ハイスクールD×D 昼行灯のサイキッカー   作:野分大地

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4.襲撃

「あ、あのっ……!?」

 

 イッセー君を連れて、通学路を少し外れて歩いて行く。ある程度冷静さを取り戻したのか、俺の手を振り払って立ち止まった。

 

「んー?」

「いやんーじゃなくて! なんなんですか、一体!」

 

 多分俺に引っ張って来られたことだけじゃなくて、きっと今彼を取り囲んでいるであろうあれこれも含めた「なんなんですか」なんだろう。その目には少々苛立ちも含まれていた。

そんな状況でも敬語は保つとは、変態だの何だのと有名だけど人間としてはやはり「あの!!」……っと。

 

「あっはー、やだなぁ。そんな怒鳴んなくても聞こえてるって」

「いやめっちゃ無視してたじゃないすか!?」

 

 んー、面白いなぁ彼。普通に怒られそうなところを律儀にいちいちツッコんでくれるとは。

 

「まぁまぁ……んで、なんだっけ?」

「此方が聞いてるんスよ! いきなり何ですか、俺に何の用ですか? ちょっと今日は、俺……」

「天野夕麻ちゃんだっけ、君の彼女」

 

 ……あぁ、気持ちいいなぁこれ。めっちゃぽかーんとしてるよイッセー君。この、謎多き情報通ポジ? いや俺と彼の情報量の差なんて、リアスちゃんから話を聞いたか否かでしか無いわけだけど。

 

「お、覚えてるんですか、先輩!? っていうかなんで知ってるんスか!」

「ふふふ……そんなことはどうでもいいじゃない。君が本当に聞きたいのは……」

「聞きたいのは……?」

「……ごめん、なんかこういう時ってこういう感じだよねーって喋ってたけど思いつかなかったや」

 

 ……あれ、イッセー君ズッコケてる。

 

「…………ええと……先輩は……」

「あ、長谷奏海ね。奏海でいいよ」

「……奏海先輩は、何者なんですか」

 

 来た。この質問を待っていたのだ。

 

「俺かい? 俺はねぇ……」

 

 スッと細めた目を赤く光らせて、ニヒルに笑う。気圧されたようにゴクリと喉を鳴らしたイッセー君の反応に満足して、俺はキメた。

 

「……超能力さしゃ」

 

 

 噛んじゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、先輩は超能力者だから堕天使の……夕麻ちゃんの力が、効かなかったって?」

「そういうこと、なんじゃないかなぁ?」

 

 信じられない、という様子ではない。いや最初は全力で訝しんでたけど、俺がその辺の樹の枝を触れずに圧し折って空中で振り回してみせれば、少なくとも“超常的な何か”についてはある程度信じたようだった。それはつまり、夕麻ちゃんとやらについてのあれこれも「夢だ」と断言する根拠をも失ったということで。

 

「……じゃあ、俺って、やっぱり…………」

「殺されてたねぇ。ここ(・・)で、血だまりで倒れている君を僕は確かに見た。遠ざかる黒い翼の女の子もね」

 

 噴水の縁に座って、しばし口を閉ざす。

 俺は正確にはイッセー君の記憶の中でしか見ていないが、実際に立ち去ったわけだからそれを俺が見たかどうかは誤差だろう。この際わかりやすさ優先だ。

 

 歩きながら、イッセーくんのこれまでの数日間がしっかりと現実であること。夕麻ちゃんは堕天使と呼ばれる、俺とはおそらく違うものの異能者らしいということ。イッセー君も何かしらの力の素養があって、それを危険視した“誰か達”がイッセー君を殺すために差し向けたのが彼女であることなどを説明していった。

 

 これは途方に暮れている彼が不憫であったからというのもあるが、「後日しっかりと話す」と約束したリアスちゃんのお願いでもあったのだ。なんでも彼女たちにも予定があるから、説明の場を設ける前にある程度話してやってくれだとか。

……いやさわりくらい自分で話す時間はあるだろうと思ったけど、言わなかった。だって“悪魔”ってどのくらい強いのかわからないし。歯向かうと呪殺とかされそうじゃない?

