「あれがランクアップマジック………」
フランスの地に突如として出現した謎のデュエリスト黒咲隼は強力な『エクシーズ召喚』を駆使して、榊奴達を窮地に追い込んでいた秘密結社『シャドルー』の戦闘員を瞬く間に鎧袖一触した。
榊奴達は黒咲の口からエクシーズ次元に侵攻した融合次元『アカデミア』の存在とその裏に潜む『シャドルー』総帥であるベガの存在を知る。
次回、食戟ファイターARC-V
第三話「オルレアンの聖処女」 あなたが私のマスターですか?
遠月学園地獄の宿泊研修も二日目の予定を終了し、早くも三桁にも及ぶ脱落者を出した頃。一年生ながら遠月十傑が十席に位置する天才―――薙切えりなと行動を共にしていた新戸緋沙子は主の体調に気を配りながら自室への道を歩いていた。
「えりな様、今日は早めにお休みになられた方がよろしいかと」
「そう、ね。昨日は少し体力を使いすぎました」
無論、えりな様が疲れているのは合宿の日程ゆえ――――等ではない。緋沙子にとっては油断ならない課題も多いが、彼女にとってこの程度の合宿のどこら辺に脱落する要素があるのか疑うレベルとの事だ。
えりなが、そして緋沙子自身が焦燥しているのは昨夜課題後に行ったとある勝負事のせいである。
(結局あの男の口車に乗せられて一睡も出来なかった。これでは私が何のためにえりな様の体調管理まで任せられているのかわからん!)
実際には緋沙子の方は睡魔に耐え切れず一時睡眠を取ってしまったのだが、えりな様の方はとある困った先人のせいで本当に睡眠が殆ど取れていない。
「あ、いたいた~、やっほー秘書子!」
「こ、この声は――――」
今この状況で最も現れてはいけない声に動揺する。
最近なぜか『秘書子』呼びが定着しだした緋沙子だが、ここまでハッキリと言ってくる人物には数える程しか憶えはない。その殆ど全てがこの状況では絶対に出会いたくない存在だが、彼女はその中でも特大級の地雷だった。
「………アリス様、何度も申し上げるようですが、私は秘書子ではありません。緋沙子です」
「えー、秘書子は秘書子じゃない!あ、それよりもえりな!」
マズイ。
今の疲弊している主に彼女という劇物を近づけてはならない。
「アリス様!」
アリス様を引き止めようとする緋沙子の前にアリス様と共に歩いてきた黒木場リョウが立ちふさがる。
「下がれよ」
「番犬風情が、貴様こそそこをどけ!」
同じ薙切の従者同士、引けない戦いというのがある。
緋沙子と黒木場の間に火花が飛ぶ。体格差はあるものの従者としての気位では負けるつもりはなかった。
「…………緋沙子、いいわ。―――――さてと、アリス、どうしたの?」
「えりな、ミーくん知らない?」
ミーくん?
ペットの名前だろうか?
「誰?」
当然の疑問をえりな様も持ったようだ。
アリスお嬢様は感情に素直に生き過ぎている為いつも言葉が足りない。そういった所ではやはりえりな様が一番だと改めて緋沙子は認識する。
「あー、確か榊奴操って野郎です」
「っぶ!!」
黒木場の説明に思わず吹き出す。
全く持って似合わない。昨夜えりな様と並々ならぬ気迫で一粒の火球を制していた男を思い出す。
「そうよ。”みさお”でミーくん。せりかお姉様もよくそう呼んでいたわ」
「………まあいいでしょう。アリスお嬢様はどうしてあの方を探しているのですか?」
「だって昨日一緒にいたじゃない!」
「―――――へ?」
再びおかしな声が出る。
まさか、見られていた?昨日のあの光景を?
「お嬢――――それ以上は止しといた方がいいんじゃ」
「え、そう?あー、そうね。それはここでは重要な事ではないわ!私はえりなに会いに来ればミーくんを捕まえられると思ったのよ!」
「捕まえるって、そんな虫みたいな扱いは流石にかわいそうなんじゃ――――」
「いいのよ。別に怒りはしないわ」
「それはそうでしょうけど」
遠月の卒業生である榊奴は比較的温厚というか事勿れ主義なことがある。他人をからかいはするが、逆をされても決して感情が爆発しないというかそもそも緋沙子やアリスお嬢様では喧嘩相手などには見られていないのだろう。
「うーん、でも貴女達が知らないとなるとやっぱりアッチに行ったのかしら?ま、それならそれでいいか!」
「アッチ?何を言って―――――」
「秘書子には関係ないことよ!それよりえりな。ミーくんの代わりに私と遊びましょ?」
あっ、と声が漏れそうになる。
アリスお嬢様はえりな様の地雷を踏む事にかけては右に出るものはいないほどの人間だが、今回のものは緋沙子でなくともマズイと気づくものだった。
「…………今、私があの男の代わりと言ったのですか?アリス」
「え、ええ。どうしたの、えりな。顔色が悪いわよ?」
あのアリスお嬢様が怯えている!
