中学二年の時に発覚した、あるいは芽生えた俺の力……“PSI”は、これと決まった形や現象を伴う力というわけではなかった。
一番最初に芽生え今まで最も多く利用してきた
言葉を介さずに意思の疎通をする
人体の感覚機能や筋力、治癒力など人間としての機能を強化する力《ライズ》。
ともすれば無数に枝分かれしていく多彩な力だが、大別してこの3つの属性に分けて考えることにしていた。そう、当時の俺は中二病にして設定厨だったのだ。歴史上の偉人とかお伽話の登場人物を従えてのバトルロイヤルするあの作品とか大好きだった。
そのためいろんな専門用語なんかがあったりするのだが、これが却って能力向上には良かったらしい。というのも、PSIは良かれ悪かれイメージに左右される力だったからだ。
イメージをどこまで明確に抱けるかという想像力、それを維持する集中力。これがPSIを使う肝だ。
昔は机の上の本を開くだけで頭が茹で上がり、持ち上げたりしようものなら鼻血が流れ、ドアを開けようと頑張ってみれば頭痛と共にぶっ倒れる日々だったが……今は、一日中PSI任せで横着しても頭痛も起きないほどにはなっていた。
……まぁ、要するは。
「(……やっぱ、テレキネシスは……使えなさそうだねぇ)」
元がちょっと超能力が使えるだけの高校生なのだ。一発で余裕で即死級の槍を投げる堕天使とやらを相手に、悠々と確固たるイメージを練れるかと言ったら無理な相談だ。
生活レベルのテレキネシスなら半分寝ぼけてようと発揮できる自信はある。しかしそんなもので立ち向かうのは自殺行為だ。銃を相手にキッチンのお玉を持ち出すようなもの。「戦えないわけじゃありませんよー」くらいの気休めにすぎない。
故に俺が選んだのは単純明快な身体強化……ライズだった。
ライズはバーストと違い他人に見られることはなく、トランスと違い練習相手を必要としなかった。使用時間でいえばテレキネシスに並ぶか上回っている上に、発動に要するイメージは単純明快、“強い自分”である。半ば願望のように脳からひり出される切実なそれは、敢えてイメージしようという意識よりも先に像を結ぶ。
「死ね」
放たれた光の槍を、強化された俺の感覚は完全に捉えていた。
先ほどまでの余裕を残したものとは違い、頭痛を伴うものの……この状態ならさっきのような失態も起こり得ない。そんな超人的な反射神経に追いつく程の―――
「うおぁっ! ……ぶ、ないっとぉ!!」
―――超身体能力。
「……ほう?」
槍から逃げるどころか、一歩身をかがめて踏み込む形で躱す。そんな俺の曲芸じみた動きを見て、堕天使はピクリと眉根を寄せる。
「今の動き……何かしたな。お前は神器使いか?」
「さて……そうかもしれないねぇ。そこんところ俺にもよくわかんないや」
ニヤリ、と勝ち誇るように笑ってみせる。奴はそれにわかりやすく不快感を露わにし、三度手の中に槍を生成する。
「気に入らんな……だが知っているか、お前のような人間は、それなりに“居る”のだよ」
「へぇ?」
次々に投げられてくる槍を躱す、躱す、躱す。避けられる、とわかっているからだろう。今度は躱しながら近づくと言った動きを出来るだけ封じるように、頭を使っているらしい。
頭痛がじわじわと酷くなっていく。長期戦など臨むべくもないが、ここで焦って単調な攻撃などすれば一瞬で返り討ちだ。冷や汗を気取られてはいないだろうか、悪魔の生命力はイッセー君にどれほどの猶予を与えるのか……
「人は得てして、自分が得たものが、自分だけが得たものだと傲る……そうしなければ、自らの矮小な自負心を満たせぬのだろう。実に滑稽で、哀れを誘う」
「……俺もそうだって?」
「然り」
堕天使の目が、哀れみを含んだ……残飯を漁る野良犬を見るようなものになる。そして放たれる次の槍も躱し―――
「お、まっ……!!」
「詰みだ、神器使い」
コイツはわざと誘導したのだろうか?その槍は射線上に俺とイッセー君を捉えていた。躱せばイッセー君に当たる。いくら悪魔といえども、二発も喰らえば上昇した生命力など誤差とばかりに死んでしまう―――!
「がっ!! ……あ、あぁぁ……!!」
5:5で分配していたライズの内訳……
貫かれた腹が焼かれ、今にものたうち回りたい程の激痛に襲われる。
「井の中の蛙よ、悔いるが良い。身の程を弁えて謙虚に生きていれば、このようなところで淘汰されずに済んだのだ、とな」
「……くふっ……井の中の蛙……ね」
口の端から血を漏らしながら、此方に歩いてくる堕天使を見やる……ぼやけた視界の中、奴の手の中に槍が生成されるのが見えた。焼ける痛みがなくなり、一気に血が流れていく感覚。
「(なるほど、まさに長らく自分の
「さらばだ、はぐれ悪魔に神器使い」
俺の頭を踏みつけ、首を刎ねようと振りかぶる堕天使に見えない位置で……べっと舌を出して嗤う。
「でもさぁ。井の中にいるのが……カエルだとは、限らないんじゃないかな?堕天使さん」
「何、―――ッ!?」
獲物を仕留める間際、油断しきったそいつの顔面に――
「がふっ……ば、かな……?!」
顔を覆う堕天使の指の間からボタボタと血が垂れるのを見て、一矢報いてやった達成感が胸の内に満ちる。
……種を明かせば、槍を食らって崩れ落ちたあの瞬間。勝ちを確信して悠々と此方に歩いてくる堕天使に、イチかバチかのトランスで幻覚を見せてやっただけにすぎない。相手が冷静ならばすぐに見抜かれる、俺達がはるかに格下だからこそ成立したしょっぱい不意打ちだ。
「は、はは……ざまー、みろ……!」
でも、あぁ。やってやった。そんなこと教えてやるもんか……
プライドを傷つけられて憤怒の形相を浮かべる堕天使に渾身のドヤ顔をかまして、俺の意識はブラックアウトしていく。