エスターク神殿・闘技の間
「……見事なり、紅美鈴」
倒れた豪鬼が賛辞を贈った
「うぬの三技一体の神技……仮初めの力で敵う道理はなかったわ」
「模倣の域は出てませんけどね……まだ私の構えですとはとても言えません……でも……ありがとうございます」
残心を解いた美鈴は豪鬼を見つめる
「……行け」
豪鬼は目を閉じる
「拳で語った我等にこれ以上の会話は不要……行くがいい」
「……わかりました」
踵を返す美鈴
「……エスタークには気をつけよ」
「えっ……?」
不意の助言に美鈴は振り返った
「奴の中には我とは比較ならん殺意が潜んでいる……奴自身の殺意ではなく別の殺意……そして破壊衝動……」
自身が殺意の波動を操る故か豪鬼はエスタークに何か別の物を感じていた
「……」
それが嘘や負け惜しみの類ではないとわかっている美鈴は不安に黙る
「……負けませんよ!」
美鈴は笑った
「……要らぬ世話だったか」
豪鬼はそれ以上は喋らなかった
無言で語っていた
行けと
「さようなら……豪鬼……」
確かに敵ではあった
だがその振る舞いは格闘家のそれ
卑怯な振る舞いをせず、正々堂々と戦う姿に同じ求道者の美鈴は拳を通してシンパシーを感じていた
「……」
踵を返し出口から出ていく
「……」
倒れる豪鬼の体が崩れていく
「良き……死合いだった……」
一言満足に呟くと
豪鬼は死に戻っていった
「……あ」
通路を進む美鈴は光景に止まった
(地下へ行く道聞いておけば良かった……)
正邪がくれた見取り図には全容を記されていたが美鈴が記憶していたのは標から地下牢までの道だけ、そして見取り図は大妖精が持っている
美鈴は道に迷ったのだ
「……行くしかないですか」
とりあえず美鈴は進む事にする
(僅かな時間でしたが貴方との戦いを経て私はまた強くなれた気がします)
足取りは軽いものではないが顔は微笑んでいた
(もっと強くなります!構えだって必ず模倣を越えて見せます!だって貴方に……)
約束をしたから
(笑止!なんて笑われたくないですしね……!)
死んでいった者への勝手な約束を……
博麗神社・周辺の岩場
「グッ……ゴフッ!?」
仰向けに倒れたゴーガンダンテス
口から血を吐き、半分に割れた腹から血が溢れていた
「ハァ……ハァ……み……見事……」
持ち上げた刀身の切れた剣を見る
「こ、こんなに……強かったんだな……ハァ……」
敗北したのにその顔は笑っていた
「……貴方も強かったです、秘剣でなければ貴方の障壁は破れなかった」
楼観剣を納刀しながら妖夢は返した
「はは……それは……光栄です……」
褒められたのが嬉しく笑う
「……貴方に謝らないといけません」
ゴーガンダンテスの傍に来た妖夢は顔を曇らせていた
「貴方の剣術を卑怯と言ったのは失言でした、すいません」
深く頭を下げる妖夢にゴーガンダンテスは微笑んだ
「いえ……良いのです妖夢、貴方の言った通り拙者は卑怯な剣士……」
そう言いながら目を閉じる
「拙者は貴方の剣術を不覚にも羨ましいと思ってしまっていた……剣のみで戦う貴方の姿に剣士の理想を見てしまった」
目を開け妖夢へ顔をゆっくり向ける
「その時から拙者は卑怯な剣士だった、敗北は必然だったのかもしれません……」
戦う内に妖夢の目指す気高い剣士の戦い方に憧れが生まれていた
