とある無能力者の絶対能力   作:ノナノナ

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行間、続き

 意味も無く血に酔いしれて殺しまくった事は覚えている。エセルドレーダだった頃は、灼けつくような発作に見舞われるたびに殺し回った。兎、羊、牛・・・人間を襲った事もある。相手の断末摩を聞くたびに、最後の息が途切れるヒューという音を聞くと、自分の奥底で騒ぎ立つものが癒された。

「懐かしい昔話を有難う。だが生憎過去には興味は無い。魔神様は未練たらしく過去を引きずっているようだが、私は今の方が面白い。過去の結果が今だ。今を変化させると未来がどういう展開になるのか、その実践と検証の方にワクワクするね」

 流石にいまはあのころのような衝動にかられる事は無い。しかし戦闘に快感を覚える自分は居る。――木原脳幹は、それをロマンと表現した。

 

 「始めノときの『位相』と同じダと思ってモらっちゃ駄目よ。ココがワタシのホームグラウンド。前までのハ煉獄とデも思ってくれレバいいワ」

 のっぺりとした闇に浮かびながら、魔神は宣言した。

 「最初の手合わせは君からだったな。では今度は私から行かせてもらう。」

 そう言うと全装備展開(フルアーマー・オールフリー)した。

 胴から一対のアームが伸び、キュイイイーンと甲高い音を奏でながら膨大なエネルギーがチャージされて、ビームが発射される。それを放ったゴールデンリトリバーの身体より太い閃光がゾンビ魔神に向かって走る。続けざまにミサイルランチャーが撃ち込まれる。

 暗闇を裂き、幾つもの閃光。

 少し間を置いての衝撃波。

 ゴールデンリトリバーを包み込んだ時の核融合とは比べ物にならない火球が出現する。

 放たれたのは列車砲並みの特大超電磁砲。ランチャーもただのミサイルではない。等量物質を全てエネルギーに変換させる反陽子弾だ。

 しかし白熱した陽炎の中で、平然と揺らめく黒い姿。

 『対象健在。被害相当不明。構成物質ハ変性蛋白質ト思ワレルガ不明。unknownト仮称。』

 弟子によく似た合成音声が耳元で囁く。

 駆動鎧の操縦支援行動補助プログラムだ。木原脳幹が操るアンチアートアタッチメント(対魔術式駆動鎧)用に木原唯一が開発したもので、近々その廉価版がアネリという名前で一般の駆動鎧にも導入されるらしい。

 魔神は己を包み込む地獄の業火を、まるで春風でも受け流すかように軽く払う。

 画面をいきなり切り替えたように火球が消え、ゾンビの少女が立っている。消え残った風に三つ編みと腰のパレオが揺れ、腕の骨の輪がカランと乾いた音をたてる。

 『エントロピー比プラスマイナス0、攻撃ハ全テ吸収サレタカ消失シタ模様。空間ハ0次元ノ極点ト近似値ガ見ラレルモ多元的ニ展開サレテイルト推測サレル。物理的ニハ解析不能』

 「まあ魔“神”だからな。科学では計れんだろう。ファイルimaginary number(虚数)1920を展開してくれ」

 『imaginary number1920を展開。』

 ファイルimaginary numberは魔術的法則を数式に置き換えるもので、この駆動鎧にも装備されている。これを空間に展開させたものが学園都市の虚数学区だ。そのファイルナンバー1920とは、アレイスターが隠世に殴り込んだ時に持ち帰った魔神の解析値情報だ。

