廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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 遊郭【常春】の一室。畳の上で向かい合っているアカザとトゥルー。左右にはシルフィールとシャムが正座している。

 

「また、トゥルーを置いて行っちゃうの?」

 上目遣いで見上げるトゥルーは保護欲を掻きたて、守りたい、傍に居たいと本能をくすぐられるが、鉄の精神で踏み止まる。

「……行かないと後が怖いんだ」

 もしこのまま姉のことをほったらかしにしていたら、【エチゴ】に姉が軍勢を引きつれて来るところまで想像できてしまう。

 

「……トゥルーも行きたいな」

 ぽつりと呟やかれた言葉だが、トゥルーには移動手段がない。

 シャムのように一度でも【スカンヴィナ】に訪れたことが在るのならば、【巡航の羽根】で都市へ一瞬にして移動が可能になる。だが、トゥルーが訪れたことが在る都市は【エチゴ】と【キョウノミヤコ】のみ。【ペット】による空路でも、3日ぐらいは掛かるだろう。

 

「アカザさんのお姉さんに会いたいんだけど、次行くときは連れて行ってくれる?」

「ダメだ!」

 もしトゥルーを姉に紹介したら、何が起こるか分からない。ヤンデレに浮気してますなどと言って、無事で済むわけがない。アカザもトゥルーも何かしら巻き込まれることは確実だ。

「なんでー!」

 ぷんすかと可愛らしく怒り出すが、アカザはそんな子羊を腹空かせたドラゴンの前に差し出す気はない。確実に食われる。

 

 だが、アカザの考えが分からないシルフィールは怪訝な顔色をする。

「挨拶はしておいた方がいいだろう。仮にも技を教えてもらい、同居している身だ。礼を失するわけにはいかんだろう」

「そんなこと言ったら、姉さんが嫉妬してここ来ちゃうだろ!?」

 もし姉が今の地位を捨ててこっちに住むとなると、アカザと一緒に居ると言いだしかねない。忌避感と危機感を感じている相手が、四六時中隣に居るというのは何の拷問だろうか。

 

「……アカザ、姉、危険」

 トゥルとシルフィールを姉に会わせたくないというのは、シャムも同じらしく援護してくれる。

「シャムも何を言っている。こいつの姉はそれほどまでの悪人なのか?」

「そうだよ。アカザさんは身内だから恥ずかしがっているだけでしょ?」

 だが、姉の性格を知らない二人は、アカザたちが合わせたくないと言っていることに首を傾げた。

 

「……前、姉弟、殺し合った」

「え」

「何を言っているんだ、シャム」

 シャムの殺し合ったという言葉に唖然とした二人。言う暇もなかったことが、言ったところで心配を掛けるだけなので黙っていた。

 こうなっては説明しないといなけないと思い、仕方なくアカザが前に姉と会った時に起こったことを告げる。姉が一国の玉座に座っていたこと、世界征服を企んでいること、アカザを欲していること、衝突して殺し合いになったこと。

 

「……大丈夫なのか、そ奴」

 話し終えた後、部屋の空気が重くなってしまう。沈黙の末、シルフィールは眉を顰め聞いて来る。アカザは口籠ってしまう。

 正直行きたくない。何が好きでヤンデレブラコン姉に合わなければならないのか。

 

「頭が良すぎて、常人には理解できないってことはある。多分それの類だよ姉さんは」

 アカザの出した結論は今も昔も変わりない。

 姉や両親とは関わらず、距離を保っておきたい。家では基本、部屋に引きこもって会わずに過ごしていたのだ。両親からは腫れ物のように見られていたから、嫌で仕方なく逃げ出した。

 しかし、生きるためには食べ物は必要で、台所に降りて嫌々ながら顔を合わせていた。顔を合わせる必要がなくなるのなら、一生合わさないだろう。だから仕方なく行くのだ。

 

(……気が重い)

 内心では、顔だけ合わせて数分で帰るつもりだ。わざわざ嫌な相手と、長く話をしなければならないのか。彼女は何時間【スカンヴィナ】に居るなどと制限は掛けていない。

 そう言う腹積もりになったアカザだが、その考えを打ち消すように強く声を掛けられる。

 

