ソードアート・オンライン ~名も無き冒険者達の追憶~ 作:天地春太郎
新第一話です
物語はここからはじまります!
第一話のプロローグが戦闘のオンパレードだったのに対してこちらは戦闘皆無でお届けします。
前回同様あとがきにてネタバレぶっぱしますので話がどんなものかだけ知りたい方はあとがきを読んでいただくとどういった話かわかります
それではどうぞお楽しみください!
-2022年11月6日-
俺《
「ニィチャ、おかえりぃー。」
玄関に腰を下ろして靴紐を解いていると、少し間の抜けた幼い声と共に俺の背中に妹が突撃してきた。
「ニィチャ、明日、何の日か覚えてるぅ?」
「ただいま
もう10歳になる妹だが、見た目にはまだ小学生低学年のそれと区別が付かない背丈に幼い顔立ちをしている。
そんな妹の心地よい重みを感じながら俺はそう答えた。背中から千秋を降ろして立ち上がりながら頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて。
「えへー、せいかぁーい!」
と元気よく答えた。
俺は足元にある荷物を持ち上げ部屋を向かおうとすると
「ニィチャ、その荷物なぁにぃ?」
千秋が小首をかしげて聞いてきた。俺は悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えた。
「ん、これはな・・・・秘密だ」
というより教えるわけにはいかなかった、なぜならこれは明日千秋に渡す誕生日プレゼントなのだから。
「まぁ、お利口にしてたらわかるさ」
「むぅ・・・」
少し不満そうな顔を浮かべた千秋。しかし、また頭を撫でてやると嬉しそうに目を細め、先ほどの不満はどこへやらだ。そんな妹を見て俺も微笑んだ。
ちなみに俺は断じてシスコンではない!
俺は自分の部屋に向かって歩いていった。
部屋に入り、荷物から千秋の誕生日プレゼントをクローゼットに隠し、もう一つの荷物、いや、俺が東京まで向かっていた本当の理由を取り出す。
-《ソードアート・オンライン》-発表からゲーム業界を沸かせ続けて来た、超注目タイトルだ。
俺はそのゲームのわずか千人しか公募されなかったベータテスターだった。
つい先日のように思い出せるベータテストの日々。ベータテストが終了してその世界からログアウトする時にはこの世界が無くなってしまうのではないかと不安になったものだ。
ベータテスト終了後、最後に表示された、正式版パッケージの優先購入権についての案内。
俺は当然のように優先購入権の希望を示し、嬉々として手続き画面を進めていた。
しかし、事件は起きた…俺はその項目の選択欄が信じられず、何度も最初から最後まで見回した。だが無かった、届け先住所の選択項目に、家の住所が存在しなかったのだ。
これだから僻地はぁぁ!!
心の中で盛大に叫び、仕方なく届け先住所の欄には東京都の台東区にある母方の祖父の家を指定した。
優先購入者には正式版パッケージが10月31日に届くようになっていて、その日祖父から「ハルちゃん宛の荷物がうちにとどいている」という旨の電話があってから昨日まで俺は気が気じゃなかった。
11月4日、学校が終了するや帰宅し着替えて荷物を持ち、すぐさま電車とバスを乗り継ぎ祖父の家へ。そして11月5日の早朝、祖父の家に到着した俺は、ついに待望の正式版《ソードアート・オンライン》をこの手にした。祖父からこのパッケージを受け取るとき後光がさして見えたのは気のせいだろうか?
その日、帰りのバスまで時間はかなりあったのだが、その時間全てを費やし、東京中駆け回って千秋の誕生日プレゼントを探していた。
もう一度言っておく、俺は断じてシスコンではない!
現在およそ10:30《ソードアート・オンライン》の正式サービスが始まるまで後二時間三十分、その間に俺はサービス開始と同時にログインするための準備を始めた。《ナーヴギア》をかぶりパッケージをインストール、さらにサービス開始前でも作業可能な設定項目、主にアバター作成を済ませて、正式サービス開始を今か今かと待ちわびた。
-12:50-
飯は食った!トイレは済ませた!およそ考えられる《ソードアート・オンライン》を始める前の準備は全て済ませた!
俺の異様な雰囲気に千秋が「ニィチャ、今日はとっても元気だねぇ」と呟いていたのに和んで頭を撫でてやった。俺は断じてシスコンではない!
