完結目指して頑張ります
ある夕暮れ時の公園で一人の子供が複数の子供に囲まれている。
「や~い、ちびすけ~」
「もやし~」
「おい、こいつなんかずっと震えているぜ~」
「じゃあこいつの名前、震動にしようぜ!」
「やめてよ~!僕には兼一って名前があるんだよ~」
いま一人の子供に不名誉なあだ名が付けられようとしている。
少年は勝ち目が無いと分かっているのか目に涙を浮かべ抗議するしかできない。
「なんだと~、震動のくせに生意気だぞ!」
見下している者に少しでも抵抗されたのが囲んでいた少年達のリーダー格が殴ろうと手を
上げた、多勢に無勢、少年は来るであろう痛みに目をつぶり体を強張らせる。
しかし、ここで小さな人影が横から出てきていじめている少年たちの前に立ちはだかった
「こら~!兼一をいじめるな!」
一喝
相手は複数人、中には自分より体が大きい者もいるのに脅えることなく言い放つ
横やりを入られて白けたのか子供たちはすぐにどこかに行き、その場にはいじめられてい
た少年と割り込んできた少年が残った。
「大丈夫か?兼一」
「グスっありがとう信一兄さん」
よく見るとこの2人、背丈は同じ顔もよく似ているはどうやら双子の兄弟のようだ。
少年達から解放されて安心したのか泣いていた弟の手を取り立ちあがらせ砂を落とし
「なぁに気にしない気にしない、弟を守るのは兄の特権だからな!」
泣き止ませようと笑顔を浮かべながら言った。
「さ、そろそろ晩御飯だよ早く帰ろう、母さん達がまってる」
「うん!」
こんな風に兼一と呼ばれている少年がいじめられるのが度々あったがその都度、信一と呼ばれている少年が守っていた。
中学に上がり兼一へのいじめがだんだん暴力を伴うものにエスカレートしてきた、当然その時も信一は駆けつける、幸い大事になってほしくないのか信一が来るのがわかったらいじめっ子達はすぐにどこかへ行ってしまう。そんなことはさせないよう何とかいつも兼一のそばにいるようにしているが剣道部に入部しているためどうしても放課後は目が離れてしまう。そこを狙ういじめっ子たち、待ち伏せなどされていると生来の危険察知高さから回避できるが堂々と来られるとやられてしまう。体こそ大きくなったが体格は貧弱なまま、当然やり返そうなどとは思えずただ身を縮めてやられるがまま、フヌケのケンイチ、略してフヌケンとも呼ばれるようになった。
中学三年のある冬の日
いつものごとくストレスのはけ口としていじめていた、普段は怪我などが目立たないよう加減して殴っていたいじめっ子たちはその日はなんだかイライラしていてそんな加減なん
てしていなかった。
「おらっ」ドゴッ!!
「ぐぁ!」どさっ
「いつまで寝てんだよ、まだまだ殴り足んねぇからさっさと起きろや!」
「も、もうやめて」
「いやだね、まだイライラが収まらねぇ」
「そんな、僕が何をしたって言うんだ」
拒絶する兼一、なぜこんなことをするのかと理由を尋ねる
「お前の顔を見ているとムカついてくるんだよぉ、たく、今日はただでさえイライラしているのに、あ~全っ然収まらねぇもっと殴らせろや」
「ぎゃはは~、お前ひで~な!でも確かにこいつの顔なんかムカつくよな~、うおし俺も殴ろ~っと♪」
と、理不尽極まりない言い分が返ってきた。
何も悪くないのに、何もしていないのになぜ自分がこんな目に
抵抗したいのに恐怖で体がうごかない、なんで!
今、兼一の心の中は理不尽な暴力に対する疑問と恐怖、そしてその恐怖に打ち負けている自分に対しての情けなさと悔しさでいっぱいになっている。
そんなとき
「兼一!」
いつものごとく信一が駆けつける、もうすでに部活を引退した身だが今日は後輩たちの面倒を見に行っていたようでその手には竹刀(しない)袋(ぶくろ)をもっていた。
部活を引退してから学校にいる間は常にすぐそばにいたので最近は兼一がいじめに合うことがなくなっていたので、もう諦めたのかと思い久々に顔を出したのがまずかった!
信一は後悔の念に苛まれながら走る、そして兼一のもとにたどり着き
「俺が相手になってやる!」
いつものごとく啖呵(たんか)を切る
いつもならここで散っていく、現にさっさと散っていこうといじめっ子たちが動き出す、が久しぶりということでフラストレーションがたまっていたのか、あるいは手加減せずに殴っていたのでテンションが上がっているのか、リーダー格の少年は動かず信一に向かって
「じゃあ、そうしてもらおうか」
と言い放ち殴りかかってきた。
「な!」
これまでと違うパターンで来られて驚いたが何とか避けた
「かかってこいと言ったからそうしたんだぜ?反撃しないのか?」
そう言われ信一は殴りかかろうとした、だが
体が動かない、なんで!?
