ハイスクールD×D 昼行灯のサイキッカー   作:野分大地

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8.非日常の洗礼

 強化された身体能力にかまけた俺の素人剣術が、尽く封殺される。構うもんか、最初からわかってたことだ。じっと堪えて、此処は凌ぐ。

 

「フッ……!」

「隙あ―――ウッソ!?」

 

 祐斗君の一閃が大振りになった所を見計らって、バレッドショット―――弾丸の形でバーストの波動を前方射出するPSI能力だ、決め技にはならないものの弾速と連射性により牽制には持ってこいである―――のバッジに切り替え、放つ。完全に隙を突いたはずの一撃は、単純な速度で振り切られ……俺は肩口に、木刀の強かな一撃を受けた。

 

「そこまで……勝負あり、です」

「ふぅ。お疲れ様です、立てますか。先輩」

「んー。おーいてて……しっかし最後の何あれ、あそこまで速くなるかぁ。全然見えなかったや……」

 

 審判役の小猫ちゃんのジャッジに構えを解いた汗一つかいていない祐斗くんが、俺に手を差し伸べる。痛みと疲れを意思で押し殺して、ヘラリと笑ってその手を掴んで起き上がり、鈍く痛む肩をグルグルと回した。

通算3回目の敗北である。

 

 

 

 

 

 

 あれからイッセー君は、悪魔の下積みとして夜な夜なチラシ配りに奔走している…………自転車で。

 

 ……始めて聞いた時は爆笑した。それはもう笑った。お腹を抱えて涙を流して、笑いすぎてイッセー君が顔を手で覆ってしゃがみこんでいた。正直悪かったと思ってる。

……でも……ぶふぅ、自転車……悪魔が自転車でチラシ配って契約取りに奔走するって……ぷくくっ……!

 

 まぁともあれ彼は放課後、夜になれば自転車をかっ飛ばしている。親が心配しないかとも思うのだけど、そのあたりはリアスちゃ……部長が悪魔の力で上手いことやってるらしい。便利だなぁ、俺もトランスもうちょっと練習しようか……やっぱいいや。多分そんな使わないし。

 

 順調にいっているのかいないのか、少々判断の付かない彼の奮闘記は時々漏れ聞こえてくる。なんでも昨夜はゴスロリ衣装に身を包んだ筋骨隆々の男……否、(おとこ)に召喚され、自分を魔法少女にしろと迫られたらしい。もちろん笑った。

更に面白いのが、もちろんそんな願いは叶えられず、代わりに魔法少女モノのアニメDVDを夜通し鑑賞して帰ってきたのだが……イッセー君の担当した相手は、皆が皆彼に大賛辞を与えているという。わからなくもない、俺も短い付き合いだが、彼の人柄は好感に値すると思う。

 悪魔稼業の基礎の基礎である契約は取れず、それなのに多くの人から支持を受けるイッセー君。そんなイレギュラーに、部長が指導方法を選びあぐねている様子が時折見て取れた。

 

 ではここ数日、そんなことを聞きながら俺は何をしていたのかというと……そう、“部長”。俺も俺でオカルト研究部に入部していた。悪魔に成ったわけでは無いけれど。

別に抵抗があったわけじゃなかった。ただ、今はなんとなく……人として彼らと関わる、そんな境界線でふらふらするような在り方が素敵だと思ったんだ。ほら、なんかかっこいいじゃない? 浦◯さんポジとか割りと憧れ。下駄と帽子買ってこようかな……いや今適当言ってるだけだけど。

 

 まぁそんな感じで神器使いの協力者としてオカルト研究部に在籍することになった俺は、今までの特訓もどきではどうしようもなかった対人経験の穴を埋め、神器として発現した新しいPSIを使いこなすための特訓を行っているのである。

それがこの、オカ研メンバーとの模擬戦なんだけど……

 

「……強いねぇ、君ら」

 

 もはや手慣れてしまった作業である、ライズによる治癒力の補助を行いながらしみじみと呟く。

 

 初日は小猫ちゃんとライズを使った肉弾戦の練習だったのだが、俺はこれでも紳士を自称しているのである。それはもう堂々と、

 

『や、俺女の子は殴れないなぁ』

 

 と、言い放った。対する反応といえば、部長は意味深に笑い、朱乃ちゃんはあらあらと頬に手を当て苦笑。祐斗君は困ったように頬を掻き……小猫ちゃんはジト目を向けて立ち上がった。

そして始まった情け無用組手。速さは人並みなのに、少女の形をした戦車でも相手取っている気分だった。

殴られ、吹っ飛ばされ、投げられ、叩きつけられ……ストレングス(身体強化)全振りのライズによって大怪我はしなかったものの、終わる頃には服と些細なプライドはボロ雑巾のようになっていた。

 まぁ、強いていうならお陰で喧嘩一つしたことのないノーマル高校生にしてはある程度喧嘩慣れ出来た……気はする。少なくとも、迫り来る拳に思わず目をぎゅっと瞑って体を強ばらせるようなことは無くなった。

 

 二日目は朱乃ちゃんとのバースト戦闘の練習。今度は女の子がどうのとは言わなかった。そもそも今の自分では傷ひとつ付けられるかどうか微妙な人たちなんだから、今そんなことを考えても仕方ないと半ば開き直ったのだ。

