30世紀の笛吹き {完結}   作:ハナのTV

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第11話

高級樫木をふんだんに使われたデスクに、高価なのだろうが、ちっとも価値が意味不明な壺や落書きじみた絵画、果ては化石もいい所のフリントロックピストルとサーベルが掛けられ、人間様の文化の豊かさとやらを主張しまくる部屋に俺とコルト爺さん、それに我らが直属の上司ボルドーが雁首そろえて、立っていた。

 

俺とコルト爺さんは戻ってきて早々呼び出され戦闘服のままで、ボルドーは粗暴な外見に似つかわしくない青いYシャツのスーツ姿だ。デスクに座るフッカー・ベネリは俺達を一望して鼻を鳴らした。

 

「ああ、任務ご苦労。君たちの活躍で我々は245人の子供を受け入れることに成功した。最近の地底人にはない熱心さで私は感動を禁じ得ないよ。実によくやったと言うべきかな?」

「どうも」

 

粘着質な口調に俺はさして敬意も込めずに答えた。爺さんは小さく笑ったが、人間様には受けはよろしくなかったようで、一瞬憮然とした表情になった。

 

俺としては何故この不逞な神様に敬意やら尊敬やらを払わなくてはならないのか、と言うのが本心なので、媚びる気などさらさらない。尻で椅子を磨くだけの仕事をしているだけならまだしも、要らんことを考え着く馬鹿には特に念入りに軽蔑の視線を送る。

 

「だが、時には物事をゆっくりと考える必要がある。考えなしにがむしゃらに働くことは無い」

「さっきと言っていることが反対ですが?」

「私は優秀な君たちを思って言っているのだよ。職場と金を君たちに用意する私が言うのだ。素直に受け取っておきたまえ」

 

癪に障る言い方だった。要するに余計なマネはほどほどにしておけ、と言いたいのだろう。あの世界で見たパワードスーツ、プレジデントはこの男が流したと見て間違いない。金と職場を用意、なるほど意図的に地獄を作って、子供を採る畑にしたと言う訳だ。

 

笛吹はあくまで紛争地での子供の保護がお題目だ。彼らには不都合な事だが子供という物は黙っていれば土から生えてくるようなものではない。さらに不幸な子供を厳選しなくてはならない、と来れば効率としては最悪の域だ。

 

現在のアンダーハイブの人口が7億になっても、いまだ労働力確保に明け暮れる彼らにとっては一人でも多くなくては困ると思い込む彼らは余程無茶をしててでも安定的な労働力の確保がしたいらしい。過去の種殺しがもたらした著しい生産力低下が余程トラウマになっていると見える。

 

地下で勝手に子作りをするアンダーハイブの住人達が大勢いたとしても彼らは未だこのシステムに固執しているのがその証拠だ。

 

だから、彼らは地獄を作り出して安定供給できるシステムを作ろうとしたのだろう。地獄という物は金儲けするには意外と便利な所だ。それもテクノロジーで圧倒し死の商人として第3の勢力で入り込めば、人的損害も最小限に抑えられる。

 

亜人の子供、ヒトの子という原石を拾っている間に原石ならざる現地人が何人死のうと、そんなものは帳簿にも書かれない些末事なのだ。朝飯の時に家族との話のタネになる程度の価値しかないだろう。

 

ソレをわざわざぶち壊しにした俺達は彼らからすれば、今すぐ縄で縛りつけて、10ダース以上の罵倒を浴びせながら火あぶり、水責め、焼き鏝と痛めつけて殺したくもなるという物だ。

 

確かな反旗を翻さない限りは何もしないが、釘は打つ。そんな打算が目に見えて俺は腹が煮えくり返る思いだったが、相手は給料くれる神様で人間様。表面上逆らわない方が賢いだろう。と言っても蔑んでも殴らないだけなのだが。

 

我らアンダーハイブのヒトは皆ブルーカラー労働者。ホワイトカラーには権力で勝つことができないのだから。

 

俺達三人は「以後気をつけ、心身ともに気を引き締めて、社会の安寧と安定に努めます」とお決まりの言葉を吐いて一斉に回れ右をした。爺さんは笑い、ボルドーは後頭部を掻いて、自動ドアから出ようとした時、フッカーは俺に言った。

