魔法少女リリカルなのは―畏国の力はその意志に― 作:流川こはく
アイリアス=バニングスは不思議な少年だった。
昔から、他人には見えていないようなものが見えているような兆候があった。
明日の天気を当てられるものは数多くいるだろう。だが、明日の事故を当てることができるものがどれだけいるだろうか。
それは、よくある幼い子供が持っている子供特有の感性、そう言い切ってしまうには少々一線を画してしまっていた。
一見意味のないような子供たちの行動と違い、彼の行動には後になって考えてみると理解できるような部分が多々見られたためである。
それはアイリアスが四歳の時の話だった。いつも甘えん坊のアイリアスだが、やたらと母に抱き付くようになった。
それだけでなく、自分の食事やお菓子を少しずつ母に渡そうとしてくるようになった。
それまでアイリアスが甘えてくる様子を微笑ましく見守っていた両親だったが、アイリアスがいつも楽しみにしているお菓子を切なそうに半分母に差し出している姿をみて、アイリアスの様子が少しおかしいことに気付く。
――どうしたの、アイリ。あなたの大好きなケーキだからあなたが全部食べていいのよ。ママは自分の分で十分だから大丈夫よ。
アイリアスの両親は、彼が母に喜んでほしいから自分の分のケーキを差し出しているのだと思った。
しかし、アイリアスの返答は違った。
――ママの分じゃない!これはいもうとの分なの!
アイリアスの両親は、始め彼の言っている意味が理解できなかった。
そして少し考えた後、母親に食事を沢山食べさせればおなかが膨れて子供が生まれるのではないかとでも勘違いしていると思い、アイリに笑いながら語りかける。
――アイリ、ママにご飯を沢山食べさせても子供が生まれるわけじゃないんだよ。
だがアイリアスはいくら話しても聞く耳を持ってくれなかった。
それから数週間たってもアイリアスは自分の分の食事を母に与え続けた。
父はそんなアイリアスの様子に困り果てているばかりだったが、母の反応は時が経つにつれ変わっていった。何かしら思うところができたのか、病院へ行くと言い出す。
そして病院で診断した結果は――妊娠二ヶ月目というものだった。
そこで初めて両親は自分の息子の特殊性に気が付く。
時々やたら勘の鋭い子供だな、と感心することがあったが、アイリアスは常人では知ることの出来ないことを知る力を持っていたのである。
だが両親はそんなアイリアスをあるがまま受け入れ、愛情をもって育てた。
その結果アイリアスは優しい子へと成長していき、家族や友達を大切にする子供となった。
そんなアイリアスに第一の転機が訪れるのは彼が八歳の時となる。
新しくできたという喫茶店に行った帰り、夕食後の家族との団欒の一時に、父が珍しいものを手に入れたと言って一つの宝石を差し出した。
それは中心に乙女座の刻印が入った水色の雫のような形をした石だった。
「こんな種類の宝石は見たことがないし、どうやって加工したのかもわからないが、なかなか見事なものだろう」そう言って自慢する父をよそに、他の家族は綺麗だといってその宝石を手で弄び、色んな角度で眺めたりした。
アイリアスもその宝石に興味を持ち、家族同様その石を弄ってみようと手を触れたときにそれは起きた。
突如宝石が青白い光を放ち始め、それに共鳴してアイリアスの体も光り輝く。
辺りは神々しい光の奔流に満ち溢れ、周りの気配は突然非日常のそれとなる。
一同は何が起きたのかわからず唖然とした。
そして暫く経ったのち、一際大きく目の眩むような光を放ったあとには、そこにあったはずの宝石は無くなっていた。
状況は全く理解できなかったが、アイリアスの家族は彼に何か起きたのではないかと心配して問いかける。
――大丈夫か!アイリ!
――なんともない?!
