とある無能力者の絶対能力   作:ノナノナ

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位相と現世で

 

 四人のsister’sは、ほぼ同時に部屋を出た。

 四人とも、それぞれ常盤台中学の制服に暗視ゴーグルを装着し、ミサカフルブーストを展開している。

 「「これより、ミサカは完全戦闘態勢に移行します。と宣言します」」

 先に動いたのはsister’sの方だった。廊下では攻撃の軸線が一方通行となり、火箭を集中しやすい代わりに遮蔽物もなく、攻撃を受けた場合四人もろとも被害を被ってしまう。まず一定の広さがありソファーや柱など身を隠せるものがある、ナースステーションに隣接した病棟ロビーに移動した。そこで散開する。対象の火力が不明の場合は陣地確保の上で多方向からの一斉攻撃がセオリーだ。

 

 Sister’sの他には入院患者が居ないこのフロアーは、ナースステーションにも人はおらず明かりを落としたまま。お互いアイキャッチも交わさず、各々がひたひたと近付いてくる暗い廊下の向こうに対峙する。

 緑色の二つの光が闇に浮かぶ。

 十分にひきつけたところで、一斉にトリガーを引く。

 アサルトライフル、荷電粒子ドライブ、グレネードランチャー自動小銃、PWW。電撃が闇を切り裂き無数の火箭が飛ぶ。

 みるみる減るバッテリー残量と弾数。しかしためらいはない。たっぷり一分撃ち続ける。何故ならこの攻撃に効果が無い場合、逃げるほかに手が無いのだから。尤も相手が逃がしてくれる手合いだったらの話だが。

 フロアーを廃墟にして攻撃は止んだ。もうもうと立ち込める硝煙。

 相手からの攻撃は、無い。硝煙の中に、緑の瞳もない。

 撃破したか、の矢先。

 柱の陰から攻撃していた10039号が悲痛な声を上げる。他のsister’sが振り返ると、10039号が少女に腕を摑まれれ宙に持ち上げられていた。自重で10039号の腕は危険な方向に曲がっている。痛みに右手に持っていた銃が落ちる。

 ぺきぺきと上腕骨が悲鳴を上げ、苦悶な表情の10039号。

 

 「アンタ達がお人形かイ。イケナイネエ。いきなりこんナ物騒なもんヲぶっ放すなんテ。女の子ガ持つモンじゃないヨ」

 死人の肌色をした少女は、闇の中から切り取られて現れたようだった。

 小柄な、自分たちとさほど変わらない背格好の少女が、軽々と10039号を持ち上げている。そして無造作に、彼女の腕を摑んだまま身体を振り回した。

 10039号の腕はあり得ない方向に捩じれ、身体が宙を飛んだ。少女の手に左腕を残したまま。

 壁に激突し、床に落ちて、失った腕の激痛に耐える10039号。みるみる制服の左腕の付け根部分が赤く染まっていく。その上半身が血溜まりに沈んでいく。

 彼女達に、左脚を引き千切られたあの時がフラッシュバックする。あの時と同じ圧倒的な暴虐。

 傷付いた10039号の姿に10032号と13577号は突進する。しかし、相手の片手一振りで、木端のように薙ぎ払われてしまう。その衝撃のまま柱に壁に、したたかに体を打ち付けて気を失う二人。

 19090号は、動けなかった。

 同じsister’sである10039号の惨状を見て、9982号の姿と重なり身が竦んでしまった。

「おや、このお人形ハ一寸違うみたいねエ。」

 へたり込み自分を見つめるばかりの彼女に気付いて、死人色の少女が近付く。はじめて上条当麻と(その他大勢のsister’sと共に)会ったときの呟き(タスケテ…)は言葉にならず、あ、ああ…あ、と声が震えるばかり。

 「面白いねエ・・・リンクを同調シ記憶を共有してる筈ノ同位体ガ、違った反応ねエ・・・。どういう『自分だけの現実』なのか、味あわせてくれないかイ――」

 死人色の身体から、闇よりも濃い霧が吹き出し19090号を包み込む。

 

 

 闇の中のゾンビ魔神の声をあとに、様々な世界が去来した。

 幼い日の公園。自分に手を差し伸べてくれた友達が(あの頃はァ、俺にも友達てェのが居たンだなァ)反射に弾かれ怪我をした。それが初めて能力が発現した時のこと。

 能力の調整がまだ効かなかった頃、気が付くと学園都市の軍隊に取り囲まれていた時の光景。

 第一位というレッテルを貼られ、次から次へと一方的な挑戦を仕掛けられて来たあの時期。

 

 どこでも一方通行は血塗れだった。

 

