僕の兄さんはかっこいい
顔がとかではなくその行動とかあり方が、少なくとも僕はそう思っている
僕は習い事(スポーツ)が長続きしない、チビで泣き虫、体を動かすのが苦手だし、痛いのも嫌いだ。今までメジャーなものは一通り習ってみたが最長で2週間、最短で3日でやめてしまった。
だけど兄さんは違う、僕と同じチビなのに、僕ほどじゃないけど体を動かすのもそんなに得意じゃない。でも僕が3日でやめてしまった剣道をずっと続けている。痛い思いしかしないのになかなか試合に出して貰えないし、出して貰っても勝てないのに諦めずに続けているそのあり方がすごいと思った。
僕はよくいじめられる、チビで泣き虫でもやしっ子、もう格好の的にしか見えないのだろう、よく公園などで囲まれ苛められている。でもそんな時、信一兄さんは颯爽と駆けつけていじめっ子達を追い払ってくれる。僕と同じ体格なのにどこにそんな勇気が詰まっているのだろ?
僕を守ってくれる兄さんの背中はまさにヒーローそのものだ
中学に上がってもいじめられた。だが小学生の時とは違って暴力を振るわれるようにもなった。相も変わらず兄さんに守ってもらっているが、兄さんは剣道部に入部したため暴力沙汰はご法度だ。これ以上兄さんに迷惑をかけるわけにはいかない。でも反撃することなんてできないし逃げるにも限度がある。だから、我慢することにした。兄さんに迷惑をかけないよう、兄さんがのびのびと剣道ができるよう、そして万が一にも兄さんに鉾が向かないように、僕が我慢すればいじめっ子達は兄さんには手は出さないだろう。だから我慢して耐える。
中学3年になり夏を過ぎて兄さんは無事に剣道部を引退、レギュラーに選ばれ試合には出られたものの目立った成績は残せなかったけれど、試合に出ている兄さんはやっぱりかっこよく見えた。
部活を引退したことで一緒に過ごす時が長くなった。兄さんは分かっていたのかいじめっ子達は僕が一人じゃないと絡んでこないため3~4ヶ月はとても平和なものだった。
だけど、ある冬の日。この日がある意味僕と兄さんの運命が動き出した日だったんだろう
その日、兄さんは久々に部活の方に顔を出していた。なんでも高校に入ったらやってみたい構えがあるみたいで家にいる時も一人で練習していたけどそろそろ実際に打ってみたいと言っていた。
最近はいじめっ子達も来ないし、兄さん自身の時間も大事にしてほしかったから、どうも行きづらそうにしていた兄さんに「僕のことは気にせず行ってきなよ」と言って送り出した。
でも、運悪く件(くだん)のいじめっ子達と遭遇してしまった。
ああ言った手前兄さんの邪魔をしてはいけないと思い、道場から絶対に見えない校外まで逃げたがすぐに捕まってしまった、しょうがないと腹をくくり何とかばれないよう耐えるしかないと思っていた。
不幸というものは重なるもので今日はいじめっ子達リーダー格の少年がイライラしているようで、いつもは目立った怪我などをしないように加減して殴ってくるのだが今日は怪我しようがお構いなしに本気で殴ってきた。おそらく久しぶりにする、ということもあるのだと思う。
怖かった、いじめられることにある意味もう慣れたと思っていた。でも甘かった。本気の悪意・害意を持った殴打がこんなにも痛くて怖いものだなんて思いもしていなかった。いつも以上に抵抗しようという気になれない、口も動かせないからやめてという言葉も発せられない。
なんで、声すら出せないんだ
なぜ、少しでも抵抗しようとしないん僕は!
