廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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「ちょっと、何やってんのよ」

 体育座りで中庭に居るアカザを鬱陶しく思ったのかキキョウが声を掛ける。

 アカザの顔色が暗いことなどお構いなしに立て続けに、口を開く。

「そんなに落ち込んでいるなら遊郭にでも言って慰めてもらえば? お抱えの遊女の1人くらい、いるでしょうに。それとも愛想でも尽かされた?」

「…………」

「ちょっと、嫌味すら返さない銅像にでもなったの」

「……たまたま」

「は?」

 

(たまたま……勝ってきただけに過ぎないのか?)

 少なくとも油断したつもりはない。

 ステータスは一部ナオトラの方が上とは言え、それ以外は互角だ。なら力は拮抗するはず。

 だが、一方的に叩きのめされた。

 馬鹿みたいに迷って、感情を抑えられずに。

 今は幾分か頭は落ち着いているが、この状態でナオトラと戦っても勝ち目がない。

 例え、装備を整え万全な状態で斬り合っても、例えナオトラが練習用の【木薙刀】で戦うとしても、勝てる気がしない。

 【魔法】を使うか、【弓術】で間合いの外から攻めるか。

 アカザが頭の中に思い浮かぶスキルや戦術を試すものの、この世界のナオトラはことごとく破る。そして、いずれもさっさとアカザを切り裂く。

 ナオトラに負けてから、俯いて考えても全く答えが出ない。

 

 いつの間にか気が緩んでいた。

 ゲームによく似ているから、自分はハイスペックだからと高をくくっていた結果がこれだ。締めた靴紐がいつの間にか緩んでいくように、アカザの思考も鈍化していく。

 

 ゲームだから、と。

 

 現実なのに周りにあるものが張りぼてに見えていき、自分が周りの人とは違うと錯覚していく。

 そう思うと、ゲームと思う事で不安や恐怖、慣れない戦闘をこなしてきたアカザはどうすればいいのだ。

 

 ゲームだから自分は戦える。だけど、この世界はゲームによく似た現実だ。

 現実なら想定外の事態なんて幾らでも起きる。突発的な事故、事件、災害。そうでなくても日常的なことも予想は外れる。高度な専門危機と知識を持った人物でも、天気予報が外れ、健康的な生活を送っている人も風邪になってしまう。

 

 それでも、アカザが唯一自信を持って言えることはネットゲームのやりこみ時間しかないのだ。これで負けたらアカザには何の価値もない。

 

 姉とも戦い、負け、殆ど勝たせてもらった形だが、あれは複数の【独自技法(オリジナルアーツ)】という、わかりやすい言い訳があった。だから、負けても仕方がないと思ってしまう。

 だが、今回はスキルの発動さえできないナオトラに一方的にやられて負ける。言い訳の言葉が思いつかない。だから、みっともなくて惨めになる。

 

 まぁ、だらだらとしている時点でみっともないのだが、無職の現代人がいきなり異世界に来て活動的になれるわけがない。

 

 人と話すのは億劫で、部屋で芋虫みたいに生活していた奴が、いきなり異世界に飛ばされる。いやな現実とはおさらば。この世界で主人公としてやって行こうと意気揚々としていたのは最初だけ。

 

 ゲームの世界なんて、と諦めたわけではない。ナオトラに叩きのめされて、悲観している訳でもない。

 

 ただ、自分の力が否定されたようで、足元がおぼつかない。

 力がなければアカザはどこにでもいる人間に過ぎない。

 天才的な思考を持っている訳でも、精神的に図太くもなく、スキルやステータスの引き継ぎがなく、初期状態でこの世界に放り出されれば最初の砂漠で1回死んでいる。

 

 運が良かった。

 それでたまたま、勝ち越しているだけ。

 今までは運が良かったから嫌な目に合わずに済んできた。

 

 じゃあ、これからは?

 

「どうなるんだよ。……どうすればいいんだよ」

「違うわ。あんたは自分が惨めだから逃げているだけよ」

 アカザの呟きに反応したキキョウ。

 

「迷う必要なんてないでしょ。男なら負かされた相手に悔しいって感じなさいよ。なんでうじうじしてんの。すぐ諦めて逃げ出す理由を探している意気地なし」

 中々にきつい言葉がキキョウから発せられるものの、確かにアカザは意気地なしだと受け入れた。実際にうじうじと言い訳を重ねていたのだから、言い返す言葉がない。

 

「おば様に感謝しなさいよね。叩きのめしてこんにゃろうと思わせて戦わせたいんじゃない。なんもないあんたに」

「……頼んでない」

「あー! もう! あんた見てるとイライラすんのよ!」

 アカザが反抗的な態度を取るとすぐに怒り出すキキョウ。

 この場合、アカザも情けないのだろうが、せめてなけなしの優しさくらい掛けてほしい。

 