思考も異常なテンションになりつつあった俺だが《ナーヴギア》を手に取った時、テンションメーターを振り切ったのか急に冷静な気分になり、続いて途方も無い緊張感が体を突き抜けた。
こいつを被って、ゲームをスタートするための言葉を言えば、そこにはもう別の世界が広がっている。
まさに俺は今、新しい世界への扉の前に立っているようなものなのだ。
その新しい世界に旅立つために、俺は、そのドアノブに手をかけ、つかみ、回し・・・
その言葉を皮切りに体の全ての感覚が一度消えてなくなり、《ナーヴギア》の正常起動が確認されるウィンドウが矢のように流れていく、そして、新しい世界に俺の体が生成されるかのように、感覚が次々に与えられる。
意識して閉じていた目をゆっくり開く、ベータテストが終了したあの日、本当に帰ってこられるのか不安になったその世界に、俺は再び帰ってきた。
ついに、この世界-《ソードアート・オンライン》-が始まった。
この世界の舞台となる《浮遊城アインクラッド》を再び見て舞い上がった俺は、予定していた行動をさっぱり忘れしばらく呆然としていた。
ふと気がつくと周りも皆似たような反応でしばらく呆然と辺りを見回している。まるで世界が止まっているようだった。
それも一瞬の事で、すぐに喧騒を取り戻した世界では、─ 知り合いと話し始める者 ─ 雄たけびを上げる者 ─ 武具屋に向かってダッシュをかける者 ─ それを捕まえて話しかける者 ─ まだまだ呆然として虚空を見つめる者 ─ 新しい世界に目を輝かせる者 ─ フロアの端からプレイヤーを観察している者 ─ 手を取り合って歩き出す者 ─
十人十色とはまさしくこの事であると言わんばかりに、皆それぞれの反応を示しこの世界に溶け込んで行った。
そんな俺も、しばらく立ち尽くしていたが、
「ぅっし!」
湧き上がる様々な感情を押さえきれず、あてもなく走りだした。
俺はやる…やってやるぞ!!
という意気込みで走り出した俺だが、やり始めた事は素晴らしく地味な行動で、プレイヤー観察とベータとの違う点を探すことだった。
まず後者は完全に俺の趣味。俺はどんなゲームでもまず何が出来て何が出来ないのかというものを試さずにはいられない性分で、「ここから落ちたら死ぬな」と予想できる崖に遭遇したらとりあえず一度落ちてみなければ気が済まないのだ。
そんな性分のせいでベータの時も攻略が遅れていたが、およそ通常プレイヤーが知らないであろう情報を7層当たりまで網羅している。
そのためベータと変わっている点NPCの会話の内容やら、民家の屋根の色やら記憶にある物を何から何まで確認していった。
そこで一つ奇妙な変更点があったことに気づいた。
それは死んだプレイヤーの復活点である《蘇生者の間》に謎の巨大な碑が立っていた事だ。
─この時はまだ、「あれは一体なんなんだろう」程度にしか考えていなかった。─
そしてもう一つのプレイヤー観察。何故こんなことをしていたのかというと単純にフレンド探しとギルドメンバー探しだ。
俺は個人的にMMORPGに置いて最も重要な点は、自分のプレイ環境にあったコミュニティを見つける事だと考えている。
そして、俺はこのゲーム《ソードアート・オンライン》において最速で攻略していくコミュニティを作る、またはそれに参加しようと考えていた。
そのためには、一万という途方もない数のプレイヤーの中から攻略に全力を注ぐ連中を探さなければならない。
そこで、今全員が集まっているこの《はじまりの街》でプレイヤー観察しておけば手っ取り早く多くのプレイヤーの情報を収集できると考えた。
俺はまずベータ時の知識を生かしこの《はじまりの街》からフィールドに出る為の門へダッシュし、ゲームが始まって間もないというのにまっさきに街の外に出ていくプレイヤーを観察することにした。
そして、おそらくそいつらは俺と同じベータテスターの可能性が高いとも考えていた。
およそ二時間で六百人近くのプレイヤーがこのあたりを通過していった。中にはこの門までたどり着くも装備が完璧ではなく引き返して行く者もいたが、あれはおそらく初心者だろう。
この観察を続けて一時間と少しが過ぎた頃俺はあることに気づいた。
