廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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「あいつ、あたしたちを置いていちゃって」

「……トゥルー、アカザ、大切……、恋人?」

「なん……だと?」

 シャムの想像にシルフィールは驚愕の、いや憤怒の表情を浮かべる。

 

「私はそこまで親密な関係を許した訳では……ッ」

「……あなた、何、怒り?」

「ほっとけ。今はそれよりもあいつらとの合流をッ!?」

 

 クゥカたちが話しながら向かっている最中、目が焼けそうなほどの光が輝き、目が眩んでしまう。思わず目を瞑り、光が収まると同時に、武装したエルフたちが一目散に逃げていくのが見て取れた。

 

 そして、その先には純白の翼を持った少女とアカザが戦っている。

「何が起きている!?」

 目の前には神話の戦いが再現されていた。

 

 

 

 アカザは回避に専念し、光弾や光の槍を避け、【暗鬼鞘】で吸収、黒風で相殺している。

(……どうする?)

 

 防戦一方では埒が明かない。

 しかし、先程の攻撃で白い翼はトゥルーの体を一体化しており、攻撃すれば【生命力】が削れたことから、笏杖や羽衣を破壊してトゥルーに影響が出てしまう可能性がある。

 

 もう既に先程アカザが削った【生命力】は【高速回復】によって殆ど回復し終えているものの、攻撃すればトゥルーを傷つけていることに変わりわない。

 

 トゥルーを説得しようにもどうすればいいか分からない。何度か声を掛けても表面上に変化はなく、完全に天使がトゥルーを支配している。

 八方塞がりと言う単語が頭を掠めるが、振り払って思考を続ける。

 

(ようは天使さえどうにかできればいいだけだがっ!)

 考えている途中で天使がアカザに攻撃してくる。天使の頭上に光の環が作られ、そこから斜光が放たれる。光の柱とも表現できる大きさの攻撃は、アカザを追うようにして追従し、周りの木々ごと薙ぎ払う。

 

 木々に備え付けられていたツリーハウスや渡り橋も巻き込まれ、エルフの里が破壊されていく。

 

 アカザも回避スキル【ジャストダップ】によって、向かって来る光の柱に飛び込むようにして体を翻した。瞬間、長い【無敵時間】が発動し光の柱を通り抜ける。

 

 ゲームでは絶対に体に攻撃が当たっているような場合でも、【無敵時間】中はダメージの判定がされない。例え失敗してダメージを負ったからといって、プレイヤーが実際に傷つくこともない。

 

 だが、現実となった【フォークロア】の世界では痛みを伴う。そんな中、攻撃の中に飛び込むという行為は肝が冷えた。【スカンヴィナ】での姉との戦闘で【蜃気楼】の【無敵時間】が実証されていてもだ。

 

 天使が使っている光球は【シャインクラッカー】、光の槍は【アポストル・ライト】、先程の光の環と柱は【ジャッジメント】。

 

 どれもプレイヤー側も使える【魔法】スキルだが、天使の放つそれらのスキルのダメージは2倍以上は強化されており、アカザの防御力を持ってしても数割の【生命力】が持っていかれる。

 

 例として【シャインクラッカー】はプレイヤー側が最大までチャージして同時に生み出せる光球が10個なのに対し、【主天使・サドキエル】は一瞬にして30個生み出すことが可能になっている。

 

 そして、今対峙している天使は何度も【シャインクラッカー】を連続使用しているのか、吹雪のような数でアカザを追い立てている。

 

 トゥルーに憑依している天使が、アカザ(プレイヤー側)を下等生物と侮るのも分かる。

 

 打開策が思い浮かばない以上、距離を置いて回避に専念せざるを得ない。

 

「くそったれ! 何が目的でこんなことしやがる!?」

 思わずアカザは天使に向かって怒鳴る。

 

【全ては女神の為】

 アカザの怒鳴りに即座に答え、続ける。それでも光球や光の槍を彼に向けて雨霰と降り注いでいるため、会話に油断したり驚いたりして隙が出来ると撃ち抜かれてしまう。

 

【そして、この小さき者の願いでもある。全てを殺せと】

「そんなことッ! ある筈、ないだろ!」

【事実だ】

 

 攻撃を避けながら反論するアカザだが、思い当たる節はある。だが、彼女なりにこの裏の差別意識を受け入れていたはずだ。

 

 天使に唆され、溜めていた不満を爆発したところを乗っ取られたのかもしれない。

 もしそうなら天使の名前の前に堕を付けるべきか、悪魔と改名するべきであると、一瞬だけ無駄なことを思ったアカザ。すぐに考えを打ち消し、トゥルーの意識を取り戻させるにはどうするか考える。

 

