30世紀の笛吹き {完結}   作:ハナのTV

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第10話

 

アリーナの一番高い場所、櫓のような場所で私は引き金を絞る。傍らに置かれた分隊支援火器という種別の機関銃を持ち上げてバイポッドを展開し、断続的にアリーナに群がる民兵、観客構わずに4.85mm弾の雨を浴びせ続ける。銃の左側面から飛び出る空薬きょうは勢いよく宙を舞い、毎分950発の連射速度によってコンクリートむき出しの床を埋め尽くし、金色の煌びやかな物へと変化させる。

 

まるで黄金の川だと思った。排莢口から飛び出る薬莢が既に転がっている空薬きょうを押しのけて流れていくのだ。

 

横目で綺麗だな、と思いながらもメインである目の前の光景と音に私は心を躍らせる。訳も分からずに死んでいく民兵、我先に逃げようとして転び、後から来た者に踏みつぶされ、頭上から降り注ぐ弾丸を体に受けてビクリ、と震わせて死んでいく観客たち。

 

先ほどまでの歓声も罵倒も最早なく、自分たちが安全な場所で死に行くものを見て楽しんでいたのが、一転して泣いて喚いて足を動かしている。歓声と罵倒、悪意の二重奏は今や、負の感情のオーケストラへと変わったのだ。

 

「歌って! 踊れ! 人生はリズムよく!」

 

そして心地の良い悲鳴を銃声と爆音がドラムやパーカッションのように彩るのだ。機関銃を一旦置いて、ポンプアクション式のグレネードランチャーへと持ち替え、群衆へと撃ちこみ、榴弾がダース単位の悪党たちを吹き飛ばした。強烈な爆音とともに破片と肉片が飛び散り、赤いサイケデリックなアートが形成されたのに体を震わせ、頬を赤くする。

 

人生とはリズムだと思う。生きているだけの人生はあまりにもったいない。どうせなら地肉躍る冒険や暴力、過激な恋と彩を持たないと、何のための一生か分からなくなる。誕生日にホルスターに突っ込んでいるマグナムオートをもらった日から私の人生は踊るようだ。

 

必要なのはリズム、単調な生き方は要らない。奪い奪っての非日常の中で踊り狂ってこそ、笛吹だと私は思う。空薬きょうの見せる姿こそリズムだ。内部の火薬を燃焼させ、爆発のエネルギーを弾丸に伝え、空になった薬きょうが飛び出て、最期に甲高い音を鳴らして転がる。

 

一瞬、一瞬に命を燃やして最後は呆気なく存在意義を無くす。そんな生き方を求めて入ったのが私だ。私の笛吹きだ。

 

『取り過ぎはよくないな。ミナミ』

 

ナノマシンを介しての通信が起きて、その後に銃声が響いた。すると私の後ろで誰かが倒れた音がした。振り向くと頭蓋骨の半分を吹き飛ばされた民兵だった。

 

『後ろは任せなさい。君は前の得物を狩ればいい』

『ありがとう! おじいちゃん!』

 

先台をスライドさせて空薬きょうを排出、ショットガンを大きくしたような外見のグレネードランチャーを再びアリーナの方へと向けると、民兵達の一団が反撃を開始しだした。アサルトライフル、軽機関銃、サブマシンガンとフルオートで制圧射撃を加えて来た。人数は七人程で私がいた櫓を穴だらけにし、木片が辺り一面に散らばる。

 

「ひゅう!」

 

櫓から飛び出して、ランチャーを抱えて走り出す。飛び出る半秒前にRPG、対戦車ロケットランチャーが放たれたらしく、元居た場所は成形炸薬弾によって破壊された。爆風が私を押し上げて、ジャンプした私の軽い体を押し上げた。

 

宙高く舞い上がり、クルリと回る私は安定しない空中でランチャーを再装填し、着地してから発射し、弾切れになったソレを捨てて、マグマムオートに持ち替える。

 

榴弾は大きく逸れて二人しか倒せなかったが、すぐにコルトお爺ちゃんの狙撃が行われて、RPG持ちを仕留め、続く二射目で二人の民兵を同時に射殺した。胸と腹を撃ち抜かれた二人が血だまりの中に伏せ、倒れるのを見てゾクリと心が打ち震えた。

