廃人ゲーマー<ゲームでも現実です   作:中二ばっか

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「アカザさん。木工ギルドってどんなところ?」

「簡単に言えば、木材の加工」

 木工ギルド、【木工】の生産ギルド。

 生産ギルドはスキルに使うアイテムの販売、道具やある程度の素材、アイテム生産の成功率を上げてくれる支援効果(バフ)の付与、後はアイテムの修理などをしてくれる。

 基本【木工】は弓矢、楽器、杖などの装備、家具の調度品、後は薪などを製作するスキル。

 

 また、ゲームの設定として石工ギルドと同じく建築業を兼ねている。

 

 【エチゴ】の木工ギルドは連日、鋸で原木を加工する音が響いている。今、朝の7時だが、それでも作業の音が響いている。中に入ると木の独特な匂いが鼻を突く。

「良い匂いだね」

「そうか?」

 付いて来たトゥルーはスンスンと匂いを確かめている。彼女はエルフなので、森の香りが恋しいのかもしれない。

 アカザは工場見学で嗅いだ化学染料、薬品などの匂いと比べてみる。正確な匂いは覚えていないが、ただ、鼻が痛いような匂いだったことは覚えている。そうなると、ここの木の香りは匂いがきついが、痛くはない。

 

「来たか」

 木工ギルドの親方、モクゾウ。

 老人のはずだが、その眼光には衰えを感じない力強さがある。徹夜しているのか目には隈があり、目つきがすごく悪くなっている。

 前髪から後ろに束ねた白髪。鍛え上げたように硬い皮膚。皺が入った顔をいつもしかめているため、皺がもっと深くなってしまう。

 そんな厳つい老人が、周りに居たがっしりとした体格の職人たちの代表だ。

 

「注文の物は出来ている。さっさと持っていけ」

 ぶっきらぼうに言い、そのまま木材の加工に戻るモクゾウ。

 

 だが、注文したものがどこにあるのか分からないアカザは、きょろきょろと辺りを見渡すが誰もが忙しく手を動かしている。なので声を掛けられず、どうしたらいいか突っ立ってしまう。

 

「あの……」

 やっと口から出せた声はかなり情けない。

「裏だ。さっさと行け」

 そんなアカザを見かねて、もしくは目障りと思ったのか、急かしたモクゾウ。アカザも怒られるのは嫌なので早々に木工ギルドの裏側に行く。

 

 そこにあったのは舞台装置のような物。木材で作られ簡易的。柵があるので船の甲板にも思える。

 6角形状の巨大な板で大きさは大体、体積が100メートル四方あるかないか。

 舞台の端にある6つの所からは太く頑丈な鎖が伸びている。

 

「……まじか」

 アカザの要望が全て叶えられている品物が出来上がっていた。

 床も柵も堅甲に作られていて、多少の事ではビクともしそうにない。だが、重量はそれほど重たそうではない。試しにアカザが持ち上げられる程度(この場合、アカザの筋力ステータス(STR)が高いこともあるのだろうが)には軽い。

 

「アカザさん。これって何する道具なの?」

 不備がないか確認しているアカザに、首をかしげながら聞いてくるトゥルー。

「大勢の人が移動するために必要な物だ」

「?」

 答えるとますます訳が分からないと、顔に出す。トゥルーから見れば足や車輪、翼が付いている訳ではない。

 

 とは言え、このまま移動してしまう訳ではない。けん引してもらって移動する、言わばソリや気球のような物。

 けん引してもらう生物は、【大型騎竜】。

 

 大量の雪が降るようにして、白い粉の中から体長60メートルほどの巨大な生物、ドラゴンが現れる。

 

 以前呼び出した【大型黒騎竜】とは外見が異なり、蝙蝠のような翼は1対、角はなく、体は刺々しい甲羅ではなく滑らかな鱗に覆われている。鱗の色は灰色で、どことなく家に居るようなヤモリを連想させてしまう。

 

 【竜騎士】の基本スキル入手時に得られる竜の一種で【大型騎竜】はスタンダードな能力で、時間制限はない。だが、課金サービスとして得られる【大型黒騎竜】と比べると攻撃力や防御力が劣り、属性もない。

 あくまで基本(スタンダード)としての大型【騎竜】なのだ。

 さらに言えば、今回は戦闘がメインではないし、長時間活動できる方がいい。

 

 【大型騎竜】に6角形状の台の端に取付けられている鎖に繋げる。

 気球のような要領で、4つ脚部、首と尻尾の付け根に鎖を巻付ける。そのまま、浮上して吊り下げられた6角形状の舞台装置のようなものは浮かび上がる。

 

