30世紀の笛吹き {完結}   作:ハナのTV

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第7話

 

夢なんてものは見るものじゃない。これは人生としての望みとしての夢ではない、眠ったときに見る夢の事だ。遠い幼き日を思い出せば、TVで偶然目にしてしまったホラー映画の世界に入り込んでしまい、布団を濡らし何度次の朝に母親を怒らせ、父親を呆れさせたことか。

 

今思えば、昔から怖いもの、思い出したくもない記憶に悲惨な未来図と、夢は気持ちよく眠ろうとする俺に嫌がらせに来たものだ。

 

夢は見たくない物ほど出てくるもので俺は大嫌いだ。しかも、それは大人になるほど残酷さを増していく。

 

俺は夢を見ていた。さっき榴弾で吹き飛ばされて意識を手放したはずなのに、何故かスラックスにスーツ、ネクタイまで締めて立っている。周りはアンダーハイブには珍しい自然を意識した緑に包まれた小さな学校があって目の前には子供たちが走り回っている。

 

校庭を多種多様な子供たちが元気に遊ぶ姿を俺は眺めていて、ポケットに手を突っ込めばキャンデイにチョコレートが出て来た。子供らは俺に気付いて、それらをねだる。目を純粋にキラキラ輝かせて甘いお菓子を手渡していくと、彼らは包みを剥がしてそれらを口に含む。

 

そンな俺の傍にはベッキーが何故かいた。彼女は出会ったばかりのパーカー姿で、俺に微笑みかけて子供を見やる。俺が何故彼女がいるのか疑問に思っていると後ろから大勢の影が現れた。

 

振り返ってみてみると、それは武装した大人達だった。アサルトライフル、拳銃、果ては剣に棍棒、石ころを手にして走ってこちらにやってくる。俺の本能が危機だと告げて、どこからか取り出した分からない銃器を向けて、彼らに放った。

 

ストックから肩に突き抜けるライフル弾の反動、手に馴染むピストルグリップの感触を感じ、一人、また一人と葬っていく。自分を何より後ろの彼らを守るために俺は一人の突破も許さずに脳天を撃ち抜き、二度と歩き出さない安全な死体へと変える。

 

俺のしていることに間違いはない。俺は悪党を殺しているだけだ。完全なる善とやらを掲げて無気力な非暴力に走ったり、無駄な慈悲を与えて彼らをほくそ笑ませるようなマネはしない。物事はシンプルに徹して、撃ち殺すのが正しいはずだ。

 

だが、不思議なことに俺が一人殺すたびに後ろの楽園は遠ざかっていく。正しいはずだが、俺の傍には誰もいない。否定もされないが肯定もされない。ただ俺と死体の山が積み重なっているだけだ。

 

「本当は私と同じなんじゃないかって」

 

ベッキーの言葉が俺の脳裏に響き、俺は後ろを振り返った。確かにベッキーはいた。はるか遠くの楽園から俺にその言葉を放っていた。

 

「本当は私と同じなんじゃない」

 

俺はそのセリフの微妙な変化に気付いた。だが、俺はそれに納得していた。同じでないから彼女は向うにいる。彼女は子供たちと居て、俺は死体と共にある。そうだ、同じなんて言えない。

 

俺もかつてそこに居たはずだった。青臭い理想論を語ったものだ。だが、俺は仕事をこなしていくうちにいつの間にか楽園から遠ざかっていた。その訳は簡単だ。俺はいつの間にか、子供を救い、彼らを救うことではなく、悪党を殺すことを目的にしている節があったからだ。

 

子供はいつだって被害者と言う現実は幾度も見て来た。少年兵として戦場で使い捨ての駒同然に扱われ、ヘマをしてガソリン入りのタイヤを首にかけられて燃やされた男の子や、欲望のはけ口の為に歯を全て抜かれ、服すら着ることを許されない女の子、そんなものは飽きるほど見て来た。

 