 

かつてなかった体験に私の頭は沸騰寸前になった。楽しさとアドレナリンの過剰分泌で脳が焼き切れるのではないか、とすら思う。この楽しさこそが私の求めていたリズムだ。高鳴る心臓がビートを刻みだして自然と笑いがこみあげてくる。

 

『これが笛吹きなんだね! 狩って狩られて 走りまくって! 最高!』

『そうだ。これが仕事の楽しみ方だ。だが、仕事は楽しむ者ではないと考える者もいる』

『ベッキーちゃん達の事だね?』

 

引き抜いたマグナムオートを四連射。派手なマズルフラッシュと金属音を含んだ銃声を響かせて、敵兵二人の胸をボデイアーマーごと貫通し、天国への階段へとご招待する。硝煙の甘い香りが極上のスイーツにも思える香りが一層興奮を増幅させたが、どこにでも空気の読まない奴はいるもので、残った一人が恐慌状態へとなり、ライフルを捨て背を向けて逃げ出した。

 

非常に興が冷める一瞬だったが、そこを面白くするのが私の相方の面目躍如と言ったところだろう。

 

無様に走っていた彼であったが、死体に足を取られて転んだところをコルトお爺ちゃんのライフルが捉え、発砲。放たれた7.7mm×56弾は寸分の狂いなく後頭部を貫いた。

 

哀れな死にざまを晒して倒れる彼の姿はコメディだった。

 

『そうだ。ターキッシュもそうだが、二人は子の笛吹のお題目を本気で成し遂げる気でいる。誰もが皮肉そうに語る子供の救出を。そして、そのために自らを焼くことを辞さないし、そうあるべきだと考えている』

『それもリズムある人生だね』

『そうだとも』

 

コルト爺ちゃんは愉快そうな声で肯定した。私達とベッキーちゃん達は目的が違うだけで、敵対するようなものは無い。むしろ、彼らの生き方もまたリズムある人生と言え、私にとってはそれも肯定されるべきだと思う。

 

実際、見ていると本当に彼らはリズムある人生を生きていると思う。村人を助けたい一心で単身突っ込みに行くベッキーちゃんに、その彼女に何かを見出して彼女と子供のどっちも救う事を諦めないがために、わざわざロシアンルーレットをしに行くターキッシュ先輩。

 

「何だ、ベッキーちゃんも凄いじゃん」

 

ひょっとしたら私達以上にリズムに富んでるかもしれない。彼らのすることだってスリルたっぷりだ。その上で目的が達成されたのなら、その達成感はきっと天を突き破るほどの勢いだろう。と言っても私がマネできるわけはない。私はコッチの方が性分に合っているからだ。

 

今こうして頭上に幾重もの弾幕が張らされているのを覆し、悪党たちが最期にどんな顔をするのか見るほうが私は好きだ。同じ組織に居るからと言って皆が皆同じ方向を向く必要なんてどこにもない。私達は楽しみ、彼らは戦う。

 

「だから、我々で。彼らは彼らで棲み分けされるべきなのだ。だから、私はターキッシュにこっち側だと想って欲しくはなかった」

 

コルトお爺ちゃんはダストコートをはためかせ、私が姿勢を低くしている観客席の間に降り立った。私の手を握ってダンスの如くクルリと回させると目の前に三人の民兵がいて彼の前には四人いた。

 

フェイス・トゥ・フェイス。直に顔を合わせて私とお爺ちゃんは得物であるマグナムを向けて速射した。454カスールと44マグナムの銃声が重なり、リボルバーを持つ老兵とオートマチックの新米の二人で背中合わせになって撃った。聞こえた音の数は四つ。老兵の放つリボルバーの銃声は早すぎて二発で一つの銃声を放っていたことに私は口笛を吹いた。

 

西部劇の一幕のように、静粛が訪れ五人の敵兵が倒れた。

 

大穴を胸に開けた民兵の顔は信じられない、と言った顔でどこまでも間抜けなモノだった。背中を預けた老人はリボルバーを再装填し、六発の空薬きょうを床に落としながら語った。

 

