史上最強の弟子達 双子の凡人   作:daiya

4 / 6
前回以上に長い


第三話 初めての喧嘩

朝5:00

信一の朝は早い、こんな早くに起きて何をしているのかというと

 

「はっはっはっ」

 

ランニングだ

剣道をやめて体を動かすことがなくなり、体が鈍るのが嫌だったため朝はランニング、夜は素振りをすることにしたのだ。

 

“・・・やめたって言うのに未だに素振りをしているのは我ながら未練がましいな~”

 

素振りに関しては、剣道を始めたころからの日課にしていたのでそれが抜けてないというのもあるのだろうし、一日一回は竹刀を握らないと落ち着かないからだろう。

 

やめて後悔はないと言いつつ、やはり何かしらの未練があるのであった。

 

だいたい3~4kmぐらいを毎日走る。そんなに速いペースで走っていないのでだいたい一時間ほどで帰宅し、そのままシャワーを浴びる。

 

6:00くらいに母が起きてお弁当と朝食を作ってくれるのでシャワーを浴び終えるとテーブルに着き朝食を食べる。

 

「母さん、信一おはよう。今日もいい一日になりそうだ!」

 

「お母さん、信兄ちゃんおはよだじょ~」

 

食べ終えるころに父と妹、そして双子の弟が起きてくのるだが

 

「また、遅くまで起きていたな。まったく昨日寝坊するなと言ったばっかりなのに」

 

そう、兼一は昨日の夜、信一が去った後に少しの間、物思いに浸っていたが結局本(大学館『部活の中でうまくやっていく方法』)を読んでしまったため、今日も寝坊、一応起こしに行くがまぁ毎度のごとく起きなかったため先に登校する。

 

今日も頑張ろうと思いながら歩いていると、ふと眼の端に見覚えのある後姿が映った。

あの三つ編みはと思い声をかける。

 

「おはよう!風林寺さん」

 

少し肩をビクッとさせ振り向く

 

「お、おはようございます。たしか兼一さんのお兄様の」

 

「ああ、覚えてくれてたんだ。改めまして白浜 兼一の双子の兄、白浜 信一です。信一って呼んでくれていいよ。急に後ろから声をかけてごめんね驚かせちゃったね」

 

「いえ、お気になさらず。驚いたというわけではありませんの」

“危なかったですわ~、もう少し近くで声をかけられたら投げてたですの

 

そう、この風林寺 美羽

後ろから近付いた者を思わず投げてしまう、変わった習性がある。現に兼一は後ろから通り過ぎようとしたところを投げ飛ばされた、しかもそれが初対面となった。早々には忘れることの出来ない出来事だろう。そして先ほどの美羽の反応は驚いたのではなく投げるのを我慢したから起こった反応らしい。

 

「?まぁ驚いたんじゃなかったらいいや、ところでそんな端っこで何をしてるの?」

 

特に共通の話題もないのでちょうどいいと思い、先ほどは壁のほうを向いて、そして声をかけた後でもちらちらと後ろを気にしている美羽が何をしているのか気になったので聞いてみた。

 

「ええと、その・・・猫ちゃんを見てましたの」

 

「へ~、猫好きなんだ、というか野良なのによく触らせてくれるね、人間慣れしてるのかな?」

 

「ふっふっふ~、私くらいの猫好きになるとどんな野良猫も触らせてくれるんですの」

 

なんだいそれはと思いながら雑談をする二人、そして信一は遅刻しそうになるのでなるのでこの場を離れようとする

 

「そろそろ、行こうかな。風林寺さんはどうする?」

 

「わたくしはもう少し猫ちゃんと戯れていきますわ」

 

とここで別れることに、再び学校へ行く信一、しかし言っといた方がいいことがあるのを思い出したので足を止めて、再び美羽の方へ体を向ける

 

「ああそういえば、風林寺さん」

 

「どうしました?」

 

「兼一と友達になってくれたみたいで、兄としてお礼を」

 

そう、兼一と友達になってくれたお礼だ。過保護かなと思わなくもないが、こういうことは言っておいて損はないだろうということで、でもやはり兼一の前でこういうことをするのはどこか気恥ずかしいので今がちょうどいいと思い実行した。

 

「いえいえ!お気になさらず!わたくしもお友達ができてうれしいですし」

 

「まぁそういわず、弟とこれから仲良くしてくれるんっていうんだ何かお礼をしないと気が済まないんだよ」

 

「では、その・・・よろしければ信一さんともお友達になってくれませんか?」

 

「え、そんなんで良いの?」

 

「これがいいんですの」

 

「ま~、それでいいなら」

 

「本当ですの!?わ~いですわ。昨日に引き続きお友達ができましたわ~♪」

 

“大丈夫かなこの娘、なんかちょろいぞ?いつかたちの悪い人にだまされるんじゃないか?”