「今更、思い出なンぞ見せてどうする。ああ判ってンだよ、俺がクソッタレってェ事ぐらい」

 あの時と違うことは、一方通行は相手を殺さなかった。しかし傷付いていくことにはかわりない。過去を見せて、この世界が言いたいことは「お前は居るべきじゃない。居れば誰かが傷つく」ということ。

(ああ俺は鬼子さ。親からも生まれて来るべきじゃなかったと思われてる存在だって事は今更なんだよ。でも、今は居なきゃなんねえ事がある・・・)

 

 気が付くと一方通行は操車場に居た。

 風のない夜空に掛けた月が出ている。

 「では、第9982次実験を開始します。」

 チャキッという安全装置を外す音と共に、カエルのバッジを常盤台の制服に付けたsister’sがいた。自動小銃を構えて。

 銃口を一方通行に向けて、おもむろに撃つ。

 「なッッ!」

 一方通行は咄嗟に脚にベクトルを掛けて射線を避ける。たとえ幻影でも、反射で彼女を傷つけることは嫌だった。

 そんな一方通行へお構いなしに彼女は銃を連射してくる。

 銃弾に弾ける砂利。ただ縦横に避ける一方通行。

 『只逃げてるだけジャ、埒があかないわヨ。まだまだ人形たちハいっぱい居るンだからねエ。アンタに殺された妹達がネ!』

 虚空から魔神の声がする。

 そしてあとに続いて、sister’s達が現れる。

 

 「第10031次実験を開始します。」

 「第10030次実験の時間が過ぎました。これから――」

 「第10000次実験――」

 「第8963次実験――」

 「第6778次実験――」

 「第982次――」

 「第96次――」

 「第00001次実験開始、私の相手は貴方ですか。」

 

 手に手に、拳銃からメタル・イーターMXまでを携えて。

 そして現れると同時に、容赦なく発砲してくる。

 『因みに。彼女たちハこの世界では現実だかラ、そこンとこヨロシク。それト彼女達ノ体験は、アンタの居た世界ノ人形達にも共有されるわん。どーするン?』

 射線を避けて跳び回っても、次々と現れる妹達の新たな射線に応対するのは困難を極めた。何しろ相手は、学習装置で戦闘を教え込まれた一流のソルジャー達なのだ。

 「ちいっ!!」

 一方通行は苦々しく唇を噛む。

 

 

 アンチスキル第73活動支部が第7学区中央病院前に到着すると同時に、銃撃の音が響いた。

 「部隊展開。第一班は私と共に正面玄関へ、他の班は裏へ回り通用口に。散開!」

 黄泉川愛穂が、下車すると同時に命令を下す。次々と輸送車から降り下知に従う隊員達。しかしその足が止まる。

 隊員たちの前には、異様な雰囲気を放つ少女の姿――。

 「一般人は、危険だから離れるじゃんよ。」

 黄泉川愛穂の言葉に少女の口元が苦笑に歪む。

 「アタシが一般人ニ見える?」

 ――隊員たちの前で爆発が起こった。

 

 

「クソゥ、埒があかねェ」

 ハアハアと、一方通行の息が上がっている。肉体的な運動量は大したことない。しかし妹達を傷付けまいとするのには骨が折れる。反射も使った。が、彼女らとは別方向にベクトルを調整する。飛んで来る弾丸を寸前で静止させる。ただでさえ自分が手を掛けた彼女たちを前にして、神経がゴリゴリと摩り下ろされていく感覚だ。

 この時空に時間があればの話だが、チョーカーの使用時間はとうに過ぎていた。しかしベクトル操作の能力は使える。という事は、魔神の言う通りこの位相空間でもMNWは繋がっている。

 「俺が彼女を傷付ければ、そのまま妹達が傷つくって訳か――」

 勿論、打ち止めも。

 「このままじゃァ、やがて限界がきて演算を誤っちまう。アイツを傷付ける位ならイッソウ・・・」

 一方通行の手が首元のスイッチに伸びる。

 

 「ちょおおおおッッ、待った待った!/return――」

 頭の中の叫び声に、チョーカーに触れ掛けた手が止まる。

 それは人的資源(アジテートハレーション)で。デンマークの雪原で聞いた声。

 

 「ストップ!スト――ップ!!

