艦隊これくしょん 艦これ ~水面の愛と水底の命~ 作:hatahata
別に見てあげてもいい、という心の広い方たちはお紅茶でもすすりながらゆっくり見ていってね
「戦車前進!」
航平の声と共に鉄獅子は動き出す。
エンジンの高鳴り、履帯の擦れる金属音、戦車独特の揺れ。
普通の人だったら不快極まりないものだが、航平には逆に心地よいと感じる。
子供の頃からの夢だった戦車に乗れることが彼の何よりの幸せだからだ。
海岸は爆撃で生じたクレーターがあちこちに出来上がっている。
そしてそこに配置されていたであろう、スクラップと化した数々の兵器が散らばっている。
そこで航平はあることに気付いた。
「これって...?」
再びハッチを開けて肉眼で確認する。
一見するとただの鉄屑にしか見えない。
しかし彼には分る。
「どうかしたんですか?」
「こいつら旧軍の兵器そっくりだ。あれは90式野砲、あれは38式改、
「あの時は確か...、二次戦の米軍の装備と同じでしたよね」
「ああ」
「それでしたら好都合ですね。旧日本軍の戦車砲では74式の装甲は貫通は不可能、楽勝です」
「だといいんだがな」
そして彼がそのまま前方の方を見た時にもう1つ気づいたことがあった。
「おっと、全車停止!」
彼は無線機に向けて叫んだ。
他の4輌は慌てて前進をやめる。
「今度はどうしたんですか?」
「地雷だ!」
よく見ると前方の砂浜にぽつぽつと太陽の光に照らされて光るものが見える。
海岸線に置かれている金属質のものは地雷以外の何物でもない。
爆撃の爆風で露わになったようだ。
「各車、前方の砂地に機銃掃射。砲弾は勿体ないから使うなよ」
『『『『了解!』』』』
航平も砲塔左についている
セーフティーを解除して、コッキングレバーを力を込めて引く。
後は発射把柄を握れば12.7mm徹甲弾が飛び出す。
「程々にしてくださいよ。隊長は射撃だけは下手くそなんですから」
「お前基準だとな」
航平は目の前の砂浜に照準を定める。
「全車発砲!」
彼の合図とともに、同軸機銃と車載機銃、計10丁の機銃が一斉に射撃を開始する。
同軸機銃の74式車載機銃の軽快な射撃音と、車載機銃のM2重機関銃の重い音が重なりあう。
機銃弾は次々と砂浜に突き刺さっていく。
「イヤッホォォォォォ!」
すると、目の前から小規模な爆発が立て続けに起こり始めた。
その爆発はやがて、その砂浜を横切るように広がって行った。
誘爆していく地雷を見て、殆どの車輛は射撃をやめた。
「隊長、そろそろ終いにしてください!弾の無駄になります!」
「ああ、わかってる!」
射撃をやめると銃身が赤くなって湯気を上げている。
車内に入ろうとした時に、航平の真横に何かが物凄いスピードで通り過ぎるのを感じた。
その直後、焼ける様な痛みが彼の右頬を走った。
「うおっ!?」
彼は慌てて車内に潜り込んだ。
手を当てると薄らと血が付いている。
「大丈夫ですか!?」
「掠っただけだ!」
痛む頬を撫でながら航平は考えた。
地雷の破片だとは考えにくい。
ここから地雷原の砂浜まで100m以上離れているので飛んでくるわけがない。
ということは...。
「ルイ。俺が合図したら奥の林に砲撃。HEAT(対戦車榴弾)装填。」
「了解。」
三和は即応弾庫からHEAT弾を取り出して薬室に押し込んだ。
「換装完了。」
「よし。ルイ、まだだぞ。」
航平はペリスコープで奥の林を凝視する。
一見すればただの林だ。
何か場違いな物はないか。
「ルイ。砲塔を左に俺がいいって言うまで動かせ。」
砲塔を回すモーター音が車内に響く。
「もーちょい、もーちょい。ここ!いいぞ、撃て!」
