食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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 第九席の須郷さんは、リアリストなだけで十傑で一、二を争う常識人です。

 今回間章として書いていましたが、当初の想定より長くなりそうなので『極の世代』編として続けることにしました。


遠月の怪物

 須郷圭介という人間は間違いなく天才だった。

 一年時の宿泊研修は苦も無く突破し、秋の選抜で好成績も残した。スタジエールでもその才で存分に成果を上げている。二年時も同じく、最終学年になると同時に十傑入りするのは彼にとって至極当然なことだった。

 実家も薙切程ではないにしろ、古くからの名家であり遠月で生きていくうちに須郷についてくる者達も当然のように過ぎていく。卒業できるものは毎年片手で数えるしかいないという遠月を卒業するにふさわしい存在だろう。

 

「はい。では、定例の十傑会議を始めますね~」

 

 学園内に存在する会議室にこの遠月の頂点に立つ料理人達が一堂に会する姿は正に圧巻の一言。須郷でさえ、十傑の座について初めてこの部屋に足を踏み入れた時は若干の緊張があったほどだ。

 しかし、

 

「相変わらず揃わないねい。一席サマは当然として、二席と兄弟もいないとは………過半数ギリギリじゃん、これ」

 

「はーい、二席さんはさっき学園執行部に追いかけられてましたー」

 

 三席の巫山戯た格好をした少女に返答する形で応えるのは明るい声ながらも相変わらず暗闇から這い寄るような笑みを浮かべる八席の少女。

 彼女達の言うとおり、現在この部屋には須郷を含め十人いる筈の遠月十傑が半数近くしか存在しない。念の為に言っておくが、遠月十傑評議会とは学園の最高意思決定機関でありその決定には講師陣といえども逆らう事が出来無い程の重みがあり、それらが一堂に会する会議ともなれば無断で休むことなど到底許されることではない。

 

「最近は大人しいと思ってたんですけどね~?」

 

「なんでも昔の仲間が来てなんやかんやあった内に昔の熱い気持ちが戻ってー、最終的にどこかの部室を爆破していたそうでーす」

 

「まあ、流石ですね」

 

(おい、それは普通に刑事事件ものではないのか?)

 

 須郷もここに来る途中それらしき爆発を見たが、明らかに冗談で済むようなものではなかった。

 それなのにもかかわらず、八席の報告を聞いた黒髪の少女はまるでやんちゃをする子供を見るような様子で微笑むと何事もなかったかのように会議を進行する。

 

「では、ここにいるメンバーだけで始めましょうか。今日のお茶菓子は武蔵くんのお手製ですよ~」

 

「…………山でなったマンゴーで作ったパイだ。…………口に合うかわからんが、良ければ食べてくれ」

 

 そう言って立ち上がったのは二mを超える巨漢。

 第六席であるその男は大きめのパイを手刀で次々と人数分に切り分けていく。普通ならばそんな事をすれば潰れてしまうことは必至だが、その切られた断面は業物の包丁で寸断されたかのように一切の型崩れも存在しない。

 

(待て!何故この日本で普通に南国のフルーツが育つのだ!?あの山は一切人の手が加えられていない天然のはずだろう!)

 

 目の前で当たり前のように起こった異常な光景で思わず聞き流しそうになったが、このパイの材料がなったというかの山の異常な生態系も問題だ。

 遠月学園の敷地内に存在するその山へ以前銃で武装した護衛十人を引き連れて入った際には奥地へ迷い込んだ瞬間ものの数分で全滅した苦い経験がある須郷からしてはそろそろあの山の処遇について話し合うべきだと言わずにはいられない。

 

「本日の議題について私から――――――」

 

「ふっふーん、角崎。お前後輩なんだから私に少し分けてもいいんだぞ?」

 

「は?一つしか違わないのに先輩すんなよ、ババア」

 

「ば、ババア!?私はこう見えてもれっきとした高校生だから!もう成長止まってても別に年取ってるわけじゃないんだからな!」

 

「……………うぜえ」

 

 須郷の声はパイを巡る女子達の喧騒にかき消される。

 普段ならば、すぐさま配下の者がこの不届きな者達を黙らせるところだが生憎とこの部屋には十傑メンバー以外の立ち入りが制限されている為、今はどうすることも出来無い。

 

「フフ、相変わらず取り合うほど美味しいですね~」

 

「…………喜んでもらえて何よりだ」

 

「では、この調子で最近の出来事についてでも話していきましょうか~」

 

 須郷が腹立たしさに拳を握り締めている間にも黒髪の少女の言葉によって会議は思わぬ方向に転がっていく。

 

「…………先日山から湧き出たエネルギーに釣られて地底から爬虫人類を名乗る存在が出現した。…………一度は拳を合わせることになったが、最終的には互いに鍋を囲み合い和解に成功した為危険はない」

 

「最近の東北の乾季だけどさー、なんか遠月学園(ウチ)に雨神が間違えて紛れ込んでたみたいでね。丁重におもてなしして返したからじきによくなると思うぜー」

 

「なるほど、では今年の農作物への被害は台風さえなんとかすれば問題なさそうですね。それと、武蔵くんもいつもご苦労様です。彼等については薙切も把握していたのですが先に動いてくれたおかげで対した被害もなく済みそうですね~。お祖父様が今度お礼をするとのことですよ?」

 

「……………気にするな。…………いつものことだ」

 

(なんだ!?こいつらは一体何を話し合っている!?)

