紅魔館
(チッ……)
紅魔館内を歩き回るエスタークは内心舌打ちする
「どうなっているのです正邪……?」
今の状況を問う
『紅魔館内は十六夜咲夜が空間を広げてるからね、普通なら迷子になる広ささ……って言わなかったっけ?』
正邪の返しに表情をしかめる
「貴方なら空間の構造を把握している筈だったのでは?」
『いやいや!私に言うなよ!知ってるのは前の話さ、今は作り変えられてる……悪いのはあんただろ?』
「……確かに、何度も襲っているのですからこれぐらいは当然の備えですか」
『そういうこったね』
「……何か妙案は?」
『あるよ、しらみ潰しに探せって案が』
「……増幅式と拡散式はどうなっていますか?」
『今の所は異常無しだよ、護衛も居るしあっちは心配無いだろ』
「わかりました」
神殿
(それなりに時間は稼げそうだな)
映像越しに正邪は唇を緩ませる
実は紅魔館の内部は普段と変わっていない、いつも通り
事前に嘘の内部構造を教えておいたのだ
(長過ぎても短過ぎてもダメだからな……2つの式もある程度持ってもらわないとエスタークが諦めて帰ってくるし……)
机を人差し指でトントン叩きながら考えれる可能性を整理する
(靈夢は何とも言えないから戦力外として主はあの二人、あの二人が気付かない様なら遺産は終わりだね……美鈴は嬉しい誤算だったけど飛ばされたからこれも除外、一人か二人で式を破壊……護衛も居るし時間的に長引くかも知れない……)
幻想郷を良く知るが故に可能性を考慮し策を練った
幻想郷に術の増幅式と拡散式を設置し護衛を付けてエスタークに術を使わせる、魔法と術の同時使用時は洗脳や鎖の類いは使えないと聞き出して幾つかあった策の1つを提案した
他の策もエスタークを神殿から遠ざける策、そこが正邪にとって重要、エスタークが自ら行動するタイプだと知ったからこそ出来た策
だがやはり急な策故に不安もある
正邪は永琳とてゐは気付くと信じ、行動の可能性を考えていた
単独行動なら力量的に永琳が紅魔館へ向かうと考えてゐが式の破壊
ここまでは正邪の予想通り
美鈴は想定外だったが飛ばされたから状況は想定内に戻る
予定通りではあるが懸念は式の破壊
てゐが式の破壊に遅れる、若しくは断念の可能性
てゐは決して弱くはないが見張る程強くもない、今や自分の方が力は上
護衛を突破出来ない可能性があったのだ、式を守る事だけを命令された防御力にてゐの力は届かないのではないのかと、ズル賢いてゐなら隙を見て破壊も可能かもしれないが何分不鮮明な事なので考慮出来ない
(ベストは遺産に手を掛ける前か掛けても1つか2つくらいの時に式が破壊されてあいつ等がエスタークを捕まえるのがベストなんだけど……)
流石にそれは難しい
(やっぱり高望みはやめとこう、こっちが成功すれば仮にエスタークに逃げられても反撃の芽が出来る)
そうなるとやはり不安は懸念である式の破壊
(誰か居ないかな……)
考えるも何も浮かばない、いくら長年幻想郷に住んで知っていようとも知らない事も多くある、正邪が知る限りでは誰も居なかった
(……もう少し時間稼ぎしてみるか)
紅魔館
『なぁエスターク』
「どうしました正邪?」
『いや、あんたって行動派なんだなって思って……殺されかけた相手が居る場所によく行けるよな』
「……信用出来ないだけですよ、だから私か動くのです」
『昔になんかあったのかい?』
「……」
少し沈黙するとエスタークは話し出す
「昔に……裏切りにあったのです」
『……仲間に?』
「いえ……神々と……人間に……」
部屋を確認しながら続けられる
「私は今も昔も魔族の王でした、私を慕う者も大勢居て軍とまでは言いませんが大きな集団だったのです」
淡々と話される過去、まだ感情は表れていない
「ある時皆が言いました、魔界は狭い……陽も当たらないと……」
「そこで私は地上へ交渉に出たのです、少しだけでも魔族に土地を分けてはくれないか?と……」
「その頃は夢魔の王が倒されて暫くした頃だったので地上に魔物は少なく、大人しい魔物ばかりで人間に殆ど迷惑は掛かっていませんでした」
「……すぐに人間は交渉に応じてくれました、条件も殆ど無く、すぐに私達は地上へ出れたのです、幸せを感じましたね、その時は人間との共存を本気で考えた程です」
ドアノブに掛けられた手に力が籠る
……ベキッ
「騙されていなければ……」
感情が表れていた、酷い憎しみと怒りが
『騙し討ち……か?』
「そう……人間は最初から魔族を生かすつもりはなかった、地上に上げた強い魔物を皆殺しにする為に交渉に応じたのです」
『……』
「成す術がありませんでしたよ、約束を信じていた私達はなんの警戒もしていなかったから……私を除き皆殺しにされたのは瞬く間……」
『惨いね……』
「一人になった私は抗い続けました、ですが多勢に無勢、捕らえられた……」
『捕らえられたって事は……』
「そうです、人間の恨みの捌け口にされたのです……奴隷扱いですね」
『……』
「存分に嬲られた私は瀕死に……このままではとそこで私はある秘法の使用を決めました」
『秘法……?』
「名を進化の秘法、生命に進化を促し力を得る法です、未完成でしたがね……」
『……それで?』
「使用は出来ませんでした……神々の介入によって……!!」
更に憎しみは表れる
「秘法の使用を危険視した神々によって私は地の底に追いやられた……誰も居ない場所に!打ち捨てられた神殿だけをあてがわれて……!!」
「……そのまま地の底に封印された訳です、能力はその頃に目覚めました、そしてもう何百年経ったかかも忘れた頃……憎しみだけが募り続けるその時に八雲紫が現れたのですよ、あれは心が奮えました……」
『……あんたも中々な目にあったんだね』
「ええ、ですから私は支配するのです……自ら生みだしながら魔族を忌み嫌う神々を……」
『……人間もかい?』
「……当初はそうしようと思いましたが……やはり元凶は許せません」
笑みを見せエスタークは言った
「人間は皆殺しです……」
エスタークは人間によって今を形成されていた
その果て無き憎悪は神々は元より人間は決して許さない程に……
『じゃあ幻想郷の人間も……』
「それはまだ決めかねています、世界が違いますからね……ですが少なくとも私の世界の人間を生かすつもりは全くありません、神々に邪魔をされない戦力が整い次第人間を根絶やしにしてから神々へ矛を向ける予定です」
『……そうか、頑張りなよ!私も手伝うからさ!』
「貴方は何故か信用出来ます、今の私に似ているからですかね……頼みましたよ正邪」
会話は終わり、エスタークは探索を再開する
神殿
「……」
正邪にはある考えが浮かんでいた
(狂ってる……)
エスタークの憎しみを知った感想
(いや……狂わされたのか……)
今の話が本当ならエスタークは本来は優しい王だった
同族を想える男
それを今の復讐の為に力を求め、憎しみ、己しか信じられず、狂うエスタークを作ったのは人間
人の持つ底知れぬ悪意にエスタークは変えられたのだ
(同情はするさ……でも……)
不憫には思う、しかしだからといって
(幻想郷に手を出させる訳にはいかないんだよ!)