根岸は引き金を引いた。
耳をつんざくような砲撃音と反動が車内の四人を襲う。
砲弾は大きな爆発音を立てて着弾した。
根岸からしたら何もないところを撃ったように見えたが、大きな爆発が起き、大きな破片が車輛のすぐ真横に突き刺さった。
「命中確認!」
さっきの砲撃で林から火災が起きて豆を炒る様な音が聞こえてくる。
木が燃える音と小銃を。
小口径弾をはじき返す音が車内に響く。
撃ってくる敵は林に隠れて一切姿を現さない。
『敵発砲を確認!応戦します!』
「わかったこっちもやるぞ!弾種そのまま!峯岸、前進だ!居そうなところから片っ端から叩き潰せ!」
「「了解」」
「三和は俺と一緒に索敵よろしくな!あと装填も!」
「了解!」
航平たちは機銃を撃ちながら前進、他車もそれに追従する。
敵も砲撃してくるが、全て跳ね返している。
「ははっ!そんなんじゃビクともしないぜ!ルイ!ぶっ潰せ!」
「仰せの通りに!」
対戦車砲を砲撃で黙らせる。
破壊するたびに林の火勢が強くなる。
思っていたよりも抵抗が少ない。
敵は既に撤退を始めたようだ。
抵抗が完全に収まると沖にいる普通科部隊を載せた揚陸艇に安全だということを報告する。
燃え盛る林の中に入っていくと、すぐ横に航平たちが撃破した兵器があった。
「これは...?」
黒焦げた鉄屑を見て航平は驚いている。
三和も視察窓から横目で見たが、原型を留めておらず、ただのスクラップにしか見えない。
しかし航平はそのわずかな痕跡で、この兵器を特定した。
「チハ?」
航平は驚きと興奮が隠せない。
そして逆に三和は航平がチハ車だと確認した鉄屑をちらりと見た。
戦車は車体の上半分が丸ごと欠損しており、さらに残った部分もグチャグチャになっていた
とても97式中戦車だとはわからない。
「よく97式だとわかりましたね。全然わかりませんでしたよ。」
「残った車体の形から大体わかるよ。それにしてもすごい壊れ方だな。」
「そりゃそうですよ。74式の、しかもHEAT弾ですよ。」
「中に居たらたまったもんじゃないな。」
航平は撃破されたチハに向かって手を合わせた。
林の中には敵が作った道があったので移動はしやすい。
単縦陣で林を突っきっていくと、林の出口が見えてきた。
しかし地図だと出口はもっと遠くのはず。
「もう着いたのか?やけに早いな。各車、林を抜けたら縦隊から横隊に。」
『『『『了解』』』』
道幅は戦車一両がギリギリ通れる程度。
航平はキューポラから顔を出して周りの警戒をしている。
その他三人もペリスコープで周りを注意深く見ながら前進する。
ここで車内の無線機が鳴る。
根岸が受話器を取って航平に渡した。
相手は支援艦隊からだ。
「こちら一号車。どうした?」
『こちらの偵察機が林の出口で中規模の対戦車陣地を発見しました。』
林の出口といったらもうすぐ目の前だ。
「ぜ、全車停止!」
とっさに命令を出す。
後少し遅かったら危なかった。
だが出口付近に開けた土地などないはずだ。
「規模は?」
『偵察機によるとコンクリート製のトーチカの存在を確認。数は18』
「意外に多いな、なんでそんなものが今まで見つからなかったんだ?」
「恐らく上手く隠蔽されてたのでしょう。」
そういって三和が手渡した地図には敵の飛行場の前面に空き地は記されていない。
「敵さんも上手く隠したもんだな。とりあえず支援砲撃お願いね。」
『了解しました。座標はこちらで確定済みです。準備でき次第砲撃します。』
すると今度は海岸に向けて揚陸艇で前進中の普通科部隊からの通信が入った。
「こちら一号車。送れ」
『こちら大隊長から各車両へ。先ほど飛ばした
