食戟のソーマ―愚才の料理人―   作:fukayu

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神の舌、不正案件

 ラーメンを食いに行ったら、なんか小さくて気性の荒い先輩にボコられた。

 今夜の出来事を簡単にまとめればこうなるのだが、実はこの夜に起きた出来事はこれで終わりではない。

 

「酷い目にあった。タクミくん達はホテルの近くまで来るとすぐ帰っちゃうし、身体は痛いし――――」

 

「で、どうやったら十傑の人とやり合えんの?何ならさっきの角崎タキ先輩だっけ?あの人でもいいぜ?」

 

「―――――なんか後輩は急にフランクになってさっきより無茶苦茶な事言いだすし」

 

 向上心があるとこはいいことだと思うのだが、流石に相手を選ぶべきだと思う。先の角崎先輩とて在校中は第二席まで上り詰めたスペイン料理の申し子だ。口は悪いが、それは実力の裏付けでもあり、実際問題彼女と食戟をやれば俺を含め相当数の料理人は勝つどころかストレート負けにしないことすら困難だろう。

 

「そもそも、創真くんが理解しているかどうか怪しいから説明するけど、食戟には双方が納得する対価が必要なんだよ。学生時代ならいざ知らず、卒業生相手にやらかすなら相応のリスクを負う必要がある。だって、君にとっての大切なものが相手にとって同じくらい魅力的かなんて聞かれると大体の場合は違うしね」

 

「じゃあ、先輩ならどうすりゃ受けてくれんの?」

 

「俺!?え、まさか俺まで君の獲物の中に入ってんの?ラーメン奢ってあげたのに?」

 

「それは、それ。これは、これって事で」

 

 全く恐ろしい後輩だ。

 

 しかし、改めてそう言われるとこの少年と勝負して得られるであろうものに魅力的なものは何かあるだろうか?

 学生時代、それなりの回数の食戟はこなしたとはいえ、自分から挑もうと思った頃はあまり無いし受けたとしても常勝というわけでもなかった。あくまで卒業に必要な部分は勝利していただけであり、他の卒業生と比べると負けの経験は多いと思われる。

 決して他を寄せ付けないような実力ではなく、敗北するリスクを常に負っていた状態でも食戟を受けた理由はなんだろうか?

 

「……………今から言うことは例え話だから聞き逃してね?」

 

「例え話?」

 

「もし、挑戦者から食戟を挑まれる側に受ける理由がない状態でどうしても食戟に持ち込まなければいけない状況に陥った場合。食戟でしか逆転不可能な窮地に追い込まれた場合は挑発してみるといい。……………その後に自分の覚悟を示せば多分、相手は受ける。」

 

 この方法は相手と自分の差が大きいほど有効だ。

 料理人という生き物は実力や地位が上がるほどプライドが際限なく増大していく。それはそのステージに至るためにそれだけの努力を積み重ねてきた証であり、明らかに自分よりも劣る道筋しか歩いてきていない相手に侮辱されれば正常な判断が出来なくなるほどに料理への誇りは高い。

 

「要は、どんなやり方であれ挑発して買わせたら勝ちっていう喧嘩師の流儀だが、もしどうしようもなくなったら将来使うといい。ただ、挑発する時は一度自分にも当てはめてみてね?」

 

 一体全体自分がどうしてこんな事を言っているのかもはや理解出来無い。

 こんな事彼に教えたことで俺にとっては百害あって一利なしだし、どうかしているとしか思えない。

 

「大博打は生きてる者の特権、か」

 

 昔、尊敬していた人が言った言葉を思い出す。

 俺って色々影響されやすい人間だから、創真くんの生き方も有りかと無意識のうちに思っていたのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまにはこう言う近くで見る花火もいいものね」

 

「流石です、えりな様!料理だけではなく、花火を持っている瞬間すら絵になる姿………!感服です!」

 

「どうかしら、緋沙子。私はこの線香花火というものを克服しました!いいですか、先程はまだ慣れていなかっただけです。決してこういう物だと知らなかったわけではありません!」」

 

「流石です、えりな様!どんな事柄でも勝者であろうという意志………!感服です!」

 

 ホテルの玄関付近で予想はしていたとはいえ、二人組の珍客?を発見する。

 うん、やっぱり浴衣姿の女の子が花火をやってるのはいいものだね。例え、ここが地獄の合宿所だとしても心が癒される。

 俺も学生時代には明日も早いから寝たいと宣う木久知を連れ出し、どちらが集中力が上か線香花火片手に朝方まで修練に励んだ記憶がある。次の日は辛かったが、こういう行事って基本寝ないものだろ?