 

「ターキッシュ君、特に君は私の言葉をよく理解することだ。いい加減酷い匂いを発しながら帰ってくるのも疲れるだろう?」

 

俺は鼻で笑って応えた。

 

「せっかくですが、一生懸命に仕事しますよ、これまで通りね」

 

部屋から出て、エレベーターで地下150階まで下に降りている途中、大柄なノーズレス

が一人ため息を吐きだして愚痴をこぼす。

 

「お前は相変わらずだな。あとで文句を言われるのは俺だと知っていてやっているのだとしたら唯じゃおかんぞ」

「そう言うなよ、ボルドー」

 

おどけて言ってはみるものの、彼は一睨みして威嚇して来た。ボルドーの屈強な体躯に俺も武器なしで勝てるなど思ったことは無いので俺はすぐに先の言葉を撤回し、謝罪した。しかし実際、彼には一定の敬意は払っている。俺達のような前線組が安心して前に突っ走られるのは彼のような後方組のおかげであるからだ。

 

「人間様に対して怒りを抱くのは分かるが、連中が上司だってのを忘れるな。お前たちのようなベテランまでいなくなれば、お手上げなんだ」

「我々が成果を出している内は切られんよボルドー。奴らなりにも体面があるからな」

 

それに対してコルト爺さんは楽観的な意見を述べた。伊達に爺さんになるまで笛吹をやって来ただけはあって、自信はたっぷりだ。仕事場で好き放題やる性質の悪い笛吹の一人が言う言葉にはなかなかの説得力があった。

 

「お前も私の頭痛の種だ。お前達が出勤する度に私は人間の嫌味と提出書類の経費に増えたドーナツにどれほどため息を漏らしていることか……」

 

ボルドーはふてくされた顔をして俺達を交互に見る。過去、俺達が出撃する度に経費の桁が増えたことを彼は詰っている。おかげで彼は本来大好物であったドーナツが経費のゼロに見えて仕方なくなって以来食うたびにストレスを感じるようになったらしいので、そのことで俺達を恨んでいる。

 

しかし、そんな彼が俺達を切り捨てることは一度だってなかった。

 

「だが、今回は良くやった。あの世界最大の民兵組織が消えたと来れば、後は残党から子供たちを奪還するだけだ。これで少しは殉職率も減るだろう」

「保護した彼らは?」

「ナノマシンを埋めて言語関係の問題を解決し、心身ともにケアした後で移民学校に送られるだろう。植え付けられたトラウマや暴力の痕跡を消すには時間が必要だが……」

 

ボルドーは電子煙草を取り出して一旦、疑似的な煙草を楽しみ言葉を続けた。

 

「生きているんだ。彼らにも幸せになるチャンスは来る。それだけでも十分だろう」

 

エレベーターの扉が開き、俺とコルト爺さんは左へ、ボルドーは自分のオフィスがある右へと分かれる。

 

「とにかく今回は後輩も死なせず子供も救って、上々の結果だ。後は私に任せてくれればいいさ」

「ああ、信頼してる」

 

そう言って俺達は別れ、廊下を歩く。俺の向かう先は更衣室だ。返り血は拭き取って少しは落としたが、匂いがきつくて仕方がない。犬並の嗅覚が無くても酷いと分かるソレは通りすがる全ての同僚の顔をしかめさせた。

 

「ヒトが頑張ったのに、この仕打ちか。酷いよな、爺さん?」

「前々から思っていたが、年寄に面と向かって爺さんと言うのも中々酷いと思うがね」

「そうか?」

 

俺が問うとコルト爺さんは頷いた。意外なことに、この老兵は自分が年寄扱いされるのに今更ながら抗議して来た。

 

「相棒のミナミはいいのか?」

「まだ十代だ。寛容にもなるさ。ところで」

 

そこでコルト爺さんは話を折り、話題を変えて来た。

 

「どうだった? ベッキーと走って、自分はまだ悪党だと思うか?」

 