「後ろから!?車種は?」
『わからない。そちらに画像を送る。』
すぐに航平のJTACSに数枚の画像が転送された。
「これは...ちょっと、いや、かなりヤバい。林に入ってどのくらい経った?送れ」
『ほんの数分前だ。』
「了解。普通科部隊は上陸したらすぐに援護をしてください。俺たちだけだとやられるかもしれない。」
『了解した。通信終わり。』
無線を切ると深いため息がでた。
「どうしたんですか?後ろから来るやつはそんなにヤバイ奴なんですか?」
「ああ。旧ソ連の大ベストセラー重戦車、IS-2だ。しかも10両、こっちの2倍だ。」
それを聞いて根岸も息をのむ。
他の二人も表情が一気に硬くなる。
「奴の128mmは74式の正面だったら大丈夫かもしれないが、側背面はパスパス抜かれる。さっき数分前に先頭車が林に入ったという事は、全速だともうそろそろ追いつかれる。さぁ、どうするか。」
ここで待っていても後ろからくるIS-2に蹂躙される。
逆に前進すれば砲弾がまさしく『雨あられ』のように降ってくるだろう。
味方の支援砲撃でやられるという笑いごとにすらならない事も起きてしまうかもしれない。
しかし航平は無線の受話器を手に取った。
「こちら一号車。支援砲撃よろしく頼む。」
『了解いたしました。』
無線を入れ終わるとふぅと息を吐く。
そして今度は全車に向けて無線を入れる。
「たった今砲撃支援を要請した。ここにいる全員が神様信じているかどうかは知らないが、今日だけは存在を信じてくれ。これより全車両で前方の対戦車陣地に突撃、これを突破する!突破後は普通科部隊と合同で後ろの戦車をを迎撃する!いいな!」
『そんなの無茶だ!味方の砲撃でやられるかもしれない!』
「それしかないんだ!後ろの
無線機の向こうから息をのむ音が聞こえる。
航平はまた息をはいた。
今度はため息ではなく、覚悟を決めたものだ。
「全車前進っ!祈れェェェェェ!!」
鳴りを潜めていたエンジンが高ぶる。
静かだった車内が一気にエンジンの爆音に包まれる。
先頭の航平の車輛が一気にスピードを上げて、敵陣地に突っ込んでいく。
後ろを見ると、他の四輌も黒い排煙をまき散らして付いてくる。
出口はもうすぐ。
航平は潜望鏡で全面をじっと見つめている。
猛スピードで林から出ると目の前の対戦車トーチカから出ている砲身がすべて航平の戦車に向けられていた。
そして一番奥に見える要塞への入り口の銃眼からは重砲が見える。
あれを食らったらひとたまりもないだろう。
広場に出た瞬間に、一斉に相手の砲が火を噴いた。
18門の砲から放たれた砲弾がたった5輌の戦車めがけて飛んでくる。
「怖ぇぇぇぇ!」
そう叫んでいる間にも戦車の周りで絶えず爆発が起き、弾を弾き返す音が戦車のいたるところで響く。
「まるで生きた心地がしねぇ!ネギ、片っ端からぶっ放せ!」
「御意!」
根岸はすぐ右方のコンクリートトーチカに狙いを定め、放つ。
砲弾はトーチカを直撃し、中の野砲もろとも粉々にした。
「ナイスショット!」
「お褒めの言葉、光栄です!」
「その調子だ!次、10時の方向、距離100!弾種そのまま!」
撃て、と号令をかけようとしたその時、衝撃が航平たちを襲った。
「うわっ!?今度は何だ!?」
「支援砲撃がトーチカに直撃した!」
重巡洋艦の20cm砲弾の直撃を受けたトーチカは木端微塵に消え去って、後には何も残っていない。
文字通り跡形もなく消え去ってしまった。
「ひえぇぇ、おっかねぇ!」
「大丈夫です!もうあと少しで終わりです!」
潜望鏡で確認するともう数基のトーチカしか残っていない。
砲弾をはじく音も少なくなっていた。