 

まぁだまされても美羽なら切り抜けられる実力があるがそんなことを知らない信一。

 

「では、わたくしの事もこれからは苗字ではなく美羽と名前で呼んでほしいですわ」

 

「な、なんか女の子の名前を下の名前で呼ぶのは気恥ずかしいけど了解です。」

 

わ~いと喜んでいる美羽をよそに

 

“よく考えたら女の子の友人なんて初めてじゃん俺。ど、どうやって接したらいいんだ!?”

 

昨日は、自分を棚に上げて兼一に対しいろいろ思ってたのに、いざ自分が当事者になると気後れしている。兼一は名前で呼ぶくらいはどうとも思っていないみたいで、女性関係はもしかしたら兼一に優位に立たれるかもしれないと思う信一だった。

 

「おっと、ほんとにそろそろいかないと遅刻しそうだ。風林寺っと、み、美羽ちゃんもなるべく急ぎなよ~」

 

は~い、という返事を聞きながら今度こそ学校へ行く信一。

 

 

 

特に何もなく今日の学業も終了。部活もつつがなく終わり下校中

 

「お~い、信一~」

 

と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「はぁ、なんだ宇宙人」

 

嫌々ながらに答える信一、嫌がっているのなら無視すればいいのに相手をするのはなかなかお人好しだ。

 

「フヌケnんん、兼一について面白い情報があるぜ~」

 

兼一がほんとはフヌケじゃないことを知っている信一は兼一をフヌケンと呼ばれるのが大嫌いだった。新島も理由は分からないけれどフヌケン呼ぶと信一が結構本気で怒るので信一の前では言わないようにしている。・・・兼一本人の前では普通に言っているが。

 

「今フヌケンって言わなかったか?」

 

「言ってない、言ってないで聞かないのか?」

 

「・・・何があったか教えてくれ」

 

肝心な話が聞けなくなりそうなので見逃す信一、とうとう何か動きがあったかと思い新島に情報を求める

 

「いいだろう、耳をかっぽじってよく聞けい!」

 

なぜか偉そうにする新島、その態度に我慢、我慢と耐える信一。

 

「まず結論から言うと、一週間後、兼一が退部をかけた試合をすることになった」

 

「・・・そうか、ある意味予想外というか、まぁリンチをされ始めたとかじゃなくてよかったと思おう」

 

予想してたような物じゃないので肩透かしを食らう信一、しかし安心している信一に新島は不穏なことを言う

 

「それがあんまり穏やかなもんじゃないんだな~これが」

 

「どういうことだ?」

 

「試合とは名ばかり、ヘッドギアなし寸止めなし、顧問の立会なし、どちらか降参するか気を失うかでしか負けは認められない、実質ギャラリーがいるだけの喧嘩、タイマンだ。まぁ先輩の審判がつくみたいだからそこまでひどいことにならないとは思うが貧弱な兼一なら間違いなく大なり小なり怪我をするな」

 

「な!?」

 

兼一がそんなことになったことと、武道嗜む者がそんなことをすることに驚いた

 

だがそんな信一をよそに新島は言う

 

「だけど、考えようによってはいいんじゃねえか?今迄みたいにむやみやたらにボコボコにされるんじゃなくて、一発もらえばそこで今までの状況からオサラバなんだからよ」

 

「それは」

 

確かにそうだ、だが

 

「でも、当たりどころが悪ければ大事だ・・・ちなみに相手は?」

 

「うきゃきゃきゃ、それがまた割れえるぜぇ~大文字だとよ」

 

「よりによってあいつか」

 

最悪だった、気に入らないことがあればすぐに手が出る超問題児、無駄に体格がいいからちょっとやそっとの攻撃じゃダメージは通らない、兼一じゃまず勝てないだろう。それに手加減なんてしないだろうから大怪我する可能性大だ。

 

「今まで兼一を尊重してあまり強く言ってこなかったがもう無理だ。兼一が帰ってきたらすぐに空手部をやめるよう言おう」

 