爺さんが発したのは、俺との悪党問答の続きだった。彼は笑みを浮かべて俺の様子をそれは楽しそうに見ている。きっと俺が答えを得たことを知っていて、尚且つ俺がどんな回答を手に入れたかを知ったうえで聞いているのだろう。

 

俺は老人の洞察力に勝てないことを悟り、肩をすくめて答えた。

 

「案外、そうでもない気がしたよ」

「そうだろ?」

 

爺さんはやはり、とも言って俺にアドバイスを与える。

 

「思いは行動に、顔に出るものだ。お前は自分が悪党になった気でいても、そうではないと気づく者がいてくれる。その点、今回はいい相方に恵まれたと思わんかね?」

「そうだな、アンタよりずっと真っ直ぐな奴だし」

 

俺は全てを見据えた気になっているコルト爺さんにささやかな反抗をする。こうもやられたばかりでは一言ぐらいは反撃したくなる。だが、爺さんはカラカラ笑う。

 

「その意気だ。皮肉屋でいてくれた方が私も安心する。だが、万一悪党になろうと思った時は私の元に来い。いつでも歓迎しよう」

「お断りだ」

 

爺さんのお誘いにはっきりと拒否する。爺さんは言ってみれば、趣味で仕事する男で、仕事の方は最低限だ。それを悪いとは言わないが、今の俺にソレをする気にはなれなかった。

 

「後輩に失望されたくないからな。俺は俺はで行くさ、そうやって俺達はコンビを解消したろ?」

 

微笑みながら理由を述べ、俺は爺さんと別れた。爺さんはコーヒーを飲みに、俺は着替えて支度をしに左右に分かれた。この後、待ち合わせの約束をしていたので、遅れないようにしなくてはならない。会うのはベッキーだが、その他にも大勢いる。彼らとの約束を反故にするようなマネはしたくない。

 

「そうだな。だから、二度と迷うなターキッシュ。お前はその道を貫け。それもリズム多き人生だ」

 

爺さんは昔、俺によく言っていたセリフを俺の背中に向けて放った。俺は一人廊下を歩きつつ、一人リズムなんて求めていない、と小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

金のない学生と労働者、時間を惜しむリーマンたちの憩いの場、ハンバーガーショップ。アンダーハイブでは知らないヒトを探す方が難しいマッキンリーバーガー。アルファベットのMの形の看板が特徴的なバーガー店で俺は待つ。

 

トレイの上には質の悪い油の香りするソイミートバーガーと薄いコーヒーの入った紙コップ。その二つには妙な共通点があって、数世紀前に人間達の間で発がん性物質まみれだとして、不認可された遺伝子組み換え作物が使われているのだ。

 

こんなものばかりが横行している町だと言い聞かせて口にしたが、酸化した油の香りと安いケチャップ、黄色いだけのマスタードの酸味と辛みが絶妙なまでにマッチしたあんまりな、味の大雑把さに辟易し食いかけのソレとにらめっこし、匂いのきつさからお気に入りの皮のジャケットに匂いがつくのを心配しつつ、俺は足を組んでベッキーを待つ。

 

「なんで、こんな所で待ち合わせするんだか……」

 

あの仕事の事を思い出しながら俺は独り言をつぶやいた。彼女の活躍は表彰されてもいいほどだった。初戦でのあのセンスの良さ、戦うごとに学ぶ姿勢と笛吹としての姿勢、どれをとっても満足のいくものだ。

 

それに俺の心の迷いを彼女は晴らしてくれた。たとえ、それが独りよがりな思い込みだとしても、俺は彼女に感謝している。

 

俺は彼女の勇姿を思い出す。あれこそが俺の理想だったのかもしれない。

 

 

 

 

一発の銃声。監獄ともいえる息苦しい場所で響いた音は一人の少女の叫びのようだった。悪党を背中から撃ち、鋭い眼光見せる彼女の顔には愉悦や相手を殺したことで得られる優越感に浸るような表情は浮かんでなかった。

 

するべきことをした、職務を全うした者の顔だった。コルトやミナミのような楽しみから殺す類ではなかった。それは間違いなく俺の言った笛吹としての顔だった。

 

