鶴賀学園麻雀部部長の蒲原智美だぞー。
全国の私ファン、待たせたなー。
本編では伏せていたが、実は私には隠された特殊能力があったのだー。
この能力を目の当たりにして、私の部長としての貫録()を思い知るといいぞー、わっはっはー。
小ネタにこそ全力を出す、それが私のジャスティス。
いや、長編でも全力出してますけどね。
全国高校生麻雀県大会決勝戦。
「あ、あれで良かったんですか?」
「ああ、十分すぎる」
鶴賀学園は次鋒戦、妹尾佳織の大活躍で2位へと躍り出ていた。
本人は不安げに戻ってきたが、誰一人その成果に不満は無い。
さて、次は中堅戦だ。
「蒲原」
ゆみが鶴賀のキャプテンである蒲原に声をかける。
が、返事が無い。
「・・・・・・蒲原?」
他のメンバーも周囲を見渡す。
が、その控室には蒲原の姿は無かった。
先程まではいたはずなのに。
一体どこへ?と考えていると、不意に控室のドアが開かれる。
「ふぃ~、さっぱりした」
探し人、蒲原が戻ってきた。
いつの間にやら部屋を抜け出していたらしい。
頭からタオルをかぶっている辺り顔でも洗ってきたのだろうか。
「・・・・・・何をしていた?」
ゆみのきつい視線に蒲原はいつも通りの緩い雰囲気で、ワハハーと返事をする。
「頭を切り替えていたんだよ、ゆみちん。
次はあたしだからなー」
ゴシゴシと髪の水分をふき取る。
どうやら洗ってきたのは顔ではなく頭のようだ。
何故こんなタイミングで?
そんな疑問をぶつける間もなく、蒲原はポイッとタオルを投げ捨てる。
「んじゃ、行ってくるよ」
「・・・・・・ああ、射程に入った的を逃がすな」
「了解ー」
ゆみの言葉にも軽く返事をし、蒲原は控室のドアへと向かう。
と、そんな蒲原に声が掛けられる。
「・・・・・・さ、智美ちゃん?
髪型崩れてるよ?」
今しがた活躍してきた幼馴染、妹尾だ。
「ああ、いいんだよ、これで。
んじゃ、ちょっと撃ち落としてくるよー」
蒲原はそう返事をすると、さっさと控室を出て行こうとドアに手をかける。
そして出て行く直前。
「全員、さ」
ボソッと呟いた。
「・・・・・・どうかしたのか? 妹尾」
どこか雰囲気の変わった蒲原を見送った後、妹尾に声をかけるゆみ。
「・・・・・・えっと・・・・・・」
おどおどしつつも褒められて嬉しそうだった先程までと違い、妹尾は本当に不安そうにおろおろしていた。
とりあえず席について一息つくと、ゆみに返事をする。
「あの・・・・・・今まで伝えていませんでしたけど・・・・・・」
そこまで言ってまた深呼吸をし、妹尾は告げた。
「昔から智美ちゃんは髪型を崩すと・・・・・・」
県大会決勝戦、中堅戦。
清澄、竹井久が風越の文堂を狙い打ち、東二局の連荘でついにトップに立った。
しかしその後、龍門渕の国広一が跳満ツモ。
久に傾きかけていた流れを一気に呼び戻す。
これからいよいよ混戦が始まろうという南二局である。
そしてそうなってから小さくため息をつき、ようやくエンジンをかけた人物が一人。
(・・・・・・・・・・・・やるかぁ)
蒲原智美である。
南二局0本場 親・久 ドラ{一}
「8」
「・・・・・・?」
第一ツモと同時の蒲原の呟きに、久が首を傾げる。
「何か言った?」
「わっはっはー、別にー」
蒲原はいつものように笑い、{①}を切り出す
(・・・・・・?? まぁ、いいか)
それを気にしつつ、久も牌をツモる。
そして。
久 109800
{二二三四七七⑧234678} {
未だ流れに乗っている久、6巡目で一向聴だ。
この局は上がり直して再び流れを掴みたいところ。
対する一も負けていない。
7巡目。
一 98200
{三四五③⑥345南南北北北} {
手は進んでいないがダブ南がついた。
このまま{北}を切って三色もつけられれば再び跳満を狙える形になるだろう。
そんな中、一度も上がっていない蒲原は唐突に。
「リーチ」
聴牌を宣言した。
蒲原捨て牌
{①2中西
久手牌
{二二三四七七1234678} {
({[5]}ツモって高め一通聴牌・・・・・・)
悪待ちが狙える形ではないが、平和一通赤ならリーチをかけてツモれば跳満。
チラッと蒲原の捨て牌に目を向ける。
(・・・・・・5巡目にドラを切ってのリーチ・・・・・・ドラが使えない手格好なのかしら?
{①}、{2}も最初から切ってるしその辺一帯が不要牌の手牌・・・・・・。
染め手じゃなさそうだし、上寄りの三色とかかしら?)
ならば{二}は危険ではないだろう。
それに蒲原の捨て牌に{9}があり、安牌と思って切った人から上がることも可能と思われる。
だがしかし。
(・・・・・・ダマでも高めツモで満貫。
それに・・・・・・なーんか嫌な感じがするのよね、この局の彼女)
何がとは言い難いが、とにかく嫌な感じ。
例えるなら事前に見た時と違って髪型が乱れているとか、この局の初めに聞こえた謎の言葉とか。
考えた挙句久は黙テンを選択する。
そして一。
{三四五③⑥345南南南北北} {
ダブ南三色の聴牌、しかも赤ドラツモだ。
リーチかツモで跳満、裏ドラが絡めば倍満まで見える。
蒲原の捨て牌におかしなところは無いし、未だラス目の身としては引く手は無い。
「リーチ!」
まっすぐ、そのまま手成りでリーチをかける。
(めくり合いの勝負だ!)
チラッと対面の蒲原に視線を向ける。
だが同巡、あっさりと決着はついた。
「わっはっは、ツモ」
コトッとツモった牌を表向きに晒す。
(・・・・・・あっさり一発ツモか、リーチ棒出さなくて良かったわ)
ふぅ、と久が安堵のため息をつく。
一方リーチをかけた一も別に落ち込んではいない。
(リーチ棒はもったいないけど、曲げた打ち方をしなければ必ず手は来る)
諦めず、落ち込まず、まっすぐに正攻法で攻める。
それが信条の一は親っかぶりの状況といえども揺るがない。
二人とも不安も何も抱いてはいなかった。
彼女の手牌を見るまでは。
{七八八八九⑦⑧⑧⑧⑨789
「リーチ一発ツモ三色、裏無しで2000・4000」
「「「!?」」」
久と一はもちろん、文堂の表情も変わる。
({八}と{⑧}のシャボ待ち?
しかもどちらも789の面子があるし、{⑧}は清澄が一枚切ってる・・・・・・完全なラス牌の{八}を一発ツモって・・・・・・)
ただでさえ久に点数を削られていたところに、今まで上がっていなかった人物のしかも予想外の上がり形。
気にならないわけがない。
一も、久の悪待ちを見た時以上に顔をしかめる。
(捨て牌を見る限り、狙ったわけではなく手成りで進めて行ってあの形ってこと・・・・・・?)
