そう、余は逃げていただけだ
友を悲しませたくないが故に、その顔が見たくないが故に
どうにか答えを探して悪戯にただ時を過ごしただけ
当然、答えは有りはしなかった
いや、最初から答えなど有りはしなかったのだ、そんな事はわかっていた筈なのに……
だがそれをどうしても認めたくない故に足掻いた
足掻きと言う名の逃避……悲しませたくないという大義名分を盾に逃げていただけに過ぎん
……ただ余が弱いだけなのだ、言い出せぬ事も、気付かれていながらも付き合わせてしまった事も……
結局……最後の日まで言う事は出来なかった、あの太陽が沈み、次に上がる頃には既に余は……
許せレミリア……許せ友よ……
この弱き幻想ノ王を……
嘘をついた余を……
このバーンを……
「幻魔王デスタムーア……」
名を聞いたバーンは僅かに驚きを見せた
「そう、儂こそが現夢の世界に君臨したかつての幻魔王……現実と夢、その全てを支配目前まで手に掛けた夢魔の大魔王よ」
デスタムーアは自らを紹介し終え不適に笑う
「夢を具現した夢魔の大魔王……そうか、貴様が破壊神の言っていた……」
それだけですぐにバーンは確信した、この目の前に居る魔族こそあの破壊神に倒された王なのだと
「あの悪夢か……」
破壊神の単語にデスタムーアの意気が落ちた
「あの悪夢さえ見なければ魂が食われる前に情けなく逃げる事も、こんな場所で復活の時を過ごす事もなかったのじゃがのう」
虚空を睨むその目は夢破れた無念と超越の存在と対峙した諦め、そして哀愁を漂わせていた
(夢魔が見る悪夢……か……)
皮肉だな……
自分に匹敵しうる力、しわがれた老人の姿からはおよそ想像つかない力を持つ、現夢を支配する王
その王が見た夢が自らを破壊する悪夢とはなんと皮肉な事だろうか
夢破れた王の姿を見てバーンはそう思う
「それで?何の為に余を招いたと言うのだ?」
さりとてバーンにはどうでも良い事、そんな事よりも呼ばれた理由の方が気になっていた
「……儂はお主など呼ぶ気はなかった、儂が作った復活を待つ王の魂の拠り所であるこの幻夢空間に生きている内にはな……」
そんなバーンの心情を察しデスタムーアが理由を語ろうと口を動かそうとした
「これがあのヴェルザーと魔界を二分した男か」
その時、新たな声がバーンに向けられた
「ほお……冥竜王の宿敵はここまでの男だったか」
声の主が姿を現す
ローブを纏い杖を持つ魔導師風の男だった
「……貴様は?」
一見すると何の威圧感も感じない魔族でもない姿、しかしバーンの鋭い感覚が奥底に有る強大な力を感じさせ警戒を解かせない
「魔族の王よ、その胸に刻み込むがいい……我が名は竜王、誇り高き竜族の王にして王の中の王とはワシの事だ」
その瞬間、竜王の背後に巨大な竜の姿を見た
竜王の奥底に有る強大な力の源である「竜」の力を感じとったバーンが溢れるオーラに正体である竜を見たのだ
「……ヴェルザーを知っているのか?」
「その昔に一度……な、拝謁の際に脅えていたあの仔竜が随分と立派になったと見える」
「あの冥竜王たるヴェルザーをして仔竜扱い……貴様は余程の竜と見える、何の竜か聞かせて貰えるか?」
「ワシが何の竜か……だと?愚か者め、ワシを種で分けるとは不敬が過ぎる、奴程度と同列に扱うはまこと愚かよ」
