歓声と罵倒、相反する二つの叫び声が扉の向うから聞こえる。これから行われる処刑には金とスリルがかかっているからだ。ロシアンルーレットによる運だけに頼られる純粋な影事、ヒトが死ぬ様を見物し、尚且つ金も手に入ると言う特殊なギャンブルとやらに私は参加させられるのだ。
「死ぬ前の最後の自由だ、精々味わいな」
将軍の下種な言い回しの後に手かせを外されて、痛む手首をさすりつつ、私は思った。これから死にに行くのだ、と。ロシアンルーレットは確かに生きる確率がある。装填数にもよるが、六発なら六分の五の確率が永遠に続けば、とりあえず私が生きることは出来るだろう。
だが、そんなものはまやかしだ。六回やって一回は当たるのだと言われて、どれくらいの期間を長生きできるか、と考えればそう長くはない事くらい中学生でもわかるという物だ、
加えて自分の不幸具合を見れば、今日はツイてるなど妄言にも等しい。神にも見捨てられたマーマルの女の子に同情してほしいくらいだ。もしくは私一人救えない神の無能さを呪ってもらえれば、とも思う。
だが、そんな恨み言ばかり内心で呟いている内に、自分が今どうなるかを今一度認識してしまい私は急激に背筋が凍り付かせた。
「私……終わっちゃうんだ……」
一人そう呟いて自らの境遇を私は呪った。皮肉な感想しか浮かばない中、自分の生涯がたった15かそこいらで終わってしまう事を思い出して私は震えた。最後の最後であの少年に対して格好をつけても結局怖いのは消えてくれない。
ヒトである以上感情から逃れることは出来ない。逃れようのない死から恐怖を感じないのは不可能と言っていい。歯がカチカチと音を出し、自慢の八重歯が歯茎を傷つけて口の端から血が流れた。
その私をみて連中は愉悦に顔を歪ませて嫌な笑みを見せる。女の子、それも敵視している種族の怯え顔を見れば優越感に浸ることが出来るからだろう。舌を這わせてみる彼らに慈悲など存在しない。
クソ、クソ!
内心、悪態を吐いて彼らを睨む。涙を飲みこんでの顔だったためか余計に連中を喜ばせるだけで私はますます怒りに震えた。こいつらに好きなようにされて、出来たことが少年の心の重荷を少し軽くさせただけ。こいつらの喉元に噛みつけたらどれ程気持ちの良いことか
「ホラ、時間だぜ。さっさと撃たれて来い。その方が楽でいいぜ」
「テメぇ!」
大爆笑が湧き起こり、後頭部に水道管にも似た短機関銃を添えられて私はステージの真ん中へと歩かされた。恐怖と怒りが心を支配してどうしようもない黒一色に私は染まっていくのを感じた。
悪党、腐れ外道、鬼畜生共はまさか自分が私に殺されるなんて露ほど思っていない。今まで狩って来た無力で哀れな村民たちと一緒で家畜同然の存在に何を恐れる必要があると言うのか。自分たちは集団で手元には銃があり、相手はメスガキ一匹、楽勝だ、と。私に対する視線は正にそのようなものだった。
だからこそ、余計に殺意を募らせた。だが、殺されるのは私の方なのだ。
扉が開かれて球場のような広々とした場へと来た。降り注ぐ太陽の光が目をくらませて、次に悪趣味な悪党どものお客様が歓迎した。手に賭けた事を証明する券を握りしめて、声を張り上げて片方は勝つことを期待し、もう片方は死ぬことを願って罵倒する。
中央に置かれたテーブルにはべっとりと血の付着していた跡が黒々と残っており、今まで何人死んで来たかを物語っていた。
まさにそれは地獄だ。将軍の言った通り地獄こそ最高の儲け場だった、それを改めて実感しつつ私は中央の死刑台に座らせれた。よく目を凝らせば観客だけではなく、私を笛吹として一応警戒しているのかテーブルを中心にして十メートルほどの距離に四人の兵隊が監視している。
手には古びたアサルトライフルが握られており、セレクターはフルオートにされている。この距離なら確実に殺せるように配置、準備しているのだ。抵抗することすら許さない現実に私は目をつむって頭を抱えた。
