ズドオッ!
静寂に包まれていた月光が照らす丘に轟音が鳴り響く
「ッウゥ……!?」
吹き飛ばされ地をブレーキ代わりに擦って止まったのは茨木華扇
青娥と同じく仙人、違うのは邪が付かない一般的に良い方の仙人
(この一週間で何があったというの……)
彼女はとても焦っていた
「オイオイどうしたぁ?力の差を見せつけて反省させるんじゃなかったのかぁ?」
華扇が睨む先、ゲラゲラ笑いながら歩いてくる一人の男
青い体色に額の辺りから生えている数本の角
人型であるが人ではない、人間の様な妖怪
(あの姿はまるで……鬼……)
良く知るが故にそれを連想してしまう華扇
「そらぁ!」
撃ち出された妖力弾を避けながら華扇はそんな筈は無いと首を振る
(有り得ない……彼は人間だったのです、そんな馬鹿な事が……)
理解出来ない事態に焦る華扇は隙を突かれ殴り飛ばされる
「ハハハ!どうしたどうしたぁ仙人様よぉ!弱っちぃなぁオイ!」
「くっ……」
殴られた腕を押さえながら苦痛に染まった顔を上げる華扇
(もしあれが鬼の力だとすれば……今の私では……勝てない……)
測った力から導かれたのは敗北、今のままでは勝てないのが身を持って理解したのだ
(しかし……それでも逃げる事は出来ない……!それが師叔(スース)との約束だから!)
内に秘めた契りを糧に立ち上がる
「ちょろいもんだぜ!そのキレイな顔を吹っ飛ばしてやる!!」
「……!!」
何故こうなったかは一週間前に遡る
一週間前・人間の里
「……チッ」
里を歩いていた機嫌の悪い一人の男
(俺を馬鹿にした妖怪を倒しただけでなんで説教されるんだよ!あのクソ住職!!)
石を蹴って更に機嫌悪く歩く
彼はつい今しがた白蓮に説教を受けていたのだ
(あー!ふざけやがって!)
自身をからかう程度の事であったが男は我慢出来なかった
(俺は悪くねぇ!あの妖怪が俺を馬鹿にして俺は力があったから倒しただけなのに……クソッ!)
男は天才だった
陰陽術に人並外れて才能があった男は若くして単独で妖怪を退治出来る程に力を持っていたのだ
しかし、それでも勝てるのは一般妖怪のみ、さすがに白蓮には勝てない、だからこそ荒れていた
(それ程の力を持てるのは凄い事なんて言ってたけどよ……昔で言えば!だろうが!)
そう、今の男の力ではまるで足らないのだ
一般妖怪は倒せても白蓮の様な有名な者には敵わない、その上には鬼や花の大妖怪が居るし更に上には頂点の7人、そしてトドメとばかりに頂より高みに伝説のバーンまで居る
絶望なまでに上が遠いのだ、生まれる時を間違えたと思うくらいに
(そのくせ力の在り方を説教して来やがって……何が己の為だけに使う力は脆いだ……上からもの言ってんじゃねぇよ!)
(クソが……イライラするぜ……)
どうしようもない状況が男の心を歪ませようとしていた
「もし……そこの貴方?」
そこへ掛けられる声
「ああ?なんだお前?」
威圧的に凄む男の目には麗しい女性
「私は茨木華扇、仙人をやっています、失礼ですが貴方から邪な気……煩悩を感じます」
華扇が男を凝視する
「人間には珍しく強い陰陽の力を持ってますね、若くして素晴らしい、ですがその力に精神が付いてきてません」
聞いてもいない事を勝手に話す華扇
「……お前も俺に説教するつもりかよ?」
男のイライラは更に増す
「よし!決めました!貴方!私の弟子にします!」
「……はぁ?」
返事も返さず勝手に話を進める華扇に戸惑う男
「私の弟子にしてその煩悩を取り去ってあげます、感謝しなさい」
うんうんと一人頷く華扇に男の怒気が最高潮に達した
「舐めてんじゃねぇぞコラァ!」
陰陽術を使い殴りかかった
「そう、それ」
ピッっと出された指に拳は意図も簡単に止められ男は驚愕する
「このままでは貴方は持て余した力の行きどころに困って狂気が生まれいずれ傷付けるだけの鬼になってしまう、だから私が煩悩を祓い、その力に意義を与えてあげましょう」
もう片手の指を曲げながら男の額に近付けると指を弾く
「ぐあっ!?」
およそデコピンとは思えない音を出して男は吹き飛ばされ倒れる
「さぁ立ちなさい、行きますよ」
もう弟子にした気でいる華扇、いつもならここまで実力差を見せれば素直についてくるのだが今日は違った