俺はそんな大人たちを救うために大勢葬って来た。それこそが救いだ。悪党は駆逐されるべきで、たった銃弾一発で彼らを地獄に落とすだけなのだから、むしろ俺は慈悲深い自分を聖職者だと思ったことすらあった。

 

だが、目的と行為が同じ正義であるという事はあまりに少ない。救うために殺し、悪党を上回るためにより残虐性と暴力の術ばかりを磨き上げていく。故に悪党撃った数だけ救えたとしても、俺を完全に称賛することはもはや不可能になっていくのだ。救いと殺し、相反することをする俺は一体どちら側なのか、区別がつかなくなる。

 

「本当は……」

「知っているさ」

 

血濡れた自分をベッキーは鋭い視線で突きさしてきた。

俺は悪党が嫌いだ。自分を悪とすら見つめられない愚かで残忍な連中を俺は心の底から嫌悪し、存在すら許したくない。だが、悲しいかな。一度鏡を覗いてしまった時に俺は嫌悪すべき対象をその中に見てしまったのだ。

 

「私と同じじゃない」

「俺も悪党に近いって事ぐらい」

 

俺の目的はもう「救い」ではない、「殺し」になっている。相容れない存在を撃ち殺す、それが悪党でなくて何なのか。

 

仕事にのめり込めすぎた哀れな男が俺だ。そんな俺が彼女と同じか、と言われれば俺は否定する。だが、本当は同じでありたかった思う自分がいて、それが棘となって自分に突き刺さった。

 

俺と彼女は違う。彼女は向うにいるのだから。

 

「起きろ!」

 

だが夢は唐突に終わる。脇腹に鈍い痛みが走り、俺は急に現実に引き戻されたのだ。口から胃液を少し掃き出し、目を開けると少し時間をさかのぼった現実が視界に広がった。

 

焼け焦げた木々の中で俺は眠っていたようで、周りがほんのりと温かい。空は曇天の重苦しい鉛色で、太陽すら拝めない。

 

そして左右に見えるのは夢に中で殺した連中とそっくりな男が四人。雑多な小火器を携えて、俺を見下している。

 

「悪魔を見つけるとはラッキーだ。懸賞金も弾むし、箔がつくな」

「ああ、俺達はツイてる。見ろ、虫の息だぜ」

 

彼らの顔は優越感で溢れていた。昨日まで猛威を振るって脅かしてきた俺を葬れるのだ。これから得られる名誉に地位、金を計算した上で俺を殺すのだから王様にでもなった気でいるのだろう。

 

一人が赤錆で汚れきった自動拳銃のスライドを引いて俺に向けた。古すぎてスライドの滑らかさが無いのか、力任せに引かれて銃口が俺の額に向けられた。

 

「悪く思うなよ、悪魔。アンタには大勢仲間をやられているんだ。銃弾一発で赦す俺を慈悲深いと思ってくれや。そうだろ? 本来ならバラバラにしてやりたいが、俺は優しくてな」

 

これから殺すと言うのに、偉く饒舌に語る奴だ。長話をする悪党は長生きしないのを知らないらしい。たとえ、ここで俺を殺しても長い命ではないだろう。

 

「あばよ」

 

男が引き金を引こうと力を込めた時、別方向から銃声が二発なった。ライフル弾とは違うドラム缶を思い切り叩いたような轟音が鳴り、四人が一斉に倒れた。その死骸は通常とは違い、大きく胸を抉られた者と、ザクロのように頭を弾かせた者と通常の弾丸より凶悪な弾丸で貫かれたことは疑いようが無かった。

 

銃声は二つ。だが死体は四つ、つまりは飛び出た弾丸は四発。普通なら計算が合わず、自分の頭がどうかしてしまったか、と思う所だ。だが、それをやってのける人物を俺は知っている。先ほどの銃声が454カスール弾のものだ。そんなロマンな銃を好んで持ち歩く男を一人だけ。

 

「すっごーい! 本物のガンスリンガーだねお爺ちゃん!」

「昔に比べれば遅いものだ。年を取るとコイツは重く感じる」

 