「私達こそが悪党だ。ターキッシュにもベッキーにも今のままでいて欲しい、その方がより自分の性を認識できる。その方が良いと思わんかね?」

「悪い人だね、お爺ちゃん。だから助けるの?」

「それだけではないがね」

 

シリンダーを戻したお爺ちゃんは気配を察知して今までのような腰だめからの射撃ではなく、照準器を覗いて二発撃ち、ボックス席だったであろう席に身をひそめ飛来する高速弾を回避する。

 

私も姿勢を低くして遮蔽物の陰から適当にマグナム弾を乱射し、マガジンを交換する。マグキャッチボタンを押して、新しいマガジンを装填。何度となくやって来たアクションに狂いはない。

 

『いいかね? ミナミ。笛吹に必要なのは二つ。救う者と殺す者だ。善人と悪党を同居させて初めてなるものだ。彼らはより善人であろうとする。なら、悪党な私達が何をすべきか』

 

念話で話しながらコルトお爺ちゃんは懐からスイッチの類を取り出して、不敵に笑った。私も彼が何をするつもりなのかを瞬時に理解し、二カッと笑った。

 

『好きなだけやって、彼らを援護することにある訳だ』

 

安全装置解除も含めて二回スイッチを押す。すると、アリーナ、いや民兵たちの拠点のあちこちから爆発が立て続けに起き、地面が大きく揺れた。あらゆる場所からプラスチック爆弾とガソリンによって作られた地獄の業火が噴出し、大勢が悲鳴を上げる。

 

ターキッシュのロシアンルーレットにはベッキーちゃんを救う以外にもう一つ目的があった。それは陽動。彼が注目を浴びている中、私達は本物のショーを提供すべく準備していた。

 

耳と心くすぐる心地の良い爆音。鼻に香る嫌なガソリン臭ですら上等な薬物の如きエクスタシーを運んでくれる。これが笛吹。私の職業だ。

 

「何はともあれ、人生どれだけ踊れるかが肝心なわけだ。私達も彼らもな」

 

お爺ちゃんはそう言って気持ちよさそうに大きく笑った.

 

 

 

 

 

アリーナから抜け出し、私は駆ける。扉を蹴り破ってターキッシュが待ち伏せしていた民兵一人を殴り倒し、腰に差してあった銃剣を奪い取って喉元に突き立てる。

 

「ベッキー!」

 

悲鳴一言すらあげさせずに仕留め、ターキッシュは殺した男からアサルトライフルを剥ぎ取り、私に投げ渡す。受け取ったライフルは今まで見て来た中ではマシな外見で錆びや腐食などは見られなかった。

 

だが、意外な見た目に驚いている暇はない。目の前、僅かな距離に民兵たちが机やテーブルをごった返しにしてバリケードや遮蔽物を作り、そこからひたすら銃弾を浴びせかけてくるのだ。

 

ターキッシュと私はお互い、左右に分かれた。ターキッシュは単発で四回ほど撃ちこんだ後にコンクリートの出っ張りの陰に飛び込み、私はフルオートで連中の遮蔽物を集中的に射撃し、脚力をフルに活用しその上を飛び越えた。

 

打算もなにもない、ただ純粋な殺意に導かれた私は犬のように飛び跳ねた。空気中で火を吐くアサルトライフルの烈火の如き鉛の嵐をかき分けて行く。

 

死ね、死ね!と叫ぶ心に抗う必要などない。一片の理性を残して身を狂気に染め上げるのだ!

 

宙を飛び下を見れば、民兵たちが呆気にとられており何とも間抜けな顔を晒していた。でも容赦することはできない。着地と同時に二人を腰だめ射撃で薙ぎ払い。残る三人が一斉にこちらの方を見て立ち上がった。

 

男が口から罵声をだす前に銃声が二つ鳴った。立ち上がったのが運のツキだ。ターキッシュは粗悪なライフルを再装填し終わっており無防備な後頭部をさらけ出した二人が脳髄を撃ち抜かれて倒れる。

 

血と臓物の匂い、ついでに香るアンモニアの臭気が刺激し、相手には恐怖を私には笑みをもたらした。

 