最後まで、何もできないのか。そう思いテーブルの先を見た。しかし、そこには誰もおらず不思議なことに相手がまだ到着していなかった。民兵たちも疑問に思ったのか、互いに顔を見合って戸惑っているようだ。賭けの対象であるもう一人が未だ来ないのだ。
観客たちも妙な雰囲気を察したのか、ざわめきだした。何故今すぐ始まるはずのギャンブルが始まらないのか、と疑問は波及し一人が罵倒であろう怒鳴り声を上げるとそれがあちこちに飛び火してブーイングの嵐が起こりだした。
暴動にも近い罵声の大合唱に民兵たちは困惑し、通信機を取り出して状況の確認を取ろうとしている。一体何が起こっているのか私にはさっぱりわからなかった。何らかのトラブルが起こっていること以外は何も。
だが、そこへ拡声器による音声が入りだした。大きく全体に聞こえるように調整されたスピーカーから現地の言葉で何かを知らせている。その声は年季が入っており穏やかな口調であり、観衆たちは大勢がソレを黙って聞きはじめた。
民兵もそれを注意深く聞き取っていた。何を言っているのか分からない言葉の羅列に私は一人混乱し、状況が呑み込めないでいた。一体何を言っているのか。ナノマシンさえ壊れてなければ理解できたろうが、今は不可能だという事に苛立ちを覚えた。
しかし、長いお知らせの最後に馴染のある単語が付いて私は驚きを覚えた。その話の最後に出てきたのだ。
『……ターキッシュ!』
その単語に反応したのは私だけではなかった。アリーナ全体が揺れるように驚きの声を上げてアリーナの中央に視線を注目させた。そして私が出て来た場所とは反対の所から男が一人やって来た。
「どうして……?」
疑問を呟き、私は見た。その顔、姿かたちは紛れもなく彼、ターキッシュその人だった。両手を頭の上に載せて、スーツの上に迷彩を着て頭の上にブーニーハットをのせてやってきたのだ。民兵は全員が銃を彼に向けた。何故、彼が此処にいるのか分からず、ぞろぞろと彼の元へと向かい追い返そうとした。
しかし、そこへまたしても観客たちからの大ブーイングが始まった。何故観客たちがブーイングをしたかと思うと、アリーナの一頭高いスコア表のようなものがあり、そこにオッズが記されていた。
倍率はどちらに賭けても50倍。賭け事としては常識を完全に無視したものだった。ありえない倍率に民兵たちはますます困惑していた。本来なら中止されるべきなのだろうがお客様の熱がソレを許さなかいからだろう。
観客たちは声を合わせてコールした。賭けを続行するように声を上げているのはすぐにわかった。自分の持っている金券が更に化ける可能性に加えて、見世物の対象がターキッシュだからだ。
ターキッシュは此処に来るまで悪魔と呼ばれていた。織の中に閉じ込められた子供ですら知っている名前、この世界の悪党たちにとっては殺したい男筆頭なのは明らかだ。モーテルを探して部隊を町に送り込むほどの執着を見せているのだ。子供からは英雄視され、敵からは悪魔と言われる。それほどターキッシュはこの世界では有名だという事だ。
そんな男が間抜けにも非武装でノコノコやって来てロシアンルーレットをしようと言うのだ。そんな男の死にざまを見て、尚且つ大金を手に入れると言うのは最大の見世物だ。
ターキッシュが民兵と話して、次に彼らは通信機を手に指示をこう。長い長い審議、観客たちはヒートアップし私はターキッシュだけを見た。彼を見て思ったのは安心だった。彼が来てくれた、生きていた、そのことが脳髄を駆け巡って私は一瞬、小さな希望すら見出したほどだった。
彼がすぐ近くに来てくれた。感謝の念に堪えず、私は人知れず目から涙を流して微かに喜んだ。
だが、幸せの時間もすぐに終わった。審議の結果賭けは行われることとなり、ターキッシュは厳しいボデイチェックの後に向かいの席に座った。彼の顔はいか程も笑っておらず額に汗をにじませていた。更に周りに民兵が五人追加されて、警戒が強まったことを確認し私も喜んでいる場合ではないことに気付いた。