甲高いソプラノボイスを聞いて、片方は新米の女、ミナミと言う少女の声だと思いだした。ベッキーと一緒に歩いていたチビだ。もう一人は俺の元相棒にして師、コルト爺さんだと言うのはすぐにわかった。

 

爺さんは俺の顔を覗きこんで二カリと笑った。

 

「悪党は大好きだ。とくに殺す前に長話をする奴程な……酷い顔をしているなターキッシュ」

「ああ、救っていただいて感謝するよ」

 

コルト爺さんは笛吹用のスーツの上にダスターコートを羽織り、骨董品を提げた皮製のピストルベルト。肩には古い木製ストックのボルトアクション狙撃銃を担いでおり、何の意味もない牡鹿の彫刻がほられている高級仕様だ。いつも通りの冗談のような格好で現れ、俺の手を取って立ち上がらせた。

 

「らしくないなターキッシュ。職務中に居眠りは厳禁だと教えたろう?」

「好きでした訳じゃない……プレジデントのランチャーを浴びたんだよ」

「それは結構な問題だな」

 

コルトは苦笑いを見せて、俺の肩についたホコリを叩いて落とした。公園でベンチに座っているような好々爺のように笑みを浮かべて、俺にブーニーハットを手渡し、俺はそれを頭にかぶった。

 

「こんにちは! ターキッシュ先輩!」

「どうも」

 

榴弾の衝撃で痛む体の俺に元気の良い挨拶が浴びせかけられた。高いソプラノボイスが俺の体を刺激し痛みがチリッと走ったが特に抗議はしなかった。

 

ミナミの方を見てみると、彼女も変わった姿でいたことに気付いた。女性のSサイズのスーツの上にスカートを履いており、黒い無地のシャツの上にピストルベルトを吊ったY字型サスペンダーをしており、極めて軽装だ。

 

反面、小さい体には合わない大型のバックパックを背負っている。その姿は自然公園で冒険ごっこをする小学生に思えた。もしくはボーイスカウトか。目に見える銃器はレッグホルスターのマグナムオート。銃身がむき出しで後部がスライドする骨董品で失敗作と言うモデル「オートマグⅠ」を意識したマグナム自動拳銃だ。

 

だが、彼女はひとしきりきょろきょろと周りを見回した後で小首を傾げて訊いてきた

 

「ベッキーちゃんは?」

「……わからん」

 

俺は周りを見渡して、そう言った。日の暮れ具合から見て大分時間が立っているのは間違いない。彼女の姿が無いという事は多かれ少なかれ、厄介な事態になったという事だろう。

 

ふと頭をよぎったのは拳銃のハンマーが起こされる音だ。後頭部の後ろから聞こえた幻聴に俺はありうる一つの情景を頭に思い起こし、深くため息を吐いた。

 

ベッキーの後頭部に銃が突きつけられている、その光景が俺の頭に思い浮かび次の瞬間には銃声とともに消えて行った。もしかしたら、最悪な事態になっているかもしれない、と思うと俺は胸を締め付けられる思いになった。

 

「そう、なんだ……」

 

ミナミは困ったような笑顔をした。その表情を見て俺は先ほどからの彼女の変なリアクションに気付いた。この少女はさっきからヒトの生死に対して、さして動揺を見せていないのだ。

 

流石にベッキーに関することになると表情に曇りが見えたが大よそ新米の見せる顔じゃない。普通ならベッキーのように泣いて喚くものだ。

 

「嘆くのは早いぞミナミ。こういう時は知っていそうな者に話すに限る」

 

コルト爺さんは倒れた内の一人を仰向けにさせた。まだ彼には息があり、肩を撃ち抜かれていただけだった。三人を地獄に送っておいて一人はまだ殺さない、銃声が重なるほどの早撃ちでぶっ飛んだ技量を披露するのは流石と言えるだろう。

 

仰向けになった男の目の前にレッドホークを突きつけてコルト爺さんは負傷者に穏やかに訊いた。尋問開始の合図だった。

 

「さて少し歌ってもらおうか。八重歯とグラマラスな体が特徴の女の子を知らんかね? 何にでも噛みついてきそうな強気な子だ。どうだ?」

「知るかよ」

 