 木原脳幹の視野に対象(ゾンビ魔神)と空間の情報が映し出される。

 『対象カラノエネルギーハ2×10^32ジュール、タダシ空間ノ一部ニてれずまトシテ顕在化シテイルタメ、総量ハコノ位相空間ト同値ト推定サレル。』

 なるほど、魔神が力を揮えば地球なんて簡単に壊れる。

 『位相空間エネルギー量ハ2×10^41ジュール。』

 「おいおい太陽並みかよ。地球どころか太陽系が壊れるぜ」

 それは太陽の重力結合を超えるエネルギー。

 『空間ハ多層ニ重複サレ8.8×10^26メートルニ渡ッテ展開、ナヲ加速度的ニ拡大中。全体ノえーてるハ、9.9×70乗ジュール。』

 位相空間が星の数ほど連続している、ゾンビ魔神が持つ鏡合わせの分割。

 「ほぼ宇宙全体という訳か。」

 エーテルが全宇宙の質量エネルギーに僅かに足りないのは、∞なHPを∞な世界の数に分割したためだ。つまり魔神はいま有限の存在。――有限と言っても単体でも太陽を滅ぼせるHP、全体でほぼ宇宙に匹敵するHPではあるが。

 『先生、宇宙トドウ戦ウオ積モリデスカ?』

 「ギャラクティカ・ファントムを打つか。いや、あれは銀河が砕けるんだったな」

 『ギャラクティカ・ファントム?』

 「何でもない。相手のHPをコツコツ削っていっても、こちらのエネルギーが足りない。なら向こうのHPを利用する。放出されている魔法圧をこちらに還流、同じ立場に立たせてもらう!」

 膨大なエネルギーが駆動鎧のダイナモに流れて来る。普段は反物質を縮退させたエネルギーを使っているが、魔力の基であるエーテル(世界の力)をジュール値に転換し使用する。エーテルが無限ならばこちらのエネルギーも無限!

 あん?・・・ブリキの玩具から魔力が??

 ゾンビ魔神は相手が自分と同じ種類の威圧を放っているのを感じた。

 「おイおイ機械カラ魔法圧なンて、ドンな出鱈目なンだい。科学ガ魔法を肯定シちゃア無節操にモ程がアンだろ」

 「肯定も否定もしない。ただ現実にある以上、技術に利用するだけだ。」

 「とンだプラグマティストだネ。理論モ体系モ全く土俵ガ違うなかデ、そノ技術とヤラがどこまデ通用するか見テやるヨ。付け焼刃ハ火傷すルだけッてネ」

 魔神は肝心なことを見落としていた。

 犬が纏う対魔術式駆動鎧AAA(アンチアートアタッチメント)。これをもたらした科学の街の世界最高の科学者が誰だったか。魔術をアートと表現する人物なのだ。そしてそれを操縦する者が『木原』だという事を。

 「パイロキネシス(発火能力)を発動。電磁波で対象を分子レベルで分解、燃焼」

 木原脳幹が支援プログラムに命ずると、即座に最適な術式に変換される。

 『レーヴァテイン(破滅の枝)をアグニの祭火で斎祀(いつきまつ)る。――ナタラージャよ宇宙に躍動し太陽の如く燃えよ!』

 照準に対要塞用のレールガンや粒機波形高速砲を撃ち出す大口径ブラスターの砲口前面に、碧色に輝く魔方陣が現れ、中心からダムの決壊のように蕩けた紅い火焔が噴き出した。火焔は巨大な剣の形となって青白い電光を枝のように纏らせながら走り魔神を貫く。

 「なニ!?」

 相手が放ってきたのは、紛れもなく聖人レバルの魔術。しかも威力は聖人のそれでなく、天使並みにかさ上げされている!

 レーヴァテインは土など燃えない筈のものまで燃え上がらせる北欧の神器、アグニの祭火は雷と炎によって凄まじい破壊を起こし神の敵を滅ぼす火の神の力。北欧神話もインド神話も関係ない。そもそも科学に宗教の縛りは無い。二つを何の柵も無く発動させる、いわば魔術のマルチスキル。しかも無限のエネルギーによって魔術の威力は極大までインフレされていた。

 

 ぐおおおおおおお・・・・バジパシ、バジバジ、パチ・・・・・。

 渦巻きながらゾンビ魔神を舐める火焔。火焔を包み込むように、地面から立ち上がり蛇のようにのたうつ無数の電撃。空間が巨大な火の竜巻となり電子レンジと化す。

 ごおおおおおぐぐぐ・・・・ピシバシ、ペチピシプシ、プチプチ・・・・。

 