目的は変わらない
幻想郷を守る
それは譲れない
(……行くか)
正邪は立ち上がりドアへ向かい歩く
(昔……本で読んだっけ……)
ドアを開ける
(この世に悪があるとすれば……それは人の心……)
少しばかりの憂鬱を感じながら正邪は部屋から消えた
「本当に……バーンなのか?」
妹紅は尋ねた、信じれないから
「……いや、夢だ……」
否、信じない
夢だとわかっているから
「何を言っているのだ妹紅?余を夢だなどと……」
なのに心は反応してしまう
「余は……ここに確かに居るではないか」
嬉しいと
「ッ!!」
(そうだ、これは夢……だけど!!)
心臓が高鳴る
「会いたかったよ……」
バーンに……
「変わらず生きている様だな妹紅」
無表情にバーンは言う
「ああ!元気にしてるよ!」
少し興奮しながら妹紅は話す
「約束は守ってる!強くなったよ!」
「……」
バーンの表情は変わらない
「皇帝不死鳥って呼ばれてるんだ!凄いだろ!」
妹紅はまるで子どもの様に語る、褒めて欲しそうに
「……そうか」
バーンは目を閉じて返す
「……?」
その様子に違和感を感じる妹紅だが
「……そうだ!」
興奮が考えさせなかった
「なぁバーン、聞いて欲しい事があるんだけど……」
近付いていく妹紅
スッ……
バーンの手が動いた、妹紅に向かい手をかざして
「?」
不思議に見ている妹紅にバーンは告げる
「寄るな……おぞましい……」
それは妹紅の歩みを止めさせた
「え……な、なんだよバーン……」
困惑しながら尋ねる妹紅に
「……当て付けか?妹紅……」
バーンは静かに話し出す
「余を差し置いて皇帝不死鳥だなどと……それは死んだ余に対する当て付けか?」
「ッ!?そんな訳無い!」
否定する妹紅にバーンは不気味に笑う
「ならば嫌味か?死ねる身でフェニックスとは笑わせる……と……」
「違う!そんなつもりなんか無い!」
必死に否定する妹紅、とっくに冷静さは失っていた
(何とか誤解を解かないと……)
友に嫌悪されているのが耐えられなかったから
「信じてくれよ……私がお前をそんな風に見てる訳無いだろ……」
「……」
無言のバーンに気持ちは更に焦る
「な、なぁバーン……何とか言ってくれよ……」
泣きそうな顔で妹紅はまたバーンに歩み寄る
ちゃんと話せばわかってくれると……
嫌いになんてならないでくれと……
だが出たのは……
「寄るなと言っている……」
妹紅を止める言葉、そして……
「化物め……」
妹紅を人として見ない言葉
「ッ……ッゥ!?」
その言葉は妹紅に深く突き刺さる
「か……う……うぅ……」
胸が締め付けられる
バーンに化物扱いされた
それは相談したかった妹紅にとって最悪の答えだった、更には……
「ハァー……ハァー……なん……で……」
息が苦しい
妹紅は過呼吸を起こしている
「なんで……そんな事言うんだよ!」
一番刺さったのはバーンの自分を見る目と言葉に籠る感情
明らかな忌避の目
そして言葉に籠る感情は友情も絆も全く感じさせない
完全な敵意と畏れ
それは友に向ける目と感情ではなかった
「ハアッ……!?ハアッ……!?」
妹紅にとってそれは精神を蝕む悪い夢
抗えない汚れた想い
このままでは妹紅の心は壊れてしまうかもしれない
今は御守りも無い、脆くなっていた心に付け入られた彼女を救える物は無い
いや……居る……
一人……いや……ある……
一つだけ……
妖怪の山・にとりの研究室
……パチッ
……パチッ
バチッ!
「……んあ?」
にとりは目を覚ました
「……」
周囲を見回す
「……ロビン」
傍らにはロビンが立っていた
「嫌な夢見た……」
ロビンから目を逸らすとさっきまで見ていた夢を思い出す
「まさかきゅうりが襲ってくるなんて……まさに悪夢……」
身震いするにとりにロビンが警告音を出す
「どうしたのロビン……何々?……幻想郷全体に魔法及び魔術反応!?」
ロビンに付けられたモニターに書かれた文字を見てにとりは驚く
「マスターの状態異常を確認、解消……ありがとロビン」
ロビンに助けられた事を知る
「またエスタークか……ロビン、術の発生源を探知」
命令を受けたロビンの探知はすぐに終わる
「場所は無縁塚……行くよロビン」
ロビンに乗るとにとりはすぐに研究室を出ていった
無縁塚
ドウッ!