将軍は背中を撃たれて、その場に倒れた。びくびくと痙攣し、必死に生きようと手足をバタつかせていたが、それも長くは続かなかった。

 

哀れにも、暴虐の限りを尽くしてきた彼は心臓が動きを止めるその瞬間まで、情けを受け取って介錯を受けることも許されなかったのだ。それでも、銃弾一発で済んだのだから、俺達も甘いものだと思うが。

 

「これで……ケリはつきましたよね?」

 

ベッキーが構えを解いて、俺に訊いた。確認のために訊いたのだろうと察した。俺は黒く焦げ付いたブーニーハットを拾い上げて答えた。

 

「ああ、終わった。お前が終わらせたんだ。だがな……」

 

俺は彼女に近づいて顎を持ち上げた。口の端からは血がにじんでおり、その原因となった行動を俺は咎めた。

 

「次からは馬鹿なマネは止せ。顔面をスライスされてからじゃ遅いんだ。ケリをつけたきゃそう言え。死なない程度にはお前の我がままに付き合ってやる」

「……すみません、でも……どうしても許せなくて」

 

素直に謝った彼女に俺はため息を吐いた。安堵からくるものだった。そして、親指で彼女の口端の血を拭き取ってやると痛みにベッキーは少し声を漏らした。

 

「だが、良い顔だ。お前ならなれるかもな。太陽に」

 

俺がほほ笑んでやると彼女は意外な表情を浮かべて俺を見た。自分の言ったセリフを返されただけで、そうも驚くものかと疑問を抱いたが俺はこの最悪な戦いを終えて、ようやく手に入れた平穏を崩したくなかったため特に何も言わなかった。

 

いや、それだけじゃなかった。何より彼女を認めるべきだという思いが強かった。職務への忠実さを見せ、尚且つ最後まで諦めなかった彼女には称賛を与えるべきだと、そう思ったのだ。

 

だが、その時彼女への称賛の言葉は俺だけに終わらなかった。あちこちから、声がして牢獄全体がざわめきだした。俺は一瞬残った民兵化と思い、周囲を警戒したがその予測は外れた。耳に飛び込んできたのは怒号でも奇声でもない、子供たちの歓喜の声だった。

 

地獄からの解放、絶望の根源であった将軍の死が彼らに生気をもたらした。銃声が鳴り響いた後、嵐が過ぎ去った後の静粛は消え去り、彼らの幼い歓喜の渦が巻き起こったのだ。

純粋に誰かの死を喜ぶ子供という物はTVの画面で見ていれば、憤慨したかもしれないし、または悲しく思うものかもしれない。だが、俺達にはそんな感情は生まれてこない。

 

なぜなら、俺達は解放者と言う当事者だからだ。俺とベッキーは此処まで戦って来た。榴弾に吹き飛ばされ、自分の頭に銃を押し付け、ありとあらゆる障害を排除して、泥と血にまみれて、ここまでやってきたのだ。

 

救いたいと思った願いが叶い、ようやく俺達は報われた。返り血を浴びすぎて、血みどろになった俺達でさえ、彼らは歓迎してくれたのだ、

 

あれこそが歓喜の一瞬。俺達にとっても喜ばずにはいられなかったのだ。ベッキーは笛吹としての理想をとりあえず実現し、俺は救いを得た。

 

今まで殺しに酔っている節があったのでは、と疑問に思ってきた。悪党を殺す事ばかりに目がいき、いつの間にか自分が悪党になったのでは、とすら思った。

 

だが、それは違うと感じれた。あのロシアンルーレットの時、俺は確かに楽しまず、ただ純粋に相方の生を願った。そして、それが彼女に伝わりベッキーと子供を救うと言う何とも欲張りな望みが叶うと言う奇跡が起こったのだ。

 

その奇跡で皆が救われた。これ以上望みえない最良の結果をもたらした彼女の勇気と健気さには頭が下がるばかりだった。

 

「ターキッシュ! ありがとう!」

 

そんな感謝な言葉を聞いて俺はブーニーハットを目深く被ったものだ。あの時の表情は他人に見せるには恥ずかしく思えたからだ。

 