テーブルの横で審判らしき人物がリボルバーを片手に近づいてくるのを見て私は緊張感を走らせた。生唾を飲み込んで噴き出す汗の不快感すら忘れて私は審判を目で追っていた。
「ベッキー」
そこへターキッシュの声がして私は何かと思い、振り向いた。彼は私の目を見て言った。
「待たせて悪かったな。お前には辛い思いをさせたろう」
ソレは陳謝の言葉だった。この皮肉じみて素直ではない大人が私に放った言葉は意外にも謝罪の言葉だった。
「……来るのが遅いですよ」
私は本心から言った。彼は来るべきではなかった。もうショーは始まってしまった以上、今彼がここに来て私と一緒にこんな賭けをすることに意味はない。いっそ、私の事を見捨てて子供を救う方が合理的という物だ。
何故、彼がここに来たのか。私は疑問に想い、嬉しくもあって、嬉しくない彼の行動にそう言うほかなかった。
「いや、まだだ……まだ遅くない。お前はまだ生きている。俺のすぐ前にいるんだ、ベッキー。いいか? 自分を信じろ、お前は今日死なない」
「そんな事……!」
「出来る」
ターキッシュは短く答えて、言葉を続けた。
「耳を澄ませろ。何でもいいから思い出せ。動いたら迷わず、行動するんだ」
「……どうして、此処に来たの?」
審判がテーブルの横に付き、リボルバーのシリンダーに一発弾を込めて回転させた。運命の時間が近づくのを肌で感じ取り、瞳が揺れだした。しかし、目の前の彼は違う。確信を
持った目のまま私に言った
「まだ救われてない奴がいるからだ」
「ハナスナ!」
片言の言葉で言われ、テーブルの真ん中に古いリボルバーが置かれた。観客は先ほどまでの喧騒を沈め、誰もが私達に集中しだした。その異様な沈黙は確立六分の一のデスゲームが開始されたことを意味し、私はターキッシュの言葉の意味を考える暇すら与えられず、目の前のゲームに参加することとなった。
最初にリボルバーを持ち上げたのはターキッシュだった。鉄に塗られたガンオイルが不気味に光り何人ものヒトを葬って来た処刑道具であることをおどろおどろしく主張していた。
「耳をすませよ」
小声で言って、ターキッシュが親指をハンマーにかけて起こした。カチリと小さく音がおきた。後は引き金を絞ればいつでも発射できるようになり、彼はゆっくりとそれをこめかみへと持っていく。
彼の息遣いが聞こえ、私の緊張も高まっていく。頭によぎるのは引き金を引いた後の彼の姿だ。
無事に生きている姿ともう一つ、銃弾が飛び出して彼の頭蓋を貫通すると言う嫌な想像だ。そして、その想像で銃を握っているのは彼ではなく私でもあった。どちらかが死ぬ、そのことが頭に離れず、私はターキッシュから視線を外すことが出来ない。
その私の見守る中、彼は引き金にかける人差し指に力を込めた。そしてハンマーが銃弾の雷管に衝撃を送る撃針を叩いた。その瞬間私は短く声を上げて目をつむり、肩をビクリと振るわせた。
銃声が鳴ると思ったが何もならず、リボルバーの銃口から火が噴くこともターキッシュの頭を吹き飛ばすことも無かった。ターキッシュは一発目をクリアしたのだ。彼は深く息を吐き出してリボルバーをテーブルに無造作に置いた。
観客たちが声尾を上げてある者は喜び、ある者は失望の顔を見せた。歓声と罵声の二重奏、お互い相手の死を望んでの感情ゆえに見事に調和していた。
「オマエダ!」
審判が怒鳴り声を上げてリボルバーを渡してきた。ターキッシュが無事だった言う安堵から一転して私の番が来た。ロシアンルーレットだから当然私もあれを手に持って頭にまで持っていかなくてはならない。
汗ばむ手を動かすが鉛でも括り付けられたかのように重く、手が思うように動かない。リボルバーのグリップを握り、持とう舌が汗で滑りテーブルから床へと落としてしまう。審判が舌打ちをして、拾い上げた時腰にホルスターに仕舞われた自動拳銃が見え、私は一瞬ソレを奪い取ろうと思ったが、テーブルがガタリと音を立てたので手を引っ込めた。