「だったら、仲直りしなくちゃいけないと思う」

 真っ直ぐ、こちらを見つめて来るトゥルー。先程の可愛らしい怒りの表情は一転し、童顔に似合わない真顔になっている。

 

 だが、アカザは今更、仲直りしようとも思えない。

「仲直りもなにも、会いたくないってだけだ。喧嘩をした訳でも……いや、怖いから会いたくないだけだ。仲が良い、悪いじゃなくて、好き嫌いで嫌なんだ。誰だって好き嫌いあるだろ」

 姉弟喧嘩が殺し合いに発展している時点で、仲が良いとは言えないだろう。だがそこに相手に対する苛立ちや憎しみはない。どちらかと言えば、相手の行動を認められず激突した形だ。喧嘩と言うよりは争いに近い。

 喧嘩なら不満を吐き出せば収まることが多い。だが、争いはどちらかが勝たないと終わらない。そして、争いの遺恨を残すことにも繋がる。

 

 アカザはもう既に姉と争ってしまったのだ。

 仲直り、関係修繕ができるとは思えないし、しようとも思っていない。姉弟らしく関係を持ちたいと思ったことはない。むしろ、この世界に来た時は家族から解放されて、嬉しさのあまり叫んだほどだ。

 

「家族なのに?」

「むしろ家族だから、会いたくない」

「恥ずかしいの?」

 鋭く胸に突き刺さる彼女の言葉に、体を硬めでしまう。

 恥ずかしいかと聞かれれば肯定だ。

 前の世界で無職な弟と大規模な会社を立ち上げた姉。こっちの世界でも半端者の冒険者と一国の主。比較すればどちらが優秀か一目瞭然で、自分が矮小すぎて、どうしようもなくみっともない。

 

「だったら何」

「だから、仲良くするべきだと思う! 自分が恥ずかしいだけなんでしょ。お姉さんだってアカザさんに何も思わないはずがないよ。本当に悪い人なら、数で取り囲んでアカザさんを倒しに掛かればいいだけ。そうでなくても決闘とか【手加減】のスキルを使わなくたっていい。受けたってことはアカザさんを大切にしているってことでしょ! だったら!」

「お、おい、トゥルー?」

 突然の彼女の強く訴えに狼狽してしまう。だが、トゥルーはアカザを涙目で睨みながら、切迫した声で告げた。

 

「他人じゃなくて、家族なんだから大切にしてよ! 最初から居る味方なんだから!」

 

 トゥルーに家族が居ないことを、今更ながら思いだした。

 アカザにとっては会いたくなくても会える姉。

 トゥルーにとっては会いたくても会えない家族。

 どちらが良いか悪いかではない。感情の問題だ。

 

 トゥルーにとっては羨ましいのだろう。アカザには姉と言う家族が居ることが。だから、嫌々会いに行くアカザに感情的になってしまった。

 

 その後、トゥルーは堪えるように俯きになってしまい、アカザも何も言えなかった。家族がいない気持ちを寂しいと感じることは出来ない。故に彼女の気持ちに反論できない。

 その場に居たシルフィールもシャムも何か言うことはなかった。ただ、重い空気が流れこのまま夜が過ぎようとした時、部屋に足音が聞こえてくる。

 

「失礼します。夕飯ができましたので降りてきてくださいませんか」

 障子を開けて、しっかりと正座して頭を下げるヤマブキ。まるで客をもてなすみたいに、部屋の重い空気にも負けずに笑顔で話しかけて来る。

「あ、ああ、頂こう」

「……ありがとう」

 部屋から逃げられる救いの手を借りて、退出するシルフィールとシャム。

 だが、未だ動かないトゥルー。このままではアカザが考えを変えるまで、ここに居続けるのではと思ってしまう。その部屋の重圧は、体を重くしていて空気を変えてくれたヤマブキはもう居ない。なので、自分から方針を転換することにした。

 