残った一人は腰に吊り下げた拳銃を引き抜くことなく、極めて原始的な殴ると言う方法で私を攻撃する。ボデイアーマーを着込んでおり非力な女なら殴り合いで勝てると思ったのだろう。

 

「嘗めてんじゃねぇ!」

 

私は振り上げられた拳を躱し、腕に噛みついた。歯に伝わる肉の感触と血の味が口いっぱいに広がり、骨まで達した。男が大絶叫する中、ライフルを短く持って憎き鬼畜外道の体に銃口を押し付ける。

 

引き金を引き、マガジン内に残った残弾を一気に吐き出した。フルオート射撃の、それも4.85mmより大口径のライフルの腕に伝わる激烈な反動は普通ならコントロールすら不可能だが、この距離なら別だ。超至近距離から放たれた弾丸の前に旧式のボデイアーマーは耐えきれるわけもなくアラミド繊維を切り裂き、男に腹いっぱい鉛玉をご馳走した。

 

男は満腹になって満足してしまったのか、腹を抱えて倒れこんだ。私は口を開いて真っ赤な唾を掃き出し、ついでにその死体に向かって毒も吐いた。

 

「お返しだよ」

 

地獄で焼かれるなり煮られるなりされてしまえ。この世が続く限り、あの世で今まで他人に味わせて来た地獄の十倍をその身に受けるといい。それだけの事を貴様たちはしたのだ。

 

 

息を落ち着かせる前にターキッシュがやって来て、私の肩に手をやる。

 

「荒っぽいがよくやった! だが、感慨にふけっている時間はない。子供たちは?」

「この先の通路を奥へ行けば、大勢いるはずです!」

「なら急ぐぞ!」

 

ターキッシュは民兵から布製の簡易なチェストリグを剥ぎ取り私に寄越した。中にはフル装填されたマガジンが四本詰まっている。

 

「俺の背中はお前に預ける。持っていけ」

 

それだけ言って走るように背を軽くたたいた。もう一つ渡してきたのは手榴弾と拳銃だった。ただそれだけのものだったが、嬉しかった。私に背中を預ける、と言う言葉は大きかった。

 

あのロシアンルーレットが私と彼を一気に近づけさせた。無論恋愛での話ではない、パートナーとしての話だ。そして、ここに来て同じ目的のために私も彼も動いているという事実が強く認識でき、彼が私の理想とする笛吹であり私に信頼を寄せてくれたのだ。

 

今の私には銃も希望もあって、その上心強い先輩だっている。少し前とは違う状況に自然と頬が緩み、同時に身を引き締めた。この機会を逃してはならない、この男と共に、絶対に囚われの子供たちを救わなくては、と。

 

そのために、目の前に群がる悪党を倒し、薙ぎ払い、撃たなくてはならない。そうした思考のせいか、精神が研ぎ澄まされ、体を軽くなる。私の五感が鋭さをまし、無意識では感じ得ない匂いと音を聞き分けていく。

 

本来は意識的に利かせないと常人より優れている程度の感覚がリミッターを外され、今の私にはより多くの事がわかる。

 

鼻につんざく、火薬と血の汚い匂い。その場所すら今の私には手に取るようで、走った向う側の薄い木製の壁の裏に排除すべき存在を感じ取った私は足を止めて片膝をつき、若干地面を滑りながら、腰だめで銃の上部を押さえつけての連続射撃を浴びせかける。

 

1マガジン、およそ30発の弾丸を撃ちだし、銃口が火を吐いて視界を激しく遮った。鋭敏化された聴覚に轟音が鳴り響く。だが、不思議と奴らの悲鳴が聞こえ、私はすぐに立ち上がって走る。

 

その横で走るターキッシュの顔は驚きに満ちていた。私の予想通り待ち伏せしていた二人の死体が目に入った。様を見ろ、と心の底から罵った。今日死ぬと思わなかった中で死んだ気分はどうだ、とも。

 

だが、ターキッシュの言った通り感慨にふける暇などない。足音、3人だと感じ取ったときにはターキッシュが動いていた。彼はライフルを単発で3度撃って廊下の曲がり角にいる3人が顔を出せないようにし、次の瞬間にはピンを抜いた手榴弾を投げていた。

 