支援砲撃もいつの間にか止んでいた。
「よ~し、危機は一旦去ったかな。10時の方向、距離120。ネギ、撃て!」
「了解!」
最後のトーチカも根岸の放った砲弾で沈黙した。
要塞の重砲も射角が足りなくて撃ってこれない。
「よ~し、あとは要塞の門の前で反転してIS-2 の迎撃だな。各車、門の手前のクレーターでハルダウン状態で待つ。」
各車から『了解』との連絡が取れた直後、航平が後方確認をした時だった。
林の出口から見える一両の戦車。
それの砲から発射炎が噴出した瞬間だった。
「しまっ!」
反射的に体を車内に引っ込めるのと同時に戦車が前につんのめったと思ったらその後右にスピンし始めた。
一回、二回と続く。
戦車の中で左右に揺さぶられる。
最後に思いっきり、右側に叩きつけられるとスピンが止まった。
「痛ってぇ~...」
戦車の中で体中をぶつけて少し動かしただけでも痛む。
それでも外の様子を見るためにハッチを開けて様子を伺った。
遠くにこちらに砲身を向けている戦車が数輌こっちに向かってくるのが見えた。
自分たちの車両は砲塔だけ出ている理想的なハルダウン。
しかし右の履帯が吹き飛ばされていて動けない。
それに他の四両からは炎が上がっている。
搭乗員が脱出した形跡も見られない。
「ここで決めるしかない...か。」
車内に戻ると三和が真っ青な顔で見つめてくる。
「もうダメ、死んだ。ここで死ぬんだぁ...。」
「何言ってんだ、やってみなきゃわからんだろう。」
「隊長、大丈夫だ。」
操縦席の方から声が聞こえた。
「そいつは不利な状況に立たされると弱気になる。いつもの事だ。」
「あ、あぁ、そうなのね...。」
「それともう一つ。」
「何だ?」
「こいつはそうなったほうが強い。」
「はぁ。」
そうこうしているうちにも敵はどんどん距離を詰めてきている。
「砲弾をHEATからAPSFDSに変えろ!」
「は、はぃぃぃぃ!」
「ルイ、行くぞ。カモ撃ちだ。」
「了解!」
命令を待たずに根岸は発砲を開始する。
「三和、装填!」
「はぃぃぃぃぃ!」
顔面からは血の気が引いていて体中がガタガタ震えている。
しかし今までの装填時間をはるかに上回る速さで弾を込めている。
「次発装填完了ぅぅぅぅぅぅ!いやぁぁぁぁぁ!」
「はやっ!?」
根岸は無言で砲弾を撃ちだしていく。
そして三和は5秒を切る驚異的なスピードで砲弾を装填する。
敵の砲弾は明後日の方向に向かって飛んでいき、今のところ一発の被弾もない。
しかし距離をじりじりと縮められ、砲弾も付近に着弾するようになってきた。
「あぁぁぁぁ!もうだめだ!お終いだ!ジ・エンドだぁぁ!」
「まだまだ終わらねえぞ!装填急げ!」
撃破しても数で押されてきている。
根岸もだんだん疲れが見え始めている。
「チィッ!数が多すぎる!これで8輌目!」
砲弾は正面を貫いて砲塔を吹き飛ばした。
それでも敵は砲を撃ちながら前進していった。
「そろそろ敵との距離500メートル切ります!」
「やばくなってきたかな...。」
視察口から覗くと目の前に大量のIS-2が見える。
「ベルリンみたいだな!」
「敗北確定じゃないですかぁ!」
すると砲弾の一発がついに砲塔に当たった。
車体が大きく揺れて今まで経験したことのない激しい衝撃が来た。
「あぁぁぁぁ!死んだ!死んだ!もう死んだぁぁ!」
「大丈夫、死んでない。ふぁ~~。」
「隊長!後何輌!?」
「見えてるだけだとあと3輌!次!2時の方向、距離300!撃て!」
「了解!」
撃った弾は車体下部を撃ち抜き、動きが止まった。
「2時の方向、距離300!」
「はいよ!」