そして久も。
(・・・・・・あんまり人の麻雀に対してこんな感情持ったこと無いんだけど・・・・・・)
全員が一様に彼女に対する認識を変えた。
彼女の麻雀は
どこか
気味が悪い。
「必殺8並べ、なんてね」
そんな思いを知ってか知らずか、蒲原はいつもの通りわっはっはーと笑うのだった。
南三局0本場 親・一 ドラ{五}
「リーチ」
タァンと蒲原の捨て牌が横向きになる6巡目。
久
{四四
一
{一三①②③⑨⑨123[5]6白}
文堂
{二二六七①②③⑥⑦⑦⑦57}
全員手牌は悪くない。
だがお互いに喰いずらすこともできず、というより先程の一発ツモが偶然の物と思っていることもありそのまま一巡回ってしまう。
「ツモ」
再び蒲原の上がりとなった。
{
「リーチ一発ツモタンヤオドラ1・・・・・・むー、裏乗らないなぁ。
2000・4000」
蒲原は残念そうに点数を申告する。
が、周りとしてはたまったものではない。
(またこんなに早い聴牌・・・・・・!
しかも不自然に8ばっかり固めて!)
(2回も一発ツモしておいて・・・・・・これで裏ドラまで絡んだら最悪だよ!)
文堂も一も思わず愚痴る。
久も手牌を崩しながら不安げに蒲原に視線を向ける。
(・・・・・・そう言えば彼女、さっきの局も今回も、配牌を受け取った後になんて言っていた?)
牌が混ぜられ、山が現れる。
ラス親の文堂が賽を振って配牌を受け取る。
淀みなく一連の動作を行いながらも久は記憶をたどる。
(確か・・・・・・南二局で「8」と言っていた。
そして7巡目にリーチをかけて一発ツモ。
そしてさっきの局は・・・・・・「7」、上がりも7巡目)
なら・・・・・・今回は?
南四局0本場 親・文堂 ドラ{8}
「6」
(・・・・・・さっきから何をブツブツと・・・・・・?)
一がちらっと蒲原に視線を向ける中、久はただ一人表情を歪めた。
(やっぱり・・・・・・!
さっきから彼女は自分の上がる巡目を宣言してる!?)
配牌を受け取った時点でそんな事を!?
まさかそんな事・・・・・・信じられない!
しかもそれがどんどん加速している!?
3巡目。
久
{二三五五六①①④4556
ドラの{8}は勿体ないが、赤があるこの手格好でドラを惜しむよりは三色を目指すべきだろう。
しかし気になるのは手から溢れる{8}。
(8・・・・・・気になるけど・・・・・・)
ちらっと蒲原に視線を向ける久。
(・・・・・・もし彼女が宣言通りの巡目で上がるのならこの{8}で上がられることは無いはず・・・・・・)
自信は無いがそう考えて久はドラを手放す。
と。
「ポン」
蒲原は{8}を2つ晒して{三}を切り出す。
(ポン? リーチ一発が狙いじゃないの・・・・・・?)
久が首を傾げる中再び彼女のツモ番。
無駄ヅモの字牌を切り捨てる。
次巡、一。
{六九九②③④⑤⑥⑨7
一通も狙えそうな手牌。
だがこの形では{⑨}を捨ててリーヅモ中ドラ1を狙うのがいいと思われる。
一は{⑨}を捨てた。
「チー」
再び蒲原から声が上がる。
{横⑨⑦⑧}と晒して{七}切り。
そして次巡。
「ツモ」
パタンと手牌を倒したのは、蒲原の捨て牌が5つ並んだ次のツモ。
{八八八⑧南南南} {横⑨⑦⑧
「ダブ南ドラ3、2000・4000。
さっきからこればっかだねぇ」
わっはっはーと笑いながら蒲原は満貫の点棒を受け取る。
『中堅前半戦終了ー!
鶴賀高校、蒲原が南場に入ってからの連続和了でリードを奪いましたー!
さらに最下位だった清澄高校が名門風越をトップから撃ち落としたところも注目です!』
アナウンサーの声が会場に響き渡り、それを合図に蒲原は卓から立ち上がる。
「ちょっと失礼ー」
そそくさと会場を後にしてしまった。
久はその様子を見送りながら小さくため息をつく。
(・・・・・・とりあえず休憩でよかったと言ったところかしら。
あのままどんどん加速して行って連荘されていたら堪らなかったわ)
満貫で三連荘、もしもこの後点数が上がっていくような事になったらそれこそ手がつけられない。
一も同様に蒲原が出て行ったドアに視線を送る。
(さっきから上がる巡が早くなってるし・・・・・・何か、ホント・・・・・・衣みたいな威圧感を感じたし・・・・・・)
そう考えて首を横に振る。
(・・・・・・まさか・・・・・・。
昨日すれ違った清澄の生徒といい、衣みたいなのがそこら中にいるわけがない)
きっとボクの勘違いだ、そう言い聞かせて気分を入れ替える。
そう、まだ逆転できないような点差ではない。
後半で必ず追いついて見せる!