2秒後に炸裂し、爆風で飛んで来た敵兵が目の前に転がったが、彼は顔すら合わせずに3発撃ちこんで止めを刺し、曲がり角に来たところで足を止めた

 

「ステイ!」

 

声が聞こえた後に、金属音が小さくその先から聞こえた。銃のコッキング音だ。私はすぐさま止まり、激烈な射撃の渦中に入らずに済んだ。

 

銃弾が跳ね、霧状になったコンクリート片が頭上から降ってくる。とめどない銃声とわずかに聞こえる男たちの怒号に罵倒。それを聞き分け、敵が私達の後ろから迫っているのを奇跡的に聞き取れた。

 

「後ろから来ます! どうすれば?!」

「簡単な話だ! ついて来い!」

 

ターキッシュは2個目の手榴弾を抜き、向う側に投げつけた。敵はまたしても簡易なバリケードを構築しており、放られた手榴弾はバリケードに阻まれ炸裂。派手な木片と煙が立ち上がり、敵が怯んだ。

 

「チャージ!」

 

突撃の号令と共に体を稲妻の如く走らせた。バリケードに向かって全力疾走しながらデタラメにライフルを乱射した。煤で汚れた空薬きょうを勢いよく排出する度に弾丸の咢が万物を食いちぎろうと銃口の先に襲い掛かっていく。まるで音速の、ヒトの目で刃見えない小さな肉食動物だ。それをアイツら一人残らず叩き込んでやった。叫ばない彼と反対に私は吼え、私と彼は二人で勢いを殺さぬまま、バリケードを蹴り破った。

 

手榴弾とライフル弾でもろくなったバリケードに私達を止めることなどできなかった。私は弾切れになったライフルをかなぐり捨てて、自動拳銃を引き抜き、民兵の側頭部に銃口を押し当てて一人を射殺し、仰向けに倒れていた二人目にも同じ目を味わせようと銃口を向け、引き金を引いた。だが、粗悪な整備のせいか弾詰まりを起こし発射できなかった

 

「何よ?!」

 

敵はチャンスとばかりに私に飛びかかって来た。壁に押し付けられ、拳銃を手から落としてしまう。男は私の細い首に掴みかかって絞めにかかって来た。呼吸が出来ずに苦悶の声を出し目を閉じかけたが、私の精神がソレを許さなかった。

 

「のしかかってんじゃねえ! キモイんだよ!」

 

高ぶった心が働きかけ、目を開くと男のベルトに差された銃剣を奪い取り、顎を突き上げた。返り血が飛び散り白目をむいた男が私の上に倒れて身動きが取れなくなった。しかも目に血が入り視界が封じられてしまい、その間隙が出来たことに慌てて私は血を拭き取り、視界をクリアにした。

 

3人目が目の前に見えてやられる!と直感を覚えたが、3人目はこちらに銃口を向ける前にターキッシュに頸動脈を切られ、喉笛から空気が漏れだして奇妙な笛音が鳴ったのを最後に絶命した。

 

「背中は預けるって言ったろう?! 立ちな ベッキー!」

 

私の上の死体を蹴りあげ、踵で私がかなぐり捨てたライフルを目の前に差し出す。獲物を拾い上げている間にターキッシュは後背を衝こうとした敵兵の排除に移っており、ブーニーハットの下に見せる瞳はすでに敵兵を捉え、悪党狩りをしていた。

 

その猛禽類のような目に睨まれた連中はなす術もなく、私がターキッシュの援護ポジションにつくころには既に事を終えていた。

 

「目的地までは?」

 

ターキッシュの問いを聞き、私は廊下の様子、歩いてきた歩数などを思い出して、すぐ近くであることを理解し、人差指でその方向を示して答えた。

 

「もうすぐです! 後はrun and run !」

「走って、走って、走り抜けってか!? 分かりやすくてイイな!」

 

しかし、此処まで来て弾薬はそこを尽きかけているのに気付いた。そして民兵どもの弾薬を漁ろうにも、明らかに規格が違うものばかりで舌打ちをした。しかも、それらを使おうにもほとんど在庫と言う在庫が無い状態だった。

 

「弾が……!」

「これを使え」

 