コルト爺さんの穏やかな口調に対して民兵はそう返した。もう少し強気なら爺さんの顔に唾を吐きかけた処だろうが口調は上ずっていた。大迫力の大型のリボルバーの睨みがあっては、どんな男も縮み上がってしまうのは当然の帰結だ。

 

「いや知っているだろう。君の目は私の目を逸らした、体も心なしか震えているぞ若者よ。こういう時に先ほどの饒舌ぶりを発揮しないでどうする?」

「……ふざけんな!クソ爺! お前に話す事なんか」

 

言い切る前にコルト爺さんは鼻を鳴らして、愛銃をクルリと回して遊びだした。重量1.6kgの銃を器用に回す兆候は何の前触れか俺はよく知っていた。そして唐突に回転を止めると民兵の膝に容赦なく撃ちこんだ。

 

マグナム弾が男の膝の皿を割って、右足がビクリと跳ね上がった。無残に引きちぎられた筋肉線維と骨がむき出しとなり、皮一枚でぶらりとぶら下がっているのみとなった。獣の咆哮じみた轟音の後に男の大絶叫が山の中で木霊した。膝の骨の出っ張りが潰れて無残な姿を晒しており、もう使い物になるか、など聞くまでもなかった。

 

「君もマゾだな。コイツをもう一発受けたがるなんて。だが、残念なことにシリンダーには後一発しかない」

「クソ! やめろ!」

 

男が悲鳴のように叫んだ。俺はそれを何とも憐れんだ目で見た。よりによってコルト爺さんの手にかかるとは運のない男だ。爺さんには慈悲は無い。俺のように仕事や使命感から来ているわけではなく、道楽で動くからだ。

 

道楽で行動する人間ほど恐ろしいものはいない。加減と言う文字を知らないからだ。そして、そんな奴が爺さんのほかにもう一人いて、彼女はニコニコと爺さんたちを見ている。

 

「という訳で君たち流に賭けにしてみよう。君が何発目で話すか、見てみるとしよう」

 

シリンダーから空薬きょうを取り出し一発だけ残してシリンダーを勢いよく回転させた。ロシアンルーレット、噂では聞いていたがそれを彼は当事者の一人の民兵に実演しようと言うのだ。流石に454カスール弾の二度目の被弾で楯つく気も消えうせたか、彼は完全に狼狽して口を回しだした。

 

「生きてる! 生きてるよ! アジトでボスに飼われている!」

 

コルト爺さんは不服そうな顔をした。民兵は自分の情報を疑っているか不足していると思い込んでいるらしく、さっきまで貝のように閉じていた口をひたすら動かして懸命に生きようと努力する。

 

「本当だ、信じてくれ! 後一日でショーに出させて、そこで金をとってから殺すって言ってたんだ!」

「……だそうだ」

 

爺さんは不満げに片眉を吊り上げて言った。ミナミはホッと胸をなでおろしており、とりあえず生きているらしいことに喜んだ。俺も彼女と同じで深く息を吐き出して、気を落ち着かせた。

 

だが、その中で爺さんはレッドホークのハンマーを起こしだした。シリンダーが回り出しトリガーが少し奥へと下がった。後は引き金にほんの少し、フェザータッチするかのような力を人差指に込めるだけで発射できるようになるのを見て民兵は更に体の震えを大きくした。

 

「待て、俺は話したろ!」

「話すのが早すぎたな。私を楽しませない内にお前は全て話してしまった。残念だがルーレット開始だ」

 

命乞いのコツという物は多くあるが、爺さんに対しての命乞い程、難易度が高いものは無い。爺さんは趣味人だ。楽しまないと気が済まない厄介な性質の悪さで、その性格は今彼の手握られている拳銃に表れている。

 

長時間過酷な環境下を歩き続けることが多い笛吹にとって普通マグナムは邪魔にしかならない。いくら威力が高かろうと、エネルギー量で見れば確かにフルサイズのライフルに匹敵するほどの威力も持つものもあるが、所詮は拳銃。命中率はライフルほど期待できない。