当然だ。緋沙子ですらここまで怒り心頭になったえりな様を見たのは数える程しか無い。それはつまり、今の言葉が史上稀に見るレベルの超えてはならない一線だったことを示す。
「いいでしょう。一体私が何の代わりなのか聞いてあげます!」
「よ、よくわからないけどやる気のようね!今回はこれよ!古今東西のローカルルールを集めた大富豪に王様ゲームの要素を足した新感覚ゲーム!その名も―――――なんだったかしら、リョウくん?」
「…………あの野郎はハイパー大富豪とか言ってましたね」
「そう、それよ!」
こういう時この二人の物怖じのしなさにはある種の尊敬すら憶える。
「わかりました。ルールを教えなさい。誰が真の女王か教えて差し上げます!」
「ま、待ってください!えりな様、その勝負を受けてしまえば下手をするとまた徹夜になってしまいます!」
「勝てばいいのです。それともあなたは私が負けるとでも?」
違う、そうじゃない。
二人の口ぶりから言ってこのゲームを考案した人物が緋沙子の想像通りだとすれば一度や二度勝敗が決したところで終わるとは思えない。そもそも、勝敗がつくのかも怪しい代物だ。
「…………随分と弱気なんだな」
「なにっ!?」
「仮にも秘書なんだから主人より率先して危険に飛び込むべきなんじゃねえのか?」
「言わせておけば!」
黒木場の言葉に緋沙子の薙切えりなのお付としてのプライドにヒビが入る。
「そこまで言うならば受けて立つ!但し、結果は最初からえりな様がトップで私が二番だ!」
「―――最初から勝つ気のねえ奴がよく言うぜ。ぶっ潰されるのがどちらか、教えてやるよ!」
臨戦態勢に入った緋沙子に対し、黒木場も気だるげな雰囲気から一変バンダナを頭に巻き全てを食い殺さんと狂犬モードへ移行する。
「どうやら人数は揃ったようね。アリス、最初に言っておくけど私は手加減しませんからね?」
「勿論よ。これでミーくんとせりかお姉様がいれば完璧だけど、今は仕方ないわ!さ、始めましょう?」
今ここに薙切えりなと新戸緋沙子の地獄の宿泊研修での二徹が確定した。
「そうだ、まだこの食戟のテーマを決めてなかったですね。通例通りだと挑まれた側に決定権がありますが―――」
「俺はさっきのと同じでいいと思うぜ?丁度材料も揃っていることだしな」
四宮さんの視線が食材置き場に注がれる。
レギュムの魔術師の戦場とだけあって野菜関係は豊富でフランス料理らしく肉類も充実している。これだけの食材があれば余程無茶なものを作ろうと思わない限り新たに用意が必要なものはないだろう。
第一、食戟には「素材の調達も料理人としての技量のうち」という理由から、必要なものは予め各々で用意していなければならない。
今ここで何かが無いと喚いても何も準備せずに挑んだこちらに非があるのだ。
「なら、ひとつ提案があるんですけど、コイツで勝負しません?」
だから、仕掛けるのならばこの場にある範囲で最大限の効果を発揮するものでなければならない。
「俺のルセット?それも今日の課題で使ったテリーヌか」
「ええ、これなら俺の腕が多少未熟でも作れないことはないですし」
「お前、自分が言ってることの意味わかってんの?」
「ええ、勿論」
四宮さんの不可解そうな顔に満面の笑みで返す。
食戟においてテーマだけでなく作る料理ですらも限定することは必ずどちらかに票が傾くことを意味する。同じ料理というのはそれだけで間違え探しのように食べ比べによって優劣が簡単についてしまう。審査員の質にもよるが、舌の肥えた人間にとってはこれほど判定の下しやすい条件はない。
「それでも、今回の田所さんと創真くんの退学を賭けた食戟には相応しいメニューだと思うので」
「…………ま、後悔するのはお前だ。オーケー、その体で調理に掛からせてもらうよ。――――但し、途中で止めてくれと言っても聞いてもらえると思うなよ?」
「―――――怖いなぁ」
背を向けた四宮さんを一瞥し、直ぐ様テーマとしたルセットに目を通す。
「これで簡単な方って、本当にバケモンだな」
改めて見るとその完成度の高さに驚く。
