最近、咲夜さんの視線が痛い……
紅魔館・図書館
「ティータイムのお時間ですフランお嬢様」
図書館の机にズラリとお菓子と紅茶が並べられる
「ありがとウォルター!」
主であるフランが笑顔で礼を言い笑顔で応えたウォルターは周囲を見る
「何をされているのですか?」
ウォルターの視界の中では6人が必死に何かをしていた
「こっちの方が似合うんじゃない?」
「良いわねレミィ、でもこっちも捨てがたいのよね」
「ハイッ!ポニーテール出来ましたよ妹紅さん!」
「スカート履きなさいよ!あたい達みたいに!」
「良いなそれ!いっそミニスカなんてどうだぜ?」
「スカートは勘弁してくれ……っていいよ別にこんなのさ……」
妹紅を中心にごそごそやっている
「何かねー、妹紅を女の子らしくする為に色々やってるのー!」
「なるほど……」
納得したウォルターが妹紅を注視する
恥ずかしそうに戸惑う姿はとても可愛らしかった
「蓬莱が消えた妹紅は不老不死ではなくなった、つまり今の妹紅は正真正銘の人間……あやつらはそんな妹紅に寿命の有る人として、女としての生き方を思い出させているのだ」
バーンが溢す
「人の歴史は永遠に憧れ、永遠に近づこうと試行錯誤を繰り返した重要な様で無駄な歩みでもありますね」
視線をバーンに向けまた妹紅を見ながらウォルターも返した
「そうだ、かく言う余も永遠に近づこうとした一人でもある、しかしだ……永遠とは如何に残酷で苦難に満ちたものだと妹紅を見て後悔したものよ」
「……終わりが無いのは辛い事です」
「……限り有る命だからこそ人はその生を懸命に生きようとする、閃光の様に……な、永遠にそれは無い」
「妹紅さんや輝夜さんはそうではありませんでした、ですが……」
「うむ、これまでは……だな、いつ何が切欠で心が死ぬかは誰にもわからん事だ、それに輝夜は昔は心が死にかけていたし妹紅も自分を化物と揶揄し心を痛めていた」
「……だからこそこれは喜ばしい事です、人として、女性として生きれる様になれた……初めは戸惑うかもしれませんがどうか妹紅さんが幸せになるのを祈るばかりです」
「それは心配無き事だ、妹紅には仲間が居り、友が居る……あやつらと共に生きる生に不幸など有り得ん、それに……妹紅には大いなる加護が付いているからな」
「加護……ですか?」
「神の涙の願いだ、いや……願いではないが願う想いが妹紅には付いている、何も憂う事はない」
「そうですね……」
バーンと共に微笑ましく眺めていた
「あーもう!別に良いって言ってんだろー!」
妹紅が堪らなくなって声を上げる
「こんな所に居られるか!私は家に帰る!!」
妹紅は逃げ出した
「あー!妹紅さんが逃げた!!」
「逃がすかぁ!待てぇぇぇ!!」
大妖精とチルノが追いかけていった
「まっ……初めはこんなところかしらね」
「少しずつ慣れさせて行く行くは立派な女の子にしてやんないとな!」
「モノは良いんだからちゃんとしたら妹紅は素敵なレディになれるわ、魔理沙と違ってね」
「あ?泣かしてうーうー言わすぞかりちゅま?」
「あまり強い言葉を使わない事ね、弱く見えるわよ?」
「うるせぇバーカ!」
パチュリー、レミリア、魔理沙の3人が椅子に座る
「紅茶の用意が出来ております」
流れる様にウォルターは紅茶を3人とバーンに差し出した
「レミリア様とはフランお嬢様と同じくダージリン、パチュリー様はアールグレイのストレート、魔理沙さんにはアッサムのミルクティーミルク多め、バーン様はブランデー入りのダージリンでございます」
皆が飲もうとすると出された真っ赤な紅茶を睨んでいたレミリアが突然、語気強く口を開いた
「いつもの?」
「はい、人間の血を27%混ぜた紅魔館式特製ダージリン「ブラッドテイスト」……もはや人類の飲めない紅茶です」
「等級は?」
「F.T.G.F.O.P. (フィナー・ティピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー)」(最上級のリーフ)
「時期は?」
「オータムナル」(ダージリンの10~11月の茶摘み期)
「血は?男?女?血液型は?砂糖は?」
「10代少女の血、AB型、隠し味に一摘まみ」
レミリアは素晴らしい笑顔で笑った
「パーフェクトよウォルター!」
「感謝の極み」
御辞儀をするウォルターを前に御満悦で紅茶を飲んだ、ちなみに血は永琳から買った献血から作った輸血用の物
「すっごいでしょウォルター!」
「そうねフラン、貴方の執事なのにもう私達の好みまで把握して寸分違わず作れるなんて素晴らしい事よ!」
「えへへ~でしょ~!」
「お褒め預かり恐縮です」
ワイワイしている図書館の一角
「……」
実は本棚の陰から一人見ていた
「……」
咲夜である
無言で楽しそうなティータイムを恨やましく見ていた、片手には紅茶セットが持たれている
(またあいつ~!?)