一はそう誓った。
一方の文堂は心が折れ掛かっていた。
序盤の久への振り込みといい、終わり際の蒲原の連荘といい。
(清澄の悪待ち・・・・・・鶴賀の連荘・・・・・・こんな打ち手は風越にはいなかった・・・・・・)
どうしたらいいのかと頭を抱えてしまう。
「文堂さん」
声を掛けられて振り向くと、そこには風越の優しいキャプテン、福路美穂子がいてくれた。
「キャプテン!」
思わず目元に涙を浮かべてしまう。
美穂子はそんな文堂をそっと抱きしめて励ましの言葉を贈った。
落ち着いて、いつも通り自信を持って、と。
そして久に対抗する為のアドバイスを送る。
文堂はこくりと頷いた。
「・・・・・・でも、鶴賀の方はどうしたら・・・・・・」
それに対しても、美穂子は文堂の頭を撫でながら言葉を続ける。
「確かに恐ろしい打ち手よね。
でもどこかで無理が生じて長続きはしないはずよ。
それまでは無理しないで耐えて、彼女が大人しくなってから攻撃に転じましょう?」
「・・・・・・それで大丈夫でしょうか」
「・・・・・・さぁ、どうかしら?」
「えぇ!?」
不安が抜けない文堂に、美穂子はクスッと笑いかける。
「でもきっと大丈夫よ。
だってこの後には深堀さんと華菜が控えてるんだもの。
彼女達二人がいれば、必ず逆転できるわ」
そう告げると美穂子は文堂から離れ、彼女に深呼吸を促す。
文堂はそれに従い、何度か深呼吸をする。
「少しは楽になった?」
「・・・・・・はい、ありがとうございます、キャプテン」
まだ不安そうなものの、文堂の表情に笑顔が戻った。
『間もなく後半戦が始まります。
出場選手は速やかに席に戻ってください』
会場中に中堅戦の再開を告げるアナウンスが流れる。
「それじゃ、頑張って」
「はい!」
美穂子は文堂の笑顔に安心したように会場を後にする。
ちらっと久に視線を向けながら。
(・・・・・・風越のキャプテン、どっかで見たことあるんだよねー・・・・・・)
そんな視線に、久は自身の記憶と戦っていた。
「・・・・・・しかし藤田プロ、蒲原選手の連荘には驚きましたね」
「・・・・・・ああ、清澄の悪待ちについては事前に知っていたからいいが・・・・・・まさかあんな選手がいたとはね」
アナウンサーの言葉に靖子は小さくため息をつく。
「・・・・・・まるで天江衣のようだ」
「・・・・・・龍門渕の天江選手ですか?」
「ああ。
と言っても彼女はまだこの大会で一度も打っていないから、その恐ろしさは説明しても分からないだろうけどね」
やれやれと首を振りつつ、靖子は再び会場に目を向ける。
「鶴賀学園の蒲原、どれほどの実力者かしっかりと拝見させてもらおう」
「・・・・・・そうですね。
ところでまだその蒲原選手が戻ってきていませんが」
「・・・・・・確かに」
間もなく試合開始時間、会場を抜けた蒲原はようやく姿を現した。
ゆらり、と影のように身体を揺らしながら。
「ふぃ~」
ドサッと席に腰を下ろす蒲原。
同時に髪から水滴が落ちる。
どうやらまた頭を洗ってきたらしい。
「・・・・・・髪の毛、まだ濡れてるわよ?」
久が指摘すると、蒲原はワハハーと笑いながらハンカチで前髪をぬぐう。
その後、ハンカチは備え付けの台座に置かれた。
「ごめんごめん、ハンカチが吸収しきれなくてさ」
ビシャッと音はしないが、見た目にもハンカチが大分水分を吸っているらしいのが見える。
「・・・・・・さて」
後半戦東一局、席と親決めの結果再び蒲原の親からスタートだ。
賽を回すべく台のボタンに手を伸ばす。
「試合再開と行こうか」
カララララと賽が回った。
後半戦スタートである。
鶴賀 117800
清澄 101800
風越 91200
龍門 89200
東一局0本場 親・蒲原 ドラ{中}
カチャ、カチャと配牌を受け取っていく一同。
皆揃って蒲原に目を向ける。
(とりあえず仕切り直しのこの局、何とか上がりを取りたいわね)
(キャプテンに言われたとおり、流れが戻るまで大人しくしていよう・・・・・・)
(まだ逆転できる。
まずは上がって流れを取り戻す!)
それぞれ決意を胸に秘め、配牌を受け取り終える。
「5」
「っ!」
蒲原の呟きに久は思わず顔を上げる。
(まさか・・・・・・半荘変わっても続くの!?)
一もちらっと蒲原に視線を向ける。
(さっきから何を呟いてるのかと思ってたけど・・・・・・数字?
まさか5巡で上がる宣言じゃないよね・・・・・・?)
不安げにそう思いながらも、まさかと否定する。
あり得ない、そんなの。
衣じゃあるまいし・・・・・・!
一同が不安を抱える中、3巡が経過した。
手牌
久 {一一二二六七[⑤]⑨67南白白}
文堂 {三四②③④⑥⑦⑦234西
一 {四七九②②2355577白}
文堂の手牌が好調だ。
タンピン三色が狙えそうである。
3巡目でこの手牌ならば余裕で上がりがとれるだろう。
今の蒲原が相手でなければ。
(・・・・・・この局の宣言は5・・・・・・なら4巡目の彼女は・・・・・・!)
久が視線を向けると、蒲原はそれに応えるようにニッと笑って返した。
「リーチ」
(やっぱり・・・・・・!)
蒲原捨牌
{1東③} {
「な・・・・・・何なんですの!? あの女は!!」
控室で思わず透華も声をあげていた。
「さっきから無駄ヅモがまったくありません・・・・・・」
「それにごっそり8を固めた手牌・・・・・・な、
智紀と純も顔をしかめる。
まさか、と互いに顔を合わせた。
彼女は、衣に匹敵する化け物なのかと。
久手牌
{一一二二六七[⑤]⑨67南白白} {
(・・・・・・このまま彼女に手番を回したらツモられる、そう思っておいていいはず・・・・・・。
なら・・・・・・!)
久はチラッと文堂と一に視線を送る。
二人ともそれに気付いたようだ。
(確証は無いけど・・・・・・この辺とか、どう?)
久は{二}を手牌から抜き出した。
「・・・・・・あれ? 清澄の竹井選手、ここで{二}切りですか?」
アナウンサーが首を傾げる。
対して靖子はふむと頷く。
「本来なら{⑨}を切って手を進めるべきだが・・・・・・ここ数局の鶴賀の打ち方を見ていると、また一発ツモが起きそうだ。
ならここは・・・・・・有効牌を喰いずらすのが一番と考えたんだろう」
(・・・・・・その牌は・・・・・・!)
「チー!」
久の作戦に文堂も乗った。
これだけ何度も上がられていては、もう偶然などとは言っていられない。
間違い無く喰いずらさなければ上がられる!
文堂手牌
{②③④⑥⑦⑦234西
{西}を切り出す。
ドラの{中}は切り辛いが、{⑤⑥⑦⑧}が引ければタンヤオ三色聴牌。
前半戦と合わせれば4連続になる蒲原の上がりを止める為にも切り捨てなければ。
一方の一。
{四七九②②2355577白} {
手は進まない無駄ヅモ。
だが。
(清澄・・・・・・これは鳴ける?)
{白}を切り出す。
「ポン!」
久もそれに応える。
久手牌
{一一二六七[⑤]⑥⑨67南} {白横白白}
できるだけ蒲原にツモを回さないようにしたい。
{⑨}を切る。
そして直後の文堂。
{②③④⑥⑦⑦234
タンヤオ三色聴牌、しかも三面張!
(よし、これで流れを掴む!)
文堂はドラの{中}を切り出して聴牌にとる。
これで蒲原の流れを止めたいところだ。
そして一。
{四七九②②⑦2355577}
(色々鳴きが入ったけど・・・・・・確かボクがツモるこれが鶴賀の本来の一発ツモ)
スチャッと引いてきたのは{五}。
(・・・・・・ってことは、少なくとも{二}-{五}-{八}のスジは切れないね)
最も今の一の手牌には{二}も{八}も無いのだが。
(それより、振り込んででも風越に上がっておいてもらいたい。
最下位のボクが三位に振り込むっていうのは気が引けるけど・・・・・・)
ちらっと文堂の捨て牌に視線を送る。
(あの鳴きにドラの{中}切り・・・・・・間違いなく喰いタン。
おまけがついても鳴き三色程度。
なら振り込んでも問題無し!)
この辺りならどう?と自分の手に固まっている{5}を捨てる。
が、反応なし。
(そこじゃありません・・・・・・)
(・・・・・・外れか・・・・・・)
小さくため息をつきつつ、しかし一は集中を切らさない。
(鶴賀のツモは喰い取った。
この手の人は自分のツモに有効牌が偏っている分、喰いずらされるとしばらく上がり牌が引けない。
この隙に風越に
「ツモ」
差し込みができれば・・・・・・え?)