そして同時にまともにやれば到底敵わないことも一目で分かってしまう。
「―――――――やっぱりここは、郷に行っては郷に従いますか。『レギュムの魔術師』には『魔女』の魔法を。究極のルセットには究極のルセットを―――」
四宮が動き出してから数秒後、榊奴もまた後を追うように同じ道を歩きだした。
「こ、これが卒業生同士の食戟」
目の前で起こっている自らの理解を超えた戦いに感嘆とも驚嘆とも付かない声をあげる田所に対し、幸平創真はこの場でただ一人四宮小次郎と対峙する榊奴操の動きを食い入るように見つめていた。
「何で―――――」
「不思議か?」
「堂島先輩。どうして榊奴先輩は自分の得意料理じゃなくて、四宮先輩のフランス料理を選んですかね」
確かに目の前の食戟は先程の創真達のモノとは正にランクの違うものだ。だが、自らの土台で余裕の表情を浮かべる四宮に対し、榊奴が顔には出さぬものの何とか四宮に食い下がっているのは創真の目にも明らかだった。
「アイツに
「ええ、まあ。実家でそれっぽいものは作ったことはありましたけど、本格的なのは今日が最初ですね」
「では聞くが、何故お前は初めて作った料理をさしたる間違えなく完成させる事が出来た?」
「そりゃ、課題でこれを作れって
「そう、それだ。料理人という生き物は未知の料理に対面した時、作ったことも食べた事も無いモノをたった一つのレシピで作り上げる事が出来る。誰でも一度はするだろう。まずはレシピ通りに作り、ある者はそれに自分なりの工夫を凝らしらしていく。そうして、いつしか全く新たな料理が生まれる。これは俺達料理人という生き物が一流と呼ばれるために必ず通ってきた果てしない道だ。だが、アイツは違った」
遠月学園元第一席堂島銀は食戟という戦場に立つ元第十席に対しハッキリと評価を下す。あの男は料理に関しては間違いなく凡人だと。
「知識を、技術をひたすら高めながらも榊奴操という料理人はその努力を全て目の前のレシピを忠実に再現することに注いだ。レシピとは言わばそれを創りだした料理人の魂そのものだ。アイツは凡人ながらたった一握りの天才に対抗するためにその天才
「天才を利用する…………」
レシピ通りに作るという単純な作業はしかし、全く以て平坦な道ではない。そもそも、料理人全てがそのレシピ通りの味を出せるのならこの合宿はそれほどの難易度では無くなるだろう。
つまりは、それも才能。
だが、その才能は榊奴操という料理人に致命的な欠点を埋め込んだ。
「アイツには自ら誇れるような
「じゃあ、どうして―――――どうして、あの先輩はこの学園を卒業したんですか!?」
「…………そうか、お前も」
幸平創真もまた、才能の無い人間だった。
榊奴操と同じく自らの最強の剣を未だ模索中の創真にとって、「
「お前がお前の父親と同じ道を歩む気ならば―――――知る必要のない事だ。お前と榊奴では目指すものも料理人としての在り方も違う。もしも、お前が自らの道を突き進むのなら父親の前に立ちふさがるのは恐らくあの男だ」
「俺の、親父?」
堂島はすでに理解していた。
幸平創真という料理人と榊奴操という料理人は決して交わり合う事は無い。もしも、このまま二人が料理人を目指すならば例え本人達にその気は無くとも必ず衝突することになる。
「覚悟しろよ?幸平創真。榊奴操は恐らく、遠月史上最も多くの料理人を挫折に追い込んだ料理人だ」
暫く出番がなさそうなので秘書子サイドを書いてみました。
ローカルルールをふんだんに盛り込んだ大富豪………。本来なら公式裁定員の資格を持つ主人公がいてこそのものですが、果たして決着は付くのだろうか?
えりな様:言わずと知れた料理全振りのお嬢様。
アリス:上より幾分かましだが、ローカルルールという単語すら知っているか怪しい。
黒木場:言わずと知れた勝利に貪欲な港育ち。
秘書子:黒木場以外に強く出れずこの卓の不幸成分を一身に担う苦労人。
さあ、今ここに正確なルールを誰ひとり把握していない恐怖の大富豪が始まる!
…………地域によって大富豪か大貧民かにわかれるらしいですが、筆者の地域では大富豪でした。