廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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「【サンダーレイン】【マナリカバリー】」

 【クロノスの鎌】の先端から紫電が迸り、下のモンスターに感電した後、周囲の【創波】が電撃に変換され暴れ出す。その範囲内に居たモンスターは電撃によって丸焦げになり、黒いモヤになり、空中に散る。

 

 アカザは【騎飛竜】の上下を元に戻し、消費した【マナ】を数秒で50%回復させる【マナリカバリー】を使用する。

 周囲の【創波】が【マナ】に変換し、蒼い粒子がアカザを包み込んでいく。先程から【魔法】スキルで消費した【マナ】の影響によって引き起こされる、風でも引いたような倦怠感がなくなる。

 

 【マナリカバリー】は3分という【クールタイム】があり、ゲームではいざと言う時や使用中の無防備さを気にして使用を控えていた。

 だが、長期戦や消耗したことによって起きる体への影響、倦怠感が出てしまい悪影響を及ぼしてしまいそうなので、積極的に使用していった方がよいとアカザは思いった。

 

 【クールタイム】には大まかに、なし、10秒以下、1分以下、3分以下、5分以下、10分以下、15分以下と分類がある。【ドラゴンソウル】は使用を解除してから15分と連続発動ができない。

 

 ただし、スキルの【スタンバイタイム】、【チャージタイム】、【クールタイム】が長いほど効力が高く設定されている【フォークロア】。

 

 積極的に使用して戦闘時間を短縮し状況を有利に進め、窮地に陥った時は厳しい戦いを強いられるか。もしくは、温存させ切り札として取ってき、そのまま使わずに腐らせるか。

 

 少なくとも【マナ】の回復手段は薬品(ポーション)でも回復できる。

 

 【騎飛竜】で【地獄門】を探していたアカザは、散発的ではあるがオーガ、オークを倒す。敵の集団に空白地帯を生み出したところで、すぐにモンスターが埋まってくので焼け石に水のような感覚がある。

 

 だが、下に居るモンスターの敵愾心と警戒心を高め何体かを自分に向かわせ、軍勢を混乱させることができる。

 

 余り移動が速すぎるとモンスターは早々に諦めるのだが、【騎飛竜】の動きを空中で止めホバリングさせたり、左右に動いてモンスターを多く引っ張り付ける(トレイン)

 

 時折、知能が低いオークが体をぶつけて、モンスター同士で喧嘩が起こったりした。

 気分はMPKのトレインをやっている気分だが、相手は同じモンスターなのでいいだろう。

 

「ちょっと! もうちょっと丁寧に跳んでよ」

 時折、下からモンスターが弓矢で遠距離攻撃を仕掛けて来たのを回避したり、アカザが攻撃するために【騎飛竜】の操縦が荒々しいことに文句を言って来るキキョウ。

 

「戦闘中にゆっくり飛んでいられる訳ないだろ」

 もう嫌だ。

 

 厄介なお荷物を積んだ状態なので、【騎飛竜】からいっその事落としてやりたいと思うアカザ。

 せめて、もう少し静かにしてほしいと心の中で思う。矢が飛んできたため回避に専念し、【騎飛竜】の操縦に意識を割いて、口から言うことはなかった。

 

 それにキキョウのことより考えることがある。

 この状況をどうするべきかアカザは下を見て考え込む。

 【地獄門】の捜索、破壊、できる限りでモンスターの討伐。

 

「お願い、もっと普通に跳んで……。吐きそう……」

 特に最後は人間である分、厄介である。いちゃもんは付けられるし、関わりたくない。

 

(スルーだ。親や他人の小言や説教を言われながらも【フォークロア】をやり続けた、俺のスルースキルはかなり高いはずだ。それを応用すれば言葉なんて無視できる)

 無視を決めたアカザは戦闘と探索に専念し、【ガンブレイド】に持ち替え【騎飛竜】の上下回転させ、モンスターに魔弾を降り注ぐ。

 

 その時、後ろから嘔吐するような音が聞こえたが、無視すると決めたので振り向かないアカザ。

 

 モンスターの大群が出てくる方向に向かい、【騎飛竜】の進路を変更させているが、未だ【地獄門】らしき物は見えない。

 そのことから頭の中に悪い想像が働き、何かしらの都合で、例えばモンスターが総出で【地獄門】を動かし地下に存在する。なんてことになったら、捜索は途轍もなく時間が掛かり状況は更に最悪となる。