まず、観察していたプレイヤーはどれもかしこも似たような美男美女ばかりで区別が付きにくかった。─まぁ俺もリアルには程遠いガッチリした体格に精悍な顔立ちをした青年になっているので人の事は言えないが。─
そして重要なのは、このゲーム、通り過ぎていくプレイヤーの情報がほぼ全く表示されないのだ。というか注目したプレイヤーのディティールが詳細になりカーソルが出るだけ。
というかベータでもそうだったのに何故今まで気づかなかった俺・・・。
よって今までの観察は、顔は判断が付かない名前はわからない、というほぼ無意味だと悟った俺はその場に手をついてうなだれたくなった。
そのとき、
「そこのショーネン、オネーサンと情報交換しないカ」
と語尾に不思議なイントネーションを孕んだ艶っぽい声が背後からかけられた。
振り返ると金褐色の巻き毛に長身でグラマラスな体型の自称「オネーサン」がピッタリくる女性が立っていた。
近場の酒場まで移動して適当な席に腰を下ろした。
「とりあえず、初めましテ、アタシはアルゴ、よろしくナ」
「あ、はじめまして、ハルートです」
とりあえず自己紹介を終えたが、俺は若干パニクっていた。
何故か誘われるがまま付いてきてしまったが、リアルでコミュ力がすばらしく低い俺は基本的に人と会話するのは得意ではない。加えて、いきなり女性プレイヤーとは中々にハードルが高かった。─ネカマかもしれないが─
そんな俺の心の内など知るよしも無くアルゴと名乗った女性は、
「ハルート・・・ハルート・・・よし、今日から君の事はハル坊と呼ぼうかナ」
「え、あ、はい、どうぞ」
俺のあだ名を提示してきた。それに対して俺はもうこの先の会話も全部この台詞で返してしまいそうな返事をしていた。それを受けたアルゴが
「じゃ早速情報交換といこうカ、まずアタシが集めた情報を提供しようかナ」
そういった彼女はベータとこの正式版の変更点や、この《はじまりの街》に留まっているプレイヤーがおよそ何をしているのかについて、様々な情報を提示してきた。
そして、彼女の情報提示の間に落ち着きを取り戻した俺は二つの疑問を抱いていた。
「とまぁこんなものかナ、さてじゃあ、今のアタシが提供した情報以外に何かあれば教えてくれると嬉しいんだけド、何かあるかナ?」
説明を終えたアルゴはそう質問してきた。
対して俺はまず、先ほどの二つの疑問について質問することにした。
「少しありますが、まず、二つ質問があるのでそれに答えてもらえますか?」
「ふむ、何かナ、ハル坊?」
「まず、あなたは何でこの先、このゲームの攻略について、およそ関係ないだろう情報をそんなに集めてたんですか? 二つ目に、何で俺に情報交換を持ちかけたんですか?大した情報を持っている保障も無いのに」
その二つの質問を聞いたアルゴは少し悩んだ表情を見せて、
「ほう、なるほド、まぁ当然の質問だナ。一つ目の質問は無料で答えてやるヨ、何で攻略に必要ない情報について集めていたかというと、アタシはこのゲーム内で《情報屋》という商売をしようと考えてからダ。そんでその《情報屋》って言うのハ・・・'二つ目の質問に対する答えが欲しかったラ、十コルだヨ'、って具合の商売サ。」
最後にしてやったり顔でそんなことを言った。
そしてこの台詞を聞いて、俺はこの《情報屋》の初の商売相手になっている事を悟った。
「・・・なるほど、また面白い商売を思いつきましたね。」
「まぁナ、にゃハハ」
その返事を受けた俺は少し考えてこう答えた。
「じゃあ、そうですね、俺もあなた風に交渉しましょうか、'俺の持ってる情報が欲しかったら先ほどの質問に答えて下さい'ってこんな具合ですか?」
「あララ、こりゃ一本とられたナー、まぁ、どの道答えるつもりだったからいいけどナ。何でハル坊にこの話を持ちかけたかというト、君の動きが気になったかラ。普通のプレイヤーには、わからなかったかもしれないケド、アタシから見たらハル坊の動きは情報収集しているプレイヤーのそれだッタ。だから同属だろうと考えテ、君がいたあたりのエリア以外の調査をしテ、後で情報交換を持ちかけて君の調査したエリアの情報を得ようとしタ、という訳ダ。」
とおどけた様に答えた。
