そして、アルゴはまだ来ません。
会議がお開きになった後、俺はまずエギルに声をかけた。
『エギル、さっきはありがとう。』
「いや、俺は俺の考えを述べたまでだ。…キリトだったな、それにしても随分詳しいな…。」
『元々、ベータとの差によるテスターの死は懸念していたんだ。だからアルゴに裏をとってもらった。』
「ほう、鼠と懇意にしてるのか…。」
『ああ、クエストなんかの情報本に関しては俺も情報を提供させてもらってる。元々受ける予定だったものだけじゃなく…な。』
エギルは俺の言葉に引っ掛かりを覚えたのか、すこしだけ突っ込んだ問を投げてきた。
「どういう事だ?俺はてっきりベータ知識からテスター達が自分用に受けたクエストの情報を鼠が買ってるんだと思っていたんだが…。」
『確かにそのパターンもあるんだが、一部のプレイヤーがあえて調査目的で片っ端からクエスト受けてクリアしてる。別のプレイヤーから情報が来たらそれは除外して続行してるんだ。俺は攻略メインで動いてはいるものの、そいつらの依頼でクエスト調査を一部請け負ってる。』
「なるほど、そりゃ詳しいはずだ。」
『まぁ、そんな奴らもいるって覚えておいてくれるとありがたい。』
「分かった。 で、俺達の様に追いついて来たやつもいるんだが、手伝えることは?」
『…手伝ってくれるのか?』
「当然だろう。」
会話の流れで調査部隊のことを知ったエギルから、手伝いの申し入れをがあった。
理解者が増えるのはありがたいことだ。あとで、アルゴ達に相談してみよう。
『皆に聞いてみる…。』
「キリト、フレンド登録を頼んでもいいか?」
エギルとは今後もいい関係を築いていきたいと思っていた所に、エギルからフレンド登録の申し込みがきた。ありがたく、受ける事にした。
『むしろ、こちらから頼もうかと考えてた所だ。こちらこそよろしく頼む。』
トールバーナ 路地裏
エギルとフレンド登録を済ませた後、どこかで腹ごしらえをしようと思い移動していると、俺の視界に先程パーティを組んだばかりの、
『けっこう美味いよな、それ。』
声をかけたとたん、ものすごい勢いで睨まれた。俺は小さく咳払いをすることで気を持ち直してから再び声をかけた。
『隣、座っていいかな?』
しばし逡巡する様子を見せたものの小さくだが頷いてくれた。
隣に座ってしばらくすると細剣使いが言った。
「ねぇ、さっき言ったこと本気?」
『ん、さっき?』
「このパンを美味しいって言ったことよ!」
『ああ、ほとんど俺の食事はこれだしな。もっとも少し工夫するけど。』
そう言いながら俺はアイテムストレージから小壺を一つオブジェクト化する。
『騙された。と思ってそのパンに使って食べてみるといい。』
まず自分が使ってみせてみる。すると細剣使いも見よう見まねで同じ動作をした。
その途端黒パンにごってりと盛られた白いモノに、目をぱちクリさせている。
「クリーム?こんなものどこで…?」
『一コ前の村で受けられる“逆襲の雌牛”ってクエストの報酬。クリアに時間かかるからあんまりやる奴いないんだけどな…。』
そんな話をしている間に一口目を口に含んだ細剣使いはあっという間にパンを食べきってしまった。
気に入っていただけたのなら何よりである。
「ごちそう様。」
ぼそっと細剣使いがお礼を言ってきた。
『どういたしまして。まだクリームあるけどいる?それとも牛クエストやる?後者ならコツ教えるよ。』
「いい、私は美味しい物を食べる為にこの町まで来た訳じゃないから。」
『そっか……。何の為か聞いても?』
「私が私でいる為よ。最初の街に閉じこもってゆっくり腐って行く位なら、最後の瞬間まで自分のままでいたいの。たとえ怪物に襲われて死ぬことになったとしても…この世界に負けたくはないの…どうしても…。」
聞かされた理由はある意味至極もっともな物だった。
自分が自分である為…ある部分では俺の戦う理由も同じ物だからだ。
ただ、俺のそれは
『いいんじゃないか?それもまた
「……」
とまぁそんな感じでゆっくりではあるが話をしていく。
そのなかで宿の話になったのだが、細剣使いはお風呂に食いついて来た。女性であるなら当然だろう。
結果として俺の借りている部屋に案内する事になった。
その宿で、飛び込んできたアルゴからとんでもない話を聞く事になるのだが、俺はまだそのことを知らなかった。
エピソード11裏 End Next エピソード12
というわけで黒パンイベントでした。
宿に関する会話はキリトさんの説明で省略しました。
次回の投稿に関してなのですが、できたら表裏一気に投稿したいと思っています。
有言実行なるか!
この雌牛クエスト、一ヶ月の時にも書きましたが、4人総出で1日中受注を繰り返してました。結果クリームを大量に所有しています。
そして、ボス戦後にアスナもこっそり大量に集めにいきます。
それと、このクエストは後々受注者がとんでもなく増えます。