 

 しかし、地下にあるとしたら、そこから出てくるための出口が在るはず。洞窟や地面からぽこりと盛り上がって出て来るといった物も見えないので、その可能性は低いと切り捨てる。

 

 地上にあるとしても、もう【シュウキゴク】の半分を見渡したはずだが、未だ発見できない。

 焦って【騎飛竜】を【ドラゴンブースト】させ、一気に空を駆け抜けようと思い浮かぶ。しかしそうなると、後方に居て囮を務めてくれているナオトラたちの負担は大きくなるだろう。

 

 【パーティウィンドウ】を見る限り、【生命力】や【スタミナ】などのゲージが変動しているが脱落者は居ない。

 ならば、支援するべきである。

 

「【リフレクトバレット】」

 弾倉に込められた【マナ】が変質し、アカザがオークに放った魔弾が反射する。そして、ピンボール弾がモンスターの大群の中で荒れ狂い、撃破数を稼ぐ。バババババと【リフレクトバレッド】が何重にもモンスターに反射し、爆竹を鳴らしている。

 

 本来、通路で壁矢天井に当て、モンスターの無防備な背後に当てたり、狭い場所で放ち魔弾の軌道が読むずらくして、回避しにくくするスキルだが、余りにも敵の数が多いので当てるための計算をする必要がない。

 

 数撃てば当たる。

 技量も何もない。

 ただ、暴力の弾丸が軍勢を蹂躙する。

 

 そんな時、【生命力】が尽きて変換されて出て来る大量の黒いモヤが、風に吹かれたように方向性を持ってなびく。

 

 そのことに疑問を感じたアカザ。

 飛行していた【騎飛竜】を空中で一時停止する。

 

「……うぅ、どうしたのよ?」

 アカザは顔を青くしたキキョウの声を無視して思考する。

 ゲームでは天に昇るようにして黒いモヤが散々していった。

 この世界に来て風の影響を受けるというのはあった。

 

(今、風向きはどっちだ?)

 篭手を脱いで、指に唾を漬けて眼先に立たせるアカザ。

 指が感じる冷たさは東なのに、黒いモヤが流れて行ったのは西。

 それを見た時、アカザの頭の中で1つの可能性が生まれる。

 

 【地獄門】は別の場所からモンスターを呼び出す装置ではなく、また、モンスターを無限に生み出す装置でもなく。

 モンスターの黒いモヤ(創波)を再利用する装置ではないか? とアカザの頭の中に思い浮かぶ。

 

 確信はないが、根拠はある。

 【大陸移動】。

 

 あれは代表的な都市に移動するスキルで、決まって都市の入口に転移する。他にも死亡した際、復活するのはその都市の入口に設定されている。

 死んだ場合、モンスターがその法則から外れるという訳でもない。

 

 今までも大量にモンスターを倒し黒いモヤを発生させた。

 しかし、その流れが見えなかったのは、【サンダーレイン】は場にある【創波】を変換するから黒いモヤの流れが見えなかったからなのか、【フレイムボマー】は爆風によって黒いモヤが吹き飛ばされたからなのか。

 

 だからアカザは迷ってしまう。奥に進むか、西に多少ではあるが戻るか。

 アカザが数秒悩み選んだのは、後者。

 

 どちらにしても、広大な土地の探索には時間が掛かる。ここで戻っても数分ロスする程度に収めればいい。

 

「ちょっと、あんたなにぃぃいいいいい!?」

 【ドラゴンブースト】による加速で【サンダーバード】の【フライサンダーブースト】に引けを取らない速度で飛ぶ。

 いきなり方向変換して加速したことによって、キキョウの顔が髪が凄まじく崩れ、悲鳴が上がるがアカザは無視。

 

 しかし、アカザの【スタミナ】を【騎飛竜】に与えているため、徐々にではあるがアカザの【スタミナ】が減少し始める。

 

 凄まじい速度で驀進する中、アカザは【ステータスウィンドウ】を見て【スタミナ】不足に陥らないようにする。ステータスの【生命力】【マナ】【スタミナ】は細い棒状(ゲージ)に見えてはいる。だが、正確な数値は表示されず、何割程度しか理解できない。

 

 ギルドメンバーだったコントローラーのように、自身どころか、他人のゲージを正確に把握して最適な支援をする、など不可能である。

 