「絶対防御を捨てられなかった拙者は……剣士ではなく……剣を使う兵士……」
心情の吐き出す
自分は剣士ではなかったのだと認める言葉を
「違う!」
妖夢が叫んだ
「貴方のそれも……剣術です!」
スカートを握り締め、声を荒げ否定した
「私に貴方を否定する資格は無いんです……!」
申し訳なく言葉は紡がれる
「私は自分の理想の剣士像を貴方に押し付けていただけなんです!」
ゴーガンダンテスの顔が見れない
「拳法に様々な流儀がある様に剣もまた多種多様の剣術がある……それなのに私は自分が正しいと盲信し、それを基準にしてしまっていた……」
それは価値観の押し付け
誰が規範を決めた訳でもない大雑把な剣士と言う職
100人居れば100通りの、億人居れば億通りの剣士と言う姿がある
妖夢には妖夢の、ゴーガンダンテスにはゴーガンダンテスの剣士としての姿があるのだ
だから自分が正しいと決めつけ、ゴーガンダンテスを卑怯者呼ばわりした自分が恥ずかしく、情けなかった
「……妖夢」
ゴーガンダンテスは穏やかに笑っていた
「なら最期に……頼みを聞いてくれ」
ポゥ……
ゴーガンダンテスから妖夢の半霊に似た物が次々溢れてくる
それは魂
死を迎えたゴーガンダンテスの魂が体ごと徐々に崩壊させる幻魔の死に際の現象
「……なんでしょう?」
体が透けていくゴーガンダンテスに要件を問う
「名前を……拙者の名前を呼んでくれ、拙者を倒した強い剣士……魂魄妖夢……貴方……に……」
左手を妖夢に伸ばすが留めきれず落ちていく
「貴方の名前は……」
手を掴んだ妖夢がゴーガンダンテスに寄り添う
「ゴーガンダンテス……」
握った手を強く握り締め
「幻魔界最高の……」
妖夢は言った
「剣士です……」
自分が戦ったのは紛れもなく
-剣士-だったのだと
「感謝します……妖夢……」
魂の抜けていく体が透けていく
「さらばです……」
ゴーガンダンテスは幻想の空に消えた
「……」
魂が消えていった空を眺めながら佇む妖夢
「済んだ様だな」
横に並んだのはロン、勝ったのが嬉しいのか目を閉じ微笑んでいる
「はい……勝ったけど負けました」
ロンからは見えないが表情は悔しいのだとわかった
「お前の言いたい事はわかる、戦いは勝ったが剣士としては負けた……違うか?」
「……そうです」
そう、妖夢は負けていたのだ
ゴーガンダンテスを倒したのは確かだが剣士としての戦いは惨敗もいいところ、通じたのは自身の最高の技のみだったのだから
「……まだまだ私は未熟です」
それを痛感しているから妖夢は誓う
「もっと腕を磨きます、私が納得出来る剣士になれるまで……ロン・ベルクさん、貴方が鍛えてくれた……」
楼観剣の鍔に両手を添える
「この剣と共に……」
いつか
いつか必ずそう成ると
これが私の剣士の在り方だと胸を張って言える様に……
「それはそうと……どうしてロン・ベルクさんがここに居るんですか?」
「ああ、それはな……」
ロンが問いに答えようとすると遠くから声が聞こえた
「こ~ら~!ロン・ベルク~!」
二人に近付いてくる
それは幽々子だった、息を切らしながら怒っている
「どうやら雇い主が追ってきたらしい……あいつに聞け」
「幽々子様が雇い主?……ああ、そういう事でしたか」
妖夢が理解すると幽々子が降り立った
「ロン!なんで用心棒が勝手に行っちゃうのよ!貴方は私を守る契約でしょ!」