  なんでこう自死を選ぶかなあ。アイツといいアンタといい…/backspace」

 はぁと息を吐く声。

 「いいっ! なんでミサカ達が10031体なの?/return

 みんなアンタが殺したミサカじゃないの!/Enter

 死んだミサカは死んだミサカ達のもの。

 この世界で生き返ってるにしても、それはアンタにきっちり殺されたミサカじゃない事は、アンタにだって判ってるでしょ/Enter」

 MNWの中に潜むミサカ。――総体。

「この世界でアンタが死ねば、私たちの世界でも一方通行は死ぬ。

 だって一方通行はたった一人しかいないんだから。/backspace

 死んだミサカ達に殺されるって事は、いまを生きてるミサカにとって、打ち止めにとっても自分が殺したことになるのよ! アンタはそんな十字架をあの子たちに背負わせた いわけ?/return」

「少しはマシしなっかかと思ったけど、本――当に、進歩が無いわね!」

 もう誰も死なせたくない? 自己犠牲? なんでヒーローは安易な道を選んじゃうんだろ/backspace

 『あの人はとっても弱いんだよ。人を傷付けまいとして、自分はボロボロに傷ついて。だから今度はミサカがあの人を守ってあげる番!』以上、とっても有難い末っ子の御言葉。

 前にも言ったよね、『上位個体でもなく、悪意を収集した存在でもない…全てのミサカの統合体としての意思!そのミサカネットワークの総体は、一通さんが「安易な怪物」になる事を望んでいない/return

 死者への罪滅ぼしをする為に「怪物」となり、学園都市の闇と戦う――― そんなお前にとって「楽」な方向に進むな。』これを怪物をヒーロー、学園都市を世界と言い換えたっていい/return」

「『怪物』として開発されたお前が『怪物』を目指すなんて、笑い話にもなりゃしない。

 それはお前の得意分野だろう、お前は自分が心の底から辛い方法で『あがけ』って!!!/Enter」

 

 

 19090号を喰らおうとするゾンビ魔神、変調の始まり。

 19090号の身体を黒い暴風が飲み込んだ。

 

 「さアて、お前ノ世界を頂こうかねエ・・・」

 魔神が暴風の中で19090号に近付き、シャンパンゴールドの頭に触れる。その脳を喰らうために。

 ぴりと、19090号の髪の毛から電気が走る。レベル2の微弱な欠陥電気。恐怖に無意識に出たものだ。

 その電気が魔神に流れる。するとゾンビ魔神の脳裏に様々な情景が駆け巡った。

 四人のsister’sたちの他愛もない言い争い。

 紅茶の香り。あの人から貰った初めてのミルクティーの味。夕陽の学園都市の風の匂い。

 そして、リンクで共有しあっている様々なsister’sの思い出。

 10031号が拾った子猫。カエルの缶バッチ。ハートのネックレス。

 ――10031回の死。

 19090号の意識に浮かぶ光景が魔神に流れ込んでいく。死を前にした走馬灯。かつて御坂美琴が木山春生と記憶を共有した時と同じく電気系能力によるものだ。他の魔神にこの醍醐味は解るまい。相手の絶望を見ているだけでなく直接味わうことが出来るのはゾンビとしての特権だ。相手の自分だけの現実(メイン)を奪うこのオードブル(前菜)が堪らない。

 「いいねえ、いいねエ・・・。この街の甘タレ共の走馬灯にハ飽き飽きしてたんダ。どれモ妙に個人視点されてサ。安っぽいメロドラマと違っテ単純でピュア。白鳥の歌ハこうデなくっちゃ――」

 19090号の意識が薄れていく。丁度栓が抜けて水が吸い込まれていくように、思い出がフェイドアウトしていく。

 「――前菜は楽しませてもらったヨ。いよいよメイン料理ヲ頂こうかねえ。」

 頭を鷲摑みにし、薄い唇を獲物を飲み込む蛇のように開ける。

 その時、フェイドアウトした筈の光景に、

 今までとは違った彼女がフラッシュした。

 それは喰らおうとする自分に見えた。二万体どころじゃない無数の何かが一つになったもの。それが、逆に自分を飲み込もうとして――。

 物凄い違和感に襲われ、魔神は19090号から離れた。

 展開していた黒い霧も消えている。

「うえ・・が、げええ・・・」

 猛烈な吐き気を覚えて、床に倒れ込んだ19090号の前で嗚咽を上げるゾンビ魔神。内臓が逆流して口から噴き出すような嘔吐だが、もとより既死者の彼女の胃には何もない。吐き出せないことが更に吐き気を悪化させる。

「MNW?・・・いやAIM拡散・・」

 口を拭い、今のが何だったのかを思うが考えが纏まらない。いや反芻するのも嫌だった。

 「畜生! 何だったンだ今のハ。ドンデモねえもん食べさせようとしやがって・・・」

 忌々しげに、倒れた19090号を見る。

 「止めダ、止めダ。共食いナンテ真っ平御免だヨ!」

 吐き捨てるように言うと、魔神は病院から消えた。

 

 

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