忘れられない言葉がある
誰かが言ってたのか何かで見たのかもう忘れてしまったけど……確かに心に残ってる言葉
「この世に悪があるとすれば、それは人の心だ」
って言葉……
今ならよくわかる……
でも……
それでも私は信じていたいんだ……
翌朝 紅魔館・図書館
「妹紅さん遅いね……」
「ホントよ、早く来なさいよね!」
図書館にはいつものメンバーが既に集まっていた
「凄いのってなんなのチルノちゃん?教えてよ~」
「妹紅が来てからのお楽しみよ!早く来なさいよね妹紅ー!」
「見たら絶対ビックリするから大ちゃん!」
陽気に待つ皆
「悪い悪い、寝坊しちゃって……」
そこへ妹紅がやってきた
「……え?」
大妖精が妹紅の抱えた赤ん坊を見て固まった
「なんでこの子が居るんですか!?」
表情険しく問い詰める
「知ってるのか大妖精……?」
「いいから答えてください!」
余りの迫力に気圧された妹紅が話そうとした直後、新たに飛び込んできた者の声が引き裂いた
「大変です先生!皆さん!!」
飛び込んできたのはレティ、かなり急いだらしく息があがっている
「どうしたのレティ?」
パチュリーが問うと息を話せる程度まで落ち着けたレティが叫んだ
「人里が襲われました!!」
衝撃が8人に走る、幼い3人は当然驚愕し、普段冷静なパチュリー、レミリアですら目を見開く
「……」
そしてバーンも本を読む手が止まり眉をひそめる
「何が……」
座っていた魔理沙が立ち上がりレティへ叫ぶ
「何があった!!」
それより先に妹紅が叫んだ
「何で里が襲われるんだ!?慧音は……皆は無事なのか!?」
安否が気になる妹紅にレティはいい辛そうに視線を逸らす
「里は……滅茶苦茶になってます、重傷者がたくさんいて行方不明者が数人……死人も出てます……それで……上白沢さんは……」
「まさか!?」
「いえ!死んではいません!……ですが、一番酷くやられていて意識が……今は八意先生が診ています」
「……クソォ!!」
怒声をあげた妹紅は赤ん坊を大妖精に差し出す
「見ててくれ!」
大妖精が受け取ると妹紅は脇目も振らず急いで里へと向かって行った
「私も行くぜ!」
魔理沙も飛び立つのに合わせてチルノとフランも続く
「私も行きます!」
赤ん坊をパチュリーに渡した大妖精も浮かぶ
「わかったぜ、ついでに途中であの赤ん坊の事教えてくれ……パチュリー!レミリア!」
「わかってるわ、すぐに各場所へ連絡しておく」
「よし……バーン!」
「……なんだ?」
「もしもの時は……悪いけど頼むぜ」
「……考えておく」
4人は紅魔館を出ていった
人間の里
「慧音!?」
ベッドに寝ている慧音は全身を包帯で巻かれていて一見では判別出来ない程だった
「……妹……紅……」
包帯で半分しか見えない目を慧音は開いた
「一命は取り止めたわ、意識を戻したのもついさっき……」
現れた永琳が妹紅に言う
「妹紅……すま……ない……な……」
心配で泣きそうな妹紅に慧音は満足に喋れない声で言う
「人間……を……守って……やれなかった……すま……ない……」
涙を流しながらそれは言われた
それは九死に一生を得た者が見舞いに来た者に言う言葉ではない
でも言わなければならなかった
それが慧音にとって使命であり、そして信じてくれた友である妹紅の願いでもあったから……
「……バカ……なに言ってんだ慧音……なんでお前が謝るんだよ……」
今にも泣きそうな顔で妹紅は言う
「謝るのは私だ……お前が……里の皆が危ない時に行けなくて……ごめん……」
優しく、そして強く手を握る
「……」
それに安心したのか慧音の口元が緩み、また目は閉じられた
「……永琳、里の皆は?」
「今は命蓮寺の人達が来てくれて手当てを助けてくれてる、危ない患者はまだ居るから私はもう行かないと……」
「わかった……頼む」
永琳が出ていくと慧音を一瞥して妹紅も出ていった
「……」
妹紅はある場所を歩いていた
里の隅に並べられた人間だった者達の亡骸