降りるなり怒鳴り散らす幽々子、プンスカ怒っている
「剣に呼ばれたのさ……妖夢が危ないとな、それに俺がしたのは奴隷の契約じゃあないんだ、少々は多目に見ろ」
スカした態度でロンは酒瓶に口をつける
「もぉ!知らない!」
フンと顔を反らす幽々子
「用心棒の契約ってロン・ベルクさんだったんですね」
妖夢が聞いた
「そうよ!なのにこの人ったら勝手にどっかに行っちゃうし……ロンのバカー!ロン毛ー!」
罵声を浴びせる幽々子は一通り言い終わってスッキリすると妖夢へ向いた
「勝ったんでしょう?」
問いに妖夢は一瞬黙った後
「はい……勝ちました」
そう報告した
「さっすが妖夢!私も鼻が高いわぁ!」
抱きつく幽々子に照れる妖夢
「何を遊んでいやがる、まだ敵が居るのを忘れたのか?」
それに苦言を入れたのはロン
「貴方が言うの?その言葉を?」
「……仕事に戻ってやるとするか」
二人が妖夢を置いて並ぶ
「じゃあね妖夢、怪我してるけど博麗神社は頼んだわね」
「はい!任せてください!」
決して軽い怪我ではないがそれでも信頼し任せる幽々子に妖夢も応えた
「俺も行くが……妖夢」
飛び立つ刹那にロンが聞いた
「強くなったのは良いが……」
「はい?」
「彼氏くらいは出来たんだろうな?」
「ファッ!?」
突然の問いに妖夢は顔を真っ赤にして動揺する
「わわ、わた、私はけ、剣の道にいぃ、生きる者です!だだ……男性なんて不要です!」
妖夢は男を知らなかった
かなりの年月を生きている筈だが知らない
実はバーンと霖之助以外に異性とまともに会話した事がなかった
だからまだ純情な女の子
「情けない奴だ……お前は顔は悪くないんだが……まぁ乳臭い貧相なそのスタイルじゃ無理もないか……」
「う、う、うるさいですよ!ロン・ベルクさん!ほっといてください!」
「ハハハ……じゃあ後でな妖夢」
微笑むロンとクスクス笑う幽々子は飛んでいった
「も~……」
妖夢はむくれながらも二人を見送ると
「……よし!」
白楼剣を拾うと気を戻し博麗神社へ戻って行った
エスターク神殿・王の間
「よっと!」
開いたハッチからにとりは降りた
「ちょっと待ってなよロビン……」
背のリュックを降ろすと中から大量の草と瓶詰めの水を取り出した
「ほら口開けて」
「……ギッ!」
開いた口?の様な場所に草を詰め込み水を入れていく
「どう?」
「ギッ……」
「派手にやられたもんね、薬草とアモールの水じゃやっぱりダメか……安心しろって!全部終わったら直すから!」
「ギギッ!」
「それにしても急に返事返せる様になるなんてね……なんで?」
「ギィ……」
「……もしかしたら機械のお前に心が生まれたのかもね」
「ギッ!」
「ふふん……」
機嫌良く会話する二人
「あの……さ……」
そこに話し掛けるのはカメハ
とても気まずそうにしている
「……なに?」
ロビンに向いたままにとりは問う
「その……ありがとう」
カメハは恥ずかしそうに礼を言った
我儘なカメハだったが本当に感謝しているから素直に礼を言ったのだ
「……クソガキ」
応急処置を終えたにとりがカメハに向く
「出しな」
手を差し出し命令する
「わかってる……」
懐から黒く濁る雫、邪配合の雫を取り出しにとりに渡す
「ロビン」
邪配合の雫を掲げると
パァン!