ターキッシュはそう言って、ナイフを手渡してきた。刃渡りのすらりと長い頑丈そうな一品だった。

 

「お前の言う通りなら、この廊下の先だ。だが、もっと大勢の敵がいるに違いねえ。そこで、だ。初心に戻ってもらうぜ」

「初心?」

「簡単だ。答えはお前の俺との嫌な思い出第一号、訓練だよ」

 

私は瞬時に想いだし、何をすべきかを理解した。なら、私はこれに徹するべきだと判断し、ターキッシュに自分のライフルを預けた。

 

「背中……任せてもいいんですよね?」

「生意気言うな新米。当たり前だろうが」

 

戦いの場で私達は微笑み合った。場違いな行為だったが、私達はお互いを信用するという意思表示を表情で示し合った。突撃すべき廊下の先、大きな金属製の扉があって、半開きになっている。

 

廊下の床には新品同様の弾薬が転がっており、大慌てで入り込んだのだ、とすぐにわかった。それにひときわ大きな足跡、プレジデントもいることは確実だろう。他に何人の敵がいる? 子供たちは? そんな疑問をよそにターキッシュは一人死体から手榴弾を集めて、作業している。

 

彼の目には絶対の意志が宿っていた。最初合った時からは考えられない、その姿は私を勇気づけるには十分すぎた。

 

この人とならやれる。あの悪党どもに相応の報いを受けさせて、地獄から大勢を解放する、私の夢、願いが叶えられる。やはり、この人も笛吹なのだ。

 

「俺が前に出る。お前は飛んで跳ねて、斬りつけろ」

「了解!」

 

ターキッシュの後ろに付き、彼が駆けだすのを待つ。ほんの僅かな静かな時間、大きな背中を見つめて思うのは、彼と共有している一つの正義、笛吹としての正義だ。心身を一体化させて、その時を待ち、ナイフの柄を握りなおす事三回、彼は足に力を込め、駆けだした。

 

走って、走って、扉の向こう側から聞こえるモーター音に息遣いを耳にしても、脚を止めることはしない。相手が重機関銃を持っていれば、逃げるか? いや、たとえ相手がミサイルだろうと不死の化け物だろうと最早私達を止めることなんて出来やしない。

 

此処まで来て引きさがるのは私としては、いや笛吹として最高にナンセンスだ。ようやく手に入れた反抗と救いの機会、掴んでこそ私は笛吹になれる。そう、目の前を走る男のような。

 

そして、彼は最後の扉をけ破った。視界に広がるは三十は数える民兵の集団と二機のプレジデント。丸みを帯びた機械人形が重機関銃をコチラに向け、引き金を絞ろうとした時、ターキッシュは何を思ったか、ブーニーハットをプレジデントの片方に投げつけた。

 

ブーニーハットは見事にプレジデントの蜘蛛を思わせるカメラアイを覆った。小賢しいと言わんばかりにハットをどけたプレジデントの足もとには、針金で纏められた手榴弾の束があった。

 

「ヒトを吹っ飛ばした礼だ。 とっておけ」

 

収束手榴弾の激烈な爆圧は隣り合っていた二機のプレジデントがモロに受ける羽目になった。檻が所せましと詰められた場所で密接状態であった1機は下半身を吹き飛ばされバランスを崩して重機関銃の引き金を引いたまま倒れてしまいもう一機に大口径弾を浴びせる結果となった。

 

限定空間内では大きすぎるボデイがあだとなり、本来なら躱せたかもしれない攻撃もかわせない。そこへターキッシュは広い場所ではないこの場で最大の効果を発揮する手りゅう弾を使ったという訳だ。

 

更にそこへ、建物全体が大きく揺れた。特大クラスの爆発が起こったらしく、頼りのパワードスーツも失って、挙句大規模な爆発の轟音が鳴り出したので、悪党たちは揃いもそって動揺し、視線を私達から離した。

 

「Go!」

「ワウ!」

 

ターキッシュがフルオートで射撃し、数名をなぎ倒した時、合図がはなたれた。私は吠えて左翼の集団に飛びかかった。一人目の喉を切り裂き、逆手にひっくり返して、左足を軸にクルット回り、二人目の心臓に突き立てる。

 