「ッチッ!?」
攻撃を受けたてゐが下がる
(やっぱりすんなりは行かせてくれないよねぇ、まっ当然か)
ダメージを確認しながら攻撃者達を睨む
「どうした!終わりか妖怪兎!」
小さき男が得意気に叫ぶ
「幻想郷を侮るなカメハ……エスターク様を幾度となく退けたのを忘れたのか」
諌めるのはミスト
「式に気を配りなさい、あの兎は隙を伺っています」
そしてウォルター
この3人が式の護衛だった
(見抜かれた……観察眼の鋭い奴が居たのか……)
更に下がり様子を伺う
「わかってる!式を守るのが最優先!誰か来たら増援を呼ばれる前に倒せ!だろ?」
カメハと呼ばれる子ども
3体の魔物と共にてゐを睨む
後方に精霊も居るのだが佇むだけで何もしない
「行くぞー!」
3人と3体がてゐに近付いてくる
(こりゃダメだ、逃げよう……三十六計なんとやらってね)
逃げようとまた足を一歩下がらせた瞬間だった
バシュ!
てゐの更に後方に誰かが来た
「イテテテ……クソッ!」
頭を押さえる女性が居た
「……美鈴!!」
振り返ったてゐが叫ぶ
来たのは美鈴、バシルーラによってランダムに飛ばされた美鈴は偶然か必然か無縁塚のこの場所に来たのだ
「貴方は永遠亭……の……」
言葉は止まった
代わりに3人と式を見つめる
「……私に任せてください」
瞬時に状況を察した
これが術に関係する物かまでは術を知らず、掛からなかった美鈴にはわからない
だがエスタークの襲撃と式を守っている様に見える敵であろう3人とてゐ
エスタークに関係している、これを破壊すればエスタークの企みが潰せるかもしれない
そう結論を出した美鈴は紅魔館に戻るのを止めて目前の式の破壊を優先した
「よし任せた!」
てゐはすぐに隠れた
「まさかお前一人で我等3人を相手にするつもりか?愚かな……」
「幻想郷の女性はやんちゃで困る……」
ミストとウォルターの呆れ
如何に強者の美鈴と言えど3人を相手にするのは無謀と感じていた
「試せばわかりますよ……」
構えを取った美鈴は告げる
「私が相手の力量も測れない愚か者かどうかを……」
その構えは凛としていた
芯の通った体は一切のブレすら感じさせない
長きに渡り鍛え抜かれた武道家の姿がそこにはあった
「……ムンッ!」
ミストの手刀
「……フッ!」
ウォルターの謎の攻撃
二人の攻撃が美鈴を襲う
ゴオッ!
ミストと美鈴の衝突が周囲に風を巻き起こす
ギ……ギギ……
風の中心にはミストの腕を極めている美鈴の姿
「雑な攻撃……避けるのは容易」
美鈴は手刀を紙一重で避けたと同時に間接を極めていたのだ
……ピッ
左手が瞬時に動き何かを掴まえる
「……鋼線ですか」
掴んだのは鋼線、鋼線の先はウォルターの着けるグローブから
ウォルターの謎の攻撃は鋼線による中距離攻撃だった
「……ハッ!」
確認と同時に鋼線を引っ張る、普通は手が裂けるのだが妖怪の強い肉体故に引っ張る程度でそれは無い、己の肉体を熟知しているから出来る事
「ムッ!?」
身構える間の無く美鈴へと引っ張られるウォルター
「……ハアアッ!!」
二人が目前に来た瞬間に強靭な脚で二人を一足に蹴り飛ばした
「ぬぅ!?」
「むぅ!?」
蹴り飛ばされた二人は体勢を直しながら地面を擦り止まる
「お分かり頂けましたか?」
その二人にまた構えを取った美鈴が問う
「やはり魔境・幻想郷……私達二人では手に余る……」
「その様です」
美鈴の強さを体感した二人は今の攻防に目を奪われているカメハへ叫ぶ
「カメハ!手を貸すのだ!」
「行きますよ!」
二人の声にハッと我に帰ったカメハ
「任せろ!行くぞメタルキング!キングレオ!ゴールデンゴーレム!」
魔物に指示を与える
「……」
構えのまま二人と魔物を見つめる美鈴
(……少し厳しいかもしれません)
内心そう感じるも決して顔には出さなかった
紅魔館・図書館
「ようやく見つけました」
喜びの声を出すのはエスターク
「……う、うぅん……」
見つけたのはパチュリーと
「これが大魔王の遺した魔導書……」
魔導書
「力と技の魔導書……」
を2冊
魔理沙とパチュリーの魔導書を見つけていた
「……」
魔導書を睨むエスターク
「……違いましたか」
残念に目を緩める
これも因果に辿り着く物ではなかった
(やはり一番の可能性は王女の遺産でしょうか?)
そう考える
そう考えたのはレミリアとバーンの関係
バーンはレミリアを愛していたと知っているからだ
愛しているからレミリアの遺産が特別な物であり正解なのだと考えさせた
(王女を……チャンスは今しかありません)
狙う遺産をレミリアに定めたエスタークは進む前に眠るパチュリーを見る
(……ッ!)
歯噛みした
洗脳か鎖さえ使えれば頂点の一人を支配出来たからだ
一応神殿に連れ帰る事は出来る
だがスキマで神殿に連れ帰ったとしたら術の効果範囲外で目覚めてしまう
そうなれば洗脳も縛る間も無く壊滅する可能性がある
だから今は見逃すしかなかった
(あのスライムを……最低でも王女の遺産……)
最優先されるのはダイの捕獲、次いでレミリアの遺産
残る時間がわからないエスタークはすぐに図書館を出ていった
因果の相手が写る写真が視界に入っていたにも関わらず……
無縁塚
ガッ!ズガガガガ!