「ふざけやがって……!」
男は更なる怒気を生みながら立ち上がったのだ
「どいつもこいつも俺に説教ばかりくれやがって!」
そう、今日男は既に説教を受けていたのだ、命蓮寺の白蓮に軽い説教を……
華扇は間が悪かった、二度目の説教を受けた男は感じる理不尽が怒りを高め恐怖を上回ったのだ
「勝負しろ!一週間後の夜!あそこに見える丘で勝負しやがれ!」
力の差に屈せず男は言う
「必要ないですね、私に利がありません」
華扇からすれば既に弟子にしている男の要求に応える必要は無い、無理矢理引っ張っていく選択肢もあるのだから
「お前が勝ったら喜んで弟子にでも奴隷にでもなってやる!」
「そういう事なら構いません、良いでしょう、受けます」
華扇は受けた、別に深い意味があったからではない、ただ勝負に勝てば男が素直に来ると言うなら無理矢理よりは良いと思ったからだ
「それで貴方が勝てば?」
「土下座で謝って貰う!」
「構いませんよ、力の差を知り反省するいい機会です」
華扇が受けると男は去っていった、後悔させてやると捨て台詞を言い放ちながら
「さて……一週間どうやって暇を潰そうかな……」
華扇は勝負の事などまったく気にしてなかった
(あの程度の陰陽術……一週間じゃどうにもならないわね)
確実に勝てる勝負と確信していたからこそ気にしてなかった
「久々に勇儀にでも会いに行こうかな」
道行く人に説教をしながら地底を目指して行った
「……」
華扇は気付かなかった
物陰から自分を見ている怪しい青年が居た事を
(何あれ?あれ本当に華扇姉ぇ?嘘だろ?華扇姉ぇが人間を殺さずあんな真似……)
青年は華扇に酷く驚いていた
(見たとこ兄さんみたいに封印されてる感じでもなかった、何か事情があるのかな?でも華扇姉ぇにそんなの似合わないよ……)
学生服の様な服を着ている青年は身を翻し向かう
(僕が思い出させてあげる……)
男が向かって行った方向へ……
紅魔館・門前
「ようミスト!遊びに来たよ!」
フラフラと現れたのはかつて一時代を築いた妖怪、鬼
その中でも飛び抜けた力を持つ4人の鬼は四天王と呼ばれ妖怪や同じ鬼からも特に畏れられた
その四天王の中で唯一、他人から贈られた名を名乗る鬼が居た
「よく来たな萃香、ちょうど休憩の時間だ……中へ入るか?」
「いんや構わないよ、今日はあんたに会いに来た!外で良いよ!」
鬼の名は伊吹萃香、またの名を「霧の萃香」
「飲むかい?」
「仕事中に酒を勧めるな」
「美鈴も飲まない?」
「いや~……さすがにお嬢様と咲夜さんにぶっ殺されちゃいます」
「あっそう!」
カラカラ笑いながら一人酒盛りをする萃香
「それで美鈴、さっきの話の続きだが……」
「あ!えーと……どこまで話しましたっけ?」
「茨木華扇なる仙人が最近また現れる様になったところからだ、何者なのだ?その茨木華扇とやらは?青娥とはどう違う?」
「あー!えーとですね……青娥さんは邪仙と呼ばれてますので茨木華扇は言わば正仙ですね」
「ほお」
「ただ地獄の映姫様と同じく説教臭くて煩悩を祓う名目で無理矢理弟子入りさせるのが傷ですが基本的には良い人?妖怪?鬼?ですよ」
「面倒なタイプの大妖精と言った感じか……」
二人が更に話を続けようとすると萃香が口を挟んだ
「ちょい待ち、華扇が帰ってきてるって?」
強い関心を示して問う
ミストにとっては幻想郷を知る為、美鈴にとっては他愛のない会話だが萃香には意味が異なる
「知り合いか?」
「古い知人さ、魔帝異変の後に外の世界に行って随分と経つけど……へぇ、帰ってたんだねぇ」
嬉しそうに笑う萃香は立ち上がる
「会いに行ってこようかね!教えてくれてありがとミスト、美鈴!」
そう言ってフラフラとおぼつかない足で歩いていく
「イテッ!?」
萃香は転けた
「大丈夫か?少し休んで酔いを覚ましてから行けばどうだ?」
「なんのなんの大丈夫!今のは滑っただけさ!これしきじゃ鬼の中じゃあ酔った内に入らんよ!」
立ち上がるとまた転けた
「アッハッハ!今日は大地がよく滑るから飛んで行こうかねぇ!」
笑いながら浮かぶと今にも墜落しそうに危うく飛んでいった
「……今のだけ見ればあれが頂点に次ぐ霧の鬼とは誰も思わんだろうな」
