とある無能力者の絶対能力   作:ノナノナ

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呪術師

 広大なゴミ集積場には、少女と同じ年ごろの子供たちが、四~五人づつのグループを作ってゴミの山と格闘していた。

 少女の姿を見ると、グループのいくつかが集まって来る。そのグループに手に抱えた食料(青年のお金が化けたもの)を分けている。ここでは、少女はそれなりに人望がある様子だった。

 青年に与えられたのは、ブリキ板で半屋根を差し掛けただけのバラックにもならない一角だった。ここの子供たちも似たような場所で寝泊まりしているようだ。青年は早速、小さな体でガラクタをひっくり返そうとしている所に行っては力を貸す。大きなガラクタを除けてもガラクタがあるだけだったが。

 そこで棄てられたラジオや小さな電気製品を拾い出す。当然壊れていて使い物にならない。中の部品で使えそうなものを集めているようだ。金になるのだろうが不良品も多い。だから買いたたかれる。相手が子供だから余計そうだ。青年は部品の幾つかを組み合わせてテスターを作った。これで歩留まりもずいぶん減るだろう。売りに行く際は青年が一緒について行った。交渉の場に大人が居るのといないのでは大違いだからだ。その日から売り上げは、一気に十倍に増えた。

 青年は使える部品からラジオを作った。鳴らないラジオが使えるのを見て子供たちは目を輝かせる。ただ過酷なだけの労働に潤いが生まれた。

 青年は、部品の見分け方、ラジオの組み立て方を子供たちに教えた。こうした経験が無かった子供たちの飲み込みは、まさに砂に水を撒くように早かった。組み立て直したラジオを市場に持っていくと、部品とは比較にならない値で売れた。ラジオぐらいしか家庭の娯楽がない国だ。プロパガンダしか流れない国内放送だけでなく海外放送が聴ける短波ラジオ。廃物利用だから値段も格安。売れない訳がない。売り上げは、ここの子供たちが三食しっかり食べられまでに膨らんだ。

 そこに、大人たちが乗り込んできた。

 いままでピンハネしていたものを、やりづらくなってきたからだ。子供を相手に取引していた相手だ、当然貧しい。そんな彼らが子供の方が実入りが良くなっているのを見て快く思わない訳がない。

 「誰に断ってシマの物に手ぇ出してるんだ!」

 根拠もクソもない。要するにタカリにきたのだ。

 それに青年は応えてやった。

 「ロイヤルティー払うんだったらウチの商品を扱わせてやる。売値はそちらの自由にするがいい。こちとら自由に売れるんだ。まとまって収入が入るんだったら悪い話じゃないだろう? だけど、誤魔化しは無しだぜ。それと子供たちには今後一切手出ししない事。――お宅らも叩けば埃が出る身の上だろう。」

 幾分の凄みを加えて。

 少女も青年と大人達とのやり取りを見て、交渉の仕方を見よう見まねで学んでいき、足元を見られることが無いようにまでなった。

 ゴミの中に埋まるように暮らしていた子供たちの生活も、みるみる改善されていった。穴倉だった掘っ立て小屋がバラックになり、広場が出来て、小規模ながらもコミュニティーの体裁を整えていった。

 

 そんなある日、青年は少女が毎日ゴミ集積場の外れに出掛けて行くことに気が付いた。手にいくばくかの食べ物を持って。

 始めは少女が家族の所に行っているんだと思った。だがここに集まって居るのは身寄りのない子供たちばかり。じゃあ兄弟か、それなら一緒に暮らさないのはどうした訳なのだろう。いつも一人で出掛けて行くのを見たが、プライベートなことに踏み込まないようにした。

 敢えて訊かなかったし周囲の子供たちにも尋ねなかったが、七歳くらいの子供が高熱を出した。ストリートチルドレンは雑草のように強いと思われがちだが、実は非常に虚弱だ。育ち盛りである筈なのに栄養状態が極端に悪い。しかも衛生状態はこれ以上ないという劣悪な環境だ。一寸した風邪でもたちまち重篤に陥る。たちの悪い感染症の様で持ち合わせの風邪薬では間に合わない。医者に診せなくてはと思ったが、そんな金は無い。

 このままでは三日としないうちにこの子の命は消えるだろう。手をこまねいているしかない青年に、

 「おい、運べ!」

 と少女は言った。何処へと返す余地も無く、少女に言われるまま青年は女の子を背負って後に続いた。行き先はゴミの山を幾つか超えた先、集積場の外れだった。それは彼女が毎日出掛けて行った方向。