「すごいね!」

「そうか?」

「だって、こんなに大きいのに、それが飛んじゃうんだよ! それを考えたアカザさんもすごいけど」

 以前、1人用の【飛騎竜】にトゥルーや【ペット】にキキョウが余剰スペースに乗ったことから、考え付いた。もし、【騎竜】や【ペット】に余剰スペースや積載量に余裕があれば、設定されていた人数やこれで、大人数の職人や戦闘員を移動座せられる。

 

 トゥルーにとっては気球や飛行機といった物を見たことがないから言うのだ。もし彼女が、飛行機を見たらどのような反応をするのだろうか、と考えてしまう。

 

「きっと、今と同じようにはしゃぐんだろうな」

 何せ巨大な竜が居るのに怖気づいていないのだ。いくらアカザの制御下にあっても、例え下級であっても、その巨体から発せられる存在感は、猛獣のそれだ。

 なのに、何も心配なさそうに目をキラキラさせている。

 

「後は何人乗られるか、か」

 積載量に不安を感じるのなら、【大型騎竜】の数を増やせばいい。制御は難しいだろうが真っ直ぐ進むだけなら問題ない。後は【エチゴ】の入口にある大門にギルドメンバーが集合している所へと向かう。

 

「とう!」

 吊り下げられた6角形状の舞台装置に軽く【ジャンプ】してアカザと元気よく飛び乗るトゥルー。

 

「ねぇ、これなんて言うの?」

「うーん? 牽引される積載のために使われる台で【牽積台】で、いいだろ」

 と、浮かんでいる6角形場の牽引積載の台、とシンプルに【牽積台】と名付ける。

 

「なんかすごく迷わなかったね。もっと時間かけるかと思った」

「は? なんで」

「だって、まだギルド名思いつかないんでしょ? それに名前にこだわりがないような感じがする」

 確かに、文字を取って繋げただけで何のひねりもない。

 

「あれはみんなの物だからな。これは俺の私物だ。金も素材も俺が出しているんだから」

「? でも、これもみんなで使う物でしょ?」

「所有物の権利というか……。第一【大型騎竜】を持っているのって俺ぐらいだと思うぞ」

「そういうもの?」

「たぶん。俺の物をどうしようが俺の勝手だけど、みんなの物に俺が勝手したらいけないだろ?」

「自分の物だって大切にしなくちゃだめだよ」

「そりゃそうだ」

 トゥルーに物に飽きたら捨てるという奴だと思われてしまったのだろうか。

 基本パソコンがあればいい。本は図書館で借りる。他の趣味もない。なので、アカザは物を買うというのは食料ぐらいのものだった。

 それに大切に扱うというのは、最後の壊れる瞬間まで使う、大事に保管しておくといったこともあるので人によっても違うと思う。ゲームはアイテムは基本収集するため、それを手に入れるために掛けた労力があるから、飽きたら捨てるという概念はない。ただ、【農場】の【倉庫】に入れっぱなしというのはある。

 

 ただ、ギルドは大切な物だから、適当ではなく真剣に考えたいと思う。

 

 

 

 大門の前には飛んでくる【牽積台】と【大型騎竜】を見上げるクガたちが居る。

 とりあえず、草原に着陸し、予定していた12人を【牽積台】へと乗せる。

 メンバーはアカザとトゥルー、シルフィール、クロメ、ギュウタ、ロクオの第一パーティメンバーとクガ、タツキ、ユキエ、シャム、ミノリ、カンナの第二パーティメーンバーだ。

 

 12人乗ったところでまだまだ広さもあり、重くなったと感じることもない。風も穏やかなので、【大型騎竜】を強引に動かさなければ揺れる心配もないだろう。

 

「あそこ見てよ、美味しそうなリンゴの木がいっぱい!」

「と、トゥルーよ! さ、柵から乗り出すでない! 危ないだろう!」

 基本的に12人のうち殆どは空を飛ぶことに興奮気味で、下の景色を楽しんでいる。もっとも高度恐怖症な者は【牽積台】の六角形の中心で座り込んでしまっていた。

 

「確か、西にクガたちの里があるんだったよな?」

「その通りだ」

「大まかな進路は取るから、里の近くに来たら方角を指示してくれ」

「分かった」

 

 今回の目的はクガたちの里に居る家族や仲間の保護である。

 クガたちが任務に失敗したことから、里への援助、税の免除や食料、住処が提供されていた物がなくなった可能性があるらしい。

 だったら、アカザは農作業とギルドへの加入を条件に、ギルドの部屋と食料の配布を約束した。

 

 ただでさえ、【エチゴ】は食料が不足している。だが、アカザの【農場】で作られる食料には限りがある。なので、ギルドメンバー全員に【農場】を持たせた。

 