「……くっ!?」
焦りが見える美鈴
ガガッ!ガガガガッ!
「ッ!?……ツアッ!!」
魔物2体を掌底で弾き飛ばす
「!?」
直後にウォルターの鋼線
「くぅ!?」
辛うじて避けるも
「ぐっ!?」
残る1体の魔物の攻撃は避けれず手で防ぐ
「がっ!!?」
その隙を見逃さないミストが蹴り飛ばす
「~~ッ!?」
それも辛うじて防いだ美鈴だが焦燥の表情は変わらない
(突破出来ない……)
美鈴は止められていた
ミストとウォルター、そして3体の魔物によって
「称賛に値するぞ、我等5つの攻撃を捌ききれる実力をな」
「……それはどうも」
ミストの賛辞、だが今は嬉しくない
「だからこそ私達は手を緩めません」
「……」
状況は変わらないから
(……こうなれば使うしかありません、かなり疲れますが四の五の言ってられませんね)
紅魔館の皆の危機を思う美鈴は使用を決意する
「……フゥッ!!」
体に力を込める
「!!……気を付けろ」
「わかっています」
美鈴の様子に二人は気を入れ直す
「……いくぞぉ!!」
気が高まる
「天地魔闘の名の……」
その奥義を構えようとしたと同時
「ロビン……やれ!」
ピュン!
美鈴の側をレーザーが通り過ぎた
「ぬっ!?」
「ちっ!?」
レーザーは式を狙っていた
ミストとウォルターの二人は式に向かうレーザーを防ぐ
「防ぐなよ、あーあ、馬鹿だねお前等」
「にとり!」
現れた味方はにとり
ロビンに乗って自信満々に二人を見下している
「助っ人してあげるよ、感謝はしなくて良い」
「助かります!」
二人は微笑み合うと3人へ視線を移す
「増援か……厄介だな、だがしかし……」
ミストは先程の言葉が気になっていた
「ええ、防ぐのを馬鹿と言う意味がわかりません」
ウォルターも同様
「ああ、その事……」
にとりは笑った
「式が壊されたらお前等逃げれるだろ?」
「……何が言いたい?」
「わかんない?みなまで言わないとわかんない?」
「……」
「じゃ教えてやろう!」
にとりはロビンの肩に足を上げ高らかに告げた
「お前等がぎったんぎたんになるからだよ!!」
フンと鼻を鳴らし見下すにとり
「舐められたものだ」
「確かに……」
二人は臨戦態勢を取る
「おい!そこの河童ぁ!!」
にとりに叫ぶ者一人
「……なんだよクソガキ」
叫ぶ者を睨むにとり
「キラーマシンを使うなら俺が相手だ!」
啖呵を切ったのはカメハ、後ろの魔物も威圧している
「……モンスターマスターか」
一見でカメハがモンスターマスターだと気付く
「お前もマスターなんだろ!勝負だ!」
カメハもにとりがモンスターマスターだと気付く
「……良いよ、お前の相手は私がしてやる」
にとりは合意しカメハと睨み合う
「では私の相手はお前達ですね」
それに合わせ美鈴がミストとウォルターの前に立つ
「来なよクソガキ……格の違いを教えてやるよ」
「紅美鈴……参る!」
戦いは再び燃え上がる
紅魔館・レミリアの私室前
「ここに……居ますね」
ドアの前に立ったエスタークは感じた
間違いなくこの部屋に王女が居ると、中から感じる強い気配が確信させた
「……」
ドアノブに手が掛けられる
「そこまで……」
背後から声
「貴方は……八意永琳……」
そこに居たのは腕を組み壁に寄り掛かる永琳
(正邪!何故知らせないのです!?)
通信を行うも
『……』
(正邪!)
『……』
返事は返らない
(何かあった?くっ……戻ろうにも結界で覆われていては……)
内心焦るエスタークに永琳が話し出す
「それ以上は止めておきなさい、さもなくば貴方は弁解の余地無く死ぬ事になる」
「……何故ですか?」
「あの宝石は二人にとって遺産以上の物……愛と言う想いの結晶……それを奪う事は死罪と同義、情状酌量の余地も無い死への片道切符……」
「……承知の上です」
「それでは困るのよ、貴方には生きていて貰わないといけないもの、紫達を助ける為にね」
「つまり貴方が私を?」
「そうなるわね……」
「やれますか?貴方に……」
「あら……随分強気じゃない、あれだけやられたくせにどうしたのかしら?」
「……どうもしませんよ」
「やればわかるわね、その強気が虚勢かどうか……」
ゴゴ……
力が溢れてくる
「……ッ!?」
エスタークを怯ませるには充分な力が
「1つ言っておくけど……」
飛び出す前に永琳は告げる
「私は遊ばないわよ?」
紅魔館・妹紅の部屋
「うう!?うぅ~!!?」
「……ピィ?」
妹紅の呻き声にダイが目を覚ました
ダイは術に掛かっていなかった
いや、掛からないのが正しいか
出生故にこの手の術は効かない
「うう~~!!」
「ピィ!?」
更に激しくなる呻きにダイは飛び上がる
「ピィ!ピィ!」
起きて!起きて!と妹紅を揺する
「うあぁう!?……う……うぅ!?」
だが妹紅は起きない
「ピィ!?ピィ!?」
どうしようと慌てるダイ
「ピ!」
感じるままに妹紅の顔に寄り添うと
ポウ
光が妹紅を包んだ
無縁塚
「セアアアッ!!」
「ぐっ!?」
「かはっ!?」
二人は美鈴の連撃に打たれる
3体の負担が無くなった美鈴は攻守逆転し攻めていた
「チィ!!」
ウォルターの両手を使った鋼線
「……ヒュ!」
四肢を使い傷付かない様に避け接近する
「させん!」
ミストの援護
「ふん!」
手刀を弾き垂直に蹴り上げる
「ぐはっ!? 」
直後にウォルターを肘打ちで打ち飛ばす
(好機!)