それを聞いてバーンはすぐさま思い違いを理解した
「なるほど……ヴェルザーは冥竜と言う種の王と言う訳か」
「理解した様だな、そう……ヴェルザーなど所詮は冥竜と言う種の王に過ぎん、ワシは竜族全ての王、ヴェルザーなどワシからすれば永遠の仔竜よ」
そう、その名は全ての竜の頂きに立つ者だけが名乗る名なのだ、真の王は名に余計な物が付かない、そう思わせるものを確かに竜王は秘めていた
「気に入らない目ね……あの破壊神を撃退したのは認めるけどあんな間抜けな神と木偶人形共と協力するなんて……誇り高き魔族のプライドは無いのかしら?」
次に現れたのは紳士風ながら女性的な口調で話す小柄な魔族の男
「……」
バーンは睨みながら目で何者かを問う
「私はオルゴ・デミーラよ、よろしく大魔王バーン」
そう名乗ると腕を組み見下した
(……見た目によらぬ恐るべき力の持ち主、こやつもまた神を越えた存在か……)
オルゴ・デミーラもまた凄まじき力を持つ王の一人、ふざけた姿と口調をするのはそれだけの力を持っているから
ふざけが意図的ならふざけれる力を持っているのだ
「……」
それを感じたバーンは静かに目を閉じ、ゆっくり目を開き3人の王に言った
「それで?」
改めて呼ばれた理由を
「余に何の用だと言うのだ?まさか慰めを求めて呼んだのではあるまいな?敗軍の将の集まりよ」
皮肉を込めて
「……あまりでかい態度は取らん方が身の為だバーン、いかにお主とて儂等を相手に勝ち目は無い」
デスタムーアが警告を返した、他の二人も威圧感を増してバーンを睨んでいる
「笑わせてくれる、負けてなお無様に生き長らえ傷を舐め合う敗北者共に余が負ける道理など有りはせん」
だがバーンは言い放った、特上の爆弾を
ピリッ……
空気が変貌した
「図に乗るな……バーン……」
「オホホホ!言ってくれるわね!同じく木偶人形に倒された同じ穴の狢が!」
「あまりそういう冗談は好きではない……」
ゴゴ……ゴゴゴゴ……!
威圧感を含んだ魔力が上昇していく
「失せろ、痛い目を見ん内にな……」
一触即発の空気を一身に受けるバーンは涼しくも鮮やかにその言葉を紡いだ
「負け犬共……!」
トドメの一言を
ドゴウッ!!
3人の魔力が巨大な柱を打ち上げ姿を隠す
「無知は罪……知らぬとは言え我を侮辱した罪は決して許されはせん、この「天魔王」オルゴ・デミーラが相手をしてやろう……」
「退いていろ、この愚か者は「闇の覇者」であるこの竜王が来る死より先に引導を渡す」
「引っ込むのはお前もだ竜王……私の贋作を消した礼ぐらいはしてやろうかと思ったがもういい、この空間の主であるこの「幻魔王」が力の差を嫌と言う程刻み込んだ末に殺してくれよう」
3人の王が正体を現した!
オルゴ・デミーラは脳が剥き出しの巨大なムカデの様な姿に!
竜王はその名の通り覇者たる竜の姿に!
デスタムーアは巨顔、巨手の最終形態に!
「クッ……」
王が3人、その誰もが世界を手中に出来る力の持ち主
そんな誰もが絶望して心が折れるだろう極限の状況の中
「ククッ……」
バーンは笑っていた
「面白い、時代の敗北者達との狂演……まさに最後を飾るに相応しき催し……心が踊る……!」
ズオオオッ!!
