30世紀の笛吹き {完結}   作:ハナのTV

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第4話

 

夜を超えて、山を越える。あのモーテルでのお粗末なウェスタン映画のワンシーンのような銃撃戦の後、俺とベッキーは将軍と呼ばれる、この地で最大の民兵組織の元へと向かうために荒れ果てた大地を進み、山の中へと入った。

 

鬱蒼とした木々、アンダーハイブのコンクリートジャングルとは違い、此処では本物のジャングルが存在していた。背の高い名も知らない木や様々な植物が生い茂る中で自分たちが歩いてきた場所を振り返ってみる。

 

この世界の風景の八割は荒涼としており、見渡せば湿り気もない赤く固い土の地面にコケ類の緑が点々として大空には青い空と太陽があるだけ。ひとたび都会から離れれば、大自然が広がるだけで、そこではヒトを拒むかのように厳しい気候と恵みも少ない土地があるだけで、言ってみれば神に見捨てられた土地だ。

 

だが、こんな所に好き好んで済むと言う者もいるらしいのだから、正気を疑う。と言うより貧民の殆ど、この世界の六割は大体この荒地に住んでいるのだから、正気を疑うべきは現地のヒトより、この世界そのものだろう。

 

この世界は俺達の世界に似て、酷い場所に弱く貧しい大勢が住んでいるのだ。富裕層たちが豊かな地を独占していると言うのはどこへ行っても変わらないという事で実に酷い。世の理不尽と言う奴はどこへ行っても共通なのだろう。、

 

山に入れば、今度は緑に包まれた地獄が待っている。アンダーハイブの住人なら誰でも受けるワクチンなどの予防接種が無ければ、たちどころに熱病を持ち運ぶ蚊や危険な植物性の毒の餌食となる。現地のヒトは赤血球の形が変わっているらしく感染しずらいらしいが、俺達はより発達した医療技術が無ければ、この地に足を踏み入れることはできなかっただろうことは確実だ。

 

そして、乾いた空気に高い気温は俺達の体力を蝕む。そのせいかベッキーは歩き出してから、一言も話すことなくバックパックと銃器、弾倉という、どれ一つ失っても命とりになるであろう命綱を背負って歩き続けている。

 

健気にも文句の類を口にすることは無かった。根性があるのか、もしくは俺に対する対抗意識によるものが彼女をそうさせているのだろう。

 

俺は彼女の様子を見た。肩を揺れ動かし、息を切らせて歩いている。整った顔は疲労で白く見える反面暑さで頬を赤くしている。無理もない、伸縮性のあるスーツにはパワーアシストは無い。あるのは人間工学を用いられた重さを軽減するためのプロテクターだけだ。

 

これは頑丈なヒトに高価な装備は要らないと言う人間様のありがたいお気遣いによるものだ。人間用のパワードスーツは存在するがヒト用のは存在しないのだ。

 

俺はそんな彼女を見た後で腕時計を見た。最後の休憩から二時間半。頃合いと思い、ブーニーハットのつばを指で折り曲げて彼女の顔をよく見て言う。

 

「休憩だ。そこの木の下に言って休むぞ。水分補給も忘れるな」

「……ハイ」

 

木の影へと歩を進み、俺はその場に座り込んだ。ベッキーは荷物を置いて倒れこむように、体を大の字にして転がり、真っ先に水筒の中の水を喉に流し込んだ。肌を伝う汗の粒は大きく、酸素を求めて大きく深呼吸をする。

 

「思ってたのと違うだろ?」

 

俺はベッキーにそんな事を訊いた。大抵の新米は話と違う、何故自分がこんな苦しい思いをするのか、と不満を声にして吐き出すものだが、ベッキーは言わなかった。もしかすると、先日の殺しの光景を目の当たりにしたせいで俺を恐れているのか、と気になった。

 

「楽なお仕事では無いのは理解しましたよ」

「意外と口がきけるな。俺は昨日の出来事でショックを受けたと思ったんだが」

 

ベッキーはショックを受けた顔をして、首を横に振った。俺の目ではなく、俺の手を見て彼女は言った。

 