ジャララララと蒲原の手牌が倒された。
(まさか!?)
(喰いずらしても上がるの!?)
{六七八八八⑧⑧⑧66888
「リーヅモタンヤオ三暗刻三色同刻、裏無しで6000オール」
どんどん手が早く、おまけに高くなっていく。
(・・・・・・て、手がつけられない・・・・・・!)
(このまま耐えていればなんとかなるんでしょうか・・・・・・!?)
(ど、どうすれば・・・・・・衣と戦った時にはやられっぱなしだったけど、大会の決勝戦でされるがままってわけには・・・・・・!)
「・・・・・・蒲原の様子はどうだった?」
「・・・・・・大分辛そうでした」
鶴賀の控室でそう話すのはゆみと妹尾。
どうやら休憩時間中に妹尾が蒲原の様子を見に行ったらしい。
「・・・・・・しかしまさか、部長があんな打ち方をする人だとは思いませんでした・・・・・・」
津山の言葉にゆみも頷く。
「私もあんな蒲原は初めて見る・・・・・・」
そして二人は妹尾に向き直った。
「説明してくれるか? 妹尾。
蒲原のあの様子、お前は知っているようだったが・・・・・・。
試合前に言われた「蒲原は髪型を崩すと8が寄って来るんです」だけではさすがに分からん」
「は、はい・・・・・・」
妹尾は水を一口飲み、ゆみの質問に応える。
「・・・・・・私が知っているのはトランプでのゲームでした。
子供の頃は役の強さが良く分からないながらもポーカーとかで遊んでいたんです。
普段は私と対して変わらない智美ちゃんですけど、お風呂上がりとか、自分で髪型を水で崩したりすると、途端に8が寄って来るんです。
ポーカーではフルハウスやフォーカードがバンバン出るし・・・・・・」
ぐっと妹尾はコップを握る手に力を込める。
「・・・・・・だから、麻雀でももしかしてと思っていたんですけど・・・・・・本当にあんなに8が寄ってくるなんて・・・・・・」
「・・・・・・なるほど」
オカルトに理解のあるゆみは、妹尾の言葉をわりとあっさり信じた。
「しかし、ならば何故普段からああいう打ち方をしていないんだ?」
「それは・・・・・・多分ですけど・・・・・・」
ごくっと唾を飲み込み、妹尾は言葉を続ける。
「ああやって8を寄せて勝ち続けると、智美ちゃんは突然倒れ込んで眠ってしまうんです。
子供の頃はただ遊び疲れてただけだろうと思ってたんですけど・・・・・・多分、それだけ体力を消耗してしまうんです」
「・・・・・・あの打ち方はそれだけ無茶をしているという事か?」
「はい、多分・・・・・・」
妹尾の言葉に、ゆみはモニター越しに蒲原に視線を向けながら考え込む。
もし妹尾の言った通りだとしたら、そして今までの打ち方を見る限り、ここで大きくリードを取る事ができそうだ。
だが、それよりも。
(・・・・・・私はお前が心配だぞ、蒲原・・・・・・)
無茶はするな、とゆみは小さく祈った。
鶴賀 135800
清澄 95800
風越 85200
龍門 83200
『鶴賀学園蒲原智美!
ついに二位の清澄に4万点差をつけていよいよ独走態勢!
このまま突っ走るのか!? それとも3校が協力して流れを止め、引き摺り落とすことができるのか!?』
アナウンサーの言葉は会場の蒲原達には聞こえていないのだが、蒲原はそれを受けたかのように笑い、100点棒を一本積んで賽を回す。
東一局1本場 親・蒲原 ドラ{三}
配牌
蒲原 {七八八八④⑧⑧⑧6788北} {發}
久 {
文堂 {一
一 {①③⑨5[5]79白白發發中中}
「お、おお?」
風越の控室、配牌が映されたところで池田が画面にへばりつく。
「鶴賀が相変わらずふざけた手牌だけど、文堂も龍門渕も高くなりそうですね!」
バッと振り向きながら美穂子にそう言うと、美穂子も笑顔を返す。
「歪みが出て来たようね」
「歪み?」
「・・・・・・華菜ちゃん、とりあえず座って」
未春の言葉に「あ、うん」と席に座る池田。
「で、キャプテン、歪みって何ですか?」
池田がそう聞くと美穂子は水を一口飲み、説明を始める。
「鶴賀のあの連荘、あんな流れが一人に偏ることは普通あり得ない、どこか自然の流れに反した無理が生じてるってことよ。
配牌にしろツモにしろね。
その歪みが大きくなってくると・・・・・・」
「あんな風に他の人にも手が入ると」
「そういうこと、よくできました」
にこっと笑いかけると照れたように笑う池田。
「つまり、ピンチなだけじゃなくてチャンスも来るってことですね、今みたいに」
未春の言葉にも美穂子は頷く。
「よーし、頑張れ! 文堂!」
風越の控室から応援の声が上がる。
美穂子も応援の声をあげるが・・・・・・しかし、その心の内では不安が渦巻いていた。
部員の手前不安を表に出すわけにはいかないと押さえているのだ。
(もし・・・・・・)
ごくっと唾を飲み込む。
(もし周りにこれだけの歪みを起こしながらも、構わずにひたすら上がりが続くようなら・・・・・・)
それは正真正銘、とてつもない化け物だ。
そして蒲原のここまでの上がりを見ていると、彼女がその化け物に該当する可能性は十分にある。
もしそうなら、少なくともこの中堅戦は鶴賀の圧勝で終わる。
「・・・・・・頑張って、文堂さん・・・・・・!」
控室の彼女たちには応援することしかできなかった。
「4」
東一局1本場、蒲原はまず{北}を切り出した。
続く久は有効牌とは言えない{①}ツモ。
可能性は低いが四風連打を期待して同じく{北}を切り出す。
そして文堂。
{一
有効牌だ、このまま一気に突っ走りたい。
ならば字牌の{白}は不要、とそれを切り捨てる。
同時に一から声が上がった。
「ポン」
カシャッと{白}を晒して{⑨}を切り出す。
(第一打から{白}ポン?)
もしかして、と久の直感が働き、牌をツモろうとしていた蒲原を止める。
「ごめんなさい、{⑨}ポンするわ」
「え、{⑨}ポンですか?」
アナウンサーが理解できないと言った表情で靖子に目を向ける。
「・・・・・・おそらく、龍門渕の手牌がいい事を察してこの局はフォローに回るつもりなんだろう。
今は鶴賀の連荘を止めるのが最優先だからな」
「な、なるほど」
アナウンサーは納得したようで再び対局に意識を向ける。
一方靖子は小さくため息をついた。
そして。
(・・・・・・2位とは言え1巡目からあっさりと自分の手を捨ててフォローに回るか、久・・・・・・。
思い切りのいい打ち手になったな)
小さく、嬉しそうに笑った。
(・・・・・・龍門渕も清澄も第一打からポン・・・・・・)
二人とも手がいいのか、と文堂は牌をツモる。
引いて来たのは{中}。
不要牌、とあっさり切った。
途端。
「ポン!」
(えっ?)
一が再び手牌を晒した。
({白}と{中}ポン?