 説得や呼びかけでどうにかなのか。

 そして、考えてみて結論が出る。

 

 不可能だと。

 

 アカザとトゥルーが一緒になって精々1ヶ月経つか経たないか。

 それだけで相手の何が分かると言うのか。

 

 アカザがトゥルーに抱く印象は明るい、元気、ポジティブぐらい。それだってアカザの勝手な思い込みに過ぎない。

 

 本心ではアカザのことを何と思っていたのか分かる訳がない。

 

 トゥルーにどんな言葉が、心に響くか、残っているかなどもっと想像できない。

 

 説得は不可能。

 

 元より人付き合いが苦手な無職が、何と声を掛ければよいのか。

 いつも通りの力尽くでは、トゥルーがどのようなことになるか不安になってしまう。

 

 打開策が浮かばないまま、天使の攻撃を避け続けるアカザ。

 そこにクゥカたちが声を掛けて来る。

 

「おい、どうなってるんだ!?」

「こっちが聞きたい!」

 クゥカの怒鳴り声に怒鳴り声で返すアカザ。

 

 その時、声がした方を意識したのか、回避に専念していたためアカザの敵愾心(ヘイト)が減少した為か、天使は笏杖をクゥカたちに向ける。

 

 放たれる光の槍、【アポストル・ライト】。

 クゥカたちも回避行動を取り、光の槍を躱す。

 

「くっ、トゥルー! 目を覚ませ!」

【消えなさい。下等生物】

 必死にシルフィールが天使となったトゥルーに呼びかけるものの、返ってくる言葉は期待したものではない。そして、目に映るものは全て敵のようで光弾を放ってくる。

 

 流石に凄まじい数の光弾がシルフィールに迫る。

 とても彼女に回避出来る数ではなく、アカザが【暗鬼鞘】に刀を即座に入れて、すぐに抜き放つ。

 

 黒い旋風が吹き荒れ、光弾の雨を吹き飛ばす。

 その旋風に乗るようにして、一気にシルフィールの元に駆け寄るアカザ。

 

「おい! どうすればトゥルーは正気に戻る!?」

「私にも皆目見当が付かん!」

 

 エルフの里に居る者ならば何かしらのヒントを持っているのかもしれないと思ったが、空振りに終わってしまう。

 

【諦めなさい】

 そんな時に天使が静かに告げる。

 

【この日の為に、私が何百年と封印されている中、準備してきたか想像できないでしょう。そして、私を封印していた前任者のことを解析し、この体を私の支配下に置きました。この体の持ち主は既にないも同然】

 天使が再攻撃しようと笏杖を掲げる。

 

「つまりは体の奥底は完全に支配できていないってことか?」

 再び【ジャッジメント】による光の環から柱を放とうとした天使の動きが、アカザの言葉で止まった。

 

「封印されて解除できたのなら、なんでトゥルーの体が必要なんだ。なんで意識だけ乗り移った? 本当はお前、まだ封印されているんじゃないのか?」

【だから? 下等生物に如何こう出来ると思っているのですか?】

「いいや、でもそれだと気になるよな」

 アカザはニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

 

 そして、一気に走り出す。向かうは大樹の天使が封印されていた祭壇。

「そいつ足止めしてくれ!」

「はぁ、何だよ急に!?」

 クゥカたちはアカザの考えていることに気づかなくて困惑する。だが、何か打開策があるのだろうと思い、天使に対峙した。

 

【……まさか】

 アカザの考えていることに気付いたのか、天使は後を追おうとする。

 

「「ガァアアアアッ!」」

 だが、クゥカとシャムの口から獣が叫ぶような咆哮が天使の耳を、体を打ち、硬直する。

 

 獣人族の種族スキル、【ビーストハウンド】。

 声の及ぶ範囲に居る敵を畏縮させ、動きを鈍らせるスキル。

 2重で放たれた方向は見えない壁のように天使の行く手を阻む。

 

 

 

 そして、動作が遅れた一瞬でアカザは天使と距離を離し、大樹の中へと入っていく。

 先程からエルフの里を破壊しているのに、大きく目立ち自信を封印していた忌々しい場所を破壊していない所。

 

 階段は天使の攻撃で破壊されているので、壁や残骸を踏み台にして蹴り跳ぶ。上へと向かい先程の大扉があった所まで来た。

 

 祭壇の中に入り、探し始めるアカザ。

 儀式に使われていたランプやアルターベル、床に描かれた五芒星の魔法陣は天使の攻撃で無残に壊れている。

 

 中央にある枯れ枝が重なった物が割れて、卵の殻のようになっている。先程まで天使を封印していた場所。

 

 そこに近づき、殻の中を覗き込む。

「あった」

 そこにはゲーム画面越しに見たことがある天使が居た。

 