ふと視線を移すとターキッシュが私の目を見て小さく首を横に振った。奪うな、妙なマネは止せ、そう目が語っていた。私は彼の無言のサインを受け止めて審判から大人しくリボルバーを受け取った。
ハンマー、撃鉄を起こしてシリンダーが回りだす。カチリと音がして発射準備が完了したリボルバーを頭にピタリとくっつけて、思う。今の私は付いているのか、否かと神に訊いても何も起こらないと知っておきながら、頼るべきものは何なのか、と。
『耳を澄ませ』『思い出せ』『動いたら迷わず、行動するんだ』
ターキッシュの言葉が脳裏で再生されても未だ私は答えを見つけられない。一体アレが何を意味しているのか、そんな言葉にすら縋り付きたい自分が酷く情けない気もしないでもないが、怖いのは事実だ。
人差指を引き金にかけて、私は涙を流した。撃ちたくない、死にたくないと心の叫びを抑えられなくなり、発狂寸前だ。この指先一つの動きで私の命が消えて、無に還ると思うと何もできなくなる。
「嫌だ……嫌だよ」
このまま投げ出したくなった。だけど、それを許さない周りの大人たちは引き金を中々ひかない私に怒声を容赦なく浴びせかけてくる。審判も憮然とした顔で見つめ出し、民兵の一人がライフルを持ったまま近づき、後頭部にライフルを突きつけてくる。
そんな四面楚歌、絶望ばかりがあふれる中、目の前の男が私に一言言った。
「大丈夫だ」
ターキッシュの声が耳に届き、私は彼を見た。彼は審判からの注意も無視して私に言った。
「ベッキー、お前は弱い女じゃないはずだ。信じろ、お前は死なない……ガッツを見せろ」
死なない、私は死なない。その言葉は何故か信じることが出来た。まだ出会って数日程度の男の言葉を私は不思議と飲み込んでいた。言われるがまま、リボルバーを持つ手に力を込めだした。
「そうだ」
呼吸が浅く早くなって、鼓動が早くなっていく。ストレスと緊張から脳から神経作用のある物質でも分泌されているのか、激しい運動もしていないのに体が酸素を求めて止まらない。
「行け!」
そして私はあらぬ限り叫んだ。腹の底から全力で大声を上げて、恐怖などの雑念を封じ込め、引き金に渾身の力を込めて引いた。その僅か一秒にも満たない時間に脳内では様々な光景が映し出されていった。十五年生きて来た私の記憶が一気に流れだし、早送りされたビデオのようにあっという間に過ぎていき、私は人生の終わりを体感した気がした。
だが、人生は終わらなかった。耳に届いたのは小さな金属音だけだった。ハンマ-が撃針を叩くだけで終わり、私は死ななかった。強烈なマズルフラッシュも、デカい轟音も響かせることなく終わり、私は生き延びた。
「……やった」
生きた……生き残った! 死への恐怖を無事一跨ぎした気になり、私は大きく安堵の息を掃き出しリボルバーをテーブルに乱暴に投げつけた。その後に再び会場が感情の波に飲まれて大きく揺れた。
これで互いに一回目をクリアしたことになり、お互い顔を見合ってとりあえずの無事を祝うかのようにほほ笑み合った。だが、ターキッシュの後ろに民兵がやって来て彼が私に話しかけた事を理由にライフルの銃床で頬を殴りつけた。
ターキッシュは椅子から転げ落ちたが、すぐに立ち上がり民兵を人にらみして椅子に座りなおした。すると、民兵が審判と話し出し、その結果彼のすぐ後ろにライフルを構えて立つことになったらしく、ターキッシュの後ろに民兵が立った。
ターキッシュは血の混じった唾を掃き出し再び私に顔を向けた。その時、口元をわずかに歪ませたのに私は気づいた。
彼の企みが何なのか、疑問に思っていると審判がリボルバーから一旦弾を取り出し適当な場所に居れてシリンダーを戻しカチン、と音を立てた。そして先ほどのようにリボルバーのシリンダーを勢いよく回転させて、ターキッシュの目の前に置いた。
「……?」