そういってすぐにでも家に帰ろうとする信一

 

そんな信一を新島は止める

 

「まぁ待て、最後まで話を聞け」

 

「なんだよ」

 

「いやね、そういう状況になった経緯を話しとこうと思ってな」

 

「経緯?」

 

こういった情報は基本結果しか言わないこいつがめずらしいなと思い聞くことに

 

「どうも最初はな大文字の奴が問答無用でやめさせようとしたみたいだ、ことの始まりは昼休みに兼一に武術ってのはお前みたいな才能のないやつがするもんじゃねえとか言ってな」

 

これを聞いた瞬間、信一の胸の内に湧いた感情は憤り、何を言っているんだと。

小学生のころに通っていた道場の先生に、「武道の元になった武術は元々、戦う才のない者が身を守るため、戦うための術(すべ)として出来やモノだ、武術とはむしろ弱者のためにある」と聞いた。その言葉を聞いたから才能のない自分は頑張れた、剣道を好きでいられたんだから、それを真っ向から否定された、自分の恩師と今まで自分がしてきたことを否定されたのだ

 

「それでまぁ、その後なんか転校生の女の子に「風林寺さんか?」ああそうだそいつに、そんなことないと武術は戦う才能のない人のためにあるってな感じの事を言われて慰められてな」

 

そのとき信一は美羽が何かしら武術を習っていたことに驚き、そして恩師と同じことを言っていてなんだかうれしくなった。

 

“ほんと、兼一はいい子と友達になれたな。あ、俺ももう友達だったなそういえば”

 

「で、その言葉に元気づけられた兼一はそのまま放課後また空手部に、それが気に食わなかったのか大文字がさらに脅してきて、弱いやつは空手をする資格はないって言葉になんと兼一が強ければしていいんだねと反論。その態度が気に食わず1週間後に退部をかけて試合って感じらしいぜ」

 

「・・・・・・・」

 

新島の言葉を聞き信一は声が出ない

 

「けけけ、兼一のやつ身の程知らずにも逃げないみたいだぜぇ」

 

「そう、みたいだな」

 

未だ衝撃が抜けきらない信一

 

「じゃ、言いたいことは言ったから俺は帰るぜ~」

 

と言って新島は帰って行った。

 

取り残された信一はしばらくその場に佇んでいた

 

“そうか、あの兼一がそんなことを言ったのか”

 

信一は兼一が勇気のあることを知っている。だが同時に今まで戦おうとしてこなかったのも知っている。

 

その兼一が戦うと、自分の意思で決めたのだ

 

“とりあえず、もう少しだけ様子を見るか”

 

信一は兼一が自分で決めたことならと考えを改め、6日は見守ることにした。

 

家に帰りつき、しばらくしたら兼一が帰ってきた、どこか脅えている感じだったがその眼は腹をくくり戦うことを決意しているように見えたので何も知らないふりをした。

 

 

次の日、兼一はいつも以上に帰ってくるのが遅かった。

いや、正確には一度早くに帰って来たらしいがすぐにどこかへいったらしい、服などに土がついていることから、どうやらどこかで特訓をしているようだ

 

信一はもしもの時のために空手部を隠れて覗いている、少しでも動きを覚えておいて何かあった時のために自分が助けられるようにしている。

 

この1週間は二人とも全部こういった行動の繰り返しだった。

 

そして試合の日の前日

 

信一は兼一の部屋の前にいる

 

“なんか部屋で騒いでいるな、大方明日の試合についてだろう”

 

信一はこれがやめさせる最後のチャンスだと思い、うるさいと注意するように見せかけて説得しようと中に入った

 

「こら!兼一夜中に何を騒いでいるんだうるさいぞ!」

 

「わわわ、兄さん!?ご、ごめんなさい!!」

 

案の定慌てふためいていたみたいだ

 

まぁ入るきっかけがほしかっただけなのですぐに本題に入る

 

「新島から聞いたよ、明日、大文字と試合するんだって?」

 

「・・・やっぱり知っていたんだね。うんそうだよ」

 

さすが双子と言ったところか、信一は兼一を、兼一は信一を、お互いの事はある程度お見通しらしい。

 

「今ならまだ、やめられるぞ。俺は正直危ないことはしてほしくないと思ってるからやめてほしいんだけどな」

 

自分の本心を告げる信一

そんな信一に兼一は、少し間を開けて

 

「・・・それは、できないよ」

 

