もしかしたら出会う運命じゃなかったのかもしれない
だってそうだろ?
かけがえの無い時間を過ごした僕達の最後があんな事になるのなら……
でもそれで良いんだと僕は思う、例え僕の世界の誰もが知らない物語だとしても、貰った想いは永遠だと思うから……
だからこれは……君も僕も知らない物語……
「……常闇ノ皇?」
チルノが呟く
「確かに似てるねチルノちゃん」
「パクリだ……起訴も辞さない」
大妖精と魔理沙が頷く
「思ったよりとんでもないのが出たな……」
「そうね……吸血鬼性が上がってるのも関係してそうだけど……」
「お姉様大丈夫かな……」
妹紅、パチュリー、フランの3人も予想外の力を感じて顔を曇らせている
「面白いねぇ……!私にやらせなレミリア!」
本気でやってみたい萃香が声を張り上げる
「完全に戻してある、証明はこれでよいかキスショット?」
バーンだけは驚きもせずキスショットに問う
「……」
キスショットは手を見つめながら握る
(……そうだろうよ、やはり当然よの)
良かったような、残念なような、そんな複雑な事を思いながらバーンへ向き
キスショットはニヤリと笑った
「おいアラ木!」
にとりが暦に話しかける
「僕を石仮面被ってるんじゃないのかなんて噂される有名漫画家の様に呼ぶな!まさか僕が吸血鬼でもあるからそれにかけたのか?石仮面は人間を吸血鬼にするからな、なるほど上手いな……でもにとり、それでも僕の名前は阿良々木だ!」
「うるさいよ、それよりあいつ何なのさ?ただの吸血鬼じゃないんだろ?」
そう聞かれた暦はキスショットを見ながら答える
「はは……そんな凄いもんじゃないよにとり……」
苦笑を交えたそれは讃える言葉ではなかった
「吸血鬼みたいな……か弱い女の子さ……」
「まだか?トロトロやってんじゃないよ、このノロマ」
レミリアは言う
「おお……待たせて悪かったのレミリア、体の調子を見とったのよ」
妖しい笑顔でキスショットは振り向く
「前に……と言うより今日か、意図せず戻った時は事情が事情で確認する間も無かったが……ふむ、難しそうじゃの」
少し困った様にしている
「私に勝つのがか?よくわかってるじゃないか」
「カカッ!笑わせよる、いやなに……急に力が完璧に戻ると慣れるまでかかりそうだと思ってのぅ……」
キスショットは見下す様にレミリアに言い放った
「やり過ぎてしまうかもしれん」
勝つのを前提とした言葉を
「御託は結構だ、さっさとかかって来い搾りカス」
それが開始宣言となった
ドウッ!
大地にクレーターを作る勢いで踏み抜いたキスショットがレミリアに掴みかかる
「やり過ぎてこれか?片腹痛過ぎて死にそうよ」
受け止めた不動のレミリアが皮肉を飛ばす
「まさか!軽い肩慣らしよ!こんなものではないぞ儂の力は!」
弾かれた様に離れた二人はそのまま高速戦闘へと突入していった
「嘘だろ……あの忍と互角にやりあってるなんて……」
暦は驚きを禁じ得ない
この中で直接見てきたと言うのなら間違いなく暦が一番だろう、それだけに一番キスショットを知っている
その暦が驚くのはレミリアに対して
「お前、レミリアがすぐやられると思ったろ?」
魔理沙の悪戯っぽい問いに暦は苦笑する
「悪いけどその通りだよ……キスショットは僕の世界のレミリアと三日三晩の死闘の末に勝ったらしい、だけど今のキスショットはその時と違う、吸血鬼性が更に上がるこの世界の幻想郷が原因なのか今のキスショットは全盛期を遥かに越える力を見せてる……まるで水を得た魚、いや鬼に金棒か?」
「ほーん……確かに強いなあいつ、王なんて呼ばれるのも納得だ……でもな!うちのレミリアを侮っちゃあ困るぜぇ?」
魔理沙は二人の戦いを見上げる
「あいつはここの幻想郷の頂点の一人!王女レミリア!舐めたらいかんぜ!」
「頂点?」
「そそ、あー……今はバーンが居るから厳密には頂点じゃないんだけど私達7人がここの幻想郷で最強ってなってる」
「7人って?」
「まず今戦ってるレミリアだろ?そんで大魔導士の私にお母さんのパチュリー、泣き虫お姉さんの妹紅に紅魔館の赤い彗星のフラン、胸が大きくなった裏切者の大妖精と……後はバカの世界チャンピオンのチルノだな」
「悪意しか感じられない説明ありがとう、もう良いから喋らないでくれ、ひざがしらむずむず病がうつる」
「あるかそんな病気!」
そんな会話が飛び交う中
「……」
バーンは静かに見ていた
「どう?あのキスショットって吸血鬼?」
パチュリーが問う
「強い、レベルで言えば常闇ノ皇と同程度と言えよう、奴ならば世界を滅ぼすのに……そうだな10日と言ったところか」
「そう……でも吸血鬼性が上がるこの幻想郷だからそのレベルなんでしょう?なら実際はそこまでじゃないのではないの?」
「……キスショット含め、お前達は何か勘違いしているようだがこの幻想郷に吸血鬼性を更に高めるなどいう物は無い」
「?……ならどういう事?」
「世界にはレベルが有る、その世界の力のレベルというものが……奴はここに来てここのレベルに合わせられたのだ、平行の幻想郷に居た為に……故に奴は本当の意味では変わってはいない、先に言った世界を滅ぼせる10日もこの世界でもと言う意味だ、それは向こうに戻っても同じ事だ」
「それはわかったけど……何にせよ強い事には変わらないわね」
「そうだな」
「……心配?」
それは勿論目下戦闘中のレミリアの事
「……レミリアも此度の異変を乗り越え強くなった、実力で言えば枷の外れた頃の余に限りなく近くなったと言えよう」
そこまで心配はしていない
「……普段ならな……」
ただ、今この時じゃなければ……
「カカカッ!!」
二人の吸血鬼が幻想の空を舞う
「ハアッ!」
紅魔の主が弾幕を縦横無尽に放ち、それを回避しながら笑う怪異の王
「カーカッカッカッ!!」
迫る弾幕を縫い、あるいは弾きながら笑うキスショット
(癇に障る……)
それがレミリアは気に入らない
強者を自負する自分を前にしてあの態度、余裕が気に入らない
キスショットが確かに強いのはわかる、見立てでは実力は近い、だからこそ腹が立つ
あの余裕がまるで自分を下に見ている様で……
(消してやるわその余裕……)
レミリアは行動に移した
「天罰「スターオブダビデ」!!」
通常より更に高密度の弾幕を発生させキスショットへ放ち移動する
「むぅ……」
さしものキスショットもその弾幕には顔をしかめる
「避けるのは難しそうじゃの」
だがすぐに表情は戻る
「ほれ!」
キスショットが力を込めると目の前に巨大な壁が出現し弾幕を防ぐ
「避けれんなら防げばよいのよ」
この壁はキスショットが持つ能力、物質創造能力によって作られた防御壁
「おーおー……かなり強固に作った壁がへこんでおるわ」
造り出した壁の様子からレミリアの力を感じ取り、キスショットは体に力を込める
(そうなると次は吸血鬼の膂力に任せた突破じゃろうな)
次の行動を読んだキスショットが構えを取……
ズギャア!