「生まれはいい所じゃないですけど、ナイフで刺し合いっこしたりしましたからね。でも……あんな簡単にだなんて……知りませんでしたよ」

「仕方ないさ。ゴム弾じゃ誰も救えない。ここでは誰かを救うなら、誰かを代わりに地獄に送らないといけないんだ」

 

そこでベッキーは目つきを鋭くした。どうやら、人殺し云々で文句はあっても、俺に対する恐怖心は微塵もないようだ。中々芯のある強い女の子だと感心してしまったほどだ。

 

「悪党ならいいと?」

「善人よりかは」

 

冗談らしく言ったつもりだが、ベッキーの顔は険しくなった。必要なら善人も殺すのか、と彼女は疑問に思ったのだろう。だが、俺は善人と言うのには手をかけずに来たつもりだ。理由は色々あるが、誇りと言う面が大きいかもしれない。たった一つの願いを秘めたためだけだ。意地と言ってもいい。

 

だが、こんな考えを通していると善人をお前が決めるのか、ともっともらしいことを言うヒトもいたが、俺はそうだ、と答えてきた。真に公正な判断と言うのは難しいし、それをとやかく言う奴らは基本的に何もしない。

 

口だけの連中だ。だが、俺は行動を起こし誰かを救うと考える。だが今のベッキーにソレを説くのは難しい。彼女は悪党の所業を見た訳でないのだから。

 

だが、言わないよりマシだと考え直し、俺は疑いと嫌悪の目を向けるベッキーに向けて頭を掻きながら言った。ため息を吐かなかないよう気をつけ、彼女の感情を刺激しないために配慮した。

 

「悪党に同情か? 新聞屋の連中みたいな真似はよしてくれよ。俺は仕事に対して真摯でいたいだけなんだよ」

 

楽な仕事は存在してはいけない。それが俺の中のルールだ。俺は笛吹の過酷な環境下におかれた可哀想な子供を救出すると言う目的を正しく理解して、実行しているのだ。多くの悪党を打ち殺し、時には締め上げ、叩きつけて囚われの子供を救い出す。

 

「どうでしょうね?」

「おい、勘弁しろよ。悪党をぶっ殺して、未来の危機を減らして子供も救う、コイツのどこに文句がある?俺は笛吹の目的を正しく行っているだけだ。そいつに何の不満が?」

 

決して現地民兵に村を襲わせるように仕向けたり、そこいらの孤児院から現地にとっての大金で子供を無理やり買い取ったりもしない。俺はただ単純に子供を救い出しているだけだ。その過程で幾人かの悪党をゴミ掃除しなくてはならない、シンプルな答えだ。

 

それを非難される謂れがあるとするならば、より理想的かつ現実で実行可能な方法を示してもらわねば、俺は納得しない。できるというなら、伝説の兵士を呼び出し相手を無傷で取り押さえ、聖人や神様の如き万能さと清らかさを持って仕事をしてほしいと思うものだ。

 

ベッキーは反論をあげなかった。意外にもこの犬獣人の少女は感情的な反論をあげなかった。ただ、拳を握りしめて堪えていた。憤りを感じざるを得ないが、行為の正しさには一定の理解があるらしい。

 

それもそうだ。ベッキーはあの地下世界で由緒と金があるお家で育ったものではない。刀傷沙汰を喧嘩と言うような奴は何が正しいかを知っていても、それを行使する方法など知るわけもない。

 

むしろ、正義の反対を行った方がずっと簡単で益があることを知っているのだ。夢だのなんだのは結局は現実に押しつぶされてしまう。ヒトは成長するのには夢を食いつぶしてしまわなくてはならないのだ。そこから這い上がれるのは諦めない奴だけだ。

 

もっとも、それが全体で数えると何人いるか、など聞くまでもないほど少ない。

 

「物分かりがいいようで助かるよ」

 

俺はとりあえずの礼を言った。皮肉に聞こえなくもないが、この話し方は自分の性のため直すことは出来ない。だが、この口調故に相手によく響くのだからやめる気もなかった。実際、目の前の彼女も嫌悪感にまみれた視線を送ってくるが、それだけで収めている、

 

「……余計なひと言が多いのよ」

 