それに対して、俺も特に隠しておくような情報があったわけではないのですぐに答えた。
「道理で貴方が提示した情報と俺の調べたものがほとんど違うわけですね。わかりました俺が知ってる限りの情報を提供しますよ。」
といっても俺が調査したエリア関連の情報細かさはアルゴのそれには及ばなかった、しかし目的であったプレイヤー観察のおかげでプレイヤーに関する情報について話すと「ほウ」と関心の声が聞こえた。
-5:25-
互いの情報出尽くしたあたりで、時間的にもそろそろお開きかなと考えた俺は立ち上がり、別れを告げようとすると
「あっと、ハル坊、この後何か予定でもあるのかナ?」
アルゴがそんなことを聞いてきた。
「いえ特に無いですけど?」
「なラ、次は狩りの経験値配分やらの情報を集めたいんだケド、協力してくれないカ」
この女性プレイヤー中々のゲーム
「えぇ、かまいませんよ」
と返事をする。その返事を確認するや否や、アルゴはウィンドウを操作し始めていた。
しかしすぐにその操作の手を止めて、
「えっ・・・?」
先ほどまで喋っていた同一人物とは思えない疑問の声をあげて固まっていた。
「どうかしました?アルゴさん」
「・・・いや・・・なんでもなイ」
あからさまに何でもあるようにウィンドウの操作に戻り、俺の視界にパーティ招待ウィンドウが現れた。
疑問に思いつつも俺はそのウィンドウOKボタンを押すと、横からアルゴが話しかけてきた。
「なぁ・・・ハル坊・・・ログア・・・」
リンゴーン、リンゴーン
しかしその声は唐突に響き渡った鐘の音とも警報音とも取れる大ボリュームのサウンドにかき消された。
「な?なんだ!?」
「・・・っ?」
俺は不思議に思ってあたりを見回した程度だったが、隣のアルゴは凄く不安そうな顔をしていた。
そのアルゴが突然叫んだ。
「ハル坊!」
何事か、と振り返ると青い光の柱がアルゴを包んでいた。
いやアルゴだけではなくその青い光の柱は俺の体も包んでいる。
「これは・・・《
そう気づいて言い終えた瞬間、視界が白く染まった。
視界が戻るとそこは《はじまりの街》の中央広場だった。
あたりを見回すとそこには次々にプレイヤーが転移してきていた。
なんだってこんな所に《強制転移》されたんだ・・・?
ざわつく人ごみの中、すぐ隣に先ほどまで一緒にいたアルゴの姿を見つけ少し安心した。
ざわつきの中から「ログアウト」がどうこう聞こえたのにあわせてアルゴはこちらを向いて呟いた。
「ハル坊、気づいていたカ?ウィンドウからログアウトボタンが消えているのニ」
「え?」
俺はすかさずウィンドウを開いて確認した。するとアルゴの言うとおりメニューからログアウトが消失していた。
「でも・・・って事はこれはログアウトボタン消失の'バグ'に対するアナウンスの為の《強制転移》か?」
「・・・だといいがナ、どうもイヤな予感してナ」
そして俺の予測を裏切り、アルゴの予感が見事的中したように、悪夢のチュートリアルが始まった。
「・・・・・」
俺とアルゴは茅場晶彦と名乗るGMによる'デスゲーム'《ソードアート・オンライン》のチュートリアルを、ほぼ無言で聞き入っていた。
今なお茅場晶彦はこの世界の変貌について語っているが、この世界の虜囚になってしまった事を理解したアルゴは俯きながら完全に先ほどまでの彼女とは思えない雰囲気で呟いていた。
「うそでしょ・・・勘弁してよ・・・」
俺も混乱していて、そんなアルゴの呟きなど聞こえた程度で何を言っているのか、理解ができないくらい頭の中はグチャグチャだった。
─ どうやって現実世界に帰ればいいんだ ─ トイレどうしよう ─ 武器買わないと ─ 千秋の誕生日明日じゃないか ─ ここどこだっけ? ─ 晩飯何かな ─ これから何しよう? ─ くしゃみでそう ─ 俺今なにしてるんだっけ? ─
など思考とは呼べない、意味の無い自問自答や考えが、頭の中をぐるぐる回っていた。
だが茅場のある言葉に俺の思考は中断された。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ。』
思考を中断された俺はほぼ無意識にアイテムストレージを開いていた。─俺はこのプレゼントやらが救いになるとでも思っていたんだろうか─