兼一みたく体が震えて動かない、完全に飲まれている
そして飲まれている理由は至ってシンプル、信一はまともに喧嘩をしたことが無いのだ。今までは駆けつけるとすぐに散っていたので喧嘩なんてすることはなかった。
「ほらほら、ビビってんのか?こいよ、ほら、殴ってこいよ」
少年が挑発する、だが信一は殴ることができない。剣道の打ち込みで自分に向かってこられるの慣れているから危なげながら回避はしているが反撃ができない。
正直殴られことへの恐怖はそうでもない、剣道で痛みには慣れているしやはり先生と稽古(けいこ)をするときの方が怖い、だが相手を殴ることに対する恐怖が湧き上がってくる理由は分からない、さらに反撃されるのが怖いのか、ルールもなく防具もつけていないので怪我をさせてしまうのが怖いのか、もっと別の理由なのか
おそらく、全部だろう。今まで経験したことのない喧嘩、ルールのない場こういったものに飲まれて混乱し恐怖し体が前に出ていかないのだ
そんな中、相手は構わず襲ってくる
「ははは!やっぱり兄弟だぜお前もフヌケなんだよぉ!」
少年は思う、今までなぜこんな奴が割り込んできて散っていたのかと
そんなやり取りを見ていた少年達もそう思い始めていた。
そして信一はとうとう一発もらってしまう
「ぐわっ!」
「良いざまだな、今まで楽しみを邪魔してくれた礼を今からしてやるぜ」
少年は下卑(げひ)た笑みを浮かべ言った
「これから毎日お前らをサンドバッグ見たく殴ってやる、さぞいいストレスの発散になるどろうよぉ~」
それは、それだけは許されない!
信一は思う、自分が殴られるのはいい我慢すればいいだけなんだから、だが自分が原因で兼一に更なる暴力が降りかかる、それだけはだめだ!
そのとき、ふと心にストンと落ちてきた
兼一に聞いたことがある、なぜ声高に助けを求めないのかと、よくある教師が屑なわけでもないし何より自分がいるのにだ。その時兼一は困ったような笑みを浮かべるだけで答えてくれなかったけれど
あれはこういうことだったのか
つまり兼一も同じ自分が我慢すればいいと思っていたのだ自分以外に鉾が向かないようにと、もちろんそれだけではないだろう恐怖で声が出なかったなど他にも理由があると思う。だが、大半はこの思いだったのだ
なんて、なんて勇気があるんだこいつは!
その時、信一の心に湧いた感情は驚きと尊敬、そして後悔
いつも守っていたつもりが守られていた。こんな恐怖に耐えながら自分以外の者の事を思っていた。
心の奥底では自分も兼一のことを根性なしと決めつけていたのかもしれない
そんな思いがあったからこそ沸いた驚き、実は兼一の事なんかわかっていなかった、見下していたという後悔、そして思いやる心からきた優しい勇気に対する尊敬
お前の勇気、台無しにはさせないよ
「さぁ、そろそろお終いにしようぜ」
信一がそんなことを思っているときに少年はそう言ってきた
よく見ると周りの少年たちも活気づいてきていた。信一が負けたらおそらくこいつらは全員でこの双子に襲いかかってくるだろう
「情けないな~、実はいままで守られてただなんて、なら今この時は絶対に弟を守って見せる」
そうつぶやいたのが聞こえいたのか
「ああ~ん、何言ってんだ?」
さっきまでの混乱や恐怖はもうない体はもう前に行ける
だがもう余裕はない、こいつに早く勝たないと周りの奴まで参戦してくる。そうすると喧嘩慣れしていない自分はどうしようもなくなる
なら、もうなりふり構っていられない。正直これは使いたくなかったけど迷っていられない。むしろここで使わないと後悔しかない、もう兄とも名乗れない!!