今も一人、また一人と並べられている
「!……ッッ!?」
その中である者を見つけて歯を噛み締める
「クソォ……!!」
それは昨日、握手した少女だった
(こんな……こんな事って……)
堪らない無力感が全身を襲う
もう世界樹の葉は無い、まだ苗木である世界樹が使える様になるのは数百年も先の話……もう生き返れないのだ
「藤原妹紅さん……?」
掛けられた声に顔を上げ、女性に虚ろな瞳を向ける
「ああ、やっぱり……良かったね、妹紅さんが来てくれたわよ」
女性は少し嬉しそうに少女の前に屈む
「母です……この子の……」
手を合わせ拝みながら母は言う
「前からこの子は言ってました……妹紅さんみたいになりたい、妹紅さんみたいな勇気ある人になりたい……って……」
合わせる手が震える
「……この子が助けてくれたんです、襲われている私を庇って……」
その目からは涙が流れている
「せっかく妹紅さんみたいになれたのに……その結果がこれなんて……あんまりですよ……」
妹紅は何も言えない、罪こそ無いが自分の存在が一人の少女を死に向かわせたのも同然だったから
「でも……貴方を恨む気はまったく無いんですよ?」
母は言う
「だって……こんなに素晴らしい、誇れる子になってくれたんですから……」
動かない手を握りながら妹紅に言う
「褒めてやってください、大好きな貴方に褒められたら……この子の魂も……きっと満足して空に昇って行けると思うから……」
「……わかった」
母親の代わりに手を握る妹紅は少女に向けて言う
「勇気を出してよくお母さんを守ったな……偉いよ」
「ありがとう……ございます……!」
娘に抱きつき咽び泣く母親をこれ以上見れなくて、妹紅はその場を静かに離れていくしか出来なかった
「妹紅!」
後から来た魔理沙達が駆け寄る
「慧音は無事だったんだな、よかったぜ」
「……うん」
妹紅は空返事を返す
「酷い有り様だ……一体どこのどいつが……」
「絶対許さない!」
「落とし前はつけさせて貰うぞクズ共が……っと、絶対逃がさない!」
「……ッ!?」
魔理沙は憂い、チルノとフランは怒り、大妖精は心を痛める
異なる感情を出していたが一様に思う事は1つ、許せない……だった
「ああ、そうだ妹紅、こんな時にアレだけどよ……赤ん坊の母親の事がわかった」
「……それで?」
「大妖精が会ってたみたいなんだ、絶対に子どもを捨てる人じゃないらしい……また説明すると面倒だから省くけどどうやらここを襲ったのと同じ奴等に追われてたみたいだぜ、多分……どうしようもなくて仕方なくお前の家に隠したんだと思う」
「そう……か……」
悲劇が重なり、沸き立つ感情を無理矢理抑えていた妹紅は渇いた返事しか返せなかったが赤ん坊の母親が幻想郷に居る事を知れてほんの少しだが安堵する
「何があったんだいこいつは……」
だがそれは萃香と幽香が持ってきた者によって無惨に引き裂かれる事になる
「あ……え……?」
萃香が抱えていたもう動かない者を見た大妖精の顔が青冷めた
「そんな……嘘……」
よろよろと近付いた大妖精が触れる
「どうして……」
冷たい肌の感触、もう温もりが戻らない事を痛烈に感じさせ、力が抜けた様にその場にへたり込んでしまう
「……その人を知ってるのか?」
妹紅が問う
「お母さんです……あの子の……」
「……!!」
聞いた妹紅は言葉が出なかった
赤ん坊の母親を探そうとして、でもすぐに見つかって……だが死んでいたのだから……
「……これ、あんたにじゃないかい?」
萃香はくしゃくしゃになっていた1枚の紙を大妖精に手渡す
「……!」
見た大妖精が体を震わせる
--大ちゃんへ
お別れ出来なくてゴメンね、また必ずここに
来るから、またあの場所で会いましょうね。
いつになるかわからないから手紙でだけど、
私と娘の名前を教えとくわね。
私はローラ、昔にね、私の世界のとっても悪い
竜の王様を倒した勇者が救ったお姫様の名前か
ら取ったんだって、遠縁だけど私の御先祖様ら
しいの!スゴいでしょ?