 なので、【地獄門】に辿り着いた際、【スタミナ】不足に陥りたくはない。

 大体、半分もあれば戦闘には差支えない。

 

 空を驀進して10分もしているとキキョウが加速に慣れて来たのか、アカザに文句を言う。

「ぢょっど! な゛んで、にげるのよ゛!」

 余りの風圧に声を出すのも辛いのだろうが、アカザは無視する。

 

 というか、完全に耳に入っていない。

 

 キキョウへの風圧が凄まじいように、アカザに降りかかる風切音も大音量で流れている。

 風は滝のように体を叩き付け、視界は黒雲のせいで見え辛い。

 それでも、視界に懐かしい物を見つけたアカザ。

 

 赤黒い平地で墓標のように立つ。

 それは黒く、腐り、屋根は崩れ、骨組みが見える羅生門。

 

 しかし、途轍もない邪気でも纏っているように、悪霊でも付かれているかのような門構えで、見ただけでゾッとする。

 

 【地獄門】。

 

 その扉は開かれ、向こう側に見えるのは、黒く淀んだ空間。果ては見えず、それだけがただ広がっていた。

 その周りには埋め尽くす、血に飢えた地獄の鬼。

 

 まるで無数の害虫が蠢く、蠱毒の中に放り込まれるような感覚。

 

 だが、怖気づいてはいられない。

 

 【騎飛竜】が一筋の閃光のように、闇中に放たれる。

 

 【ドラゴンドライブ】の突進攻撃は【地獄門】の屋根に当たる。

 屋根は藻屑へと変化し、崩れ出す。

 

 が、根こそぎ屋根を取っ払っても扉をどうにか閉めなければならない。

 長いこと飛行していたので【クールタイム】の制限はなくなり、【ドラゴンブレス】【ドラゴン・デストラクション】を放つ。

 

 【騎飛竜】が放った竜の火吹は、腐った木製の戸を、柱を、壁を焼き払い、竜の破壊光線は地表ごと削り取り、地盤から壊滅させる。

 【騎飛竜】のスキルは周りの鬼ごと巻き込み、崩れていく【地獄門】。

 

 【地獄門】を破壊したからか、先程まで【地獄門】の周りにあった息詰まるような恐怖が薄れていく。それで死亡を免れたモンスターも、アカザの脅威が身に染みたのか蜘蛛の子が散らすように逃げていく。

 

 だが、モンスターが逃げた訳ではない。

 モンスターの残党がアカザにスキルを放つ。

 それは黒々しい三日月の斬撃。

 

 砲撃によって空中に停まっていた【騎飛竜】に当たり、弾けキキョウが落馬し地面に向かって落ちていく。

 【竜騎乗】を持っていると威力が減る代わりに、【魔法】や【戦闘】のスキルの行使ができ、モンスターの攻撃によって落馬することが減り、取れる行動が幅広くなる。

 

 当然持っていなさそうなキキョウは、スキル一発で落馬した。

「きゃぁあああああああ! ぐべっ!」

 しかし、高さがそれ程なかたためなのか、しぶとく生き残っている。

 

 アカザは攻撃され多方向に目を向け、敵を確認。

「あいつかっ」

 黒い角を2本額から伸ばし、刀を抜刀している人影が、アカザの目に映る。

 

 それだけなら細い体のオーガだが、包帯を顔や身体中に巻いている。少なくとも肌が露出する分は全て包帯が巻かれ、その上から黒い羽織袴を着ている鬼。

 口を塞ぎ、耳を塞ぎ、目も隠しており、完全に戦闘には不利な状態。髪の毛は包帯の隙間から出て、全身火傷かとも思われそうな姿。

 

 だが、先程の黒々い三日月型の飛ぶ刃を乱れ撃ちのように次々を放つが、回避に専念するアカザの【騎飛竜】の軌道を正確に読み取り、当てて来る。

 アカザも負けじと、【ガンブレイド】のトリガーを引き魔弾を連射。

 

 しかし、アカザの動きを捉えているのか回避され、虚しく地面に吸い込まれてしまう。

 遠距離からの打ち合いでは、アカザは決定打を入れることができない。

 