小さな疑問が生まれた中、ターキッシュはやはり同じような手順で銃を操作しこめかみに持っていた。シリンダーが回転し再び音がする。ターキッシュの表情は相変わらず。真剣なままで引き金を引き、二度目の幸運が訪れた。
今度は会場から先ほどのような声は上がったが、いささか小さかった。観客の多くはこの勝負を真摯に見守ることを選択したらしい。そのおかげで私はより耳を澄ませることが出来た。
そして、一つの確証のいかない推論が自分の中でできていた。正答かどうかは自分で判断するしかない。もし、それが正しければ彼の言っていた三つの言葉が完ぺきに繋がるのだ。だが、それは当てはめただけに過ぎない。言ってみればパズルのピース、間違って嵌めていることだってあり得る。
私は二回目のルーレットを行うべく、彼からリボルバーを受け取りハンマーを起こした。より正確に、自分の五感を信じて研ぎ澄まし、鋭くされた聴覚を頼りにあらゆる音を聞いた。
そして、その時ある場面を唐突に思い出し彼の言っていることを段々と不透明なまま理解した気がした。もしかしたら、助かる可能性があるかもしれない。私は死なないかもしれない、か細い希望の光が見えた気がして私はある程度は気を静めることが出来た気がした。
だが、恐怖は依然として残っている。一度目よりかはマシで、ターキッシュが私を見ている中、どうにか平静をギリギリの所で持ちこたえさせているだけで、怖いと思うのは変わらない。
死のゲームはやはり恐ろしい。こうして脳天まで銃を持っていくことすら、ありとあらゆる勇気を必要とするのだから。私は耳を凝らし、その瞬間を待った。そして、二度目の引き金を引くときが訪れ、目をつむって震える人差し指で引き金を絞った。
人差指を動かした後、私は目を開き自分が天国にいないことを認識した。目の前には審判とターキッシュが居て、全身に血が通っているのを感じ取った。心臓の音が激しくなっているのも聞いて自分が生きていることに安堵し、銃をテーブルの上に置いた。
鼓動だけではない、髪の毛が汗で濡れて、毛先から水滴が滴る。それすらも生きている喜びに感じられた。
悪趣味な観客たちがどよめき、どちらも意外としぶといと思ったのか、この結末がどう転ぶのか楽しみで仕方ないらしい。民兵達はこぞって不満な顔を見せて、早い所私達のうちどちらかが血だまりの中に伏せるのを待っている。
三度目のリロードが行われる中、私はターキッシュをもう一度見た。私に向ける視線は何かを見定めようとしているようで、瞳の奥の奥まで覗き込もうとしている。
私はその彼を見て、推論の末に必要な言葉を小さくつぶやいた。
「晩御飯に一人、二人遅れて一時間後に来るらしいですよ」
そう言うと彼は表情筋を一つも動かさずに目を左に動かした後私に向かって言った。
「もてなしておくから安心しろ」
「ハナスナ!」
片言で言われてターキッシュの後頭部を民兵が殴りつけた。そしてターキッシュにセットし終わったリボルバーを放り投げてターキッシュはそれを拾い上げて、ハンマーを起こした。
その一連の動作を見て、聞いて私は先ほどとは別の緊張感も感じつつ、その動向をじっくりと見た。ターキッシュはゆっくりと引き金を引いて、生き延びた。
またしても、ハズレ。観客たちは流石に騒がなくなっており、静観に徹していた。熱も少しは冷めたという事だろうか。
無言のまま、私の目の前にリボルバーが置かれた。黒光りする旧式のソレが言葉を放つことは決してない。だが、私はこの無機物が確かに殺意を明確にする瞬間があると知ることが出来た。
きっと普通の戦場では知ることは無いだろう小さな声を私は確かに聞いた。そして、その声が聞こえた時、三つめの言葉の時だという事だ。
そして、その時は来た。リボルバーを手に握りしめ、撃鉄を起こす時、その声が確かに聞こえた。聞いてしまった以上、私の行動は一つだけだ。
そうして、やって来た時に立ち、私はターキッシュに感謝をしていた。耳を澄まし、思いだし、後は最後の言葉に従うだけとなった。
