神殿・地下牢
「生きていますか八雲紫……?」
「……エス……ターク……」
紫の牢へ来たエスターク、傷は負っているが少しだけ機嫌は良い
「ッ……くぅ……」
紫はかなり消耗していた、大量の妖怪を送る為にスキマを使われたのだ、抵抗が負荷となりかなり体を痛めたがなんとか意志で耐えれていた
「……フフ」
紫は笑う
「また失敗したみたいね……もう止せばよろしいのに……」
他人行儀に嘲笑う
「確かに失敗はしましたが……得る物はありました」
そう言うとエスタークは懐から指輪を取り出し紫に見せる
「……!!それはアリスの……」
「そう……アリス・マーガトロイドから頂いた物です、妖怪を相手にしている一瞬の隙を狙って……」
エスタークはダイを狙う前にアリスを襲っていた
妖怪を1人で相手にしている隙を狙って
「奪うので精一杯でしたがね」
だが出来たのはバーンの遺産である指輪の奪取のみ、あわよくば洗脳しようと試みる前に気付かれたから指輪だけで済ませていた
「これも因果に辿り着く物ではありませんでした……」
「因果……?」
「そう、大魔王バーン……貴方もご存知でしょう?」
「……それが?」
「上手くは言えませんがきっと私の夢を叶えてくれるに違いありません」
「……やられ過ぎて寝ているのかしら?何を言っているのか理解に苦しむわね」
「でしょうね、だから私にも上手く言えないのです……」
不意にエスタークの手が紫の懐に伸ばされる
「何を……!?」
懐から取られた物に顔がひきつる
「これも違いますね」
取られたのは扇子
紫がバーンから贈られた物、これも遺産の1つ
「何の施しもされていない……本当にこれを大魔王が貴方に?」
扇子を眺めながらエスタークは笑う、紫の自演なのではと
「施しならあるわ……」
「何もありませんが?」
紫の言葉にまた笑うエスターク、彼には理解出来ていない
「あるのよ……貴様には見えない物が……!」
そう、施しは確かにある
それはバーンとの絆
扇子自体がバーンとの繋がりの証、優れた能力が付加されていなくともそれだけがあれば紫は満足なのだ
「貴様には必要無いでしょう……返しなさい」
だからそれが他者の手に渡るのが許せない
「ハハハ……断ります」
エスタークは返さなかった
「必要が無いのは確かですが貴方の怒る様を見るのは気分が良い……頂いておきますよ、フフ……」
「くっ……うぅ……!!」
唇を噛む紫
そこにエスタークは更なる追い打ちをかける
「そしてそんな貴方に紹介したい者が居ます」
そう言うと合図を出した
「おお~良い様だね八雲紫!」
「!?鬼人……正邪!?」
入って来た正邪に驚愕する
「何故貴方がここに……」
「何故って?エスタークの仲間になったからさ!」
「……」
「信じられないかい?そりゃそうだろうね、私は今までずっと猫を被ってたからね」
「……」
ガッ
紫の頭を掴み上げる
「お前等に復讐する為にねぇ……」
とても嬉しそうに正邪は笑う
「お前等強者がのさばるから私みたいな弱者が虐げられる!」
ドスッ
「ぐっ!?」
殴られた紫の表情が歪む
「そのツラ気に入らないんだよ!何もかも悟ったツラしやがって!」
ドスッ
「弱者の気持ちを考えた事あるのか?ああ!?聞いてるのかおいっ!」
ドスッ
「ハハハハハ!!」
振りかぶる腕
「やめなさい、それ以上は許しません」
エスタークが止めた
「……悪い、熱くなってたみたいだよ、この様を見たら抑えられなくてね」
正邪が腕を下ろして退くとエスタークが紫の前に立つ
「そういう訳です、如何ですか御気分は?」
「……」
「フフ……」
何も答えない紫に失意を感じたエスタークは踵を返す
「行きますよ正邪」