二人を遠ざけ式までの道が開けた美鈴は駆ける
スゥー……
美鈴の周囲を霧が覆う
「させん!」
霧が集まり美鈴の前にミストが立ち塞がる
「……」
背後にはウォルター
二人は美鈴を全霊を懸け止めるつもりだった
「ふふふ……」
挟まれる美鈴は笑い出す、それを怪訝に見つめる二人、笑う真意が掴めない
「私に気を取られ過ぎて兎の事を忘れていましたね……」
ニヤリと頬を上げた
「……なんだと!?」
真意を理解した二人が式へ向く
バチチ……バシュ!!
「御苦労さん美鈴!」
式を破壊したてゐが笑顔で顔を出した
「おのれ!!」
ミストが怒り露にてゐを睨む
「お~っと!お仲間が大変だよぉ?」
怒りにてゐは意に返さず指をカメハへ向ける
「カメハ!」
ウォルターが視線の先を見て叫ぶ
「わかったかいクソガキ?これが格の違いさ……お前と私じゃマスターとしての格が違い過ぎって事だよ」
「あ……あ……」
そこには茫然自失するカメハ
3体の魔物はロビンにより倒されていた
「おのれぇ……!」
怒りが膨れるミスト
「待てミスト!」
ウォルターが止める
「エスターク様が危険だ!」
「!!」
主の危機を知ったミストは直ぐ様霧になり去っていく
「カメハ!」
同時にウォルターがカメハを抱え鋼線で魔物を掴むと同じく去っていった
「待て!!」
美鈴は追うべく踏み出す
「ちょっと待ちなよ美鈴」
にとりが止めた
「何ですか!後にしてください!」
「助けてやっただろ?」
「は?……ええそうです!助かりましたありがとうございます!」
「ん!」
美鈴に手が差し伸べられる
「救い料100万円、分割も可」
「お金取るんですか!?」
請求に美鈴が驚くとにとりの顔が豹変する
「当たり前だろ!慈善活動してると思ったのか!?こちとら遊びじゃねぇんだよ!!」
「うっ……」
気圧されてたじろぐ美鈴
「払うまで行かさないよ」
パチンと指を鳴らすとにとりの背後に立つロビンの目が妖しく発光する
「あーうぅ……」
悩む美鈴、すぐに行きたいのに行けない
「あーもう!わかりました!」
「毎度あり~♪それじゃどうぞいってらっしゃい!また回収に行くからね~」
道を開けたにとりを確認すると美鈴は駆けた
「あんた鬼畜だねぇ……100万なんてたかが門番が払える訳ないだろ……」
100万円とは現在の価値に換算して1億円である
「その時は紅魔館売るよ」
「その時は呼んで、喜んで手伝うからさ」
二人の幼女は悪どい笑みで笑い合った
「どうした妹紅……何をそんなに苦しむのだ……」
「止めて……くれ……」
膝を着き崩れている妹紅にバーンは止まらない
「化物には似合わぬ心……化物ならば化物らしくすれば良いものを……」
「それは元は人であった最後の良心か?笑わせるな妹紅……」
「お前は永遠を生きる化物……人を真似るな人外が……!」
言葉の1つ1つが蝕んでいく
「止めて……くれよ……」
「聞き流せばよかろう……余の言葉など敗者の戯言と……」
蝕みは亀裂を作る
「やめてくれぇぇぇぇ!!」
頭を抱えた妹紅が叫んだ
もう心はボロボロ
入った亀裂から魂まで傷付けられ様としている
そうなれば妹紅は完全に壊れてしまう
例え死んで甦ろうとも魂に傷が入れば治りはしない
廃人となって生き続ける事になる
「ああっ!?ああああっ!?」
これはエスタークの意図する所ではない、支配する対象が壊れるのはエスタークも望んではいない
「アアアアアアアアアッ!!?」
絶叫が木霊する
魂に傷が入る……
ポウ……
妹紅を暖かい光が包んだ
「ハァー……ハァー……」
光が妹紅を落ち着かせる
「この……光……は…ダイ……?」
包む光からダイを感じる
「ふん……助けられるか化物め……弱き心よ……」
「……」
バーンの言葉は妹紅に入っていなかった
光の意味を感じているから
「そうか……そうだよな……」
理解した妹紅、生気が戻ってくる
「違うんだよな……」
「……何が違う?」
問うバーンに妹紅は苦しみの中に微笑みを見せた
「お前はバーンであってバーンじゃない……」
立ち上がるとバーンに歩いていく
「……」
手の光を見ながら
「寄るな……!」
バーンは言うが
「……」
妹紅は止まらない
「夢だったんだ……汚れた……夢……」
ポウ……
手で触れるとバーンの体も光に包まれ、崩壊させていく
汚れの浄化
光の意味を理解した妹紅は汚された夢に触れたのだ
「……」
無言で見つめる妹紅
だが表情は悲しい
それは崩壊していく様子が本物のバーンと重なって見えたから
偽物だとわかっていても友の死をまた見るのが辛かった
「……妹紅」
残るは顔だけになったバーンが名を呼んだ
「忘れたか……?」
目が合った妹紅はすぐに気付いた
「あ……」
この目は本物のバーンのものだと
「死は別れではない……とこしえに想う事こそ……本当に共に在ると言う事なのだと……」
そして笑った
「うん……うんっ……!!」
自然と涙が溢れた
夢でも本物のバーンが自分の悩みを察し、答えてくれた
「辛くなれば太陽を見よ……余はいつでも……いつまでもお前を照らし、共に居る……」
「うん……!!」
それが嬉しくて涙が止まらない
「忘れるな妹紅……お前が悲しみ、苦しむ姿を見るのは余も辛い……」
バーンは消えた
「強く生きろ……」
「……」
妹紅は目覚めた
「ピィ!!」
ダイが跳び跳ね喜ぶ
「……ダイ」
ダイを掴むと額を当てる
「ありがとう……!!」
感謝を伝えた
ダイが居なければ自分は壊れていたに違いない
それを救ってくれたダイに深い恩を感じたから
「本当に……ありがとう……!!」
感謝は2つあった
ダイが助けてくれた事と
バーンに会わせてくれた事
例え夢でも本物のバーンに会え、自分が孤独にならないと知った
それは悩み続けていた妹紅にとって一番欲しかった答えだったから
「……行くか!」
「ピィ!!」
ダイを頭に乗せると妹紅は歩き出す
敵の元へ……
レミリアの私室前
キュドドドド!!