大丈夫、なんともないよ。そう返したかったアイリアスだが、体が思うように動かない。
体が横に傾き始め、そのまま倒れこむ。
――少し、眠るね……。
最後の力を振り絞ってアイリアスはそう呟いた。
だが、彼が次に目を覚ますのは半年後のこととなる。
◇
その日、アイリアスの夢見はあまり良くなかった。
そこは見たことの無い英国のホテルだった。
そこの一室、大きな会場では何かの発表でもあったのか多くの人で溢れていた。
そして舞台の上では、金髪の女の子が壮年の男性に花束と人形を渡してる。
男性の後ろでは、別の女の子がうれしそうに笑っていて、周りの人々はその様子を見て大きな拍手を送っていた。
そこまではどこにでもありそうな光景だ。
だが事態はここから急展開を迎える。
突然男性の持っているぬいぐるみが光り始める。
それは爆発する直前の兆候。
それと同時に一人の青年が突如現れて、舞台の二人をぬいぐるみの爆発からかばっていた。
爆発の後、次々と武器を持った人が襲い掛かってきて大乱闘となる。
青年は爆発の余波でボロボロになりながらも、他のボディーガードと思われる人たちと共に壮年の男性と子供たちを守りながら戦う。
激しい戦いの後、最終的に青年たちの勝利で終わった。
だが、その青年はその後倒れてしまう。体中から血が溢れていた。明らかに致命傷だった。
一人の女の子が泣きながら青年に駆け寄る。
「士郎! 死なないで! 士郎っ!」
「――泣かないでくれ、フィアッセ……。――――」
青年は女の子の頭をやさしくなでた後、どこかを見つめて言葉を続ける。
「――どうか……泣かないでくれ……桃子。笑って、幸せに……」
最後にそう言い残し、青年はそのまま息を引き取った。
◇
アイリアス=バニングスは、私立聖祥大付属小学校に通う八歳の小学生である。親しい人にはアイリと呼ばれている。いつも忙しそうにしている両親と、五歳年下の妹のアリサの四人で暮らしている。もっとも、家が実業家でかなり裕福なせいもあり、屋敷付の執事やメイドも共に過ごしている。
そんなアイリは最近よく同じ夢を見る。
外国――おそらくイギリスのどことも知れぬ場所の、誰とも知れぬ人間が自分の夢に出てくるのは不思議な気持ちだったが、毎回悲惨な結末を見せられてはたまらない。
幽霊が夢枕に立つとしても、せめて知り合いのとこに立って欲しいし、なんの未練があるのかぐらい伝えて欲しかった。
コンコン、とノックの音が響く。
「アイリお坊ちゃま、朝ですよ。起きてください」
「起きてるよ~。入ってきて~」
愛らしい翠眼を眠たげに揺らしながら、アイリは入室を促した。
入ってきたのはバニングス家に仕えるメイドの一人。朝にだらしのないアイリは、朝は大抵このメイドのされるがままとなっている。
よろよろと寝ぼけながら服を着替え、腰まで伸ばしている金糸の髪を大きく三つ編みに編み込んでもらう。
最後に髪留めとして、朱い石が嵌め込まれた大きな箱形のバレッタをつけたら完了である。
アイリはこの長髪を面倒に思い、切りたがっているが、家族が大反対するために切れずにいた。
部屋を出て、家族と一緒に朝食を食べる。
「アイリは今日は早いなぁ、いつもはもっと遅いのに」
「昨日もよく寝てたわねぇ」
「あたしがおこそうと思ってたのにー!」
「今日はちょっと変な夢を見たからかな。いや今日というか最近よく見るんだけど……」
アイリは朝に弱かった。そして、寝ることが好きでもあった。特に寝る子は育ついう言葉を知ってからはよく寝るようになった。
しかし残念なことにその成果は出ていない。