「はいよ……じゃあな八雲紫」
エスタークに連られて歩く正邪
ポッ
「!?」
紫に極小の弾が当たり紫は顔を上げる
「……」
僅かに微笑む
(迫真の演技だったわ、私も裏切ったと信じてしまう程に……)
正邪の裏切りが嘘だと確信したからだ
確信したのは……
(頼むわね正邪……)
牢から出る間際に正邪が紫にしか見えない様に親指を立てていたから
神殿・謁見の間
「それでこれからどうするんだ?私は何をしようか?」
正邪が問う
「少し時間を置きます、あのスライムを得るのが不可能な以上まずは遺産を狙いましょう」
「遺産って言ってもどうするんだよ?遺産の大半は頂点が持ってるんだろ?まさかあの花や酒や機械を狙うのかい?」
「……それは狙いません、因果に辿り着く物ではないでしょうから」
「じゃあ頂点の遺産を?冗談だろ?」
「今は不可能ですね……そこで貴方の出番です」
「私の?」
「ええ、貴方の知る情報を教えてください、頂点の弱味になる様な事を」
「良いけど……大した物は無いよ?」
「それを判断するのは私です、ではウォルターに話してください」
「わかったよ」
ウォルターと共に間を出ていく正邪
「よろしかったのですか?洗脳せずにあの様な輩を引き入れて」
傍らのミストが聞いた
「心配要りません、正邪はテストをクリアしました、余程恨みがあった様です」
エスタークは正邪を試していた
完全に信用していないエスタークは紫を使って正邪を試した
同胞であろう紫に対する反応を見て判断しようとしたのだ
「あの攻撃には憎悪と殺意が見えた……私が止めなければ殺してしまう程に……あれが演技なら大した役者です」
「エスターク様がそう言うならこれ以上言いませんが……」
「大丈夫ですよミスト……彼女は私に似ている、あの憎悪は洗脳で消すべきではありません、あの憎悪……これからが楽しみです」
含み笑うエスターク、その笑顔はすぐに戻った
「……他の者はどうですか?」
他の者とは配下、ミストとウォルター以外の者、バルバトス等の事
「今はまだ大人しいですが不満が溜まっています、特に王子が……あの骸は暴れるので抑えていますが何故あの骸はエスターク様の能力が完全に効かないのですか?」
「王子は放っておきなさい、精霊を洗脳している以上大した事は出来ません、それよりあの王ですか……」
表情が苦くなる
「私の能力……名はありませんが幻想郷に倣えば獄を支配する程度の能力、あの骸は私が見つけた中で最も強かった者……魔王の魂を甦らせた者です」
「魔王……」
「そう、強い魔の力は私の能力に抵抗出来るのです、魂だけだったので抵抗しきれませんでしたがそれでも私の支配を完全に受けている訳ではありません、王たる由縁でしょう」
「どうされますか?」
「抑えておいてください、いずれ役に立つ場面が来ます」
「わかりました」
会話が終わるとエスタークは立ち上がる
「傷を癒して来ます、ウォルターの報告が来たら教えてください」
「仰せのままに」
エスタークは間から去っていった
紅魔館
「……アリスの指輪が奪われたらしい」
神妙に話すのは妹紅
「やられたわね……」
パチュリーの顔も苦い
「くそっ!」
妹紅は机を殴る
「落ち着きなさい妹紅」
レミリアが嗜めるが
「これが怒らずにいられるか!」
妹紅の怒りはおさまらない
「アリスの道具も奪われた!それに裏切り者が出たんだぞ!」
おさまらないのは遺産が奪われた事と正邪の裏切り
「誰かわからないけど許せるかよ!」
エスタークに荷担する者が許せない、正邪とは知らないが誰であろうと裏切りは許せなかった
「……裏切りって何故貴方にそれがわかるの妹紅?」
「それ以外に何があるんだよ!」