一言つぶやかれた言葉は俺の耳に届いたが、聞こえなかったフリをして俺は明後日の方をみやろうとしたが、突然山全体が揺れた。

 

遠方で爆発音がして、鳥たちが驚いて飛びたつ。新米のベッキーは俺より半秒早く反応し、ライフルのグリップを握りしめて、爆発音のした方向へと振り向いた。俺は方向と音の速さを勘で計算し、大体の場所を突き止めて、走り出す。

 

「どこへ?!」

「音がした方だ! 走れ!」

 

マークスマンライフルのセレクターを回し、安全装置を解除、チャージンぐハンドルを引き初弾を装填する。木々を走り抜けて、草木を払い奥へと進むごとにフルオートで放たれる銃声と耳をつんざく悲鳴が上がる。

 

この辺で村落があったなどとは聞いていないが、一つはっきりしていることがある。それはこんな辺鄙な場所に村があって、そこで銃を撃つ輩はどう考えてもロクでもないアウトローだという事だ。

 

証拠はそれだけでない。断続的に発せられるフルオートの銃声は練度の低さを物語っており、正規軍の者ではない。正規軍なら通常はフルオートによるバラマキを避けるように訓練をする。単発ないし、バースト射撃で撃つ方が命中するし、余計な弾薬の消費が少ないからだ。

 

次に悲鳴が女の声も混じっているという事と笑い声が聞こえるようになってきていることだ。そんな事は頭のネジが外れた阿呆しかしない。

 

俺は林を抜けて、崖の淵に立った。そこから見下ろしてみると小さな村落が確かに存在し、あちこちで煙が立っている。一歩遅れてベッキーもやって来て、その光景を見て驚く。俺にとっては見慣れたものだが、彼女は違う。

 

目のあたりにされる村落つぶしの光景に彼女は昨日以上にショックを見せていた。俺はそんな彼女を一瞥して、予備の二十倍率の狩猟用のスコープで村落を偵察する。

 

村の中央に両手を上げた老人や大人の集まりが写り、その周りには木製のストックとハンドガードを備えたアサルトライフルで武装された集団が取り囲んでいる。装備はバラバラで、半裸だったり、正規軍のようにボデイアーマーだけでなく、ヘルメットまでご丁寧に被る者もいれば銃ではなく、山刀しか持っていない者もいる。明らかに民兵、ゲリラの類だ。ベッキーは肉眼でも多少は見えるらしく、その動向をスコープもなしに見る。

 

俺はそんな彼女にバックパックから取り出した双眼鏡を手渡し、同じように偵察させた。すると、中央の怯える群衆の前に赤いベレーを被ってタイガー迷彩のズボンを履いた男が出て来た。写真で見た男、将軍と呼ばれる大悪党のお出ましだった。

 

部下が拡声器を持って歩み寄り、将軍に手渡した。これから一体何をしようと言うのか、俺も頭には答えが出ていた。俺は8倍率のスコープをつけたままのライフルを肩付けしてストックに頬を乗せて、構えを正す。

 

距離にして、700m以上8000m以下。スコープをその距離に合わせてダイヤルを回し、長年の経験をもとにレティクルを将軍の体の中央に持っていく。引き金に人差指を持っていき、呼吸を整レティクルの揺れが収まる最高の瞬間を待っていた。

 

しかし、そこに新たな影が現れて俺は人差指を引き金から離した。狙撃を断念せざるを得ないその物体をスコープで見定め、舌打ちをした。

 

「何ですアレ?!」

「……俺が聞きたいな。何でこんな所にあるんだ? ウチのとこのパワードスーツだぞ」

 

噂をすれば何とやら、俺の思考を神が読み取ったのか。

将軍を俺のライフルから守るかのような絶妙な位置に着いたのは高さ二メートル程のフラットブラックの厚い装甲に包まれた兵器、「プレジデント」だった。アンダーハイブ内にしか生産工場が無いはずのパワードスーツが俺達の視界に映ったのだ。

 

装甲は曲面を描いた丸々としたデザインでライフル弾程度は物ともせず、走り出せば時速45km程で走れる。数値だけなら熊より遅く感じるが、12.5mmの重機関銃とその弾薬500発を携行し、そのパワーは軽自動車程度なら片手でひっくり返せるという物だ。当然だが、このまま撃ち合っても勝てる相手ではない。