それで娘は…………
--
手紙はそこで終わっていた
おそらく書いている途中で追手に気付き、持ってきてしまったのだろう
「起きてくださいよローラさん……あの子には貴方が必要なんですよ……?一人になんてさせたらダメじゃないですか……ね?お母さん……」
話しかけても返事がない事が辛くて母親を揺さぶる
「起きて……くださいよ……」
そのまま泣き崩れてしまった
「大妖精……」
見ている事しか出来ない妹紅達、何かを言ってやりたいが何を言えばいいかわからない
……ポトッ
その時、揺らされた反動で母親の手が開き、何かが落ちた
「指輪……」
拾い上げたそれは指輪だった、妹紅は知らないが母親・ローラが大妖精に宝物だと言った物
絶対に渡さないと握り締めていた手が顔馴染み故なのか大妖精に触れられて緩んでしまったのだ
「もしかしてそれのせいでこいつは……」
魔理沙の言葉に妹紅は指輪をぎゅっと握り締めるだけで何も返さない
「……先に戻ってる」
「あ……待てよ妹紅……」
そう言って飛んでいった妹紅を追いかける様に大妖精を連れて紅魔館へ向かった
紅魔館・図書館
「生き残りの証言と大妖精の話から情報を纏めると敵は「カンダタ盗賊団」と呼ばれる外来人の集団である可能性が高い」
「法の外で生きる無法者共……そいつ等を知っていたロランって剣士に詳しい話を聞こうとさっき咲夜を使いを出したけど居なかったらしいわ」
戻って来た5人にパチュリーとレミリアは言う
「……それでそいつらは今どこに居るんだ?」
「現在目下捜索中……文が指揮をして鴉天狗と白狼天狗達で探しているわ、見つけたらすぐに連絡をくれると言ってたから下手に動かず待ってなさい」
「チッ……わかったぜ」
魔理沙は舌打ちする程もどかしく腹立たしい、待ってられない理由があったからだ
「悪い妹紅、実は前にそいつらっぽいのに襲われたんだ……あの時、私が危機感を持ってたらこんな事にならなかったかもしれないのによ……悪い」
自分の慢心で里が襲われ、友の心に傷を付けた事に責任を感じているのだ
「……実はあたしもこの前のパーティーの時に盗みに入った奴等を倒したの……今思えばあいつ等も同じ……妹紅ごめん」
「それを言うなら私とレティが倒したのもきっとそうね……」
フランとパチュリーも苦い顔をしている
「ごめん……妹紅……」
あのチルノですら何も言わず謝る
「……気にするなって、こんな事になるなんて誰にもわからないんだ」
それほどまでに……
「だから……気にしないでくれ……」
冷めた目をしていた妹紅が怖かったから……
「……少し風に当たってくる、何かわかったら教えてくれ」
返事も聞かず図書館を出ていった
「大丈夫かな妹紅……」
フランが呟きながら出ていった妹紅の跡を見つめる
「あいつからしたら妖怪も人間も守る対象なんだろうけど、あいつは蓬莱人だった元人間だったからな……人間に強い愛情みたいなのがある、それが知らない間にあんな事になったんだ……今は怒りを必死に押さえてるんだろうな」
魔理沙はもう長い付き合いだからわかるのだ、妹紅の人間に対する特別な想いを
「それは間違ってないけど……それだけなら妹紅は大炎の如く怒るだけよ、あれはもう1つ理由があるのだと思うわ」
複雑な心境を察したレミリアは魔理沙の目での促しに答えた
「今回の相手が人間だから……それも誰かに操られているわけでもない、人間が己の意思で人間を襲ったのよ、妹紅からすれば裏切りにも感じられるでしょうね」
「……あー……なるほどなぁ」