 クエスト【自分の農場を持とう】。

 採取クエストを20回クリアーすれば発生するクエストで、要求される素材を集会所の受付に渡し、クリアーすれば【農場】を持てる。

 作成費に掛かるのが10万キャシュ、【ツルハシ】、【スコップ】、【揚土】×20。また維持費として1ヶ月、1万キャッシュが自動的に【銀行】から引かれていく。

 

 そして、できるのが20メートル四方の広さを持つ【農場】。それから拡張するために、要求されるアイテム、主に【腐葉土】や畑で栽培した野菜を一定数、集会場の受付嬢に捧げなければならない。

 

 初期の【農場】では作られる畑は9面。

 ただ、戦闘をこなすクガたちには作物を栽培している時間がないため、その家族の収入も兼てやってもらうことになる。

 

「だけど、すぐに頷くとは思わなかったな」

「何故だ?」

「今までは里の戦闘訓練をやっていたんだろ? 当然里のみんなもやっているとして、全く畑違いじゃないか?」

「食べるためには仕方なくさせられた訓練だ。そうしない者には、食料の配給はない。家族の飢える苦しみを少しでも和らげたいと願って儂らは志願している。これほどの条件、むしろこっちから願いたいくらいだ」

 

 アカザとしては農業は虫、大雨や台風などの災害による被害により運に左右されやすく、また臭い匂いや体を使う重労働というイメージがある。だが、【常春】の遊女たちも【農場】で作物を育てている。

 【農場】は基本的に地震や台風などの災害はなく、また、数時間で作物が栽培できるので重労働ではないのかと思った。

 

「確か、全員で109人だったな。場合によっては往復することになるかもしれない」

「この【牽積台】なら100人など載せても余りがあると思うが……」

「だが、空を飛んでいるのは俺らだけじゃない」

 前に【レッドワイバーン】は生息地を超えて、空に居るアカザと【サンダーバード】を攻撃してきた。それが、今回もないとも限らない。

 

「だから、戦闘する余剰スペースはあった方がいい。やっていることは職人たちの護衛と変わりないからな。この大きさを俺一人でカバーするのも無理がある」

「……だから、儂らに今まで討伐系のクエストではなく、護衛のクエストをさせていたと」

「あ、いや? 単にお前らって罪人だから少しでも【エチゴ】に貢献している姿を見せないと、反感を買いそうだろ? で、直接働きぶりが見やすくて分かりやすい方を選んだつもり」

 

「まぁ、全員分の装備品を作っては見たものの、目立つな」

 クガたちは今、前に大量に狩った【レッドワイバーン】から作られた装備、剣や盾、弓、短刀を装備している。全員が赤い鱗を持つ装備なので、どうしても派手になってしまう。

 まぁ、アカザも赤は好きな色だ。だが、彼らはどうなのだろう?

「儂らはこういった物を用意してくれて感謝している」

「建前でも嬉しいよ」

「建前ではなく本音です」

「だけど、前に身に付けていた相手のステータスやスキル効果を打ち消す黒い布より貧弱だろ」

 誰だって、性能の良い装備の方がいい。アカザなら彼らの着ている装備よりも、ステータスやスキル効果を打ち消す黒い布に興味を抱く。

 

「……あれは不味い」

 クガの苦虫を噛み潰したような顔、といっても顔が狼なので凄んでいるようにも見える。

「不味いって何が? 確かにチート装備だから、攻撃する側にとっては面白くないだろうけど」

「あれは身に付けていると気分が悪くなる。どういう原理かは知らんが、(まじな)いゆえ、(のろ)いでもあるのだろう」

「……そんな状態で戦っていたのか?」

「身体だけは頑丈ゆえ」

 確かに、骨が砕けるような訓練を何度もやっていたのに、泣き言をせずに続けたのだ。アカザならパワハラか虐待で訴えたくなる内容だ。

 

「どちらかというと気力の問題だろ」

「戦う者なら根性はあって当然」

 何となくクガが脳筋か精神論者に思える発言だった。

 

「それに何処かの国には強大な能力を得る代わりに呪われる剣や鎧、指輪があると聞く。恐らく、そういった(たぐい)なのだ」

「ふーん」

 実際に弱体化する装備、【女神装具】がその象徴的な装備だ。

 条件付きではあるが、絶大な力を発揮することもできる。ただ、使い勝手が悪いので普段はそんなに使うことはない。それと同じだろう。

 

 ともかく、空の旅は順調だった。ただ、速度をあまり出さなかったため、朝8時に出ても、クガたちの里が見えてくるまでに時間が掛かる。

 その間に昼食を取ったり、武器の調子を確かめるために素振りをしたりする。

 そして、5時間近くかけてクガたちの里が見えて来た。


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