「確かに……酔っ払った子どもにしか見えません」
ゆっくりと遠くなっていく萃香を見て二人は苦笑した
「あ……そういえば……」
「どうした?」
「茨木華扇の他に最近見慣れない外来人らしい男が目撃されてるらしいです」
「危険な部類か?」
「いえ、これと言った事は特に……」
「ならば気にしなくてよかろう」
「違うんですよ!その外来人とっても格好良いらしいんです!」
「……それが?」
「お近づきになれないかなーって……私もそろそろ彼氏くらい欲しいし……こんな悩殺ボディを持った美女がいつまでも埋もれるのは幻想郷の恥!」
「……」
「それに妖夢さんも彼氏が出来たし私も……」
「……」
「どう思います?」
「……」
「無視しないでくださいよミストー!」
「……仕事に戻る」
山の中
「ッラァ!!」
八つ当たり気味に岩を破壊する男
「ねぇ君……」
現れるは怪しき青年
「なんだガキ……?消えろ……ぶっ飛ばされん内にな……!」
男に青年に構う暇は無い、今は華扇を倒す為に少しでも鍛えていたかった
「良いね君……てっきり萎えてると思ったけどやる気満々だ、それぐらい気概が有れば良い感じになりそうだ」
そう言って手を開いて見せた、手の中には鋭利に尖った小さな角の様な物が乗っていた
「君、あの茨木華扇と勝負するんだろ?僕が力を貸してあげるよ」
「ああ~?」
イラつきながら男が問うた瞬間、角が飛び出し男に突き刺さり体に侵入していく
「あ……がっ!?」
苦痛と共に侵入した箇所が蠢き更に男を苦しめると突然、人間である男から何故か妖気が溢れだしてくる
「があああああああああっ!?」
苦悶の叫びが木霊するとピタリと呻きは止まった
「どうだい気分は?」
青年が問うと男から異常な妖気が吹き出した
「最高の気分だぜ……!!」
妖しい笑みを浮かべ男は顔を狂気に染めていた
「凄い力だろ?僕の角を一本貸してあげたからね、これで茨木華扇にも勝てるんじゃないかな?」
「ああ……!それどころかあのバーンにすら勝てそうだぜ!」
「バーンって奴が誰かは知らないけど勝てるんじゃないかな?それよりもまだその力に慣れてないから練習しとくと良いよ、一週間もあれば使いこなせるだろうし君なら更に強くなれるかもね」
「わかった……そうするぜ……」
「じゃあ頑張ってね」
青年は身を翻し男から去っていく
(こんなもんかな……)
男の狂気を感じながら青年は歩く
(角が体内にあればある程度意思は操れるしあの攻撃的な性格なら期待以上に育つかもね、まぁ育たなくても充分だけど)
(にしても面倒だなぁ……僕が直接華扇姉ぇとやれたら楽なんだけどここは僕の知らない場所だからなぁ、まっ目を付けられたらもっと面倒だしこれなら僕の仕業だって華扇姉ぇ達以外にはバレないしね)
一週間後を期待しながら
(兄さん……もう少し待ってて、必ず四天王の皆で助けに行くから……)
そのまま幻想郷の闇の中へ消えていった……
そして一週間後の昼
地底
「おっ!萃香じゃないか!どしたどした?酒飲み勝負で負けたリベンジかい?」
「抜かせ勇儀!引き分けだったじゃないか!」
萃香は勇儀と会っていた
「どした?一緒に飲みに来た……様には見えないけど?」
「いやね?華扇が帰ってきてるんだろ?一週間探しても見つからなくてさ、ホントに帰ってんの?勇儀んとこ来た?」
「ああ華仙を探してたのかい……来たよ?5日くらい前に、ホントに探したかい?」
「探したさ!そりゃもう一心不乱に……」
「酒飲みながらだろ?」
「あたぼーよ!」
「片手間じゃないか……避けられてるあんたがそんな片手間で捕まえれる奴じゃないよ華扇は」
「避けられてる?なんで?」
「おっと……まぁとにかく華扇は来た、私に近況を話して帰ってったよ」
「そっかー……」
また探すかと頭を掻きながら言う萃香
「そんなに会いたいのかい?」
「当然!なんたってあいつは四天王の……」
「んじゃ今日の夜に幻想郷を探してみな、たぶん見つかるから」
「今日の?夜?どうしてわかるんだい?」
「近況を伝えに来たあいつがついでに言ってたんだよ、弟子の人間と勝負するってね、確か今日の夜だった筈さ、場所までは知らんけどね」