鬼眼の力を解放したバーンが魔力の柱を打ち上げる
「ぬぅ……流石の力よ大魔王バーン……!」
同じ位に居る王達はバーンの力と恐れぬ気概に僅かに動揺とまでは言わないが顔をしかめる
「さぁ!かかってくるがいい王共よ!余がバーンなり!天地魔幻に恐るる者無しこの力!その身に焼き付けよ!!」
手をかざしたバーンの右手に魔力が集中していく
「「「……!」」」
それに呼応して竜王は口に、デスタムーアは両手に、オルゴ・デミーラは全身に力を集中させていく
誰かが動けばそれが開始の合図、王が殺し合う殺戮の時……
「納めろお前達……我が客人に手を出す事は許さん」
闇からの声が響く
その声が王達を止め、殺意を消した
「……貴様が余を呼んだのか」
意を消しただけで今だ魔力を集中させているバーンが闇へ目を向ける
「そうだ、我がムーアに頼みお前を呼んだのだ」
漂う闇の中から赤き瞳だけが浮かんでいる
「……何故余を呼んだ?」
魔力を消したバーンが闇へ向き問う
「フッ……その前に自己紹介ぐらいさせろ」
闇が晴れていく
「我が名はゾーマ、大魔王の起源にして「全てを滅ぼす者」……」
現れた姿にバーンは驚いた
(似ている……)
そう、自分と似ていた
ゾーマと名乗った大魔王の服装、装飾をてらったローブ、角が生えた兜
それが似ていた、今の姿ではなく老人の頃に着ていた服装に
だがそれだけで驚く筈がない
驚いたのはゾーマの姿が起源であり、自分の意思で着ていた服装が倣った物であると何故か感じてしまったから
「……それで?」
そこを考える必要は無意味と考えたバーンはゾーマへ問う
「お前を呼んだ理由は3つある……」
ゾーマは4本しかない指を折りながら答えた
「1つ、これは前提になるがお前が王に相応しき者だったからだ」
まずは最低限の理由、バーンが4人と同格の魔の者か否か、つまり資格の問題だった、それはこの場に居る以上クリアしている事になる
「2つ、我が臣下が迷惑を掛けた詫びの為」
2つ目の理由が語られた時、バーンが疑問を覚え考え込んだ
「……まさか妹紅と戦ったバラモスの事か?」
身に覚えが無いバーンは灰の記憶を辿り答えを導く
「そうだ、お前の友である不死人が戦ったバラモスこそ我が臣下だったのだ」
納得したバーンにゾーマは続ける
「ダメージこそ無に等しかったがバラモスが邪魔をしなければ更に楽に進めていた筈、だから詫びを言っておきたくて呼んだのだ」
「……バラモスはエスタークに操られていた、貴様が謝る必要は無い筈だが?」
「違うな、操られていたなどは関係無い、我が臣下が我の命令無しに動いたのが問題なのだ」
「……」
外的要因は関係無いと言う
それにバーンは黙った、どんな形だろうと勝手をした配下の不祥事の責は自分に有ると言っているのだ
信頼する臣下を持ち、臣下もまた主に絶対の忠誠を誓っている
「そうか……」
ここまで似通うものか……
そう思う
それはバーンとミストの関係に近いものがあった
ゾーマとの奇妙な共通点に親近感に近いものをバーンは静静と感じる
「すまなかったな」
驚く程簡単に出てきた謝罪
そこにはただ力を持った傲慢な愚王ではなく矜持と威厳に溢れた王たる姿があった
それが遥か昔から知っていた様な感覚がバーンの気を鎮めた
「……妹紅が言っていた、バラモスは死を控えようとも最期までお前への忠誠を曲げなかったと……良い者を持っていたのだなゾーマ」
「……アレも無理矢理従わされてさぞ無念だったに違いない……送ってくれた不死人とお前がそう言ってくれるなら我も誇れると言うものだ」
二人の大魔王は目線を下げて微笑んだ
同族故か、それとも気高い魂に同調した二人の親和が殺伐としていた空間を友好的な空間に変えた
「……非礼を詫びよう王達よ」
バーンは3人の王へ向く
「余はこういった機会に慣れていない、同じ王と言えど接したのは対立したヴェルザーのみだった、物言いが奴に対する物になった事を許して欲しい」