「まぁまずは落ち着きなさい」
呆れるレミリアはまた落ち着く様言うと
「本当に裏切りなのかしら?」
疑問を聞いた
「……なんだよ?」
まだ怒りがおさまらず考えれない妹紅はレミリアがそう思う訳を促す
「そうね……まず裏切る者が居るか、居るなら誰か、それから考えましょうか」
妹紅を落ち着かせる為に咲夜に紅茶を出させ改めて話し出す
「ねぇ妹紅、今裏切り者に心当たりは?」
「……無い」
「そうね、私も無い……」
「何が言いたいんだよ」
「では昔は?」
「昔……?」
「そう、昔って言ってもピンと来ないわよね?ならバーンが現れる前なら?」
「……!!」
妹紅は気付いた
「まさか……正邪か?」
「そう……正邪しか考えられないのよ」
レミリアはそんな真似をするのは正邪しか居ないと考えていた
「正邪さんだとすれば何故エスタークを助けたんでしょうか?」
大妖精が問う
「それは妹紅が原因じゃないかしら?」
「私が……?」
妹紅は全くわかっていない
「ねぇ妹紅、エスタークを殺せばどうやって紫達を助けるの?」
「エスタークを倒せば脱出出来るだろ?」
レミリアは呆れる
「その認識が甘いのよ」
紅茶を注がせながら見解を話す
「貴方はそう言うけどそんな保証がどこにあるの?まさかエスタークを殺せば紫達が解放されるとでも思ってたの?」
「そ、それは……」
「図星の様ね……呆れた……一時の感情に任せるからそうなるのよ、もしエスタークを殺しても紫達が脱出出来なければ神は別としていくらあのスキマ妖怪と現人神と言えども朽ち果ててしまうわ」
「そう……だよな……悪かった」
妹紅は謝った
ようやく理解したからだ、愚行を、己のしでかそうとした行いの意味を
レミリアの言う通りエスタークを殺してしまえば紫達は囚われたまま、場所はおそらく異世界、探し様が無い
エスタークを殺してしまえば紫達は解放されるか?それはわからない、なのに妹紅は殺そうとした、どうにかなると言う楽観的な希望だけで
それがどれだけ愚かな行為であり浅はかな考えであったかを思い知ったのだ
「正邪だとすればそれを防ぐ為だった筈よ、あの天邪鬼の胸中はわからないけどきっと幻想郷の為に動いている……」
レミリアは語る
だがそれも希望を含んだ楽観的な事なのだ
正邪かなんてわからないし仮に正邪だとしてももしかすれば本当に裏切りかもしれない
でもそう思う、確証は無い確信
バーンが救った幻想郷にそんな者は居ないと言う願い
「わかった……気を付ける」
苦く言う妹紅
しっかり理解した様子にレミリアは口を開く
「今は怒りを溜めときなさい、全ての条件がクリアされた時、残すはエスタークを始末するだけになったその時には……」
「貴方の怒りの業火……不死なる炎鳥で焼き殺してあげなさい」
人差し指を突きだしウインクして見せた
「……わかったよ、それは任せといてくれ!」
二人が笑う
「……」
その様子を見ながら大妖精も笑う
「……あ!!」
ふと大妖精は思い出す
「チルノちゃん!」
大事な事を
「どうしたのダイちゃん?」
気付いていないチルノに小声で話す
「また凍らせる時間だよ!」
「あっ!?」
チルノも思い出した
「最近色々あったから忘れてた……早くしないと……」
「そうね……行くわよダイちゃん!」
慌てる様子の二人
「どうしたの二人共?」
「わかった!お腹空いたんでしょ!」
パチュリーとフランが聞くが
「ちょっと用事があるからあたい達出掛けるわ!」
すぐに二人は出ていった
「どうしたのあの二人?」
「わかんない」
顔を見合わせる
「親分と大妖精にも色々あるんだろ、あの二人は心配無いさ」
「そうね」
妹紅とレミリアの言葉に深くは入らなかった