ロビンが撃ち抜き雫は消えた
「……もう二度と道を間違えないって約束しな」
真剣にカメハを見つめる
「約束する!もう絶対にあんなもん使わない!」
カメハも真剣に答えた
「こいつらと一緒に強くなる!」
最初に連れていた3体の魔物を背に
「よし……約束だよ、破ったらぎったんぎたんにしてやるから覚悟しとくんだね」
「わかった!」
にとりは微笑みカメハは笑った
「じゃあエスタークに騙されてたのもわかったしマルタに帰るぞカメハ~」
ワルぼうが旅の扉を開き手招いた
正気に戻ったワルぼうとにとりにより利用されていたのだと説明を受け、カメハの誤解は解けていた
そしてワルぼうが元居た世界に帰る旅の扉を開いたのだ
「河童……じゃなくてにとり!」
カメハがにとりに走ってきた
「危ないから早く行きなクソガキ」
つっけんどんに言うにとりにカメハは声を荒げた
「約束するからさ!だから……」
その強さとモンスターマスターの先輩であり大事な事を教えてくれたにとりにどうしても伝えたい、約束して欲しい事があった
「オレ約束を守って強くなったら!」
最初から最後まで有った想い
「勝負してくれ!」
勝ちたいと言う想いを
「……ほら行きな、見送ってやるよ」
カメハの背を押し旅の扉へ歩く
「頼むよにとり!勝負してくれよ!」
「いいから早く行けクソガキ……」
ねだるカメハを押していく
二人は旅の扉の前に来た
「精霊……ちゃんと見張ってなよ?お前も約束したんだから破ったらわかるよな?」
「わかってるから脅さないでくれよ……本当に恐いって……」
ワルぼうもしっかり約束を刻み込んだ
「にとり~!頼むよ~!」
カメハはまだ頼んでいた
「……クソガキ!」
にとりがカメハの頬を両手で挟む
「弱っちぃお前が私に挑めるくらい強くなるなんて人間の蝋燭みたいな短い寿命じゃ全然足りないんだよ!」
「ッ!?」
顔が歪むカメハ
現に勝てない事実が黙らせる
「お前が強くなった頃には私とロビンはもっと強くなってる!」
「……」
説教にも似た言葉にカメハの視線は下へ向く
「それでもお前はやるんだね?来るんだね?私の立つマスターの高みに……」
「……!」
その言葉にカメハの視線はにとりを見た
試されていると理解したのだ
「……やる!行くよ!」
だから力強く答えた
「絶対ににとりに追い付いて見せる!本当だ!!」
必ず果たすと
「良く言ったね……」
意志を感じる返事に表情が緩む
「頑張れ……カメハ!」
「あっ……オレの名前……」
初めて名前で呼んでくれた事に一瞬呆けた隙をにとりは逃さなかった
頬を挟む手を下ろし片手が顎に添えられる
チュッ……
唇がカメハの額に当たっていた
「なっ!?ななな……!!?」
恥ずかしくて顔を真っ赤に額を押さえるカメハ
トンッ……
カメハは押された
「にとり!?」
旅の扉に入っていく
「うっ……」
視界がボヤけていく
ワープする現象に飲まれていく中
「待ってるよ……」
朧気だったが確かにカメハには聞こえていた……
「さて……行こうかロビン!」
「ギッ!」
動ける様になったロビンに乗り扉を開く
「……ん?行き止まり?って言うか部屋か」
開いた先は誰かの部屋、これ以上先は無かった
「ここ最上階……?あ!ロビンに見取り図記憶させてたんだった……出してロビン」
端末に送られた見取り図を睨む
「……ここはエスタークの部屋か」
にとりの居た場所は神殿の最上階にあるエスタークの私室だった
「って事は下に行かない……おっ?」
端末から目を上げたにとりにある物が映り言葉が止まり、それに近付いていく
「良い物見っけ!あいつら喜ぶぞ~!」
そこにあった幾つかの物をリュックに詰めると
「よし!早く地下に行かなきゃ!」
ロビンと共に進んで行った
???