 火焔がおさまると、消し炭のように燃え残った、一本の人の形をした杭が立っていた。

 が。

『unknown、全身ニ渡ッテ表層カラ2,5ミリガ炭化。土属性ノてれずまヲ感知。』

 シューシューと高熱が残る中で、ペシペシと剥がれる音と共に炭化した表面が崩れ落ちると、前と変わらぬ魔神の姿が現れた。

 「まあイイ線行っテたんジャなイ。少ナくとモ二度も『神』を焦ガすコトは出来たンだカラ。でモ、ンザンビを舐めるンじャないよ。ンザンビは何処にでモ在ル。モノが無くトモ空間にもネ。汎神に人格神ノ『えっだ』ヤ『ゔぇーだ』ガ通用するト思うノかイ。」

 肌に残る灰を払いながら、ゾンビ魔神が幼い容姿で不敵に笑う。

 ――こりゃァ、只ノ付け焼刃じゃナイようダね。・・・楽しめそうダ――

 

 彼女が使ったのは、ブードゥーの神であるロコの術式だ。ロコは薬草や医療の神で、もともと精霊を意味するロアから派生した「癒し」の力。

 ブードゥーのゾンビのルーツは、アフリカ生まれのンザンビ。もともとンザンビとは「不思議な力を持つもの」の意で、対象は人や動物、物などにも及ぶ。

 ブードゥー教は十字教の影響を受けたが、あくまで多神教。北欧神話もインド神話も多神教だが、高度に体系付けられ一柱の神々それぞれが個性と役割を与えられた神格を持っている。一方ゾンビの語源であるンザンビは性格も姿も曖昧な存在、精霊だ。それは気配と言ってもいい。一木一草あらゆるものに神が宿ると観じる神道の感性に近い。

 「いちいちゾンビ魔神やunknownではまどろっこしい。エテルヌスだったか、名前で呼ばせてもらうよ」

 「勝手ニしろ。私にトっちゃァお前は犬ッころニ過ぎナいんだカラ」

 「対象をパストル・エテルヌス(永遠の司牧者)と入力。」

 木原脳幹のコマンドで新しい回線が開かれる。

 『真名ヲ「永遠の司牧者」ト認知。こーどねーむ「パストル・エテルヌス」、十字教かてごりー・ばっふぁ連動――』

 エテルヌスは相手に呪を放った。

 「漆黒ニ支配サレた夜ノ世界。ここハ現世の者ガ拠ル所デはなイ。闇の帳ヲ覆ウのはマリネット(夜の神)ノ翼。梟ハ闇ヲ見通す。――マリネットの呪ニ逃れラれる場ハ無いゾ!」

 マリネットは夜の神。呪詛と悪霊を司り、夜を飛び回るフクロウで表される。

 暗闇は梟のホームグラウンド。鋭い眼光で闇を見透し、音も無く近寄って確実に獲物を狩る。逃れる術の無い呪殺の担い手。しかしここはただの暗闇ではない。エテルヌスが作った闇。闇そのものが彼女の魔力。マリネットの効果も空間自体に働く。

 漆黒の空間が歪む。

 呪詛が空間に満ちて相手に襲い掛かる。空間が呪力になって伸し掛かる。科学で言い換えれば一種の重力操作や空間物質操作、ただし物理的なものではない。

 恨み、妬み、つらみ、呪い、悪意の闇そのものが物質化して押し潰して来る圧力。

 『エマージェンシーコード、エーテルニ不純物。機関内循環ガ阻害サレテ居マス。不純物ニヨリ転換器ガ腐食ノ可能性アリ』

 「神サマのくせに、随分人間臭い感情をぶつけて来たものだな」

 悪意の圧力に簡単に潰される機体ではない。敵からの攻撃はリアルタイムで操縦者にもイメージとして伝わるが、操縦者も只者では無い。作ったのは世界中の魔術師から敵意を向けられた人間、操るのは世界中の科学者から嫉妬される『木原』なのだ。普通なら発狂レベルの悪意を見せられたところで、彼らにしてみれば日常の事。