神殿
「頂点の弱味ねぇ……」
質問を受ける正邪は頭を捻っていた
「何かありませんか?」
「うーん……弱味って言われてもなぁ……」
正直考え付かない
嘘を教える訳にもいかないから真剣に考えているが弱点になりそうな点が無い
「てかさ、弱味じゃなくても良いんじゃないか?」
「?どういう事ですか?」
「エスタークは弱味だとかそんな事に気を取られ過ぎてるんだよ、別に騙し討ちとかでも良いだろ?」
「……何か妙案が?」
「頭の固い奴だなウォルターは、いや、命令を聞くだけだから応用が難しいのか?……まぁ良いか、妙案なんて物じゃない、ツラが割れてるエスタークの代わりに誰かが行けば良いんだよ」
「戦えと?」
「バカ、死にたいなら戦えよ、私が言いたいのは何にも知らない外来人のフリして近付いて遺産を掠め取って来いよ、って事だよ」
「なるほど」
「チルノと大妖精辺りならイケるだろうさ、バカとお人好しだからな」
「ふむ……」
「あ、間違っても捕まえようとかするなよ?そこまでやろうとしたら一瞬で氷漬けかバラバラのミンチよりヒデェ状態になる事請け合いだ」
「でしょうね、あの妖精の力は充分にわかっています」
「狙うならパチュリーと妹紅が居ない時だな、成功率は結構高いと思うよ」
「わかりました……」
そう言うとウォルターは部屋を出ていった
「……ハッ」
一人になった正邪が鼻で笑った
(バーカ、返り討ちがオチに決まってるだろ、この状況であいつらが油断するかよ、敵さんの数は減らしとかないとねぇ)
ニヤリと笑うと正邪も部屋を出ていく
彼女の推測は正しい
如何に成長したとは言えまだまだ幼いチルノやお人好しの大妖精と言えど警戒している今易々と騙し討ちに引っ掛かる訳が無い
だがそれは普通の状態、精神が安定しているからこそ成り立つ考え
二人の妖精の今を知らない彼女は知らずに提案してしまったのだ
最悪のタイミングで……
霧の湖の森
「え……」
チルノの顔は蒼白になっていた
「嘘……どうして……」
同じく大妖精も
「居ない……なんで……」
そこにいる筈の者が居なかったから
「誰かが連れていったの!?」
「そうとしか考えられないよ……」
怒るチルノ
「どうしよう……どうしよう……」
しかしすぐに焦りが勝る
「もう話すしかないよチルノちゃん……」
大妖精が提案するも
「探すわよ大ちゃん!」
聞く耳を持たずに飛び出して行った
「うー……」
大妖精もチルノとは違う場所へ飛んでいく
話せば良かったのにそうしなかったのは罪の意識があったから
いけない事をしていると自覚があったからバレる前に見つけ様としたのだ
地獄
「御苦労でした小町」
「疲れましたよ映姫様、休暇ください」
労う映姫に調子に乗る小町
「今はそれ所ではないでしょう?」
「わかってますよ……」
キッと睨まれて小町は諦める
「これで二人の肉体と魂は揃いました」
「では次の段階ですね?」
「ええ、早速始めましょう、来る決戦に間に合わせなければなりません」
「決戦の前に終わりそうですけど……あの帝王じゃ無理じゃないですか?」
「今はそうでしょう、ですが予感がするのです、近い内に帝王は真の王に……名実共に王になる予感が……」
「……始めましょう」
「貴方には迷惑を掛けますね、これが終われば暫く休暇をあげましょう」
「何言ってるんですか映姫様、休暇を貰っても特にする事ないんです、仕事の合間にサボるから良いんですよ」
「フフ……そうですか」
閻魔と死神は微笑み合い来る時の為に出来る事を開始した
幻想郷・妖怪の山
「どこに居るのよ!」
叫びながら探すのはチルノ
一心不乱に飛び、探し回る
(どうしよう……どうしよう……!!)
