ハイスクールD×D 昼行灯のサイキッカー   作:野分大地

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12.傾堂の一撃

 ―――……貴方って、人として最低よ。

 

 もう顔も思い出せない誰か(モブキャラ)のその冷たい声を、頭の何処かでふと思い出した。

 

 はて、俺はなんと答えたんだったか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「隙ありバイバイハイサヨウナラッ!!」

「っ……と、っとぉ。危ない危ない、今のは惜しかったねぇ」

 

 一瞬集中が途切れた隙に、十分とっていたはずの距離を一瞬で詰められる。

完全に躱しきることよりも、余裕な態度を崩さないことを優先しなければならない。ポケットに手を突っ込んだまま回避行動―――首を正確に狙った一撃をスウェーで躱す。躱しきれずに、頬がそこそこ深く切れた。

 痛みと熱が教えてくれる……今俺は死の淵に立っている。背中が冷や汗でじっとりと濡れ、動悸がひどくて吐き気がした。そういえば夕飯を食べていない……吐くものが無くて良かったと言うべきか。

 

「……まったヘラヘラヘラヘラし腐ってよぉ!! すごいね僕ちゃん、尊敬するわぁ! なんかもう楽しくなってきちった! 人間何処まで腹立てられるのかゲームしてる気分! ハイスコア更新!!」

「そのテンション飽きない?」

「……ああああああああああ!!!!!!」

 

 激情のままに乱射された光の弾丸を、今度は危なげなく躱した。ほとんど感覚強化(センス)極振りのライズがあるお陰で捉えきれないということはなく、なんとか余裕を装って対応できていた。見えようが回避行動が間に合わないものは、テレキネシスで負荷をかけて鈍らせていく。

 

 わかりやすいほど激情家らしいこの狂人は、悪魔ですらない神器使い(格下の相手)にそうやって対応されるだけで目論見通り苛立ってくれる。

人の神経を逆撫でするのはお家芸だ、それまで研鑽してきたであろう技術を投げ捨ててブチ切れてくれるおかげで、こうやって煽る余裕を残しながら千日手を指し続けていられた。

 ……イッセー君達が先に進んでから既に十数分、こうして先の見えない時間稼ぎが繰り広げられている。

 

「いぃぃかげんにぃっ! ぶち殺されてちょっ!!」

 

 見かねて距離を詰めようとしてくるフリード。すかさず神器をスイッチして、集中……最初に隙を作るために見せたバレッドショットでは対応されてしまうだろう、なら次は。

 

「そら、吹き飛べ(・・・・)

「二度も当たると―――っ!?あ゛っ、づぁああああ!!!」

 

 先ほどバレッドショットを撃った時と同じ予備動作……手を銃の形にしてみせると、さほど弾速の無いそれを切り捨ててやろうとフリードが光剣を振りかぶる。僅かに前進する速度が鈍り、狙いをつけやすくなった瞬間を見計らう。発動するのは口にしたブラフとは裏腹に、物理的破壊力は存在しないバースト―――彼の頭部周りの空間を、発火能力(パイロキネシス)が炎上させる。

 

「あっはー、いっそ清々しいくらい引っかかるねぇ君。気持ち良い通り越して無垢な子いじめてるみたいな罪悪感」

「ご、ろず……!!」

 

 大口開けていたこともあり、喉まで綺麗に焼けたのだろう。しばらくのたうちまわった後目を抑えながらフラフラと立ち上がる彼の声は、まるで酷い風邪をひいたかのように掠れていた。

 まるで隙だらけだ……が、おいそれと追撃は出来ない。

 

「(……俺は何分PSYを使った? いや、そもそも本気の殺し合いで自分でもわかるくらい緊張してる。訓練時のタイムリミットそのままだと考えるのは楽天的じゃないのか? ……援軍はまだ……馬鹿が、弱気になるな。PSYのイメージにほつれが……)」

 

 部活での模擬戦において、俺のリザルトは未だに無勝……多彩な手札と、相手の狂乱による単調さが味方して何とかこうしてあしらい続けられるものの、攻勢に回ればボロが出るのは火を見るよりも明らかだった。