今、僕の心の中は、殴られる恐怖、そして理不尽な暴力に屈し、やられるがまま何もできない自分に対する情けなさと悔しさでいっぱいになっている
僕がいつも以上に無抵抗なのが気に入ったのかさらに力を入れて殴ってくるそれに感化され見ているだけだった周りの人達も参加しようとしてきた。
もうだめだ、と思ったそのとき兄さんがいつも見たく駆けつけてくれた。
なぜいじめられていることと場所が分かったのか?と後で聞いたらちょうど部活が終わってすぐに新島が来て知らせてくれたらしい。
新島とは小学生のころから一緒で、過激なことはしないが僕をいじめる常習犯だ。
僕に対して地味な嫌がらせをずっとして来る(自分が教師にした悪戯を僕のせいにしたりなどetc)が兄さんに阻止されたりお仕置きされている。兄さんも警戒はしているが変に馬が合うとこもあるらしい、新島の方もなぜか兄さんに対してはよく情報提供をしたりとそこそこにまともな付き合いをしている。
まぁそんな経緯があって駆けつけてくれた兄さんだがいつもは兄さんが来るとすぐに散っていくのに今日は散らずにいるリーダー格の子に対し戸惑いを見せていた。
するとリーダー格の子がいきなり兄さんに殴りかかっていった。
何とか避けたけどさらに追い打ちをかけられていた。
兄さんはすぐにやり返すものだと思っていたがなんだか様子がおかしい、ずっと危なげに避けているだけだ、それどころかなんだか既視感を覚えた。なぜだと思ったが兄さんの顔をみてすぐに分かった、あれはいじめられているときの僕と同じだ。
なぜ、あの兄さんがと思ったが思えば兄さんは喧嘩なんてしたことが無いじゃないか!
今、僕には兄さんの気持ちが手に取るようにわかる。
ごめん、ごめんよ兄さん。
僕のせいでこんな目に合わせてしまった。
心のどこかで兄さんなら喧嘩なんてどうってことないだろうと思っていた。だから僕は今までただ守られるだけだった、駆けつけてくれるのを待っていた。
この恐怖は僕が一番わかっていたのに!
何が我慢すればいいだ、そりゃそうだよだって、たった1~2回耐えれば最後には兄さんが守ってくれていたんだもん。
何が迷惑をかけたくないだ、かけているじゃないかそれも最低な形で!
結局、甘えてばっかりなんだ僕は。なぜ、なぜこんなにも僕は弱いんだ!
僕がそんな風に後悔ばかりしている中とうとう兄さんが殴られた。
自分の経験上この後の展開は目に見えている、周りをよく見ると今まで見ていただけの人達も兄さんがまともに抵抗できないと解り始めたのか自分たちも参加しそうな雰囲気になっていている。
これ以上は兄さんを傷つけさせまいとせめて声だけでも出して助けを呼ぼうとした、だが依然声は出ない、今ほど自分が嫌な時はない。大事な人に守られるだけで、大事な人の危機を知らせることすらできないなんて
誰か、誰か兄さんを助けてくれ!僕はどうなってもいいから!
リーダー格の子が兄さんに近づいていく、兄さんの雰囲気が変わったような気がした。
そう思っていたら、今まで手に持ったままだった竹刀袋から竹刀を取り出した。
そのあとは、なにか言葉をかわしていたがすぐにリーダー格の子が前に出ようとしたが、兄さんは今まで練習していた上段の構えを取ったとたんに足を止めてしまった。
そのあとの展開は一瞬の出来事のように感じた。少しの間睨み合っていたかと思ったがリーダー格の子がいきなり前に出た、だけど兄さんの竹刀が届く距離に入ったとたん、兄さんは竹刀を振りおろした。そこそこの距離があったにも関わらず打撃音が聞こえてきた。そして、リーダー格の子は沈んだ。
しばらくの静寂、ほかの人たちはリーダー格の子が気絶したと解ったとたんその子を抱えてどこかに行ってしまった。
脅威が去ったと解り、兄さんの方に行こうとして何か兄さんの様子がおかしいように見えた。すぐに駆け寄りお礼を言う、いつも通り気にするなと言われたが何かいつもと違う感じがてすぐに言わないといけないと思ったと伝えるとなんだか驚いたような顔をしたけれどすぐに元に戻り帰ろうかと言われ、そのまま帰路に着いた。
二人そろって大小の傷があったので帰りつくまでに適当な言い訳を考えた。
家に帰ると案の定、傷について聞かれたが考えた言い訳でゴリ押し両親ともになにか言いたそうだったが何とか納得してくれた。
その後、夕飯を食べて風呂から上がった時リビングへ行くと兄さんと両親が何やら真剣に話していたので入らず隠れて話を聞くことにした。
「さて、信一よ話とはなんだい?もしや恋愛相談か!?なら父に任せろこう見えて若いころはモテたからな!」
などという父さんに母さんが一言
「あなた」
するとすぐに口を紡ぐ父さん
そんな一連の流れを気にせず信一は語りだす