 青い衣を纏った人型。純白の翼と笏杖。ここまではトゥルーと同じだが、顔は仮面を被っており素顔は見えず、サファイヤの鈴を至る所に身に纏っている。

 【主天使・サドキエル】の本体が結晶に覆われていた。

 

 

 

【邪魔です! 退きなさい!】

「へぇ、慌てているってことは何か不味いもんでもあるのかい?」

 そんな軽口を叩くクゥカに天使は光弾を放つ。

 

 だが、冷静さが欠けているのか軌道は単調で避けやすい。

 そして、クゥカに意識が行ってしまっている天使の背後をシルフィールが取る。

 

「トゥルーよ! 目を覚ませ!」

 【スマッシュ】が発動し、背後から杖で頭を強打する。

 

 殴られた天使は意識を取り戻すことはなかったものの、殴り飛ばされ地面に叩き付けられる天使。シルフィールが与えたダメージは微々たるもので警戒には値しない。

 

 だが、上位者であるべき自分が下等な者に引きずり降ろされ、土を舐めさせられる恥辱は天使を激怒させる。

 

【よくも私を地面に付けさせたな!】

 追撃してきたシルフィールにお返しとばかりに笏杖で殴り返す。

 

 だが、怒りで単調になってしまった攻撃をシルフィールは難なく躱し、笏杖は何も捉えず虚を切っただけに終わった。

 

 そして、シャムが天使に近距離で【ビーストハウンド】を轟かせる。

 【ビーストハウンド】は使用者の遠くに居ればそれだけ硬直時間は短くなり、逆に近づくほど硬直時間が長くなる性質を持つ。

 

 音の壁に叩かれた天使は体を固められてしまい、身動きが取れない。

 この3人の目的が時間稼ぎだと言うことも分かっている。

 モタモタしていれば、アカザにまだ成すことが在るのに強制的に戻されかねない。

 

 まだ、使命を果たしていないのだからそれだけは避けなければならない。

 クゥカが再度【ビーストハウンド】を使おうとした時、天使も自身の周りに光の障壁【ディバイン・プロテクト】を展開する。

 

 咆哮を遮断した天使は3人には目もくれず、アカザの後を追う。

 

 

 

 天使の意識だけが封印されていたのか。

 なぜトゥルーに意識だけ乗り移ったのか。

 

 アカザなりに考えた。

 

 天使の力を利用するための生贄。

 根本的にこの世界の法則があまり分からないアカザだが、推測し仮説を立てた。

 

 生贄やトゥルーに天使の意識が乗り移らせることが可能。

 そうして人柱は天使の力が使えるようになった。

 

 だが、天使の方が人柱よりも格上の存在の為か、強い為か人柱の体を操ってしまう。

 故に人柱も封印する。

 

 そして、人柱を洗脳なりして天使の力のみを取り出し続けることに意識を植え付け、死ぬまで力を搾り取ってしまう。

 

 そこまで考えてアカザは刀を握った手に力を籠める。

 仮説でしかないが、トゥルーを蔑ろにしているエルフたちだ。別段、トゥルーを犠牲にするのに躊躇などしないだろう。

 

 それにどちらにしろ、トゥルーを取り戻す為に倒すべき敵だ。

 

「ぶっ壊れろぉおおお!」

 心から沸き起こった怒りを吐き出すようにして、【膝丸《薄緑》】、【小鴉丸《八咫烏》】から黒い嵐が【主天使・サドキエル】に向かう。

 

 天使から吸い込んだ光球は数知れず、その威力は絶大。覆っていた結晶を砕き、破壊し、吹き飛ばし、本来の姿を露わにする天使。

 その時、クゥカたちが足止めしていたはずのトゥルーに憑依した天使が来た。

 

【度し難い! 下等生物ごときが! 女神に! 仕える私に逆らうなど! 私たちを殺して――】

「あほらしい。レアアイテム狙いで神様なんて何万、何億回だって殺してやる。ってか殺したけどな!」

 

 そんでもって――。

 

「今はお前が邪魔だ!」

 未だ意識が戻らず動かない【主天使・サドキエル】の体を、【膝丸《薄緑》】、【小鴉丸《八咫烏》】の刃が突き刺さる。

 

 瞬間、トゥルーの顔を通して苦しみだす天使。

 

「終われぇえええ!」

 突き刺した刃に残っているエネルギーを全て使いきるように、ロケット噴射のような勢いで黒い風を放出し、天使の体を傷つけていく。

 

【貴様ぁああああ!】

 苦しむ天使は最後に一矢報いんとアカザへと向かい、笏杖から今まで集めた白い灰を放った。

 その一撃はアカザとトゥルー、【主天使・サドキエル】を包み――。

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