まさか・・・・・・!)
小三元もある?と文堂が一に視線を向ける。
その通り、一の手牌には既に{發}が二枚ある。
一手牌
{①③5[5]79發發} {横中中中横白白白}
(・・・・・・鶴賀、今回も8を固めてるんだとしたら{789}の面子は諦めた方がいい)
ここから一は{9}を切り出す。
そしてようやく蒲原の第一ツモ。
{七八八八④⑧⑧⑧6788發} {
「藤田プロ、蒲原選手はここから{發}を捨てると思いますか?」
アナウンサーの言葉に靖子は少しばかり考える。
「・・・・・・私に限らず、この状況では誰も{發}を捨てないだろう。
だが・・・・・・もし自分に流れがある事を信じ、「{發}が揃っているわけがない」と高をくくれば・・・・・・切る者もいるかもしれない」
「・・・・・・もしそうなったら・・・・・・」
「ああ、えらいことになるぞ」
責任払いありのこのルール、ここで蒲原が{發}を切って一が鳴けば
それを知ってか知らずか、蒲原は{發}に手をかけた。
「まさか切るのか・・・・・・!?」
靖子が身を乗り出す。
包となれば他の誰かが一に振り込んでも、その人物と蒲原の折半、つまり16000ずつの払い。
一がツモれば32000丸々蒲原が支払うことになる。
それだけのリスクがあるというのに・・・・・・切るというのか!?
そのリスクを知った上でか、蒲原はいつものようにワハハーと笑いながら、
{發}を手放した。
(・・・・・・自分にだけ流れがあると調子に乗ったね?)
この局で仕留める!と一は当然{發}を晒す。
「ポン!」
{白、發、中}、全てが一の元で晒された。
『だ、大三元! 包確定!!
とんでもないことになりましたー!!
これで国広選手が誰から上がっても蒲原選手は16000の支払い!
もし国広選手がツモれば役満32000の支払いは、全て蒲原選手が負う事になります!!』
アナウンサーの一言で会場中が盛り上がる。
当然モニター越しに対局を見ている控室のメンバーも。
だが一部、不安を隠せない者達もいる。
普段から衣の対局を見ている龍門渕のメンバーとか、風越のキャプテンとか、今しがた解説をした靖子とか。
もっとも。
「な、何をしている蒲原!? いくらなんでもそれはやり過ぎだ! 流れを逃すぞ!?」
画面越しに声を荒げるゆみは逆の意味で盛り上がっており、
「落ち着いてください、ゆみさん」
それを宥める妹尾は蒲原の事を信じているようだった。
「し、しかし・・・・・・」
「大丈夫です」
妹尾はお茶を一口飲むと、声を荒げるゆみに笑顔で告げた。
「智美ちゃんは絶対負けません」
「・・・・・・」
そう言われてはゆみとしてもいつまでも騒いでいるわけにはいかない。
深呼吸をして息を整えるとソファーに座り直した。
「・・・・・・頑張れよ、蒲原」
その様子を見て妹尾はクスッと笑う。
湯呑を持つその手が震えている事を誤魔化すように。
(大丈夫だよね? 智美ちゃん・・・・・・。
絶対勝って帰ってくるよね?
だから・・・・・・)
だから
(・・・・・・無事に戻ってきてよね・・・・・・?)
ぎゅっと、湯呑を持つ手に力が入った。
大三元の責任払い確定。
にもかかわらず、蒲原の様子は変わらなかった。
いつものようにワハハと笑い、牌をツモってくる。
そしてツモったのは。
「・・・・・・カン」
手牌に3つある{⑧}だった。
(この状況で呑気に暗カン?)
(ドラでも増やそうってのかしら?)
一も久も怪訝な表情でそれを見ている。
新ドラ表示牌は{③}。
そしてツモってきた嶺上牌は・・・・・・。
{六七八八八
「わっはっは、リーチ」
新ドラ{④}を捨ててリーチをかける蒲原。
{發}が鳴かれて捨て牌は少ないが、間違いなく3つ目の捨て牌だ。
久手牌
{二
(宣言通りの4巡目上がり・・・・・・阻止しないと!)
だが久の手牌に{④}を喰いずらせる牌は無い。
仕方ないとツモった牌は{9}。
そして{③}を取り出す。
(この辺・・・・・・鳴ける?)
文堂手牌
{一一
(鳴いた後がきついけど、喰いずらさないと一発ツモかもしれない・・・・・・!)
「チー!」
{④[⑤]}と晒して{①}を切る。
(後は龍門渕がツモってくれれば・・・・・・!)
一がツモれば他の誰も損害が無く蒲原だけから点数を削れる。
できればそうなって欲しい。
が。
一手牌
{①③5[5]} {發發横發横中中中横白白白} {
一のツモは{二}。
(くっ・・・・・・)
そのままツモ切りした。
そしてその{二}も誰も鳴けない。
ゆらり、と蒲原の手が牌をツモる。
(大三元責任払い・・・・・・折角ここまで来れたのに・・・・・・!)
キッと一は歯を鳴らしてしまう。
もしも、大三元を確定させたのが自分の流れに自信を持っていたからというだけではなく、
希望から絶望に落とすことで心にダメージを与えようとか、
もし、
誰が何をしようと絶対にこの上がりが約束されていると思っての行動だとしたら。
全国有象無象の化け物達の、さらに一歩上を行くような
怪物!
「ツモ」
{六七八八八■⑧⑧■67888
「リーヅモタンヤオ」
そして裏ドラ表示牌。
1つ目は{9}、ドラの{1}は手牌に無し。
そしてもう一枚。
現れたのは
{⑦}
つまりこの手。
「裏4、6000オールと1本場」
二連続で跳満ツモである。
鶴賀 154100
清澄 89700
風越 79100
龍門 77100
この上がりで、卓上に絶望感が立ち込めて来た。
(くっ・・・・・・どうやって戦えば・・・・・・)
(キャプテン・・・・・・わ、私じゃどうやっても無理です!)
(こんなの・・・・・・衣でもなきゃ止められないよ!)
『何と言うことでしょう!
鶴賀学園蒲原! この上がりで2位の清澄におよそ65000点の差をつけて完全独走態勢!
しかもまだ中堅戦後半始まったばかりの東一局!!
このまま差はどこまで広がってしまうのかー!?』
アナウンサーの言葉に他のメンバーや見学者の間にも、鶴賀の圧倒的勝利の予感が浮かぶ。
そんな空気のまま続く東一局2本場。
東一局2本場 親・蒲原 ドラ{4}
久手牌
{三五[五]六⑤[⑤]⑥⑥⑦
配牌は好調。
だが今までの流れから言ってまた蒲原に先を取られてしまうのか。
こんないい配牌を受け取れることなんてそうそう無いというのに。
(・・・・・・あれ?)
と、{9}を切り出してふと蒲原の方を見る。
(今までの流れなら彼女はこの局は3巡上がり・・・・・・。
・・・・・・今、「3」って宣言したかしら?)
