廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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 先程までの絢爛豪華な玉座は見る影もなく、アカザとルーレアの戦闘の余波によって破壊され荒らされていた。

 

 先程の戦闘で消耗したアカザは喉に突き刺さったレイピアを抜いた後、各薬品(ポーション)を取り出し、口に含んで失った【生命力】や【スタミナ】を回復させる。

 

「ふぅ」

 

 【ライフポーション】を飲んでいると体中の痛みが引いていく。戦闘の緊張感からの解放もあり、一息ついたアカザ。その辺の腰掛けできそうな瓦礫に腰を下ろす。

 

 ルーレアも同じものを飲み、【生命力】を回復させている。長い黒髪を耳に掛け上げながら飲む様は、実の姉であり苦手意識をアカザが持っていなければドキッと心拍音が上がるだろう。

 

「……あのさ」

「お姉ちゃんは行君と離れたくないよ。いいえ、お姉ちゃんに勝ったからって言って、次にも勝てる可能性なんてないでしょう? それにお姉ちゃんより強い敵だって現れるかもしれない。そんな敵から行君を守るためにお姉ちゃんは何でもするよ」

 

 むしろ、お前以上に強い敵なんていねぇよ。と言いたくなったが、確かに姉に勝てたからと言って他の者にアカザが負けない理由にはならない。さらに言えば、今回の戦闘だって、フェアプレーでなければ勝てなかった。

 

 PVP(対人戦)に置いてアイテムの使用は禁止されている。アカザがした行動はアイテム【リンゴ】を捨てただけだが、あれが爆弾や可燃性の高い化学薬品だった場合ルール違反擦れ擦れ。

 

 もし、ルーレアにキャラクターチェンジした時、自傷行為をせず【生命力】が成り変わっていたら、アカザに勝率と言う物があったのか疑わしい。

 

 到底勝ったとはいえず、勝たせてもらっただ。

 

 それに頑なに姉は意志を変えない。アカザを縛り付ける意思はない。むしろ彼女にとっては弟を未知の危険から、保護したいのかもしれない。だが、子供が転んだとして親が無条件に手を差し伸べるべきではないともアカザは思う。

 

 見守ってくれる。それだけでアカザにとっては十分。

 

「それでも会いたい人が居る。だから、俺は帰りたい」

「だったら鎖で縛って繋ぐね?」

「やめて、俺はMじゃない。妥協点を探しましょう。月に一度はこっちに来るから」

「週に1度はこっちに来なさい」

 命令してきた。

 

 アカザは余り、乗る気ではない。

 家ではそれこそ顔も見ず、会話もしない日々が続いていたのだ。姉はもう家を出ていたのかもしれないし、住んでいたのかもしれない。そんな会わない状況で、いきなり週1に顔を合わせに来いと言われても忌避感がある。

 

「せめて2週に1度で」

「じゃあ、週に2回」

「お姉さまおかしい。交渉なら妥協して減っていくのに増えてます」

「これからすっと一緒に居たいってお姉ちゃんは言ったよ? 会う日数を制限されたくは思わないからね」

「分かった。週1でこっちに会いに来るから」

「うふふ、じゃあ今度来る時はもっと歓迎してあげる」

「勘弁してください」

 

 これ以上の歓迎をされてもアカザには対処できそうにない。

 頭の中でこれ以上の歓迎も想像できず、その場で脱力しズルズルと尻を滑らせ瓦礫を背もたれとした。

 

「……どうせならヴィクターのような粗忽者には、あの本を使わせないでくれよ」

「ええ。聖職者も力を持てばどうなるか。暴走しがちになってしまうことも分かったから、取りあえず1回調査に向かわせた全員を呼び戻すことにするね。そこで不正を働いていたことが分かったら、さっさと追放ね」

 

 不正を働くのを暴くと言うのが、造作もないと言う姉。

 経営者や社長でなくとも刑事や、弁護士でもやっていけそうである。

 姉のチートっぷりに驚きはない。

 ただ、それだけの力を持っているのに愚弟を着に掛けるのが、理解が出来なかった。

 

「俺のことなんて、ほっとけばいいのに」

「んー。愛しの弟君を放っておけるはずないじゃない」

「何であんたブラコンになってんだ?」

「……まぁ、覚えてないのも無理ないと思うけどね」

 

 アカザは姉に何をしたか全く覚えていない。家で擦れ違わないようにもしていたのだから、むしろ避けられていることは姉にも分かっているはず。

 

 彼女の能力は高すぎて、その恩恵に与ろうとする両親。

 実の親は早々にアカザの育児を放棄し、姉を煽てていた。

 だが、姉にとっても両親は鬱陶しい蠅のように感じていたはずである。

 

「俺……何したっけ」

「慰めてくれたじゃない?」

「いつ」

「行君が、中学に上がる前あたりかな」

 

 全然覚えていない。

 

「まぁ、お姉ちゃんがいつまでも忘れないから。これからもずっと」

 

 人間の記憶は見たこと、聞いたことは脳内に保存され忘れないらしい。ただ、仕舞った物を取り出せなくなったように、思いだせないことの方が多い。

 

 だが、姉にとっては鮮烈な記憶で色褪せることはない。

 周囲からの期待、優等生という想像、他人からの身勝手な思いに辟易していた。

 友達(と言っても偽りの関係で、本心では何とも思っておらず、本当の友人ではない)が家に来てそんな時に弟が放った言葉。

 