 「負の感情ベクトルを相手に反射」

 『術式「十字架ノ天罰」ヲ展開。十字架ハ悪性ノ拒絶ヲ示ス。ナラバ、ソノ悪性ハ我ガ十字架ガ拒絶スル。神ノ火ニヨリテ敵意ヲ罰セヨ!』

 十字架の重さは、純潔を疑われても信仰を棄てなかった聖マルガリタや聖ルキアの悪意に対する拒絶、そして神の子を背負った聖クリストフに由来する。かつてビアージオが使った術式をメノラー(燭台)が持つ火の属性を利用して、ヴェントが扱った天罰術式で展開したのだ。しかも物理的な重さを表す聖クリストフは、「犬の姿の戦士」で描かれる。

 AAAの周囲に球形の間隙が生じる。

 間隙はみるみる黒を飲み込んで大きく膨らみ、重く伸し掛かっていた闇と入れ替わっていく。マリネットの呪いの向きが逆に作用して、悪意に呪詛を返したのだ。結果として悪意で出来た空間が悪意を消されて自己崩壊を起こす。

 陰陽道の式神返しと同じく、呪術返しは呪詛を仕掛けた術者にも及ぶ。自分の仕掛けた術に自分が受けるのだ。魔力の大きさと方向がそのまま起点に返る魔術のベクトル反射。

 「――――――ッツ!!」

 忌々し気に自分の術を受けるエテルヌス。だがそれで空間のように自己崩壊など起こす魔神ではない。

「役立たズな位相ナド邪魔!」

 エテルヌスは右腕を振ると、カランという腕輪の音と共に空間を割った。

 

 パリンとガラスが砕けるような響きと共に位相が消える。

 位相を砕くとき、シクンと胸に痛みを感じた。魔神になって、はじめて受けたダメージだった。それは木原脳幹が仕掛けた十字教の術式の影響。ブードゥー教は精霊信仰だが、被征服の歴史の中で十字教の影響を受ける。神々に聖人の属性を持たせたのもその一つ。それを木原脳幹は逆手に取ったのだ。

 だがそんなダメージも、全宇宙に匹敵するHPのうちでは蚊ほども影響しない。

 新たな位相が広がっている。彼女にとって位相は星の数ほど余り有るのだ。

 今度の位相は海辺だった。

 「水流操作を微細構築で実施」

 『水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ、メム=テト=ラメド=ザイン。水翼。』

 水晶のような水の大蛇が何本もAAAの背中から飛び出し、エテルヌスに噛み付く。それは、一本一本に地球を破壊するほどのテレズマが充填された八岐大蛇。

 対するエテルヌスは虹と蛇で表されるダンバラ―を召喚。

 ダンバラーは、紅海を割ったモーセ(水を操る)と、怪物を退治し蛇を追放した聖パトリック(蛇を使役)を象徴する。

 虹が海を割り、水流を絶たれた大蛇を打ち消す。

 「ちッ、ハん!次。」

 

 位相が割れ、不毛の大地が現れる。

 「オグン!」

 エテルヌスが叫ぶと、大地からおびただしい数の戦士が出て来る。剣、鉈、牛刀、斧、槍、手に手にぎらつく獲物を持って。

 元々は密林に覆われた土地を拓いた開墾の神だった。火と文化を人間に教え、森を切り開いた鉈から転じて鉄器の神となり、戦争の神となる。酒に酔った過ちで人々を殺戮し、人間の前から姿を消したという。だがここは不毛の大地、切り開くものは無い。手にした鉄器は相手を切り裂く武器でしかない。