 

再び、現実に時計の針を戻し、俺はカウンター席から窓の方を見た。バイオエタノール車が行きかう都会の喧騒を何気なく見ていると、お目当ての人物が目に入った。

 

パーカーにホットパンツと実に年相応の格好をしていた。長く伸びた脚は実に健康的で顔もこうしてみると中々だが、額に巻かれた包帯が痛々しく、いささか外見にマイナス的効果を与えていた。

 

ベッキーは店内に入り、店員にいくらか注文し他後、歩いてきた。

 

「すみません、遅れて」

「気にするな、ケガは?」

 

俺が尋ねて、彼女は向かいの席に座りつつ答えた。

 

「ええ、大分。大した怪我ではなかったみたいで」

「そうか……ならいいんだが」

 

初仕事を終えたベッキーは初めて見た時と比べ雰囲気が変わっていた。少し大人びたような気がする。あの一週間にも満たない経験で、成長したと言ったところか。

 

それもそうだ、と俺は思う。酷い話だが、ヒトという物は逆境を超えるのが成長の一番の近道で、そして大勢がそこで堕ちてしまうものだ。現に、あの地獄を乗りこえれば、何かしら人生の哲学やら教訓を得られるだろう。ベッキーは生き残り、それを得た。

 

悪い意味で変化する場合もある。人生の意味をコンバットハイにスリルに見出して「戦場住まい」になることもあれば平和な日常を欺瞞と皮肉にしか感じなくなり現実をフワフワと風船のように漂う存在になることだってある。

 

だが、彼女の表情を見る限り、それはなさそうだと思える。あの子供たちの歓声が恐らくは彼女を狂気に走らせることを防いだ。俺のように長く戦っていると、俺に対する見方と言うのも様々で、今回は良い方向に終わった。

 

彼女がほんの少し幸運で、賢いが故に「めでたし、めでたし」で締めをくくれることが出来た。本当に運が良かった。

 

「でも、不思議な話ですけど……この怪我に関してはそんな悪い気はしない、と言うか……言いづらいですけど、名誉の負傷みたいな」

「仕事に満足できたって訳か?」

「ええ……でも、一番は先輩に関して、ですかね」

「と言うと?」

 

ベッキーは俺の顔を見て話を続ける。照れ臭そうに視線をずらし髪の毛を人差指で弄る彼女の頬はほんの少し桃色だった。

 

「先輩が来てくれた時、最初は村で、次はあのロシアンルーレットの時ですけど、今思うと嬉しくて、それに……私の憧れそっくりだったんです」

「……俺が?」

 

尋ねると、彼女は「ええ」と短く答えた。俺は彼女に確かめるように理由を聞きだすと彼女は素直に答えてくれた。

 

「先輩はきっと良いヒトだと思います。合理主義ならあの村と私を見殺しにするか、仕事そのものを放棄すればいい。でも貴方はそうしなかった。一番難しい選択をして皆を助けようとした」

 

俺は黙って話を聞いていた。集中力を彼女に向けすぎていたため、ベッキーが注文した品を届けに来た店員にしばらく気が付かなかったほどに。

 

「貴方は無茶をするために強くなった……でも、そのせいで、色んなヒトに蔑まれたり、誤解されたりしたんだと思います。ちょうど、私がそう見ていたように」

 

俺は彼女の頭の回転の速さに驚いていた。自分が過去どう見ていたか、そして俺が一体どのような行動をしてきたか、それら全てを組み上げて答えを作り出していた。しかも、その答えは非情に的を得ている。

 

勘の良い少女だ。正直言って嫌いではない。

 

「だが、俺はお前の言う太陽、とやらじゃないぞ。俺は結局、殺しが一番得意なだけだ。お前らが俺を蔑んでも仕方ないさ」

 

俺は彼女の憧れを一部否定した。確かに俺は彼女の言う通りの部分が確かに存在する。だが、彼女の憧れは俺ではない。俺は全てを照らせる程綺麗ではないし、綺麗でいるもの不可能だと考えている。

 