 

猛獣等を警戒するにしても威力の高いものを欲しがるにせよ、それなら安定性の高いライフルや散弾銃を持った方が効率的というものだ。

 

拳銃はサブウェポンの域をでない。だから水や携帯食糧を少しでも多く持ちたがる笛吹にとって、重くて大きいマグナムは好まれず精々が45口径の自動拳銃どまりだ。

 

リボルバーがいくら信頼性に優れていると言おうと、それなら小口径の物で済む。わざわざマグナムを選ぶ理由は存在しない。まして対熊以外に使い道がないような454カスールなど無駄を超えて、阿呆だ。

 

マグナムを持ちたがるものは馬鹿か素人と言っていい。使いずらく当たらない、装填数も少ない全くのロマン武器。だが、爺さんはその素人丸出しの拳銃で誰よりも長く生きてきたのだ。

 

何故なら趣味で生きているからだ。今のようにニヒルな笑みを浮かべて引き金に力を込めて、状況を楽しむのだ。

 

彼は自分をハーフ、それもノーズレスとライクのハーフだと言ったことがある。種族的に言えば、「理論じみた暴力性」を身に着けた大馬鹿野郎と言う訳だ。

 

ハンマーが撃針を叩いた。男は悲鳴を上げたが撃針が銃弾に衝撃を与えることは無く、派手なマズルフラッシュも焚かれなかった。ハズレ、男はラッキーだった。

 

「おめでとう、君は生き残ったようだ。では次。ミナミ」

「ハーイ」

 

だが、男の一瞬の喜びの後、すぐに彼は絶望へと転がっていった。小柄な女の子が目の前にニコニコと無邪気そうに笑って現れて、「おじさん、遊ぼう」などほざいてきたのだ。

 

「おい、嘘だろ?」

「じゃ、私とロシアンやろうよ」

 

そう言って彼女はマグマムオートを取り出して一発だけ弾倉に残して装填した。性質の悪い冗談にも限度があった。

 

「じゃ、一発目」

 

何の躊躇もなくマグナムオートの独特な金属音が鳴り響いた。後部のみがスライドして44マグナム弾の大きな空薬きょうが排出され民兵は顔を無くして二度と立ち上がれなくなった。出来上がったクレーターからは肉と骨の細かく砕かれた破片が噴水のように飛び出る血と共に噴き出していた。

 

「ラッキーは二度続かないね」

「奇跡は安売りはしないから仕方ない」

 

二人は楽しそうだった。それこそ同好の者同士で会話すると言う程度の認識でしかないだろう。俺はミナミに空恐ろしさを感じ取った。頭のネジが最初からないのと同然だ。爺さんの趣味に最初から適応しているのだから。

 

「楽しそうだなミナミ、今までどんな教育を受けて来た?」

 

試しに訊いてみると、彼女は何てことなさそうに答えた。

 

「このピストルを12の誕生日にパパからプレゼントされるような所で育ちました~」

 

俺はそれ以上聞かないことにして、曖昧な表情を向けるだけにした。誕生日に大型拳銃をプレゼントとはロクでもない場所だ。本来なら俺は彼女に哀れみや同情を抱くところだったが、彼女の顔からしてもう手遅れだと悟った。この齢にして爺と同じだからだ。

 

俺はそんな二人の談笑を尻目に民兵の持っていた武器を漁り、マシなものを見つけて先を急ごうとした

 

「行くのか?」

 

俺の背中を爺さんが呼び止めた。俺は振り返って楽しそうな二人に言った。

 

「当然だ。先輩として後輩助けるのは当然だろう? それに元々向うに行く予定だったしな」

「素直じゃない奴だ。お前はいつでもそうだ。心の内側を隠したがって斜に構えた風を取る。素直になった方がいいと言ったろう」

 

爺さんはにこやかに言った。俺にとってはそれが癇に障った。睨み付けてやるが彼がこの程度で動じるわけはない。自分の半径15m内にいる限り、彼は絶対負けるという考えをしないと言う男だ。睨み程度は胡椒一粒の刺激にさえならなない。