聞き逃した?と様子を見ていると、2巡目の蒲原。
「・・・・・・ふぅ・・・・・・」
ポタリと額から水が垂れる。
まだ髪が濡れているのか、と思いきや。
(・・・・・・なんか、顔色が良くないわね)
最初に対峙した時と比べて、それどころか後半戦始まった時から思い返してみても明らかに顔色が青い。
と言う事は・・・・・・その水滴は汗?
何か無理をしながら打っているの?
そんな久を尻目に、蒲原は手牌から{白}を切り出す。
「・・・・・・え?」
「ん? どうしたー? 清澄のツモ番だよー」
「え、ええ・・・・・・」
{三五[五]六④⑤[⑤]⑥⑥⑦
このツモで久は早くも聴牌。
だが・・・・・・。
(・・・・・・彼女、2巡目なのにリーチ宣言しなかった・・・・・・?
まだ聴牌してないの? それとも・・・・・・黙テン?)
少し様子見してみよう、と久は聴牌を崩して{西}を切り出す。
同巡、文堂と一が揃って{中}を切り出した。
その後、蒲原が{三}をツモる。
その様子を見ていたアナウンサーや見学者達からざわめきが上がったのを、同卓のメンバーは知らない。
「・・・・・・か、蒲原選手、手牌に{中}が2枚あるのに折角出て来た{中}を2枚ともスルーしましたね・・・・・・?」
「ああ、あれだけの流れがあったのに突然配牌が落ちる・・・・・・いや、そもそも彼女はこの局上がる気が無いようだ」
アナウンサーの言葉に答える靖子。
「そろそろ息切れしたのか、それとも他に何か理由があるのか・・・・・・」
「ね、狙いは分かりませんが、これは他の3人にとってチャンスと見ていいでしょうか?」
「ああ、千載一遇のチャンスだろうな。
後は、それにどれだけ早く気づくかだ」
もっとも、と靖子は久に視線を向ける。
(・・・・・・久はもう気付いてるか・・・・・・ここで上がっておけば後に繋がる。
頑張れよ)
フッと笑いつつ、心の中で応援していた。
それから数巡、無駄ヅモはあったものの久は再び聴牌にこじつけていた。
{三四五[五]六①④⑤[⑤]⑥⑥⑦
(蒲原さんにはペースを乱されっぱなしだったけど、ようやく来たようね。
さ、一丁私らしく行きますか!)
「リーチ!」
{①}を切り出し、久はリーチを宣言する。
「清澄の竹井久、手変わりを待たずにここでリーチ!
待ちは中張牌のドラ単騎!
しかも他家の手牌にはまだドラが無い!
つまり残りはまだ全て山に眠っているー!」
「まぁ、全員ツモれば手牌に残る様な形だがな」
ロン上がりが期待できるかは微妙なところ。
だがツモは十分狙えるだろう。
ましてや万が一蒲原から出たら。
(この局で少しでも点差を縮めておかないとね)
だが、蒲原の異変に気づいて上がりを狙っているのは久だけではない。
もしや、と思いつつ手を進めていたのは一も同じ。
そして次巡。
一手牌
{二二七八九②④[⑤]⑥⑦⑧⑨3} {
(清澄はまた悪待ち?
捨て牌からは分からないけど・・・・・・でもこっちも引くような手じゃない!)
「リーチ!」
一も引かずに突っ込む。
単純なめくり合い、こうなると久は不利だ。
だが。
(負けないわよ?)
クスッと笑う。
(こっちだって!)
一も笑い返した。
それからまた数巡後。
蒲原の手牌から上がり牌が零れた。
「ロン!」
彼女は手牌を倒す。
{二二七八九②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨} {
リーチ合戦を制したのは一。
「リーチ平和一通赤、裏ドラ一つで12600!」
久はリーチ棒分だけマイナス。
この上がりで一が2位浮上となった。
「一がやりましたわ!」
わぁっ!と喜ぶのは控室の透華だ。
「二位浮上・・・・・・まぁ、一安心だな」
純もほっと一息つく。
「あれだけの流れだった鶴賀を狙い打ち!
となればこの後は一の独壇場に違いありませんわ!」
おーっほっほっと笑う透華に、ははっとため息をつく純。
デジタルの言葉としてどうなんだそれは、と。
「・・・・・・やはりさっきの上がりは無理があったんだ」
ゆみが控室で表情を歪める。
「まずいぞ、このままだと蒲原は落とされる・・・・・・!」
「これだけの点差でもですか?」
「麻雀というのは何が起こるか分からないからな」
津山の言葉に頷くゆみ。
実際役満直撃でも無ければ逆転できないような点差を逆転された、なんて話も麻雀界には多々ある。
ましてやまだ東場なのだ。
(・・・・・・頼むぞ、蒲原・・・・・・!
もう少しだけ耐えてくれ・・・・・・!)
ゆみは祈るように蒲原を応援する。
東二局0本場 親・久 ドラ{8}
久 88700
{七七九③⑤[⑤]⑥⑦⑨245北} {白} {北}切り
文堂 79100
{三六六七九九⑧12269北} {
一 90700
{一三四五②④⑥⑦⑨799白} {
配牌と第一ツモを見て、全員が揃って同じ感想を抱く。
さっきの局を境に配牌が普段通りになったな、と。
(どんな強者でも圧倒的な流れは長く続かないってことかしら)
久はチラッと蒲原を見ながらそう思う。
連荘を終えた蒲原、再び先程のような上がりができるようになるには何局かかるか。
一つ気がかりなのは。
(・・・・・・ドラが{8}・・・・・・)
しかし、汗だか水滴だかわからないがポタポタと額から垂れ流している姿は本調子には見えない。
(いえ、気のせいね、きっと)
心配し過ぎだ、と久は自分の手牌に向き直る。
その不安は、蒲原の第一ツモが彼女の手牌に収まると同時に
「3」
急激に湧きあがった。
ゾワッ!と周囲の空気が凍ったかのような感覚!
「っ!!」
ガタッと席から立ち上がってしまったのは一。
「んー?」
蒲原が首を傾げるが、青い顔でその顔を見るしかできない。
「わっはっはー、まぁ落ち着きなって」
そう言いながら蒲原は{西}を切り出す。
一は自分の身体を抑えながら席に座り直す。
震えているようだ。
(こ、こんなの・・・・・・こんなの無理!
満月の衣と同じ・・・・・・下手したらそれ以上!!
ボクじゃ相手にならないよ!!)
久も牌をツモりながら蒲原の様子を見る。
(・・・・・・嘘、でしょ・・・・・・?)
久の額からも汗が落ちる。
(まさか・・・・・・嵐の前の静けさとかいうけど・・・・・・一息ついたとかそんな感じ?
止めてよそんなの! せっかくチャンスが来たと思ったのに龍門渕に逆転されて終わりなんて!)
なんとか、何とかもう一度チャンスを!と願いながらツモったのは不要牌の{南}。
ツモ切りするしかない。
続いて文堂。
{三六六七七九九⑧12269} {
不要牌は{9}、もしくは{⑧}。
チラッと蒲原に視線を向ける。
(先程の局を見る限りもう鶴賀に勢いは無い。
やっぱりキャプテンの言った通り、耐えきりましたよ!)