今度は防楯に当たったものの容易く撃ち抜き沈黙させた。
「これで最後だ!ルイ!やっちまえ!」
最後に放った弾はターレットリングを貫き、キューポラやハッチから勢いよく炎が噴き出した。
周囲からは砲声が途絶え、前方には燃え上がるIS-2の残骸があちらこちらに点在している。
「全車輌撃破しました!」
「よしこれで」
その瞬間、横からものすごい衝撃が襲った。
轟音が車内に鳴り響き、車体も左に揺さぶられた。
「今度は何だ!?」
衝撃でグワングワンする頭を抱えながら視察窓から確認しようとするも、防弾ガラスが砕けていて確認できない。
航平は恐る恐るキューポラを開き、謎の衝撃が来た方を確認する。
そこには砲口から煙を上げ、砲塔をこちらに指向している一輌のIS-2が佇んでいた。
「しまった!まだ1輌生き残ってた!砲塔旋回急げ!」
「了解です!」
根岸が砲塔旋回ハンドルを思いっきり左へ回す。
砲塔が左へ回転し始める。
しかし途中でガキッという音とともにそれ以上動かなくなってしまった。
「何でだよ!電源はちゃんと通ってるはずだろ!」
しかしどれだけ力を入れようとも、一気にやろうとも1mmも動く気配がしない。
「ターレットリンクが衝撃で逝ったんだ!畜生ここで終いか!」
「嫌じゃぁぁ!死にたくないぃぃぃ!」
「チッ、北の果てで死ぬのかよ...。」
「南無阿弥陀仏」
ゆっくりと敵車輌が進んでくる。
被弾経始に優れた74式でもこの至近距離から、しかも側面であればひとたまりもない。
外から聞こえてくるエンジン音が少し小さくなった。
どうやら停車したようだ。
航平は目を瞑りながら最期の時を待った。
その間にもいろいろな思い出が走馬灯のように目の前を流れていく。
初めて戦車に乗った思い出。
初めての実戦。
死んでいった仲間たち。
親友の海斗。
そして...
ズバァーン
砲声が聞こえた。
航平は暗闇に取り残された。
体がものすごく熱い。
ここは天国か地獄?
どっちにしても死んだのには何も変わりがない。
そのうちにだんだんと足音が聞こえてきた。
一人ではない、何人もの足跡が響いてくる。
天使か悪魔のお出迎えだろう。
さぁ、俺は天国行きか、地獄行きかはっきりさせろコノヤロウ!
「お~い!大丈夫か!生きてたら返事してくれ!」
はぁ!?
航平がゆっくりと目を開けるとそこはさっきまでいた74式の車内だった。
うっすらとしか視界がないがちゃんと根岸や三和もちゃんといる。
すると今度はペチペチと誰かが砲塔を叩く音が聞こえてくる。
「大丈夫か!生きてるか!?」
航平は声を出そうと思ったがなかなか言葉が出ない。
体も緊張して全然動いてくれない。
そこで残っているすべての力を注いで拳でハッチを2,3回叩いた。
「おい!なんか聞こえるぞ!ハッチを開けろ!」
ハッチが開かれると車内に光が差し込まれる。
暗い車内にずっと居たせいか眩しすぎて目が開けられない。
「おい、しっかりしろ!気を保て!」
大きく前後に揺さぶられるとやっと視界が戻ってきた。
「ここは...。」
「ここは地獄でも天国でもねぇ、色丹島だ。」
あぁ、俺、生きてたんだ。
「けど危ないところだった。もう少し遅かったら本当にあの世に行きだったな。」
隊員が航平の腕を引っ張って戦車から引っ張り出した。
砲撃してきたIS-2は砲塔が吹き飛び、炎上していた。
砲声だと思っていた音は実は敵車輌の弾薬庫が誘爆した音だった。
「立てるか?」
「あぁ...何とか。」
それでも地面に立つとふわふわした感覚に襲われる。
ふと愛車を振り返ってみると車体中に弾をはじいた跡や弾痕が無数にあり、最後に砲塔側面に受けた場所は黒くへこんでいた。