真っ白な霧が漂う広い空間が有った
霧が漂うだけで何も無いその空間
意識の部屋
精神すら萃める萃香の能力により意識の部屋を作り上げていた
「……」
その中に居る萃香
何も無いその部屋で飽きもせず待っていた
「……いらっしゃい」
萃香が呟くと白い空間に黒い霧が溢れ、集まっていく
「邪魔をする……」
入ってきたのはミスト
「わざわざこんな所に来るなんてね……」
「何をするかわからんエスタークに邪魔をされたくなかったのだ……」
「そうかい……」
萃香はミストを見つめる
その姿はバーンを象った姿ではなかったから
「……それがあんたの素顔?」
ミストの姿に問う
夕陽に伸びる影の様な姿に
「そうだ、これが私の始まりの姿……」
ミストは答える、出る筈の無い答えを
「バーン様と出会った時の姿だ」
ミストはバーンを思い出していた
「記憶の矛盾を感じていた私にお前が記憶を取り戻す切っ掛を与えてくれた……お前がそうしてなければ私は死ぬまであの日陰者を主と疑わずにいたに違いない……感謝する」
「いいさ……私がそうしたかったからやっただけの事さね、礼はいいよ」
ミストの記憶を戻したのは萃香だった
衣を取ったミストへの指摘に記憶の矛盾を感じていたミストを見た萃香は記憶を弄られたのだと判断し萃霧想に呪術を込めた
物理的な威力を持たない呪術を組み込んだのはミストの記憶を戻す為
精神に影響を与える呪術を駆使し見事に記憶を取り戻させたのだ
呪術が得意なのもあったが何よりもミストが魔族だったのが大きい
魔の者にはエスタークの能力は効きづらい、だから矛盾にあそこまで動揺を見せたから萃香は気付けた
「……聞かせてくれ」
ミストにはどうしても聞きたい事があった
「幻想郷でのバーン様を……お前が見たバーン様を教えてくれ……」
それは真の主の事
本で見てある程度は知っていたがそれでも聞きたかった
「お前の口から……」
バーンが名を贈った萃香から聞きたかった
「いいよ」
萃香は話した
異界の地、幻想郷でバーンが何をし、何を想い
そして消えていったのかを
「そうか……その様な事がバーン様に……」
変わり過ぎた主だったがミストに驚きはなかった
「生前なら戸惑ったに違いない……バーン様が友や仲間を作り、幻想郷を救ったなど……信じられるものか」
驚かなかったのは語ったのが萃香だから
「だが……お前を信じよう伊吹萃香」
通じ合ったから疑わない
「バーン様に認められた小さき鬼よ……」
萃香はミストにとって特別な存在になったから
「そら……」
萃香が盃を取り出しミストに差し出す
「……」
ミスト促されるまま盃を受け取る
「意識の中だから本物じゃないし酔いもしない……」
そして瓢を取り出し酒を注ぐ
「大魔王って酒だ……バーンがくれた酒だよ」
「……」
注がれる大魔王を無言で見守る
「受けてくれるかい?」
注ぎ終わった萃香は願う
「盟友の盃を……」
友になってくれと
「……」
萃香を見つめる
「……受けよう」
酒を飲んだ
「ありがたいねぇ……バーンの一番と盟友なんて良い自慢話になる!」
返された酒を飲み干す
「フッ……」
「フフッ……」
二人の友は笑う
楽しくて……嬉しいのだ
ほんの僅かな一時であってもこの瞬間は永遠だから
「萃香……頼まれてくれるか?」
「いいよ、盟友の頼みなんだからなんでもしてやるよ」
笑って承諾する萃香にミストは頼んだ
「私を殺してくれ」
命を消してくれと
「……理由だけ聞かせなよ」
わかっている萃香は聞いた
理由に宿る想いを