 

だが、本当におかしな話だ。普通はゲリラや民兵が持てるわけがない兵器だし、彼らの教育、技術レベルを考えれば整備が複雑な兵器は避けられるはずだ。この厳しい自然の中であんな兵器を整備もなしに稼働するなど自殺行為だ。それなら、適当な軽トラックに機関銃を乗っけた方が身の丈に合っているという物だ。

 

「どっかの馬鹿が流したな……しかも整備のアテもあるのかもな」

 

俺が一人思考を口にしていると、向う側に変化があった。将軍が拡声器を手に離しだしたのだ。デカい音声でこちらにもよく聞こえた。

 

『この村落は統一戦線が徴収する! 統一戦線は人民に真の自由と独立をもたらす! だが、そいつに従わないモノには容赦しない!』

 

プレジデントの傍から動かず狙撃が出来ない中、将軍は懐から何かを取り出し、大事な演説を続ける。

 

「異世界だがから来た奴にこの国は根っこから腐敗した! それもこれも、お前たちのような戦いもしない臆病者の手によってだ! 未来をこの手に掴んでお前たちはこの国を駄目にした!」

 

不穏な雰囲気が流れだした。これから行われるのは間違いなく大虐殺だ。革命の敵である人民を処罰すると言うのだ。主義主張で連中が動くわけがない。動くならこんなことはしない。基本的に金にクスリ、そして征服欲と言う名のおぞましい欲望に飲み彼らは動く。だから、敵対するはずの人間から頂いたであろう兵器を何の迷いもなく使うのだ。

 

どこかの村を暴力で潰し、泣いて喚くヒトを背後から撃って殺し、誰かの娘か妻を地面に押し倒して腰を動かして楽しむのを父や夫に見せつけた後で喉を掻っ切る。酷いときには母親にソレをやれと小さな男の子に強制するときだ。逃げれば切れ味の悪い斧かナタでなますにされる。

 

「統一戦線は裏切り者や無気力な売国奴をぶっ殺す! 革命万歳!」

 

万歳三唱と、殺し屋以下の獣畜生な連中が革命やら聖戦を称える。前兆だ。これから筆舌しがたい残虐行為が今行われようとしているのは猿でも気づくことだろう。スコープの視点を将軍からズラし、中央に集められたヒト達をもう一度見る。すると大人達の中央に子供が隠れているのが見えた。

小さな男の子と女の子が二人ずつ。そこに頭を抱えて震えているのを見つけた。

 

「ああ、クソ!」

 

普通なら、こんな状況は見て見ぬふりをするのがセオリーだ。誰だって死にたくない。火傷を負うと知りながら、熱々のヤカンや火中の栗を拾う者は愚かだというのは笛吹でなくても分かることだ。

 

敵の人数は確認したところ、15人以上入るとみて間違いない。それにパワードスーツまで要るのだ。対戦車ロケットすらない、できることなら戦車や爆撃機を呼び出したいほどだが、そんなものはありはしない。

 

俺は手持ちの火器を確認した。破片手榴弾にマークスマンライフル、9mm口径の自動拳銃、発煙筒がいくつかに、ナイフと見て俺はマークスマンライフルを携えて立ち上がった。

 

全く以て自分が嫌になる。あんなのを見ると衝動を抑えられなくなるのだから、つくづくこの仕事には向いていないと思う。ハッキリって馬鹿同然だ。全く以て度し難いと思う。

だが、馬鹿にならないとやれないこともあるのだ。

 

「おい、ベッキー」

 

俺はまだ頼りない相棒の名を呼んで振り返った。しかし、そこにあったのは双眼鏡だけ。近くにあの女の姿は見えない。

 

「あの馬鹿犬!」

 

気付かなかった俺も間抜けだが、彼女も相当だ。どうやら、馬鹿は二人だったらしい。俺は村の方へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

木々の間を駆けていく。ブーツの底に感じるぬかるみと太い木の根っこのせいで、いつもより早く走れない。距離にして1000mもない距離なんて、舗装されたアンダーハイブの道路で走れば大した距離ではないはずなのに、随分と遠く感じる。