サイドスカートも殆どが脱落しており、転輪も数か所なくなっていた。
「よく頑張ってくれたよ、お前は。」
砲塔をなでながら航平はつぶやいた。
残念ながら、航平たちの74式は戦闘能力を喪失してしまい、遺棄することになった。
だが航平たち4人は体の数か所に軽度の打撲と擦り傷を負っただけだったので、車内にある自衛用の89式小銃を取り出して普通科と一緒に行動することになった。
普通科の任務は基地の制圧、および北方棲姫の討伐だと部隊長から聞いた。
飛行場へと続くゲートは開かれており、そこまで行くまでに敵側の攻撃は一切なかった。
「不気味なほど静かですね。」
「あぁ。」
ゲートをくぐった先も、機関銃陣地が数か所あったが敵の姿は見当たらない。
機関銃も、弾もそのままだった。
「もしかしたらもう敵さんは逃げ出したのかもしれませんね。」
「そうであることを願いたいが...。」
その先を進むと敵の本拠地である飛行場にたどり着いた。
滑走路は月面のようになっており、そこら中から煙が上がっている。
格納庫や兵舎と思われる施設もかなりの被害を受けていた。
「よし、ここからは各隊に分かれて目標の捜索任務に当たれ。目標を発見した場合は速やかに射殺しろ。いいか?」
「了解しました!」
と全隊員が呼応する。
「ではこれより部隊を4班に分ける。1班は管制塔。2班は兵舎。3班は格納庫。4班は弾薬庫。繰り返すが目標は発見次第に射殺しろ。いいな。」
「了解!」
「では..かかれ!」
航平たちは3班に回され、5つあるうち1番飛行場に遠い格納庫で北方棲姫を探していた。
「しかし北方棲姫ってどんな奴なんでしょうね。やっぱり姫って言われるだけだからかなりの美人じゃないですか?」
「わからんな、けど噂だとかわいい系だって聞きましたよ。」
「おぉ!僕は美女系よりもかわいい系の方が好きなんですよね!」
「ルイ!三和!口動かさないで手を動かせ!」
「「は~い」」
広い格納庫の中は爆撃で瓦礫の山になっていた。
天井はなくなっており壁も所々に穴が開いている。
この中をたった4人で捜索するのはかなりつらい。
手で瓦礫をどけながら見つけようとするが何かがいるような感じは一切しない。
「もう北方棲姫も逃げちゃったんじゃないですか~。」
「逃げてたら逃げてたでまた面倒になるから、できれば見つけなきゃいけないだろ。」
瓦礫を除けながらどんどん格納庫の奥の方へと進んでいく。
「峯岸、そっちはどんな感じだ?」
「何もない。」
「三和は?」
「全然、何も見当たりません。」
「ていうことは...。」
「はい、こっちも。」
奥へ行っても瓦礫しかない。
格納庫の中は4人の愚痴と壁の穴からの風切り音が響き渡っている。
『ここははずれだったか。』
航平がJTACSで撤収を呼びかけようとしたその時に何かを感じた。
『これって...誰かが泣いてるのか?』
愚痴や風切り音とは違う、誰かがすすり泣くような音が格納庫のさらに奥から聞こえたような気がした。
「ここには何もないですね。撤収しましょうか。」
「あ、あぁ、そうだな。けど俺はもうちょっと調べてもいいか?」
「え、まぁ、別にいいと思いますけど。じゃあ俺たちは他の手伝いに行きます。」
「そうしてくれ。」
こうして他の三人がいなくなったところで、謎の音の在処を求め、さらに奥へと進んだ。
瓦礫の山をかき分け残骸を踏み越え格納庫の突き当りまで目指す。
進むにつれて、謎の音の大きさはどんどん増していく。
「これで...最後!」
突き当りの直前の最後の瓦礫の山を乗り越えようとした。
その時だった。
謎の影が格納庫の端にかなりの速さで移動するのが見えた。