何より問題になるのは俺の継戦能力。相手の強さの底が知れない以上、仕留めにかかれば全力を振り絞る他なく……ライズに回す余力すら潰えた時点で、俺の命はたやすく潰える。

 一瞬も途切れさせる訳にはいかないライズ、要所ごとに使用しなければならないバースト……極限状況下での酷使に、脳が悲鳴を上げている。

 

「ほら頑張れ頑張れ神父さん、なんだっけ……『二度会う悪魔はいない』、だっけー? あんだけ見栄はってそのザマはちょっと、ねぇ……痛いっていうか痒い、見ててムズムズする。わかるかなぁ、この感じ……」

「減らず、口をォ……!」

「ぶっふ……ホントごめんそれやめて、前髪チリチリでかっこいい顔はキツイわぁ」

「~~~~~~ッ!!!」

 

 頭痛を紛らわせる意味も兼ねて、相手の冷静さを奪い続けるべく煽り続ける。……何を口にすれば相手が傷つくかなんて、手に取るようにわかっていた。 

我武者羅に飛びかかってくるフリードに対し、次の一手を必死に考えながら対峙していたその時……

 

「なんっ……!?」

「あ゛ァ……!?」

 

 ―――聖堂が、揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を目にした瞬間。光の剣を構える神父の群れも、此方を見下ろして何か言っている夕麻ちゃんすら、もう目に入らなくなった。

 

「っ、アーシアァァ!!」

「……イッセー、さん?」

 

 十字架に磔にされながら、呆然と此方を見下ろすその反応にただ安心する―――間に合った。

 

「今、行く」

「……はいっ!」

 

 涙を零しながら笑うアーシア、大した距離はないけど……こいつらが、邪魔だ。

 

「……小猫ちゃん、木場……」

「わかってるよ、イッセー君。手筈通り……それに、個人的な恨みもある。全力で行かせてもらおう」

「……」

 

 冷たい目で、手の中に創りだした真っ黒い剣を構える木場と、無手で身構える小猫ちゃん……騎士(ナイト)戦車(ルーク)、俺よりよっぽど強い二人の頼りがいのある姿に、後顧の憂いを絶つ。

 先んじて神父の群れに飛び込んだ二人が開けてくれた道に、一歩踏み出した。

 

「くっ、早すぎる……堕天使陣営との諍いを厭わないというの? それともまさか気取られ……いえ、それにしたってあの男は何をしているの!!」

「上で先輩が頑張ってくれてる。部長の説得もしてくれた……だから今、ここにいられるんだ」

 

 二回も失敗した。俺の力量不足で、アーシアを泣かせちまった。今もまたアーシアは泣いている……だけど。少なくともお陰で、こうしてもう一度……今度は万全の状態で足掻くことができる。

 

「あぁ、全く忌々しい……だけど馬鹿な真似をしたわね。そこの大勢相手に手一杯な二人ならまだしも……貴方が私に勝てるつもりでいるの? 新米の転生悪魔、それも虎の子の神器はありきたりな『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』。時間稼ぎにもなりはしないわ、貴方を捻り潰したら次はその二人。すぐに私の部下達もやってくる……お馬鹿なイッセー君、わかるかしら? 詰みっていうのよ、これ」

「……うるせぇよ」

 

 昼間やられた痛みが疼く。上段から偉そうに説法かますアイツが言ってることは、何も間違っちゃいないんだろう。

激情に任せて怒鳴り散らしたくなる。だけど、それじゃダメだ。上で別れる前少し見た長谷先輩は、えげつないほどにフリードを煽って闘牛士さながらにあしらって見せていた。冷静さを欠けば対応しやすくなる……ああブチギレてるよ、今にも殴りかかりたいね。だけど頭は冷やすんだ、部長の言葉を思い出せ! この気持ちの矛先は、あの人がしっかり教えてくれたじゃないか。

 

『イッセー、あなたは私が『敵の陣地』と認めた場所の一番重要なところへ足を踏み入れたとき、『(キング)』以外の駒に変ずることができるの。今の力量では最強の駒である『女王(クイーン)』は負担が大きすぎて出来ないでしょうけれど……心のなかで強く『プロモーション』を願えば、貴方の能力に変化が訪れるわ』

