一方通行は唐突に元の世界にいた。いや戻されたというべきか。
ポツンと、入口の非常灯だけが付いている職員用玄関。魔神と対峙していたまでと変わらぬ光景。しかしそこに、あの人外の姿は無い。
「アイツ等!」
ここに奴の姿が無いという事は、既に目的を果たした後だという事。
一方通行は、一気に妹達がいる階まで跳んだ。外から窓を蹴破ってフロアーに入る。
何もかもが滅茶苦茶なラウンジだった。
柱は海綿のようにボロボロに崩れ、壁も天井も床も銃痕で穴だらけ。家具は原型をとどめていない。
その廃墟の中で倒れているsister’sを発見する。四人とも意識が無く、そのうちの一人は腕が無い。
一方通行はその腕を失った妹に駆け寄る。
出血を血流操作で止め、身を抱き起す一方通行。――失血がひどく体が冷たい。
「何があった」と聞くまでもない。奴に遭遇し銃撃戦となったのだ。
一方通行の腕の中で10039号が目を開ける。
「アクセラレータ、来たのですか。・・・ミサカは何もできませんでした。」
「いい。喋ンな」
「私より、あちらのミサカを、お願いします。あのバケモノに直接襲われたのは、あの子ですから・・・」
と言いつつ、力なく19090号を指差す10039号。10039号に言われるまま19090号に近寄る一方通行。
見たところ目立った外傷はない。怪我でいえば10039号の方が重篤だ。しかし様子がおかしかった。目を開いたまま気を失っている。というより、生きているのか死んでいるのか判らない姿。生体電気や血流操作で見る限り確かに息はあるようだ。しかし人形が息をしているような印象。
「やあ、これは!?」
男の声に振り返ると、騒ぎを聞きつけてやって来た、冥土返しの姿。
「いったい・・」と口にしかけて、一方通行の傍らのsister’sを見て仕事の表情になった。他のsister’sも倒れているのだが、彼の歴戦の勘が彼女がいちばん只事で無いと告げていた。
19090号を診る冥土返し。
「ショックによるものか、物理的なものからか、意識だけが無いようだねえ・・・」
「気ィ失ってることぐらい、見りゃ解るンだろ!」
「違うんだね。詳しいことは検査してみないと分からないが・・・」
そこで10032号と13577号も意識を戻した。尋常ならざる相手に幾分ショックが残っている様子。
「気が付いたばかりですまないが、君たちのネットワークに19090号が居るか、検索してみてくれないか」
冥土返しの言葉を図りかねながらも、言われた通り実行する二人。
「19090号のIDにアクセスできますが、ログが確認できません。」
「そのIDにアクセスすると、すべてのミサカに繋がってしまいます。しかし管理用コンソールとも違います。彼女を固定していたものがMNW全体に拡散してしまったかのよう・・・彼女は何処に行ってしまったのですか」
ふたりの言葉に、冥土帰しは一方通行に告げた。
「意識そのものが身体から抜けているようなんだよ。今の彼女は、19090号の姿をした人形なんだね」
下の階から、複数人がこちらにやって来る気配がした。
正面玄関から突入して来たアンチスキルだ。彼女らを彼らに会わせるわけにはいかない。まだ公然と社会に認知できる存在ではないからだ。
「君たちは怪我をしている彼女を治療室まで運んでくれないか。意識のない彼女は下手に動かさない方がいい。状態が不明な以上、外からでは分からない損傷を追っている可能性があるからね。――アンチスキルに運んでもらおう」
彼女らの立場と言っていることが矛盾するが、冥土返しは平然としている。
「まあ、誤魔化しようは幾らでもあるからねえ。それより同じ顔が複数いることと君がここに居ることが問題なんだね。君の大家も困るんじゃないか。『事情の顛末』を報告書に説明しなくちゃならない」
彼女と自分の経緯。それはあの実験からの顛末ということ。冥土返しの誤魔化しは想像がつく。大方19090号をオリジナルに仕立てるつもりなのだろう。そうなると何故一方通行がここにいるかの説明が難しい。襲われた第三位を救うために突然現れた第一位? 少なくとも自分のキャラじゃない。
「いま君がここに居ても、何もしてあげられることはない。」
事実を指摘されて、ぐっと拳を握り締める。
「彼女たちが狙われたという事は、当然上位個体も対象に入っているという事だ。あの子の傍にいてあげなさいアクセラレータ」