 

「お前は自分が悪党になったように思い自己嫌悪しているが、そうではない。本当は誰よりも誰かを救いたいのだ。しかし、あらゆる呵責がソレを邪魔している」

「うるせえ」

 

だが彼の口は閉じることは無い。

 

「俺は仕事でやっているだけだ」

「だから言ってるだろう? そうしろと。どの道心配しなくてもお前は悪党にはなれん。それとも中途半端なまま行くかね?」

 

頭に完全に血が上り、骸から剥ぎ取った拳銃のグリップを強く握りしめて向けた。ふざけるな、と叫んでやりたかった。俺がどれ程、際悩んだかも知らないで、趣味でのうのうと渡り歩いてきたアンタに何がわかるのか、俺は爺さんの特技すら忘れて銃を向けた。

 

だが、次の瞬間には俺の手の中にあった拳銃ははじけ飛んでいた。スライドを粉々にされて、熱を持った破片に俺は一瞬もだえた。俺が噛めるより早く、爺さんは装填を済まし俺の拳銃だけを器用に破壊した。

 

「クソ爺! 誰も手前みたいに生きられりゃ、苦労なんて要らないんだよ! 何人も殺して俺は悪党殺しか笛吹かの区別もできない! それでも、と信じても報われるか、なんて誰が信じてくれんだ?! ぶっ殺すぞ!」

「銃もないのに?」

 

ミナミが爺さんの後ろからそんな言葉を放ったので、右手を抑えながら睨むと彼女は悪戯好きの子供のようにダスターコートの後ろに隠れた。俺をおちょくるとはいい度胸している。

 

手に道具さえあれば。700m先まではワンショットワンキルだというのに肝心な時にないのに気付き俺は悪態をつき、巨人のように立ちはだかった爺に叫んだ

 

「中途半端だと?! 何が違う?! 俺とアンタとそこらに転がっている奴らと! 俺もアンタも殺し屋同然だ! 俺は子供とか可哀想な奴を一人でも救いたいと願ったさ! それがコレだ! 結局大義を得た殺し屋かぶれだ!」

 

爺さんは殺しを楽しむが、俺は楽しまない。そんなこと本当に言えるのか俺には自信がない。モーテルでの戦闘の後のベッキーの目、あれは俺にとって予想外だった。彼女ならある程度の耐性があって決してピカピカの理想掲げて笛吹になったわけではないと思っていた。

 

見るからにロクな育ちでない少女にそんな理想があるわけがない、俺はそう決めつけていた。だが、彼女は血の底で育ったからこそ、希望と言う光の大切さを知っていたのだ。

 

そしてソレを持って笛吹にやって来た。俺は彼女の話を聞くうちに自分が結局言い訳だらけの大人だと再認識させられた。悪党を殺すことばかりに目がいっていた俺には彼女は眩しすぎた。

 

俺は悪党だ。結局殺しがしたい連中と何が違う。楽しまずに嫌悪を抱いて殺しをすれば、マシだとでもいうのか? いや言う訳がない。目的に近づくたびに悪辣になっていく自分が嫌になっていく。

 

「それが中途半端だと言うのだ」

「何?!」

 

爺さんは静かに言った。

 

「いつまでもお前は子供にのように悩んでばかりだ。私と組んでいた時からずっと。だが、お前は気づいていないのだ」

 

爺さんはレッドホークをホルスターに仕舞った。獲物から手を離して俺の前に立って爺さんは堂々と言った。

 

「悩みこそが善人の証だ。お前が絶えず良心を持ち続けたことの証だ。いい加減、悪党ぶるのをやめろ。自分に素直になれ。お前は間違いなく人々を助けて来た笛吹だ。悪党なら迷わず。楽しむものだよ。私のように」

 

爺さんは目を猟犬のように輝かせて言った。俺はその目に食い入るように見た。笛吹を趣味の場として仕事をそこそこに純粋に悪党を殺すことを楽しむ狩人。彼のような男にとって俺は悪党ではないと言う。