 

「――プロモーション、『戦車(ルーク)』」

 

 一歩一歩、部長の言葉を噛み締めながら進む。選んだのは『戦車(ルーク)』……アイツの言うとおり、ありきたりな『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』ですら、1の力しかない今の俺じゃ活用出来てるとは言えなかった。速くなって当てれるようになったって満足にダメージを与えられないなら、倍になる前の力(・・・・・・・)をデカくできるこれ一択だ。

 

『それともう一つ……神器(セイクリッド・ギア)は想いの力で動き出すの』

 

「……ありきたりだとか、つまらないだとか。散々な言い様してくれたよな……奪う価値すら無いって、一回は殺された。悔しいよな……? 俺は悔しいよ。お前だって俺の一部ならっ、あんな風に扱き下ろされて何とも思わない訳ねぇもんなぁ……!」

 

 ―――ドクンッ……

 

 左腕の赤い籠手が脈動する。我ながら安っぽい発破に、煮えたぎるような怒りと戦意に……それでも鼓舞されたように僅かに震える俺の神器。無機質な武器にしか見えなかったそれに、こんな状況だというのに親近感が湧いてくる。

 

『その力が強ければ強いほど、神器は応えてくれるわ……それを忘れないで』

 

「わかってきました、部長。コイツはただの武器なんかじゃない。俺の一部……相棒みたいなもんなんだ。だからこうやって、一緒に燃えてくれるっ」

「わからない子ね。それじゃ、サヨナラ」

「っ、イッセーさん、危ない!!」

 

 呆れたように嘲笑を浮かべながら、光の槍を作り出す夕麻ちゃん……いや、レイナーレ。それを見て悲鳴を上げるアーシアに、ニッと笑ってみせる。

 

「行こうぜ、相棒(・・)。あそこで泣いてる優しい女の子を、カッコ良く助け出したいんだよ……その為の力を、貸してくれ―――!!」

『Dragon booster!!』

 

 俺の叫びに呼応して、一際強く吠える神器。手の甲の宝玉が眩い輝きを放ち、籠手にシャープな意匠の文様が浮かび上がる。

 小猫ちゃんさながらの馬鹿げた怪力が、今籠手の力でさらに倍になったのが感じられた。伝わってくる力には俺に負けずとも劣らない確かな激情も感じられて、俺はそれに背を押されるように走りだす。

 

 『騎士』である木場ほどじゃないけど、悪魔として向上した身体能力で距離を詰める。光の投槍の速さは何度も体験済みだ、反応できるか運任せのアレが放たれる前に接近戦(インファイト)に持ち込むのが、部長にも言われた勝利の大前提。

 

「レイナーレェェェェッ!!!」

「腐ったクソガキが、私の名前を気安く呼ばないで頂戴っ!」

 

 忌々しげに吐き捨てながら、俺の拳をまるで舞うように躱す。プロモーション先を選んだ時点で、捕まえるのが一筋縄ではいかないことくらいわかってる。

 

『Boost!!』

 

 手間取る俺に、今度はそっちから発破をかけるような二度目の音声。宝玉に浮かぶ文字が『Ⅰ』から『Ⅱ』に変わっていた。

今までにない二度目の変化……だけどそれに戸惑うことはない。理屈じゃない部分で確信できた。兵藤一誠にとって、コイツほど信頼できる相手なんてそうはいないのだと。

 

 ――わかってるさ、急かすなよ……俺一人の怒りで、ただでさえブチ切れないのに精一杯だってのに!

 

「また力が増した……? だけどその程度じゃまだまだよっ!」

 

 追撃を更に躱されるだけでなく、つい大振りになった隙を見逃さなかったレイナーレはもう一方の手にも槍を創りだし……嗤った。

 

「足元がお留守よ、食らいなさい!」

「っ、ぐ、あ、がぁあぁぁッ!?」

「イッセーさん!?」

 

 両足を地面に縫い止めるように、一本ずつ太ももに打ち込まれた槍。『戦車』の防御力を持ってしても防げない一撃に、眼の奥に火花が散るような激痛が走る。我慢どころじゃない絶叫が、アーシアの悲鳴をかき消すようだ。

 

 ……だからどうした。もう何度も食らってきた痛みだ、ここに来るまでに覚悟は決めてきただろうが!