 

 この日本屈指の名門料理学校遠月茶寮料理學園に似つかわしくない会話に須郷は彼等の正気を疑う。しかし、運命の悪戯かこの場にいる人間は同じくおかしなものを見るような目をした角崎タキを除いては皆この話題に注目しているようで疑問を持った須郷はいつもとは逆に集団内の数の暴力によってその他の意見として切り捨てられてしまう。

 そんな不条理に嘆きながら、新参者にして第九席という己の立場に憤慨する。

 もっと力はあれば―――――。

 ここにいるもの全てに認めさせる力が欲しい。

 

「では、今日の話し合いは秋の選抜についてでしたね~」

 

 須郷が望みながらも手に入れることが出来ずにいる力を持つ第十席である車椅子の少女の号令と共に会議は進行していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私はこの時を待ち望んでいた。力を蓄え、あの女に一矢報いる日をずっと待っていた!)

 

 遠月第九席である須郷圭一の眼には最初から対戦相手である第十席薙切せりか以外写ってはいない。

 三年になるまでじっと耐え忍んでいた須郷を嘲笑うかのように一年で現在の地位を獲得し、今や表舞台に出ない第一席に代わり実質的に十傑を支配している傾国の魔女。彼女を含むここまで生き残ってきた同期は誰も彼もが須郷の思い通りにいかない変人ばかりで話によるとキワモノ揃いの『極の世代』等とも呼ばれているらしい。

 遠月を卒業し、栄光の道を突き進む事が決定している須郷にとってこの呼び名は好ましくない。彼女を粉砕し、自分を中心としたあるべき十傑の姿に戻すことこそが彼の目的であり、絶対に成さねばならない彼岸だ。そのために今日まで力を集めてきた。

 

「そう、今こそこの手で全てを正しい姿へと戻すのだ!その為の先陣はこの須郷圭一が司る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、本当に眼中にないみたいで参るよな…………別に事実だからいいんだけどさ」

 

 既に調理に入った須郷の姿を横目で見ながら榊奴もまた目の前の食材に視線を落とす。

 

 『世界三大珍味』と呼ばれる三つの食材。

 一般的にキャビア、トリュフ、フォアグラと呼ばれるこれらは本日の食戟のテーマにして第九席須郷圭一の得意とする料理だ。調理台に置かれたそれらは明らかにほかに用意した食材とは別格の異彩を放っており、料理人としての本能が何かを囁きかけてくる。

 

「一つだけならまだしも三つ一遍に使った料理とは贅沢っていうよりも怖いもの見たさの方が上なんじゃないのか、これ」

 

 事前に須郷のやり口を同じ十傑である角崎から聞いていたものの実際に目の当たりにすると如何に効果的なのかわかる。

 

 今回のテーマ選定についてはこちら側にこれといった得意料理も苦手料理も無い為、自然とあちらの意見が通ったが聞く所によると須郷は時に十傑としての豪権を使って、時に食戟を挑むしかない状況に相手を追い込むことによって自身の得意料理へとあらゆる手を使って誘導するらしい。

 これは食材を自分達で確保しなくてはならない食戟のルールを逆手にとった戦法でどの食材も高級食材に数えられるものである以上、対戦相手は今回の榊奴のように知り合いの伝手で安く仕入れるという方法でも使わない限り、まず満足な食材も揃えることが出来ず敗北が決定する。例え用意出来たとしても須郷のモノは金と権力に物を言わせた最高品質だ。並のモノではまず歯が立たないだろう。

 

「…………極めつけは」

 

 会場をグルリと見渡す。

 少し離れた位置にいる薙切せりかと目が合う以外は誰も彼もが榊奴に対する声援のかけらすら送らない。

 完全なるアウェー空間。

 ここにいる者は全て須郷が集めた人間であり、当然ながら榊奴に味方する者は存在しない。全身に刺さるような奇異の眼は大した実績もない一年でありながら十傑同士の食戟という大舞台を任された榊奴を品定めするかのようで既に所々嘲笑が混じっている等、誰ひとりとしてこの愚か者の敗北を疑っていないのだろう。

 

「ここでの笑いどころは他でもない俺自身が一番場違いだって自覚している点だよな。全く、どんな不幸が積み重なればいきなり十傑とやり合うことになるんだか―――――」

 

 溜息と共に張っていた方の力を抜く。

 食材の質も、料理人としての経験や才能も完全に負けている。声援なんて一つもないし、誰も勝てるなんて思っちゃいない。

 きっと、数日までの自分ならこの時点で諦めている。学園を去る準備すらしていただろう。

 

 でも、今は違う。

 薙切せりかと出会い、角崎タキ直々の指導を受け、木久知園果の優勝を間近で見た。

 そしてなにより、目の前の男にその思い出を汚された憤りがある。実際に言われるまで思いもしなかった。自分がまさかこれほどまでに簡単に炊きつけられようとは想像だにしなかったことだ。

 それでも、その時点で覚悟は決まっていた。

 

「例え、全てで負けていようとも―――――俺にはあの人から貰ったレシピがある。それを生かすやり方を角崎先輩から教わった。そして、証明するんだ。木久知達が不作なんかじゃないって、あいつらは間違いなく天才だって証明してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
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