もうバーンに争う気は無い、だから対等であると感じる他の王に素直に謝罪を述べたのだ
「……ワシも些か大人気なかった、さっきの事は水に流してやろう、死なずに済んだ事を心より感謝しろ」
「……別段、争いの為に呼んだのでは無い、ここはゾーマの顔を立てて引いてやろう」
「ふん!謝るくらいなら最初からしおらしくしておれば良かったのだ!無駄に力を使わせよって……」
竜、天、幻、3人の王達もバーンを許した
「いつから余を見ていた?余に悟られぬ時点で流石は王と言うべきだが……」
そのまま王達の僅かな語らいが始まった
「貴様が魔帝と対峙する少し前からだ、もっとも……竜王とムーアとデミーラは、だがな」
「最初から見ていたのはゾーマのみだ、私が復活の時までを過ごすこの退屈な空間に各自に侵入してきたのがこの3人よ」
「懐かしいな……思えばあの時も先程と同じ様に殺し合う寸前まで行ったのだったな」
「退屈な時間にせめて……と和解した我等だったがそれでも慣れるとやはり退屈だった、そこで各々の力を出し合い異世界を覗いて暇を潰していたのだ」
「しかしそれもすぐに飽きた、つまらん人間を見ていても面白くなかったからな、次第に我等は見なくなった……だがゾーマだけは飽きもせず様々な世界を見ていったのだ……」
「そこで余を見つけたのか……」
「そうだ、ちょうど敗北し石になって宇宙をさまよっていた貴様を見つけたのだ」
「ゾーマは貴様に何かを感じたのか石になった貴様を暫く見続けていた」
「そして……あの境界を操る妖怪が貴様を幻想郷に連れ去った」
「あの時のゾーマの言葉はよく覚えている「運命が変わった……」確かにそう言っていた」
「幻想郷で目覚めた貴様に我等は興味を持って最初は見ていたが特に何もしない貴様に飽きてまた見るのをやめた」
「……だがゾーマは見るのをやめなかった」
「貴様を見ていた、とても楽しそうに……」
「次第に我等も見る様になり、そこが魔帝との決戦直前だったのだ」
「一様に貴様には驚いたものだ……下等な人間や我等の足下にも及ばぬ妖怪を友と呼び、守る為に戦う貴様の姿に……」
「そんな貴様にゾーマはまた言った「面白い……」と……」
「……魔帝との戦いを終え、貴様が友や仲間の為に身を磨り減らしながら奔走したところも見ていた、大魔王が何を……と皆は笑ってはいたが誰も見るのをやめはしなかった」
「そして……最期」
「死んだ貴様を見て我等は見るのをやめた、良い暇潰しが出来たと喜びながら……な」
「……ゾーマだけは見るのをやめなかったのだな?」
「そうだ、終わったと言うのに何故か貴様が意思を託した友の先を見続けていたのよ」
「そして100年……不死人が神の涙と出会い、エスタークが境界を操る妖怪と接触した頃にゾーマが面白くなるかもしれんと言いまた見始めた」
「……貴様の再誕には実に驚かされたものだ」
「……それ以上に私は破壊神の降臨に驚いたがな」
「破壊神を撃退した絆のスペル……見事なものだった、さしもの我等でも破壊神相手に勝てるとはとても言えん、まことに見事だった」
「夢は去り、平和が訪れた幻想郷だったが我等は知っていた……貴様は僅かな時を再誕し、更に生命を使って残った時間が無い事も……」
「そこでゾーマが頼んで来たのだ、「奴と話がしたい……」と……強い力を持ち、仮初めとは言え肉体を持つ貴様をこの空間には呼べん、そこで我等の力を集め、高め、精神だけを呼ぶ事にしたのだ」
「そして……今……か……」
今に至るまでの経緯を知ったバーンはゾーマへ向いた
「余を見ていたのはなに故にだ?」
その問いに黙っていたゾーマは口を開く
「最初は美しいお前にただ見惚れていた」
その目を真っ直ぐバーンに向けて
「死を待つお前の姿が美しかった、だから死ぬまで見ていたかったのだ……」