矢の弾幕が大量に放たれる
「……そこ!」
矢を撃ち込む
ブゥン……
「……チッ」
撃つのを止めた永琳はエスタークを睨む
「ハッ……ハッ……」
エスタークは息が荒い
「スキマの扱いが上手いじゃない」
「……幾度となく使いましたからね」
エスタークは永琳の攻撃をスキマで回避していた
何度も使用した事でスキマの使い方を学習し紫が行う様に攻撃をスキマ送りにする使い方で敵わない永琳の攻撃を凌いでいた
「ですが、あまり使わせないでください」
「……何故?」
自分の攻撃を防げるスキマを使わせるなと言うエスタークを永琳は解せない、それは知らないから
「スキマを使い過ぎると過負荷で八雲紫が死んでしまいます」
「……」
永琳は考える
エスタークの言葉は嘘を含ませた真実
確かに使い過ぎると死ぬがこれぐらいでは弱っているとは言え死なない可能性の方が高い
知らない永琳に迷いを与えたのだ
「では仮にそれが本当だとして……私にどうしろと?」
「見てみぬ振りをしていただければ結構です」
「……」
また永琳は考える
(気付いてないのね……)
「良いでしょう、好きになさい」
「感謝します」
ドアノブに手を掛け開いた
「夜這いにしては手の込んだ事するわね」
部屋の中に立つ者が一人
「レミリア・スカーレット……!?」
あり得ない光景にエスタークが驚愕する
(式が破壊されていた!?いつの間に……正邪!!)
『……』
だが返事は返らない
「くっ……!?」
焦るエスタークにドアから声が掛けられた
「お姉様大丈夫!!」
「レミリアさん!!」
フランと大妖精が現れる
「あー!あんた!!」
遅れてチルノ、そして
「今すぐ魔導書を返しなさい……」
怒り心頭のパチュリー
(ま、マズイ……)
5人に囲まれる
「そろそろ聞こえるんじゃないかしら……」
6人目に永琳
「……何がです?」
言葉の意味を永琳に問う
「ほら……耳を澄ませてみなさい、聞こえるでしょ?」
「……!」
聞こえた
ここに向かう足音が
「貴方は会いたくなかったでしょう足音が……」
ダッダッダッ……
「ッウ!?」
汗が溢れる、怖かったから
焦ってスキマを使って逃げようとするが紅魔館に張られた結界によって紅魔館外へ出れない
閉じ込められていたのを忘れる程怖かった
「貴方が死を感じた相手の足音が……」
ダッダッダッ……
「~ッ!!?」
恐怖が甦る、心に焼き付いた者の足音、唯一死を感じた相手の足音が身を震わせる
「どうするか見物ね……地獄の帝王がどんな命乞いをするのか……」
ダッダッダッ……ダッ……
「エスタァァァァク!!」
現れた足音の主、エスタークを強く睨む
「藤原……妹紅……!?」
その姿を見た瞬間エスタークから大量の冷や汗が流れた
死を感じさせた妹紅がこの状況で自分の目の前に居る
狼狽し、たじろぐには充分過ぎた
「終わりだなエスターク……皆を返して貰おうか!」
妹紅が詰め寄る
「……」
エスタークは喋らない、覚悟した様に
「エスターク!」
掴もうとした妹紅の手は止まった
「……?」
エスタークがあらぬ方を見ていたから
(なんだ……?)
妹紅もエスタークの視線の先、ドアへ向ける
「か、輝夜!?」
立っていた者に驚きの声が上がる
ずっと寝ていた輝夜が起きてここに居る事が信じられないから
「姫……様?」
永琳も驚き輝夜を見ている
「……」
だが輝夜は何も話さずエスタークを見つめるだけ
「……見つけたぞ」
輝夜が声を発した
「!?違う!?気を付けて!!」
永琳が叫んだ瞬間
「ぐあっ!?」
輝夜はエスタークの首を掴まえ壁に押し付けていた
「ぐぅ!?うううぅ!?」
エスタークの首を潰さん勢いで握り締める
「何やってんだ輝夜!殺すな!」
妹紅が止めようと近付く
バウッ!!