「なるほどね~……あ!そうだ!ついでに勇儀も行こうよ!華扇取っ捕まえて紅魔館で一緒に酒盛りしよう!」
「あたしはこの前一緒に飲んだから別にねぇ」
「……そういえばバーンが言ってたよ?「酒が強いらしいが余には敵わん、勇儀程度物の数ではない」って」
「もたもたしてんじゃないよ!行くよ萃香!絶対に酔い潰す!」
「よしきた勇儀!まずは華扇だね!」
霧と力の鬼が地底を出ていった
紅魔館
「む……」
バーンはふと嫌な感じがした
「どうしたの?」
「謂れの無い罪を被らされた気がした、ダシに使われた様だ」
「何それ……」
「対策を練らねばならん」
「対策って……どうするのよ?」
「……咲夜、ウォルター、夜までに小規模の宴会の準備をしておけ、それと外で修行をしているフラン達5人に出ろと伝えろ」
「「かしこまりました」」
「……随分と具体的な対策ね」
「なに……そんな気がしただけだ、ダシに使ったのはおそらく好きな様に生きる霧の鬼……そんな気がした」
「萃香か……それが真なら本当に自由気ままな奴ねぇ」
「あれがあやつの好きな生き方であり生き様だからな、伊吹萃香として生き、伊吹萃香として死ぬ……誰にも縛られる事は無く好きに生きる、あやつこそ自由の象徴なのかもしれんな……」
「羨ましい?」
「全く思わん、余は今が……お前と共に生きる今が好きな生き方だ、至極満足している」
「……よく恥ずかしげもなくそんな台詞が出るわね」
「たまには言葉で伝えておかねばな、どこぞの妃が心配で泣いてしまう」
「うっ……誰かしらねそんなカリスマの欠片も無い情けない奴は……」
「名を知りたいか?」
「言ったら許さないからね?」
「ふふっ……仲が良いわね、カリスマの欠片も無いレミィとバーンは」
「パチェ!」
紅魔館は来るだろうその時を穏やかに待つ
決闘の丘
「来やがったな……」
「勿論来ますよ」
陽が沈んだ場所で二人は対峙した
「ではすぐに終わらせて修行をしますよ」
華扇は余裕綽々と言った感じだ、それはそうだ、明らかな実力差が有るのだから、一週間では決して埋める事が出来ない絶対の差が有るのだからこその余裕
「終わらせてみろクソ仙人……!」
その余裕は男の言葉の次の瞬間に消される事になった
(……妖気!?)
溢れ出る妖気に驚いた華扇は次の瞬間に更に驚愕する事になる
ズズズ……
男の体が変化していく
肥大化する筋肉が服を破り青に染めていく
(この力……一週間前の500倍!?)
有り得ない変化にさしもの華扇もたじろぎ一歩下がってしまう
ズズッ……!
最後に頭に数本の角が生え、男の変化は終わった
「貴方……一体何を……」
混乱している華扇が問うと男は気にせず肩を回し始める
「じゃあ……始めようぜぇ……!」
男が言った瞬間
ズドオッ!
瞬時に反応した防御ごと華扇を殴り飛ばした
「今向こうで光った、今日が決闘を義務付けられた日でもない限りあそこだろ」
「にしてもさ~華扇が戦ってるのって本当に人間?」
「……流石に気付いてたか」
「舐めんじゃないよ勇儀……気付くさ」
「人間って聞いてたんだけどねー、あたしが聞き間違えたのか華扇が勘違いしたのか……」
「どっちでもいいさね、行けばわかるさ、それに……」
「わかってるよ、同族の匂いも気になる……だろ?」
二人の鬼はチカチカと光る場所へ向かっていった
「オラ!どうしたぁ!」
剛腕が襲う
「くっ……」
寸でで避けた華扇に巨体が迫る
「うらぁ!」
かまされた体当たりは避けきれず肩を掠めたが有り過ぎる威力に体勢を大きく崩された
「貰ったぁ!」
逃さず放った蹴りが華扇に向かう
「うぐっ!?」
脇腹を打たれる、辛うじて防御は間に合ったが物ともせず吹き飛ばされ離れた所に生えていた木に衝突した
「ヒャハハ!泣いて謝るなら今の内だぜぇ?仙人様よぉ?」
下卑た笑いを見せながら歩いてくる男
「……調子に……!」
立ち上がった華扇は右腕に力を込める
「乗るな!」
突き出された右腕、そこには腕が無く、巻かれていた包帯が形を変えていた
「龍符「ドラゴンズグロウル」!!」
龍の姿を模した包帯の顎から発射された青い光線が男に向かう
「ククク……」
迫る光線に含み笑いをしながら顔を片手で覆う
バチッ!