「……」
バーンはそれに怒りはしなかった、それがゾーマの美意識なのだと思ったからだ、それに自分の妃には紅が好きで館を紅一色にしているのもありそれと同じ感覚なのだろうと思ったのもある
「しかしあの妖怪が現れお前を連れ去り、目覚めたお前が幻想郷の民と交流を重ねていくのを見て……思ったのだ、「これは可能性の1つなのだ」と……」
「可能性……」
「存外似ているお前に我は己を重ねたのだ、かもすれば我もこういった友を作る道が有ったのかもしれん……とな、その可能性の先を見たいが故に飽きずに見ていたのだ、それにお前の意思を託された友の行く末も気になってしまっていた」
「……満足出来たか?」
「フッ……やはり似ているとは言え我自身ではない、その都度の想いを感じれぬから所詮は疑似体験に過ぎん、しかしながら楽しい時間であった事に違いない」
「そうか……もしこの先、機会があろうとも貴様はやめておけ、貴様に友は似合わん」
「言った筈だバーン、これは所詮は疑似体験、我が望むは全ての滅び……こればかりはいくら時が経とうが変わらぬ生き方、存在理由とも言える、変わったお前と違い我は変えるつもりは一切無い」
「それは構わぬが……幻想郷に手を出すのは許さんぞ?」
「安心しろ、あの程度の小さき世界を滅ぼして悦に浸るなど大魔王の沽券に関わる、アレは全てに入れるに値せん、除外にしておいてやろう」
「ククッ……そうか除外か、そうか……ならば安心だな……ふっふっふ……」
「そうだ、だから安心して死ねバーンよ……フフフ……」
妖しく笑い合った後、ゾーマは映像を映す球体を出現させバーンに見せた
「……この者は?この魔族の子がどうかしたのか?」
映っていたのはまだ魔法すらろくに使えぬであろう魔族の子どもだった、地に着きそうなくらいに長い銀髪を靡かせて剣で修行していた
「こやつはデスタムーアの世界……つまりエスタークの居た世界の次の王になるだろう者だ」
「ほお……この幼子が……」
一心不乱に剣を振る魔族の子を興味深く見つめる
「確かに王に相応しいモノを秘めているのはわかる……が、危ういな」
危険視したのは子に対してでもあるが理由は剣を振る子に付き従う魔族の男にだった
「こやつからは野心が見える、王の座を求める強き野心……この子を利用する気かもしれんな」
「それは我等も同じ見解だ、干渉する気などまったく無いがな……お前に聞きたいのはこの子をどう思うかだ」
「……」
そう言われ改めて子をバーンは凝視する
「……この者はいずれ余と同じく愛を知るだろう、その後に待つのは悲劇、そして生まれるのはエスタークに匹敵する憎悪と殺意……」
呟かれたのは子の遥か先の事
「ほう、お前と同じく愛を知るか……面白い」
「そう感じただけであくまで予想に過ぎん、どうなるか断定は出来ん事だ」
「いや充分だ、なるほどお前はそう感じたか……」
「……まさかこれが3つ目の理由と言うのではあるまいな?」
こんなくだらない事で呼んだのか?
そうバーンは問う
「心配するな、この程度小事に過ぎん……聞けるなら聞く、程度の些事よ」
ゾーマはバーンの瞳を見つめながら一呼吸置く
「お前に真に聞きたかった事……それは……」
その瞳には2種の感情が混じっていた
1つは興味、おそらくゾーマはどうしても聞きたいのだろう、そう思わせる強い好奇心が見えていた
2つ目は美、バーンをこの上なく美しいと感じている、割合的にはこちらの方が強い
そしてバーンを呼んだ本当の理由がその口から静かに吐き出された
「お前の今を知りたい」
ようやく知れるとゾーマは僅かに微笑んだ
「……要領を得ん、余の今とはどういう事だ?」
重要なのはわかるがさすがのバーンでもこの説明不足な問いには答えられない、今とは何かと考えながらゾーマへ詳細を促す
「お前は友の為に甦り、明日……死ぬのだろう?」