そこにあったのは《手鏡》というアイテムだった。
「なんだって・・・こんなもの・・・?」
呟いた直後俺の視界がホワイトアウトした。
一瞬息が詰まるほど驚愕したがすぐに視界は戻ってきて安心した。しかし、それも一瞬のことで、周りの景色に俺はまたしても驚愕した。
次々とプレイヤーが白い光に包まれて、美男美女の群れが消え去り街中の喧騒にあるような人ごみに変わっていった。
さらに目の前にいたアルゴの姿が消失した。
「アルゴ?・・・アルゴ!」
俺は思わず呼び捨てでアルゴを探し始めた。
すると
「どうしたんダイ、・・・ハル坊そんなに慌ててサ」
先ほどまでアルゴのいた場所の下から声が聞こえた。そして、その声は先ほどまでの語尾に不思議なイントネーションを孕んだ艶っぽい声ではなく、語尾に鼻音が被さる甲高い声に変わっていた。
見下ろすとそこには金褐色の巻き毛でアルゴに似た顔立ちの小柄な女の子が鏡を片手に立っていた
「また、・・・ずいぶん可愛くなったナ、ハル坊」
「まさか・・・アルゴか・・・?」
「そーダ、・・・アルゴさんダヨ。・・・そんなことよりハル坊も・・・鏡見てみナ」
その言葉を聞いて、開いてあったストレージから《手鏡》
右手にとって《手鏡》を覗き込むと、そこにはどこをとっても細身の、現実世界で、もやしと蔑まれていた、俺自身の姿があった。
「な・・・なんで!?」
「にゃハハ、・・・アタシはこのハル坊のが・・・可愛いと思うけどナ」
「いや・・・」
嫌味に嫌味を言い返そうとしてふと疑問が沸きあがってきた、あの男、茅場がゲームについて語っているとき─ 今も語っているのだが ─その時俯いていた彼女は何故唐突にケロっとしていられるのだ?
「んゥ? ・・・どうしタ?・・・ハル坊?」
しかし、その声を聞いて疑問は解けた。何故気づけなかったのだろう、目の前の女の子の声は明らかに震えていた。きっとこの女の子は、少なくとも俺には、これ以上の不安を広めまいと必死に堪えているんだろう。
その姿に俺は、目の前の女の子は、その姿は少女のそれでも、俺よりずっと年上の女性なのだろうと改めて認識した。
しかしそれでも、その女の子は不安を必死にこらえているのは確かだった。
だから俺は、
「何でも無いさ、アルゴ、きっと大丈夫だ・・・」
何の根拠も無いがそう言っていつも妹にしてやるように頭を撫でてやった。
「ナ!?いきなり何すんだヨ?ハル坊・・・」
最初こそ、そういって身をよじったアルゴだったが、しばらくすると俯き俺の胸に頭を預けてきた。
「バカ・・・」
今なお茅場晶彦による'悪夢のチュートリアル'は続いている。
俺は今更になって、この状況にパニクり出した、《ソードアート・オンライン》がデスゲームになったという状況では無く、女の子が俺の胸に頭を預けているという状況に、だ。
いろんなことが起こり過ぎて深く考えず思いついたままの言動の結果がまさかこんな状況になるなんて考えもしていなかった
パニクった挙句なんて言葉をかけていいかわからなくなった俺は
「いやぁ、でも何だ、あれだな、長身でグラマラスなアバターを作成するだけじゃなく、喋り方まで変えて、なんて言うか、ロールプレイを満喫してたなぁ、アルゴは、ハハハ」
という訳の分からない言葉をかけていた
「・・・・ッ!?」
この時の自分の対応力の無さを俺は生涯恨む。
アルゴが体を震わせ俺から離れて、握った拳を突き出した。と同時に、
『・・・・・・以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の──健闘を祈る』
茅場の最後の一言が、わずかに残響を引き、消えた。
「ア・・・アルゴ・・・さん?」
おそらく羞恥で顔を真っ赤に染めたアルゴはこちらを睨み、フンという擬音が似合いそうな勢いでそっぽを向いて広場から放射状に伸びる街路の一つに消えていってしまった。
後にプレイヤー達の阿鼻叫喚が広場を包んでいった。
その阿鼻叫喚には耳もくれず俺はアルゴの消えていった街路に向かって走り出していた。
「アルゴー!?どこだー!?」
街路の半ばで叫びあたりを見回した。すると俺の視界の端に点滅するものがあった。
新着メッセージ・・・?