内心はかなり焦っていた、絶対に居ないであろう草むらの中や木の中まで探している
(魔理沙……魔理沙……)
目に涙が浮かびかけたその時
「何かお探しですか?」
チルノに話しかける者が現れた
「……何よあんた」
現れた者を睨むチルノ
若い男、歳は20は過ぎているだろうが30は行ってないような外見
チルノに睨まれても笑みは崩さない
「いえ、貴方が何かお探しでしたら知っているかもしれないので聞いてみたのですよ」
「!?魔理……」
チルノは口を閉じた
この初めてあった者が魔理沙を知っている訳がないから、だから魔理沙を?と言いかけて止めた
「……」
現れた者は考えていた
(まり?……鞠?いや違う……魔理……沙……?霧雨魔理沙?)
そう予想し意を決して聞いた
「霧雨魔理沙をお探しでしょう?」
「!?」
チルノの反応に正解を感じた
「知ってんの!?」
「ええ、知っています」
「どこに居んの!?」
「こちらです」
歩き始めた後をついていくチルノ
少し離れた人気の無い岩壁にある洞窟を指差す
「あそこに居ましたよ」
「ありがと!」
すぐに入っていくチルノ、全く疑っていない
「……魔理沙!」
洞窟の中は浅く、すぐに最深部まで辿り着いた
「……?」
薄暗い辺りを見回すも何も無い
「居たでしょう?」
背後から声
「……どこに居んのよ?」
現れた者を睨みつける
「居るではありませんか……貴方の足元に……」
ヒュン
風切り音が聞こえた
ドッ……コロ……コロ……
何かが転がる音
「えっ……?」
顔を落とし注意深くそれを見た
「ひっ!?」
顔は恐怖に歪んだ
転がって来たのは首
妖怪の首だったのだ
「あ、あぁ……」
チルノは恐れた
血の滴る死体に……
死体など見慣れているのに恐れた
それは悪意に満ちた所業が混じるから
殺した妖怪の首を使う残虐な悪意が首には籠っていたから
ヒュン
「痛っ……!?」
チルノの耳を何かが通り過ぎ小さな痛みを走らせた
「……!?あっ!?」
耳に手を当てるとすぐに気付いた
イヤリングが無くなっている事を
「あんた……」
睨みつけるチルノは見た
「確かに頂きました……」
外から僅かに届く光に照らされて
時折反射して男の周囲を舞う細い糸状の物を
「返……」
取り返そうと動いた瞬間
「!?」
周囲を刻まれ動きを止められた
「……吸血鬼のお友達によろしくお伝え下さい」
声が遠くなっていく
「ウォルター・C・ドルネーズがいずれ挨拶に伺います……と……」
声は微かになっていた
「待てぇ!!」
ゴウッ!