すぐさま引き抜いて、三人目、四人目と懐に飛び込んでひたすら、切り裂き続ける。集団に入り込んだことで射線に味方が入り撃つことにためらっている悪党どもの喉や利き手を白刃で真っ赤に染めてやる。

 

悪党への憎悪と笛吹としての仕事を学んだ私に躊躇いはない。救うにはこの地獄の悪鬼の死が必要だ。殺しは悪だけど、ならば目の前のこいつらのようにヒトの命を玩具にしたものに一体何のバツを加えてやろうと言うのか。

 

また、そんな彼らから子供を救うのにこれ以外の方法があるというのか。私には少なくともこれ以外はないと感じられた。だが、忘れてはいけない。私は笛吹、殺戮を楽しんではならない。コレは解放で、私は誰かの代わりに泥を被って、地獄を打ち払うのだ。

 

「お返し!」

 

鮮血を浴びても目を閉じない。鋭敏になった五感が伝える奴らの匂い、音を感じ取って、掴みかかる誰かを長い脚で蹴り飛ばし、もう一人のナイフを捌き、前のめりになったソイツの後ろ首に全体重をかけて白刃を押し込んだ。

 

「お返しだ!」

 

七人を切り殺したところでナイフが折れた。舌打ちしながら死体から自動拳銃を抜き放ち、左右両方の手に握ったそれらをマチェットを振りかざした八人目に全弾を撃ちこむ。

 

撃つたびにスライドが前後し、45口径と刻印されたハンドガンの銃口から次々と銃弾が飛び出し、男の胴体をずたずたに引き裂いた。殺すと言う明確な意思を込めた弾丸の前にはどんなタフガイも無力だ。突き抜けた弾丸が彼の後ろのご同類にも命中し、死んだご同類が引き金を引いたまま死んだことで更に三人が血だまりの中に倒れる羽目になった。

 

「今まで味わせて来た地獄を見て、くたばれえ!」

 

響き渡る銃声に悲鳴、命乞いすら聞こえる中、私は最後まで引き金を引き続けた。容赦するな、という心の声に従って撃って、撃って撃ちまくった。

 

閃光と衝撃、血しぶきに悲鳴、彼らがこの世界に強いて来た全てをこの場で再現し、いや十倍に拡大して返して、ありとあらゆる破壊を私とターキッシュは全力で行った。

 

銃口から放つマズルファイアが発する光の前に、極悪非道を尽くした男はなす術もない。ちょうど吸血鬼が日光に照らされて灰になるのと同じように。彼らに救いなど必要ない。弾さえ続けばこのまま撃ちつづけてやる。永遠とも思えたシューティング、スプラッターショーは唐突に終わりを告げた。不満を抱いても銃弾が出てこない。弾が切れたのだ。

 

ホールドオープンして陽炎吐き出す銃口の先に倒れる悪党どもを見る。これでも、私は慈悲深い方だ。撃たれて死ぬだけで済むのだ、ありがたいと思え。

 

銃をかなぐり捨てて、私は気づいた。目の前から悪党が消えた時、その場所に静けさが帰って来た。銃声、悲鳴どころか息遣い以外何も聞こえなかった。私はそこでハッとなって周りを見渡した。

 

見れば、私以外にターキッシュ以外立っている者はおらず、死体と血の海の中で私達だけが立っていた。

 

肩を激しく動かして呼吸し、私達は互いに見合った。

 

「……終わった?」

 

私が問うと彼は答えた。

 

「……多分な」

 

殆ど全身を赤く染めた私達は互いに見合った。酷い姿だった。匂いも今更になって気付いて、私は鼻を押さえつけた。そして、体が急に震え出してきたのを感じへたり込みそうになった。

 

「おっと」

 

その前にターキッシュが駆け寄って私の体を支えてくれた。

 

「大丈夫か?」

「……ええ、何とか」

 

緊張が解けたせいなのか、嘘のように体から力が抜けかけた。だが、ターキッシュ

のおかげでそうならず、どうにか落ち着きを取り戻すことが出来た。強い疲労感こそ残っているが立てるだけましだった。

 

「念には念を、だ。まだ気を抜くな」

「……ありがとう……ございます」

 