 当たらないと焦れたアカザは、包帯を巻いた鬼の直上に来て【騎飛竜】から飛び降り、魔弾の雨を降らせる。

 【レインバレッド】

 【レインショット】のように広範囲に向けて攻撃するスキルだが、あちらが一擲で済むのに対して、こちらは空中に居てから落ちる間まで攻撃し続ける。連続で魔弾を自身の落下地点周辺にばら撒き、複数の相手に攻撃を加えるスキル。

 

 ドリルみたいに横回りながら下の地面に向かって落下していくアカザ。その間も連射するが相手は【斬り払い】を発動させたのか、無数の魔弾を刀で弾いて無効化する。

 

 重力によって地面に降りて来るアカザが【レインバレッド】を中断し、【断頭切り】にスキルを発動させ、横周りが縦回転し、さながらアカザは手裏剣にでもなったかのように急降下する。

 

 相手も黙って受ける気はないのか、【飛燕】を使い切り上げながら跳び上がり、空中でアカザを迎撃する。

 

 チェーンソーと金属がかち合ったような、耳障りな金属音が両者の間で重く響く。

 火花が連続して上がる。

 

 そんな中、競り勝ったのは包帯の鬼の方である。

 強烈な切り上げに弾き出されたアカザは、地面叩き付けられる前に【受け身】を使い、体を回転させながら足は地面に立つようにして着地する。

 

「っ!」

 なのに、先ほどの攻撃によって手首を痛めたのか凄まじい激痛が走る。幸い骨が折れたという訳ではなく、動かせる。なのに痛みはなかなか消えない。

 

 今までのようなゴブリンやオーガの比では、比べ物にならない。

 すぐさま【ステータススキャン】で相手のステータスを調べる。

 といってもあの包帯の姿に、アカザは見覚えがある。

 【地獄開門】で最終的に戦うボス、【鬼道丸】。

 

 しかし、ゲーム時代の【鬼道丸】ならアカザが競り負けるという事はない、とアカザ思う。ゲームなら同時に攻撃した場合、ジャンケンで言う相子になり、両方にダメージが通る。

 

 パーティで戦うボスとは言え、伝承級であっても【鬼封じの護符】を【農場】の倉庫から取って来て、相手は弱体化しているはずなのだ。

 そのことから各ステータスは30000程度のはず。

 だが、アカザの目に映ったのは30000など優に超えた数値。

 

 【生命力】1594990/1595000【マナ】9520/10000【スタミナ】399405/399500

 Str/120980 def/88550 int/70 dex/99240 agi/58400 will/500 mnd/20 luk/200

 

 前の【レッドワイバーン】のバクではない。

 しかし、ゲーム時代では在り得ないステータスの数値。

 アカザより強いというモンスターは伝承級になら、ある程度存在する。だが、それは一度でも気を抜けば、即死につながってしまうことがあるモンスターだ。

 

「やはり、白兵戦でなければな。血が滾らんぞ」

 そして、ボスキャラは言葉を発した。

 ここからの戦いが嬉しそうで仕方がないように。

 

「え」

 思わず、間の抜けた声がアカザの口から零れる。

 確かに特定のモンスターは言葉を発する。

 

 しかし、【鬼道丸】は設定では「復讐に生きる鬼であり、酒呑童子の敵を討つために鍛え、軍勢を率いる」と言った内容だったはず。

 

「……何を呆けている。逝くぞ」

 アカザが勝手に気を抜いたのが悪いのだが、【鬼道丸】の攻撃に対処が遅れてしまう。

 元の―――の動体視力ならば攻撃すら反応できず、あの世行きであったが、敏捷性か、意志力か、精神力か、はたまた幸運かのおかげで反応し、両手の【ガンブレイド】の刃の部分を交差させ受け止める。

 

 だが、刀の勢いを削ぐことができず、体勢を崩させられる。

 扱い方は【ソードマスタリ】や【ガンマスタリ】、両手の場合は【デュアルガンマスタリ】、【デュアルマスタリ】が知識や扱い方を補助してくれる。

 

 しかし、扱いはかなり難しい武器である。

 頭の中に扱い方を教えられて、体もある程度反応してくれるものの、熟年された動きとは言い難い。

 

 戦い方は分かる。

 武器の扱い、スキルの特徴も分かる。

 恐怖で強張っている訳ではない。

 頭で理解して、体が付いて行かない訳でもない。

 設定と目の前のギャップに混乱していても、もう立ち直っている。

 

 だが、ぎこちない。

 

 ゲームと同じようにと自身に暗示を掛けても、何かが違う。

 何かが噛み合わない。

 