口にはハンカチが噛まれていた
(少し掃除で遅れたと思ったらなんであいつだけあんなにお嬢様に褒められてるのよ~!!?)
(貴方は妹様の執事でしょ~!?バーン様やパチュリー様と他はともかくお嬢様は私でしょ~!?越権行為じゃないのそれ~!?)
ハンカチが千切れそう
「余り褒めると咲夜が嫉妬してしまう、程々にしておけ」
(そうですねバーン様、早く死なないかなウォルター……寿命あとどれくらいかしら?)
「ん?そういやウォルターって寿命ってどうなってんだぜ?聞いた話じゃ若返ったりなんやらしてるみたいだけどさ?」
「それについては私を甦らせた王達が言っていました、何やら主に近い寿命を与えたと……つまりフランお嬢様とほぼ変わらない寿命と思われます」
(くっ……)
咲夜の顔が歪む
「そういや咲夜はどうしたんだ?」
「咲夜さんは先程館の掃除をしていましたね」
「まだやってるの?私のティータイムの時間なのに?」
(居ますよお嬢様!貴方の咲夜はここに居ます!)
「もうウォルターだけで良いんじゃないか?要らんだろあんな鼻血メイド」
(黙ってろキノコ大魔導士!私とお嬢様の絆はこの程度で綻ぶ事は無い!)
「そうねぇ……」
(ってお嬢様!?そうねぇ……じゃないですよ!?)
「咲夜さんは紅魔館に必要な方ですよ」
(お前のせいで私の地位が危ないのよ!!)
「では失礼します、門番の二人にも持っていってあげないといけないので」
「本当に有能ね貴方……咲夜と交換しようかしら?」
「ダメだよお姉様!ウォルターはあたしのなんだから!絶対ダメ!!」
(……)
咲夜は茫然としていた
「冗談よフラン、咲夜は私の唯一にして最高の専属だからね……あの子以外有り得ないもの」
その言葉も聞こえない程に
「……」
その目と意思は遠目に歩いていくウォルターを見据えて考えていた
(私がお嬢様の元でずっと居るには……)
瞳が堕ちていく
(消すしか道は無い……)
咲夜は図書館から消えた
紅魔館・門前
(まずはあいつの有能さを堕とす!)
ウォルターが門前の二人に近付いた瞬間、能力を発動した
「美鈴さん、ミスト、飲み物をどう……!?」
石に躓き飲み物が二人に向かい宙に舞う
無論、石を仕掛けたのは咲夜
「よっ!」
美鈴が華麗にキャッチした、中身を一滴も溢さずスマートにやりのけた
「っと!ありがとうございますウォルター!はいミスト!」
「失礼しました美鈴さん、助かりました」
礼を言って戻っていくウォルター
「流石の腕前だな美鈴」
「ふふん♪ミストも武術を極めればあれぐらいは普通に出来るようになりますよ」
ドヤ顔で紅茶を飲む二人
「……」
無言で現れる咲夜
「あ!お疲れ様です咲夜さん!異常無しです!」
美鈴が報告した瞬間
ドスッ!
「痛ッ!?」
いきなり美鈴が殴られた
「……」
ドスッドスッドスッ!
「ちょっ痛ッ!?ちょ!?なんでいきなり暴行!?痛い痛い!?」
倒されて踏まれる美鈴、突然の凶行にミストは訳もわからず唖然としている
「ぐぇぇ……」
何度も踏まれて死体になった美鈴
「……」
無表情、そして無言で立ち去る咲夜
「いったいなんだというのだ……」
茫然としたミストがそこには居た
紅魔館・メイド執事控室
(これなら……!)
