緋弾のアリア ~飛天の継承者~   作:ファルクラム

47 / 137
第3話「万武の武人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男を見た人間は、誰もが鋭利な刃を連想するだろう。

 

 引き締まった細身の体。サングラスの奥に隠された鋭い眼差し。俊敏さを連想させる体つきから発せられる雰囲気は、どう見ても素人の物ではない。

 

 知らない人間が見れば、それだけで震えあがりそうな雰囲気がある。

 

 今や京都武偵局は、未曾有の危機に瀕していると言っても良い。

 

 千年王都として多くの人間が訪れる一方で、明治時代以降、行政の中心が東京に移ってしまい、更に近畿の産業は大阪、神戸に集中している事もあり、有為な人材は、それらの大都市に流れてしまう事が多い。京都の治安維持能力は、その規模と比較して必ずしも高いとは言い難い。もっとも、重要性が低い故に、今まで大きな事件が起こって来なかった事も事実である。

 

 そう、今までなら。

 

 だが、今やその常識も覆されようとしている。

 

 故に、男が任務地から呼び戻される結果となった。

 

 男はやがて、局長室とプレートの貼られた扉の前に立ち、その中へと入った。

 

「失礼します」

 

 男が入ると、中にいた壮年の男が顔を上げて視線を向けてきた。

 

「来たか、待っていたぞ」

 

 京都武偵局局長を務める壮年の男性は、元々は東京武偵局からの出向組であり、自身も現役の武偵として前線に立ち続ける男である。

 

「すまんな、任務を途中で切り上げさせる事になってしまって」

「構いません。どの道、向こうは長期戦覚悟の任務です。一朝一夕で片づけられないなら、優先度の高い方を先に片づけましょう」

 

 局長は男にソファに腰掛けるよう促すと、机の上に置いてあった資料を手渡した。

 

「かねてから懸念されていた事だ。イ・ウーの崩壊により、その残党達が世界各地に散らばり活動を始めている。いずれ、戦いが本格化する前に、奴らが自分達の陣営強化に走る事は予想されていたからな」

「そして、まず動き出したのが、こいつらですか」

 

 男はサングラス越しに資料を眺めながら答える。

 

 持っている資料に書かれているのは、香港に拠点を置く「藍幇(ランパン)」と呼ばれる組織に関わる物だった。

 

 イ・ウーとも取引があり、構成員の一部が「入学」していた事もあった。

 

 その藍幇の構成員が密かに日本へ入国し、この京都に入ったという情報を掴んだのだ。

 

「君にわざわざ戻ってもらったのは、他でもない。この件への対処をお願いしたいからだ」

 

 京都武偵局の中でナンバー1の実力を誇る男ならば、たとえ相手がイ・ウーの残党であっても対抗は可能であると考えての人事だった。

 

 逆を言えば、この男以外で、藍幇の構成員に対抗できる戦力は、京都武偵局には存在しない。

 

「了解しました」

 

 短い言葉と共に、男は立ち上がる。

 

 その全身からにじみ出る殺気、そして圧倒的な存在感。

 

 男が「京都武偵局の切り札」と呼ばれるにふさわしい実力者である事は、それだけで説明不要だった。

 

 

 

 

 

 見学を終え鹿苑寺を出た所で、友哉達は外で待っていた陣と合流した。

 

 結局、係員の説得は出来なかったらしい。それどころか、危うく警察まで呼ばれそうになったらしい。どうにか武偵手帳を見せて納得してもらったものの、結局中には入れなかったのだ。

 

「まったく、どうかしてるぜ。あの石頭」

 

 ぼさぼさ頭をがりがりと掻きながら、陣はぼやく。

 

 何しろ友哉達が入場している1時間以上の間、ずっと外で待っている羽目になったのだから、仕方がない事である。

 

 そんな陣の様子に友哉と茉莉は、顔を見合わせて苦笑するしかない。

 

「まあまあ、ちゃんと後で資料はあげるし、レポート書くのも手伝ってあげるから」

「マジか、じゃあ後でデータ渡すから、宜しく頼むぜ!!」

「いや、あくまで手伝うんであって、代わりにやってあげる訳じゃないからね」

 