確かにと納得してしまう魔理沙
「あいつは誰にでも優しい……けどなまじ力が有って、人間ってのに後悔と負い目があったから人間を特に愛した……呆れ果てる程優しい生き方だぜ」
「だから余計に辛いのよ、種の愛はそういった矛盾を多分に孕んだ危険な愛……推奨は出来ない生き方ね」
ふと魔理沙はレミリアに向けて笑う
「でも止めないんだな」
対してレミリアも笑う
「それが私の誇る親愛なる友人、藤原妹紅の決めた生き方だからね」
自分達では何も言ってやれない、でも崩れそうならその時は必ず支える、だから今回は妹紅の好きにさせてやろう
言わずとも勝手に6人は心に決めたのだった
「……先に言っておく」
話に一切参加しなかったバーンが突然口を開いた
「今回の異変……いや事件、余は手を貸さん、お前達でなんとかするのだな」
言うと立ち上がって図書館を出ていこうとする
「理由聞いといて良いか?なんとなくわかるけど一応な?」
軽く魔理沙が問うとバーンは足を止め、呟いた
「余も同類だったからだ」
そしてまた歩きだし、図書館から出ていった
「了解だぜバーン、まぁそんなとこだろうと思ったけどよ」
「始めから気が無かったからね、別に良いわ……」
レミリアは眼光鋭く頬杖をつく
ブゥン……
「その通り……」
空間を裂き、スキマから紫が姿を現した
「鎮魂の灯明は我々こそが灯すべきもの、亡き同胞達の魂で、我等は復讐の女神となる……幻想の裁きのもと、七天の剣で奴等の顎を喰い千切りなさい」
その怒りの顔をバーンの扇子で隠し、紫は言い放つ
「フンッ……愛する民とやらを蔑ろにしていた奴が偉そうにものを言うな」
それに不機嫌なレミリアが返す
「それについては私の責でもあるから謝るわ、たかが人の盗賊団と軽く見ていた……」
「まぁいい、私達も似た様なものだからな……で?場所はわかったのか?」
「ええ……」
6人は紫から報告を聞き、待つことにした
最後の一人を……
紅魔館・バルコニー
「……」
妹紅はそこに居た
どうしていいかわからない感情が酷く彼女を落ち込ませる
「人間が人間を襲ったそうだな……」
そんな妹紅に横に並んだバーンが言う
「なんで……なんで人間同士でこんな事になるんだ、同じ人間なのに……」
悔しさで持っていた手摺に力が入る
「人間だからだ」
バーンは答える
「そういう生き物なのだ人間とは……むしろ、奴等の方がより人間らしいと言える」
「あんな事をした奴等の方が人間らしいだって……!?」
「奴等は好きに生きているだけだ、何にも縛られず、欲のままに好きな事をする……お前も覚えがあろう?」
「……ッ!?」
妹紅はあの時を思い出す
エスタークとの決戦前日に大挙して現れ、欲をぶつけられたあの時の事を
「法とは所詮、人間が決めた規範に過ぎん、奴等は法と言う箱庭から抜け出し、人間らしく自由に生きる事を選んだのだ」
「……最低だな人間って」
力が抜けた妹紅は言う
「これがエスタークの言っていた人間の闇なんだな、わかってたつもりだったけど……さすがにキツイ」
「……人間が嫌になったか?」
問われた妹紅は少し考えた後、答えた
「ならないよ」
確かな意思を持って
「人間は酷い事をする奴も居る……だけど、それ以上に良い奴だってたくさん居るから……」
人間の闇を見て、それでも妹紅は好きだと言った
「だから……守ってやりたかった……せめて幻想郷の人間くらいは……私が……」
それだけに悔しくて堪らない、自分は無力と現実を叩きつけられているから