「……もう少し、……きつい言葉は完全出来ないのかよ」

「はぁ!? あれだけおば様に気を使ってもらっているのに、もう必要ないわ」

「……あれで?」

「あんたに期待してるのよ。でなきゃ、忙しいこの事態の中であんたなんかと組手することなんてしないでしょうが」

 彼女の言葉から察するに、ナオトラはだらけているアカザが憎たらしくて、アカザをフルボコにした訳ではないらしい。

 

 しかし、活を入れるのであっても、もう少し説明してからやってほしいのが本音だ。

 剣道の試合なら始まりの礼くらいはするものだ。

「冒険者が礼なんて知っているなんて……。それこそ思わないわよ」

 流石に酷い偏見である。

 まぁ、アカザは桔梗の偏見を直そうとする気もない。

 

 

 

 アカザはとにかくギルド会館、城から出ていく。

 時間はそれなりに経って、もうそろそろ15:00時になろうとしていた。

 アカザはまっすぐには【常春】に帰らず、その辺をぶらぶらとうろつく。

 

 前よりはマシになった。だが、新しく作られている家は未だに骨組みだった。

 この世界の技術は、製作の速さが凄まじい。

 例えば【製作】スキルを使うことで時間短縮で出来る【生産アイテム】。

 【調理】ならば味がつたないとはいえ、調理過程すっ飛ばしてパスタやハンバーグができる。【鍛冶】なら耐久値が0にならない限り、折れない刀や剣ができる。

 

 前の世界では普通に家を建てる場合、検討段階、契約申請、着工準備をしてから工事に入る。それで1年以上の時間がかかる。

 しかも、【エチゴ】は個人的な家ではなく町単位の復興。日本の歴史で言えば大震災が起きて5年で仮設住宅が撤去され、完全に復興できたのは10年近く経ったらしい。

 

 仮に家一軒できるのが【農場】の【倉庫】と同じなら、3日(72時間)と材料、お金(500万キャッシュ)をそろえれば建築できる。

 だが、ゲーム時間なら1日1時間となっているので、2ヶ月と2週間弱程かかる計算になる。スキルのクールタイムが現実なのに、家の建築がゲームの時間というのが疑問だ。だけど、いい加減なこの世界に規則性を求めるのも無理だった。

 

 目が虚ろで精力がなくなってしまった人々も回復してきて、殆どの者が復興に力を入れている。そんな中で怠けて何もしていないアカザは、他人から見れば死んで復活したが虚ろになってしまった者と変わらないのかもしれない。

 

「だからって、俺に何ができるんだよ」

 自虐的に独り言を呟く。

 真っ先に思い付いたのは、復興を手伝う。

 だが、目の前で親方の指示に従い木材を運んだり、木槌を打って働いている職人たちと一緒に居る自分が想像できなかった。

 腕には筋肉はそんなに付いておらず、ひょろりとした体格の自分が作業を着て元気ハツラツで働いている姿など、違和感を感じずにはいられない。

 

 まだ、ナオトラにコテンパンにやられている方がらしい。

 意気地なしの引きニートが、無理矢理引き吊り出される。親でもない赤の他人にだ。

 なにも思わない訳がない。

 自分の領域を犯された、悔しい気持ちはある。憎しみもあるかもしれない。

 勝ちたいとも思う。この糞アマと毒づきたかった。

 

 だが、どうすればいいのだろう。

 ナオトラに勝つには、まず何をすればいい? それだけが頭の中で空回りしている。

 

 ゲームなのだから、ステータスを上げれる?

 ナオトラとアカザのステータスは、ナオトラの方が上回るステータスもあるものの、絶対的な差ではない。負けたのはステータスの差よりも、技術面に関しての方が強いと思っている。

 

 そもそも、現実での筋力トレーニングは参考にはならない。ステータスという概念が存在するため、アカザのような筋肉が付いていない細腕でも、1.5キログラムある刀やそれ以上の重さがある野太刀、ハンマーを何度も振ることができる。

 そもそも、それで筋力(STR)や頑丈《DEF》が向上しても、ナオトラには勝てない。

 

 では、技術面になる剣術、兵法などを磨くにはどうしたらいいか?

 手っ取り早いのは誰かに教わる、だ。

 

 でも誰に?

 

 アカザの頭の中に、候補として挙がったのはナオトラ。

 打ち負かされた相手であるものの、決して関係が悪化した訳ではないと思う。

 だが、キキョウの話から今でも忙しいのに自分に時間を引き裂いてくれるか。それにアカザ自身、後ろめたさもある。

 

 で、他には?

 

 アカザは他の英雄、ジークフリートを頭の中に思い浮かべ、直後にその傍に居る姉の顔を想像してしまった。

 姉に頼んでしまえば、最高の条件で学ばせてくれるだろう。だが、余り会いたいとは思わない。親類なので気が引けるし、何より姉が何をしてくるか分かったものではない。

 

 そこでふと思う。また言い訳していないか?