次の咲夜の手はフランの紅茶の原料に細工、全く好味に合わない調合や素材に変えていた
(妹様……ごめんなさい、私の為に泣いてください……)
謝ると人の気配が近付いて来たのを感じて身を隠す
「……」
入ってきたのはやはりウォルター、休憩をしようとしているのか珈琲を淹れ始めた
「……ん?」
目についたフランの紅茶の原料を凝視する
「粗悪品が混じってる……作り置きもすり替えられてる」
少し考えたウォルターは隠れて見ている咲夜の前で
ザーッ……
「妖精メイドの悪戯か?困ったものです」
原料を棄てた
「さて、買い出しに行きますか」
珈琲を飲み終えたウォルターが出ていった
「はぁ~喉乾いた~!」
すぐに入ってきたのは美鈴
「意味不明な暴行であまり飲めませんでしたからね~」
サボりに来た美鈴がゴソゴソと飲み物を作っている
「ふんふ~ん♪」
気分良く作っている美鈴の背後
「……」
咲夜が立っていた
「わっ!?咲夜さん!?ビックリさせないで……」
ドスッ!
「うぎゅ!?」
殴られて倒れる
「……」
ドスッドスッドスッ!
感情の籠らない顔で何度も踏みつける
「ぐぇぇ……」
またも死体になった美鈴を置き去りに咲夜は出ていった
「いつまでサボっている……美鈴!?何があった!!?」
様子を見に来たミストが驚愕する
「咲夜……さん……に……ぐぇぇ……」
「いったいなにがどうしたというのだ……」
介抱するミストであった
人間の里への道
「おや、こんにちはルーミア、元気ですか?」
「元気いっぱいなのだー!」
擦れ違う顔見知りに挨拶を交えながら進むウォルター
「……」
木陰に構えていたのは当然咲夜
(こうなったら最後の手段……死んでもらう!)
拳を力強く握るその瞳に正気は既に無かった
「ザ・ワールド!時よ止まれ!!」
能力で時を止めた咲夜はウォルターに向かって次々と石やら陶器の破片やらを投げて設置していく
(本当はナイフで串刺しにしてやりたいけどそれでは私が犯人と言っている様なもの!だから格好は良くないけどこれで殺す!)
暴走してるわりには己の保身を考えてる辺り抜け目無い
(フフフ……妹様には買い出し中に妖怪に襲われてくたばったと報告しておいてあげるわウォルター!!)
嬉々として大量に設置し終えると木陰に身を隠す
「そして時は動き出す……」
能力を解除した
「!?」
ウォルターに迫る欲望の攻撃
(勝った!東方大魔王伝!完!!)
勝利を確信する咲夜
ヒュパ……
その前で鋼線が舞った
ズバババババ!
攻撃が全て切り払われ地に落ちる
「なん……だと……」
唖然とする咲夜
「……?」
構えていたウォルターだったが誰も居ないし次の攻撃も来ない、さらには投げられた物体の攻撃的価値が低い事が不思議で眉をひそめる
「……よくわかりませんが行きますか」
諦めて里へ向かって行った
(しまったぁぁぁ!忘れていた!ウォルターは戦闘もこなせる執事だって事!?)
怒りに悶える咲夜、この場に美鈴が居れば間違いなく死体になっていただろう
「おーい!ウォルター!」
導かれる様に何故か美鈴が現れた
「財布忘れてますよ~!」
「これは失礼を……助かりました美鈴さん、危うく手ぶらで帰らねばならないところでした」
礼を言って別れた二人
「うーん……良い男性ですねウォルターは」
ウンウンと頷く美鈴が振り返った瞬間
ドスッ!
「ぬわす!?」
殴られて倒された
「……」
ドスッドスッドスッ!