 戦士は土塊で出来ているが、手にする武器にテレズマが宿る。AAAに向かって突進し、振り下ろすたびに凄まじい爆発が起きる。爆発で戦士の身体は吹き飛ぶが、次から次へと生れ出て、ものともせずに切りかかって来る。

 爆発、爆発、爆発、爆発、爆発、爆発、際限のない火の雨。轟々と火焔がうねる。

 「ソボ!」

 火に向かってエテルヌスが命じる。

 火焔が渦巻き、火柱となって天に上り、その火柱から雷鳴が響く。

 刹那、火の渦から電撃の蛇が幾本もAAAに向かって落ちる。それは蛇というより、のたうつ電光のレヴィアタン。

 ソボは雷神。大天使ミカエルで表される。大天使ミカエルの属性は火、甲冑をまとって天の軍団の先頭をいく者。向かう先はサタン。大悪魔サタンの象徴は、ドラゴン、一角獣、そして狼。

 「Bat.DarkMatter」

 『自律型未現物質物質部隊を展開。ゴーレム=エリス』

 装備品であったEqu.DarkMatterを発展させた人造兵士。未現物質で出来ており、第二位が見せたようにネットワークで結ばれかつ各々が自律して戦う。どれだけ破壊されようと死ぬことはなく、全滅しない限り無限に再生増殖し続ける。

 魂の無い器としてのゴーレムで発動しているため、オリジナルのように無限の増殖のなかで個に自立が生まれ、ネットワーク全体に波及してしまうという問題も無い。しかもゴーレム=エリスの特徴である周囲の物体を吸収する「土」の属性から、炎や電撃といった物理現象まで取り込んでしまう。

 五行サイクルでは、火は水に剋され土は木に剋されるため、「土」であるゴーレム=DarkMatterで「火」のソボは打ち倒せない。しかし「火」による攻撃も受けない。「鉄」であるオグンは火剋金でソボの燃料。いっぽうオグンは、「土」より生じたゴーレムを喰らうことが出来るがその「土」が未現物質。本来ならさっきの水の位相と逆に、エテルヌスの攻撃が尻すぼみになって終わる。

 「ははは。未現物質デ、テレズマを絶ッタつモりかイ? ダークマターはアタシの掌中ニ有ル事ヲ忘れたカ!」

 エテルヌスは未現物質の能力をコピーしている。まさか第二位を喰らった訳ではないだろうが(そんな情報は入っていない)、オティヌスも「垣根帝督だったもの」を利用していたのだ。どこぞで未現物質を手に入れたのだろう。本来は水の神であるアイダ・ウェドが持つ、聖女エリザベトの「貧者の施し物が薔薇の花に変わった」事蹟から、未現物質を「土」の属性に換えてしまった。

 電撃(火性)がオグンの戦士(金性)を喰い、ゴーレム=エリスを撃つ。しかしゴーレム=エリスは電撃を吸い取ってしまう。オグンの戦士はゴーレム=エリス(土性)に喰らい付き勢いを盛り返すが、新たな電撃の薪となるだけ。その電撃は土には効かずゴーレム=エリスのエネルギーとなってしまう。

 つまりは堂々巡り。

 

 それにしても、と木原脳幹は思った。オリジナルな精霊信仰で向かわれたら厄介だった。その術式の性格も組み立ても曖昧模糊として捉えにくかっただろう。

 だが、相手が能力なら元々こちらがホームグラウンド。魔術にしてもエテルヌスは十字教のツールで戦ってくれた。十字教なら第三次世界大戦までの紛争でかなりのデータがある。所詮、借り物の宗教(体)に借り物の教義(心)。力はいくら強大でも手札がぐっと限られてしまう。そもそも彼女の名乗りが決定づけていた。奴隷たちを支配し踏みにじって来た十字教を忌み嫌いながらパストル・エテルヌスと称する。パストル・エテルヌス=永遠の司牧者=とは、神聖不可侵たる十字教皇のことなのだから。