光線は腕の一振りで弾かれた
「ヒャーハッハッハ!」
「なっ……」
高笑う男と驚く華扇
大技を放ったのにダメージすら与えられなかったのは予想外過ぎたのだ
(ここまで力の差が……こうなったらあの力を使うしか……しかし約束を破る訳には……)
昔に交わした約束が華扇を迷わせる
「オラァ……!」
「しまっ……あうっ!?」
迷っている隙に腕を掴まれてしまう
ドッ!
地面に叩きつけられ血が舞う
「ウハハハハハ!!」
狂気に駆られた男の拳が何度も華扇を打ち、その度に鮮血が舞い散る
「ハーッハッハッハー!!」
狂行は暫く続けられた
「気分はどうだぁ?仙人様よぉ?」
ズタボロにした華扇の腕を掴み上げ愉快そうに問う
「ぁ……ぅ……」
何とか息のあった華扇だが反撃どころか動く事も出来ず吊られたまま小さく呻くのみだった
「茨木華扇つったか……ブルったか?え?おい?この俺を舐めてただろ?これは当然の結果だ、俺をその辺の人間と一緒にするからだ」
「俺はあんなのとは全然違う、命を左右出来る力を持った選ばれた者なんだよ」
華扇を揺さぶる男の気が昂っていく
「お前等はその俺を怒らせた!勘違いしやがって!己の為だけに使う力は弱い?煩悩を祓うだぁ?……後悔しろ!生殺与奪の力を持つ俺に説教した事をな!!」
華扇の顔を目掛け腕が構えられた
バキィッ!
突然、男に木が襲いかかった
「その理屈でいくと……」
華扇を放して飛び退いた男に向かって現れる一人の影
「今、この場で一等生殺与奪の力を持つのは私って事になるねぇ」
「萃……香……」
ボロボロの華扇に萃香はニヤリと笑った
「……何なんだよテメェはよぉー!」
邪魔をされてイラついた男が睨む
「!……何だいこの人間?いい事言ってると思ったけど人を外見で見る事も出来ない阿呆か」
やれやれと呆れながら萃香は酒を一口飲む
「見た目で強さを測るなんてのは子どもでも出来る必要最低限の能力……どんだけ墓の手前で生きてんだいお前、私はお前なんぞ今すぐここで殺せる……その私にそんな物言いはないだろうよ」
見た目は幼女にしか見えない萃香はヘラヘラ笑いながら華扇に寄って屈んだ
「久し振りだね華扇、息災かい?」
「見ればわかるでしょ……」
「ハッハー!そうだね悪かった、にしてもなんであんなのにやられてんの?本気出せばあんなのちょちょいのちょいだろ?」
「……約束したのよ、立派な仙人になるって……だからあの力は使わないと決めたのよ」
「ふーん……」
萃香は立ち上がる
「約束ね……なるほど、そりゃ守らないといけないもんだ、よしよし……」
納得すると男へ向いた
「選手交替!私が相手してやるよ坊主!」
宣言して前へ出る
「ちょっと……萃香……!」
いくらなんでもそれはと抗議する華扇に萃香は立ち止まり一言言った
「約束ってのは大事なもんなのさ……相手との繋がり、絆の形なのさ、それを守ろうとするあんたはとても気高い、だけど死にかけてるのを見たら私としちゃ見過ごせないのさ……まぁ任せときな」
萃香は男の前へ立った
「オラ来な坊主、じゃれて欲しいんだろ?優しく撫でてやるよ」
指でチョイチョイと語る萃香に男の顔が歪む
「随分舐めてくれるじゃねぇか……ああ!?」
「猛ってんねぇ……歪みかけてた性根が借りた鬼の力に歪みきったか、見た目も鬼だし狂鬼ってとこかい」
凄味にも一切動じない
「なぁ坊主……」
全くの気後れどころか余裕を見せながら酒を飲む萃香は問う
「鬼は何故強いと思う?」
「あー?」
訳のわからない事をと適当に返す男に萃香は言った
「元々強いからさ」
瓢を華扇に向かって投げる
「お前は元々が弱っちぃからそんな醜い姿になるまで狂わなきゃならない」
涼しい顔で告げると早く来いと言うようにまたチョイチョイと指で促した
「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!!」
殺意すら込め萃香に全力で殴りかかった
ドンッ!!