「グウッ!?」
壁から突き抜けた何かに体当たりされキスショットは吹き飛ばされた
「フン……舐め過ぎだ搾りカス、多種多様な戦局に対応出来る様に培った私の判断力を甘く見るなよ」
浮かび上がるレミリアが倒れるキスショットに告げる
レミリアは弾幕を放った後、すぐに動いていた
動いたのはあれしきの弾幕でどうにかなる訳がないと知っているから、だから立ち止まって様子を見るのではなく動きながら様子を見て相手の対応に即座に動ける様に初動を無くしていた
そして造られた壁に弾幕が当たり、自らなら突破出来る強度と確信した時には既に向かっていた
それが余裕ぶって先を読んでいたキスショットを判断の早さと思いきりの良さで上回り、見事一撃を食らわせたのだ
「……やるのぅレミリア」
キスショットが起き上がりレミリアを余裕が消えた表情で見つめる
「年季が違うんだよ、お前のような搾りカスと私じゃあ戦いの質も年季も違い過ぎる……いいザマね、どう?砂のお味は……?」
腕を組みながらレミリアは余裕が消えた顔が見れて優越を感じさせる目で見下していた
「……それはそうじゃろうよ、主と儂では置かれた世界が違う、質に違いはあるじゃろうよ」
しかしキスショットは揺るがない
「だが年季はそう変わらん、儂とて多種多様の怪異やらヴァンパイアハンターやらと戦ってきた、年季は遅れは取らんよ」
「それで?それを証明したいなら相応の力を見せないと滑稽なだけだぞ?」
「ふむ……まっ確かにはしゃぎが過ぎた、こちらでは勝ったのもあって主の力を見くびっていたのもあるがちとやり過ぎたわい」
そう言うとキスショットはストレッチをするように体を伸ばし始める
「まぁ……そうじゃの……」
伸ばした体の力を抜き、だらりと手を下げ、頭も下げる
「今の気分を一言で言うのなら……」
顔が僅かに上がり、前髪の間から光る瞳がレミリアを捉えた
「本気にさせたな……!!」
ドウッ!
「ッ!?」
一足で瞬時に詰め寄ったキスショットがレミリアの胸ぐらを掴む
「見せてやろうぞレミリア……いや!スカーレットデビル!年季など何の意味を成さぬ……圧倒的な力の暴を!」
ズドオッ!
レミリアを殴り飛ばす、防御した腕ごと打ち抜いて
「カカッ!飛んだ飛んだ!」
遠目に巻き上がる粉塵に向かってキスショットは歩いていく
「砂の味は如何かかの?」
意趣返しを決めた瞬間、粉塵が吹き飛ばされ、レミリアが姿を現した
「ハァ……!?……フン、そうこなくては潰しがいが無い」
息を整えたレミリアは魔力を全開に突撃する
「……!!」
「……!!」
右手を掴み合い、押し合う二人
「さぁ……!始めようぞ!吸血鬼の闘争をのぉ!」
「お前の敗北で幕だがなぁ!」
吸血鬼の戦いは白熱する
「激しくなってきた……マズイんじゃないかこれ?」
戦いの余波を感じながら妹紅が皆に問う
「そうね、このままじゃ地図を書き直すレベルに地形が変わってしまう……結界を張るわね」
「判断が遅い、既に余が張った」
パチュリーより早く既にバーンは動いていた、結界を二人の戦いの邪魔にならない程度の広さで張り、更にこの場で一番弱い暦に特別に強い結界を施して
「……かなり熱くなってませんか?あの二人……」
「ですね、レミリアさん怒りっぽいから……」
暦の問いに大妖精が頷く
「でも、それよりも……」
大妖精には気になる事があった
「レミリアさんの動き……おかしくないですか?」
それは普段から知っている者から見れば遠目からでもわかる違和感
「そうだね、確かに悪いねお姉様の動き……さっきも息を乱してた、いつもならあれくらいで絶対乱さないのに」
フランも気付いている
明らかにレミリアの動きは精彩を欠いていた
「え?そう……ね!あたいもそうだと思ってたわ!」
チルノ……も気付いている
「……体調悪いからな、そりゃ当然だろうぜ」
「いくら回復魔法でも体質までは治せないものね……」
魔理沙、パチュリーは最初からこうなるのはわかっていた、でも止めるつもりは無い
「良いのか?あのままやらせといて?」
当然わかっている妹紅がバーンに問う
「……今はまだ好きにさせておけ」
しかしバーンから返るのは静観
「大丈夫なのかよ?普段ならいざ知らずだけど今は普段じゃない、思わぬ事態なんて事あるぞ?」
「充分承知しておる、だが今はまだレミリアの意思を尊重してやりたい」
「そっか……お前がそう言うなら無粋な真似はやめとく、レミリアも怒るだろうしな……でも本当にヤバイと思ったら私は行くからな?」
予め言っておくと言う様な宣言を受けたバーンは妹紅を一瞥し視線を戻しながら言った
「余もそのつもりだ」
「どうしたスカーレットデビル!その程度か!ヘソが茶を沸かすぞ!」
「クッ……!?」
襲い来る徒手を捌くレミリアの表情が苦い
「ッ!?」
打ち合った拳の勢いを利用してレミリアは距離を離す
「ハァ……ハッ……」
荒い呼吸を整える
「息切れか?態度の割りには情けないのぅ」
レミリアとは違い軽い乱れはあるもののまだまだと言ったキスショット
「そんな体たらくではスカーレットの名が泣くぞ?」
「……黙れ!」
歩いてくるキスショットにレミリアはスペルを宣言する
「紅符「スカーレットマイスタ」!!」
高密度の弾幕がキスショットに向けられた
「その弾幕は見た事あるの……まだスペルカードの誕生する前じゃったがこちらのレミリアも似たようなの使っておったわ」
目も眩む量の弾幕を前にしてもキスショットは冷静だった
「あの時は確か……そうそう!こう破ったんじゃった!」
思い出したキスショットは弾幕を目前にして
駆けた
(……妙な動きはしていない、まさか吸血鬼の体の防御力に任せたダメージ覚悟の強硬突破か?だとすれば愚かね、私の弾幕を安く見過ぎだ!)