「……そうだな、それがどうした?」
「友への凄まじき情念が生んだ奇蹟……だが奇蹟には期限が有った」
「……」
「それを知りながら最期まで生きるお前に我はどうしても聞きたい、知りたいのだバーン」
そこまで言われてバーンはようやくゾーマの聞きたい事がわかった
「死を友に話さずに目前まで来たお前は……今、何を考え……何を想う……?」
これこそがゾーマの一番知りたかった事
死を知りながら隠し、今際の際までもがくその胸中を知りたかったのだ
「……」
バーンは黙する
ゾーマがそれを理解出来る筈がない、これは王の中で自分だけが見つけ、育てて来たものだから
理解出来る筈がない
友との間に出来た、想いの織り成す……
「想いの絆」は……
「……ゾーマよ」
バーンが口を開く
そう、答えは最初から有った、それなら黙する必要は無い、即答すればいい
なのにしなかった理由は、怖かった
口に出してしまえば想いがこの仮初めの体から抜けていきそうな気がして……
だから少しだけ黙した
そんな事は無いとわかっていながら……
「余が今、想う事……それは……」
ズズッ……
その時、バーンの体が突如歪んだ
「時間切れだ……」
デスタムーアが告げる
「いくら我等でも肉体有るお主をいつまでも留める事は不可能……精神が戻ろうとしておる」
突然、王達の語らいは終わりを迎えた
「すまぬな、これ以上は引き延ばせん……また語らいたいものだが次に呼べる時にはお主は既に……」
「よい……気に病むなデスタムーア、お前のお陰で最期に貴重な体験が出来た、礼を言う」
「……礼を言うのは私だ、あの河城にとりが贋作を倒さねば私は誤って後世に伝えられるところだった……あんな小者が幻魔王……と」
「期せずしてお前の誇りを守っていたか……まぁ知らぬ大魔王に礼を言われてもあやつは喜ばんだろうな」
「なら私が勝手に思っているだけにしよう」
「それがよい……」
歪みは強くなっていく
「……死ねば肉体の無い貴様は復活も出来ん、だが貴様さえ良いのなら我等と共にここで過ごさぬか?」
「せっかくの誘いだが無理だオルゴ・デミーラ……余が死ぬ時、それは魂の消滅も意味する、デスタムーアもそれをわかっているゆえああ言ったのだ」
「……先程見せた貴様の力、アレが全力ではないな?」
「いや、アレが全力に相違無い」
「嘘を抜かすな、破壊神と戦った貴様は更に……そうか、守る者が居たからか……」
「貴様がそう思うのならそういう事だ」
「フッ……そうか……さらばだ大魔王……いや、幻想ノ王バーン」
「さらばだ天魔王オルゴ・デミーラ」
意識に変調が起き始める
「ヴェルザーを越える貴様が人間に敗れていたなど……未だに信じれぬ」
「それはこの場の誰しもに当てはまる事だ竜王、余の相手は竜の騎士と呼ばれる神が造りし生物兵器の子だった……しかし余は竜の騎士に負けたのではない、その竜の騎士が持つ人間の部分に余は敗北したのだ」
「……ワシを打ち倒したのも特異な血を引き継ぐ人間だった、力が人間を後押しするのではなく、人間が力を引き上げるのか……」
「人間とは閃光のごとき一瞬に全てを懸ける美しくも凄絶な生き物……我等が何度甦ろうとも永劫勝てんのかもしれぬな」
「さりとてワシは諦めん、いつの日か必ず世界の覇権を握って見せよう」
「頑張るのだな……余はもう興味は無い」
「……いずれまた相見える事を願っている」
「……余もだ」
意識が徐々に薄れていく
「……ゾーマ」
「何だバーン?」
「先程の答……え……だが……」
もう満足に話せなかった、だが言おうとする
「……もうよいバーン、死にゆくお前に聞くのは無粋な真似であった」
歪みが強くなりバーンの意識を更に薄れさせる
「……ゾー……マ……余…………は……」
「バーン……」
意識が途絶えかける刹那
バーンはゾーマの最後の言葉を聞いた
バーンよ……なにゆえもがき苦しむのか……?