轟音が鳴り響いたそこには陥没した大地
「私はその強い鬼の中でも鍛えに鍛えた鬼の頂、そう最強の鬼なのさ……お前程度のハナタレ坊主が敵う相手じゃあない」
立ち、雄弁に語るのは萃香
「ア……ガ……」
倒れ、呻くのは男
「まっ、つまりだ……舐めるにも値してないってこったよ」
萃香は一撃で殴り倒したのだ
「ッ……!?」
あまりの結果に言葉が出ない華扇
「終わったよ~」
またヘラヘラしながら華扇へ向いて笑った
「強くなり過ぎじゃない……?」
「あんたが居なかった間に色々あったからねぇ」
華扇から瓢を受け取ると木々の間から勇儀が出てきた
「捕まえて来たよ」
「放せよ勇儀姉ぇ!」
捕まえられた青年が暴れるが拳骨を食らわせられるとしゅんとして大人しくなった
「やっぱりあんたの仕業だったのかい絶鬼」
青年を萃香と勇儀は知っている様だ
「……誰?鬼なのはわかるけど……」
だが華扇は知らなかった、絶鬼と呼ばれる青年は酷いよ華扇姉ぇと落ち込む
「あん?誰って絶鬼だよ、あんたも会った事あるだろ?」
「知らないけど……」
「覇鬼の弟さ、本当にわからないのかい?」
「覇鬼の!?」
「そっ、鬼の四天王の一人、豪の覇鬼の弟だよ」
華扇は驚き絶鬼を見る
(そういえば昔、ちょろちょろ着いてきた子鬼が居たような……)
昔を思い出すも変わり過ぎた見た目に半信半疑
「まっ、ぶいぶい言わせてたあんたが変な仙人に会ってつるまなくなってからは会ってないだろうからわからんのも無理ないか」
そう言うと萃香は萎れている絶鬼に向く
「なんでこんな事したんだい?」
「それは……」
絶鬼は観念して理由を話しだした
「覇鬼兄さんが人間に封印されたから助けに行く為に四天王の皆に協力して貰おうとここに来たんだ……でも始めに華扇姉ぇを見つけたんだけど人間を弟子にするなんて甘っちょろい事言って幻滅しちゃって……それで昔の華扇姉ぇに戻す為にそいつを殺してもらう為に手を貸したんだ」
絶鬼は鬼の四天王の一人、覇鬼と呼ばれる地獄の鬼の弟だった
彼は人間に兄が封印された事を知り助ける助力を得る為に幻想郷にやって来たのだった
「覇鬼を助ける為ね……理由はわかったからさっさとそいつを戻しな」
萃香に言われ絶鬼は男に埋めた角を取り除き人間に戻した
「教えといてやるよ坊主……」
男に萃香は言う
「人の強さは一点のみに非ず」
生きた内に知った持論とも敬意とも言うべき想い
「お前の言う強さは確かに間違っちゃいない、強さに他人を想いやるやらなんてのは強さには関係無いかもしれんさ……」
「でも人間ってのは力の強さだけで生きれるほど強くない、いずれ正気を失ってさっきみたいな妖怪になっちまう」
人間の弱さと強さをよく知っているからこそ出る言葉
「他人を想うじゃなくてもいい、行儀良く食べるとかそんなのでも何でもいい、要は不純物……枷を背負うのさ」
圧倒的な高みからの言葉は男を素直に聞かせる
「それが強さの邪魔になるとしても敢えて背負うのさ、それが人間さ……でも続けていりゃあ、それはいずれ己の中で不純物じゃあなくなる」
そう言って萃香は笑う
「妹紅と魔理沙がいい例さ、あいつらは人間なのに頂点なんて言われるくらい強いだろ?背負ってんのさあいつらも……皆を守るって枷をね、だから強い!純粋になったそれは枷ではなくなり、強さをより高める糧にしたのさ!だからあんなに強い!」
男の肩にそっと手を置く
「化物を倒すのはいつだって人間なのさ……その人間のお前がこっちに来るな、化物になっちまった人間の末路なんてろくなもんじゃない、人間として強くなりな」
「……わかり……ました……!」
力の有り様を諭され、男は過ちを理解し、深く後悔し
夜の騒動は終わりを告げた
「よし!じゃあ次はお仕置きだ!」
萃香が腕をブンブン回しながら絶鬼に近付く
「ちょ!?待ってよ萃香姉ぇ!良い感じで終わってたよね!?なんでお仕置きなんだよ!?」
「あんたは幻想郷に迷惑を掛けたんだ、私のシマを荒らしたってさ……姉貴分としてお仕置きは当然だろう?」