「……これ以上の恥を晒す訳にはいかんのだ」
止めるつもりは無いミストは語りだす
「バーン様以外の者に仕え、バーン様が心を許した友や仲間を傷付けるなど……」
拳が震える
「私は……自分が許せないのだ!」
怒り
自分自身への
「私はバーン様だけの黒い霧……その私がバーン様に弓を引くなどあってはならん事!例え記憶を弄られようともだ!」
不変の忠誠心が己を許せなかった
バーンにだけ忠誠を誓った、何よりも優先するべきはバーン
それ以外はあってはならない事
もしミストがバーンの肉体を借りている時にそんな事態になっていたらバーンに不利益な事が起きる
それは裏切りと同義、他意は関係無い
今回も同じ、幻想郷を攻める行為がバーンへの裏切りなのだ
だからバーンへの強い想いを持つミストは死を選んだ
「私の命はバーン様の物……自決など勝手な事は許されていない……エスタークに記憶が戻ったと知れれば私はまた記憶を弄られて幻想郷に牙を向けるだろう……」
それは恥の上塗り、裏切りの加算
「だから萃香よ……」
それは出来ないから頼む
「お前が殺してくれ」
萃香に……
「……」
想いを知った萃香は笑っていた
ずっと笑顔を作っていた
「任せときな!」
友の頼みを快く引き受ける
「お前ならそう言ってくれると思っていた」
ミストも笑った
「腹を括ったあんたに引き留めは野暮ってもんだろう?辛気臭いのも性に合わないし……ならせめて笑って送るさ!ミストもそれが良いだろ?」
「ああ……それがいい……頼む」
「ようし……」
萃香がミストに触れると体を少しずつ霧散させていく
「ミスト……」
「どうした?」
最期の会話
「霧の名はあんたに返すよ」
「……」
「あんたの名前なんだ……バーンの一番の仲間の……ね、私には勿体無い名さ」
「その名はバーン様が萃香、お前に与えた名なのだろう?ならば返さなくて……いや、返すな、お前が持っていろ、私も許可しよう……」
「……」
「今よりその名はミストも認めた名……私が認めたという価値が加わった真の霧の名だ……」
「でもこの名はあんたの……」
「死に行く私を困らせるな……友の贈り物は素直に受け取るものだろう……?貰ってくれ萃香……私の名を……」
「……」
「私はまだまだバーン様の為に働きたかった……萃香……バーン様の守った友を、幻想郷を頼む……私の名と共に……」
「……ッ!?」
「鬼が泣くな……強き鬼に涙は似合わん……」
「泣いてないよ……」
「そうか……泣いていないかお前は……」
「……そうさ、泣いてなんかない」
「萃香……お前は知らんだろうが私がバーン様に仕えていた時に部下によく言っていた言葉が有る……これを最期にお前に私の名を……霧の名を譲る」
消える間際のミストは言った
絶対の主と友
両方を想う
不変たる忠誠の言葉
「大魔王様の御言葉は全てに優先する……」
「……」
目を開けた萃香は暫く佇んでいた
「ミスト……」
盟友を想い太陽を見上げる
(わかったよ……あんたみたいに……)
溢れる想いが目から頬を伝いながら心に誓う
(霧の名に恥じない様に生きるよ!!)
真の名と共に
「なんだぁこのチビ?角が生えてやがる!妖怪かぁ?」
「おお?なんだこいつ泣いてら!俺達が恐いのか!」
「ギャヒャヒャヒャ!」
はぐれた魔物が萃香を囲む
「……雨さ」
ポツリと返す
「こんな晴天で雨なわけねぇだろうが!」
「……雨だって言ってんだろ?」
センチな気分を壊された萃香は苛立ちが急激に高まる
「だから雨なん……」
ドンッ!