死にゆく者こそ美しい……死を目前にしたお前はとても美しかった……
だからこそ我は知りたかった、お前程の者が死期を悟りながらもがく理由を……
だ……が……もう……いい、さらば……だ、バーン……
最後……に……
も……し……お……がま……蹟を…………なら……その……時……は……
……礼…………う………………
それが伝わったかどうかはわからない
だが確かに
その言葉はバーンへと贈られた
「……!」
意識が切り替わる
「……」
周囲に目を走らせる、変わらぬ図書館の景色が広がる、呼ばれる前と様子は変わらない、それなりの時間を過ごした筈だが精神のみだったからか現実には一瞬の事だった
(夢……ではなかったのだなアレは……)
まるで夢に迷いこんだ様だった
ある筈の無かった異界の王との邂逅
それも4人の王と
(いや……夢か……死にゆく余が最期に見た夢……)
もう会う事も無いのならこれは夢なのだ
バーンが見た王の見る夢
王夢……だったのだと……
「どうしたの?」
魔導書を持ったまま固まっているバーンに気付いたレミリアが尋ねる
「……」
見つめられたバーンは少しだけレミリアを見ながら考えると
「いや……何でも無い」
そう答えて立ち上がり一人で図書館から出ていった
「……バーン?」
妙な様子に気になるレミリアは出ていくバーンの背を見つめていた
紅魔館・バルコニー
「……」
バルコニーに立ち幻想郷の景色を眺めながらバーンは独り話していた
(流石に余と言えど王を3人相手に勝ち目は無い……死ぬのが決まっているからこそあそこまで自棄になれたのだ……あの場所で死を迎えても良いと……思ったからこそ……)
誰も応えてくれない独白染みた事をバーンは話す
(余が、今……何を考え、何を想う……か……)
言えなかった答え
(それはやはり……友の事以外に考えれん)
これこそが答え
(顔が……見たくないのだ……眩い太陽が悲しく曇り、涙に濡れた……)
バーンはどうしてもそれだけは見たくなかった
(泣き顔だけは……)
友が泣くところを見たくなかった
悲しませたくなかった
(あやつらにはいつまでも笑っていて欲しいのだ……)
ただ……それだけ
本当にただそれだけなのだ
王が悩むのはそんな小さい小さい事
だがそれが今の全てだった
「……」
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない
幻想郷の誰にも話せないこの想いを幻想郷と無関係な誰かに聞いて欲しかっただけなのだ
今になって身を引き裂く様なこの苦しみを誰かに……
「……」
陽が沈んでいく
(あの太陽が次に昇る時……その時が余の……)
見とれてしまうほど綺麗な夕焼けを見ながら死を思う
夜明けが来る頃にはもう居ないのだと……
(結局……最後まで言えはしなかったな)
死を告げる
そんな簡単な事なのに出来なかった、それだけは言えなかった
全てはこの弱き心ゆえに……
(もう余は誰にも告げずに消えるより道は無い、そうすれば少なくとも泣き顔は見なくて済む……あやつらは怒るだろうがな……)
最期は決まった
バーンは人知れず消える事を選んだのだ
「……」
太陽が今日の役目を終え、代わりに月が姿を現し始める黄昏時
もうバーンは何も考えずに景色を見ているだけだった
「……バーン?」
背後からよく知る声が聞こえる
「……レミリア」
それは愛する女性だった
「どうしたのそんな顔して?何かあった?」
傍に並んだレミリアがバーンを見つめる
(……顔には出さない様にしていたのだが……やはりわかるのかレミリア……お前には……)
平常を装ってもレミリアには見えてしまったのだろう
悲しみを……
「何かあるんでしょう?話して?」
綺麗なその顔の中に覚悟している瞳がバーンに向けられる
「……」
だが……
「……何も無い、気にするな」
バーンは微笑んだ
「……そう」
レミリアは顔を逸らし俯いた
(バカ……)
何も無いと言った微笑みが悲しくて嫌な予感がした
(私に……くらい……)
こんなに近いのに……
だから余計に怖くなって……
……ギュッ……
確かめる様にレミリアはバーンを抱き締めた
(!?……そんな……もう……)
抱き締める
たったそれだけでレミリアはわかった
この数多有る世界の中で唯一、バーンの心の奥に隠した想いに触れれるのは互いに愛する彼女のみだったから……
「どうしたレミリア?」
バーンが問うとレミリアは抱き締める手に更に力を込め……言った
「ずっと……一緒だからね……?」
叶う筈の無い想いを……
「ッ……」
バーンは一瞬、ほんの一瞬だけ顔を歪ませるとレミリアへ答えた
「当然であろう、余とお前は離れる事はない」
嘘を……
「……わかった」
レミリアは笑顔でそう言った
「さぁ、もうじき夕食だ……中へ戻るとしよう」
バーンは館内へ向け歩き出す
しかしレミリアは動かなかった
「……どうした?」
問われたレミリアは背を向けて答える
「もう少しこの景色を見てから行くわ……」
「そうか……早く来るのだぞ」
バーンは急ぎもせずゆっくりと戻っていく
(早く……行って……!)