事もあろうにこの局の3巡目上がり宣言を聞き逃していたようだ。
その上試合中に気を緩めるという最もしてはいけない事をしていた。
文堂の手から{⑧}が零れ落ちる。
パタパタと蒲原の手牌の一部が倒れた。
「カン」
「え?」
{⑧}の大明カン。
自分の目の前の王牌から嶺上牌をツモって手牌に収めると、手から{東}を切り出す。
そして蒲原はカンドラをカシャッとめくる。
現れたのは隣と同じ、{7}。
「「なっ!?」」
一と久から声が上がる。
もし蒲原の手牌に{8}があったら・・・・・・ドラ2? ドラ4? ドラ6?
いや、彼女ならドラ8もあり得る。
(や、止めてよもう・・・・・・こんなの終わったと思ったのに・・・・・・)
(ま、まさか・・・・・・流れはまだ去って無かったんですか!?)
(こんなの無理・・・・・・助けて・・・・・・透華ぁ・・・・・・)
誰も喰いずらせないまま、再び蒲原のツモ番となる。
「ツモ」
宣言通りの3巡目、彼女の手牌は倒された。
{八八④⑤67
「タンヤオドラ8、4000・8000。
8だけに、ね」
『さ、3巡で倍満!! 流れは去っていなかった! 蒲原智美!!
この上がりで二位の龍門渕を相手に7万点差!!
これはもはや親の役満に振らない限り逆転しない圧倒的点差です!!』
鶴賀 157500
龍門 86700
清澄 80700
風越 75100
その圧倒的な強さに驚いていたのは敵校だけでなく、当の鶴賀陣営でも同じだった。
「つ、強い・・・・・・!
ここまで強かったのか! 蒲原!」
「か、勝てますよね? この試合・・・・・・?」
「ああ、もちろんだ!」
ゆみと津山は揃って蒲原の快挙を喜んでいた。
「やれるぞ、ここまで来たら全国に行ける!
なぁ! 妹尾!」
いつになくはしゃいだ様子で妹尾に声をかけるゆみ。
が。
「あ・・・・・・あ・・・・・・あ・・・・・・!」
妹尾は震えながら涙を流していた。
それは喜びの感情とは全く逆。
「どうした妹尾、まだ泣くには・・・・・・」
「・・・・・・二人とも気付いてないんですか・・・・・・?」
「何が・・・・・・?」
顔を見合わせた後画面に向き直るゆみと津山。
そこにはちょうど蒲原が映っていた。
「智美ちゃんの顔・・・・・・真っ青で・・・・・・絶対無理しています!
このまま続けたら・・・・・・智美ちゃんは・・・・・・どうなるか・・・・・・!」
その言葉にはっとする二人。
そして妹尾はガタッと立ち上がった。
「・・・・・・止めなきゃ・・・・・・」
「ま、待て妹尾」
折角のリード、全国出場が視野に入る状況だ。
そこに部外者が会場に入ったりしたら失格になる可能性もある。
妹尾を止めようとゆみが近寄る。
妹尾は涙目でゆみに向き合った。
「・・・・・・ゆみさんは・・・・・・智美ちゃんと勝利と、どっちを取るんですか・・・・・・?」
その言葉と、いつにない妹尾の迫力に思わず後ずさる。
「それは・・・・・・」
言い淀んで視線を外したゆみを無視するように、妹尾は控室のドアに向かう。
「・・・・・・妹尾」
やがてゆみは決意したように妹尾の肩を掴み、告げた。
「分かった、一緒に行こう。
私も、試合より蒲原の方が大事だ」
「・・・・・・はい!」
ガチャッとドアを開けた瞬間、後ろから声がした。
「先輩、私も行くっすよ」
「モモ・・・・・・?」
先程まで完全に気配を消すべく大人しくしていたモモがそこにはいた。
「いいのか? 気配を消しておかなくて・・・・・・」
ゆみの言葉にモモはニコッと笑った。
「私も、部長の方が大事っすから」
「・・・・・・分かった、行こう」
「はいっす」
東三局0本場 親・文堂 ドラ{①}
文堂配牌
{三七七八九③④⑦22西北北} {白}
(・・・・・・油断してました、試合中に気を抜くなんて・・・・・・。
私が親のこの局はツモ上がりされると点数が大幅に削られる・・・・・・なんとかしないと!)
{西}を切り出す文堂。
一手牌
{一六六
(配牌が良くない・・・・・・三元牌が重なれば役を確保しつつ喰いずらせるんだけど・・・・・・)
一先ず{北}を切り出す一。
(問題は鶴賀・・・・・・さっきからカウントが進んで今回は・・・・・・2?)
え、と蒲原の方に視線を向ける。
2巡上がりってことは・・・・・・まさか!?
タン、と{四}が横向きに置かれた。
「わっはっはー、リーチだぞー」
(((ダブルリーチ!?)))
ただでさえ倍満を上がられているのに、ダブリーで一発ツモなんてされたら一体いくらになるか!
絶対に喰いずらさなければ!
だが、久の手牌は{四}を喰いずらせる形になっていない。
久手牌
{一六七
有効牌ではある、がそんな事を言っている場合ではない。
何を切る・・・・・・?
まだ2巡目、他家の有効牌なんて読める状況ではない。
({東}を誰かが鳴いてくれれば役確保もできて便利なんだけど・・・・・・そんな都合のいい状況だなんて楽観視はできない。
それよりやっぱり中張牌を切るべきね)
ならば自分の手牌に多く入っている筒子?
なら{④⑤⑥}辺りが候補、だが。
({⑥⑦⑧⑧⑧と手牌にあっての⑤-⑧}筒待ち、この試合中に何回か見たわ。
そう考えると・・・・・・{⑤}やその上側は切りにくい・・・・・・)
文堂の手牌は
{三七七八九③④⑦22北北白}
この形。
久の手牌から切って鳴かせられるのは{六七②⑤}の四牌。
だが久のこの手牌からその四牌を捨てられる人間が果たしてどれだけいるか。
ましてや振り込みの危険もあるのだ。
くっと唇を噛みながら久は思考を巡らせる。
(・・・・・・私のこの手、普通に進めるなら567のタンヤオ三色・・・・・・。
今までの流れから言って普通に手を進めると私の手にとどまる牌を切る事で喰いずらしてきた。
なら・・・・・・)
567の面子のいずれかを切れば喰いずらせる?
バカな、先程も告げたとおり5から上はあまりに危険、そこを切るわけにはいかない。
ならその下は・・・・・・?
(・・・・・・{②④}?)
どっち? どっちを切れば・・・・・・。
考えに考え、やがて久はスッと牌を抜き出す。
(こっち・・・・・・どう!?)
タン、と切り出した牌は
{②}
「チーです」
{三七七八九⑦22北北白} {横②③④}
カシャッと牌を晒して{白}を切り出す文堂。
(よし!)