足を踏み込み大地が打ち上がり魔物を怯ませる
涙拭う様に
「御託はいいんだよ!かかって来な!今日の私は疲れを知らん!いくらでも相手してやるよ!」
気力満ち、雄々しく、猛々しく
叫ぶ
「この「霧」の萃香がねぇ!!」
友の名と共に戦場へ戻って行った
約束の為に強く生きた5人の戦いは勝利に終わる
しかしまだ敵は居る
だが心配は要らない
強い者が居るから
鬼の勇儀、本気のアリス、怪我をしているも奮闘する正邪、白蓮、文、謎の復活を遂げた霊夢
いずれも心配無い
そして居る
幻想郷に君臨する
頂に立つ者達が……
エスターク神殿・分岐の間
「「ヴォオオオオ!!」」
2頭の竜がブレスを吐き散らし二人を襲う
「それっ!」
チルノが白銀の竜に能力を使う
「……あれ?」
頭を傾げていると爪が襲う
軽く避けるとチルノは大妖精を見る
「えい!」
大妖精の風の弾幕が深緑の竜に命中する
「ゴォオッ!!」
大きく開かれた口が襲う
「わわわっ!?」
慌てて避けた大妖精にチルノが話しかける
「こいつあたい達用の妖怪?」
「そうみたいだね、すっごく強い耐性を持ってるみたい」
攻撃を避けながら二人は続ける
「あたいは全然大丈夫だけど……代わったげても良いよ大ちゃん?」
代わるとは相手の交換
チルノが深緑に大妖精が白銀にという事
「もぉ!チルノちゃん酷いよ!」
大妖精は提案に怒った
「私だって倒せるよ!」
自分を弱く見るチルノに
「もうチルノちゃんや皆に守られる私は卒業したの!」
大妖精は力を高める
「だから……大丈夫だよ!」
その顔には自信が溢れていた
かつて誰よりも弱かった大妖精
守られるだけで何も出来なかったあの頃
皆やバーンを助けれない無力が悔しかった幼い少女は必死に頑張った
皆に追い付きたくて
もうあんな悔しい思いはしたくないから……
守られるだけじゃなく守る為に力をつけた、つけれた
頂点と呼ばれる程に……
「いっくぞー!」
深緑の竜に両手をかざす
「んん~!!」
力を集め、手の前に巨大な竜に匹敵する大玉を作り上げる
「ゴオオオオオッ!!」
深緑の竜が暴風を纏い突進を繰り出した
昔なら震え上がる光景
「くらえー!!」
だが大妖精に怯えは無かった
「風精「大風妖玉精!!」」
巨大な風玉が深緑の竜とぶつかる
「ゴアアアッ!?」
その威力は突進を止めるどころか不意に鉄球が直撃した様な凄まじい勢いで壁に叩き付けた
「……」
深緑の竜は沈黙しこれ以上動く事はなかった
「やったよチルノちゃん!」
勝利に喜ぶ大妖精、笑顔でチルノに向くと
「……だよね」
衝撃的な光景に顔が引き吊った
「さっすが大ちゃん!」
笑顔でVサインをするチルノと
「……」
氷付けにされた白銀の竜が居たから……
エスタークパレス・左翼内
「ヒャーハッハッハァ!!」
高笑う下卑た笑い声
「どうした二天さんよぉ!手も足も出てないぜぇ?」
愉快に笑うはフレイザード
「ッ……」
悔しく睨むはパチュリー
攻撃を受けたのか服の至る所に焼け跡や氷結後がある
「マヒャドォ!」
フレイザードが呪文を放ち、突撃する
「くっ……」
後ろに下がりながらパチュリーは指を突き出す
「メラゾー……!?」
呪文は中断された、いや、した
「無駄無駄無駄ァ!!」
その隙にフレイザードがパチュリーをはたき落とす
「先生!?」
レティが床に倒れるパチュリーに叫ぶ
「脆いもんだぜ賢者なんてよぉ、魔法を封じられたらカス以下じゃねぇか!弱ぇ弱ぇ!こんな事なら最初からシャハルの鏡使ってたら良かったぜ!」
楽しげにフレイザードは笑う
パチュリーは戦いになっていなかった
魔法一辺倒の彼女にとって魔法を反射するシャハルの鏡は天敵以外の何物でもない
魔法以外攻撃方法が無いパチュリーは為す術無く叩きのめされていた
「そろそろ死ぬかぁ?パチュリー・ノーレッジ?」
倒れるパチュリーに問う
今までの攻撃は手加減していた、嬲る為に
エスタークの嗜虐的な部分が濃く出ていたフレイザードは楽しみの為だけにパチュリーを嬲っていた
無力な者を相手に
「決めさせてやるよパチュリー・ノーレッジ!今すぐ死ぬかもう少しいたぶられた後に死ぬか!どっちだ!」
どっちでも良い2択を迫る
「……ふぅ」
だがパチュリーから返ってきたのはどちらでもなかった
「もう大丈夫ね」
浮き上がったパチュリーがフレイザードを無表情に見つめる
「あぁ!?何が大丈夫なんだコラァ!」
態度が気に入らないフレイザードが怒鳴るとパチュリーは静かに告げた
「調子に乗った単細胞を倒す算段がついたのよ」
勝利への式が見えた事を……
エスタークパレス・尾翼内
ズバッ
「っく!?」
ズバババッ
「痛っつ……!」
ヒュパ
「ッ……それ!」
ゴッ
「クフッ!?」
……ギシィ
「ム~!」
「まだ……まだ終われん……!」
鋼線がフランの右腕に巻き付き引き合う二人
「よーし……!」
グッ……!