 

だが、それでも俺は納得しきれなかった。爺さんの言葉だけでは、悪党の説教だけでは頷くことが出来なかった。

 

「アンタの言葉で納得すると思うか?」

「いや、思わんよ。 だが、お前が救おうとしている女が私は鍵となっていると思うのだよ。でなければお前が助けに行こうとしない。お前は悪党が嫌いだからな」

 

その通りだ。俺は悪党が嫌いだ。だから俺と爺さんは違った。俺は理想を追って、爺さんは道楽を選んだからだ

 

「ほざけ、アンタが捕まっても俺は助けに行くぜ」

 

爺さんは俺の言葉を聞いて深くため息を吐いた。俺の態度が一向に変わらないことに呆れたと見える。

 

「娘の安全を聞いて胸をなでおろしたヤツがよく言う。余程気に入ったと見える」

 

爺さんが勝ち誇ったように言うのに俺は負けた気分になった。早撃ちでも負けたうえで口でも勝てないとは情けない限りだ。

 

そう思っているとミナミが俺の隣にやって来て、いくつか道具を手渡してきた。見てみると、9mm口径の自動拳銃だった。マガジンは三つで先ほどの粗悪品と比べれば格段と性能の良いものだ。

 

「コレ貸しますねターキッシュ先輩」

「……お前は味方撃った奴に銃を貸すのか?」

 

ミナミは鼻を鳴らして薄い胸を張って言った。

 

「撃つ気なかったのは知ってますよ~。だって人差指まで使ってグリップを握ってましたし」

 

俺は驚いた。無意識にそんな事をしていたとは気付かなかった。しかし、それを聞くと酷い話にも感じた。ミナミで見えたのなら、爺さんにも当然見えていたはずだ。

 

「……恐れ入ったよ、悪党ども」

「どうも~。悪党弟子2号です。でもね……」

 

ミナミは笑顔を消して、オートマグの弾倉を変えてスライドを勢いよく引いた。寸分の狂いもない正確な動作。重く固いマグナムオートのスライドを小さな手でよくできるものだと感心するほどだ。

 

「ベッキーちゃんは友達だから死んで欲しくない……でも、死神相手の代わりならいくらでもいるし、この際大勢を釜に落として楽しもうと思うんですよ。いけませんか、先輩?」

「そうだとも、ターキッシュ。私もお前と新入りが死ぬのは辛い、此処は一つ協力させてくれんかね?」

 

俺は頭を抱える思いだった。先ほどまで俺を励ましてくれた老人も、これから救おうとする女の友達も本当に悪党だった。清々しいほど自分に素直で言葉も行動も本能の行くまま、と悩んでいる自分が馬鹿らしくなっていく。

 

「悪党を殺せ、ターキッシュ。ただし自分は悪党と思うな。お前は善人として殺せ。ベッキーに手本を見せてやれ。善人なりのやり方をな」

「自由に行きましょう!」

「……ああ、好きにさせてもらうよ、お前らみたいにな!」

 

俺達は目的地へと歩を進みだした。大よそヒト一人救いに行くには物騒すぎる面子で行くのだ。何もかも冗談のようだ。

 

悪党から説教を受け、チビにも小ばかにされ、今はそいつらと一緒に歩いている。だが不思議なことに、あの胸糞悪い夢による心の霧が少し晴れた気がしないでもなかった。

 

「本当は私と同じなんじゃないかって」

 

またあのセリフが頭の中で響いた。俺はその答えを知っていた。だが、今度は違う回答だった。

 

ああ、助けに行くぞベッキー。だから教えてくれ。俺がどちら側なのかを。

 

俺は再び歩き出した。周りを見れば、曇天の空に一筋の光が見え、焼けた大地に木の実が転がっていた。

 

 




454カスール。この強力な弾丸を出す拳銃を一度でいいから書いてみたかったです。

ストーリーも書きたいように書いておりますが、楽しんでいただければな、と思っております。

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