冷気が放出され洞窟内はおろか溢れた冷気が妖怪の山の一部を凍らせる
「……!!」
外に出て居るか確かめるも
「~ッ!!」
怒りに唇を噛み締めた
逃げられたからだ
「……そ、そうだ!」
そして思い出す
(魔理沙も……)
遺産は大事、バーンから贈られた大事な宝物、大事なのは決まっている
だが今はそれよりも秘め事が大事だった
遺産は取り返せば良い、今の男もきっとエスタークの仲間、取り返せる可能性はあるのだ、だがこれは相手もどこに居るかもわからない事、だから優先した
「大ちゃんは!?」
同じく探す大妖精を思う
大妖精の遺産は大丈夫なのか、そもそも襲われていないか、そして見つけられたのか、と
「……!!」
どちらも気になるチルノは急ぎ飛んでいった
「これは……チルノか、何があったんだよ森をこんなにして……」
チルノが去った後に現れた者が一人
(良くない事が起きたみたいだ……)
現れたのはにとり、研究室から異常を察して見に来たのだ
(これ以上あいつらに暴れられるのは良くないかもしれない)
凍る森を見つめてそう考えた
これはチルノが何かされて反撃した証だと考えたのだ、先日から迎撃出来てはいるが防戦一方で被害もあるから
それを起こしたエスターク等の行動の果てを危惧したのだ
(あ、そうだ、あいつが居たんだった!聞いてみるか、こっちは出来ても無用の長物になりかねないところだったし)
そしてにとりは交信を試みる
「聞こえるかい?」
『……』
「返事しなよ役立たず」
『聞こえている……全く、我にそう言えるのはお前だけだ……我をなんだと思っている……』
「そんなのはどうでも良いよ、それより聞きたい事があるんだけど?」
『それが願いか?』
「あぁ!?寝ぼけるなよ役立たず!ぎったんぎたんにしてやろうか!役立たずなんだからそれぐらいサービスするのが筋ってもんだろ!」
『お前にやられる程弱くはないぞ?』
「……やってみる?」
『……止しておこう、あのキラーマシンは手に余りかねん……それで何が聞きたいのだ?』
「今この幻想郷で何が起こってんの?」
『……わからん』
「……は?」
『わからんのだ……我でも理解出来ぬ、何が起きているのかも……』
「……じゃあエスタークの目的は?」
『……エスターク?』
「なんだ知らないのかよ、今幻想郷はエスタークに狙われてるんだよ」
『……』
「どうしたの?」
『いや……我が感じる事にエスタークの存在が薄く感じてな』
「……?それでわかるの?」
『1つは支配、1つは己が作った邪法の完成、後1つは……夢の……具現……』
「夢の具現?何それ?」
『わからぬ……言えるのは良くない事が起きる事だけだ、幻想郷のみならず全ての世界すら危ういかもしれぬ……』
「訳わからん……まぁいいや、じゃ願いを言うから聞いて」
『なんだ?』
「幻想郷を救え」
『……出来ん』
「何でだよ!前のより簡単だろ!」
『無理なのだ……既に因果は蒔かれ芽吹き始めている、これを覆すには因果率に干渉せねばならん、それは我にも不可能、出来るのはおそらく創造神グランゼニスのみだろう』
「使えない……本当に使えない」
『許せ……』
「もういい喋るな、あんたの声を聞いてると思わず願っちまうからさ!死ねって!」
『それは……』
「これは出来るだろ!?出来ないとは言わせない!」
『許してくれ……』
「だから喋るな!イライラするから!」
『……』
「チッ……」
研究室に戻ろうと踵を返すにとり
『にとり……』
呼び掛けられた
「何だよ?いい加減にしろよ?」
今にもキレそうなにとり
『幻想郷を救いたいなら……』
声は言った
『八坂神奈子に会わせるのだ……』
それを最後に声は消えた
(八坂神奈子に……?何で?)