「お前だってそうしたように、如何なる正義を持とうと殺しは殺し。悪党と同じ行為には違いない……だが、やるしかないんだ」

 

口を動かして話し合うより、銃口を向け合うしかない状況がほとんどだ。大勢を救うために少数の悪党を殺すとなれば、聞こえはいいが自分が悪党になっている可能性も少なからず含んでいる。

 

「救った者に怯えられる……コイツの破壊力は相当の物だ。俺は悪党が嫌いだ、と言ったことがあったな? なら自分が悪党になったときどうすればいいってなるんだ」

 

俺は過去仕事をしてきたが、未だに慣れないことがある。子供たちが俺を悪党と同じように見る、あの怯えた目。それが俺の心に巣食う者の根源だ。あんな目を向けられる以上、俺は太陽にはなれない。

 

「ベッキー、俺はお前のおかげで自分が悪党ではない、と思えるようになった。お前が俺をそう言ってくれたおかげで俺は救われた気がした。だが、これだけは言っておく。俺は太陽じゃない。だがな」

 

俺は一拍置いて彼女に言った。

 

「俺を照らしたお前なら、なれるかもしれない」

 

十代の少女に俺は本気でそう思っていた。俺と言う男だけでなく、あの場にいた子供を救う発端を作ったのは紛れもなく彼女だ。このマーマル、半獣人の少女にはそれだけの力がある。

 

彼女の勘の良さと、最悪の場所から抜け出した強い心、そして彼女の過去がそうさせているのだ。現実だけを追って来た、追うしかできなかった俺には出来ない真似だ。

 

「いいえ」

 

だが、彼女はそれをあっさりと否定した。彼女の瞳には確かな思いを宿した強い光が込められていた。俺は一体彼女が何を思っているのか。一瞬わからなかった。だが、彼女の口からその答えは唐突に述べられた。

 

「貴方と言うヒトが居てくれたからこそ、です。私は貴方に照らされたんです」

 

彼女は俺にそう言った。十五歳の少女の言葉には一切の迷い悪戯っ気も無かった。出会った当初から一回りどころか。二回り以上も大きくなっていた彼女の言葉に俺は胸に熱いものが込み上げてくるのを確かに感じた。

 

お世辞なしの肯定の言葉。それも俺が諦めていた事について触れた彼女の言葉は俺が長い間欲しかった一言に思えた。数発の銃弾を喰らうより大きな衝撃が体全身に走った。

 

恥ずかしい話だが、二十代のいい大人がこんな少女に心を突き動かされるとは思ってもみなかった。今だけなら目の前の彼女を女神さまと呼んでもいい気さえした。

 

俺は彼女に救われた。だが、彼女もまた俺に救われたと言う。仕事上のパートナーに過ぎなかったはずの俺達はいつの間にかお互いをそれ以上に見るようになっていたのだ。そして迷う俺と彼女は互いにお互いの足りない部分を補っていたと言うのだろうか。

 

俺は彼女に感謝の言葉を伝えるべきだと判断した。だが、悲しいことに普段皮肉屋を気取る俺にとって、感謝の言葉とは存外言いづらく簡単なひと言しか口に出せなかった。

 

「……ありがとう」

 

語彙力のない自分を恥じ、俺は彼女から視線をずらした。ベッキーはそんな俺を見て笑った。

 

「笑うんじゃねえ」

「すいません、でも変に素直じゃない所が可笑しくて」

 

そう笑う彼女だったが、ひとしきり笑って満足した彼女は席を立ちあがって、俺にも経つよう求めだした。

 

「じゃ、お互いの親交を深められた所で、一つ付き合って下さい」

「付き合うって何だよ? どこへ行くって言うんだ?」

 

彼女は俺の問いに答えた。

 

「貴方に会わせたいヒトがいるんです」

 

たったそれだけ答えて、彼女は俺についてくるように言った。俺は素直に従ったが、ふと思う所あって笑った。

 

戦場とは真逆の立ち位置にいる自分を見て笑ったのだ。

 




次でラストです。
色々と粗の多い作品ですが、どうか楽しんでもらえると嬉しいです。
感想などありましたら、是非書いて欲しいです。
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