 

走っていると枝の先がパシン、と顔にあたって痛みが走ったが、私はそんなもの気にせずにただ全力で駆けた。

 

AKタイプのライフルのレシーバーの右側にあるセレクターを操作してフルオートに位置で固定する。正直な話、自分に撃てるのか自信が無い。あの夜、ターキッシュはいとも簡単にヒトを三人撃ち殺した。一切の容赦なく殺した彼の顔にはTVドラマの犯罪者のような笑顔があったり、怯えたりしなかった。ただ無表情のまま普通に行ったのだ。

 

あれを見て、私の甘い砂糖菓子のような覚悟なんてものは消え去った。アンダーハイブでいくら意気込もうと何の意味もない、今この状況で覚悟しなくてはならないのだ、と気づかされた。所詮想像だけで作った覚悟なんてものはガラス細工だ。綺麗なだけで、すぐに壊れてしまう。

 

敵と出会ったら、引き金を引けるだろうか。走り抜ける中。頭の中はそればかりだ。こんな三キロ程度の物体から弾丸を撃ちだすのに使う人差指が重く感じられた。

 

だけど、双眼鏡で見たヒト達と子供、あんなのを見捨てることなんて出来ない。ターキッシュの事は分からなくとも、自分の気持ちは知っている。助けなくてはならない、と助けろと心が私に命令する。

 

感情で動くのは三流だとか、あの嫌な先輩は言うだろうけど私はそれが出来るほど、経験を積んではいないのだ。

 

木々を抜けて村の入り口に立ち、ライフルを将軍と呼ばれる男に照準をつける。私の姿に今まで気づかなかったのか、あっさりと後ろを取れたので拍子抜けだったが、気にせずに大声で警告を発する。

 

「動くな!」

 

何名かが銃を向ける。水平二連のショットガンに、錆びが浮いて赤茶色になったアサルトライフルや針金でライトを無理やりくっつけたサブマシンガンと様々な粗雑な銃器が一斉に私に銃口を向けてきて、私は首もとに汗が流れるのを感じる。緊張感、それに恐れが心を支配して心臓の鼓動が早くなり、喉がカラカラに乾く。

 

「何だお前は?!」

「異人だな? しかも女とはな」

 

一人銃を持ってやって来た少女、周りからそう見えるのだろう。下種な視線が私の体のラインをなぞる。終わった後のお楽しみの事でも考えているのか。

 

奥歯を噛みしめて周りを人にらみする。唸り声を上げて、周りを威嚇する。ふざけるな、嘗めるな、と銃口を突き出し私は大声で言い放つ。

 

「嘗めてんの?! いいから、さっさと銃を下ろせってんだよ!」

 

その時、後頭部に固い感触が伝わった。次に聴覚がカチリと金属の音を捉えた。自動拳銃のハンマーが下ろされた時のモノだ。私の後ろに敵が回り込んで、頭に銃口を突きつけている。

 

「下ろすのはお前だ。異人が」

 

迂闊な事に後ろを取られた。助けに来たつもりが、私まで捕まるとは何と間抜けな事だろうか。悔しさと未熟さに歯噛みをし、自分の技量の無さを恥じた。

 

横目でチラリと除くと、年季の入ったリボルバーが私の後頭部にしっかりと狙いを定めており、彼の気分次第で私が一秒もかからずに地に伏せることは明白だった。

しかし、素直に銃口を下げても無事などあるわけがない。それを証明するかのように男は息を荒げて、私の胸と顔を視線が行き来しているのが分かった。

 

周りの連中は奇声を上げ、大声で笑う。中にはこの村の痩せこけた娘より肉付きがいい事を口にし皆がソレに同意して、さらに下品な笑い声を山中に響かせる。

 

「心配すんなよ。飽きるまでは生きていられ……」

 

最後まで言葉を言い切る前に私の頭に生暖かい物が飛び散った。頬についた液体の色、鼻孔に香る鉄の匂いで、それが血だと分かったとき、私の思考は止まるどころか猛烈に回転しだして、チャンスだとすぐに判断した。

