重厚な玄関の入り口から仲の様子を伺う。とっくに門限は過ぎている。寮監に見付かったらただでは済まない。さっきからルームメイトに連絡を取っているが、一向に繋がらない。彼女のテレポートで直接寮内に入ろうと思ったのだが、どうやら彼女もまだ戻ってきていないようだ。
コクリと小さく息をのんで、再度中を伺う。――寮監の姿はないようだ。
生体チェックで鍵を開けて、――鍵が外れる音にもびくっとなる――そろりそろりと息を忍ばせながら寮に入る。
高級ホテルを思わせるエントランスを抜けたところで、背中に掛かる声。
「御坂、随分遅い下校だな。」
ヒャイッッとなる御坂。
ぎぎぎぎと首から音がするように振り向くと、腕を組んで佇む寮監の姿。
「よもや、寮則を忘れた訳ではあるまいな」
ダラダラと汗を流しながら愛想笑いを浮かべて頷く御坂の背後に、すっと気配も感じさせずに回り込んだ寮監は、間髪を入れず首を狩る。
意識を絶たれ、その場に崩れ落ちるレベル5。
「ふん」
そんな姿を面白くもなさげに鼻であしらうレベル0の怪物。
気が付くとそこは自分の部屋でなく、寮監室のソファーの上だった。
「起きたか。これから話すことを心して聞け」
身を起こした御坂に、寮監は口を付けていたティーカップを戻して告げた。
何事だろうと身をただした御坂に向かって続ける。
「今夕、泡浮万彬、湾内絹保が襲われた」
「セブンスミストから学び舎の園に帰る途中の路地だそうだ。襲った相手は不明。両名とも身心に外傷はないが、気を失っている所をアンチスキルに保護された。白井が戻ってきていないのはそのためだ。いまジャッジメント177支部で事情聴取を受けている。精神的ショックからも身近な隣人の環境の方がいいだろうという事でな。白井は、今日はそのまま二人に付き添う事になるだろう」
「精神的ショックって、本当に大丈夫なんですか!」
「心身に外傷はないと言っただろう。ただ供述に不可思議な点も多いのでな。戦車に襲われたと言っているが、戦闘の跡はあるが、破壊されたという戦車は欠片もない。それと、炎の中で犬を見たとも」
「犬?ですか・・・」
「――これは、本来なら教えるべきではないのだろうが、お前はこの街の背景もある程度知っているようだし、知らせた方がいいと思ってな」
え? という違和感を覚えながら寮監を見る。
「彼女たちは大人しいとはいえ、レベル3だ。戦闘力は相当にある。そんな彼女たちがにべもなく襲われて気を失った。――能力者狩りの噂は耳にしているだろう。能力者が襲われその痕跡も消されるというやつだ。単なる都市伝説としての範中だったが、それは被害者の身元が不特定でこれまでは公になるほどのレベルじゃなかったことによる。しかしそのどれもが珍しい能力の持ち主で共通していた。そして今回はレベル3である彼女らが狙われた。決して珍しい能力ではないが応用力は素晴らしい。しかも身元がしっかりしている常盤台生だ。これが何を意味するか、解るか」
「秘匿する必要もなく襲い始めた!」
うんと頷く寮監。
「見境なく。と言ったところだろう。レベルに関係なく、稀少な能力、利用価値の高い能力を求めて。レベル5など格好の的とは思わんか」
絶対能力進化計画だけでなく、大覇星祭のときも木原幻生によって能力暴走させられたことがある。研究者にとって能力者は実験対象にしか過ぎない。
「これは都市伝説なんですが、――以前、常盤台の寮が闇の特殊部隊に襲撃されたことがあるって聞いたんですけど、それは無いですよね?」
「ああ、あの変態部隊(下着泥)の事か? ちょっと可愛がってあげたがな。それ以来、常盤台には手を出さない紳士協定があったはずなんだが」
――事実だったぁ――。
「お前のハッキング能力も、相手がそれを罠に使えば捕獲は容易い。ハッカーのような電脳知識をお前は持ち合わせていないんだからな。安易な行動は危険を伴う」
ぎくりとなる御坂。まるで門限破りの理由も知っているような口ぶり。
「貴方は一体、どういった方なんですか…」
「なに只の寮監だよ。ただし『陰でこそこそ動き回る奴が大嫌い』なだけのな。ああ、もう一つ伝えておく重大な事案がある。夕べの無断外出の件だ」
ひぎいと、蛇に睨まれたゲコ太、じゃなくカエル。
昨夜の果たせず終わった「おりひめ2号」の打ち上げ阻止。――黒子がうまく誤魔化せたと言っててホッとしていたんだが――
(ば、バレてた・・・)
「そうそう白井にも伝えたんだが、血の涙を流して喜んでいたよ。お姉様と一緒の罰が受けられると言ってね」
寮監の眼鏡が鋭く光る。
「いやあああああああああ」
その夜、レベル5の壮絶な悲鳴が、常盤台中学学生寮に響き渡ったという。