背を向けていたレミリアの瞳、そこには涙が浮かんでいた
バーンの心を知り、それでも聞いてみた
でも嘘をつかれた
わかったと軽く笑って見せたがレミリアは限界だった
(もうダメ……涙が溢れそう……)
だから願うのだ
今から泣くから早く行って……と……
(嘘……行かないで……)
自らも嘘をついて……
人は何かを成す為に生を受け、成し終えた時死んで往く
これが運命だったならば成す為に再び甦った王は成し終えたから死んで往くのだ
使命を果たした王の今は余韻、死ぬまでに得た少しだけの褒美
王は夢であり幻だった
幻想郷が望んだ夢幻
儚く消えるうたかたの幻……
「……」
一人、バルコニーに立つ者が居る
「…………」
もうするべき事も考える事も無い彼はただその時を暗い夜空を見ながら待っていた
(そろそろか……)
夜空の端がほんの僅か明るみを帯びた
後、一時間もすれば陽が昇る
(楽しき時だった……)
感謝すると彼は目を閉じてその時を待つ……
「バーン!!」
待つ彼を呼ぶ者が居た
「……お前達……」
振り向いた彼が見た先に居たのは彼の7人の友
「どうした?朝日も見えぬこんな早くに……?」
彼が問うと不死の少女が前に出た
「私達から黙って消えようなんてそうはさせるかよ」
冗談気に少女は微笑む
「ふっ……やはりか……」
ここに来て誤魔化しは出来ないと悟り、観念した様に苦笑し
「悪かった」
彼は謝った
「薄々気付いていたのは知っている、だが……何故わかった?」
話していないのに知っていたのが気になる
「そりゃあわかるさ……」
少女は理由を語る
「私達とお前は1つになったから」
そう、あの時知ったのだ
「……絆のスペルか」
彼も理解する
「そうだぜ、絆のスペルの時、私達はお前と想いが1つになった……その時わかったんだ、お前に時間が無い事を……幻想郷の皆、全員知ってる」
大魔導士の少女が詳細を語る
「でもいつかまではわからなかったんです、バーンさんも話そうともしてくれないから……」
大いなる妖精が顔を伏せる
「言わなかった理由も知ってるよ!1つになった時に!」
「ホントにどうしようもなかったからでしょ?だから言わなかった」
義妹と最も強き氷精が無理に笑顔を作る
「だからって黙って消えるなんて失礼にも程があるわ」
「私達から逃げないで」
弟子たる賢者と愛する女が見つめてくる
「なんで黙ってたんだ?」
不死の少女は問う
その言葉に怒りは無い、わかっていたし納得していたから、ただ本人の口から知りたかった
「……忘れていたのだ」
王は答えた
「お前達との時間があまりにも愉快で……言うのを忘れていた……気付けば時間が無かった」
「そっか……」
思いやる優しい言い訳が少女の顔を緩ませる
「なぁバーン……」
そんな少女達は提案したい事があった
「最期に……戦ってくれないか?」
幻葬曲が終わろうとしている
奇蹟が幻に還る時、遺された幻想達は最期に何を見るのか……
最後のイベント終了、そしてタイムリミット……
王達の邂逅、いかがでしたか?扱い的にゾーマ様が一番良いのはゾーマ様が一番好きだからです。
竜王をヴェルザーより格上にしたのは初代ラスボスなのでって事でお許しを……書いてはいませんが力有る竜は竜王に一度会っている設定にしております。
いよいよ次は最終話になります、再誕したバーン様の物語はどうなるのか……
次回も頑張ります!