 調子に乗ろうとする陣に、釘をさす友哉。

 

 そんな少年達の様子を、クスクスと笑いながら彩が見ていた。

 

「それじゃあ、友哉、あたし達行くけど、どうせあんた達も、今夜は葵屋に泊るんでしょ」

「うん、そのつもり」

 

 瑠香の実家である葵屋ならば、身内割引きで宿泊料を安くしてくれる。その浮いた分を遊興費に使おうという計画だった。

 

「あたしらも、葵屋を予約してるから。宿で会おうね」

 

 そう言うと、彩は待っている夫と子供たちの方へと歩いていった。

 

「良いお姉さんですね」

 

 親子3人で歩いていく彩の背中を見送りながら、茉莉は言った。

 

 どうやら彩は、茉莉の事も気に入ったらしく、今夜は色々と話をしてみたいと言っていた。

 

 その状況を想像し、友哉は苦笑を洩らす。

 

 控えめな性格の茉莉が、割とハイテンションの彩のトークについていけるかどうかは分からないが、それなりに楽しそうな光景ではあった。

 

「さてと、そんじゃ、俺等も行くとするか」

 

 陣は大きく体を伸ばしながら言う。友哉達を待っている間手持無沙汰だったせいもあり、余計に疲れてしまった様子だ。

 

「そうだね、次は、えっと・・・・・・」

「清水寺ですね、ここからなら、バスで行きますから・・・・・・」

 

 茉莉が携帯電話でバス時間を検索していく。

 

 思わぬ出会いとアクシデントに見舞われ、予想外の滑り出しになった友哉達の修学旅行だが、これはこれで、一同にとっては楽しい範疇におさまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清水寺の見学を終え、友哉達は3番目の目的地である鞍馬山へと向かっていた。

 

 鞍馬山は、古くから天狗の住む山として有名であり、彼の源平合戦きっての名将、源義経が幼少期を過ごし、武術と学問を学んだ事でも有名である。

 

 山門を潜り、長い石段を登って行くと、やがて本堂が見えて来る。

 

「なんつーか、辛気臭ェ場所だな」

 

 周囲を見回しながら、陣が率直な感想を漏らす。

 

 確かに、夕暮れが近い事もあって観光客の姿は少なく、かつ山寺である為か、静かな場所である。

 

「あの、相良君、一応お寺なんですから・・・・・・」

 

 静かなのは当たり前だろう、と窘める茉莉に、陣はそんなもんかね、と肩をすくめてみせる。

 

 そんな2人の様子を苦笑しつつ横目で見ながら、友哉はカメラ撮影を続けていく。

 

 鞍馬寺と言えば、思い出されるのはやはり源義経だろう。

 

 当時は遮那王と名乗っていた義経は、これから己に降りかかる運命を知らないまま、この寺で幼少期を過ごしていた。もしそのまま、義経が安寧の時の中で生きて行けたなら、それから起こる歴史は、きっと大きく様変わりしていた事だろう。恐らく、源氏と平氏のパワーバランスが逆転するような事も無かった筈だ。

 

 だが、時代のうねりは、義経が埋もれていく事を許さなかった。やがて彼は、歴史を動かす大きな戦いの舞台に躍り出る事になる。だが、それは同時に、彼のその後の悲劇を運命付けたと言って良かった。

 

 悲劇の名将、源義経。彼は歴史の表舞台に出られて満足だったのか、それとも、平和な内に埋没した方が良かったのか。

 

 現代を生きる友哉には、その判別は永遠にできそうになかった。

 

 と、

 

「あれ・・・・・・・?」

 

 ふと気が付けば、いつの間にか周囲に誰もいなくなっている事に気が付いた。

 

 茉莉や陣の姿も見えない。

 

「もうッ 2人とも、何処行っちゃったんだ?」

 

 見回しても、鬱蒼と茂る森があるだけ。木立のせいで視界もよく聞かない。

 

 耳を澄ませても、静寂が返ってくるだけだ。

 

 途方に暮れて溜息をつく。

 