「せめて幻想郷の人間くらいは……か」
バーンは呆れた様に鼻で笑った
「お前のそれは絵空事に過ぎん」
そしてハッキリと告げる
無理だと
「そんな事は神はおろか、余にも出来ん事……お前ごときではどんなに強くなろうがどだい無理な話なのだ」
妹紅の言うそれはただの理想と願望
いつ何時も人間を守る
そんな事が出来る筈がない、どんなに強くなろうと、幻想郷で頂点と呼ばれようが人間である以上限界がある
だからバーンはこの際にハッキリと言ったのだ
理想に心を痛める事をやめて欲しくて……
「そうだよ!馬鹿な少女が有り得ない理想を夢見ているだけなんだ!」
妹紅が感情的に叫ぶ
「でも!!だからこそ現実にしたいんだよ!どんな絵空事だって笑われても!私がそうしたいって思ったから!!」
妹紅もそれはわかっている
だけどやめたくないのだ
「身の程を知れ……お前の翼は全てを包めるほど大きくはない、身の丈を越えた願いは己を滅ぼすだけだ」
「うるせぇ!!」
慟哭にも感じられる叫びが紅魔館に響く
「わかってるよそれも!!」
前に勇儀にも萃香にも言われた事だ、忘れている筈がない
「いけないのかよ!?そう思う事がいけない事なのかよ!!」
それでも妹紅は願うのだ
どんなに非現実でも、妖怪と一緒に大好きな人間を守りたかったから
理屈ではない、それが妹紅の魂が望んだ生き方だったから
「もし……もしそれが出来るなら……」
まるで消え入る様な顔で
「私は……私の生涯は……」
妹紅は言う
「それだけでいい……」
自分の命を懸けて……
「怒鳴って悪かった……行くよ」
謝った妹紅が図書館に戻ろうと背を向ける
「構わん……それよりも、あやつらには言ったが今回、余は手を貸さん……お前達の好きにするがいい」
「そっか、理由は……大魔王だったから……だろ?」
「そういう事だ、裁く権利は余には無い」
「バーン……お前って何でも理屈ばっかりだな」
「……何が言いたい?」
「いや、たまには良いんじゃないかって思ったんだよ、理屈じゃなくて……自分の思う様に、自分の心が思うままに……ってな」
「子どもの様な事を言うな、一時の感情で動かない……それが大人と言うものだ」
「ハッ……なら私は子どもか……ハハッ……そっか……」
妹紅は苦笑した後、その顔を静かに戻す
「だったら私は子どもでいいさ」
図書館へ戻っていった
「……」
椅子に腰掛けるバーン
「たまには思うままに……か……」
静かに目を閉じ、考えるのであった
図書館
「妹紅!」
戻ってきた妹紅にチルノが声を掛ける
「……」
だが妹紅は何も言わず真っ直ぐにある場所に向かった
「……」
赤ん坊の居る場所、今は眠っている
「……」
妹紅はローラの指輪を取りだし、赤ん坊に握らせた
「……!」
妹紅は確かに見た
指輪を握った赤ん坊の閉じた目から流れる……
「……ッ!?」
涙を……
母親が死んでいるなんて赤ん坊が知っている筈がないしわかるわけがない、なのに涙を流したのだ
きっと指輪から感じたのだろう
もう母親は居ないのだと……
「……!!」
拳が握られる
赤ん坊が理解したかなんて事はわからないがこれだけはわかる
「許せない……!」
悲しみを炎に変え
怒りの皇帝不死鳥は顔を上げる
「場所は無縁塚、ムンドゥスの封印跡の近くに潜んでいるらしいわ、今は文が見張っている」
「わかった」
紫の報告に次は大妖精に向いた
「大妖精、辛いだろ?お前は今回は来なくていい、だから悪いけどこいつを見といてくれないか?」
「……わかりました、任せてください」
