風が鳴っていた。足元にはガラクタの山。空が青い。
ガラクタの山の下から、誰かが呼んでいる声がする。
「あなた、・・・ちゃん?」
「え。」
自分を呼ぶ中年の女性。
「あなたマリアちゃんよね」
そう、自分の名前。
中年の女性は、半ば半狂乱になりながら、山の下にある建物の中に走っていく。
え、あそこにはバラックの事務所があった筈。あんな建物は無かった。
え、え?
ガラクタの山もどこか整理されいる。それに、見慣れないパーツも多い。
「そうだ、マクート団! 秘密警察はどうなった。それにみんなも――」
そこで気付く。ここは、何処。
「――エテルヌス――」
確か、銃で撃たれて、とっても苦しくなって、光と闇が自分の中で爆発したみたいになって、エテルヌスの乳房を噛んだ・・・。
その先の事は覚えていない。
ばらばらと建物から、さっきの女性と一緒に人々が駆け出して来る。
「そうよ、マリアちゃんなのよ。消えた時のままで」
「そんな馬鹿な。二十年もまえの話だぞ」
「それが、あの時の姿そのままなのよ!」
中年の男女が口々に言い合いながら、自分に駆け寄って来る。
「本当だ。マリアだ」
「あの日と同じだ。」
みな信じられないといった表情で見つめる。
一人の二十代後半の女性が、顔をぐしゃぐしゃにしながら自分を抱きしめて来る。
「マリアさん、マリアさん、マリアさん・・・」
何度も自分の名前を呼びながら、その目には、次から次へと大粒の涙が零れている。
そんな彼女の貌に見覚えがあった。いや面影というべきか、私は彼女を知っている。
熱を出して、エテルヌスの所に担ぎ込んだ女の子。
ニキビも無い顔だった男の子が、髭面のおじさんになっている。ボロボロの人形を抱えていた女の子の腕には、赤ん坊の姿。
身なりもあの頃よりずっと良くなっていて、なにより周辺に、鉄や油やゴミの匂いがしない。でも、変わらないものがあった。
何が自分に起きたのか判らない。どうやら随分と時間が経ってしまっている様子。みんな自分より、ずっと大人になっている。
何となく取り残され感があるのは否定しない。でも寂しさよりも懐かしさがあった。安堵感があった。自分の見知った人たちがいる。
ふと、遠くでエテルヌスの声がした気がした。でも、彼女の姿は無い。
幼い時、教会で聞いた歌を思い出した。
さあ、起きなさい。
物見の塔から私を呼ぶ。
明けやらぬ夜のとばりに、さやけく声。
お嬢さん、目覚めなさい。
町に、あなたのお婿さんがやって来る。
さあ、出迎えましょう。
明かりを灯し、結婚式の支度を整えて、
花婿さんを迎えましょう。
マリアの瞳に、止めようがなく熱い涙がぽろぽろと流れた。
第一部 終。