「急な話で悪いんだけど、俺、剣道やめようと思う。高校では剣道部には入らない」
いきなりな話に両親ともに唖然としていた。もちろん僕も
「な、なぜだ信一!あんなに頑張っていたじゃないか!?」
「そうよ、それに楽しそうにもしてたじゃない、どうしていきなりやめるなんて言い出すの?」
動揺する父さん、戸惑っている母さん、僕も困惑している
「ちょっと、ね」
「何がちょっとなのか、理由を言いなさい!」
父さんが兄さんに詰め寄る
「あなた、落ち着いて」
母さんが宥めるが
「落ち着いていられるか!」
強い口調で怒鳴る父さん、すると
「あなた!!」
と、さらに強い口調で父を制する母さん
父さんの動きが止まり落ち着きを取り戻したら
「信一、理由を聞かせてくれる?お父さんの言うとおりあんなに頑張っていたじゃないの」
その言葉に答える兄さん
「俺は、どんな理由があれ剣道家としてやってはいけないことをした。だからもう剣道はできない。ただそれだけだよ」
その言葉に僕ははっと思いいたってしまった。
3日でやめてしまったけれど始めるときに剣道の先生から剣道家がしたらいけないことを教えてもらった。何個かあったけれど特に強く言われたことがある。
それは、防具をつけていない人を竹刀で殴ったらいけないということだ。
剣道とは戦うすべに非ず、あくまで己を鍛えるための物だということを言われた。
「それは何?」
そういうことを知らない母さんが聞くが
「言えない」
と兄さんが拒否。おそらく言ったら今日のことを話さないといけなくなり余計な心配をさせることを避けているんだろう
「信一!」
「母さん」
まともに理由を話そうとしない兄さんに今度は母が激昂する
しかし、先ほどとは逆に今度は父さんが母さんを抑え兄さんと向き合う
「信一」
「はい」
「それはその傷と関係あるのかい?」
「それも言えない」
話の核心を突いて来た父さん
しかしかたくなに話そうとしない兄さん
しばらく兄さんの目を見ていた父は確固たる意志を感じたのかこれ以上聞こうとしなかった、だけど最後に
「最後に聞かせなさい」
「なに?」
「試合に勝てないからやめるんじゃないんだな?」
「はい」
「練習がきつくなるだろうからやめるんじゃないな?」
「はい」
「何か後ろ暗いことをしたからやめたいんじゃないんだな?」
「・・・はい!」
「なら、いい」
「あなた?」
「母さん、信一は何か思うことがあってこんなことを言い出したんだろう。でもこの顔を、目を見て分かった決して逃げているわけではないと、譲れない何かがあったんだと。」
「それに特に悪いことをしたいということでもなさそうだ。おそらく高校では別のことがしたくなったんだろう。ならここは応援してやろうじゃないか、はっはっは~」
と、何かに納得したような父さんは母さんにそう言った。
「・・・ふう、分かりました。」
「信一、私ももうこれ以上聞きません。」
「・・・ありがとう」
何とか両親を説得できたみたいだ
そしてもう寝ようと思ったのか僕が隠れている廊下に出ようとしたので僕はあわてて自分の部屋に戻ろうとしたので兄さんに両親が最後に一言いったことに気がつかなかった。
「「信一」」
「何?」
「9年間よく頑張りました」
「どんな理由があったかわからないけれど今はゆっくり休みなさい」
と母さんと父さんが交互のに言った。
「・・・はい!ありがとうございました!」
信一は目に涙を溜め、喉を少し震わせながら9年間の剣道生活を支えてくれた両親に礼を告げ部屋に戻っていった。
部屋に戻った僕は今日の出来事を思い出していた
今日感じた情けなさと悔しさ、そして改めて感じた兄への憧れを
そして先ほどの両親と兄とやり取りも
兄さんが剣道をやめたのは僕のせいだ
僕が弱かったから、僕に勇気がなかったから
何度も繰り返す自責の念
そして兼一は決意する
もう兄さんに守ってもらうばかりなのはだめだ!
強く、強くなりたい!
これ以上兄さんの大事なものを無くさせないように、大事な人を守れるように
そして
兄さんのように誰もが見て見ぬふりをする悪に立ち向かえる自分になれるように!
僕は変わらなくちゃいけない
一話と言っておきながらまだほとんどプロローグみたいなもの
原作では美羽に憧れてなりたい自分を自覚した兼一、でもここでは兄に憧れてなりたい自分を自覚しました。まぁ美羽にはなんだかんだで憧れて惚れるので安心してください。
ちなみに信一と両親とのやり取りの最中、ほのかはもう自室で熟睡していました。
次回からやっと原作一巻に入ります。
実は書けそうならオリキャラをもう何人か出す予定、何分(なにぶん)小説を書くのなんて初めてなので、できそうになかったら出て来ることはないですが。
頑張ります。
では