開くとそこにはアルゴからのメッセージが来ていた。
From:Argo
ハル坊へ
オレっちはやっぱりこの世界で《情報屋》を目指すことにするヨ。
特にログアウトが不可能になったこの世界では情報は重要なものになるだろうからネ。
まず初心者のためにモンスターの行動パターンやダメージ、経験値なんかのデータがベータ と変わっていないか検証するつもりサ。
なんでその手の情報が手に入ったら教えて欲しいナ。
あと有用なクエや装備の情報なんかもみんなの助けになるだろうし、そんな情報も募集する ヨ。
p.sオレっちのアバターに付いて喋ったラ《情報屋》の情報から迫害してやル
あとハル坊はアバターよりリアルのほうがオレっちは好きだゾ。
・・・ありがとう、ハル坊
メッセージを読みきると俺の視界またしてもウィンドウが開いた。
─【Argo】があなたにフレンド要請をしました受諾しますか─
近くにいるなら直接言いに来いよ・・・・
俺は'YES'ボタンを押してフレンドメッセージを【Argo】宛に書いた。
From:Harut
アルゴへ
俺はあんたに言った言葉を嘘にしないように先に進む。
きっと大丈夫さ。この世界はそう遠く無いうちに終わるよ。
p.s俺もアバターよりリアルの小さいアルゴのほうが好きだぞ。
とだけ書いてメッセージを飛ばした。少し後、俺の背後にある建物の二階から、「がんばんナハル坊、オイラもがんばるからサ」と聞こえた気がしたが聞こえなかったフリをして走り出した。
こうしてこの世界《ソードアート・オンライン》は'デスゲーム'となった。
ちなみに俺はシスコンでもロリコンでもない。
'あんたに言った言葉を嘘にしないように'と格好をつけたことを言ったが、俺はまず旅立ちの準備をしなければならなかった。このゲームが始まって真っ先に情報収集に向かった俺は、この街を出る準備を全くしていなかったのだ。
そして厄介なことにこの《はじまりの街》にある武具屋とアイテム屋で一番お得な店はこのだだっ広い街の東端と西端にあるのだ・・・。
別にそんな遠くの店に駆け込まなくてもいいかも知れないとも思うが、このゲームが'デスゲーム'となった今、コルは出来る限り温存したい。
俺はまず街の東端にある武具屋に向い、続いて街の逆端あるアイテム屋へ、敏捷度の許す限りの勢いで、この《はじまりの街》をほぼ一閃に横断して装備とアイテムをそろえた。
最後に中央広場に戻ってそこから北に行くと着く、街の外へ出る門に向かっていた。
しかし、中央広場に戻ったところでよからぬ話が聞こえた。中央広場には今なお泣き崩れる者や俯いて顔を上げようとしない者もいたが、一部の人々はこの世界からの脱出方法について話し合っているようだった。
その中の連中が
「この街の南端から飛び降りたらログアウトされるってどう思うよ」
「まぁ実証斑の連絡待ちだな」
と言う話をしていたのだ。
俺は急激に血の気が引くのを感じた。
この街の南端から飛び降りる。というよりこの《浮遊城アインクラッド》から飛び降りると
─死ぬ─
これは俺がベータテストで体験していることだった、何事も実験してみないと済まない性分の俺はベータ時代、エリアの端から飛び降りれるのか?と言う疑問はだいぶ早い段階で思いつき実行していたのだ。結果はとてつもない落下感を味わった後、視界が暗転して《You are Dead》の文字が表示された。
俺はその話をしていた二人組みにそいつが出発したのはいつ頃のことか聞きすぐさまこの街の南端に向けて走り出した。
南端の柵が見えてきた頃、その柵の前で何かを話し合っていた男たちがいた。そしてその一人が柵を越えた。
「やめろぉぉぉぉ!!」
俺は必死に翔けながら叫ぶ。
しかし、俺の叫びも空しくその男は日が沈みかけた太陽に向けてその身を躍らせた。
彼を見送った男たちは、俺に気づき「どうしたんだ?」と言う風に俺の周りを取り囲んだ。
彼は・・・どうなったんだ・・・ほんとに死ぬのか・・・?