これで最悪の事態は脱した。
久としても確証があって{②}を捨てたわけではない。
{④を切って鳴けるのは②③、③⑤、⑤⑥の形、②筒が鳴けるのは①③、③④}の形。
どう考えても{④}を切った方が鳴かれる可能性が高い。
だからこそ、あえて{②}を選んだのだ。
理不尽な状況では理不尽な選択肢こそ活路を見出す術。
悪待ち使いとして不確かすぎる直感だが、結果久は正解を選ぶことができた。
(だから悪待ちを止めることができない、って言うのとはちょっと違うけどね)
さて、そして一の手番。
{一六六
事実上、これで彼女達にできる悪あがきは終わった。
久の手牌には対子が無いので一から鳴くことはできない。
文堂の手牌で対子なのは{七、2、北}。
そのいずれも一の手牌には無い。
一は{白}を切り出し、手牌をパタンと閉じた。
もう、どうしようもない・・・・・・。
「ツモ」
宣言通り、蒲原の上がり。
{八八八⑦⑧⑧⑧⑨77888
「ダブリーツモ三暗刻三色同刻」
そして裏ドラ、もはや当然のように{七}が転がっていた。
「裏3、4000・8000」
もし一発だったら三倍満で6000・12000。
それを考えれば一矢は報いたと言える。
しかし喰いずらしてラス牌の{⑧}と言う事は、もし鳴かなければ安目・・・・・・?
久はチラッと次のツモを覗き見る。
そこにあったのはもう一つの上がり牌の{7}、ではなかった。
「っ!」
声を上げかけて伏せたその牌は
{8}
ならば蒲原は暗カンしただろう。
そしておそらくは嶺上開花。
そうなるとダブリーツモ嶺上開花三暗刻裏3で倍満は確定。
そこからカンドラとカン裏を考えると・・・・・・。
久は自身の心が折れ掛ける気持ち悪さを感じていた。
東四局0本場 親・一 ドラ{九}
一配牌
{三四九①②③④⑥122南北} {白}
(次のカウントは・・・・・・1・・・・・・ん?)
配牌を受け取ったところで、ふと一は首を傾げる。
確かカウント2の時はダブリー。
と言う事はカウント1の時はどうなる・・・・・・?
コト、と{北}を捨てる一。
「1」
次の蒲原のツモ牌、{八}はそのまま蒲原の手牌の横で表に倒されていた。
{二二六七①②③⑧⑧⑧789
「ツモ、8000・16000」
「!?」
「・・・・・・え・・・・・・」
「ち・・・・・・」
『ち、地和だぁー!?
何と言うことでしょう! この県大会決勝中堅戦!
なんと地和が炸裂しましたー!!!』
鶴賀 205500
清澄 68700
龍門 66700
風越 59100
ガシャッと音がする。
視線を向けると、牌山の上に倒れ込む一の姿があった。
「あっ・・・・・・う、ぐ・・・・・・!」
「だ、大丈夫ですか?」
文堂が肩に手を当てると、一はすぐに起き上がる。
が、その顔色は真っ青で震えは尋常ではない。
はぁー、はぁーと息を乱しながら蒲原の方を見ていた。
(無理! 無理無理無理無理! 絶対無理!
もう無理・・・・・・逃げたいよ・・・・・・)
ポロポロと涙も流れ出す。
文堂も気持ちが分かるのだろう、何も言わずにその背中をさすってあげた。
「・・・・・・ふぅ・・・・・・」
一息ついて、ジャラジャラと蒲原が牌を卓に流し込み始める。
一は震える手でそれに続いた。
文堂と久もそれに続く。
そして、新たな山が現れる。
南一局0本場 親・蒲原
カチャカチャと配牌を受け取っていく一同。
だがその手はおぼつかない。
特に一は何度も配牌をこぼし、拾い直した。
久も配牌こそ綺麗に受け取るものの、そこから牌を起こして理牌する気が起きない。
(・・・・・・この配牌、見る意味はあるのかしら・・・・・・?)
もはや蒲原に視線を送る気も起きない。
(彼女の親番、そしてカウントは・・・・・・)
「0」
ワハハーと疲れた笑いを浮かべながら。
「ダブルは無しのルールだったねぇ」
パタリ、と手牌が倒れた。
{八八八②②②⑧⑧⑧5588横8}
「ツモ、16000オール」
鶴賀 253500
清澄 52700
龍門 50700
風越 43100
もはやアナウンサーも含めて全員が言葉を失っていた。
「うっ!」
ガシャン!と身体が卓に倒れ込んだ。
「え?」
全員が揃って彼女を見る。
いや、ただでさえ天和で彼女に視線は行っていたのだが。
「ど、どうしたの?」
久が蒲原の肩に手をかける。
スッと身体を起こした蒲原は、口元に手を当てて震えていた。
その顔色は悪いなどと言うレベルではない、血の気が完全に引いて真っ白と言うレベルだった。
「だ、大丈夫!?」
久の言葉に蒲原はガタンと椅子に寄り掛かるように起き上がる。
「・・・・・・カウントダウン・・・・・・完走・・・・・・ワハハー・・・・・・」
そのままずるっと椅子から身体が滑り落ちる。
同時に、ガタンと会場のドアが開かれる。
「智美ちゃん!」
「蒲原!」
妹尾とゆみ、後ろからは津山とモモもついてくる。
「は、はは・・・・・・みんな・・・・・・」
彼女達の方に手を伸ばしながら、蒲原の身体は床に倒れて行った。
「智美ちゃん!」
「蒲原! 蒲原ぁ!!」
あぁ、まだ試合の途中なのに・・・・・・。
そのまま蒲原の目の前は真っ暗になった。
「蒲原」
それでもまだゆみの声は聞こえる。
「蒲原!」
ごめん、ゆみちん。
でも私頑張ったから、もうちょっとだけ寝かせて・・・・・・
「かーんーばーらー!!」
バチンと頭を叩かれて蒲原は身体を起こした。
「・・・・・・なんだよもー、ゆみちん。
叩くこと無いだろー?」
頭をさすりながら起き上がった蒲原にゆみはため息交じりに告げる。
「さっさと起きろ。
妹尾は戻ってきたし、もうお前の出番だぞ」
その言葉にぱちくりと瞬きをする。
周囲を見回すと、そこは鶴賀の控室。
「・・・・・・あれー? 寝てた?」
「ああ、ずいぶんぐっすりとな」
ありゃりゃー、と蒲原は頭を掻きながら立ち上がる。
「・・・・・・ん、分かった行ってくる」
「大丈夫か? 寝ぼけてそうだが」
「平気平気、撃ち落とせばいいんだろー、風越を」
そう言ってワハハーと笑う蒲原に、ゆみは盛大にため息をついた。
「・・・・・・目標が高いのはいいが、相当寝ぼけてるな」
「ん? え? 何?」
首を傾げる蒲原に、津山が対戦表を差し出す。
「対戦相手は玄蕃山、若槻、裾花です。
風越とは決勝まで当たりませんけど・・・・・・」
「・・・・・・ワハハー、まだ一回戦だったかー」
ふらふらとしながら蒲原は控室のドアに手をかけ、ため息をつく。
「・・・・・・なんだ、夢か・・・・・・」
ワハハなら夢落ちでも許されると思った。
後悔も反省もしていない(
阿知賀編の照さん読み直したら笑ってしまった。
制限はあるみたいだけど代償なしでこのワハハクラスの稼ぎとは。