ここに来て感じたのは恐怖ではなかった。確かな{生きる}と言う感覚、そして笛吹としてもう一度立ち上がれる機会に対する喜びだった。
「ありがとう……先輩」
私はリボルバーを頭に持っていく。引き金に指をかけて、視線をターキッシュからズラした。今度は目をつぶらず、そして鼻を利かせて後ろに意識を回して気配を感じ取る。思い出すのはターキッシュが私に初めて殺しを見せた夜の事。
あの日、彼は気配を感じ取って小口径のリボルバーで敵を仕留めた。銃声と叫び声、そしてもう一つシリンダーの回る音。それらが私の中で蘇り、この生死を駆けたギャンブルの中で諦めないように言ってくれた彼に感謝の言葉を述べた。
そして、私の視線の先にいるターキッシュの後ろの民兵に目をやり、私は大声で叫んだ
「今!」
その瞬間私達二人とも弾かれたかのように動き出した。こめかみに当てていた銃口を民兵に向けて引き金を引くと、銃弾が銃口から飛び出し、銃口から火を吹いた。
弾丸は寸分違わず、民兵の額を撃ち抜き絶命させた。シリンダーに入った銃弾が発射位置に来た時、僅かに金属音が違うことに気付き、それが狙いだと言う私の推論は正しかった。
スローモーションカメラのように周りが緩慢に動く中、私はリボルバーを捨て、審判のホルスターから拳銃を引き抜きしスライドを歯で引いて初弾を装填。ターキッシュは倒れる民兵からサルトライフルを奪い取り、審判をまず射殺した。
お互いに射線の邪魔にならないように体を捻り、互いの後ろの敵を奪い取った得物で射撃した。僅か三秒フラット、極限状態で示し合った信頼をもとに私達は完ぺきなコンビネーションを成功させた。
晩御飯、六時の時刻を指す言葉から彼は正確に私の意志を汲み、体を射線から退かせた彼のおかげだった。
互いの後ろで見張っていた連中が倒れるのを確認し、私達は賭けに勝った。運で勝ち取ったものではない、最期まで諦めずにいられた私達二人の想いが届いたのだ。運命を勝ち取ったのだ。
一瞬の殺戮劇の後、会場は大混乱に陥った。起こらないはずの事が起こってしまい、観客は騒然、民兵たちも泡を食ったかのように飛び出てきている。
「……よくやった」
ターキッシュの短い褒め言葉の後、私は彼に問うた。
「でも、これからどうするんです?!」
「周りは敵だらけ、お互い残弾が少ない……どうしたい?」
質問に質問を返され面食らうも私は答えた。
「助けたい人と、殺したい奴がいる」
「奇遇だな。俺も同じだ。だがその前に一つ言う」
「何です?」
ターキッシュは、周りに集まって来た民兵達を人にらみして言った。経験者のみが語れる重い一言だった。
「染まりきるな。自分が笛吹だって事、大事なことだ。忘れるなよ」
その言葉の後、民兵達が銃を構えて発砲しようとした。万事休す、これにて人生終了という、その時、救いの手が差し伸べられた。榴弾が飛来して彼らの一団を吹き飛ばした。赤い爆炎が幾重にも重なり、破片と爆圧で、大勢の悪党を細切れに変えていく。
血のスコールが降り出し、ついでにレアの焼き加減の反生肉の紫外が落ちる次の瞬間には猛烈な制圧射撃による弾丸が雨あられと悪党どもの頭上に降り注ぎ、退路が開いた。
援軍だ。なんとも素晴らしい言葉の響きに酔いしれたい気分になったが、すぐに顔を引き締めて走り出すターキッシュの後に続く。
「俺と来い! ベッキー!」
その叫びに呼応し私は大声で返した。
「ハイ!」
ライフルを握りしめて走り出す。その時の私には今までなかった物が揃っていた。銃に力、機会に先輩。全てが揃った時私は目をぎらつかせた。
この時をどれ程待ったことか。
ペイバックタイムだ。
次から戦闘回をやって、あと数回で終わらせる予定です。
前までは八話くらいで終わると思っていたんですが、長くなりました。
書きたいことを書いていくと増えていくものですね。
全部書き終わったらまた手直しなどするでしょうけど、とりあえず完結目指して頑張ります。
批評、感想等ありましたら、是非。お待ちしております。