弾幕が命中したのを確認すると更に有無を言わせぬ怒濤の連射を始める
「大した奴だと思えばこの程度か……」
手応えを感じながら好敵手に成り得ただろう相手に落胆する
更に撃ち込もうと力を入れる
「終わりよ……」
「お主がか?」
弾幕の中から穴だらけのキスショットが姿を現しレミリアを捕まえた
「流石に強いのスカーレットデビル……もう少し受ければ儂と言えど危うかったわい」
「グッ……ウゥ!?」
首を掴まれたレミリアの見る前でキスショットの体に空いた穴は瞬時に無くなった
(超速再生……!キスショットと言う種のスキルか!)
何が起きたかはすぐに理解された
キスショットの持つスキルの1つに強い再生能力がある、能力だけなら持っているレミリアを遥か凌駕する再生能力、それを使い弾幕によるダメージを相殺しながら突き抜けて来たのだ
「次は儂の番じゃ……地獄を見せてやろう」
掴む指がドス黒い淡い光りを放つと爪を食い込ませ光を流し込む
「吸血鬼の弱点である毒を送り込んだ……死には至らぬ物にしたが地獄の苦しみじゃ」
レミリアを放すと嬉しそうに笑い
「後10秒もすれば地獄の始まり……負けを認め、地に這いつくばり謝るなら解毒してやろうぞ」
提案する
「……」
それを聞いたレミリアは一瞬だけ考えると
「願い下げだ搾りカス」
ふてぶてしく笑った
「……誇りを選ぶか、しかし残りは5秒……これが灸じゃ、地獄を味わうがよい」
そして時間が来た
「ぐはあっ!?」
苦痛の声が上がる
「ぐっ……な、何故……」
だがそれを発したのはレミリアからではなく
「毒が効かん……!?」
痛恨の一撃を食らったキスショットだった
「マヌケが……お前の基準で考えるから無様を晒すハメになるんだ」
平然としているレミリアが追撃を食らわす
「お前と言う吸血鬼には毒が弱点なんだろうがスカーレットの吸血鬼には毒は効かない、どんな毒だろうと……例え死毒だろうとも……」
「……!?」
キスショットが驚きを見せ、それを見たレミリアは尚嬉しそうに笑顔を見せ爪を突き入れる
「……なるほどの、スカーレットと言う吸血鬼に毒は愚策だったか、ぬかったわ……」
寸での所で弾いたキスショットも種の違いによる差に気付く
「ようやっと理解したわスカーレットデビル……小細工では主を打倒出来ん事がのう」
「フゥ……口調らしく理解も遅いんだな、えぇ?年寄り……?」
「カカッ!言うてくれるわ……」
一笑したキスショットは突如舞う様に腕を振り始める
「主の力に敬意を表し……これで相手をしよう」
舞が終わり、両手が上段僅かに前傾、くの字で止まった時
その手には一本の刀が握られていた
「妖刀・
背の高いキスショットの身の丈も有る大太刀
これこそキスショットの最高にして最大の武器、これで怪異に触れればたちまちに死を与える必殺刀
キスショットを怪異殺し足りうる真の要因
「心配せずとも怪異殺しの力は調整してある、これは言わば吸血鬼も切れる切れ味の太刀……もっとも主は知らぬだろうがの」
「負けた時の言い訳か?興が冷めるからやめろ」
それがどうしたとレミリアも退かない
「言うた筈じゃぞ……これは灸据え、殺し合いではない……もっとも主が望むならこの限りではないがの」
心渡を構えてキスショットは目で語る、かかってこいと
「勘違いするなよキスショット……これは試合じゃあない、だがまぁ仕置きは間違っていないか、ただ字が違う……死置き……誇りを懸けた死置きだよ!」
これは死を相手に置き合う誇りの戦い
そう返したレミリアは魔力を右手に強く集中させた
「神槍「スピア・ザ・グングニル」!!」
己の持つ最高の武器を作り出す
「ハァ!?カッ……ハァ……!?」
だが息が荒い、既に作るだけでも辛い程体力を落としていた
「やるのか?その悪き体で?」
「……ッブッ!?……私はベストコンディションだ……」
「……無理をするでない、下手をすれば死ぬぞレミリア?体調が優れん中、主はようやった、故に恥じる事はない……じゃがそれで死ぬのはつまらんとは思わんか?」
「……」
その問いにレミリアはとても残念そうにキスショットを見た
「お前なら……わかってくれると思ってた……」
その目に悲しみを見せて
「お前は種に強い誇りを持つ気高き吸血鬼だと思っていた……好きに生きてる妹とは違って、敬意を持てる者だと……例え屍を晒そうとも、それを誇りと理解してくれる者だと……」
それがレミリアが悲しい理由
久しく見なかった同族、それも強い力と誰にも媚びない誇り高さを併せ持った同族
同じく誇り高いレミリアは口には出せぬどそれを嬉しく思うと同時にならば尚更負けたくなくて……
だから退かないのだ、自らが持つ吸血鬼の誇りに懸けて
体調など言い訳にする気は毛頭無い、誇りの前でそれは誇りを捨てるあるまじき愚挙だから
「失望したわキスショット……偽者だったのねお前は……本物の様な……薄っぺらい偽物……」
槍を持つ力を弛め、蔑んだ目で見つめた
「……ッ!?~~ッッ!!?」
キスショットの様子がおかしい、苦しんでいる様に見える
「死ねば……生きれんのじゃぞ……!?何も得られんのじゃぞ!?目も眩む様な馳走も!愉快な娯楽も!ましてや恋い焦がれた者をいくら想おうが!見る事すら叶わぬのだぞ!?」
罵声の様に浴びせられる問い
「それでもよいのかうぬは!」
「当然ね、この誇りは私がレミリア・スカーレットである為の命、なくして生きられないのよ……誇りを失うくらいなら私は死を選ぶ」
即座に返される答えに更にキスショットの顔は歪む
「それを阿呆と言うのじゃ……!」
「これが私の生き方なのよキスショット……この生き方は変えない、誇りに生きるのが阿呆なら……お前は死人……いえ、死んだ鬼だから
「レミリアァァァァ!!」
怒声が響く
「ハァ……ハァッ……」
叫んだのはキスショット、だが何故か息が荒く、恨む様な血走る目でレミリアを睨んでいた
「そこまで儂に抜かしておいて……もう飲み込めんぞ!!」
心渡を構え怒気を放つ
「レミリア・スカーレットの名に懸けて……それは無い!!」
その気になったキスショットに触発され、槍を持つ手に力を込め、レミリアも構える
「「ハアアアアアアアアアアッ!!」」
僅か数メートルの距離を一足に詰め
二人の吸血鬼はぶつかった