信一の提案を拒否する兼一

 

「なぜ?」

 

理由を問う

 

「ある人に言われたんだ、戦う前から負けているって。そう言われて自分が今まで戦ってきたことなんか無かったなって、今まで逃げてきたから偶には逃げずに戦おう思ったんだ。よくよく考えればそういう自分を変えたくて空手部に入ったんだしね」

 

「だから僕はもう、逃げないって決めたんだ。」

 

ここまで言われたらもう説得は無理だ、と信一は思った。

 

「そうか、ならもう俺は何も言わないよ。」

 

「兄さん」

 

「でも、やっぱり出来れば怪我をする前に棄権してほしいって言うのは変わらないけどな」

 

そう言われて困ったような笑みを浮かべる兼一

 

 

「兼一~お友達から電話よ~」

 

「あ、うん分かった~」

 

と一階から兼一を呼ぶ母の声により兼一が降りようと部屋を出る

 

「兼一」

 

だがそんな兼一を信一は呼び止め

 

「今のお前、かっこいいぞ」

 

と言い、すぐに弟の部屋を出た

 

信一は自分の部屋に戻り弟が成長したことをうれしく思っている

 

“兼一、お前はもう変わったよ、中学の時までのお前とは全然違う”

 

“それに比べて俺は、全然だな”

 

兼一を守るためと自分に言い聞かせ、未だに竹刀を振り続けている未練間がしい自分、体を鍛えるのならそれこそ柔道部やボクシング部に入ればいいのに

 

“俺もそろそろ、自分を変えるために前へ進まなくちゃいけないな”

 

兼一を見て、いい加減自分も変わろうと思う信一、しかし眠気が来たのでこのことを頭の片隅に置きベッドに入り明日の兼一の無事を祈りながら寝付いた。

 

 

そして次の日の放課後

 

信一はちょっと技術工作部に顔を出す、20分くらいしてから来た部長に用事があって休むということを伝えすぐに空手部に行く

 

“すこし遅れた、もう始まっているよな”

 

兼一がどうなっているのか気が気でない信一、そして道場前に到着中に入ることは出来ないのでいつも覗いていたポジションに移動し覗き込んだその瞬間

 

兼一が壁にぶつかって降ってきた

 

“はっ!?”

 

今、目の前で起きたことに何が起きたんだと驚く信一

 

「マジかよ吹っ飛んだぜ!」

 

「ガハハハハ!おもしれぇ!」

 

「やめ!場外」

 

大文字と兼一の試合(喧嘩)を見物している部員のセリフからおそらく突かれて吹っ飛ばされたのだと予想する信一、今にも気を失いそうな兼一を見て

 

「やっぱりいわんこっちゃない!もうやめるんだ兼一!」

 

外にいるから聞こえるわけがないが思わず声に出して兼一を止める信一、今にも乗り込んで中止させようかと考えているその時

 

「おい下っ端、もうやめるか?これ以上したら死ぬかもしれんぞ」

 

と、審判を務めている一番ガラの悪い先輩が信一の代弁をしてくれた

 

「よく言ってくれたガラの悪い先輩、始まる前に止めない時点でろくでもないと思っているが今回は特別感謝してやる!」

 

となぜか上から目線でほめている信一、よほどテンパっているのだろ

 

だが兼一は、胴着の袖を噛んで意識を繋ぎ止め

 

「い、いいえ!まだ行けます!」

 

と拒絶

 

「なんでやめない!!」

 

信一は信じられないといったように叫ぶ

 

「ぎゃははは、まだやる気だぜフヌケンの野郎」

 

「マジかよ!もうやめといた方がいいんじゃないかぁ?死んじまうぞ~」

 

そんな信一とは逆にまだ続く試合に湧く部員たち、言葉でこそ止めてはいるが全員一方的な試合を楽しんでいる

 

“黙れ!兼一はフヌケじゃねぇ、今この場で一番勇気があるのは兼一だろうが!!”