「……まぁ、あと2日したら会いに行く予定だし。うん。その時に話せばいいや」

 明日から本気出すといった無職の言い訳。

 それを自覚すると情けなくなってきた。アカザは今日何回情けなく思っているのだろう。

 そんなことを思いながら、とぼとぼブラブラ歩くアカザ。

 

 その時、強い奴と言えば【鬼道丸】を忘れていた。あの時、強いと思っていた相手に勝てたのはなぜだろう。今更そんなことを考え、【暗鬼鞘】から親指で鯉口を開いて【鬼道丸】が喋れるようにする。

「なぁ、どうやったら強くなれる?」

【…………】

 いつもなら刀を抜いたとたんに喋り出す【鬼道丸】だが、今回はピクリとも言葉を発しようとしない。

 

「……おい?」

【…………】

「何か喋れよ。今更、他の鞘と同じような特徴のない鞘になんのか?」

【…………我の唯一の見せ場で、戦いの場では黙れと言われ、これまでの貴様の散々たる我の扱いに憤りを感じられずにはいられない】

 どうやら不貞腐れているらしい。

 

「分かった、分かったから。今までのことは謝るから、手っ取り早く強くなれる方法を教えてください。【鬼道丸】先生」

【何の抑揚なく言われても嬉しくないわ! それに一夕一朝で強くなれるのならば苦労せん! 我とて強くなるために何十年も刀を振り続けたからな!】

 やはり修行編に移るしかアカザが強くなる道はないらしい。

 

 マンガやアニメだと1ヶ月後、1年後とすぐに飛ぶ。

 が、アカザが1年中、同じことを続けられるだろうか。

 そもそも、肉体的苦痛に嫌気が差して投げ出してしまうように思う。

 前の世界ではアカザが腹筋や腕立て伏せをしようと思い、最初の数日は続ける。が、いつの間にか、自然としなくなっていたというケースが多い。

 

 意志が弱いと言えばそれまでなのだが、アカザが自発的に行動し続けなくても、誰も何も言わないため、やめることも容易い。

 具体的な目標もなく、ただ漠然と体力と付けておきたいといった動機だが、続けられなかったのだ。

 

 まず、そこをどうにかしなければ修行も、前の世界のように投げ出してしまう。

 投げ出さず継続するにはどうしたらいいか。

 今度はそこを考え始めた。

 

「……発見。……確保、移行」

 アカザの後ろから鎖の先端に金属の針が付いた鉤縄が飛んでくる。その縄はいとも簡単にアカザの体に絡まり、動きを阻害する。

 

「え」

 

「……連行」

「え?」

 考え込んでいたせいかアカザは反応が遅れて、拘束してきた人物に引きずられる。

 長い黒髪から生えた獣耳と猫のような緑眼が、獲物を口で咥え引きずる虎か獅子を思わせるシャム。

 アカザが本気で抵抗すれば、ただの鎖はいとも簡単に壊せた。だが、何かしらの呪符のような物が張り付けられ、アカザがどう抗おうとも決して破壊されることはないアイテム【縛札鉤鎖】。

 

 ゲーム内では使用すると、ターゲットしている相手の地面から飛び出て拘束する足止め用のアイテム。拘束された相手は攻撃することができなくなり、攻撃できるものも拘束した本人しかいない。

 だが、その相手に攻撃を加えてしまうと、鎖の拘束は解除される上に解除されてから5秒は攻撃は無効化される。

 

 昔はこの性質を利用し、パーティメンバーの見方が盾役に【縛札鉤鎖】を使い、その盾役を攻撃して5秒間無敵にするという荒業もあった。

 だが、盾役は拘束されて動きは取れず、相手をしていたモンスターの敵愾心(ヘイト)がリセットされ攻撃対象が他のメンバーに移ってしまう。

 

 事前なくやってしまうとメンバーは混乱し、パーティが崩壊してしまうので、面白がってそういった事態を積極的に引き起こす荒らしや地雷プレイヤーが急増したため、アイテムの【縛札鉤鎖】はプレイヤーは使えなくなった。

 

 後にスキルとしてスキル群【忍術】、【縛札鉤鎖】として、リメイクされたが当然プレイヤーには使えず、モンスターやPVPで対戦中のプレイヤーしか使えない。

 

 が、シャムが使っているのはスキルとしての【縛札鉤鎖】ではなく、アイテムとしての【縛札鉤鎖】だ。

 

「どこでそんな物を拾ったし」

「……警邏、詰所、嘆願、頂戴」

 兵士の詰所から頼んで借りて来たらしい。

 シャムはまるでソリでも扱うようにアカザを引きずるから、地面に擦られて服や顔が汚れていく。

 

「せめて立たせろ。周りの通行人の視線が痛いんだぞ。ってか数多も擦ってるから禿げたらどうするんだ!?」

 人が引きずられるのがそんなに珍しいのか、それともそれ程のことをした極悪人に思われているのか。ともかく、周りの人はアカザたちを遠巻きに見ている。

「……シルフィール、連行、アカザ、強制労働、開始。……故、心配無用」

 

 つまり、シルフィールが煮えを切らし、シャムを追手として差し向けたようだ。

 

「やめて! せめて職業選択の自由くらい与えてくれ!」

「……問答無用」

 自分が強くなるよりもまず、社会に貢献しなければならないらしい。

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