とある無能力者の絶対能力   作:ノナノナ

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11月30日

 

 学園都市上空を周回する無人飛行船に、広報のテロップが流れる。

 

 ――11月30日。第23学区から打ち上げられた「おりひめ2号」は無事予定の軌道に。搭載されている次世代型濃淡コンピュータ「ユグドラシル」の運用を開始。ユグドラシルはツリーダイアグラム(樹形図の設計者)の後継機で、演算処理能力は1万倍。今後ツリーダイアグラムはユグドラシルのバックアップとなり――

 

 記事は今日の天気に変わる。

 ――今日の天気、晴れ。16:27~17:44小雨気味。気温13度。北西の風、風力2。15:10"15より西南西の風、風力1――

 

 同様の情報は携帯端末にも提供されている。それは予報というより予定表のようなもの。一時期調子が悪くなり天気予報も大雑把なものになっていたが、ユグドラシル計画が始まってからは以前の調子に戻っている。いや精度は前以上だ。秒単位で"予報"してくる。

 

 それを睨み付けている茶髪の少女――。

 

 ショートヘアと常盤台中学の冬服のスカートが風に靡く。

「機械が決めたことに、人間が従っているからよ」かつてそう言った少女は、同じ思いを飛行船に向けている。

 人間が従う機械が復活したことで、またあの悪夢が再開されるのではという思いがよぎる。

 この街はまだSYSTEM(神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの)を諦めていない。

 

 

 朝8時。第7学区。

 学舎の園にある常盤台中学に、お嬢様たちが続々と登校してくる。

 ベージュの長袖ブレザーに深紅のタイ、チェック柄の入った紺のミニスカート。お揃いの冬服を纏った集団は、ラッシュ時の駅の中でも見分けがつくほど気品爆発しているハイソオーラのインフレーション。格式あるヨーロッパ調の校舎と相まって別次元の空間だ。

 当然、そこで交わされる会話も別世界。

 「お早う御座います、御坂様」

 「御坂様、ご機嫌麗しゅう」

 後輩たちが御坂美琴に挨拶していく。後輩たちだけでなく、クラスメイトや先輩たちからまで。御坂様が御坂さんに変わっただけで同様の挨拶を掛けていく。

 

 御坂美琴は学園都市に7人しかいないレベル5。常盤台に通う彼女らは全員がレベル3以上。そんな中にあって、御坂美琴は飛び抜けた存在。当然周囲の目が違う。もっとも御坂はそんな彼女らに、気さくに「おはよー」とか、先輩には深々とお辞儀して挨拶を返している。レベル5に昇格して2年。自分を見る周囲の目にも先輩にお辞儀している自分にも未だ違和感を覚える御坂ではあったが。

 

 「御坂様、お顔の色がすぐれませんが…」

 そう声を掛けてきた二人の少女。

 

 湾内絹保と泡浮万彬。寮で同室の後輩、白井黒子とクラスメイトの水泳部員。

 湾内絹保はウェーブのかかったライトブラウンでセミショートの髪が特徴の、確か水流操作系のレベル3。以前御坂は不良に絡まれていた彼女を助けたことがある。泡浮万彬は友達の佐天さんを思い出させる黒のロングヘア。流体反発(フロートダイヤル)の能力者で同じくレベル3。二人とも白井黒子を通じて知り合いフェブリをめぐった大切な友人だ。

 

「う、うん。チョット寝不足でね」

心配げに声を掛けて来た後輩に、笑顔を作ってこたえる。

 単なる寝不足という割には、いつもと違いどことなく彼女が無力感を漂わせていることに、二人は??を浮かべる。

 

 「お・ね・え・さ・まー」

 特徴的な甲高い声と一緒に、突然背中に抱きついてくる、赤毛のツインテール。

 いきなりの出現にひっくり返りそうになる御坂美琴。

 常盤台学生寮のルームメイト白井黒子だ。頼れるパートナー(相棒)であることは認めるが、そのスキンシップには毎度のことながらいささか辟易する。

 「あれほど一緒に学校へ行きましょうと、お約束しておりましたのに。先に行ってしまわれるなんて、黒子は、黒子は、」

「ちょっ止めなさいっ。それと、約束してないっ」

 しな垂れ掛かる腕を払おうとしていると、背後から声が掛かった。

 

 「あら御坂さん、白井さん。朝から仲のおよろしいこと」

 「あ、婚后さん」

 「お早うごさいます、婚后様」

 「お早うございます」

 湾内絹保と泡浮万彬も、扇子を手にした流れるような黒髪を持つポニーテールの少女に気付き駆け寄る。

 

 婚后光子。トンデモ発射場ガールと渾名される空力使いのレベル4。

 資格無き者は王族とて容赦なく落とすのが常盤台。その入学試験より難関といわれる編入試験をパスし、年度途中から転校して来た才媛である。

 一見、高慢で見栄っ張りに見えるが、それは彼女の世間知らずからくる誤解。人への気遣いを忘れない真っ直ぐな性格の持ち主。湾内絹保と泡浮万彬もそんな彼女の素直さを慕っている。というか、行動が良い人過ぎてあまりにも危なっかしく、ついつい見過ごせなく付き添っている。御坂も彼女の直裁な一本気は、大覇星祭での一件を通じてよく知っている。