フランが腕に力を込めるとウォルターを引き寄せる
「ヌ……ウゥ……!!」
ウォルターも負けじと引き返すが止められない
「……おりゃあ!」
一気に力を込め腕を引き抜く
「ッ!?」
ウォルターの体が宙に浮きフランに引き寄せられた
「……!」
次にフランのする事を予期し指を動かす
「うーりゃあ!!」
力を込めた左腕をウォルター目掛け放った
ギシィ……!
左腕の勢いが止まる
腕に鋼線を通され勢いを殺されていた
ガンッ!
引き寄せられた勢いのまま肘打ちを頭に食らわせる
「……!!」
着地と同時に足を下顎目掛け振り抜く
「オオオッ!」
両腕を斜めに振り抜き鋼線を力の限り引き締める
渾身の力を込めても血を流すだけで動かない体と鋼線を通したのにこれ以上びくともしない左腕を目の前にして
「……ウォルター」
フランが呟く
「それじゃあたしは殺せないよ?」
グンッ!
左腕が動き
ドッ!
ウォルターを殴り飛ばした
「……ッウ!?」
飛ばされた拍子に指の力が抜け鋼線が緩みフランは瞬時に飛び上がり抜け出す
「……あたしに力と速さで勝負は無謀だよウォルター」
降り立ったフランが告げる
「ウォルターは知らないと思うけどあたしは鬼より力が強くて天狗より速いの、体の防御力もスッゴいんだよ!」
「……」
膝を着くウォルターは聞き入るのみ
「まだ……やるの?」
フランは聞いた、勝ち目は無いのにやるのかと
「……当然だフランドール」
答えたウォルターが立ち上がる
グシャ……
膝を着いていた左足がボロボロと膝まで崩れ落ちる
「……当然だろう!フランドール!」
右足を曲げバランスを取るウォルターは尚も止めない
ウォルターの体は崩壊を始めていた
不完全な施術による代償
死に向かう運命は止まらない
「……!!」
ヒュパ!
鋼線を周囲に展開し叫ぶ
「これで最後だッ……!この命果ててでも殺す!」
殺意伴う遊び、児戯
とうの昔に果たせなかった想いの残骸
想い煩う餓鬼の意志を冷たい鋼線に乗せ
死と無意味を前に死神は艶やかに舞う
果たせぬ一夢の残骸の様な自分を
残骸にし尽くす為に……
「いいよウォルター……終わりにしよ」
死神を前に妹は敢然と立つ
「……負けないよ!」
王の妹たる矜持
逃げも隠れも小細工すらせずにただ佇む……
一人一人の内容が濃い……
だからこんなに長くなってます。
今話は決着後と頂点の戦いの続きです。
ゆうかりんが出ないのはバルバトスは既に消えたからです。
萃香のが一番書くの悩みました……今でもアレで良いか不安です……
次回も頑張ります!