 

 凝縮された光に身を焼かれながらも槍を抜こうとする俺に、レイナーレはご高説を垂れる。

 

「足掻いたって無駄よ、光は悪魔にとって猛毒なの。触っただけで気が触れるような激痛……今に体に流れた光が貴方を内側から焼き尽くすわ。その槍が刺さった時点で勝負は決まったのよ」

「……る、せぇ……!!」

 

 得意気なそのムカつく顔への反骨心が。まるで自分が刺されたかのように苦しそうなアーシアへの罪悪感が。痛みを上回る力の源になって、俺を突き動かしてくれる。

 無理やり槍を引き抜いた両足から、ボタボタと鮮血が溢れでた。アイツの言うとおり猛毒の光が全身に回ってるんだろう、何処が痛いのかも碌にわからない。気絶すら許されないこの激痛が今の俺にはちょうどよかった。

ここが最後のチャンスなんだ。一分一秒だってムダにしない。今度こそ。今度こそ―――

 

『Boost!!』

 

 もう自分がどんな顔をしているのかもわからない。ちゃんと立てているのか、上も下もわからないような激痛の世界の中で、その声ははっきりと聞き取れる。

 

 アーシアを見る。必死の形相で何か叫んでる。きっと「もう良いです」、とか言ってるんだろうなァ。優しい子だから……泣かせないためにここに来たのに、アーシアを余計に苦しめてるのかもしれない。だけどごめん、これは俺の意地だから。

 現金なことに、モチベーション(アーシアの無事)を再確認すると俺の世界に足が戻ってくる。情けなく、産まれたての子鹿みたいに震えるそれに気合を入れて、何とか立ち上がった。

 

 レイナーレを見る。驚いたような顔で何かを叫んでいる。「信じられない」ってか?散々馬鹿にしてくれたもんな。どうせ何度もそうしてきたみたいに自分の強さをベラベラ語って、俺の弱さを教えてくれてるんだろう……俺に言わせれば、ソッチのほうが何にも分かってないってのに。

 

「………………訳がな……下級悪魔……の傷……れるはずが無いわ!」

 

 俺の世界に少しずつ音が戻ってくる。まるで水の中に居るみたいで、何処か遠くのことみたいだけど……ああ、問答する気は無かったんだけど。せっかくだしな。

 

「……行こうぜ相棒……ここまで、来たぞ。作戦、って程でもないけどさ……それだけ信じて、ここに来たんだ。当たりさえすりゃ、勝てるって……なぁ、そうだろ」

『Explosion!!』

 

 独り言のような言葉、それでもそれを力強く保証するように、一際強く発光する神器。

 呆然としながらも身の危険が勝ったのか、レイナーレから付きだされる光の槍を難なく握りつぶし……倒れこむように接近すると、ちょうどいい紐みたいなものを右腕で掴み上げる。

 

「――――やっと、届く(・・)

「う、嘘よっ!私は、至高の……!!」

 

 正真正銘、もう限界だ。胸ぐらを掴んだ右腕を支えに、左腕を振りかぶる。

なおも口汚く叫ぶレイナーレに負けじと、血反吐混じりに万感を込めて叫んだ。

 

「……歯ァ、食いしばれェェェェ!!!!」

 

 籠手の力を全開放して放った渾身の左アッパーはレイナーレの顎を真下から打ち抜き……大きな破砕音を立てて、天井にかち上げた。天井に何本もの亀裂が入り、土埃が周囲を満たす。

最後の一滴まで力を絞り尽くし大の字で仰向け倒れる俺の隣に、数拍置いてレイナーレが落下した。……ピクリとも動かない。

 

 ―――俺の、勝ちだ!

 

 ……勝鬨は血反吐に混じって音にもならなかったが。人生最高の一撃を決めてやった清々しさに、俺は胸のすくような気持ちだった。




 前半の主人公(笑)の汚名を返上するかのような、怒涛の原作主人公パート。
聖女奪還戦、終結です。
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