「あっ!おい待て!」
逃げたのは絶対にあの声の主に違いない。
目標の北方棲姫だ。
自然と小銃のトリガーに指がかかる。
逃げる影を追って航平も不安定な瓦礫の上を走る。
なかなかすばしっこい。
訓練された自衛隊員でも追いつくのがやっとの速さだ。
しかし、前方で瓦礫がパラパラと崩れる音とともに小さな嬌声が上がった。
駆け足の音はなくなった。
航平が追いつくと、壁の古材の隙間から僅かに白い足が微かに見えている。
航平が小銃を構えながら、古材を思いっきりどけた。
トリガーに指はかけていた。
いつでも撃てた。
しかし彼に引き金は引けなかった。
「クッソ...マジかよ...!」
目の前にいたのはボロボロに傷つき、涙を流して怯えている幼女だった。
小言を言いながら頭を抱えながら震えている。
「こんなの反則だろ!」
小銃を床に叩きつけたくなる。
しかしこれは任務だ。
このような容姿でも、彼女は何百人という人間を殺しただろう。
しかし引き金を引く指は万力で締め付けられたように動かない。
『ダメだ...あの時と一緒だ...。』
沖縄で見た光景が頭をよぎる。
『ここで撃ったら奴等と同類だ。畜生以下だ。』
航平は小銃を下して一歩北方棲姫に近づく。
「クルナ!」
北方棲姫が大声で叫んだ。
しかし震えが一段と強くなるのがわかる。
航平は屈んで彼女の目線に合わせる。
「大丈夫だ、安心しろ。」
そう優しく語り掛けると、北方棲姫は顔をゆっくりとあげた。
漆黒の瞳と目が合う。
それでもまだ体の震えは収まらない。
「...クルナ...カエレ...。」
泣き声でそう話しかけてくる。
「大丈夫だって、信頼してくれ。」
そう言って航平は彼女に手を差し出した。
差し出した瞬間、北方棲姫はビクッと少し驚いたようだが、恐る恐る彼女の右手を差し出した。
航平の右手と北方棲姫の手が触れあった直後、彼女はすぐ手を引っ込めてしまった。
「ダメだよひっこめちゃ、ほら!」
航平がもう一度手を差し出した。
北方棲姫はもう一度手を出した。
ゆっくりではあったが、前よりかは早く手にたどり着いた。
二人の手が触れ合う。
北方棲姫の手は氷のように冷たかった。
「ほら、大丈夫じゃないか。」
気が付くと彼女は泣き止んでおり、震えも止まっていた。
頭をなでようとすると、特に抵抗もなく受け入れてくれた。
「さてっと...。」
航平は立ち上がって小銃を手に取った。
「始めますか。」
航平は引き金に指をかけた。
バーンバーンバーン
3発の銃声が飛行場にこだました。
他の作業をしていた隊員の手が止まる。
すると全員のJTACSに通信が入った。
『こちら3班第五分隊の浅谷!北方棲姫を発見し、同目標の射殺に成功した!確認のために画像も送る!』
そして各員に送られた画像には確かに力なく横たわっている北方棲姫の画像が送信された。
一瞬の静寂の後、隊員たちは歓喜の渦に巻き込まれた。
「はぁ!嘘だろ!やっぱりあそこに居たのかよ!隊長に手柄奪われっちまった!」
「けど隊長もやるなぁ。こんな見た目なのに躊躇なく撃てるなんて。」
「軍人の鏡だな。」
滑走路で待機していた3人の前に航平が姿を現した。
「大丈夫でしたか!?」
「あぁ。見ての通りだ。」
「しかし隊長もやりますね。流石はうちの車長です!」
「いやぁ、それほどでもないよ。」
峯岸もうんうんと頷いている。
そこにわらわらと他の隊員たちも集まってきた。
その中から大隊長が前に出て航平の手を強く握った。
「お見事だった!多数の戦車を引き付けるだけでなく、目標の撃破まで達成するとは!素晴らしい!」
「褒めすぎですって..。」