「貴様、やる気があるのか」

 防戦一方のアカザに煮えたぎったのか【鬼道丸】は、太刀の武器スキル【火之炫毘古神・加具土命】を放つ。

 

 太刀筋が炎の尾を引きながら迫る刃は、ダメージ率1000%を超える超弩級の破壊力を持つ刀へと変貌する。

 

 アカザでも【生命力】を大幅に減らさせるスキル。

 いや、迫る刀は頭で考えるより先に、死の一文字を刻み込む。

 【黑之絶】を纏った刀はアカザの首を捉える。

 

 

「いっ」

 ぼんやりとしていたが、頭痛がして手を置くと、瘡蓋ができていた。【生命力】が尽きると白い灰となって一定時間その場に留まり、過ぎると壁に乗って消えていく。

 

 まだ、痛いと感じる体があるという事は【生命力】は尽きていないという事だ。

 落馬ならぬ落竜したキキョウは、頭から地面にぶつけたせいか数秒意識を失っていた。落馬の一番の危険は落とされた後、馬に蹴られるたり踏まれたりすることだが、攻撃してきた相手も、キキョウには目もくれず、アカザも助けに来なかった。

 

 死亡したと思ったのか、放置されていたわけだがこうして立ち上がった。

 そして、立ち上がった所で今までの頭の血が覚めて来る。

 

「……何やってるんだろ」

 無理やり付いてきて、良いところは何もなし。【騎飛竜】にしがみ付くのに精いっぱいで、お荷物という事すら頭の中から忘れていた。

 

 そして、【地獄門】見た時、怖気づいた。怖くて今すぐ祖父の元に行きたくなったのに、アカザは躊躇することなく突っ込んでいった。

 

 惨めである。

 だが、耽っている時ではなかった。

 地面を揺らす振動がキキョウをある方角へと顔を向けさせる。

 

「……何よあれ」

 そこには2人の侍が居た。

 そこは戦場で両者が戦うのは必然だが、余りにもキキョウの常識からかけ離れた戦いであった。

 

 焔が刀に纏わり、辺りを紅く染め上げる。

 紫電が迸り、暗闇を照らす。

 踏み出した足が地面を砕く。

 

 刀の煌めきは一層鋭さを増し、刃先は見えず打ち合った散る火花が見えるのみ。

 相手への殺気で空間すら歪む。

 唯一、キキョウはナオトラと他の英雄との試合を思い浮かべたが、何かが違う。

 彼らはその戦場の只中で、笑っていた。

 

 

 

 アカザの首はギリギリで刎ねられずに済んだ。

 

 上空に居た【騎飛竜】に【ワイバーンディセンド】を発動。上からの強襲の対処に、気を取られた際にアカザはギリギリの所で【火之炫毘古神・加具土命】を回避した。

 

 といっても完全に回避できず、喉を浅く切った。血は吹き出すことなく、瞬時に瘡蓋になる。それと喉が焼けるような痛みに。思わす喉に手をやるが、固まった血の感触が分かるだけ。

 

 それに、難を逃れたとはいえ【鬼道丸】の【生命力】からすると先ほどの攻撃で倒したとは考えられず、吹き飛ばされた程度で今地面に横になっている。

 

 【騎飛竜】に攻撃が行く前に【呼び出し解除】して、眼前の地面に寝ている【鬼道丸】に集中する。

 

 これはPVPに近い。

 相手には思考がある。けして自動攻撃や攻撃パターンを繰り返すAIではない。

 

 NPCが人間の行動をしているのに、ゴブリンやオークは知能が低いせいか単調な攻撃しかしてこなかったので、そのことをすっかり頭の中に入っていなかった。

 

 モンスターの攻撃にも規則性がなくなった。

 それがアカザが感じていた違和感の正体。

 

 例えば【火之炫毘古神・加具土命】は袈裟斬りのモーションであり、横薙ぎに放たれることはない。

 

 スキルのモーションの変化。

 そして、確実に喉を狙うというスキル以外の剣術。

 

 それが【鬼道丸】に足されたことで、ステータスの面で不利だったのが余計不利になる。

 

 アカザは剣の扱いは頭の中で分かり、実行することができる。

 

 だが、それは教科書を見ながら戦っているのに近い。

 

 さらに体に浸み込んだ訳ではないので、動きは単調。変化球ができないため、幾ら速度の速い球を投げても、バントで簡単に対処されるピッチャーみたいなもの。

 