「仕方がないな」

 

 はぐれて行動する訳にもいかない。そう思い、携帯電話を取り出した時。

 

 突然、視界の中を横切るように、大きなシャボン玉が風に流されて通り過ぎた。

 

 そして、目の前に来たとたんに破裂し、空中に虹を残して散っていく。

 

「・・・・・・おろ?」

 

 何故、こんな場所で、シャボン玉が飛んでいるのか。

 

 そう思った時。

 

「お前、今死んだネ」

 

 片言の日本語で声を掛けられ、振り返る。

 

 そこには、小柄な少女が、口元に笑みを浮かべて立っていた。ゆったりとした中国の民族衣装に身を包んでおり、長く伸ばした髪をツインテールにしている辺り、どこかアリアに似た外見をしている。

 

 だが、

 

 友哉は僅かに体を半身にずらし、少女と向かい合って対峙する。

 

 笑顔とは裏腹に、少女から発せられる殺気に気付いているのだ。

 

 それは、この静寂な寺院には似つかわしくない。あまりにもそぐわない物だった。

 

「・・・・・・君は、誰?」

 

 尋ねる友哉に少女は、口元の笑みを強くする。

 

(ウオ)、名前、ココ言うネ。覚えておくと良いよ、飛天の継承者」

「・・・・・・飛天の、継承者?」

 

 聞き慣れない単語で呼ばれ、友哉は当惑する。一体何の事を言っているのか。

 

 だが、飛天の継承者。つまり、飛天御剣流を蘇らせようとしている友哉は、そう言う意味で確かに「継承者」と言えなくもないが。

 

 だがなぜ、こんな小さな女の子から、そんな単語が出て来るのか。

 

 そんな友哉を前に、更に近付いて来るココ。

 

 次の瞬間、

 

 いきなり、ココは友哉の目の前まで距離を詰めていた。

 

 その動きに、友哉は思わず驚愕する。

 

『速い・・・いやッ』

 

 違う。

 

 スピードは思っている程には速くない。しかし、通常の動作から急激な動作に移る挙動が、あまりに「普通」過ぎた為、次の動きが読めなかったのだ。

 

 ココはそのまま、鋭い蹴りを友哉に向けて来る。

 

「クッ!?」

 

 その蹴りを、とっさに後退して回避する友哉。

 

 ココの蹴りは、友哉の頬を僅かに掠めていく。

 

「何をッ!?」

 

 相手の真意を問いただす間もなく、更にココは襲い掛かってくる。

 

 今度はゆったりとした袖口から、大振りの扇を取り出して構える。戦扇(バトルファン)と呼ばれる武装で、主に中国拳法などで使われる武器だ。古くは日本でも非殺傷系の武器として使われた。

 

 ココの持つそれは、恐らく鉄製。まともに食らえば骨折は免れないだろう。

 

 何故襲われてるのか、この、ココと名乗る少女はいったい何者なのか。状況が全く掴めないまま、静寂の鞍馬山は戦場と化していた。

 

『まずい・・・・・・』

 

 友哉は僅かな焦りと共に、ココとの間合いを測る。

 

 今の友哉は丸腰だ。逆刃刀は入口で預けてしまった。一応、防弾制服は着ているが、衝撃を殺す事ができないので、戦扇相手では、何の役にもたたない。

 

「キヒッ」

 

 戦扇を広げたココは、回転するような挙動で友哉に襲い掛かった。

 

 旋回しながら襲い掛かってくるココの戦扇。

 

 その軌道を見極め、腕を掴んで動きを封じるか。

 

 そう思った瞬間、一瞬、戦扇の縁が怪しく光ったのを、友哉は見逃さなかった。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちしながら、友哉はココを捕まえる事を諦め、とっさに手を引く。

 

 振るわれた戦扇が、友哉の手首を掠めていく。

 

 と、

 

 戦扇に触れた瞬間、その箇所から僅かに血が噴き出した。

 

「ッ!?」

 

 舌打ちしつつ、出血箇所を手で押さえる友哉。

 

 一瞬見て思った通り、戦扇の縁は刃になっているようだ。下手に捕まえようとすると今のように切り裂かれていた事だろう。

 

「さて・・・・・・」

 

 どうするか?