「できるだけ……話し合ってみる」

 そのことを呟くと部屋の重い雰囲気が幾分か和らぎ、トゥルーも顔を上げる。

「ごめんなさい」

 いつものように声に元気がない。それに、彼女ならば「ありがとう」と返すかと思っていた。だが、アカザはその言葉を確かに聞いてから、部屋を出る。

 トゥルーが部屋を出て食事処に来たのは、もう少し時間が経ってからだった。

 

 

 

「はぁぁああ~」

 昨日のことを思い出したアカザは、【スカンヴィナ】の城壁近くで深々とため息を吐く。

 足取りは重く、今にも【エチゴ】に帰り出したい。だが、【大陸移動】は一度使ったら30分は再使用できない。

 

 気が重い。だが、ここに居ても何にもならない。ともかく城へと足を向ける。

 空には厚い雲が日差しを遮り、粉のように乾いた雪が降る。【スカンヴィナ】は1年中雪が降る設定の国だ。

 温暖な気候の【エチゴ】からいきなり気温が下がる。また積もった雪が視覚的に寒さを脳に与え、身震いする。前に来た時よりも風が吹いているため、衣服の隙間から肌が冷えていきそうだ。

 

 アカザは【錬金術師コート】の上から【ファーローブ】を装備する。アカザの足元まで覆い隠す程に長い、茶色のモコモコした毛皮のローブは暖かい。

 雪が掛からないようにフードを被って歩く。まるで毛布を着こんでいるような、魔法使いにも見えそうだ。

 周りの人もコートやマフラー、ローブ、傘、合羽などの雨具を着ている。だが、強い風が吹けば、冷気が体を強張らせる。アカザはステータスが高いためか、【ファーローブ】が優れているのか、それとも鈍感なのか、風はそれほど気にならなかった。

 

 城に向かって歩いていると、酒場は開いており、中から熱気が出ている。ドワーフたちがジョッキを片手に酒を飲んで、わいわい騒いでいた。こんな寒い中だからこそ彼らは酒を飲んでいるらしい。

 

 

「がはは、今度はドでかい船を造るように王女様に言われたぜ」

「ドでかい船? 戦艦か?」

「そんなちゃっちい物じゃねぇよ。今までの船とは別物だ。俺の腕の見せ所だぜ」

「お前じゃなくてドワーフたちのだろ。お前一人で船が作れるもんか」

「はっ! 違いねぇが、王女様からこの依頼を承ったのは俺だ。この中じゃ一番信頼されているだろうさ」

「はっ! 俺らは玉座の建て直しを命じられたぜ。『あの方』の、この国の象徴だ。軍艦なんて下っ端のお前らの仕事だろうさ」

「ああ!? てめぇが王女様の繊細な魅力を表現できるとは思えんがな!」

 どうやら姉はドワーフたちに仕事をさせて、彼らはそのことに自信を持っているらしい。職人の誇りのような物だろう。

 

「しかし、玉座を破壊するほどの手練れとは。俺ならこの腕でそんな奴分、殴ってやったものを」

 そう言うドワーフは腕を曲げて上腕二頭筋を曝け出す。筋肉質で、触るまでもなく硬いのが分かる。

 

「何を! 俺の方が腕が太い! てめぇの枯れ枝みたいな腕と比べものにならん!」

「やるかこら!」

「上等だ!」

 酒場の中は喧嘩沙汰に発展してしまい、外の方にも酒瓶や喧噪が飛び出してくる。慌ててアカザは酒場から離れた。

 

 話の内容で彼らには姉にはいい王として目に映っているらしい。他人の前では基本猫かぶりなのだろう。それも完璧に演技している。

 

「考えてみると、周りは敵だらけってことか」

 民の信用、兵の士気を完璧に掌握している姉の一言でアカザを追い立てるだろう。人海戦術。長期戦なんてされたら、アカザ1人では逃げるしかないだろう。

 

(待て待て、戦いに行く訳じゃないんだぞ)

 思考が先頭に傾いていることにストップを掛ける。まずは姉に何を離せばいいのか考えるべきだ。

 そして、愕然とした。姉との会話の内容が思いつかない。お土産でも持ってくればよかったと後悔する。

 