「グゥオッ!?」
「アグウッ!?」
槍がキスショットの体を穿ち、刀がレミリアの体を裂く
「「ッ……アアアアアアアアッ!!」」
怯みも一瞬にまた切り合う
レミリアの槍がキスショットを貫けばすぐさま再生したキスショットの刀が強靭なレミリアの肌を切り裂く
そこに防御など存在しない、何故ならこれは相手の意思を砕く戦いだから
レミリアは自らの誇りを生かす為に、キスショットはそれが許せないから否定しようと戦うのだから……
「ねぇバーン!お姉様危ないよ!どんどん弱っていってる……このままじゃ死んじゃうよ!」
フランが心配の余りバーンに行かせてと頼み込んでいる
「そんな事より刮目して見ていろ」
だがバーンに一蹴される
「あたい止めてくる!」
「やめろ親分……」
チルノが向かおうとするが妹紅に止められる
「なんで!?バーンはお姉様が死んじゃっても良いの!?」
納得いかないフラン、そのフランにバーンは鮮血を散らしながら戦うレミリアを見ながら答える
「今止めればアレは決して許さんだろう……妹のお前でも、例え余であろうとも」
「そんなの……!死ぬより良いじゃん!!」
「それが誇りと言う物だフラン……誇りを重んじる気高き魂は死より位が高い物なのだ、余にはレミリアの気持ちがよくわかる」
「何それ……そんなのわかんないよ……」
「わからぬなら魂で感じろ、同じ吸血鬼ならばわかる筈だ……スカーレットに秘める紅く気高い誇りが」
気付けばフランとチルノ以外真っ直ぐに戦いを見ていた、誰も止めようとはしていない
「格好良いじゃないかレミリア……それでこそ私が対等に認める鬼さ……格なんてありゃしない……痺れるねぇ」
萃香すら酒を飲まずレミリアを讃える中
(怒りに我を忘れかけてる……わかるよ忍、お前は許せないんだよな?)
ただ一人
(自分が失ってしまった物を持ってるレミリアが……)
暦だけはキスショットを見ていた……
(気に入らん……)
最中に思う
(気に入らん……!)
レミリアを切りながらどうしようもなく思う
(何故貴様はそこまで出来る!)
徐々に空けられる穴の縮小を感じながら怒りに震える
(儂は出来んかったのに……!!)
レミリアの腹に心渡が突き刺さる
『死ぬのやだ、死ぬのやだ、消えたくない、なくなりたくない!やだよお!誰か、誰か、誰か、誰かぁー!!』
頭を過る自らの記憶の声
キスショットはその昔、死に場所を探していた
初めて作った眷族が自殺した時からそれを求めて400年もの間……
だがヴァンパイアハンターの襲撃で命の危機を感じた時、怖くなって逃げてしまった
その後、紆余曲折を経て暦を二人目の眷族とし、吸血鬼の搾りカスの様な状態で共に生きていたのだ
(貴様もそうに決まっとる!さぁ言え!言うがいい!死にたくないと負けを認めい!)
だから許せず、激情のままにレミリアを切るのだ
生き方を貫こうとするレミリアの誇りに嫉妬して……
「負けを認めいレミリアッ!!」
最後通達を感じさせる叫び
「断るわ……」
腹に刺さった刀を掴みながらレミリアは拒否した
「ッアッ!?」
刀を抜き距離を離す
「何故じゃ!敗北は明らかじゃろうが!認めれば楽になれよう!?なのに何故そこまで意地を張る!?」
キスショットの悲痛な問いにレミリアは槍に全ての魔力を込めて答えた
「どこが明らかなのよ……まだ私は負けていない!!」
槍を構える
(最後の一撃か!?これを凌げば……必ず負けを認める筈じゃ……!)
それを信じてキスショットも構える
一瞬の静寂が二人を包んだ後、レミリアは動いた
「魔槍「ブラッディースクライド」!!」
誇りを乗せた一撃を放つ
「クッ……オオオオッ……!?」
心渡で受けたキスショットが死力尽くして耐える
拮抗していた衝突だった
しかし
決着はすぐに着いた
バシュ……
突然槍が消え、レミリアがキスショットを前に倒れた
(……限界じゃったか)
とうに体力を使い果たしていたレミリアは限界を迎え、槍を維持する事も不可能だったのだ
「……儂の勝ちじゃレミリア、負けを認めい」
「……」
寝返りすらうてないレミリア、生殺与奪は間違いなくキスショットが持っている
「フン……」
そんな状態でも
「嫌よ……」
レミリアは認めなかった
(この……ド阿呆がッッ!!)
激情に駆られた腕が暴走し、刀を掲げ、トドメを突き入れる
「そこまでだキスショット……」
キスショットの視界からレミリアが消え、声がかけられた
「大魔王……!!」
離れた場所でレミリアを抱き抱えるバーンを睨む
「勝負は着いた筈だ、負けを認めぬレミリアも非はあるが貴様も大概にせよ、何が原因かは知らぬが殺す事は容認出来ん」
「そういう事だ、まぁ落ち着けよ」
気付けば周囲を頂点の6人と萃香、にとりを含めた8人が囲み、構えていた
「……」
それを確認したキスショットは頭を下げると
「カッ……カカッ……!」
狂気を含んだ笑いを見せた
「これは儂とレミリアの決闘ぞ……?それを無粋にも割り込み、落ち着けじゃと?作法も守れぬ阿呆共が偉そうな口を叩くなよ……」
それは明らかな凶兆
「死にたいのかうぬら!!」
暴走
怒りの捌け口を失い、全てに敵意を見せた狂気の王
「レミリアは最後として誰から殺してくれようか……」
心渡に怪異殺しの力を戻し、一人一人突きつける
「フランからか?それともいけ好かん魔女か?黄泉返りの魔女からにしてやろうか?下等妖精もいいのう?不死の小娘もよいし機械も面白そうじゃ……おーそうじゃ!生意気な小鬼と遊ぶのが先じゃった!」
萃香で止まる
「面白いねぇ、遊ぼうじゃないか怪異の王様……霧の萃香が遊んでやるよ」
指でかかってこいと告げる萃香にキスショットは止まる
「それとも……」
そして一番気になる者へ視線をゆっくり動かした
「うぬか……?大魔王……?」
バーンへ向かって
「……」
殺意を向けられたバーンは一瞥した後、意に返さずレミリアに回復魔法をかけ、慌ててやってきた咲夜と美鈴に渡す
「……貴様は先程、太陽の打倒が最終目的だと……そう言っていたな?」
無事に紅魔館へ戻っていく二人を見送りながらバーンは問いかけた
「それがどうかしたかの?」
「レミリアは余にとっての太陽の一人……」
「カカカッ!!ならもう少しで太陽が無くなるところじゃったな!」
瞬間
ズオォッ……!!