母親に似た顔と低い身長のせいで、妹のアリサと一緒にいるとよく姉妹と間違えられていることが彼の最近の悩みである。
アリサは、幼さとあどけなさを含みつつもアイリとよく似た風貌をしており、髪をショートカットにして両サイドで少しずつ結んでいる点が異なっているが、基本的にはそっくりである。
そんな二人が並んでいると姉妹にしか見えないというのは、仕方のないことなのかもしれない。
ただ、自分の部屋のクローゼットに差出人不明の女性服がこっそりまぎれこんでいる点が気になる今日この頃である。
これは将来のアリサの服を早く買いすぎただけに違いない、そうに違いない。そう自分に言い聞かせて、自分にピッタリと思われる服から目をそらす日々が続いている。
「今日はどうするの?」
「ちょっと、知り合いと遊んでくる!」
「あたしもついていくー!」
アリサは可愛いなぁ、と頭をなでるとアリサはくすぐったそうに笑う。
ちなみに知り合いというのは、神社の巫女のペットの狐である。
そのことがわかっているからかアリサは自分も行くと主張し、アイリも頷く。
「昼は、新しくできたっていう喫茶店に寄ってみるから用意しなくていいよ」
そう言い残して席をたつ。
それが今日一日の朝の話。
◇
時刻は昼過ぎ、神社の付近の林で一匹の狐と戯れていたアイリたちは、空腹を感じて今の時間に気付く。
「あ、もうこんな時間か。アリサ、帰るよー」
「わかったー!」
「くぅん」
「久遠もまたね。あ、これ久遠のご飯ね」
そういってアイリは荷物から油揚げを取り出す。
くー! といって油揚げにかぶりつく久遠の頭を撫でながら、犬もいいけど狐もいいなぁ。同じイヌ科だけどやっぱり全然違うなぁ、と思いにふける。
自宅の犬屋敷に久遠も混ざっている光景を思い浮かべ頬が緩む。
久遠が飼い狐ということはすっかり忘れていた。
久遠と別れてから、駅前に新しくできた喫茶店へと向かう。
「お兄ちゃんどこいくのー?」
「んーと、最近新しくできた翠屋ってお店だよ」
「みどりってなーに?」
「色の名前だね。僕たちみたいな瞳の色を言うみたいだよ」
「ふーん」
たわいのない話をして翠屋に向かう。
店では、アイリより少し年上の少年が対応してくれた。
「いらっしゃいませ、何名様ですか」
「子供二人でお願いします」
「了解しました。翠屋へようこそ」
メニューを見てシュークリームが絶品という話を思い出した。
お昼じゃなくておやつの時間に来ればよかったな、と少し後悔したが、頼んだ食事がおいしかったのでその気持ちも吹き飛んだ。
アリサと共に食事を終えて一息ついたところに、一人の青年がアイリたちのもとへ近づいてきた。
「食後にジュースでもどうだい? 本当はコーヒーを淹れてあげたいところなんだけど、まだ子供だからなぁ」
「わーい、ありがとうー!」
アリサは喜んでジュースに飛びつくが、アイリは硬直した。
なぜならその青年は、最近アイリの頭を悩ませている夢に出てくる青年にそっくりだったからだ。
(幽霊? 夢だけじゃなくて、現実に化けて出てきた?)
アイリの思考がパニックになる。
(幽霊……どうすれば……。幽霊に聞くものは……、確か……塩だッ!)
アイリはテーブルの端においてあった塩のビンの蓋を勢いよくとると、そのまま青年に向かって中身を振りまける。
最近見た陰陽師の映画ではこれで妖怪の動きを封じていたことを思い出す。
「おっと、危ない」
だが青年はさっと躱してしまった。その動きは素早すぎて、アイリの目にはまるで透明になって躱したように見えた。
(消えた――本物!)