にとりは疑問に思う、神奈子に会わせるのが救いに繋がる理由がわからないから
(……何かあるのか、説明出来ない何かが……同じ神だからかねぇ……)
そんな事を考えながらにとりは研究室へ戻っていった
紅魔館
「大ちゃん!」
チルノが扉を開けて叫ぶ
「チルノちゃん……」
「良かった無事で……」
大妖精は無事だった、悲しい表情だが
「無事じゃないわ……」
パチュリーが険しく告げて大妖精の首元を指差す
「あ……」
「取られちゃった……」
大妖精のネックレスが無くなっていた
「騙されたらしいわ……探し物を一緒に探してくれるって奴にね……」
「!?」
それを聞いてチルノが反応する
(あたいと同じ……)
耳に手を当てた
「!……チルノもなのね……」
イヤリングが無い事に気付いたパチュリーは額を押さえる
「エスタークは遺産を集めて何を……まぁいい、良くはないけど……今は置いとこう」
妹紅が切り出した
「今大妖精に聞いてた所だったんだ……お前達何を隠してる?」
聞いたのは二人がひた隠しにしている秘め事、聞く気はなかったが聞かざるを得なかった
「何か焦らせる事があったんだろ?じゃなきゃお前達がバーンのアクセサリーを奪われる訳が無い」
二人を狼狽させる事態が隠していた事と関係していると確信したから
「……」
チルノは静かに俯いていた
「チルノちゃん……もう話すしかないよ……」
大妖精も話したくない、チルノとの約束だから自分からは話せない
「何も……ないわよ……」
小さく呟く
「いい加減にしろチルノ!」
ビクッ
妹紅の怒鳴りに体を跳ねさせるチルノ
「話せないのか!私達にも!」
5人の視線が向けられる
「……わよ!」
震えながらチルノが呟く
「話せなかったの!話せる訳ないじゃない!!」
顔を上げて叫ぶチルノ、涙が頬を伝っていた
「魔理沙を……隠してたなんて……」
「そうです……魔理沙さんの遺体を霧の湖の森に隠していたんです……」
二人は全て話した
二人は魔理沙の遺体を冷凍保存して隠していた
亡くなった時のままで……
「バカな事を……」
レミリアが額に拳を当てて苦言を呟く
本来は怒るべきなのだ、死者の冒涜に当たる行為だから
怒るべきなのだが怒れなかった
「ねぇ……二人を許してあげて?」
フランは許した、もし同じ立場だったらそうしただろうから
「……」
「……」
妹紅とパチュリーは話さない、怒りは湧いてこなかった、だが表情は複雑に曇っている
「……ごめんなさい」
大妖精が堪らず謝った、怒られもしないのが逆に辛い
「……」
チルノを見つめる妹紅
パチュリーを見ると頷かれた
「……ふぅ……」
溜め息を吐いてチルノに話し出す
「チルノ……お前の気持ちはわかってるつもりだ」
弱くも強くもない口調で話し出す
怒らないのはチルノの想いを知るが故
別れを拒絶するチルノの行動が痛い程理解出来たからだ
生き返らないのはわかる、でも朽ち果て惨く消えるのは想像したくない
絆まで朽ちてしまいそうだったから……
だから遺体を隠し凍らせたのだと
バーンの灰を置いておこうとしたチルノだったから想いを汲んで強く言えなかった
「あたいは……あたいはずっと一緒に居たかった……バーンが居た頃みたいに……楽しく……」
想いを語るチルノ、涙は止まらない
「でもバーンが居なくなって……魔理沙も居なくなって……無理だったの!あたいには耐えれなかった……」
「ッ……!?」
顔を苦くするしかない5人、だがその中でもレミリアだけは手を顔に当て苦しんでいた
(バーン……!!)
レミリアの想いは特別、愛していたから
チルノの想いが昔の自分に重なりバーンを強く思い出させたからだ
「ひぐっ……えうっ……」
嗚咽を混じらせ啜り泣くチルノに
「チルノ!」
妹紅は言った
「悪い事してたって自覚はあるか!」
声を張り上げる
「うん……だから話せなかった、ダメだって言われるのはわかってたから……」
「……」
近付いていく妹紅
「ッ!?」
目を閉じ身を強張らせる
ポンッ……
「ならいい」
妹紅は笑った
「……え?」
怒られると思ったチルノはきょとんとして妹紅を見る
「良いだろ皆?」
