ゲーム「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr.」のネタバレを含みますので、未プレイの方はご注意ください。



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クロスアンジュ 天使と竜の輪舞tr.  ~あんなに一緒だったのに~

並行宇宙にあるもう一つの地球から帰還したアンジュが、直後に邂逅したナオミ達と決別した後、サラマンディーネ達とともにアウローラに収容された。

 

アウローラのブリッジで今後の対策を練るなか、アンジュの仲立ちでノーマとドラゴンの間に同盟が成立し、共同戦線を取ることとなった。

 

「目標は、やはり暁ノ御柱でしょう。エンブリヲの次元融合は間違いなくそこで行われているはずです。そして、そこには必ず『アウラ』がいるはずです」

 

作戦MAPを見ながらそう告げるサラマンディーネに総司令であるヒルダが頷く。

 

「とはいえ、闇雲に仕掛けても危険が大きいでしょう。なにより、エンブリヲの下にはラグナメイルが控えています。我々の龍神器だけでは、突破は難しいでしょう」

 

悔しげに告げるも、事実だった。

 

「だろうな、サリア達5人に加えて、ナオミまでいやがる。一筋縄じゃいかねえな」

 

ヒルダがそう口にすると、聞いていたアンジュが辛そうに顔を顰める。

 

「けど、グダグダしてたら手遅れになっちまう。危険だが、ここは正面突破で一気に突っ込むぜ」

 

元より出せる手が限られている。アンジュ達が帰還するまでは、メイルライダーの数も不足していたのだ。それこそ、訓練上がりの新兵を前線に投入しなければならないほどだ。

 

アンジュのヴィルキスとヴィヴィアンのレイザーが戻り、サラマンディーネ達の龍神器が加わっただけでも、かなり勝率が上がる。

 

「敵のラグナメイルはあたしらが抑える。ドラ姫様たちはその隙に暁ノ御柱に突撃してくれ」

 

「承知しました」

 

「アンジュ、連中との戦いはお前が中心に――アンジュ?」

 

返事がないことに顔を上げると、アンジュはどこか心ここにあらずといった面持ちで佇んでいる。

 

「アンジュ!」

 

「あ、な、なによ? いきなり大声出さないで」

 

僅かに遅れて反応を返したアンジュに、ヒルダは眉を吊り上げて睨む。

 

「アンジュ、いい加減割り切れ! ナオミはもう敵なんだ! そんなんじゃ、やられるだけだぞっ」

 

「っ、分かってるわ、そんなこと!」

 

苛立ちを隠せず、叫ぶとアンジュは踵を返す。

 

「疲れてるから少し休むわ。あとで作戦を教えて」

 

低い声で告げると、アンジュはそのままブリッジを後にしていった。

 

「アンジュ……」

 

「無理もねえな、ナオミが敵になっちまったんだから」

 

心配そうに見るヴィヴィアンとロザリーに、ヒルダも自身の言葉に悪態をつくも、ああでも言わなければ、いつまでも引きずってしまう。

 

「差し出がましいですが――『ナオミ』、というのは先程アンジュと話した……」

 

この世界に来たと同時に邂逅したエンブリオのラグナメイルの中に混じっていた一機のパラメイル――そのライダーの少女がアンジュと会話するのを傍で見ていたサラマンディーネが訊ねると、ヒルダが苦々しく頷く。

 

「ああ、そうだよ…サリア達と同じ、あたしらの仲間だった奴だ」

 

「アンジュと親しい方――とお見受けしましたが」

 

コックピットから顔を出し、アンジュの姿に本当に喜ぶ姿と、彼女の姿にアンジュもどこか嬉しそうにしていたのを見た。

 

「親しいなんてもんじゃねえよ。ナオミは、アンジュとずっと一緒に戦ってきたんだからな」

 

第一中隊の中で孤立していたアンジュと唯一、コミュニケーションを取り、アンジュと一緒にいた少女。アンジュのために強くなり、最初は誰よりも弱かったのが、気づけばアンジュの背中を守れるほどまでに強くなった。いや――アンジュを守れるほど強くなったのだ。彼女のためだけに―――

 

ひたむきに、そして一途に慕う彼女をアンジュも徐々に受け入れていった。彼女を誰よりも信頼するようになっていた。

 

「そんな方がどうして――?」

 

「あのエンブリヲのくそったれのせいだよっ、あいつのせいで引き離されて…平和な世界が創れるって、騙されやがって」

 

アンジュと離れ離れになり、不安定になっていたナオミの心の隙に付け込まれた――そういうのは簡単だろう。なによりも、アンジュがこれ以上傷つくことをナオミは誰より憂いていた。