 

ライフルをフルオートのまま腰だめに撃った。狙いは付けていないまま、ただの威嚇に近い射撃をすると、民兵たちは一斉に散った。将軍は木々の中へと隠れ、それをカバーするようにプレジデントが楯になりつつ、狙撃手のいそうな方向へ向けて重機関銃をばら撒き、大きな口紅のような空薬きょうを排出し続けた。

 

「散れ! 散れ!」

 

敵の誰かが叫んだが、次の瞬間に銃声が響いて頭がポップコーンのように弾けた。四肢に命令を伝達すべき脳が破壊された民兵は二歩三歩歩いた後で、その場に崩れ落ちた。

 

「逃げろ! 走るんだ!」

 

ターキッシュの叫び声が木霊し、村人たちと私は徒競走のピストルの音の代わりにマークスマンライフルの鈍い金属の金切り声を含んだ銃声で一斉に駆けだした。何人かの民兵が村人に銃を向けたのに、私は再び銃撃して抑え込み、血とアンモニアの臭さに私は嘔吐感を感じつつも民家の一つへと飛び込んだ。

 

地に伏せて、使い切ったマガジンを捨てる。荒い息のままアドレナリンが分泌されてハイになった頭のせいか、それとも恐怖のせいなのか、マガジンをチェストリグから取り出して交換しようとするが、引っかかって中々上手く入らない。

 

「嘘でしょ!」

 

頭の上を無数の銃弾が飛来し、訓練のゴム弾ではない本物の殺しの弾丸が木造家屋の壁を突き抜けて、私を喰いにかかって来る。モーテルの時と違う恐怖が全身を襲って来て目をつぶる。

 

空を切る音が次の瞬間には自分の頭部を狙ってくるのでは、と思うと怖くてたまらなかった。ターキッシュ、先輩がいないだけで怖くなって仕方がない。

 

目じりに涙をためて嗚咽すら流しそうになるのを必死にこらえ、マガジンを挿入しようと四苦八苦する。

 

「お願いだから、入ってよ!」

 

ショットガンの一際大きい音が鳴って壁が消えて遂に私の姿が向うに丸見えになった。ダブルバレルのショットガンから二つの空薬きょうを取り出し止めを刺すために新しいのを入れている。

 

四名ほどの民兵が小火器を向ける。スローモーになって視界に映る彼らの動きが私の見る最後の瞬間になるように思えた。

 

死んだ、死んでしまう。これで私の人生が終わる、と確信を得た。仕事に夢を託して来たと言うのに、十五で終わる私の人生ははかなく思え、私は涙を頬に伝わらせた。

 

「馬鹿犬!」

 

男の声がして、民兵の右側から正確な射撃が彼らを襲った。腕や胴体を貫き、突然の奇襲に右往左往する彼らにターキッシュがライフルで5連射して、1名倒して、二人目の足と腕を撃ち抜く。半秒ともかからぬ動きで自動拳銃に持ち替えて残りも片づける様は神業的で、殺しのプロの動きだった。

 

銃口から発せられるマズルフラッシュの輝きが聖なる導きに見えて、先ほどまでの恐怖をどこかへと吹き飛ばした。呆然として、見つめているとターキッシュが私の方を見て、腕を掴んで立ち上がらせた。

 

「立て! 公園を散歩してるんじゃないぞ!」

 

激しい剣幕で言われた私は足に力を込めて立ち、ターキッシュの後ろを引っ付いて走る。そこまで来て、ようやくマガジンが入り、私はチャージンぐハンドルを引いて薬室に弾丸を送り込めた。手の震えがようやく落ち着きを見せたのだ。

 

「何てザマだ、助けに行っておいて後ろを取られやがって!」

「でも!」

 

助けたかった。救いを求めているであろう子供たちを放るなどできるわけなかった。私達は笛吹、子供を過酷な環境から救い出すのが職務、だからこそ私はこの職場に入った。

例え、人さらいと言われようと私には違う。

 

埃ある仕事とは、そうではないのか。私は少ない語彙をフル動員してターキッシュの罵倒に反論しようとした。しかし、目の前を走るターキッシュの横から一人が長銃身のボルトアクション小銃を逆さに持って彼に殴りかかった。