 

 流れ出た血を舐め取りながら、友哉は次の行動を模索する。

 

 とにかく刀か、少なくともそれに代わる物が欲しい所だ。レキほどではないにしろ、徒手格闘の技能が弱い友哉が素手で戦える相手ではない。

 

 だが、相手はそれを待ってくれるほど甘くは無いようだ。

 

 再び戦扇を掲げ、斬り込んで来る。

 

 振るわれる鋭い攻撃は、まともに受ければ切り裂かれる事が判っている。

 

 対して友哉は、とっさに空中高く飛び上がった。

 

「逃がさないネッ!!」

 

 それを見て、ココもまた膝を撓めて跳躍、友哉を追って上昇して来る。

 

 逃げる友哉と、追うココが、距離を置きながら垂直に上昇する。

 

 だが、友哉の狙いは逃げる事ではない。

 

 ここは森の中。周囲には樹齢何千年と言う木々が立ち並んでいる。

 

 その木々から伸びる大きな枝を掴むと、逆上がりの要領で勢いを殺さず一回転、そのまま推進ベクトルを180度回転させて強制的に体勢を入れ替えると、尚も上昇して来るココに向けて、カウンター気味に蹴りかかった。

 

「ッ!?」

 

 ココが一瞬、目を見開くのが見える。

 

 そこへ、友哉の蹴りが入った。

 

 相対速度的に、回避が可能な速度ではない。

 

 友哉の足裏は、ココの小さな体に突き刺さった。

 

「どうだッ!?」

 

 渾身の手応えと共に、友哉はそのまま踏み抜く勢いでココを地面へと叩きつける。

 

 ややあって、着地する友哉。

 

 やったか?

 

 そう思った瞬間、

 

 シュルッと伸びた何かが、友哉の首に巻きついた。

 

「グッ!?」

 

 喉に感じる圧迫感。

 

 それが髪だと判った瞬間には、既に手遅れだった。

 

 ココは友哉の蹴りを、一瞬速く翳した戦扇で受け止め逸らしていた。

 

 そして着地の隙を突いて背後に回り、長い髪を使って首を締め上げたのだ。

 

 気道が締めあげられ、息が詰まる。

 

 はずそうともがくが、完全に首の皮膚に食い込んだ細い髪をはずす事は不可能に近い。

 

「これでリーチね」

 

 笑いを含んだココの声が聞こえる。

 

 直に酸素が行かなくなった脳は、強制的に活動を止められる。そうなったら終わりだ。

 

「ま・・・だ、まだッ」

 

 友哉はとっさに地面を蹴り、後方に大きく跳躍した。

 

 背後から首を絞められた場合、無理に外そうとするのは得策ではない。はずそうともがいている内に、酸素欠乏症で意識が落ちてしまうからだ。

 

 ならば、どうするか?

 

 答えは、締め上げている本人を直接攻撃する、である。拘束を直接解くのではなく、締めている力を緩めさせるのだ。

 

 友哉は勢いよく後方に跳躍する事で、背中に張り付いていたココを巨木の幹に叩きつけた。

 

「グアッ!?」

 

 カエルがつぶれるような声と共に、拘束が緩む。

 

 その一瞬の隙を突いて、友哉はココを引き剥がした。

 

「クッ・・・・・・」

 

 よろける足で距離を取りながら、大きく口を開けて酸素を取り込む。

 

 霞む視界の中で、ダメージを受けたココが、それでもダメージを無視して追撃を仕掛けて来るのが見える。

 

『まずい・・・早く、立て直さないと・・・・・・』

 

 朦朧とした意識の中でどうにか体を動かそうとするが、その意思とは裏腹に、膝に全く力が入らない。首締めの影響で酸素が足りず、体の機能が低下しているのだ。

 

 そんな友哉の目の前に、ココが立つ。

 

 やられるのか。

 

 そう思った瞬間、

 

 何かが、高速で飛来すると同時に、ココに鋭く襲い掛かった。

 