 

そんな部員の態度に腹を立てる信一、話を聞いていたが実際に見るとやはりこいつらは武道家じゃないと思った。ただの身に着けた力を暴力にしか震えない暴漢でしかないと

 

兼一が開始線まで戻ったため試合が続行される

 

「死ねぇぇぇぇ!」

 

と大文字が突きを繰り出す。兼一はもうヨロヨロ、今度こそクリーンヒットかと信一を含めたその場の全員が思った。だが

 

「え!?」

 

誰が上げた声か分からないが全員の予想に反することが起きた、大文字が空振り、兼一が消えたのだ。

いや、よく見ると消えたわけではない大文字の側面に回り込んでいる、普段はなかなか見ない接近してからの急な横移動、それと大文字との体格差で兼一が隠れたため消えたように見えたのだ

 

「おお!」

 

と驚く信一、もしかして一週間練習していたのはこれか?と考えたが今はそんなことどうだっていい、大文字の脇腹はがら空きまさに絶好のチャンス

 

「いけ!兼一!!」

 

「おおおおお!」

 

信一の声援に応えるかのようなタイミングで突きを出す兼一そして見事にクリーンヒット

 

「よっしゃあ!」

 

勝ったと喜ぶ信一、実際これが試合なら見事な一本、試合は終了だろう。だが信一は忘れていた。これは試合ではなく喧嘩だということを

 

ニヤリ

 

大文字が不敵にわらう。突かれたというのに表情一つかえてない

 

「残念だったな!この筋肉の前では貴様ごときの突きなんかきかないんだよ!!」

 

そう言いながら蹴りを出す、兼一はとっさに避けたのでまともに当たってはいないが掠っただけでまた倒れてしまう。

 

「兼一!!」

 

ここにきて何度目の叫びか、だが兼一は

 

「まだ、まだやります!」

 

諦めない

 

“もうやめろ!このままじゃじり貧だ!!”

 

どうしようもない体格差、今の兼一の力じゃ何十発突いてもダメージは与えられないと思う信一

 

「分からん奴だな」

 

と言いながら再び突きを繰り出す大文字

 

だが、兼一はまた先ほどと同じように避ける

 

「おお、また避けたぜ」

 

二度も避けれるとは思わなかったんだろう周りがどよめく

 

兼一は再び脇腹に突きを入れる。今度もきれいに入ったがやはりダメージはない

 

「いくら避けるのがうまくてもダメージが通らなきゃ勝てないぜ!」

 

「ううう」

 

兼一自身が思っていることを大文字に言われどうすればいいか悩む兼一。

 

「ほんとどうするんだ兼一!?」

 

反撃の意味がないと解り焦っている信一

 

「どうする、やっぱりもう乱入して無理やり連れだすか!?」

 

そういって腰を浮かす信一

だが兼一の目はまだ諦めていないように見える、その証拠に先ほどからずっと避けては突き避けては突きを繰り返している。

 

「・・・お前はまだ諦めていないんだな」

 

“あいつは今戦っているんだ、大文字だけじゃなく逃げ出したくなっている自分と、もう逃げないと決めたから必死で戦っているんだ”

 

そんな兼一を見て再び腰を下ろした

 

昨日、自分に言った言葉を実行しようとしている弟の邪魔は出来ないと

 

 

そして10数分たった兼一はいまだに避け続けている

 

「はぁはぁ、いつまで逃げてんだよ」

 

「はぁはぁはぁ、逃げてるんじゃないやい、避けているだけだい」

 

二人とももう体力が限界なんだろう息が絶え絶えになっている

 

攻撃を避けられ続けている大文字、当たるはずの拳が空振りしているこのにより普通に突くよりも体力を消耗している、隠したとみている相手にとことん避けれら肉体的なダメージは少しでも精神的なダメージは大きい。

 

一方兼一も受けたら一発KOの突きをぎりぎりでかわし続けているので精神がすり減っている、また初めに受けたダメージもここにきて重みになっている。

 

そんな兼一を見てとうとう我慢できなくなった信一

 

「・・・もういい兼一、お前はよく頑張った。」

 

そういって腰を浮かし今度こそ乱入しようとする信一、だがそんな信一に後ろから声をかけてきたものが者がいた。

 

「お待ちください、信一さん」

 

一人だと思っていたため、いきなり声をかけられ驚く信一

 

「いつ来たんだい?美羽ちゃん、というか兼一が試合をするの知っていたんだね」

 

聞き覚えのある声に振り向いた。彼女がここに来ることは予想外だったが

 

「はい♪この一週間、兼一さんに修行をつけていましたから」

 

その言葉を聞き、思い出す彼女が武術をしていたことを、そして兼一を指導していたことに驚いた

 

「そうか放課後どこかで特訓しているのは知っていたけど、美羽ちゃんと一緒にいるのは知らなかったな」

 