凄まじい魔力がバーンから溢れた
「何が可笑しいキスショット……」
怒気を孕む超魔力は思わず友と仲間が呆れて構えを解く程
「あまり余を怒らせるなよ……」
目だけで人を殺せるだろう瞳でキスショットを睨みつける
「面白いぞ大魔王!今のうぬなら間違いなく殺せよう!我が心渡の錆びにしてくれるわ!」
退く気の無いキスショットが心渡を構える
「たまらぬ者を切れそうじゃ……!」
キスショットが動く……
「待ってください」
それはキスショットの前に立ち塞がる一人の男によって中断された
「暦……」
それによりバーンの魔力が収まる
「すいません皆さん、忍を許してやってください、お願いします」
頭を下げて願い出る暦
「何やっとるお前様!お前様じゃ万にどころか京に1つも勝てぬ!邪魔じゃ退け!」
キスショットが促すも暦は退かない
「それに男が軽々しく頭を下げるでない!男子たる誇りが無いのかお前様には!」
そう言われた暦は頭を上げ、キスショットに振り向く
「無いよそんなもん」
「なっ!?なんじゃと!?」
驚くキスショットに暦は堂々と告げた
「お前を助けれるなら誇りなんて無くていい」
「なっ……なぁ……」
それにはキスショットもたじろぎ何も言葉に出来ない
「何故儂を助けるのじゃお前様……」
出たのは罵声ではなく疑問
「当たり前だろ忍……」
それに暦は笑いながら言い放つ
「僕が味方をしなきゃ……お前は独りだからな」
「!!」
思わず跳ねるキスショット
「ごめんな……お前が自分に出来なかった生き方をするレミリアを許せないのはわかる、でも敵しかいないお前を僕は見捨てられない、ペアリングだからとかそんな理由じゃない」
暦は言う、黒くも白くもない魂からなる
「それが僕の生き方だからだ」
誇り高い生き方を
「ごめんな忍……僕はお前を助ける、お前を死なせたくないからな」
「……ッ!?」
そう、暦だけは初めからキスショットをキスショットとして見ていない
忍として見ていた
強いのに弱い女の子だと知っているから身を呈して助けるのだ
「……どうするキスショット?そなたがまだ望むなら余が相手をしてやるが?」
僅かに微笑みを見せるバーンが問いかける
「……」
キスショットは少しだけ黙り、暦を見つめると
「もういいわい……馬鹿過ぎる主様のお陰で熱はとっくに冷めたわ……ここらで勘弁してやるわい」
心渡を消して肩を落とした
これにて戦いは終わりを迎えた
「ったく無茶するなよな、僕を大魔王に立ち向かう勇者にしやがって……お前は囚われの姫からかけ離れた吸血姫だろ?」
「儂もお前様のような優男が勇者なぞ絶対に認めんからな!」
「良いよ別にそれで……僕とお前の間にも絆がある……それだけわかれば充分だよ」
「……まったくもって度しがたい馬鹿じゃお前様は……大馬鹿じゃ!格好つけるなド変態主!」
「変態の汚名を受ける勇気!」
「やかましいわ!」
笑いながら……
その後、気を良くしたバーンの提案で暦達は紅魔館で泊まる事になった
「待てぇぇぇ!御命頂戴ぃぃぃぃ!!」
「待ちな暦ぃぃぃぃ!!」
「うおおおおおおおおッ!!」
僕は美鈴さんと萃香さんに追われていた
「成敗してやる下着泥棒め!!」
「だから濡れ衣だって言ってるじゃないですか!!」
「止まりな暦ぃ!今止まれば私の胸を揉んだ罪は九分殺しで勘弁してやるからさぁ!!」
「そんなの聞いて止まるかぁ!九分って意味わかって言ってんのか!ほぼ死んでんじゃねぇか!致命って言うんだよそれは!濡れ衣なんかで殺されてたまるかぁ!!」
「私の誇り高い胸を揉みしだいといてタダで済むと思ってるたぁ安く見られたもんだ……全殺し確定!!」
「なんでだぁ!高くないだろむしろ低いだろ!角は良くてなんで胸はダメなんだ!つーか濡れ衣だって言ってんだろォォォ!!」
「「マテェェェェェ!!」」
何故こうなったかは夕食の後
「おい
「一文字も合ってねぇよ!僕の名前に少女大好きな変態みたいなルビを振るな魔理沙!ロリコン自体断固否定するし僕の名前の読み方はアララギだ!」
「わりぃ、噛んだぜ」
「違う、わざとだ……じゃなきゃ僕の日本語の常識が息をしてない」
「幻想郷じゃ常識に囚われちゃいけないんだぜ!……って早苗が言ってたぜ?」
「囚われてくれ!頼むから!」
「小さい事言うなよ、器が知れるぜ?まっそれはそれとしてよ、格好良かったお前に良いもんやるよ!お前なら絶対気に入ると思う」
ゴソゴソ魔理沙は懐を漁る
「名前のルビをロリコンにするのを容認するのが器が広いと言うのなら僕は狭くて良い……で?なんだよ?僕が喜ぶ物って……今日会ったばかりのお前に僕の嗜好品をわかるとは思えないが……」
「ほれ!」
「ッ!?これは!!?」
出された物に暦は驚愕する
「なんて戦闘力だ……!?」
「美鈴のだぜ!また大きくなってキツくなったから要らないってよ、どうだ?気に入ったろ?」
見せられたのは美鈴の下着、趣味かどうかは知らないが紅くて際どい下着
「……まぁ僕は紳士だからそんな物に一切興味は無いし気にもならない、だけど要らないと言うのなら世話になった礼も兼ねて僕が責任を持って処分してやるよ」
必死に平静を繕いながら手を伸ばす
(ダメだ……まだ押さえろ!堪えるんだ……!し、しかし……)
今にも溢れそうな笑顔を何とか押さえ暦は
ガシッ!
美鈴の下着を手に入れた
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
手にした瞬間、高らかに掲げて叫ぶ
「気に入ってくれて良かったぜ!」
魔理沙がニヤニヤしながら見た次の瞬間
「何でしょうか魔理沙さん?話があ……」
呼ばれていた美鈴が現れた
「それ……私……の……」
暦の持つそれを確認した瞬間、美鈴の表情が変わった
「あ、美鈴さん!心配しなくても僕が処分……」
「変態野郎……よく聞けよ、聞く事など何もない、知りたい事も知っている……お前が私の勝負下着に手をかけた盗人なんて事は言われなくてもわかる事だからだ……」
殺気が放たれた瞬間、暦は戦慄し、理解した
(また嵌めやがったこいつ!?)