輝夜から出た力が妹紅はおろかエスターク以外を吹き飛ばし、紅魔館の結界を破壊する
「なんて力だ!?」
「どうなってるの妹紅!輝夜ってあんなに強かったの!?」
「知らねぇよ!」
輝夜を知るからその力がおかしいと感じる
「あれは姫様じゃないわ……」
永琳が答える、汗を滴らせて
「じゃあ何なんだよ!」
「わからない……わからないけどあれは危険……」
永琳にもパチュリーにもわからない
訳もわからない7人を他所に輝夜はエスタークに語り掛ける
「使え……秘法を……」
「ぐっう……何故……貴方がそれ……を……」
エスタークの問い掛けに輝夜は答えない
「シンカ……する……の……だ……」
急に輝夜の力が弱くなる、掴む腕が離れエスタークが床に落ちる
「時間……切れ……か……」
……フッ
急に輝夜は崩れ床に倒れた
「……!!」
ブゥン……
スキマが開かれる
「逃げる気か!」
「……」
エスタークは何も返す事無く
紅魔館から消えた
「……眠ってる」
輝夜を抱き抱える妹紅
「……なんだったのよさっきの」
「スゴかったよね」
チルノとフラン
口々に話し合う中、レミリアだけ感じていた
(あの輝夜から運命の因果を感じた……分岐の原因を……)
己の持つ能力がそれを感じさせた
(エスタークでは無いの?この分岐の原因は……)
考えるもわからない、知る術も確かめる術も無いから
(とても嫌な予感がする……全てが壊れてしまいそうな……)
不安だけが募る……
「……本を貸してくれないかしらパチュリー?」
思い出した様に永琳が聞いた
「良いけど……何の本を?」
「エルフに関する本を……薬学と呪術に関しての本をお願い」
「わかったわ、こあに言っておくから後で取りに来て」
「助かるわ……」
「大丈夫ですかお嬢様!妹様!パチュリー様!」
かなり遅れて来たのは美鈴、3人はエスタークによって逃がされた為仕留める事は出来なかった
「美鈴、貴方何してたの?」
「良かった……無事でしたか……」
「な・に・を!していたの?」
「そ、それは……」
美鈴は言いたくても言えなかった
エスタークに飛ばされて門番の役目を果たせなかったなどと
「ね、寝てました……」
「門番の自覚が足りない様ね……咲夜!」
「はいお嬢様」
どこからともなく咲夜が現れる
「美鈴に仕置きを」
「かしこまりました」
(が、頑張ったのに~)
美鈴は涙目で引き摺られて行った
神殿
「正邪!!」
戻ったエスタークが叫ぶ
「……なんだよエスターク」
呼ばれた正邪が姿を現す
「何故持ち場を離れていた!貴方が知らせていればここまで危険にはならなかった!」
「……悪い」
怒りに謝る正邪
「何をしていたのです!」
「……聞きたい?」
「話なさい」
話づらそうにモジモジした後、正邪は答えた
「と、トイレだよ……」
顔を赤く染めて答える
「……ふざけてますか?」
「そんな訳ないだろ」
真顔で言う正邪にエスタークは怪しむ
「悪いって言ってるだろ?でもあんたは生きてるし、それパチュリーの遺産だろ?一応策は上手く行ったじゃないか」
「……次は許しませんよ」
エスタークは消えていった、私室ではなく
地下の方へ
(うーん……やっぱり厳しかったか、そりゃそうか、でもこれで行動は制限されるだろうな、まぁ別にもう良いけど)
(最良の結果じゃ無かったけどこっちはほぼ出来た、まっ上出来だろ)
(最悪を回避出来たんだ、やっぱり信用に足る奴等だよ)
僅かに微笑み歩き出して行った
これは始まり
王が夢を具現する為の下地
もう止まらない
止められない……
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
神殿・地下牢
ドッ
「ううっ!?」
ドッ
「ぐっ……げほっ!?」
バシィ
「かはっ……!?」
嬲られる音が響く
「おのれ……!」
ドスッ
「おのれ幻想郷!」
ドスッ
「オノレッ……!」
ドスッ
「オノレ藤原妹紅ーー!!」
ドガァ
「ッハッ!?」
壁に殴り飛ばされ
「がはっ……げぇう……」
血を吐く神奈子と
「ハァ……ハァ……」
怒り収まらないエスターク
「何故私がここまでの苦汁を舐めねばならない……!」
怒る理由は度重なる失敗
これまで幻想郷に対しての策は全て潰されたから
(あのスライムは手に入らない上に手に入れた遺産はことごとく違った!)
実入りもあったが全て望む物ではなかった
(あの地獄の様な仕打ちを受けてまだ私は苦しまねばならないのか!)
かつての経験が怒りを更に膨れさせる
「アアアアッ!!」
ドスッ!
また神奈子を蹴る
「ぐっ……うっ……な、何を……」
強過ぎる怒りに神奈子は苦しみながら聞いた
「そんなに……怒っている……」
怒りの理由を
いつもなら楽しみの為だけに嬲るエスタークがただの八つ当たりをしてくるのが気になったからだ
「……」
その言葉が引き金か
ズゥー……
エスタークの瞳が暗く濁る
ガシッ
神奈子の頭を掴み上げる
「奴隷が……」
ガンッ
「調子に乗るな……」
床に叩きつけた
「っぐぅぅ……」
神の血を滴らせながら神奈子は違和感を感じとる
(様子が違う……怒っているからじゃない、これは全く別の……)
違和感はエスタークの雰囲気が違う事
「殺されたいか……?」
殺意が見える雰囲気に違和感を感じた
(こいつは嬲りこそ好むが殺す事はしない……今までを見ていればそれはわかる……)
いつものエスタークではない、明らかにおかしい
(それに口調も……こいつに何が起きている……)
エスタークに起きているであろう事を考える神奈子
「……!?」
ゾッ
寒気がした
「聞いているのか奴隷……」
殺意の増した暗い瞳に
(これは殺すつもりの……)
死を覚悟する程の瞳に
「……」
エスタークの手が神奈子の首を掴む
ギギ……ギ……
「かっ……はっ……」
首を潰し、首と胴を千切らんばかりの力で握られる
「……死ね」
力を込める刹那
「何やってんだエスターク!」
牢の入口から声が掛けられ
「そいつを放すんだ!」
エスタークの肩を掴んだ
「……!」
1拍置いたエスタークが気付いた様に振り向く
「正邪……?」
「早く放せって!」
言われるままに神奈子を放したエスタークに正邪は詰め寄る
「何やってんだ!こいつは異世界との交渉と幻想郷に対する盾にする筈だっただろ!」
「……」
エスタークは答えない、聞こえてはいるが気が入っていない
(戻っ……た?)