「アリサ! 逃げるよ!」
アイリはアリサの腕をつかむと青年から逃げるために店を抜け出そうとする。
しかし、初めにあった少年がスッと入り口に立ち塞がり、逃げられなかった。
後ろから青年が迫ってくる。動けないアイリに対して青年が手を振り上げ――
コツン、と持っていたお盆で頭を叩いてきた。
「こら、食べ物を粗末にしちゃいけないぞ」
苦笑しながら注意するその様子は、まるで生きている人間のようだった。それに、自分に普通に触ることもできる。
アイリはそこでようやく、青年をまじまじと観察した。
「あれ、触れるの?」
「……? そりゃあ、触れるさ」
「…………僕に、何の用があるの?」
「ん? いや特に用があるわけじゃないんだが……。とりあえず戻ってジュースでも飲みなさい」
人違いかな。そしたら謝ったほうがいいかもしれない、アイリは自分の突飛な行動がだいぶ店や青年に迷惑をかけていたことに気付く。
「ごめんなさい。その……知り合いに似てて」
夢枕に立たれている幽霊と似てるなんてことは言えなく言葉を濁す。
「いや、人違いなのはいいんだが、俺じゃなくても人に急に塩を振りかけちゃだめだからな」
青年は苦笑して頭を撫でてきたが、幽霊と思ってたなんて言うわけにもいかず、只々謝罪する。
その撫で方が優しくて、何故か悲しくなって。思わず涙が零れる。
青年はアイリの頭を撫でながら言葉を続ける。
「泣かないでくれ。俺は笑った、幸せそうな顔のほうが好きだな」
その言葉は――――とても聞き覚えのある台詞だった。
(やっぱり、この人は――)
アイリには目の前の人物がとても無関係には思えなかった。
(この人は夢の青年だ。でも生きている。じゃああの夢は――?)
「あの! お兄さんはここの喫茶店だけで働いてますか? 他に危ない仕事とかしてないですか?!」
「お兄さんと呼んでくれるのは嬉しいけど、これでも三児の父でね。マスターと呼んでくれると嬉しいかな。それに、危ない仕事ってなんだい?」
「それは……。よくわかんないんですけど、ボディーガード、みたいな護衛関係の仕事でしょうか」
「いや…………、俺は喫茶店のマスター一筋だよ。どうしてだい?」
「それは……、自分でもよくわからないです。でも、もしこれからそんな仕事にかかわりそうなことがあったら絶対断ってください!」
「ははっ、なんだかいきなりな話だな。あー、理由を聞いてもいいかい?」
「それは……」
「それは?」
思い悩む。自分は今突拍子もない事を言おうとしている。
これまでも多少変な行動をしていたが、これから先は本当に変人扱いされるかもしれない。
それでも、それでもアイリは目の前の青年に言葉を伝えたった。
「それは……、あなたが殺されるからです。外国の……イギリスの地での護衛の仕事で、あなたは死にます」
辺りに静寂が満ちる。
こっそりと二人の話を聞いていた他の店員が突然の強い言葉に息をのむ音が聞こえた。
「そうか…………。自分の死を予言されるのは変な気分だが、まぁ、俺はそんな仕事とは関係ないから大丈夫だよ」
「そうですよね……、へんなこと言ってすいません……。でも本当に気を付けてください。どうか、死なないで……」
伝えたいことを伝え、相手も馬鹿にせずにくみ取ってくれた。
ひとまずは、もうできることはないだろう。
残っていたジュースを飲み、席を立つ。
アリサはとっくにジュースを飲み終わり、退屈そうにしていた。
「またおいで。もう少し歳くったらコーヒーもごちそうしよう」
ありがとうございます。と返して清算して扉に向かう。
店を出る前にやはり不安になり言葉を足す。
「関係ない話だとは思うんですけど、イギリスで……、もしイギリスに行ったとしたら、クマのぬいぐるみに注意してください。…………変なことを言ってすみませんでした。また明日きます、士郎さん。今度はシュークリームを食べに来ますね」
最後にそう伝えてアイリたちは店を出た。
青年や、他に二人の会話を聞いていた女性店員や少年は二人を見送った。
少し静かになった店の中で、残された人たちが会話を続ける。
「不思議な子だったな。変なことばかり言ってたけど、その目は真剣なものだった」
「あなた、次の仕事先は確か……」
「あぁ、アルのところの護衛が入っている。場所は……イギリスだな」
嫌な感じだ。青年はそう感じた。
まるで底なし沼に足を踏み入れてしまったような、そんな感じがした。
こんな感じがしたときは、大抵ろくな結果にならない。青年は経験上そのことを知っていた。
自分の事を調べ上げた刺客かとも思ったが、少年自身もうまく事態を把握していないように思えた。身のこなしを見ても素人のそれだ。
情報が全体的にあやふやで、簡単に調べられることと、関係者じゃないと知らないようなことが混ざり合っている。
それに、どちらかというと少年は自分の身の上を心配していた。
耳に残るのは、自分が死ぬ、と言われたこと。
仕事柄、死ねと言われたことはあったが、死ぬといわれたことは初めてだった。
「何、気にすることはないさ。俺の強さは知っているだろう?」
青年は、家族に心配させまいとそう陽気に振る舞い、仕事に戻った。
だが、それにしても――。
ふとした疑問が青年の頭によぎる。
――――どうして俺の名前を知っていたんだ?