「放課後だけじゃありませんわ、朝の登校時もあの歩法を特訓していましたよ兼一さんは」

 

それを聞き笑みを浮かべる信一、本当に自分を変えるため頑張ってたんだなと

 

そんな信一をほほえましく見ていた美羽だが目を少し鋭くして

 

「それよりも今どこへ行こうとしていますか」

 

「・・・・・・」

 

美羽の問いに信一は答えない。だが沈黙は答えと言わんばかりに自分の予想通りのところに行こうとしたとして更なる言葉を信一に告げる美羽

 

「兼一さんはまだ負けていませんわ、今兼一さんの邪魔をするのは見過ごせません」

 

「それは分かってる!!でも、もう見ていられないんだ」

 

声を荒げて答える信一、だが尻すぼみになっていく

 

「特訓中、兼一さんはよく信一さんの事を話してましたよ、いつも僕を助けてくれるヒーローだって、僕の憧れだって」

 

「あいつそんなことを//」

 

当然の美羽の発言に気恥ずかしいのか頬を掻く信一

 

“あいつめ、そんなこと人に言ってんじゃないよ。あ~恥ずかしい”

 

そんな信一をさらに追撃する美羽

 

「それに昨日の電話でも」

 

昨日かかってきた電話での出来事を話しだす美羽

 

『明日の試合なんですが今の兼一さんだとよくて相打ちにしかできないと思いますの。だから、ひとまず理由をつけて逃げるのも兵法のうちかと』

 

『・・・・・・・』

 

『兼一さん?』

 

『ああ、すみません先ほど兄からも同じことを言われたので』

 

『まぁ、そうですの』

 

『ええ、ですから美羽さんにも兄と同じことを言います。僕はもう逃げないと決めたんです。だからいくら勝見込みがなくても今回の試合だけは逃げません』

 

『・・・そこまでの決意でしたらもう何も言いませんわ』

 

『それに』

 

『それに?』

 

『兄さんが僕をかっこいいって言ってくれたんだ。僕の憧れである兄さんが』

『だから、明日の試合は諦めずに頑張りますよ』

 

「と言ってましたよ」

 

信一に言葉はない、そんな信一に美羽は

 

「ですから最後まで兼一さんを見てください、兼一さんを信じてください、あなたがかっこいいと言った弟さんの決意を最後まで見守ってください」

 

その言葉に説得された信一は黙って座る

そしてそんなやり取りのすぐあと試合は動いた

 

先ほどと同じように動いていた兼一と大文字だが、大文字の方が足にきている

大文字の筋肉はスポーツをするのに向いていない、ただ単純なパワーだけをお求めて鍛えていたため疲れやすいのだ。

 

そんな大文字の足に兼一の足が引っ掛かり大文字はこける

 

「おいおい、大文字、足にきてんじゃねえか」

 

「だらしいねぇぞ!」

 

いままで兼一が一方的になぶられるのを楽しんでみていたほかの部員たち、だがこれまでの攻防から手に汗を握って見ていた。そんな時にこのようなことが起こった。

 

もしかすると下っ端が勝つかも

 

そんな思いが部員全員の胸に飛来する

 

「大丈夫か」

 

大文字に近づく審判

 

だが大文字は審判の言ったことが聞こえなかったのかすぐに立ち上がり吠える

 

「この、フヌケならフヌケらしくとっとと沈んどけー!」

 

「兼一!」

 

いよいよ、ここまでかと信一は思った、だが美羽は兼一の表情を見て

 

「ようやくあの歩法の真の意味に気がついたみたいですわ」

 

「え?」

 

自分とは真逆に安心しきった声でそう言った

 

「わたくしが兼一さんに教えた歩法は何も避けるためだけの物じゃありません」

 

「それは」

 

信一に自分が教えたことを解説している美羽、そんななか大文字は兼一に突っ込んで行った。

 

「真にすぐれた技というのは攻撃と防御が一体になっている技」

 

兼一は己の左足を大文字の左足の内側に滑り込ませ、すかさず己の右足を大文字の左足の外側へもっていき攻撃が当たる瞬間、右足を軸に側面へ回り込む

 

“扣歩”

 

「兼一さんはあの歩法が避けるための物と先ほどまでは勘違いしてずっと避けていました」

 

ここまでは先ほどと同じ、しかし兼一は先ほどまでと違って体制を戻すとき右腕を大文字が突いてきた腕の下側をくぐらせ顔面に持って行った、そうしたことで当たるまいととっさに避けようとした大文字の重心が後ろに移動する

 

「ですが先ほど、足が引っ掛かったことで気がついたのでしょうあの位置からさらに一歩踏み込むことで攻撃ができることに!」

 

兼一はその隙を見逃さなかった、いや体が勝手に動いたのだろ、この一週間この練習ばっかりやってきたのだから

軸にしていた右足と大文字の左足を踵を合わせる、そうすることでとっさに左足が動かなくなってしまったため大文字の上半身だけが後ろに行く、兼一はそのまま左足をスライドさせ体ごと一歩前に出た

 

“擺歩!”