だが、私達が手を取り合っていた時だった。ターキッシュの背後から誰かが鈍く光るマチェットを振りかざして彼の不意を衝いて、振り上げた。

 

「ターキッシュ!」

 

その男は将軍だった。山刀を両手に持ち、振り返ったターキッシュの脳天目がけて振り下ろしたのだ。ターキッシュが冷静にハンドガンを構えた中で私は反射的に彼ら二人の間に入った。

 

何故か、それは将軍と言う男に対しては彼ではなく私が自分の手でケリをつけたいと思ったからだ。

 

コイツは私の獲物だ、と動物じみた本能と今までの分の復讐が私を突き動かし、私はターキッシュに仕留めさせることを拒んだのだ。

 

「馬鹿!」

 

ターキッシュが叫んだのも遅く私の顔にマチェットは振るわれた。将軍がニタリと笑った。仕留めた、と一人の笛吹をこの世から排除し、愉悦に笑っていた。

事実、私の足もとに数滴の血液もたれ、私が声をあげないのも手伝ってそう思っていたのだろう。

 

ターキッシュの声が聞こえ、彼が本気で私が死んだと思っていると分かった、それほどまでに彼は狼狽えていた。脳に痛みが伝わり、私は目線を上にあげた。口の端から滴る血にも構わず、私は叫んだ。

 

「いひゃいんだよ!」

 

拳を振り上げて、将軍を吹き飛ばす。もんどりをうって倒れる将軍を見て立ち上がり、加えていたマチェットを吐き出す。やかましい金属音を鳴らしたそれには見事な歯型が付いていた。

 

「喧嘩で歯はこう使うんだよ。今まで散々やってくれたよね、アンタ」

 

私は一歩ずつ彼に近づき威圧する。

 

「地獄を売り物にするって? そりゃ結構だろうけど。地獄を売られて、今のアンタはどんな気分なわけ?」

「やめろ!」

 

手を前に出して将軍は威厳もない声を吐き出してきた。大悪党もこうなっては唯のヒトだ。

 

「俺の後ろに誰がいるかぐらいわかんだろ?! 俺を殺せば、お前らだって死ぬ! ただ暴れるだけのお前ら何で鼻息一つで吹っ飛ぶんだぞ!:

 

命乞いをして、どうにか助かろうとする、醜すぎて呆れてしまう。私はその姿を鼻で笑い、睨み続けた。私の態度を見て、命乞いも無駄だと感じたのか、将軍は背を向けて走り出した。早い話が逃げたのだ。

 

無様なその後ろ姿を見て、私はついに堪忍袋の緒が切れた。もう一つの笛吹の在り方を思いだし、近くに倒れていた死骸からライフルを奪い構えた。

 

あまりに無防備な、逃げるだけの男。だが、その男は地獄を作って、生血を啜っていた。あまつさえ私の血すら吸おうとした悪党だ。そう、相手は悪党なのだ。なれば、どうするか。

 

良心に任せて彼が逃げおおせるのを見守るか? 悪党にも一片の慈悲を施せば、きっと彼は後に赦しの道を見つけて真人間になることを期待する、そんな選択肢だってあっただろう。

 

だが、そんな三流以下の安物映画のエンデイングなどクソくらえ、と声を大にして否定してやる。子供の頭に銃を突きつけ、あるいはとめどない獣欲のはけ口にしてきた獣畜生にかける慈悲など中指を立てて否定する。

 

彼に与えるべきは慈悲ではない、まして救いでもない。ただ一言のお似合いの言葉、報いをあてるべきだ。

 

そして、その答えはターキッシュの教えにある。

 

「『悪党の背中を撃て』」

 

一発。それだけで事足りた。銃弾が奴の頭を貫き二度と起き上がれない、ただの骸にしてやった。ゆっくりと流れる時間の中、私は確かに仕留めた。撃てなかった私はもうここにはいない。

 

一撃必殺。私は一人の笛吹として、奴の息の根を完全に封じ込め職務を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




好き勝手に書いておりますが、楽しんでもらえると嬉しいです。
後一話か二話ぐらいで終了の予定です。ガンアクション、心理描写、至らぬところも多いと思いますが頑張って更新したいと思います。

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