 

それを止められなかったヒルダ達も、己の不甲斐なさに手を握り締める。

 

「だけど、やるしかねえんだっ、それに、アンジュとナオミは絶対に戦わせねえ。ナオミは、あたしらで絶対止める」

 

正直、ヒルダだけではナオミは止められない。それこそ、ロザリーとヴィヴィアンの援護があってようやく、だろう。サリア達は苦しいがアンジュに任せるしかないが、アンジュとナオミを戦わせるよりはマシだ。

 

ヒルダの決意に頷くロザリーとヴィヴィアン――それを見ながら、サラマンディーネは考え込む。

 

アンジュとの決別に涙を流し、必死に彼女の名を呼びながら去っていた少女を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

アウローラに用意された自室で、ベッドに倒れ込み、アンジュは天井を仰ぎながら照明に手を翳す。

 

『アンジュ……』

 

耳に聞こえる彼女の声――脳裏に浮かぶナオミの笑顔にアンジュは唇を噛み、うつ伏せになりながらシーツに顔を埋める。

 

「ナオミ、なんでよ…なんでなのよっ」

 

やり場のない怒りと苛立ちがアンジュを苦しめる。

 

もう一つの地球に跳ばされ、彼女と離れ離れになり、アンジュは不安を隠せなかった。だからこそ、この世界に帰ってきた時、彼女の無事な姿に安堵した。

 

だが、それは次の瞬間、絶望へと変わった。

 

エンブリヲの下についたナオミ――『裏切り』と、アンジュは思った。だが違った……アンジュのためだと。平和な世界で傷つかずに生きられる、と――相変わらずのお人好しのままだった。アンジュの好きな『ナオミ』のままだった。

 

だが、アンジュは拒んだ――自分の生きる世界は、自分の手で掴むと……ハッキリと告げたのだ、『サヨナラ』と―――――絶望するナオミの泣き顔が何度も過ぎる。

 

気丈に振舞わなければ、そのまま彼女の手を取りかねないほどだった。

 

「なんで、私の傍にいないのよ……っ」

 

いつもいつも、鬱陶しいぐらいに傍にいてくれた少女―――ヒルダ達に聞いたが、アンジュ達が跳ばされた後、ナオミは一人エンブリヲに戦いを挑んだらしい。アンジュの仇を討つために…勝ち目のない戦いに挑んだ。

 

そうして心が不安定になった隙をエンブリヲにつけこまれた。

 

もしあの時、ナオミと一緒に跳んでいたら……今でも、彼女は傍にいてくれたのだろうか――だが、追い縋る彼女を直前で止めたのは他ならぬアンジュ自身だ。

 

過去に『if』はない。

 

だが、思わずにはいられなかった。

 

(ああ、そうか……あなたがいてくれたから、私はなにも怖くなかったんだ)

 

 

 

どんな時でも傍にいてくれた。

 

常に後ろで一緒に戦ってくれた。

 

いつも横でバカみたいに笑ってくれた。

 

 

 

「ホント、遅すぎなのよ――」

 

今になって気づくなど、自分のバカさ加減に嫌気がさす。

 

ナオミとは完全に決別した。ヒルダの言うとおり、割り切らなければ、彼女とは戦えない。だが、こんなもやもやしたままで戦えるのか、と――――

 

「無様ね……」

 

自虐するなか、ドアがノックされた。今は誰とも話す気がなく、無視しようとするが、扉越しに声が響く。

 

「アンジュ、少しよろしいでしょうか?」

 

「サラ子……?」

 

予想外の来客だったが、応えないわけにもいかず、アンジュは気だるげに身体を起こし、ドアを開く。

 

「なに? 疲れてるから、用なら後に……」

 

「随分と無様な姿ですね」

 

「喧嘩うってんの?」

 

開口一番の悪態に、剣呑な空気が漂うなか、サラマンディーネはアンジュを強引に押し、部屋へと入った。

 

「なによ、用があるなら早くしなさいよ」

 

「――『ナオミ』、でしたか? 先程あなたと話された方は」

 

刺々しく話すアンジュだったが、その一言に表情が固まる。

 

「それ程ショックでしたか? 自分の大切な方が敵になったのが……ですが、司令官殿が仰っていたように彼女は敵です。あなた自身が決めたことではないですか」

 

サラマンディーネの言葉がアンジュの心を抉り、歯噛みする。

 

「あんたに…あんたに何が分かるのよっ」

 

思わず声を荒げる。

 