「ぬわーーーーーっ!?」
美鈴は死んだ
「おのれウォルター……次こそは……!!」
死体になった美鈴を置いて咲夜はウォルターの後を追った
「美鈴……財布を届けるのにいつまで……!!?」
心配になったミストがやってきて死体の美鈴を見つけた
「また死んでいるのか!?大丈夫か美鈴!?また咲夜殿か!?」
「ゆうて いみや おうきむ こうほ りいゆ うじとり やまあ きらぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ぺぺ ……」
「ええい!しっかりしろ!お前はもょもとではない!美鈴だ!いったい何なのだ今日は……!!」
苦労の絶えないミストであった
紅魔館・庭
「ハァー……!ハァー……!」
咲夜の息が上がっている
戻るまでのあいだ幾度もなく攻撃を仕掛けた、物理攻撃から精神攻撃、果てはなけなしのお金を使って妖怪を雇って襲わせたり……
そして全て失敗していた
(マズイ……早く始末しなければ私の居場所が無くなってしまう……)
館の玄関に近付くウォルターを見ながら次の手を思案する
その時、ウォルターが開けるより先にドアが開いた
「あらウォルター、買い出しの帰り?」
開いたドアから出てきたのはレミリア
「そうです、只今帰りましたレミリア様」
「お疲れ様、それはそうと咲夜見なかった?」
「いえ……ティータイムの後からは見ておりません」
「調子悪いのかしら?まぁいいわ、咲夜に頼もうとしたけどウォルターで良いか」
「何でしょう?」
「料理の練習に付き合って欲しいのよ」
「料理の練習……ですか」
「そっ、早くハドラーから習った料理術をマスターしないといけないからね、いつもは咲夜に教えて貰ってるんだけど居ないから貴方で良いわ」
「はぁ……」
困惑しているウォルター
「!!?」
衝撃を受ける咲夜
(そ、そんな……)
膝から崩れて茫然自失
「私の様な者に恐悦至極な事ではあります……ですがレミリア様……」
もうその後の会話は聞こえてなかった
「……」
立ち上がった咲夜はフラフラと何処かへ消えていった
その日の夜
紅魔館・図書館
「おー遅かったなチルノ、大妖精!妹紅は?」
「逃げられた!くっそー!子分のくせに!」
「幻想郷中を逃げ回ってたんですよ妹紅さん……凄く必死でした、女の子らしくするのそんなに嫌なのかなぁ?」
「今まで男みたいな振る舞いだったからね、急には無理よ、少しずつ戻してあげないとね」
「楽しみが増えたぜ!」
夜の一時を楽しむ7人
「少しよろしいでしょうかフランお嬢様、レミリア様、バーン様?」
ウォルターが3人の前に立った
「咲夜さんの事なのですが……」
そう言うとチラリと4人を見た
「……魔理沙、パチュリー、チルノ、大妖精、これから大事な話をするゆえ少し外せ」
すぐに悟ったバーンが4人を退場させる
「御気遣い感謝します」
「よい、パチュリーと大妖精はともかくチルノ……特に魔理沙には聞かれたくなかったのだろう?」
「ええ……魔理沙さんは悪ふざけが過ぎる面がありますので……聞かれれば悪戯のネタにされてしまう恐れがありました」
「それでどうしたのウォルター?」
「咲夜の事って何?」
「大方想像は着く、咲夜の様子についてであろう?」
「……流石バーン様、言わずともお分かりでしたか」
「ミストからの報告で様子がおかしい事を聞いていたのでな」
「でしたら話は早い……そう、どうにも咲夜さんが私に嫉妬している様子でして……」
「嫉妬?貴方に?何故?」
「それは……」
「お前達が必要以上にウォルターを持ち上げたからだ」
「私達が?」
「そうだ、フランはともかくお前達がウォルターを過剰に褒めた事で咲夜は身の危険を感じたのだろう、聞けばウォルターを亡き者にしようとする動きもあったようだ」
「えー!なにそれー!」
「あの子……!」
「何故怒るレミリア?お前が怒れる道理はない、部下への配慮が足らなかったお前は反省すべき点が多々ある筈だ、自分の発言を全て聞かれていたと仮定して思い返してみろ」
「……うっ……」
「わかったところでウォルター、お前が気に病む必要は無い」
「ですがそれは私が原因で……」
「それは違うな、ただ新鮮だっただけの話だ、今まで居なかったお前が新鮮だから目を引き、そして有能だった……それだけの話だ、お前に非は無い」
「……」
「非が有るのはむしろレミリアだ、主として成さねばならん配慮が足らなかったのだからな」