悪魔の笑顔を見せる魔理沙に罠に嵌められたのだと知る
「違う!誤解だ美鈴さん!濡れ衣なんだ!僕は被害者!そう被害者なんだ!」
死力尽くして弁明する暦だったが
「祈れ……お前が生きている間に出来る事はそれだけだ」
美鈴には届かなかった
「この世に変態栄えた試し無し……」
(殺される……このままじゃ殺される!?)
暦が泣きそうになった時、救世の天使が現れた
「おんや?何やってんだい暦?」
大魔王片手に酔っている萃香、状況がわからない為とりあえず笑っている
「助けてください萃香さん!お願いします!」
「あーん?」
暦が萃香に急いで駆け寄っていく、一番好意的だった萃香に助けを求めるつもりだ
(甘いな暦!魔理沙様の悪戯魔法に隙は無いぜ!速攻魔法「アンラッキースケベ」発動!!)
スッと動いて足を引っ掛けた
「うわっ!?」
体勢を崩した暦はそのまま前のめりに萃香へと倒れこみ
「……上等だクソガキャア……霧の名を持つ私に助けてたぁ何事かと思えばまさか溜まり過ぎた性欲を救ってくれとはねぇ……」
魔法に掛けられた様にその手は萃香の胸を鷲掴んでいた
「ち、違っ!?罠だ……!これは罠だ!魔理沙が僕を陥れるために仕組んだ罠だ!」
「魔理沙がだぁ……?」
「一度嵌めた私が言うのもなんだけどそいつが性欲を持て余してる証拠はあるぜ!」
「証拠ぉ……?」
「そいつの手に持ってる物」
「「あ……」」
二人は同時に見て、そして気付いた、暦が持ってる下着の意味を
「違っ……これは魔理沙に渡されて……」
尚も足掻く暦だったが何もかも遅かった
「それは死んだあと地獄の閻魔に言うんだね」
彼の言葉が届く事は無い
「なんで僕だけこうなるんだーー!!」
天使は悪い魔女によって死神に変えられていたのだから……
そして追われていたのだ
(なんでこうなるんだ!)
広い紅魔館を逃げ回る暦
「またなんかしたのかアララギコヨミーー!」
魔理沙に吹き込まれたにとりがロビンと共に加わる
(なんか増えたー!ぎったんぎたんが追加された!?)
3人と1体に追われる暦
疲れが出てきて距離が詰まっていく
「こっちだよ暦お兄さん!」
突如、紅い影が暦を連れ去った
「災難だったね!」
「フラン……」
助けたのはフラン、敵意が無いのを確認した暦は大きく息を吐き礼を言おうとしたがふと視界に入った遠目に見えた者を注視する
(……忍?)
それは廊下を歩いていたキスショット
(どこかに向かってるのか?)
それが気になり目で後を追う
「ねぇ暦お兄さんってば!聞いてるの!?」
だがフランに引っ張られて中断を余儀無くされる
「あ、悪いフラン……ありがとな、助けてくれて……それで何か言ってたのか?」
「もぉ!キスショット強かったね!って言ったの!」
「あぁ……そりゃそうだろ、何たって伝説の吸血鬼だからな忍は」
「……じゃあ暦お兄さんも強いの?」
「当たり前だよフラン、かなり強いぞ僕(普通の人間に比べて)だってな!」
フランを子どもと見ていた暦の何の気ない言葉
「じゃ勝負しよ!」
フランは信じてしまった
「……えーと、今なんて?」
「勝負しよ!って言ったのー!暦お兄さんはあんなに強かったキスショットの眷族なんでしょ!お姉様は負けちゃったけどあたしが勝ってスカーレットの誇りを証明するの!」
フランなりにレミリアの戦いに感じるところがあったのだろう、相手はともかくスカーレットの誇りの為にフランは動いたのだ
「……ごめんなフラン、僕はどこかの不幸な高校生みたいに女性を……ましてや女の子を殴る趣味はないんだ、諦めてくれ」
そう断りながらそそくさと逃げていく
(戦闘民族かここの人達は……付き合ってられるか!)
隠れていた場所から抜け出た瞬間
「ここに居たのかい暦ぃ……」
萃香等に鉢合わせてしまった
「ここが貴方の死に場所です」
黄金の気を滾らせる美鈴
「せめて痛みを感じて苦しみながら死ね!」
にとりとロビン
「勝負しようよー!」
背後にはフラン
「プークスクス……」
遠目に悪魔もとい魔理沙
「フッ……」
目を閉じた暦は叫んだ
「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
紅魔館・バルコニー
「……」
そこへやって来たのはキスショット
「月が綺麗じゃの……」
バルコニーから見える月を見上げ物思いに耽る
「ほぉ……これは珍しい客が来たものだ、こんな月夜に迷子か怪異の王よ……」
そんなキスショットに備えられた椅子から声がかかる
「バーンか……」
そこに居たのはバーン、グラス1杯の酒を片手に微笑んでいた
「食事の時にもレミリアに付きっきりだった男がよう言う……居るなら居ると言え、覗きは感心せんの」
「これは大層な言われようだ……余の方が先に居たのに勝手にやって来て盗み見するなとはなぁ」
グラスを回しながら面白そうに返すバーンにキスショットはムッとして踵を返す
「フンッ……邪魔したの……」
館に戻っていく
「まぁ待てキスショット、ちょうど余も退屈しておったところだ……話でもせんか?」
「……」
キスショットは立ち止まるとすぐに問うた
「レミリアは?」
一番気になっていた事を
「心配要らん、命に別状は無い……先程起きたが負けて助けられた事と余の説教で不貞腐れてはいるがな」
「カッ……追い出されたのかお主」
「フッ……そうとも言えるな」
レミリアの無事とバーンの笑みに気を許したのかキスショットはバルコニーの手摺に背を預けてバーンを見つめる
「キスショット……暦はよい男だな……」
「いきなりどうしたバーン?そんな当たり前の事を……」
「あの時……下手をすれば余等を敵に回すかもしれんあの状況の中、暦は迷わずお前に味方し頭を下げた……そう出来る事ではない」
「主様は阿呆じゃからの、決めたら命なぞ簡単に賭ける生粋の大馬鹿者……そんな主様じゃから儂は生きとれるんじゃがな」
「そこだキスショット、暦は白でも黒でもない灰色の生き方に命を賭ける……それ故に危ういのだ、力無き正義は力ある悪に容易く息の根を止められる……正義無き力が無力な様に力無き正義もまた無力……閃光の様な刹那の生き方が消えるのは一瞬だ……」
「……ようわかっとる、じゃがいくら言うても止めんのよ我が主様はの」