「ままま……待って!?」
「歯ぁ食い縛りなぁ!」
「ふぎゃーーーー!!?」
紅魔館
「ウェーーーイ!!」
そこでは宴会が開かれていた
「へいへいバーンあんたコラァ!この力の勇儀様を雑魚扱いとは調子乗り過ぎたねぇ!酔い潰してその綺麗な顔に落書きしてやるから覚悟しなぁ!」
「言った覚えはないが……まぁよい、受けてやろう勇儀、果たして余を潰す事が出来るかな?」
頂点等8人と紅魔館の住人、そして萃香等鬼や男を加えた小さな宴会
「あれが噂に聞く大魔王バーン……」
華扇が酒の入った枡に口をつけながらバーンを見つめている
魔帝異変の時には居たので存在は知っていたが見るのは初めて、なのでとても興味深そうに見ている
「飲んでるか~華扇~!」
いつも出来上がっているが更に出来上がった萃香が抱き付く
「バーンに説教はやめときなよ~焼かれるよ~」
「しないわよ」
「結構結構!よし!それじゃ御開帳~!」
萃香が華扇の頭にあるシニョンキャップを取った
「きゃああああ!!?何やってんの萃香ー!!」
慌てて頭を押さえようとするが萃香が阻止する
「さぁさぁ見なされ!これぞ鬼の四天王の一人!恐の華扇の角な~り~!」
頭から生える双角が衆目に晒された
「やっぱそんな感じだったのか」
「あっそ」
「ふーん」
「へー」
「ほーん」
「これ美味しいねチルノちゃん!」
「そうね大ちゃん!」
ウケは悪かった
「早くシニョン返して!せっかく隠し通してきたのに私が鬼だってバレちゃうじゃない!」
萃香を振り払いシニョンキャップを装備する
「昔はあんなに凄かったのにねぇ……狂った様に近付くもん全部ぶち壊して一番恐れられてた四天王一の暴れん坊が随分とまぁ丸くなったもんだよ」
「何を根も葉も無い事を!貴方は黙っていなさい!」
鬼殺しを無理矢理飲ませて萃香を黙らせる
「皆さんこんなへべれけの言う事など気にしてはなりません、私が鬼だなんてそんな事があろう筈がございません」
ニコッと笑って誤魔化した
(何言ってんだこいつ……)
(バレてないと思ってるのかしら?)
(変な鬼だなー)
(それはひょっとしてギャグのつもりなのかしら?)
(バカか?こいつ……)
「大ちゃん!あそこにバカが居る~!」
「そうだね!チルノちゃんと似てるね!」
「え?大ちゃん今なんて……」
「なんでもないよチルノちゃん!」
楽しく飲んでいると連れて来られていた絶鬼が萃香に聞いた
「ねぇ萃香姉ぇ?覇鬼兄さんを助ける事なんだけど……」
「あん?知らんよあんな単細胞」
「えぇ!?……華扇姉ぇは?」
「私もパスです」
「そんな……じゃあ勇儀姉ぇ……?」
「あたしもパス~マヌケを助ける義理は無いよ~」
「~~ッ!?もういいよ!僕が兄さんを助けるから!」
絶鬼は泣きながら紅魔館から、幻想郷から出ていった、隣で飲んでた美鈴が私のお婿さんが~と言っていたが誰も気にしない
「良いのか?」
「良いも悪いも無いよ、鬼の癖に助けを求める性根が気に食わないのさ、それに覇鬼も誇り高い鬼の一人なんだ、私等が助けたら恥になる……あいつがなんとかする事さ」
「そっか、ならもう言わないよ」
「それより飲め!なんなら口移ししてやろうか?」
「やめろツルペタ」
「誰がツルペタだクラァ!!」
楽しい宴会は夜中まで続けられた
紅魔館・バルコニー
「酒が美味いねぇ……」
宴会も終わり、皆が寝静まった静かな紅魔館のバルコニーで一人、萃香は酒を飲む
「ここに居たのね萃香」
横に並んだのは華扇
「……結局、貴方に良い所全部持ってかれちゃったわね」
華扇が言うのは男との勝負の事、自分で解決出来なかった申しわけなさが滲んでいた
「そうでもないよ」
萃香が指を差すと物陰から男が現れた
「……俺を弟子にしてくれないか?」
頭を下げて頼み込む男を見て華扇は萃香を見る
「馬鹿……あんたに言ってんだよ」
「えっ……」
驚いた華扇が男に振り返る
「そうだ、俺を導こうとしてくれたあんたの弟子になりたいんだ」
「しかし……」
動揺している華扇、自分は何もしてないのにそう言われるのに戸惑う