「阿ッ!?」

 

 その攻撃を回避しきれず、辛うじて受け止めながら後退するココ。

 

 友哉を守るように現われた長身の人物は、突進の勢いそのままに蹴りを繰り出し、ココを吹き飛ばしていた。

 

「ハッ」

 

 鋭く低い声と共に、疾風の如く駆け抜け、鞭のように撓る足が蹴りを繰り出す。

 

 それに対してココは、ダメージの残る体を引きずりながらも、辛うじて後退する事で回避する事に成功した。

 

「お前、誰ネ!?」

 

 尋ねるココに対し、男は静かに構えを取りながら返す。

 

「この場合、それは俺の言葉だ、藍幇の構成員。これ以上の狼藉は俺が許さん」

 

 サングラス越しに放たれる眼光が、容赦無くココを射抜く。

 

 その眼光に怯んだ訳ではないだろうが、ココは警戒の構えを解かないままゆっくりと後退して行く。

 

「仕方ない。今日の所は退いてやるネ」

 

 そう言うと、視線を男の背後で膝を突いている友哉に向けた。

 

「ヒムラユウヤ、お前、良いトコ30点。0点じゃないけど、まだまだ落第点ね」

 

 そう言うと、身を翻し、軽快な身のこなしで距離を取る。どうやら、そのまま後退するつもりのようだ。

 

(ウオ)はココ。万武(マンウー)のココ。ユウヤ、お前、後でもう一度、再試やる。その時は、もっと実力見せるネッ」

 

 そう言いながら、ココは坂道を飛び越えるように跳躍し、あっという間にその小柄な体は見えなくなってしまった。

 

 一体、何だったのか。突然現れたかと思うと、通り魔のように襲い掛かって来た。だが、ただの通りまでは無い事は、その言動から察しが付く。

 

 身のこなしや戦扇を使った戦い方など、明らかに戦いなれした者の動きだ。

 

 今回は素手だったが、果たして刀を持っていたとしても勝てるかどうか怪しかった。

 

 それにしても、

 

 友哉は目の前に立つ男に目を向け、そして笑顔を向けた。

 

「お久しぶりです」

「・・・・・・ああ」

 

 友哉の言葉に、男が短く答えた時だった。

 

「友哉さん!!」

 

 茉莉が呼ぶ声が聞こえ、振り返る。

 

 見れば、茉莉と陣が山頂の方から駆け降りて来るのが見えた。

 

「大丈夫か、友哉ッ!!」

 

 今まで何をしていたのかは知らないが、どうやら危機を察知して来てくれたらしい。

 

 そんな2人は、友哉の傍らに立つ男の存在に気が付き、足を止めて身構える。

 

「テメェ、何者だ!?」

 

 唸るような陣の声。

 

 茉莉もまた、いつでも動けるように身構えている。

 

 対して友哉は、頭をかきながら苦笑する。どうやら、完全に誤解されているらしい。

 

 一方の男は、静かに構えを解いたまま立ち尽くしている。ただ、その身から発せられる静かな存在感が、圧倒的な質量を持って、この場を支配している事が判る。

 

 まったく、

 

 無口なのは相変わらずのようだが、これでは周りの人間が苦労するのも無理は無い。

 

「・・・・・・そんな格好だから、いつも誤解されるんじゃないんですか?」

「・・・・・・そうか?」

 

 言いながら、男はサングラスを取る。

 

 その下から現われた鋭い眼差しが、改めて2人を見詰める。

 

 鋭く絞られた瞳は、相当な修羅場をくぐって来た事を感じさせるが、同時に深い色は思慮深さを感じさせる。

 

「友哉さん、その方とお知合いなんですか?」

「うん、まあね」

 

 驚いたような茉莉の言葉に、友哉は苦笑しながら頷いて見せる。

 

「この人は京都武偵局所属の武偵で、四乃森甲(しのもり こう)さん。瑠香のお兄さんだよ」

 

 その言葉に、陣と茉莉は目を丸くするしか無かった。

 

 

 

 

 

第3話「万武の武人」      終わり

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。