とは言ってもやはり抵抗が無くなったわけではないので、テレキネシスは除外した。だってあれで戦おうとすると、必然的に石やら何やらをぶつけるスタイルになるわけで……あの穏やかな笑みの大和撫子にそんなことをできるかと言われれば……うん。

 そして選んだのが青地に稲妻のデザインがクールなバッジ、サンダーボルト。発電能力に脳をスイッチするこれならば、うまく行っても無力化するくらいで済む……

…………とまぁ、そんなふうに選んだのだがこれが最大の悪手だった。

 対峙して最初に試しに放電して見た時の朱乃ちゃんの表情を、俺は一生忘れないだろう。慈しむような、憐れむような、見蕩れたような……蛙を睨む蛇のような。恍惚とした捕食者(・・・)の目、艶めかしいチロリと覗く舌なめずり。

井の中のなんだっけ、この前俺なんて言ったっけ。忘れちゃったや。俺はあの時まさに蛙、紛うことなき被捕食者だった。

 放つ電撃は尽くそれ以上のものでかき消され、常にその瞬間の俺の全力の、ほんの少し上の力で甚振られる。脳が慣れて力が強まれば、同じだけ朱乃ちゃんも雷を強める。疲労によって全力を出せなくなれば、それに合わせて朱乃ちゃんは力を弱める。完全な自分の上位互換と戦うのが、これほどまでに心にクるものだとは知らなかった。

 たまらずとうとうバレッドショットに切り替えた瞬間、妖艶な嘲笑とともに放たれた雷撃が……わずかに残ったプライドとともに、一瞬で俺の意識を刈り取った。

 

 そして三日目、つまり今日は、同じくテクニックタイプである祐斗君との模擬戦だった。

今回はバッジの一つ、バーストをブレード状にして振るうショックウェイヴを主軸にしろとの部長のお達しだったので、始まる前に祐斗君に剣術の基礎の基礎を習ってからのスタート。

 

 結果、惨敗。

 

 そもそも刃物なんて包丁やカッターしか知らない俺である。神器の補助によって形成そのものはスムーズに出来るとはいえ、そもそものイメージが貧相であるPSIの刃は、祐斗君という達人の振るう木刀によって幾度と無く砕かれた。

 次いで、やはり経験不足からくる戦闘センスの差。速さに特化した騎士(ナイト)である祐斗君を相手に、「次に何を使うか」「どうやって攻めるか」などと一手二手先を考えながら戦うテクニックタイプの戦法を採るには、俺は経験値が足りなすぎた。直感やセオリーで動くべきタイミングで体を突き動かすモノが無かったのだ。

さらに言えばここに来て地力の弱さがネックになった。ストレングス(身体強化)センス(感覚強化)を均等に振り分けるデフォルトのライズでは、知覚も挙動も僅かについていかず、ストレングスに偏らせれば完全に捉えきれなくなってサンドバッグに。結果として彼にはセンス特化で立ち向かうことになるのだが、これだと体の方は生身の人間と変わらないので火力も防御力も反応速度も足りず、「知覚できようが反応できない」といった攻撃には為す術もないのである(実際最後の一撃はそのレベルだった)。

 最後に神器(バッジ)の切り替えラグ。この神器は二種類併用できないという特性上、切り替えにかかる数秒は致命的な隙になる。今回はその間をライズによって補っていたけど……その度に此方のリズムが崩れ、それが積み重なっての最後だったように思う。こればっかりは反復練習あるのみらしい。

 

 

「お疲れ様ですわ、奏海君」

「ヒィッ……あ、あぁー、ありがとねぇ、朱乃さ……ちゃん」

 

 相変わらず嫋やかな所作でお茶を淹れてくれる朱乃ちゃんに、朗らかに笑いかけてお礼を言う。ここ数日の成果を振り返ってたからか、ほんのちょっとびっくりしたかもしれない。まぁ不意を打たれたからね。

 お茶は普通に美味しかった。

 

「どうでしょうか、数日前までほとんどただの男の子だった奏海君には少々辛い数日間だったと思いますが……」

「んー? いやぁ、随分為になった気はしてるよ。流石に強くなれたーなんて思えないけど、慣れることが出来たのは大きいね」

「あらあら、それは良かったですわ」

 

 そう言って優しげに微笑まれる度に背筋が強張る今この瞬間は、その代償だとでも言うのだろうか。

 

「……先輩は、殴り合いには向いていないと思います」

「そうですね、接近された時に対応するために、ショックウェイヴを使っての剣術は僕が教えられますが……」

「ありがとう、小猫。祐斗。それに朱乃も。引き続き、時間が在るときにでもお願い。彼は人間だから、せめて種のハンディを埋めるためにも場馴れしておかないと」

 

 隠れ蓑とは言え、新入部員の教育には気合が入るのは此処も同じなのだろう。悪魔稼業に悪戦苦闘するイッセー君と、身に余る力を持つ人間である俺。立て続けに入部した素人二人に、懇切丁寧に手ほどきをしてくれている。

 

「了解しましたわ、部長……うふふ」

 

 ……若干一名、行き過ぎている人間が居なくもないが。

 

 ともあれこうして悪魔式ブートキャンプをこなしながら……俺はレールを半歩踏み外して、ちょっぴり普通じゃない日常生活を送っているのだった。

 




 というわけで修行(?)回。今のところ主人公は悪魔にはなりませんでした。
これで最低限のラインには立ち、ここからの物語に彼なりに関わっていきます。
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