「でもアレは本心じゃ……」
「このさい本心かどうかは関係無い、口に出してしまったのが誤りなのだ、真に信頼する者に対して冗談でもそれを言ってはならん」
「うぅ……」
「部下とは意外にそういった事を気にするものだ、何気なく溢された事で自分の価値を決めてしまう……それが本心からではない冗談であってもな」
「……」
「溢すべきではなかった……少なくとも今まで愚直なまでに付き従い、献身かつ誠意ある咲夜に聞かれる可能性を持つ発言ではなかったのだ」
「……その通り……ね」
レミリアは少し考える
「行ってくるわ」
立ち上がって図書館を出ていった
「大丈夫でしょうか?」
「まぁ心配要らんだろう、アレもすべき事はわかっておる筈だ」
そこでウォルターも少し考える
「……フランお嬢様」
「なにウォルター?」
「私も行ってもよろしいでしょうか?」
「良いよ!」
「ありがとうございます」
深々と二人に礼をすると図書館から出ていった
霧の湖
「私は必要無いメイド……」
膝を抱えて水面を覗く咲夜
「もう私は要らないメイド……もう紅魔館で……お嬢様の世話は出来ない……」
うっすら涙を浮かべて膝に顔を埋める
「お嬢様へ仕えるのが喜びであり誇りだったのに……」
水面に映る月が咲夜を照らしていた
「どうしたの下を向いて……こんなに月が綺麗なのに勿体無い」
月光に姿を徐々に表しながら咲夜に向かう1つの影
「お嬢様……」
いつもならレミリアが居れば気を張り凛としているはずだが今はそれすら出来ず顔を上げるだけ
静寂が二人を包む
お互いに面と向かって言えないのだ
「あの月を私とするなら……貴方は夜……」
月を見上げた静かな言葉
「夜があんなに暗く、闇であるから月はあんなにも綺麗に映える」
ぽかんとしている咲夜にレミリアは語り続ける
「つまり私は貴方という夜に支えられているから月で居られるのよ」
そう言われて咲夜は涙を流した、辛いのではない、嬉しさからだ
レミリアから自分でなければならないと言われたに等しい言葉だったのだから
「夜には星も在る、新しい星は新鮮で一際綺麗に見えるけれど一瞬だけ……慣れれば元の静かな、けれど大事な夜に戻るものよ」
「はい……!」
ウォルターの事は一時の事だから気にするな、貴方はいつもの様にしていればいい、貴方でなければならないから
そう言ってくれて堪らなく嬉しい
「もう大丈夫ね?私の誇る唯一にして完全、そして瀟洒な従者……十六夜咲夜?」
「はい!咲夜は一生お嬢様に着いて行きます!!」
咲夜は元気になった
「あの……お嬢様?」
元気になったが咲夜には聞きたい事があった
「その……ウォルターに……あの……」
「何?ハッキリ言いなさい」
「う、ウォルターに料理を習われたのですよね……?」
ウォルターはもうどうでもいいが自分の特権である料理を教える事だけが気掛かりだったのだ
「ああ……その事……」
そんな咲夜が可笑しくてクスリと笑うレミリア
「断られたわ」
答えにえっと驚く咲夜
「ウォルターに言われたのよ「それは咲夜さんの仕事であり一番楽しみにしている時でもあります、いくら雇い主であるレミリア様の頼みと言えどこればかりは受ける事は出来ません」ってね、ちゃんと貴方を立ててるのよ彼はね」
執事として、遥か前から仕えている先輩の咲夜をウォルターはしっかり立てていたのだ
「今日の事は不問にしてあげるわ、ウォルターを暗殺しようとした事……とかね」
「はぅっ……申し訳ありません」
「不問にすると言ったわ咲夜……そして、これ……貴方にあげるわ」
小さい体で頑張って隠していたバスケットを手渡す
「これは……?」
「思えば貴方はもう100年以上も働いてくれてるのにそれらしい労いをした事がなかった……だからそれをあげる、いつもありがとう咲夜、感謝してるわ」
「え……あ……りがとう……ございます……」
震える手でバスケットの中にある包みを広げる
「パイ……」
「ごめんね、まだこれしか満足につくれなくてね……でも、それは貴方にだけ作った特別なパイなのよ」
言われてみると良く見ればいつも作るパイとは僅かに色が違っていた
「そのパイには花を混ぜてるの」
「花……ですか?」
「そっ、夜に咲く花「夜顔」」
「花言葉は確か……「夜」「夜の思い出」でしたね」
「貴方の為に在るような花でしょ?こんなに綺麗な月の夜の思い出……素敵ね」