 

「うぜえ!」

 

敵のフルスイングは空振りに終わり、ターキッシュがストックで頭を殴りつけ、民兵の歯が数本、空中に飛んだ。脳震盪を起こして意識朦朧となった民兵の頭にターキッシュはマークスマンライフルのスリングを引っ掻けて、強制的に頭を上に向かせて、身動きを封じると共に、肉盾にして右80m先に見えた敵兵を二名射殺する。

 

「お前も撃て!」

 

怒号が私に向かい、私はAKタイプの小銃を構えて、走りながら撃つが、命中する弾丸はほぼゼロ。安定しない姿勢に何より気が引けて引き金を引く指に決定手的にキレがない。

 

そんな私達に榴弾が飛来し、派手な土煙が私達の間に舞う。運よく破片を免れたのか、至近弾の割に私にはもんどりを打った痛みのみで体はぴんぴんしていた。頭の中で鐘が鳴って耳が切ない悲鳴を上げている中。目の前に新たな民兵たちが現れたのを視認し、私は先輩の方へと振り向いた。

 

ターキッシュは飛来して来た破片を盾にした男に受けさせて、無事だった。不幸にも楯になった男は大声でわんわん泣き、先ほどまでの威勢の良さもどこへやら。味方に撃つな、と叫んですらいる。

 

「ベッキー、もう一度射撃だ!」

「ハ、ハイ!」

 

ターキッシュが三連射し、私も言われるがまま乱射し、跳ねあがる銃口を必死に抑えていると、偶然にも一発が相手に命中した。男が痛みに喚き、のたうち回る姿はそれはもう、痛ましく自分がやってしまったと言う心理的ショックが襲い掛かったが。ターキッシュのとった行動がそのショックを打ち消した。

 

「弾け!」

 

彼は民兵の腰に吊り下げていた手榴弾のピンを抜いて、縦代わりの彼を敵陣へと蹴り飛ばした。スリングが外れて自由になった民兵は助かったことに喜び、自分が人間爆弾になっていることにも気づかず。味方に抱き付く形となり、その場で炸裂した。

 

炸薬で熱されて、破片でスライスされた民兵は例えるなら不格好なレアステーキのようで血と肉と焼け焦げた衣服の欠片が爆風に乗って飛び、潰れたスイカのような頭部が私のすぐそばに転がって来た。

 

ヒトが物になった瞬間だった。映画のVFXなどと比べ物にならない光景が目の前に広がり、私は半分恐慌状態になりつつフルオートの連続射撃を行うべく、トリガーを絞り続ける。

 

血の滴る半生の死体の臭気と硝煙と汗の匂い混じる場で私の先輩はあくまで冷静だった。

 

ターキッシュは弾切れになったライフルのマガジンを交換する暇すら惜しんで再び拳銃を取り出し、ダブルタップの二連射でサイドを狙っていた一人を射殺し、ホールドオープンした拳銃を握ったまま、左手でナイフを取り、投げた。

 

投げた方向は私で、私は驚きのあまり硬直したがナイフは頭のすぐ横を通り過ぎて髪の毛の何本かを切った後に私のすぐ後ろにいたナタを持った大男の喉仏に突き刺さった。

 

「伏せろ!」

 

間髪入れずにターキッシュが私の方へと走り、抱き付いて押し倒した。その半秒後には私達の立っていた場所に大口径の機関銃弾が通り、曳光弾の輝きが網膜に映った。

今まで見た度の弾丸よりも狂暴に見えた弾丸の唸りが私達の上を通りすぎていると、ターキッシュは自分のではなく、私のライフルを手に取って重機関銃の持ち主に向けて応射する。

 

その先にいたプレジデントに命中するが悉くが弾かれてしまい、効果をなさない。火花を散らして装甲が弾丸を弾き、周りにいた民兵の何名かに跳弾を喰らわすだけだ。

 

ターキッシュは派手な舌打ちの後に手榴弾を投げて、私の首根っこを掴む。

 

「逃げるぞ!」

「どうやって!?」

「いいから、任せな!」

 