 

「よう、薙切じゃん!さっきぶりか?」

 

「ゆ、幸平くん!?どうしてここに!それに一緒にいるのは――――――」

 

「あ、久しぶりえりなちゃん。元気してた?」

 

 先に創真くんが話しかけに行ってしまったので仕方なく、本っっっ当に仕方なく話しかけることにする。

 

「…………何故、講師役であるアナタが彼と一緒にいるのですか」

 

「俺としては君が創真くんと知り合いな事の方が、驚きだけどね。言っちゃなんだけど、普通に火と油だろ?君たち」

 

「別に知り合いというわけではありません。彼の編入試験の時、私が担当だっただけです」

 

「――――編入試験」

 

 言われた言葉を頭の中で反芻する。

 遠月学園は中高一貫性で殆どの生徒が中学の時から食についての知識と技術を学んだ者達だ。子供の物事に対する吸収速度から過ごした環境によって例え才能は同じでもかなりの差ができると言われる通り、遠月で幼い頃から過ごした者と余所からやって来る者ではレベルというよりランクが違う。

 

 つい最近まで実家の定食屋を手伝っていたと言っていた創真くんはやはり編入組だったというわけか。

 三年の差がある状況での編入というのは非常に難しく、彼のような人間は珍しい部類に入る。

 そして、なにより、

 

「へー、じゃ、あのえりなちゃんが認めるほどの料理を出したってわけか」

 

 目の前の少女、薙切えりなには神の舌(ゴッドタン)と呼ばれる絶対的な味覚がある。

 完全実力社会の遠月の編入試験は筆記などよりも実技が優先されるはずだから彼がここにいるということはその舌を唸らせるものを出したということだ。

 

「あ、それは―――――!」

 

「いやー、俺もいけると思ったんだけどさー。ダメだったみたいでさ」

 

「どゆこと?」

 

 えりなちゃんが何かを言う前に創真くんが頭を掻きながら笑う。

 

「高等部の編入試験くらいなら遠月十傑評議会の活動範囲の範疇だったと思うけど…………内容にしたってえりなちゃんが居れば他の試験管なんていらないはずだし」

 

「でも俺コイツに直接不合格って言われたぜ?途中まで美味しそうに食べてたのに」

 

 神の舌(ゴッドタン)に判定間違いはない。

 薙切えりなノーといえば誰も逆らうことが出来ないほどの強制力を持っている。だが、創真くんの話が正しいとすればおかしな事になってくる。

 

「参考までに何作ったか教えてくれる?」

 

「ふりかけご飯だけど」

 

「ふりかけ?ふりかけってあのふりかけ?」

 

「そうだよ。テーマは確か卵を使った料理だったよな、薙切」

 

「―――――知りません!」

 

 創真くんの問いかけにそっぽを向くえりなちゃん。

 もし、本当に合格レベルに達していなかった場合当然ここに創真くんはいない。しかし、この宿泊研修一日目を生き残り、あまつさえあの堂島銀に期待を寄せられるような料理人がたかだか編入試験で落とされるとは考えにくい。

 

 と、なると。

 

「あれあれー?えりなちゃんもしかしてー」

 

「え、えりな様は正しい判断を下されました!それは一緒にいた私が証明します!」

 

「秘書子ちゃん…………」

 

 主を庇うように秘書子ちゃんが前に出る。

 素晴らしい忠義心にお兄さんも感動ものだ。でも、君のご主人様さっきから動揺して持ってた線香花火落としてるんだけど………。

 

 




秘書子とえりな様の花火シーンのリクエストがあったので―――。
気付いたら、ルーキー日間の方で下のほうにいる………ありがとうございます。
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