ショックを受けている大妖精を気遣い赤ん坊を任せると妹紅は図書館を出ていく
「咲夜!美鈴!」
レミリアが二人を呼ぶ
「あの赤ん坊に指一本……いや、紅魔館に誰一人として侵入させるな!一歩でも入られてみろ……その首無いと思え」
「「わかりましたお嬢様」」
命令を下すと妹紅の後へ続く
「ウォルターも任せたよ!」
「かしこまりました、お気をつけくださいフランドールお嬢様」
フランも続く
「私等も行くかねパチュリ―、チルノ」
「ええ、行きましょう」
「了解!」
「私も行きます!」
魔理沙、パチュリ―、チルノ、レティも続く
皇帝不死鳥の篝火に連なり
幻想郷の頂点達が今、出陣した
無縁塚
「さっさと戦利品の整理を終わらせろ、終わり次第人質を連れて博麗神社って所に向かってアレフガルドに帰るぞ」
頭である大男・カンダタが支度を急がせる
「チッ……あの指輪を追っていつの間にかこんな辺鄙な所に迷い混んだってのに結局無駄足な上に部下を何人も失った……」
腹が立つ所だと思いながらカンダタは奪った戦利品を眺める
(まぁいい、代わりにアレフガルドには無い珍しい物が手に入った、高く売れるだろう)
卑しい笑みを見せた時だった
「お前等か……里を襲ったのは」
無縁塚の空から少女が降り立った
「なんだテメェは!?」
部下の団員達が威勢良く怒鳴る
「雑魚は黙っていろ」
だがそれは次いで降り立ったレミリア達6人と紫によって黙らされた
「敵討ちか……ハッ、悔しくて仕方ないってか……そうだ、俺達が里を襲った」
そうだとカンダタは言う
「何の為にだ……」
「生きる為だ」
何の悪びれも無くカンダタは言う
「俺達が生きる為の糧になっただけの話だ、お前達の里の奴等にしても、俺達が今まで襲った奴等にしてもな」
「……あの赤ん坊の母親をやったのもお前等か?」
薄ら笑いすら始めてカンダタは言う
「ああ、そうだ……あの女の指輪が欲しかったんだ、稀少な宝石が使われていてな、高く買ってくれる富豪に売り付けるつもりだった」
「金の為に……だと!」
金、たったそれだけの為にあの赤ん坊の母親の村を襲い、殺したと言う
「そんな事の為に……同じ人間を殺したのか!?」
「ククッ……そうだ、金の為だ、所詮この世は弱肉強食……弱い者が強い者の糧になるのは当然の摂理だ、違うか?」
「この……人で無しがぁぁ!!」
怒声を浴びせる妹紅、しかしカンダタの笑みは崩れない
「いきり立ってるのは良いがこっちには人質が居るんだぜ?」
博麗神社の巫女と交渉する為に捕らえた人質を指差す
「2、3人ぐらいぶっ殺してやろうか?ん?」
ニヤニヤと妹紅を挑発する
ブゥン……
だがそれは妹紅の背後で裂けたスキマの音によって不発に終わる
「……」
人質を救出し、里に送った幻想郷の管理者である紫は口元で扇子を開き、静かに佇む
「魔法か何かの類か……やるな、だがそれがどうした?ならお前等を人質にするだけの事だ、見たとこお前等の方が人質としての価値がありそうだしな」
笑みこそ消えたが余裕は消えない
カンダタは合図を出すと妹紅達を大勢の団員が囲む
「ヒヒヒ……」
その中の一人が下卑た顔で妹紅に近付いてくる
「……」
妹紅は静かに目を閉じる
(慧音……)
涙を流した大事な友人を想う
(皆……)
自分に優しくしてくれた人間の無念、そして慕ってくれた少女の無念、母親の涙を想う
「……」
そして最後に思うのは、無念の内に殺された赤ん坊の母親と涙を流したその赤ん坊
「こっちに来なお嬢ちゃんよ~」
瞬間……!