そう思うと今まで持ったままだった竹刀袋から竹刀を抜いた
「お?そんなもん使うのか、へ、無駄だからやめときな。所詮竹刀なんてあたったって痛かねぇよ」
信一は基本の構えを取り、少年の言葉に反論する
「剣道三倍段、刀を持ったものを相手にするときはだいたい三倍の力量が求められるって意味だ。俺はこれでも小1のころからずっと剣道をしているさっさと帰った方がいいんじゃない?」
信一は最後の忠告とばかりに言った
「あん?剣道なんか所詮チャンバラだろが喧嘩には役立たねぇよ!」
だが少年は聞き入れなかった
「そう、なら怪我しても文句を言わないでね」
すると信一は中段(ちゅうだん)の構えを解き、両腕を上げ左足を前に右足を下げた
それは上段(じょうだん)の構えといわれるもの、中学ではこの構えを取ることはできないが高校生になったらこの構えをとろうと思い、引退した後から練習していた。今日、部活に顔を出したのもこの構えで打ってみたかったからだ。
「さぁ、来い」
その瞬間、少年の勢いが削(そ)がれた
なんだ、この感じ
上段の構え、それは防御を捨てた攻撃の構え
火(ひ)の位(くらい)とも呼ばれ、圧倒的な気合で相手を委縮させ、そこを切る。または恐怖に負け突っ込んできたものを切ることを目的とした構え
そう、今、少年が感じている物はさっきまでの信一と同じ
信一に飲まれているのだ
「どうした、来ないのか?」
さきほどとはまるで逆
だが先ほどと違うことが一つ、それは信一からは前に出ていないことだ
片手打ちじゃあいつの言った通り大したダメージは与えられない。諸手(もろて)でしっかりと頭頂部を振りぬく。飛び込む必要はない自分の間合いに入ってきたところに渾身の一振りを喰らわす。
そのためには、足幅は肩幅より少し狭く、右ひざを軽く曲げ、左足は張りすぎない程度に伸ばし、右足と左足の間の真ん中に重心が来るよう前傾姿勢にならずそして、相手が間合いに入って来るまで我慢。
乾坤(けんこん)一擲(いってき)、今はただこの一撃に集中する。
気合で押している、少年はもう完全に飲んでいる。それ故になかなか前に出てこない、先ほどまでは押していたから優勢に立っていたからいまさら逃げるなんてことはできないのだろう、そこで信一はふと気を緩めた
変な感じがなくなった?これならいける!
少年はその隙を逃さなかった。だがそれは信一の罠、信一はわざと気を緩めて誘ったのだその誘いに少年はまんまと乗ってしまった。
少年が間合いに入ってきた瞬間、信一は緩めていた気を一気に引き絞り一歩前にでた、頭頂部めがけ竹刀を振り落す当たった瞬間、渾身の力を込めて、大地を踏み砕くような気持ちで踏み込み振りぬく。
その瞬間、少年は沈んだ。
試合ならだれがどう見てもまごうことないなき一本。
それも高段者が放つような中学生レベルならそうそう見ることの出来ない一振り
気絶した少年が打たれ弱かったわけではない、たとえ面をつけていても気絶していたかもしれないそんな一撃だった。
その後少年たちは、気絶していたリーダー格の少年を引きずって散って行った。自分たちの方が先に手を出していたし、これまでの経緯から味方になる者はいないだろうから誰かに言いふらすようなことはしないだろう。
信一は余韻に浸っていた
今までの剣道人生の中で会心の一振りだった。
だがそれ故に剣道をやめるのに悔いはなくなってしまった。
剣道家が防具をつけていない者を竹刀で殴るのは、剣道家として最低の行為だ、もちろんそんなこと気にしていない者は多い、だが信一は剣道をはじめるときに竹刀で人は殴らないと決めてしまった。それを破ったのだ、たとえ弟を守るためとはいえ信一はこれをしょうがないとは思えなかった。
最高の一本を取った、だが皮肉なことにこの場ではその行為が剣道家 白浜信一にとっての手向け(たむけ)となってしまった
「兄さん、ありがとう」
そんな信一をよそに兼一が近くにより信一に礼をつげた
ほんとは俺の方が礼を言いたいし、謝らなくちゃいけないけど
「気にしない気にしない、いつも言っているだろう?弟を守るのは兄の役目だって!」
「うん、でも今日の兄さんはいつもと違った気がしたから、なんかいつもよりも頑張っていた気がしたし、それになんだか今言っておかないと思ったから、だからありがとう!」
!・・・ほんとこの弟はなんで人の心の在り方読むのがうまいかな?こういうところがあるからいじめられやすいんだろな~、というよりは思うだけでいいのに、口に出してしまうから苛められるんだろな~
だがその言葉で信一は救われた、剣道をやめることになったけど後悔はしていなかった
「さ、帰ろうか。父さんたちには怪我した言い訳をなにか考えないと」
「そうだね、心配させるといけないからね」
そして双子は帰路に着く
今思えばここから双子の運命が動き出したのかもしれない
そう、その後(のち)、武術界にその名を轟かす双子の凡人の運命が
先ほどまでの出来事を見ていたのは当事者たちだけではなかった。
たまたま目についたのだろう、夕日が背後にあるから顔までは分からないがシルエット的には女性が見ていた、ただ見ている場所は電柱の上という常識では考えられないとこだが
「ん・・・・特別な才能はないけどいい一振り、だ」
と一言つぶやきどこかに行ってしまった。
信一が剣道をやめたことを兼一が知ることになるのはもうちょっと先、このことが兼一にどんな変化をもたらすかはまた今度
6/3 改稿