取り囲んだ男たちが俺に向けて何か語りかけていた気もするが、そんな事はどこ吹く風で立ち上がり、俺は《黒鉄宮》を目指した。
俺は黒鉄宮にある《蘇生者の間》に向かった。ベータテストでは'この世界で死んだプレイヤー'は《蘇生者の間》と言われる場所で再生していた。
ならば、先ほどこの浮遊城から飛び降りた彼もそのエリアにヒョコッと姿を現すのではないか?と考えたからだ。
しかし、そこにあったのは絶望だった。同時にこの部屋にある碑の意味を知った。
その碑にはこの世界で最初の死者になった彼を示すように一人の名前に横線が刻まれていた。
そしてその隣に今の時刻、続いて'落下死'とも刻まれていた。
「くそ…ちくしょう…くっそぉぉ!」
別に俺はみんなを救う正義のヒーローに成りたいわけでもなんでも無い、でも何故か救えたかもしれない人が、目の前で死んでいく事に身を裂かれるような感覚を味わった。
何が…「きっと大丈夫だ」だ?…一人目の前で死んじまったじゃないか…
俺はその碑の前で膝を付き黒い天井を仰いだ。
俺の中で様々な自問自答が駆け巡る。そして最後に。
せめて一人でも多くの人を救おう…救えるだけの力が欲しい。なら今は前に進むしかない
俺の中で何かがそう告げた。俺は黒鉄宮から出ると、《はじまりの街》から出て一番近い村《ホルンカの村》を目指した。
この村を目指した理由は二つ。
一つは単純に《はじまりの街》から第二層に向かう為の《迷宮区》の間にある村の一つでこの街から一番近いから。
もう一つは序盤で手に入る武器において最強クラスの武器《アニールブレード》が手に入るからだ。
ベータテスト時代、俺は習得スキルを武器系のスキルで埋め《クイックチェンジ》を駆使して戦闘中に何度も武器を切り替えて戦うという、ベータテスターの中でも稀有な戦闘スタイルを取っていた。故に大体の武器は扱える。
そして一番早く手に入る強い武器と言えばこの片手剣の《アニールブレード》だと思い至り、最初の武器スキルとして片手剣スキルを選択した。
《ホルンカの村》についたのは午後九時を少し過ぎた頃だった。
俺は迷わず《アニールブレード》が報酬になっている《森の秘薬》クエを受注しに向かった。小さな民家に入るとその民家の奥の部屋から、丁度クエストの依頼主のおかみさんが現れた。
─ 一瞬開いたその部屋で、ベッドに向かってうなだれる黒髪の少年の姿が見えた気がした。─
「どういうことだよこりゃ…」
クエストを受けて、目的モンスターである《花つき》の《リトルネペント》を探しにそのMobがPOPする地帯にたどり着いた俺はそう呟いていた
「一体どこのイカレゲーマーだ?…まだ開始から三時間しかたってないってのにPOPが枯渇するまでMobを狩りまくる奴は…」
他のプレイヤーもこの呟きに賛同してくれるだろう。ここら一帯にMobがほとんど存在しないのだ。
一定感覚の時間を開けて白い光と共に《リトルネペント》が現れるものの、それも数名いるプレイヤーによる取り合いになっている。
本来このエリアは今いる人数位ならば不自由無く戦闘が出来る程度にMobがPOPするはずなのだ。しかし現状、Mobの数が明らかに少ない。
考えられる理由は一つ、この一帯にPOPするMobを異常なペースで狩りまくるしかない。
すなわち誰かイカレたプレイヤーがこの短時間に《リトルネペント》を一気に狩り尽くしたということだ。
「まぁ・・・'デスゲーム'になっちまった今のこの世界においてマナーも糞もないか・・・」
通常のゲームであれば《リトルネペント》のような特定のクエストの対象モンスターを必要以上に狩るのはマナー違反である。しかし、自分の命とマナーを天秤にかけてマナーをとる者なんて居ないだろう。俺たちは今そんな世界に閉じ込められてしまったのだと改めて感じた。