「こんな奴等の為に!!」
男を掴み上げ、断末魔の叫びすら上げさせずに焼き殺した妹紅は叫ぶ
「これ以上誰かの涙は見たくない!皆に笑顔でいて欲しいんだ!!」
優しき彼女はその炎を顕現させる
「だから……頼む!力を貸してくれ!幻想郷の為に!!」
一人では無理だから、だから皆の力が欲しいのだと……
「当たり前だぜ!」
その願いに友は応える
「やっちまえ!」
「カンダタァァァァァァァ!!」
もう鳴ってしまった
ならば塗り潰せ!
もう戻す事は出来ないのならば!
その音を越える曲を強く!激しく響かせて!
幻想の
不死鳥の
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これは……里が……!?何があったんだ!?」
勇者の末裔は走る
「主人!これは何があったのですか!?」
「ああ、あんたか……見ての通り襲われたんだよ、店の物は根刮ぎ奪われちまった、まぁ死ななかっただけマシか、大勢殺されちまったからなぁ……せっかく買いに来てくれたのに悪いな」
「誰がこんな事を!?」
「カンダタ盗賊団って言ってたな……聞いた話じゃ無縁塚に潜んでるらしい」
「カンダタめ……!!」
勇者は怒りに身を震わせる
「すまない主人、これは僕の責任でもあります、これぐらいしか出来ませんが復興の足しにしてください」
「足しって……あんたコレ金貨じゃないか!?こんな大金受け取れないよ!」
「良いんです、せめてもの罪滅ぼしですから……それより、その無縁塚はどちらの方角か教えてください」
「あっちだが……あんたまさか行く気か?」
「ありがとうございます、それでは!」
「おい!あんた!」
勇者は駆ける
知らずの内に
導かれる様に彼もまた……
そして……
「どうしたんですかミスト?そわそわして?」
守護神である二人は門の前で佇む
「私も行くべきかと考えている、敵は集団、一人でも多い方が良いのではないかと思ってな」
「あー……ミストは特に何も言われてませんからねぇ」
美鈴はフフッと笑った
「貴方も随分変わりましたね、命令じゃなくて自ら助けに行くなんて言って」
「あいつらはバーン様の大切な友人であられる、バーン様の為ならば当然の選択だ」
そんな話をしていた時だった
コツッ……コツッ……コツッ……
誰かが門の中から歩いてくる音が聞こえ、門がひとりでに勝手に開いた
「ミスト……留守は任せた……」
悠然と出てきたその者に瞬時にミストは頭を下げる
「ハッ!この命にかえても必ず!!」
「フッ……」
大魔王ではなくなった自分に変わらぬ忠誠を誓ってくれる仲間に今はただの男は薄く笑う
「では……行ってくる」
彼の周囲を魔力が包むと、かつて王だった者はその場から一瞬で消えた
「よし、務めを果たすぞ美鈴!」
ミストは先程より力強く佇む
「ふふふっ……私が番をするので行って来ても良いんですよ?」
美鈴は悪戯っぽく微笑む
「戯言を言うな美鈴……大魔王様の御言葉は全てに優先される……そう命じられたならば私は命を賭して使命を果たすまでだ!」
「そうですか、ではしっかりと務めを果たしましょう!」
彼もまた不死鳥の篝火に向かう……
後編になります。
短編の中に線が1つに繋がった瞬間でもありますね。
妹紅が赤ん坊の子守りをする短編……くらいにしか考えてなかったですがいざ出来るとこんな事に……長編のメインも妹紅だった……と思ってください。
妹紅の台詞成分はヒーローものからが多いです、エスタークに言った「私は死なない……」のくだりはアニメドラゴンボールの未来悟飯からだったり前作で言えばムンドゥスに言った台詞にガオガイガーの獅子王凱やサイボーグ009の島村ジョーなどがあります、妹紅は勇者属性と決めた結果なんでしょうね、バーンがドラクエ側の主人公なら妹紅は幻想郷側の主人公って感じです。
次で長いようで短かった番外編も終わります、最後に重大発表……的なのもあるかもしれません。
次回も頑張ります!