 

大文字はそのまま後頭部から倒れた

今までの疲れもあったのだろう、気を失ってしまった

 

そして兼一は大文字に言い放つ

 

「僕は、僕はもうフヌケじゃな!!」

 

一人を除きこの場に全員がいま起きたことが信じられないとばかりに静かになった

 

審判をしていた先輩がまず動き大文字に近ずく

 

「おい!バケツに水を入れて来い!気を失ってやがる」

 

その瞬間部員たちと信一は理解した

兼一が勝ったのだと

 

「うおおおおお、マジかよ!」

 

「下っ端が大文字に買っちまったぜ!」

 

その瞬間湧き上がる歓声、誰一人兼一の負けを疑わなかったのに起こった大番狂わせ

 

「ほら、信じてよかったでしょう?」

 

未だ呆然としている信一にどうだ、と話しかける美羽

 

「・・・勝ったんだよね?」

 

「ええ」

 

未だに信じられない信一が美羽に問いかける

 

「本当に勝ったんだよね?」

 

「だからそういってますわ、なんなら頬をつねって差し上げましょうか?」

 

いい加減じれったかったのか痛みに訴えかけようとする美羽を拒否する信一

 

「そうか、勝ったのか、あの兼一が、あの泣き虫だった兼一が」

 

怪我をすることなく終わった安心感もあるのだろう信一は目に涙を浮かべ喜んでいる

 

そんななか大文字は目を覚ます

 

「お前の負けだ大文字」

 

審判をしていた先輩はそう告げた、だが大文字は

 

「あ、あんなの反則だ!空手の技じゃねえ!」

 

言い訳をする。自分から喧嘩みたいなルールを振っておいていざ負けると言い訳、まったくもって往生際が悪い

 

そんな兼一の勝利にケチをつけ始めた大文字に信一は

 

“あの野郎!いい加減にしろよ”

 

と怒りを顕わにする

 

だがその辺のことは意外と厳しいのか先輩が

 

「往生際が悪いぞ、見苦しい、負けたら空手部を去る。そう決めていただろうが男と男の約束なんだろ?」

 

と大文字の言い分を却下する

 

その言葉を聞いた大文字は

 

「オ、オレ・・・空手部やめたくないよ!」

 

と叫ぶ、信一は怒りこそ収まっていたがさっきから言っている自分勝手な言い分にあきれ返った。

 

だが兼一は

 

「確かに空手に投げ技はありませんよね、この試合、僕の反則負けです」

 

という、勝ちを捨てた兼一に驚く一同、しかし信一はそんな兼一の事をなんとなく予想してたのか

 

“はぁ、なんかそう言うような気がしたよ兄ちゃんは、まったくお人好しすぎるぞ”

 

と思っていた。

 

信一の後ろにいた美羽にも今の発言は予想外だったのかクスクスと笑い

 

「本当に愉快な方ですね兼一さんは」

 

「とんでもなくお人好しなだけだよ」

 

「ふふふ」

 

と二人そろって笑みを浮かべる

 

「でわ、そろそろ行きますわ、部活を途中で抜けてきたものですから」

 

といい戻ろうとする美羽に信一は

 

「美羽ちゃん」

 

「はい?」

 

「兼一と友達になってくれてありがとう、美羽ちゃんがいてくれたからあいつは立ち向かえた」

 

お礼を言う

 

「お気になさらず、立ち向かえたのは元々兼一さんに勇気があったからですわ、私はただ技を教えただけ」

 

あくまでも兼一が頑張ったからだという美羽

 

「だけど、その勇気を引き出して、後押ししてくれたのは美羽ちゃんだろ?だからありがとうなんだ」

 

すでに昨日、兼一が言っていたある人が美羽だということに気がつている信一、弟の背中を押してくれてありがとうと言わずにはいられなかった

 

