をこの汽車に合わせて、3.2キロの距離を保って追跡してきます」

 

 レキの冷静な言葉を受けて、一同に緊張が走った。

 

 ついに、敵が仕掛けて来た。予想通り、空からだ。

 

「総員戦闘配置ッ 迎撃準備急げ!!」

 

 ジーサードの言葉を受けて、一同は弾かれたように動き出す。

 

 かなめ、アトラス、レキの3人は最後尾の4号客車へと移動し、対空戦闘準備を行う。

 

 むき出しの炭水車では、コリンズが単身で石炭運びを担っていた。

 

 最重要の機関車にはキンジ、ジーサード、アンガス、ツクモ、ロカ、サンダース翁が残り防衛する手はずである。

 

 そして友哉、茉莉、海斗の3人は3号客車に待機。状況に応じて味方の援護に回る。

 

 迎撃態勢を整えるメンバー達。

 

 その時、上空を飛ぶ敵大型機、X-48E「グローバルシャトル」から、小型の何かが切り離されるのが見えた。

 

 幅は目測で3メートルほど翼を広げている。

 

「何だろう? 人に翼をくっつけたみたいな感じがするんだけど・・・・・・」

 

 様子を見ていた友哉が、首をかしげながら呟く。

 

 翼や装甲を張り付けた姿は、どこか近未来的な雰囲気を醸し出している。正直、ちょっと格好良いと思った。

 

「「LOO(ルウ)だ!!」」

 

 ほぼ同時に、相手の正体に気付いたキンジとジーサードが叫ぶ。

 

 LOOは、その細身の体に翼や装甲で武装し、こちらへ向かって来ていた。

 

「おいアトラス。あのメカ女の武装、お前のP・A・Aと似ているな。お前のが第1世代なら、あっちは第2世代ってところか?」

《イエッサー。あれはP・A・Aよりも服飾風のユニットであります。識別用に名づけるならP(パーソナル)A(アーセナル)D(ドレス)!!》

 

 因みに、数年後にはより強力な進化を遂げる事になるP・A・Dだが、現時点では先行試作型に過ぎず、お世辞にも実用的とは言い難い。

 

 LOOが装備しているP・A・Dにしても、強力な武装を搭載しているものの、自力飛行は不可能であり、母機で戦場上空まで輸送し、そこから切り離してグライダー滑空しつつ強襲、と言う、寄生戦闘機(パラサイト・ファイター)的な戦術しか取れないのだ。

 

 だが、迫りくるLOOの存在が脅威である事は間違いない。

 

「よし、ドレスを着たお嬢ちゃんとダンスしてやろうッ お前等、トランザムを守る切れ!! 守り切ってエリア51に入りさえすれば俺達の勝ちだ!!」

 

 ジーサードの鼓舞に、全員が威勢よく答える。

 

 その時、

 

「こっちも来たぞ」

 

 海斗の言葉に、3号客車の上に陣取っていた友哉と茉莉は、前方を振り仰ぐ。

 

 そこには、ローターを回転させながら迫りくる、大型ヘリの姿がある。

 

 エリア51から発進してきた輸送ヘリである。その中には、ローラットが連れてきた海兵隊の精鋭部隊は控えている。

 

 やがて、ハッチが開かれ、中の兵士達が次々と吐き出される。

 

 迎え撃つように、友哉達も刀を構える。

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 

 

第8話「覇者の路線」      終わり

 


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