 いつものようにその場しのぎ、出たとこ勝負で行くしかない。

 そう考えを纏めると、城の城門の前まで来た。

 入口の端に2人の兵士が立って、門番をしている。この雪が降る中、見ているだけで寒そうだ。だが、城を守っているという使命からか、近づいてくるアカザに持っているハルバードの矛先を向けた。

 

「おい、浮浪者、止まれ。貴様のような者が来ていい場所ではない。立ち去れ」

 アカザは今、フードを被っているため顔がよく見えない。恐らく、乞食か貧乏人とでも思われているのだろう。

 だが、これはチャンスではないだろうか。

 門番に言われたから帰らざるおえませんでした、と一応の言い訳が付く。まぁ、これで帰ったら帰ったで、非難されてしまうだろう。

 姉の方も何をするか分からない。とりあえす、この2人の門番は解雇されるだろうが。

 

 仕方なく、アカザはフードを取って、素顔を見せる。

「姉さんに言われてきてるんだよ。帰っていいのなら帰るぞ」

「姉? 誰だ」

「ここの城主だよ」

「はっ! 俺は名前を聞いているんだぞ」

 キャラクターチェンジができる姉は、キャラクターネームなど幾らでも変えられる。つまり、名前など今のところ分からない。

 【フレンドリスト】を見てもルーレアはログイン表示がされている。だが彼女がどの種族の姿で、彼らに接しているのか分からない。ルーレアなのか、クスフィーなのか、他のキャラクターなのか分からないのだ。

 だが、彼らはアカザの言葉を戯言と捉えている。

 

「それにあの方にお前のように不細工な弟が居る訳ないだろ! 冗談も大概にしろ!」

「お前の姉はオークかゴブリンだ!」

「ああ! そっちの方が納得できるな!」

 ゲラゲラと笑いだす門番たち。事実が嘘だと思われるのは仕方がない。アカザもあの姉と血がつながっているとは思えない。さてどうしよう。帰りたい。

 

「何の騒ぎだ」

 門番たちの笑い声に気付いたのか、大柄な戦士が近づいてくる。

「……貴様か」

「いきなり人の顔を見て嫌そうな顔をするか、普通」

 アカザの顔を見た精悍な顔をした英雄。ジークフリードはその顔を苦虫でも噛んだような表情を見せる。それほどまでに嫌いなのか、ともかく失礼な奴だと思った。

 

「ジークフリード様になんて口の利き方をする!」

「いい、どうせ無駄だろう。『あの方』が呼んでいる」

「え、あの……」 

「こいつは『あの方』の弟だ」

「……は?」

 ジークフリードの言葉に唖然としてしまう門番。あんぐりと口を開けて、目を丸くして付いて行くアカザを見送った。

 

 彼の後に付いて行く。豪華ではないが気品がある廊下を歩く。道中で会う執事や侍女は前に1度だけアカザを見ているから、全員が頭を下げている。もしかしたら、竜殺しの英雄であり前王の王子である、ジークフリードの方に頭を下げているのかもしれないが。

 

「失礼、弟(ぎみ)を連れて参りました」

 ノックし、ジークフリードは扉を開く。

 そこには大きな天蓋付きのベッドの上に座る姉、ルーレアが居た。

「ああ、待って居たよ。行君! さぁ、こっちに来て一緒に寝ましょう?」

 その言葉を聞いて頭の中で最大の警報が鳴る。

 

 何よりも虎のように獰猛でありながら、蠱惑な表情でアカザを見るので怖い。

 しなやかな体に纏っている薄い黒の布地は、体を隠しきれてはおらず、ちらちら見える体のラインと浮かび上がる膨らみが目線を誘う。

 色気をアカザへと振り撒き、魅惑の表情を浮かべる。ただし、彼女の目から逃がさないという意思が伝わって来る。

 どう考えても襲い掛かる雌豹だ。

 

「では」

 と、即時退散するジークフリード。しっかりと扉を閉めてしまう。もっとも姉は彼のことなど気にしてなかったようで、アカザしか眼中に入っていない。

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