「おぉ、これは失敬。つい舞い上がってしまった。しかし、これで作戦は無事成功だ!」
「そうですか...はい...はいわかりました。では後ほどまた。」
海斗はJTACSを切った。
色丹島での作戦が無事終了したことを聞いてほっと胸をなでおろした。
あとはロシア軍から残りの2島の攻略成功の報を待つだけだ。
するとまたJTACSが通信を受信した。
ロシア軍からだろうか。
航平はすぐに通信に出た。
『こちら美幌基地航空隊です。』
相手は美幌基地だった。
少しがっかりしたが、基地から直接海斗に伝える事なのでよほどの出来事だろう。
「どうした。」
『偵察していた九六式陸攻が択捉、国後で敵の行動を確認したとの事』
「おい!それって!」
『はい。どうやらロシア側は一切動いていないらしいですね。詳しいことが分かり次第、追々連絡します。』
「わ、わかった!」
通信が切れた。
『どういうことだ!?』
海斗は今度は机の上に置いてある固定電話に手を伸ばす。
ダイアルは存在しておらず、ただ1から6までの番号が振られている。
海斗は6番を押して受話器を耳に当てる。
4回ほどコールが続くと電話が繋がった。
「Hello This is」
「Привет это Владивосток военно-морской базы.」
航平は電話を切った。
いつもだったら節のきいたロシア鈍りの英語で対応されるはずなのだが、今回はロシア語、しかも聞いたことのない女性の声だった。
しかしこの電話は各国の鎮守府のホットラインとなっているので混線はありえない。
ちゃんとウラジオストクに繋がった...はずである。
「仕方がない...。」
数分待つと扉を開ける音が聞こえた。
「どうぞ。」
「失礼するよ。」
部屋に入ってきたのは響だった。
「ごめんね。ここ最近まで大変だったのに呼び出しちゃって。」
「大丈夫だよ、司令官。で、お相手は誰だい。」
「それなんだが...ちょっと待っててくれ。」
海斗は受話器を手に取ってもう一回6のボタンを押した。
そうして受話器を響に渡した。
数秒経つと電話が繋がったらしく、響は流ちょうにロシア語を話し始めた。
数分ほど話し続けると響がふと受話器を外した。
「司令官。大丈夫。ちゃんとウラジオストクの海軍基地に繋がってるよ。あと、この子は英語はダメだけどイタリア語ならわかるって。」
「イタリア語..か。それだったらいけるな。」
「もしかして司令官、イタリア語がしゃべれるのかい?」
「まぁ、ある程度なら。」
「意外だね。」
そうして受話器を響から受け取った。
「先ほどはすいません。私はロシア語が分からないもので。」
『こちらこそ、ご無礼でした。』
受話器の向こうから聞こえてくるイタリア語は少々ロシア鈍りになっていた。
「だいたい予想はついたけど一応名前を伺っていいかな。」
『はい、私は第20号計画型嚮導駆逐艦、1型のタシュケントです。』
「やっぱりな。それでタシュケント。一つ聞きたい。我々はロシア軍の手助けがないと北方4島の奪還作戦が完遂できない。セルゲイ大佐からも協力するとの報告が来ている。早く我々に増援を送ってくれないか?」
『あぁ、その件でしたか。』
「そうだ!早く艦娘と地上軍を出してくれ!我々だけでは全島の攻略は不可能なんだ!」
『残念ですが、我々は増援は出せません。』
「...えっ?」
お久しぶりです。
最後の投稿が2016年4月13日になっててびっくりしましたよ。
この年は大学受験があって、この小説はおろか、提督業すらまともに出来ないような状況が続いていました。
本当に申し訳ない。
次回はもっと早く出します!
ご期待しててください!