 だから簡単に見切られ対処できてしまう。

「解せぬな。機転はきく、力も申し分ない。なのに、経験は浅い」

 

 アカザは刀を握って精々1週間程度。

 幾らアカザの体が超人的と言っても、扱うのは素人。

 そんなのが設定上、復讐のために鍛え上げた剣術には敵わない。

 

「悪かったな。ご期待に添えなくて」

「そう卑下するな。生半可な奴なら一撃で死んでいる」

 吐き捨てるように言ったアカザをまるで、【鬼道丸】は賞賛している気がした。

 

「……復讐はどうたんだ?」

「? ああ、我を貶めた奴らは寿命で消えたからな。したくてもできん。ならば強者との戦いを楽しむしかなかろう」

 まるで何ともないようにアカザの疑問に答える。

 

「その分、今の一撃は良かった。弱く見せて油断を誘い、別方向からの強襲。戦術としてはまずまずと言ったところだ」

 そんな訳ないだろ。とアカザは言いたいのを堪える。

 

 【火之炫毘古神・加具土命】から逃れるための苦し紛れの一撃だったのだ。

 そもそも、【騎飛竜】は【呼び出し解除】をしている暇がなかっただけ。

 だいたい―――。

 

「なんで【鬼封じの護符】が効いてない?」

「弱点を克服するのは当たり前であろう」

 つまり、アップデートでもしたのか【鬼封じの護符】は効かない。

 

 全力発揮の伝承級モンスター。

 救いは24人で倒すこと前提のレイド設定でないことだろう。

 しかし、アカザより全てが格上の敵に挑まなければならない。

 

「絶望したか? いや、貴様も我と同類か」

 なのに、アカザの心は躍っていた。

 まるでゲームを始めて、どの様なことが起きるのかワクワクしていた頃のように。

 

「否定はしないけど」

 【ガンブレイド】を横腰に収納し、背中に背負った野太刀を引き抜く。

 

仲間(ギルメン)がいないのがちょっと寂しいな」

 反射神経が狂ったように相手の攻撃範囲内で、攻撃と回避を繰り返す双剣使い。

 完全記憶能力でも持っているようなベストのタイミングで、【回復術】【付与術】を使う回復支援者。

 至近距離から魔法を放つ常識破りの魔法使い。

 敵愾心や相手のスキルの【スタンバイタイム】【クールタイム】、モーションを、完璧に計ったように【守護騎士】のスキルを使う盾役。

 【錬成術】で作り出したアイテム以外使わず、敵を倒す爆弾魔。

 

「そ奴らとも戦ってみたいものだ」

「……悪いが、一番弱い俺で我慢しろ」

 新しい敵や強い敵に出会い、戦う楽しみ。そのことに共感できる仲間がいないことが、アカザは肩を落としてしまう。

 

 だが、一人先にその強敵と戦えるワクワク感の方が勝っていた。

 そんな子供がここには2人。

 やる事は単純。

 

 次の瞬間、言葉もなく、野太刀と野太刀が激突した。

 

 アカザは【侍】のスキル【侍冥加】を発動し、野太刀の武器スキル【霹之釼古神・武御雷命】が放たれる。

 

 【侍冥加】によって【マナ】を使用できない代わりに、発動中【武器】スキルを【侍】スキルのようにダメージ率に加算、及び攻撃力を強化する。

 

 アカザの中で爆発した、エネルギーは野太刀へと伝わる。そこから更に【スタミナ】が変質して、落雷を閉じ込めたように野太刀の刀身が紫色に輝く。バヂバヂと放電する音はかなり五月蠅い。

 

 対して【鬼道丸】は【侍】スキル【十握剣】で刀を強化し、刀の武器スキル【火之炫毘古神・加具土命】を発動する。

 【十握剣】は【スタミナ】を消費して、気の刃を形成し一定時間、武器のリーチを伸ばし攻撃力を上げるスキル。10mほど伸びた刃は炎に包まれ赤化する。

 

 そして、ぶつかり合った力。

 雷と炎が重なる。その力場は反発するように周りに散る。

 彼らは互いの力によって吹っ飛ばされ距離を置いく。

 

 必死に地面に2本の足を付けスライディングする。ズザザと足で地面を削るように2本の線を引き、勢いを殺す。激突の勢いを殺した後、【鬼道丸】はアカザに突進。

 