 でも、簡単に打ち倒せない事は解っている。AAAは「聖人」に対処するのに作られた装備だ。むしろ魔神相手によく善処していると言えた。何しろ現世では遊び感覚で地球を壊せる相手なのだから。

 エテルヌスは、「魔神」の力でなかなか圧倒出来ない事に苛ついていた。

「一体何なンだイ。科学に魔術ハ使えナイはずダろ。」

 能力者が魔術に触れたら、拒絶反応を起こして暴走か最悪死亡するとされている。ゴーレム=エリスの名前の由来となった学園都市最初の超能力者、エリス・ウォーリアに起こった「エリスの悲劇」からだ。魔術師も能力を使おうとすれば血を噴き出すことになる。どちらも発現させるOSがまるで違うからだ。だが木原脳幹は能力者ではない。レベルでいえば全くの0、能力開発すら受けたことが無い。彼は開発をする方なのだ。

 「お前は何で無事なんだい。学園都市で何人もの能力を取り込んだだろう」

 エテルヌスの非難に木原脳幹がそう返す。

 エテルヌスから答えが返ってこない。

 ゾンビの彼女に噴き出す血は流れていない、既死者だから死ぬことも無い、そう思っていた。だが彼女は魔神、魔術の頂点者。それなのに能力者のパーソナルリアリティを喰らっても自我崩壊をきたしていない。

 ――木原であれば、異能をデータとして扱っただけだと説明できるんだが。科学と魔術の関係はそれだけではないようだな――

 AAAはあくまで機械でしかないが操縦者は無能力者に限られる。能力を魔術に翻訳するとき操縦者はAAAと脳波をリンクしている。思考を直接、命令に移せるからだ。だがそれは操縦者がAAAと一体になるという事。入力元が能力でも出力先は魔術、それに操縦者は触れてしまう。能力開発を受けていると影響を受けるのだ。

 能力開発は一種の洗脳のようなもので魔術の開発もそうだ。異なる洗脳を同時に受けて相反する内容だったらどうなるか。それが能力を発現した者であれば、たとえレベル1であっても自身が確立した世界観と齟齬が生じる。機械を介しているため、生身で魔術を使ったように、直ちに拒絶反応に見舞われることは無いだろうが、思考のキャパシティーを越えて脳細胞が壊れてしまう。――能力を失うか暴走するか。確実に言えるのは自分だけの現実が崩壊するという事。

 もし能力者が齟齬なく魔術に触れられたら。その反対でもだが、二つのパーソナリティーを繋ぐことが出来るプロトコルのようなものがあったならどうだろうか。たとえばAAAをインターフェースとして利用できる能力なら・・・。

 木原脳幹の脳裏にSYSTEMという言葉が浮かんだ。かつて木原幻生が研究していた絶対能力。

 ――駄目だな、AAAにアタッチメント出来ても自我を棄てないと無理だ。それでは自分を機械にするのと同義――

 そう、普通のキャパシティーだったら、まず無理だ。でも突き抜けていたら――。

 思考のキャパシティーを越えて自我崩壊をきたす。――本当にそうか。

 魔術の頂点であるエテルヌスは、能力に触れても何ともなかった。キャパシティーを越えなかったわけだ。では超能力者だったエリスはどうか。能力を暴走させ自爆したとされているが、直接の死因は実験に反対するイギリス騎士団のメイスで殴打されたもの。――本当に拒絶反応による自爆だったのか?

 エリス・ウァーリアは学園都市最初のレベル5だったが、能力の内容も性別すらも不明。友達だったシェリーの彫刻から少年だったとされているが・・・。あの時、「エリスの悲劇」で起こったことは、科学と魔術両サイドにとって高度に外交政治的内容を含むために、いまだに全容が明らかにされていない。

 ――そういえば、どこぞの突き抜けた頂点が、魔術めいたモノに触れたことがあったな・・・大覇星祭のときも、第三位が創造しかけたアレ。規模は小さいが位相に近い――。

 そのどちらのケースでも、レベル5は自我崩壊をきたしていない。

 

 

 

 

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