 窓のない一件のバラックが立っていて、中に運べと言う。

 強い日差しから暗い中に入り、始めは何も見えなかったが、目が慣れるにつれ室内が見えて来る。無人と思われた中に、まっ黒な人影がひとり。そして香のような匂い。

 「どうしたんだい。いつもより早いじゃないか」

 黒い影から女の声がした。

 「エテルヌス、この子が熱を出した。」

 エテルヌスと呼ばれた女は、熱でぐったりした女の子を、自分の前に横たえるよう促す。

 カーペットに横たえられた女の子が黒い塊のように見え、苦しそうな息遣いが聞こえる。そのまま地面と一緒になってしまうんじゃないかと思えてしまう。

 影の女が屈んで女の子の様子を伺っている気配。

 ――医者? じゃあなさそうだな――

 カランと骨の乾いた音を立てて、手を女の子の胸にかざしている。

 青年は、黒い影の輪郭が滲んだように感じた。周囲が暗いため影と闇の境界がはっきりしないが。

 「――生は常闇、死は常世に――」

 なに言かを呟くと、影から黒が滲みでた。それは闇よりも黒い霧。

 霧が女の子の全身を覆い、カランカランと腕輪が鳴るのと共に、それは急に消えた。

 「さあ、もういいよ。この子に憑りついていた死神は全部喰らった」

 ――シャーマン(民間呪術)。いくら医者に頼れないからって、こんな眉唾にこの子を委ねるだなんて――。

 こんなの死期を早めるだけだ。と青年は思ったが、先程まで苦しげだった女の子の息が、楽そうな寝息に変わっている。

 「有難う。お礼は此処に置いておくから」

 そう言って持ってきたバスケットを前に差し出す。恐らく食べ物のようだ。が、女はやんわりと断った。

 「あたしにゃ不要のものだよ。それより病み上がりのこの子に体力をつけておやり。」

 少女は青年に女の子を運ぶよう頼み、立ち去ろうとした。

 帰り際、女が少女の背に声を掛ける。

 「あとで来な。お前の方がよほど厄介なんだから」

 こくんと頷きドアを開ける。

 強烈な光が室内に入る。その時、青年はカリブの衣装を纏った青灰色の肌を見た。そしてこちらを見ている緑色の瞳を。――印象だが、それは死者を思わせた。

 

 女の子を背負いながら青年は尋ねた。

 「あれがウィッチドクター(呪術医)というやつか。ここいら(カリブ諸国)でボゴと言われる呪い師だっけ、ゾンビを操るっていう。」

 「呪術? ああ飛びっ切りのな。でも違うんだ、彼女はボゴじゃあない。エテルヌスは特別なんだ」

 得意げに答える少女、幾分の憧れを持って。

 背中では女の子が安らかな寝息を立てている。これまでもアフリカで、東南アジアで、あのような呪術医を見たことがある。でもここまで完璧な効果を目の当たりにしたことは無い。大概自己治癒力を高める暗示だったり薬草など民間医療の範中だった。どういうプロセスかは判らないが大した治療者(医師)だ。シャーマンとしての腕も飛びっ切りなんだろう。

 この国の人々は迷信深い。シャーマンは畏敬の対象だが独裁政権にとっては都合が悪い。自分以外の権威を認めるわけにはいかず、この国のシャーマンであるボゴは許可制になっており、それ以外は弾圧の対象だ。それにこの国の指導者はボゴに対する畏敬を利用して自らが最大のボゴを名乗っている。彼に敵対するものはゾンビにされてしまうという。

 「彼女は君の血縁者なのか。姉かなんかの」

 「へ?」

 少女はいきなりの質問に面食らう。

 「だって、君と同じ目をしてただろ。」

 いやいやとかぶりを振る少女。だったらいいのにねーと返すが、親戚でも何でもないらしい。とある縁で彼女と知り合い、あそこに住んでいるとのことだった。何があったかまでは語らなかったが。

 「でも、似たような境遇だから私を助けてくれたのかな」

 彼女も身寄りが無く、シャーマンとしての第一級の腕を活かせる場も無く、行き場のない身の上なのか。

 「帰りしな、彼女が後で来るように言ってたが、お前も病気なのか」

 「・・うん、まあ。そんなもん――」

 言葉を濁して少女は駆けだす。

 「おい、早くしないと御飯抜きだぞー」

 みるみるゴミの山を駆け上っていき、取り残される青年。病み上がりの女の子を背負ったままゴミ山を駆け登るのはきつい。

 「俺に足りないもの。それは体力かな」

 そう呟きながらゴミ山を登る青年だった。

 

 

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