『面倒くさいね。色々と』

 姉と友人たちの関係をすぐに見抜いていた。

 

『そうね。……でも必要なことなの、弟君にはまだ分からないかな』

『知ってる。でもやる気はない』

『そっちの方が楽なのに?』

『面倒くさい。それにお姉ちゃんも疲れた顔しているよ。そんな顔で楽だとは思えないから、休んだりした方がいいと思うんだけど?』

『……ありがとう』

 

 その時の言葉は本心から出た。

 自分のことを見てくれる弟。そのことが何故か無性に嬉しかった。

 

「あっそ」

「今ではあまりこっちを見てくれなくてお姉ちゃんは悲しいです」

 しくしくと手を目に当てる仕草をする姉。無論ウソ泣きだ。

 

「じゃ、帰る」

 そんな姉の行動を見ても突込みを入れる気はなく、疲労や痛みを回復し終えた為、腰を上げる。

 

「次は行君の会いたい人も連れて来てね」

 本当ならルーレアは今すぐアカザを拘束し、この城に閉じ込めて愛でていたい。だが、そんなことをすれば本人に嫌われてしまう。ならば、ある程は度本人の自由にして意見を聞き、アカザの周りの人間とも良好な関係を築き外枠を埋めるのだ。

 

「俺にとって嫌なこと考えてるだろ、あんた」

「あら、顔色は変えなかったのに、なんで分かったのかしら?」

「あんまり説得力ないけど……姉弟だろ。ある程度分かるって」

「それもそうね」

 

 何の根拠も理屈もない。顔、性格、容姿、何も似ていない。2人が並んで歩いていても姉弟とは思えないだろう。

 だが、何故かしっくりくる理由だった。

 

 

 

 アカザが城を出ると避難していた兵士やメイドが待機していた。

 その中から黒髪から猫耳が生えている獣人。シャムが人ごみを掻き分けアカザの前まで来た。

 

「……無事?」

「姉さんも俺も死んでない。決着は……まぁ、付けた……と思う」

「……」

 

 シャムの心配していた目が、安堵と共に不安が消える。

 

「クスフィー様はどうなされた!」

「玉座にまだ居ると思うけど」

 そう言うと居ても立っても居られなかった兵士、メイドは玉座に急いで走っていく。

 

「……慕われているのか。あんな姉で」

「どう思っているのか知らんが、この都市を救ってくれた人物だ。よく挑む気になったな」

 ジークフリートが、アカザに呆れた目を向けている。

 

「あんたには関係ない」

「だが、姉弟とはいえ城主に刃を向けた事実は変わらん」

 

 ジークフリートは背中に背負っている大剣【バルムンク《ドラゴンスロータラー》】を抜き、アカザの喉に突き付ける。

 アカザも野太刀【天叢雲剣《剣之神器》】の柄を握る。

 

「次からは私も敵に回り参戦すると思え」

「……知ったことか」

 

 警告なのだろう。だが、先程までジークフリートとは比にもならない相手をしていたアカザにとっては彼が出した威圧感や殺気も、あまり脅威には感じない。

 

「姉弟の喧嘩に他人が口出ししないでくれ」

「……それもそうか」

 

 何を感じたのか、早々にジークフリートは大剣を背中に背負い直す。

 そして、彼も城の中へと入っていった。

 

 

 

「さて、帰るか」

「……了解」

 アカザは【大陸移動】で、シャムは【巡回の羽根】で【エチゴ】へ飛んだ。

 

 一瞬にして【エチゴ】の入口、大門へと移動した。

 すぐに遊郭【常春】に向かうアカザ。

 

 復興が進んでいる【エチゴ】は壊された家の骨組みを立てており、働いている大工たちには活気がある。

 

 行きかう人々も商売を再開したのか、店が開いて商品が並び始めた。

 だが、そんなことには目もくれず、トゥルーの居る所へと向かうアカザ。

 

 そして、【常春】の入口を開けて中に入る。

 

 そこには料理番のおかっぱ少女、コマチが夕食を作っている。サツキが庵のところで煙管(キセル)を吸っているが、他の従業員たちは他に誰もおらず、当然トゥルーの姿も見当たらない。

 

「あ、お帰りなさい。アカザさん」

「えっと、た、だいま」

 

 こんな「おかえり」や「ただいま」という行為がまだ慣れていないアカザは、少し言葉が詰まってしまう。何でか知らないが照れくさい。

 

「トゥルーはクエストか? それとも【農場】?」

「えっと、あの、何て言えばいいんでしょうか」

 

 アカザが帰ってきたことに気付いたコマチに声を掛けてみるものの、歯に何か詰まったように歯切れが悪い。

 

「あの子ならここから出って行ったよ」

「……は?」

 

 口から煙を吐き出しながら言うサツキの言葉が理解できないアカザ。

 

「出て行ったって……え?」

「何でも手紙が来て、あの子は故郷に戻るって言って聞かずに飛び出していっちまったよ。流石に1人じゃ不味いから、クゥカを同行させたけど」

 

「故郷ってまさか……」

「エルフの里らしいがね。あんた何か知って――」

 

 アカザは最後まで聞かず、すぐに駆け出し【エチゴ】からエルフの里へと向かう。




駆け足気味ですが、次から5章目へ突入。
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