「随分ト殺シまくっタじャあないカ。楽シかったンだろ。恐慌ニ晒されタ訳でもなく、血に酔っテ無抵抗ノ者ヲ殺戮する。あるのハ達成感。満足ダったかイ? だガ、殺される立場にニ立って見れバどうだった? 食ウためじゃなく殺ス事が目的なんテ、結構ニンゲンらしいじャないカ。闇雲ニ咬み付き回るのハ『狂犬』、目的デ殺しまくるのハ『人間』だからナ。お前ハ、何で犬の姿デ居る?」
魔犬の一噛みに薄れゆく意識の中で、抵抗する術を持たない羊の『木原脳幹』は魔神の問いかけを聞いた。
「さあ。俺はエセルドレーダ、いや木原脳幹だからと答えとこうか」
あの時の魔犬と同じ答えを、闇に飲み込まれながら呟く。
「お前ハもう、百年以上生きていル。犬でモ無く人間でモ無く、不死に片足ヲ突っ込んデいる存在。犬かラ魔犬、ソして魔人犬、その度ニ死んでイるようナもの。何度モ死んでハ生き返り、ソの度にアレイスターノ『犬』とシて使役されてイる。言ってみれバ、お前もゾンビみたいなものサ。」
何もないのっぺりとした闇に魔神の声が漂う。
「奴とはギブ・アンド・テイクな関係で、特に使役されてる思いは無いんだが」
闇に向かって応える木原脳幹。
「魂ヲ抜カれたゾンビは、ソんな物サ」
肌に纏わりつくような声。
いや纏わりついてくるのは、魔神となった少女の意識。
「ハハハハハハ・・・。ゾンビだったお前ハ、私に『もう終わらせてくれ』と懇願シていたではないカ。私を噛んデ土と還っていく時ノ恍惚とした表情、中々見物だったゾ。それガお前の望みナんだろう」
ぞわりとした悪意が木原脳幹に絡みつく。
そうだ。言葉は悪意だが真実も言っている。
魔犬に噛まれ息絶えるとき、確かに快感を覚えた。もうこれで苦しみから解かれるという安堵感。
ずうっと昔、母親の乳房にしゃぶり付きながら覚えた、あの温もりと同じもの・・・。
「恍惚? まあ死は一つの快感だろうな。生物がその最後に最大の苦役に対処する自己防衛本能だからな。周りが幸せそうな顔で消えていく中で、お前はひどく寂しそうだったが。」
つっ、と闇が舌打ちする感覚が肌を打つ。
「お前は、確かに望まぬまま不死となった。だがそこから魔神となったのはお前の意志。なあ、魔神となった目的は何だったんだ? その望みは達成されたのか?」
木原脳幹の問いかけに返しは無い。
「・・・・・・だろうな。」
静かに静かに、闇は漆黒に沈んでいく。
木原脳幹もパストル・エテルヌスも、時も空間も共に綯い交ぜとなりながら。