 再度【火之炫毘古神・加具土命】を発動し、アカザを殺しに掛かる。

 

 【武器】スキルの特徴はクールタイムが余りないこと。だから、連続発動が可能であり、【スタミナ】がなくならない限り、強力な攻撃を放ち続け相手の【生命力】をゴリ押しで削ることができる。

 

 燃える【十握剣】は突きに軌道が変化し、尖鋭の一撃へと変化する。

 常人の目には映らない。

 

 その一撃をアカザは【つばめ返し】によって、目に止まらぬ速さで【十握剣】の下に潜らせ野太刀を切り上げる。

 

 焔の【十握剣】を跳ね上げ、【鬼道丸】の胴体に切り込んだ。

 

 【侍】スキル【つばめ返し】は自分の攻撃が回避や相殺、防御され、有効でない場合、次の相手の攻撃を無効化し、相手の2回分の攻撃を合わせ3倍にしたダメージと自身の攻撃力を加算した一撃を相手に叩き込む。

 

 使い所が難しいスキルであるが、与えるダメージが凄まじい。

 スキルはまるでアカザの体に叩き込まれたように、勝手に動き、だがぎこちなさはなく滑らかに、素早くアカザを動かしてくれた。

 

 【鬼道丸】の胴体を引き裂く感触がアカザの手に伝わるが、致命傷にはならない。瞬時に傷は瘡蓋となって塞がるので、出血はない。

 

 しかし、【火之炫毘古神・加具土命】を弾かれ、【鬼道丸】は無防備な状態を晒す。コンボを叩き込む瞬間が生まれる。

 【一刀両断】を起点として【鬼道丸】に叩き込む。

 

 が、システム上硬直して動けないはずの【鬼道丸】は、【一刀両断】の効力を纏った野太刀を自身の刀で振り上げて相殺する。

 

 そして、【鬼道丸】の反撃。

 【剛之壊古神・天手力雄】が繰り出される。

 【鬼道丸】の刀に気が凝縮し、何重にも気が合わさり重く、固い剛撃が繰り出される。

 

 アカザの肩を引き裂き、骨を砕く。

 トラックの衝突の一撃を凝縮したような剣圧。

 重圧の一撃はアカザに凄まじい速度で、後方に吹き飛ばす。

 地面に飛行機が墜落したような地鳴りと、地面に割れ目の帯を作り出し、土を盛り上げる。

 

「あがぎぁああ!」

 凄まじい痛みが肩から溢れ出す。堪えられず叫ぶ。少しでも痛みを抑えようと肩に手を当てる。だが、肩は何ともない。骨が砕かれたような音と感覚があったが、なぜか繋がっており動いた。

 

「はぁはぁ、っ!」

 奥歯を噛み締める。片腕が切断されたと思ったが、腕に力を入れ野太刀を握る。

 眼前の敵を見据える。

 

「嬉しいぞ。ああ、我が修行で得た力を思う存分振える!」

 歓喜で声を震わす【鬼道丸】。

 

「……修行でシステムを無視できるのかよ」

「そうだ」

 即答であった。

 

「いや、修行ではないか。世界の枷は外れたのだ。世界に囚われるのは愚直ぞ」

 言い回しが難解であるが、つまり、この世界がアップデートされたのだろう。

 

 アカザがこの世界に来れたように、この世界でも変化があった。

 例えばスキルが変化するように。

 例えばモンスターが溢れ出すように。

 ならば、システムすら変化する。

 ゲームであってゲームでない。

 

「故に我は楽しいぞ。強者との戦いに枷はなく。刀を振える!」

 素早く放たれた斬撃。

 反応したアカザは野太刀で迎撃する。

 

 鍔迫り合い、押し込まれるアカザ。ステータスのstrは相手の方が上なのだ。

 離れようと思っても、相手の刀はアカザを逃さぬよう次々と斬撃を繰り返し、10合近く打ち合う。

 

 火花が舞う。

 金属音が耳障りな音を出す。

 それでも、ステータスの素早さが【鬼道丸】より高いためか、斬撃から逃れるアカザ。

 

「さぁ、次はどのように殺し合おうか?」

 楽しそうに鬼は笑い。

 アカザも息を整え、走り出す。

 何度も激突を繰り返す。

 それからも彼らは何度も攻防を繰り返した。

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