言われなくても百も承知だ。そうしてしまったのはアンジュの責任だ。泣きながら自分の名を呼ぶナオミのあの顔が離れない。彼女を傷つけた傷みがアンジュ自身を苦しめる。

 

「ええ、分かりません。ですが、そのように喚いていてもなにも変わらないということだけは分かります」

 

葛藤するアンジュに、冷静なサラマンディーネの声が掛かり、アンジュは顔を上げる。

 

「確かに、大切な者が敵になった苦しみは私には分かりません。ですが、あなたはそれでいいのですか? ただそうやって現実から眼を背けていて…あなたが彼女に向かって言った決意はその程度なのですか?」

 

「サラ子……」

 

「だとしたら、私はあなたを見誤っていたようです。ましてや、その程度で揺らぐほどの決意などでは、到底エンブリヲにはかないません」

 

エンブリヲは心の隙をついてくる。それを跳ね除けるだけの強い意思が必要になる。だが、今の動揺するアンジュでは、安心できない。

 

「なにより、あなたのその姿を見たら、彼女はどう思うでしょう? 面と向かって告げられた決意がその程度だとしたら、彼女に対しても無礼ではないのですか、アンジュ」

 

その言葉にアンジュはハッと気づかされる。

 

ナオミは、アンジュのその心の強さに憧れ、そして惹かれたのだ。アンジュもまた、ナオミの優しさに触れ、頑なだった心を溶かされた。

 

誰も死なせない――自分に関わるな…すべてを遠ざけていた彼女に、仲間の大切さを教えてくれた。

 

お互いがお互いの足りない部分を補い合うように――アンジュは小さく笑みを浮かべた。

 

「そうね…こんな様じゃ、ナオミに幻滅されちゃうわね。私らしく――全力であの子と戦うわ。そして、私の想いをぶつけて、眼を覚まさせてやるんだから」

 

決意を秘めて、そう己に誓うように――アンジュの姿にサラマンディーネも笑みを浮かべる。

 

「比翼の鳥――ですわね、あなた方は」

 

「? なによ、それ?」

 

喩えの意味が分からずに首を傾げる。

 

「我々の地球に古くから伝わる言葉です。互いに離れず、互いを必要として寄り添う…どちらかが欠けては生きていけない――という意味です」

 

「成る程…そうかもしれないわね」

 

「あら、素直ですこと」

 

意外、とアンジュの態度にクスリと笑う。

 

「このバカげた戦いを終わらせる。奪われたものを取り戻す――私の、私達の生きる世界を掴む。でしょ、サラ子?」

 

「ええ――それでこそですわ、共に参りましょう」

 

アンジュの決意に満足そうに頷くサラマンディーネを一瞥し、アンジュは遠くにいるであろうナオミに告げる。

 

(待ってなさいよ、ナオミ――もう一度、ぶつけるわ。私の想いも、なにもかもっ)

 

決意を新たにするアンジュは、そう誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでアンジュ、言い忘れていたのですが……」

 

「何よ?」

 

「比翼の鳥は『男女の相愛』を意味するそうです」

 

「なっ……」

 

予想外の言葉にアンジュは戸惑い、サラマンディーネはどこか含んだような笑みを浮かべる。

 

「アンジュにとってその方はそれ程の相手なのですね」

 

「っっ……ち、違うわよっ、ナオミは大切だけど、でもそれは仲間としてで――いつも一緒にいてくれて、助けにきてくれて、ずっと傍にいてほしいって――って、何言わせるのよ!」

 

顔を真っ赤にして自爆するアンジュだが、どう見てもバレバレな態度だ。ヒルダ曰く――傍から見てて、じれったいとのことだった。

 

「これは…是非ともお会いしたくなりましたね」

 

あのアンジュがこれ程までに想う相手に興味が湧き、主導権を握られ、からかわれるアンジュは始終顔を真っ赤にしたままだった。




内容的には、「アンジュ」をクリアしつつ、ルートは「エンブリオルート」に突入したという前提で、あの決別のシーンのアンジュの心情を描いて見ました。

ナオミはなかなか健気なキャラです。個性が際立つあの世界でも決して埋没せず、あたらしい魅力を与えてくれています。

というより、アンジュルートでクリアすると、もうタスク入り込む余地なくね?と思うぐらいのラブラブっぷりです。

クロスアンジュのファンなら買って損はないゲームですね。惜しむらくは後半のストーリーが少し端折り過ぎですが、製作時期を考えると仕方がないですね。

ほかにもなにか短編を思いついたら、現在連載中の本編では描けないような感じで書いてみたいですね。
個人的にはヒルダとか。


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