「ならばお前が守ってやるしかないだろう」
「それもようわかっとる、言われるまでもないわ」
「……好いているのだな」
「ああ……愛しとるよ」
「そうか、なら心配はなかろう」
バーンの酒を飲む間が少しの間を作る
「お主こそレミリアは好きか?」
「その問いは侮辱か?」
「カカッ!すまんのぅ……いやなに、少し約束して欲しくての」
「何をだ?」
「ここのレミリアは儂の居たレミリアとは違う……じゃがレミリアなんじゃよ、儂の可愛い妹分のの……故にお主にはレミリアを大事にすると約束して欲しいのじゃ」
それにバーンは少しだけ間を置き答えた
「約束しよう」
それを聞いたキスショットは寂しげな表情で呟く
「阿呆が……気付かんとでも思ったか……」
悲しみだけを宿して……
「消えるお主がどう約束を果たすのじゃ……」
「……」
「僅かな時を再誕したお主は言わば幻想の怪異……儂の心渡で簡単に殺せる幻想のお主がどう約束を果たせると言えるのじゃ……」
キスショットはわかっていた、この状態に戻った時に気付いた、バーンにはもう残り僅かの時間しか残っていないと……
「……誰にも言うなキスショット、わかったな?」
バーンはそれしか言わなかった
「……わかったわい」
キスショットもそれ以上は言わなかった
「……そうであった、紫と連絡が取れていたのを伝え忘れるところであった」
「どうじゃった?」
「奴もお前達を探しておったわ、来た原因を問えば何やらコラボのせいだ何だのと言っておったが今更どうでもよい事よな」
「違いないの、まぁ強いて言えば……運命かも知れんのぉ……」
「かもしれんな……明日、紫が準備を終えて来るそうだ、短い時だったが楽しかったぞキスショット」
「儂もじゃバーン……面白い体験が出来たわ」
「聞けばヴァンパイアハンターとの決戦を控えておるそうだな?」
「主様から聞いたか、そうじゃよ……決戦はこの姿では戦えんがの」
「……流石にわかっていたか」
「わからいでかたわけ……儂が戻ったのはお主の魔力があり、お主が傍に居る故だろうよ……魔力が途絶えれば儂はまたあの搾りカスに戻るだけじゃ」
「期待させたようですまぬな」
「何を言う、儂が焚き付けたんじゃろうがよ……まぁ多少期待しとったのはマジだがの、この姿で決戦に挑めれば造作無く殲滅出来るだろう事は明白じゃったし」
「余が出向いて代わりに相手をしてやってもよいぞ?」
「たわけ……要らん世話じゃ、来る戦は我等吸血鬼の戦い、吸血鬼の誇りを懸けた……の、大魔王なんぞに譲れぬよ」
「そうか……やはりお前は誇り高い吸血鬼なのだな、それを聞いて安心した」
微笑んだバーンは椅子から立ち上がり館へ歩いていく
「では余は戻らせてもらう、今宵の主役は余ではないのでな……楽しい一時であった怪異の王よ」
歩いていく途中、不意に思い出した様にバーンは立ち止まった
「おお、そうだ……その椅子を貸してやろう、座ってみるといい……運命が訪ねて来るかもしれん」
「……何?」
訳のわからない事を言って椅子を勧めてくるバーンの意図がわからずキスショットは歩いていくバーンの背を見つめるが答えてくれない
「今宵は吸血鬼の夜……こんなに月が綺麗なら……吸血鬼の誇りも闇に隠れよう……」
それだけ言ってバーンは消えていった
「……」
一人残されたキスショットはバーンが座っていた椅子を見つめる
「フン……乗せられてやるかの」
座って月を眺めながら物思いに耽る
(食えん奴よ……あれだけ痛めつけ、死ぬ間際まで追い詰めた儂に恨み言も言わず許すとは……舐めとるのぉ、捻り潰してやろうか……)
浮かべた笑みはすぐ苦笑へ変わった
(いや……勝てんじゃろうな……いくら心渡が当たれば勝てると言えど無理じゃろう……)
(あの時、バーンが見せた力……守る為に見せたあの力……儂をして凄まじいものじゃった……アレには不本意ながら兜を脱ぐしかあるまい……)
そんな事を思いながら座り始めて5分もした頃だった
「ここに居たのねキスショット……」
訪ね人、現れる
「カカッ……何の事かと思えば大魔王め……運命とはそういう事じゃったか」
一笑すると振り向く
「大層な旦那を持ってるのうレミリア……」
本当に訪ねてきた運命に……
「寝てなくてよいのか?」
「バーンの回復魔法で体は大丈夫よ……かなり疲れてるけどね」
レミリアはキスショットの対面に座る
「……」
「……」
月明かりが二人を照らす
「悪かったわ……」
先に言葉を出したのはレミリア
「下らない口喧嘩から始まった下らない喧嘩だったのに……いつの間にかあんな事になって……貴方に同族殺しをさせるところだった……私が素直に負けを認めてれば……」
レミリアは深く反省していた
負けたくない、誇りの為とは言え、同胞のキスショットを貶し、殺しをさせる様な真似をしていた事を
バーンにそう怒られたから一人になって反省し、謝る為に探していたのだ
「……お主は強いの」
キスショットは微笑む
「最後までお主を屈服させる事は出来なんだ……お主は強い、羨むくらいに誇り高い、見蕩れとる程に……儂の負けじゃよ」
レミリアに誇りで勝てなかったキスショットも負けを認める
二人共、互いに勝ったとは思っていなかったのだ
「……まぁ、その……なんじゃ……」
キスショットが絞り出そうとする
すまぬと……
怒りに殺そうとした事を謝る為の言葉を継ぎ足そうとしたキスショットの口がぎこちなく動こうとする
「誇り高い吸血鬼が気安く謝るものじゃないわ……誇りに傷が付く」
それをレミリアは優しく止めた
「……儂より誇り高いお主は謝ったじゃろ……」
「私は良いのよ」
「何じゃそれは……ズルイのぅお主は……卑怯じゃ……これでは儂だけ悪者ではないか……」
「フンッ!皆の前で恥をかかせたお返しとバーンに怒られた腹いせよ!」
「子どもかお主は……カカカッ……」
「やられたらやり返すのがスカーレットの家訓なのよ……フフフッ……」
わだかまりが解けた二人は笑い合う
「良い男よのバーンは……」
「私が生涯で愛するただ一人の男よ?当然よ」
「本当にの……儂が主様と出会う前なら惚れとったかもしれん」
「あげないからね?」
「カカッ!要らんわいあんな化物……御伽に話される化物語のごとき男なんぞ……儂には主様が居ればそれでよいのよ」