「そうですね……」
バスケットをぎゅっと抱き締めて至福の時を堪能した
「じゃあ先に戻るわね、それを食べたら明日からもまた頼むわね」
紅魔館へ戻っていくレミリア
「もちろんです!……お嬢様!」
「どうしたの?」
「お嬢様は私を月を支える夜と仰ってくれました……ですが!その月も太陽が居なければ光を放ちません!」
「……それで?」
「お嬢様にとっての太陽は……」
「もちろんバーンよ」
「でしたら私はいつまでもお嬢様を支えます!お嬢様がバーン様を見つけれる様に!バーン様がお嬢様を見失わない様に!」
「フフッ……ありがと咲夜、期待してるわ」
ヒラヒラと手を振ってレミリアは帰っていった
「……」
一人残された咲夜はバスケットを覗く
「食べるのが勿体無い……」
葛藤していた
(このまま永久保存してバーン様から頂いたナイフと共に十六夜家の家宝に……ああでもせっかくお嬢様が食べる様に作ってくれたパイ……悩ましい……うっ!?危ない危ない、忠誠心が鼻から出るところでした)
悩む咲夜
「パイには紅茶が合うと思いますがいかがでしょう?」
声が掛けられて気付くといつの間にかウォルターが横に立っていた
「……」
あんな事をしてしまったからか途端にぶすっとしてしまう咲夜
「そう睨まないでください、私もレミリア様と同じで感謝を伝えに来たのです」
スッと淀みなく出した紅茶を反射的に取ってしまいしまった顔をする咲夜を見て微笑むウォルター
「感謝って?」
「仕事を教えてくれたからですよ」
「……嫌味かしら?貴方くらいの腕前なら私が教えなくてもよかったじゃない」
「そんな事はありません、確かに私は執事としての経験はあります、しかし……ところ変われば基礎は残っても色がわからないのですよ」
「色……」
「そう色……その場所に応じたやり方ですね、こればかりは偉大な先輩に教えてもらわねばならない事です」
「……」
「時間、方法、各人の好み……それを咲夜さんから叩き込まれたから紅魔館の私が居るのです」
湖へ向いたウォルターは夜空を見上げる
「貴方のお陰で私は紅魔館の執事になれたのです」
また咲夜を見ると紅茶を飲むように促した
「!……美味しい……」
「咲夜さんの好味はほんのり甘いミルクティー……ちゃんと覚えていますよ」
満足に笑顔を作るウォルター
「……悪かったわ」
そんなウォルターに罪悪感を感じて謝る咲夜
「……何の事でしょう?」
「とぼけないで……気付いてるでしょ?貴方を亡き者にしようとした事……」
「さぁ……?何の事だか私にはとんとわかりません」
「生意気な奴……」
そう言う咲夜の口元は緩んでいた
「……半分あげる」
パイを半分に割ってウォルターへ差し出す
「愛の告白と受け取っても?」
「刺すわよ」
「ハハ……これは手厳しい」
ではと手を差し出そうとしたその時だった
「咲夜さーーーん!!」
美鈴が走ってきた
「探したんですよ咲夜さん!」
「どうしたの美鈴?」
「どうしたもこうしたも私の夕食作ってくださいよ!」
「……なんで?」
「そりゃないですよ咲夜さん!咲夜さんが何度も私を攻撃したから気絶してご飯食べれなかったんですよ!」
「それは悪かったわ……わかったわよ、すぐ作ってあげる」
「お願いしますよ、それまでこれで餓えを凌ぎますから」
そう言うとパイをサッと取り上げて口に入れた
ドゴオッ!!
美鈴は宙を舞った
「明日の文々。新聞載ったぞテメー !!!」
倒れた美鈴を踏み続ける咲夜
「修行をする時間だぞ美鈴……美鈴!!?」
呼びに来たミストが目撃し止めるが咲夜は止まらない
「よせ咲夜殿!美鈴のライフはとっくにゼロだ!!」
「放せぇぇぇぇぇ!!」
その光景を見ながらウォルターは笑った
「ハハハ……なんて楽しい職場だ……フランお嬢様に仕えて、紅魔館の執事になれて……僕は幸せだ……!!」
今日も紅魔館は平和だった……
ノヴェレッテ……短編小説の意味がある音楽用語です。
キャラ崩壊甚だしい短編でした、咲夜ファンの方ごめんなさい。
短編小説で思い出しましたが不意にワールドトリガーとある作品のクロス短編を思い付いたんですがどうしようかな……
後、もこたんがポニテドレスアップして恥じらう姿が見てみたい今日この頃……絶対可愛いと思います!
新しい仲間の話は終わったんで次は誰にしようかな……とりあえず7人と萃香、幽香、妖夢は書こうと思ってます。
次回も頑張ります!