彼が私の手を握りしめて、村のはずれへと全力疾走しその先へ行くと、そこには急な斜面が見えた。この斜面を下ると言う勝機を疑う逃げ方だ。私は足を止めて彼の逃走ルートを拒もうとしたが、すぐ後ろでロケットかグレネードランチャーか何かわからないが、爆発を起こして爆風が私達を前へと押し出した。

 

悲鳴を上げて私は宙を舞い、ターキッシュも同様に叫んだ。二秒間程無重力を味わい、体がふわりと空を飛んだかと思うと、すぐに斜面に体をぶつけて痛みに声を上げる。

 

堅い地面を転がり、木々の枝が体のあちこちに引っかかり傷をつけ、その辺に転がる石ころでさえ、転がる勢い故に凶器と化して体を傷つける。脳に痛みが伝わるたびに私は情けない声を上げて、さらに下へ下へと落ちて行く。

 

皮膚に伝わる痛みに口の中に泥が入りこんで土の味を噛みしめる。埃を巻き上げて急な斜面を身一つで転げ落ちていく。灼熱にも思える痛覚が発する信号で私は短い悲鳴を上げ、最後に背中に伝わるひときわ大きな衝撃で痛みに悶えた。

 

一瞬何が起こったのか分からなかったが、腰に太い大木を打ちつけてようやく止まった、とと理解するのに数秒かかった。。

 

対衝撃、対弾性能に優れたスーツやアーマーを着ようと痛みはわずかに和らげられるだけだ。いかな装備で身を包んでもヒトである以上は痛みから逃れられない。それを理解した私の上で小鳥が呑気に歌うかのような鳴き声を上げて飛んでいた。こっちの状況も知らないで無邪気にさえずる鳥に何故か見とれた。。

 

一種の現実逃避、綺麗な空を仰いで痛みと今を忘れていると、急に腕を掴まれて私は現実へと連れ戻された。

 

腕を掴んだのは勿論ターキッシュで。整っている方の顔は傷だらけで、額から血を流していた。

 

「よお、お一人で英雄やった気分はどうだ? ああ? 楽しいアクションムービーさながらのジャンプもできて満足か?」

「私は……」

 

そんなことはない、と言おうとしたがターキッシュの視線が私の口を封じた。反論などしようものなら殺される、と本能で感じ取って再び涙目になった。

 

「いいか? 今後勝手なことはするな。お前はまだ十五だから、なんて言い訳をアイツらは聞きはしないんだ!今度敵陣にダイブしてみろ、次はお前を最初に狙い撃つ、いいな?」

 

ターキッシュは私を突き放し、ライフルもついでに返してきた。私は唯それに頷いた。言葉を発する余裕はなく、今まで反抗していた自分がいかに愚かだったかを思い知らされた。ここは笛吹の職場で、如何なる理不尽も受け入れなくてはならないのだ。

 

たとえ、目の前で子供が連れ去られようとも。そう思って私は涙を拭って、今頃起こった体の震えを止めようと自分の体を抱きしめた。ターキッシュはそんな私を見てため息交じりに言った。

 

「……だが、ガッツは認めてやる。お前のおかげで何人かは救われたかもな。それだけは褒めてやる。蛮勇は捨てても、その心意気だけは捨てるなよベッキー」

 

底へ言われたのは意外な言葉だった。完ぺきに私がへまをやらかしたのに、彼は私の心意気は褒めると言いだしたのだ。

 

何故?と頭に疑問が浮かんだ。彼は殆ど動かなかった。村人を救う気が無かったように思えた彼が、合理的に殺しを行う彼がどうして非合理的な心意気なんて物を褒めだしたのかが理解が出来なかった。

 

「何してる? 行くぞ!」

 

苛立った言葉に急かされて、私は彼の後を追った。長い仕事はまだ始まったばかり、今日見た光景はまだ序の口と言わんばかりにターキッシュは奥へと歩んでいく。

 

その背中に私は奇妙な感覚を覚えた。彼は一体何なのか、と。未知なる存在のようで、それでいて懐かしい者に思えた。

 




久々の戦闘描写です。
ガンアクション等、もっと学ばないと書けませんね。
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