 

 「湾内さん泡浮さん、お早うございます。それと婚后光子」

 声を掛けられた白井黒子は、しな垂れ掛かったデレの姿勢を一瞬で正し、お嬢様ステイタスで挨拶を送る。

 

 「あら白井さん。呼び捨てとは長幼の序という言葉をご存じなくって。」

 手にした扇子で口元を隠しながら、高飛車な態度で返す婚后光子。

 「あら失礼。でも遼東の豕には興味ありませんの」

 「ちょっと、黒子!」

 白井黒子も婚后光子も正義感が人一倍強く純粋なのだが、なぜか二人が出会うとピリピリした空気が漂う。むしろ白井の方が一方的に対抗心を持っている感が無きにしも非ずなのだが。一朝タッグを組むと息の合った連係を取るところを見ると、案外気の合う者同士なのかもしれない。そんな二人の関係を知ってか知らずか、あわあわする御坂と対照的に後輩の湾内と泡浮は苦笑している。

 

 「放課後に、セブンスミストへ行こうと思っているのですが、皆さんご一緒にいかがですか」

 「ああ、ゴメン。私ちょっと野暮用があって」

 「わたくしも放課後には、ジャッジメントの177支部に行かなくてはなりませんの。って、お姉様! 野暮用って何ですの! まさか、あの類人猿と・・・」

 ゴンと鉄拳を見舞い、最後まで言わせない御坂美琴。

 

 「残念ですけど、私も研究所に呼ばれていまして。――そういえば皆さん。何処かピリピリした雰囲気が漂っていますが、何かありまして?」

 婚后光子が扇子で口元を押さえつつ辺りを見渡しながら尋ねる。

 えそう? という顔の御坂美琴。

 

 「それは、能力者狩りのせいではないでしょうか」

 湾内絹保の不安げな言葉。

 「能力者狩り!?」

 思わず食いつく御坂に、マズイという顔の白井黒子。そんな白井をよそに泡浮万彬も続く。

 

 「ええ、このところ多いみたいです。私の知り合いも遭いかけたと聞いていますし。――怖いですわ。能力があっても、ああいった方々の前では身が竦んでしまうというか…」

 大人しげな二人の後輩は身を強張らせる。彼女らもスキルアウトなぞに後れを取らない強能力者(レベル3)なのだが、お嬢様は強面連中に免疫がない。常盤台ではたとえ高位能力者でもこういった反応が普通なのだ。白井黒子や婚后光子のようにはっちゃけている方が珍しい。

 

 「でも、このところ現れている能力者狩りは、今までと違うようなんです。不良の方々ではなく、重装備の部隊だとか…」

 

 ――暗部!――。湾内の話に、御坂美琴は戦慄した。

 

 「一体、何なんでしょう?」

 「怖いですわね」

 「御安心なさい。お友達を襲うような不逞の輩は、この婚后光子が許しませんわ。エアロハンドで成層圏まで吹き飛ばしてあげます!」

 婚后光子が扇子をパチンと叩いて切った啖呵に、まあ、と憧れを込めた眼差しを向ける後輩二人。

 「婚后さん成層圏って、それじゃあ殺人になっちゃうから・・・」

 

 

 婚后光子らと別れて白井と二人きりになった御坂美琴。

 「黒子・・・その話は本当なの?」

 

 「今現在、ジャッジメントに届いている情報も、いまのお話しと同じですわ。たとえあったとしてもこれ以上は申せません。お姉様はあくまで一般人。それ以上の立ち入りは毎度申し上げております通り――」

 「ああ解った解った。毎回毎回、一般人って…で、実際どこまで知ってんのよ!」

 

 白井黒子がやれやれという表情で説明する。

 

 「ええ第177支部にもそのような情報は来ていますわ。詳しくは申せませんが――。でも、実際に『遭った』という証言は取れておりませんの。確かに能力者狩りはあるようですが、その証言はこれまで同様スキルアウトによるものばかり。スキルアウトによる犯行件数はこれまでと変わっていませんの。このところ行方不明になっているという能力者の話がそのようなことにすり替わっているのでは」

 「能力者が行方不明?」

 「急に知り合いが居なくなったから捜索してくれっていう依頼がジャッジメントに来るのですが、バンクを見ても対象者の名前が無いんですの。まあイタズラ電話ですかね」

 あえて迷惑そうな態を取って返す白井黒子。

 

 アンチスキルも手が出せない闇の部隊。その片鱗を8月31日の夜に御坂美琴は遭遇している。そしてこの街の裏側には、暗部と呼ばれる組織が非合法な活動をしているという事も。白井黒子も、革命前夜事件やレムナントの件でこの街に不穏な部分があることに気付いているが、まだそれほど深くは関わっていない。しかし――

 「でも、能力者狩りがあることは事実なのですから、登下校でもお一人でされるのは控えた方がよろしいかと。」

 そう白井黒子は付け加えることを忘れなかった。

 

 

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