それから、どれくらいの時間《リトルネペント》を倒しては次のPOPを探す作業をしていたのだろうか、《花つき》を見つけクエスト依頼アイテム《胚珠》を獲得した頃にはレベルは3に達し日付が変わろうとしていた。
クエストの終了報告をしてログアウトしようとウィンドウを開いた。
「・・・・そうか・・・ログアウト・・・出来ないんだった」
そう呟いた俺は宿屋に移動して、あてがわれた自室に入った。俺は疲労で思考が正常ではないらしい。
装備を解除して窓際のベッドに腰掛けた。窓から覗く月を眺めながら、今日起こった、いや起こりすぎた様々な出来事を回想の様に思い返していた。
そして視界の端に写る時刻が0:00を指し日付が11月7日に変わったとき時、
「・・・今日、千秋の誕生日じゃん・・・プレゼント・・・渡せそうに無いな」
ふと今日が千秋の誕生日だということを思い出していた。
続けて千秋は俺がこんな目にあってどう思っているんだろうと思い至った。
─ ベッドに横たわる俺に向かって泣き顔の千秋が「ニィチャ・・・起きてよ・・・ニィチャ・・・」と俺体をゆすっている ─
そんなイメージが俺の頭をよぎった。
・・・俺はシスコンじゃない、だから・・・たった一度妹の誕生日を祝えなかったくらいで・・・これから数日、いや数週間か数ヶ月か妹に会えないくらいで・・・泣いている妹の所に駆けつけてやれないくらいで・・・涙なんて流す訳が無い・・・
「ごめんなぁ・・・千秋ぃ・・・ニィチャ・・・今年の千秋の誕生日・・・祝ってやれそうにない」
誰にも聞こえない涙声が宿屋の一室に響いた。
ここまで読んでくださった方、あとがきだけ読もうとスクロールすっ飛ばしてくださった方、読む気うせてたけどこの文章だけでも目に留まった方、みなさまありがとうございます。
新第一話いかがでしたでしょうか。前書きでも述べましたがここから物語が始まります!
ぶっちゃけプロローグよりこっちから読んだほうがいいです!
でもプロローグは後々関係してくる・・・かぁも知れませんので私の作品が気に入ってくださった方はそのうち読んでやってください。
では恒例の・・・これから恒例にしていく予定の本編を百字以内にまとめるコーナー!
主人公がSAOをはじめてアルゴと仲良くなって茅場さんが出てきて飛び降りを目撃してホルンカの村に行った
はい以上です!
まともに読んだ人は要訳しすぎだろ!と思うかも知れませんが、でもこんな感じでしょう
それではここからが本当のあとがきです!
えー今回はアレです一つ謝っておかなければ成らないドデカイ点があります
あらすじでも述べたように本編には関係ないけど隅っこで好き勝手やるとありますが。
アルゴさんが筆者の妄想爆発キャラに仕上がっておりますマジでスイマセン
プログレッシブの続編が出たらこの仕様は本編に関わっちゃうかも知れませんがこんな感じで行かせてください。
というかこんなアルゴさん可愛いですよね!?筆者的にはサイコーなんですけど!
・・・はいスミマセンでした・・・
以降も物語にアルゴさん多分出てきますが(筆者が好きなので)以降のアルゴさんはたぶんオリジナルSAOのままです・・・たぶん。
続いて。文中にアレ?コレキリトじゃね?だとかクラインじゃね?と言う点がありますお気づきの方はニヤニヤしててくださいw気づかなかった方是非探してみてください。ちなみに筆者はキリトのつもりだったりクラインのつもりだったりして書いてます。
最後に《ホルンカ村》ネタですがプロローグ同様原作SAO八巻、はじまりの日の内容より抜粋している部分があるためそちらを読んでいただくと意味がわからない部分があった方はわかるようになると思います。
それでは今回はこの辺りでキーボードを置かせていただきます!
ちなみに筆者はシスコンではありませんがロリコンです!