「そいつはわかってんだよ、本当に自分の事を想ってくれてたのはあんただって……私は殴っただけさ」
「それに適任はあんただよ、私にそんなのは性に合わんしする気も無い」
そう言って微笑む萃香に華扇は複雑ながら男へ言った
「わかりました、明日から私の所へ来なさい、しっかりと鍛えてあげます」
「わかりました華扇様!では荷物を纏めて来ます!」
許可された男は嬉しそうに紅魔館を出ていった
「ねぇ華扇……?」
「なに?」
「腕は見つかったのかい?」
「あー……萃香?私が外の世界に行ってたのは腕を探す為じゃなくて本当は師叔を探しに行ってたのよ」
「師叔?……あ!もしかしてあんたが消える前に会ってた仙人かい?確か太公望だか言う変な服の!」
「そう……私は昔、あの人に負けて諭されたの、それで無理矢理弟子入りして約束したのよ……立派な仙人になって師叔に会いに行くって……見つからなかったけどね」
「へー……それでお出掛けしてたのかい、頑張ってんだねぇ」
「怒らないの?鬼を否定してるのに……」
「なんで?あんたの選んだ道だろ?そら尊重するさ」
「……ありがと」
「気にしなさんな、鬼をやめようと華扇は華扇なんだ、私のツレのね」
「……ねぇ萃香?」
「ん?」
「貴方……彼に言ったわよね?枷を背負うって……そんなに強い萃香は背負ってるの?背負ってるのだとすれば何を……」
「ああ……」
月を見上げて萃香は答えた
「好きなんだよ、今の幻想郷がね……」
萃香の背負う物
「皆が笑って酒を飲めるこの楽しい日々をいつまでも続けたいのさ」
それは今の幻想郷
自由に笑って楽しく過ごせるこの幻想郷が大好きだからその為に萃香は好きで背負うのだ
「春には夜桜、夏には星、秋に満月、冬には雪……それで十分酒は美味い……そこに友の笑顔が入れば、それは何よりも美味い最高の酒になるのさ」
この儚くも素晴らしい幻想を終わらせたくないから……
「萃香らしいわね」
「私はいつだって自分の好きな様にするだけさ」
鬼が織り成す月下の
「霧の萃香……良い名前じゃない」
「だろう?私の最高の仲間がくれた……盟友の名前だからね」
深々と幻想郷に溶けていった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日も霧の鬼は生きる
「今日はどうしようかねぇ」
好きな幻想郷を好きに漂う
「ちょいと待たれいそこなる
「ほぅ、霧になってる私を見れて尚且つ生娘と見抜くとは!デフォルメされたへんちくりんな見た目の割りにやるじゃないか」
「字がちゃうわダアホ!」
風の向くまま
「ここに茨木華扇なる者が居るらしいのだが知らんかのう?」
「華扇なら妖怪の山にある家で弟子を修行中と思うよ」
「かたじけないのう……礼と言ってはなんだがお主の行く末を占ってしんぜよう」
空に浮かぶ雲の様に
「いらんよ、私の道に標は必要無い」
「そうか……要らんか、標は……」
自由に生きる
「それでよい……ではな霧の鬼よ」
「……あんた名前はなんて言うんだい?」
「王奕……呂望……太公望……王天君……伏羲とも言うのう……どれもわしじゃから好きなのを覚えておくがいい」
「太公望……?あぁ思い出した、あんたが華扇の……」
彼女の名は伊吹萃香、不羈奔放の鬼、そして……
「今日も楽しくなりそうだねぇ」
無限を愛する霧の鬼
ぬ~べ~が幻想入り……じゃなくぬ~べ~の鬼が幻想入り。
そして太公望の幻想入り……
平和になってツルペタ腐れ酒乱になっちゃった最近だらしない萃香だけどやる時は格好良いんだぞー!ってのを書きたかったのです。
ついでに鬼の四天王の最後の一人を捏造しちゃいましたがね……
ちなみに萃香のワンパンはルフィがべラミーを一撃で倒した時の感じです。
萃香の台詞成分には花の慶次の前田慶次が入ってますが私的に喋らせやすいキャラだったので基本的には普通です。
次は8人の短編になりますがもしかしたらこの話は大幅に変わるかもしれません、なーんかしっくり来ない気がするので……
次回も頑張ります!