チルノの頭に手を乗せた妹紅が振り向いて聞く
「ええ、構わないわ」
レミリアは微笑む
「次からはちゃんと話すのよ?」
パチュリーも優しく微笑む
「次はあたしも交ぜてくれなきゃ壊しちゃうからね!」
満面の笑みでフラン
「う~……う~……!!」
優しさが染み渡る
「ごめん……ごめん……うああああん!!」
妹紅に抱きつき大声で泣いた
「……ごめんなさあああい!!」
大妖精も泣いた
「……強く生きるのも難しいよな」
チルノを抱きながらバーンの写真に目を向ける
「強さにも色々ある……お前は力は強くなったけど心が追いつかなかった……でもさ……」
チルノへ目を戻し
「お前はそれで良いと思う、強さと脆さを持ったチルノが私達の友達だから……」
天井を見上げ
「チルノの脆い所は私達が補うよ……」
目を閉じ
(それでも良いだろバーン……)
今は亡き友に聞いてみた……
「ほら、顔を拭きなさい」
パチュリーが二人にハンカチを渡す
「はいっ!」
わだかまりが解消した大妖精、笑顔で受け取り顔を拭き始める
「……どう?」
拭き終えたチルノが顔を見せる
「……もう、相変わらずね……貸して」
ハンカチを受け取りチルノの顔を丁寧に拭いていく
「お母さんみたいだな」
ポツリと妹紅が呟いた
「フフ……」
パチュリーが笑った
「なんだよ?」
「昔にね……魔理沙にも同じ事言われたのを思い出してね」
「へぇ……私が来る前か?」
「そうよ、顔を拭き終えた後に私がこれで良いわって言うとチルノはこう言ったの……」
「ありがとパチュリー!」
笑顔のチルノが代わりに言った
「こんな風にね」
妹紅へ恥ずかしそうに笑った
「そうかぁ……魔理沙がそんな事をなぁ……」
微笑ましい光景に口元が緩む
「ふふん……悪い気はしないんだろパチュリー?」
妹紅の口撃
「そうね……手間の掛かる子だけどね、ねぇお姉さん?」
パチュリーは受け流した
「お姉さん?誰が?」
意味がわからず頭を捻る
「妹紅に決まってるじゃん!ねー!お姉様!」
「は?私がか!?」
フランの指摘に驚く妹紅に
「そうねフラン、少し困ったお姉さんだけどね」
レミリアの援護
「そ、そんなに困ったちゃんか私は!?あ、いや、それに私はお姉さんなんて柄じゃ!?」
顔を紅潮させ慌てる妹紅
「ほら……今よ二人共」
「はい!行こ!チルノちゃん!フランちゃんも!私の真似してね!」
「?……任せなさい!」
「わかった!」
パチュリーに促され察した大妖精と二人は妹紅へ走る
「お姉ちゃーん!!」
「お姉ちゃ……!?」
「お姉サマー!!」
チルノが気付いた時には既に遅かった、二人につられて妹紅に抱きついてしまってたから
「お、親分までそう思うのか!?」
顔を真っ赤にした妹紅、オロオロしている
「ち、違っ!?あたいが子分をお姉ちゃんだなんて思う訳ないでしょ!」
チルノが慌てて訂正するも
「皆がそう言うなら……しょ、しょうがないなぁ……」
惚けた妹紅には届かなかった
「ピィ!!」
「あら、嬉しそうねダイ」
ずっと黙っていたダイが嬉しそうに鳴いたのを見てレミリアが尋ねる
「ピィ!ピピィ!」
「そうね、仲が良いのが一番ね、友人だもの……」
共に5人を眺める二人
「……」
レミリアだけは真顔に戻った
(舐めた真似してくれたわねエスターク……)
それはエスタークの所業に対して
親愛なる友人の宝物を奪ったエスタークが許せないから
(殺してやりましょうか……妹紅には悪いけど……)
自ら手を下す事を考えるが
「……ピィ!」
混じったダイを含めた6人を見る内に
(……まぁ良いでしょ)
気は薄れた
今日は絆を再確認した日
誰もがこの時を大事に思う
だが誰も知るよしもない
この7人で笑い合うのがこれが最期だとは……
スラスラ書けたら早く出来ますね、面白いかどうかは別として……楽しくなったら2~3時間書き続けてますww
今回は色々と進展した話になります、少しだけですが。
ウォルターに関してはヘルシングから召喚しています、青年期にしています、まぁ絡むのは旦那の種族的に彼女等のどちらかですね。
エスタークの配下が全然出ませんけどまぁそれは追々……
次回も頑張ります!