 

「……そんな……夕麻ちゃん…………で、でも、刺し殺されたっていうなら、俺はなんで今こうやって……」

「生きてるのか、って? いやいや、言ったろ。君は確かに一度死んだのさ」

「じゃあ、今ここに居る俺は何なんだよッ!?」

 

 いよいよもって取り乱す彼を見据えながら、俺は口を開く。

 

「……君は一度死んだんだよ。そして、悪魔に―――」

 

 

 ……突如として走る悪寒。咄嗟にライズを発動して、口を噤む。

 

「……奏海先輩、これは……?」

 

 イッセー君も何かを感じ取ったのだろう、会話を切り上げた俺になにか言うより先に、周囲を見渡す。

 

「―――これは数奇なものだな。こんな都市部でもない地方の市街で、貴様等のような存在に会うとは」

「ッ……?!」

 

 いつのまにやら現れた、ハットを目深に被った男の視線に、傍らのイッセー君が後ずさろうとして……2mほどの距離を、一瞬で後退する。

当の本人も困惑している様子から、どうにも悪魔に転生して上昇した身体能力を持て余しているらしかった。……俺にもよく覚えがある。ライズの練習し始めは、よく壁に頭からぶつかっていたものだった。

 

 ……と。現実逃避もほどほどに。

 

「…………イッセー君、逃げな」

 

 俺もまた、さほど余裕が有るわけでは無かった。それでもイッセー君のように竦んでしまわなかったのは、コイツが使うのが昨夜(イッセー君が)見た光の槍までなら、少なくとも凌いで逃げることはできるという自信があったからに過ぎない。

 

「先輩!? でもっ……」

「今のでわかったろ。君は今、普通より早く走れるんだ。俺がちょっと頑張れば、逃げきれるだろ」

「いや、でもアイツ、見るからにヤバイですって!?」

「俺だってそれなりにヤバイさ、見たろ。それなりに太い木の枝だって真っ二つで……」

 

 男から視線を背けずにこの愚直な後輩を説き伏せようとするも、いっちょまえに俺を心配して離れようとしない。正直めっちゃ怖いからありがたいが、先輩としてそれに甘えるわけにもいかんわけで―――

 

「この私を前にして、呑気なことだな。無知とは羨ましい。して、主は誰だ? こんな地方を縄張りにしている輩だ、階級の低い者か、物好きのどちらかだろう」

「主……?」

「あぁ、もういい……そうか、貴様等ははぐれ(・・・)か。下等な存在同士がいじましくつるんでいるわけだ……全く、見るに耐えんよ」

 

 此方を見下し嘲笑いながら黒翼を出した男は、何もない虚空をつかむように手を伸ばし―――手の内に、光の槍を作り出す。

夕麻ちゃんとは色も形も違うものの……確定だろう。この男は、彼女の言っていた“誰か達”……堕天使の一人だ。

 

「死ぬがいい。この街の平和のためにも……はぐれ悪魔など、見逃してはおけんからな」

 

 白々しく嘯いて、男が光の槍を此方に投擲してくる。

……どうする?見るからにバチバチしてるあれには触りたくない。かと言って躱すのは後ろのイッセー君が怖い。となると……

 

「(ここは、サイコキネシスで―――え?」

 

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

体が後ろに引き倒され、尻もちを付いてしまわないように咄嗟に受け身を取る。見れば……

 

「……が、はっ……!」

「イッセー……君……?」

 

 何をしているんだ、彼は?

 

「だい、じょうぶ、っすか……せん……!! っづぅ……!」

 

 光の槍に腹を貫かれたイッセー君が、血を吐いてその場に膝をつく。

 

 ……かばったのか、俺を。

今日出会い、半日にも満たない交流しか無かった男を。

超能力者だと、少なくとも彼からすれば俺は“あちら側”の存在だと理解して尚。

 

 

 …………ああ、全くなんという子だろう。

 

「ふん、逃げ腰の臆病者ならどうとでもなると後回しにしてやったというのに……死に急ぐか。まぁそれもよかろう」

 

 そんなイッセー君を見下しながら、堕天使は二本目の槍を生成する。

 

「……OKだ、イッセー君」

 

 そんな態度を示されては、先輩として続かないわけにはいくまいよ。俺は日本人の現代っ子なんだ。ムードには逆らえないしね。

 

「どうしたはぐれ悪魔。仲間を殺されて怒ったとでも?笑わせるなよ、反吐が出る」

 

 心底鬱陶しそうに槍投げの構えを取る男と、今度こそ腰を据えて対峙する。

 

「君を飼い主様のところに連れてく前に……アイツは一発ぶん殴ろう。男の子らしくね」

 

 ―――ライズ、全開。

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