それが今日一日の昼の話。
そして夜の事件へと続く。
明日来るといった少年は、次の日も、その次の日も、一月たっても来ることはなかった。
◇
眠い目をこすりながら、高町桃子は朝食の支度を行う。
体が少し重いのは、夫の士郎が少し前から別の仕事で海外に行っているため、人手不足の仕事を大目に行っているためだ。
子供たちにあまり手伝わせるわけにはいかないし、店が軌道に乗ったら、お手伝いを雇おうかしら。
そんなことを思いながらテレビを付ける。
ちょうどニュースキャスターが原稿を読み上げるところだった。
『ニュースの時間です。――――――』
とりとめのないニュースが続く。桃子はあくびをしながら家族分の食器を取りそろえた。
そういえば、いつもなら自分が起きてくるくらいの時にくるはずの士郎からのメールがまだ来てないな。ふと、そんなことを思う。
淡々と原稿を読み上げていたニュースキャスターが少し慌てる様子が見えた。何かあったのだろうか。
『――――突然ですが、緊急ニュースが入りました。約2時間前、イギリスの現地時間にて13時過ぎにテロ活動が発生しました。狙われたのはイギリスの上院議員のアルバート=クリステラ氏です。犯人グループの目的はわかっていません。なお、――』
なにを――今なんて――。
桃子は当然のことに動揺しながらも、必死に情報を整理する。
冷や水を浴びせられたような心境を落ち着かせて画面に食い入った。
聞き間違いか、だが確かに今アルバート上院議員と……。
『繰り返します――イギリスにてテロ活動が発生しました。当時、現場ではクリステラ氏の講演会が行われており――――――逃げ延びた人の証言では、突然くまのぬいぐるみが爆発したと――――』
だが現実は非常だった。
聞きたくない情報が次々と桃子の頭の中に入ってくる。
呆然とする桃子の頭の中にふと浮かんだのは、数日前に翠屋で会った少年が士郎に送った言葉だった。
『あなたは――イギリスで、死にます』
そんな、まさか、震える指を抑えながら士郎の携帯に電話を繋げる。
『――おかけになった電話番号は電源が入っていないか電波がとどかないところにあるためかかりません。御用の方は――』
繋がらない。仕事中だから、電源を切っているのかもしれない。
何かあったようだし、もう少し落ち着いたら連絡を入れてくれるに違いない。
家族思いの士郎のことだから、自分に心配させまいとすぐに連絡をくれるに違いない。
そう思いじっと携帯を見つめる。
しかし、いくら待っても士郎からの連絡が来ることはなかった。
そして半日が経った時に桃子の携帯が震えた。
急いで携帯を手に取る。
士郎からかと期待したディスプレイに表示された番号は、知らないものだった。
不審に思いながらも、電話を取る。
「もしもし、高町ですが」
『――お久しぶりです、桃子さん。私はアルバート=クリステラです』
電話からは、事務的な、しかしながら深い悲しみが込められたような声が聞こえた。
それは、アイリとの邂逅から数日後の話。
主人公はなのは+5歳です。
クロノ君と同い年です。