「あのハーフの吸血鬼ね……そう……」
「時にレミリアよ?こちらのフランはいつから狂気が抜けてあんなに笑う子になったのじゃ?儂のところは今だ危ういのに……」
「100年前にバーンが来てからよ、友達も出来て明るくなったけど……長い間閉じ込めてたから吸血鬼の誇りなんてちっとも理解してくれないしカリスマにも興味も示さないのよ!」
「さようか」
「でも……私はそれで良いと思ってるの、吸血鬼の誇りなんて気にせずに、あの子には笑って生きて欲しい……好きな様に……思う様に……それが私が出来るあの子への謝罪だと思うから……」
「……よいと思うぞレミリア、誇りを重んじる吸血鬼の中に一人くらいは……そんな自由な吸血鬼がおってもの……」
二人の吸血鬼はまた微笑む
「これ……あげるわ」
「……薔薇か、なんとも綺麗な紅じゃ」
渡された一輪の薔薇を珍しく眺めるキスショット
「良い色でしょ?私が美鈴に頼んで品種改良して作ったスカーレットローズって薔薇よ、記念にあげる」
「スカーレットローズ……なるほど「紅い誇り」か、お主らしい……しかし記念とは何の記念じゃ?」
首を傾げるキスショットにレミリアは言った
「友になった記念よ」
誇らしい顔で
「……!!」
キスショットは震えていた、嬉しさの余り顔を下げて震えていた
「……大事にすると約束しよう」
そう言うとガバッと顔を上げる
「レミリアお姉様って呼んでよいかのッ?」
「!?」
子どもの様な表情でレミリアに迫る
「儂のところでは儂が歳上じゃったからお姉様と呼ばれとった!じゃがこちらではお主が歳上!これは呼ばねばならんのぅ!」
次々話される言葉、これは照れ隠し、恥ずかしくて誤魔化しているのだ
「何がお姉様よ……対等の友の私達にそんなの無いわよキスショット」
レミリアが名を呼んだ瞬間、キスショットの表情が戻った
「……忍と呼んでくれぃ」
「……何故?」
わざわざ真名ではなく縛る名でと頼まれる事が不思議でキスショットを見るレミリアは気付く
(忍……ああ……ハートアンダーブレード……刃の下に心で忍だから……そしてキスショット……貴方は偽者の自分じゃなく……本物になっていたそっちを友と呼んで欲しくて自ら……)
察したレミリアはキスショットの持つスカーレットローズを奪い
頭に挿した
「いつかまた会えると良いわね……忍……」
「運命が重なればまた会えるだろうよレミリア……」
姿が戻った友に……
「皆さんお世話になりました……」
朝まで逃げ切っていた暦が死にそうな顔で別れを告げる
「もう来んなよ変態ロリコン野郎!」
「頼まれても来ねぇよ悪魔理沙……またな!」
次々贈られる別れの挨拶、何だかんだ言っても皆楽しかったのだ
「余にすら立ち向かう意思があるお前に言うべき事は何もない……勝て暦、お前の正義を証明するには勝つしか道はない」
「わかってますバーンさん……負けませんよ僕は!!」
バーンとも別れを交わす
「じゃあのレミリア……妹とバーンを大事にの!」
「忍も暦を大切にね」
抱き合った二人が離れると
暦と忍はスキマから元居た幻想郷へ戻って行った……
「その様子では言わなかったみたいね、あの外来人の二人に……そして皆にも……」
紅魔館内へ向かっていく途中、最後尾の紫がバーンに小声で問うていた
「……お前ならば言ったのか?」
「言わないわね、その方が幸せだもの……あの二人がここに居た記憶を無くすなんて……」
紫は扇子で口元を隠し、顔を下げる
「残酷な事は……」
「……」
バーンは立ち止まり目を閉じる
(これは通常起き得ぬ異例の現象だったのだ……ここでの記憶を持ったままあの二人が戻れば本来辿るべき運命に差異が生じる、そうなればそれは全く違う話になる事を意味する、何者かの意思がそれを修正するのは当然の事……)
目を開けたバーンは空を見上げる
(だがあの薔薇くらいはもしかすれば許されるかもしれんな……)
そして想いを飛ばした
(さらばだ……極めて近く、限りなく遠い世界に生きる幻想の異邦人達よ……)
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴男女異動中∴∴∴∴∴
幻想郷・地底
あの後、僕は地底に向かって落下していた時に戻されていた
萃香さんの角を掴んで例の言葉を聞いた後、お嫁に行けないと咽び泣く萃香さんに理由を聞いて殴られて失神した僕は萃香さんに背負われていた
「うぅ……うーん……」
「寝言かい……」
背負われている僕が寝言を言った様だ
「結婚してください……霧の……萃香……さん……」
それきり僕は何も言わなかった
「何言ってんだいこのド変態は……」
呆れていた萃香だが気になる言葉に立ち止まる
(霧の……萃香?そんな二つ名持った事なんて無い……けど……)
フッと微笑んだこちらの萃香は歩き出す
(良い二つ名だね、名乗っちまおうかねぇ……)
紅魔館
「お帰りなさい忍お姉様」
ドアを開けて戻ってきた忍にレミリアが迎える
「……うむ」
レミリアを見た瞬間、奇妙な感覚を感じたが忍はそのまま椅子に座る
「あら……出ていったのはその為だったのね……似合ってるわ忍お姉様」
「うむ?」
頭を指差された忍が触れると一輪の薔薇が机に落ちた
「……」
薔薇を見つめる忍
「……スカーレット……ローズ……」
不思議とその薔薇の名が頭に浮かんだ
「それどこから取ってきたの?私のローズガーデンにそんな紅い薔薇は無いのだけれど……」
変ねと薔薇を見ながら首を傾げるレミリアに忍は言った
「友からの贈り物じゃよ……レミリア……お主からの……の……」
それは完全には消えない事
記憶を消されようと魂に刻まれた想いは残り続けるのだ
極めて近く、限りなく遠い世界との友情は永遠に……
ひぇぇ……長過ぎた……
ダークドレアムを出したからもうこんな実力が近いバトルはこれが最後だと気合い入れた結果がこれです、まさか全部で48話を越える文量になるとは思わなかった……約2万とは……
これにてコラボは終わりになります。
かなり大変でしたがとても楽しい時間でもありました、ウジョー様と根無草様に感謝です!ありがとうございました!
それでは次回から終わりに向けての話を進めて行きます。
次回も頑張ります!