その様子に神奈子は思う
「こいつを殺せば他の二人も後を追うかもしれないって言わなかったか!スキマの使用でいつ死ぬかわからない八雲紫だけでどうにかするつもりだったのか!」
「……」
神奈子を掴んでいた手を見つめながらエスタークは口を開いた
「……すいません、怒りで我を失っていた様です」
「気を付けろよ!」
エスタークを押し退け神奈子へ寄る正邪
「神奈子、エスタークを怒らすなよ?死ぬぞ?」
怒気を滲ませて告げる
「……わかったわ」
神奈子は答えた
「もし死にたいなら私に言いな、喜んで殺してやるからさ」
「……」
そんな事を言われる神奈子に怒りは無かった
何故なら
「聞いてんのか!」
正邪の顔がエスタークに見えない様に
「……わかったわ」
心配で染まっていたから
「……で?」
立ち上がりエスタークに向く正邪
「次はどうするんだい?」
「……」
正邪の問いにエスタークは黙っている
(殺し……壊す……全て……を……)
先程の感覚が残っているのか虚空を眺めている
「エスターク?」
正邪が不思議に聞き直した時、口は開かれた
「幻想郷を滅ぼせませんか?」
「……はぁ?」
突然出た言葉に正邪は意味がわからない
「何か……一息に壊せる様な物で……例えば……そう……」
その言葉は出た
「爆弾……の様な……」
エスタークは幻想郷を滅ぼす考えを口に出した、何故そう考えたのはわからない
ビクッ
その言葉に反応する者一人
「おいどうしたんだよエスターク!?」
正邪が突っ掛かる
「いきなり滅ぼすなんて……遺産を……支配するんじゃなかったのか?」
少し焦りを見せながら正邪は問う
(なんでいきなりそうなる!?やられ過ぎておかしくなったとしたって極端過ぎる!)
それは容認出来ない事だから、幻想郷を滅ぼす事は絶対に避けなければならない
焦るのはもしそれを実行されれば協力しなければならないからだ
まだ仕込みは完成していない、裏切るのはまだ無理、仕込みが完成していない内に裏切るのは内容からしてまだ無理なのだ
だから止める様に訴える
「何か……知っていますね?」
「な、何をだよ……」
その言葉に一瞬ドキリとした、バレているのではないのかと
(いや!カマかけだ!バレてるならさっき既に戦闘開始してる、泳がせる理由も無い!)
気付かれていないと確信し
「知ってるって……幻想郷を滅ぼす方法を?知ってたら教えて欲しいくらいだよ」
笑顔で答えた
「……」
正邪は気付いた
(私じゃ……ない?)
その目が自分を見ていなかった事を
(じゃあ……)
エスタークが自分に向けて言っていたのではないとするならば
「答えなさい……」
残るは……
「神奈子」
問いは神奈子に対してだった
「見逃しませんでしたよ、貴方が反応したのを……」
エスタークの瞳が鋭く睨む
「……知らないわ」
「フフ……知らない?」
神奈子の顎を指で上げると妖しく笑みを見せる
「そんな事ありません、あの反応は知っていたからこそ出た反応……あるのでしょう?幻想郷を滅ぼしうる……爆弾の様な類いが……」
「……!!」
また反応してしまう、今度は悔しく
「教えなさい」
そんな事は構い無しにエスタークは命令する
「……」
神奈子は口を開かない
これが精一杯の抵抗だった
「……あの娘、東風谷早苗……でしたか?」
エスタークは口にする、神奈子が奴隷に堕ちた原因の名を
「……!!」
手が握り締められる、何を言われるか、そしてそれに抗えないのがわかっていたから
「殺してもよろしいのですか?神である貴方方二人が居ればあの神の出来損ないは要りません」
「ッ!?」
まだ、まだ僅かにだが耐える
(神奈子……!!)
傍の正邪は黙って見ているしかない、本気で殺そうとするなら止めるつもりだが脅しの段階では止められない、バレてしまうからだ、エスタークの仲間ではなかったと
だから表情を崩さず仲間の苦しむ様を悔しく見ているしかなかった
「ああそうだ……」
思い付いたエスタークが更に笑みを濃くさせる
「あの娘に魔物の相手をさせるのも面白い……」
「「!!?」」
そのドス黒い悪意に神奈子、正邪すらも目を見開いた
「や……めろッ!」
神奈子が声を搾り叫ぶ
相手の意味を想像したからだ
それは暴力的な意味での相手かもしれない
しかし神奈子と正邪が想像したのは別の事
「未熟なれど神の力を持つ人と魔物の子……興味深いですねぇ」
「やめろォ!!」
想像通りだった事に神奈子は再び叫ぶ
相手の意味は陵辱
早苗を地獄に落とす捉えようによっては死より辛いまさに生き地獄
それを平気で溺愛する早苗に行おうとするエスタークに神奈子の心は……
「教える……教えるから……」
涙を一筋流し
「早苗に手を出さないで……」
折れてしまった……
神奈子は悪くないのかもしれない
託されたそれの存在は信頼出来る頂点どころか強い絆で結ばれる諏訪子と早苗にすら話していない
これは彼の王と神奈子だけの秘事だったのだ
知っている筈がないエスタークが偶然出した言葉に反応してしまった神奈子に非は無いのかもしれない
何故ならそれが因果に辿り着く物だとは神奈子にも、エスタークにも、誰にもわからない事だったから……
今……夢の胎動が鳴った
ふぇ~長くなっちゃった、思いの外書いてしまいました。
今回も色々とありましたね、美鈴の活躍とかにとりとか、美鈴とにとりはある意味前作から一番出世したキャラです、美鈴はあの技の継承者だしにとりはある理由で出世してます。
久し振りのバーン様の登場だったのにクズバーン様だったのが残念……クズなバーン様は書いてて楽しくない
次からは超展開かもしれません、お気をつけください。
次回も頑張ります!