これ以上は失礼になると受け入れる美羽、そしていい加減戻らないといけないと言い後ろを向き走り出す。その背中に信一は

 

「なにか困ったことがあったら言ってくれ、兼一の兄として、そして一人の友達として出来る限り力になるから」

 

今度は答えず返事代わりに笑みだけ浮かべて去っていく美羽

その姿を見てすごい身体能力だと信一は思う

 

美羽が去って、兼一もすでに道場から出ている

これ以上ここに用はないと信一は立ち去る

 

兼一を探そうと正門の方へ急ぐ信一、運よくちょうど正門を出たあたりのところに兼一はいた

 

「兼一」

 

「あ、兄さん」

 

「お疲れ様」

 

「うう、やっぱり見てたんだ」

 

「まぁな、やっぱり心配だったし、というか普通にいつ乱入しようかと思ってたよ」

 

「ううう~、心配かけてごめんなさい」

 

「ほんとだよ、まぁ特に怪我らしい怪我はしていないからいいけど」

 

心配かけたと謝る兼一、気にしてないと言う信一これ以上は埒が明かなくなるから二人とも話を打ち切る

 

「・・・兄さん、結局退部になっちゃたよ」

 

「だな、たくっあいつの事なんか気遣わなくていいだろうに」

 

「あはははは」

 

特に言い返さない兼一

 

「うん、でも譲れない物があったんだ、それが何か自分でも分からないんだけど」

 

「なんだそりゃ」

 

自分でもよくわかってないという兼一に笑う信一

そのまま、二人は黙って帰路についていた。だが

 

「よお、兼一!試合はどうだった?」

 

と宇宙人登場

 

「人がいい雰囲気で帰ってたのに水差すんじゃねよ」

 

「ひゃ~はははは!」

 

信一の訴えにそんなこと気にしねえと笑う新島

 

そんな新島が兼一もうっとおしかったのか

 

「僕の反則負けだよ、結局空手部は退部さ」

 

とぶっきらぼうに答える

てっきり笑い転げるのかと思っていた二人だが

 

「俺様の耳をなめるなよ、確かにみんながお前の反則負けだと言っているが、今日のあれは試合じゃねえ、喧嘩だ。だったらあれは誰がどういおうとお前の勝ちだ兼一。俺はゆがめられた情報が大嫌いなんだよ」

 

と予想外の事を言ってきた。

 

これに驚く二人

兼一はありがとうと言い横を通り過ぎる

信一は珍しこともあるなと、今は特に何も言うことが無いのでそのまま横を通り過ぎる

しかし二人はあることに気がついた

 

“あれ?そういえばあいつ俺(兄さん)が一緒にいてもフヌケンって絶対一度は言うはずなのに”

 

どういう心境の変化かこの日を境に新島は兼一の事をフヌケンと言わなくなった。

 

 

 

 

「ああ、そうそう祝勝祝いにいい情報を教えてやる」

 

「「?」」

 

急に振り向き何やら不穏なことを言い出しそうな新島

 

「今日の結果を兼一の勝ちだと思っているのは俺らだけじゃ無くてな。審判をしていた筑波先輩っているだろ?あの人がそうでよ」

 

「「それで?」」

 

「近々お前の腕試しをするっていきり立ってたぜ~」

 

「「な、なにぃ~!?」」

 

二人そろって驚く信一の方もこんな展開になるなんて思わなかったんだろう

 

「筑波先輩といえば空手部でも1,2を争う実力者、しかも裏じゃ不良グループとつながっているって噂だぜ~、ひゃははははは!!これでお前も今度こそお終いだな~」

 

何が面白いのか、爆笑しながら走り去っていく新島

 

“ど、どうしよう~!?”

 

と呆然と立ちつくしている兼一

 

“これはいよいよ俺も変わらないといけないな”

 

そして信一の方は決意をする、もう立ち止まっている場合じゃないと

 

 




あとがき

すいません前回以上に長くなってしまいました。
回を増すごとに文字数が増えていく、読みにくいと思われましたらすぐにでもおっしゃってください。

さて、ようやく原作一巻の大部分が終了、プロローグ以来の戦闘描写です。やっぱり難しい、というかやっぱり戦闘はしないうちの主人公、期待されている方、本当にすみません。

さて次回はようやく兼一が梁山泊に入門、信一も(一応)戦闘をする予定です。

ご意見、ご感想お待ちしております
ではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。