魔法少女リリカルなのは―畏国の力はその意志に― 作:流川こはく
恐ろしい宣言をされてからのユーノの行動は早かった。
念話でなのはに自分を助けるよう頼み込みながら、他の人への無害アピールを必死に行う。
なのはは去勢ということについてよくわかっていなかったが、アイリの「動物にはよく行われることだから」という説明と、ユーノの「死んじゃうようなもんだから! 絶対に無理だよ!」という懇願に挟まれて、なんだか必死なユーノの味方についた。
そしてその結果……、あざとい仕草を繰り返して甘えてくるユーノにはアイリも引き下がるしかなかった。「ぐぬぬ。もう中身とかはもうどうでもいいや……」とは、骨抜きにされる直前の言。
基本的に動物には甘々なアイリには、本気のユーノの相手は酷すぎたと言える。
第七話『運命の出会い』
そんな感じで次の日のこと。
アイリはせめてユーノのことについてもっと詳しく知っておこうと、美由希にくっついて図書館までやってきた。
「珍しいね、アイリちゃんが図書館に行きたいっていうなんて」
「うん、ちょっと調べ物ができたんだ」
そう言ってアイリが手に取るのは、妖怪大事典という胡散臭いハードカバー。
美由希は苦笑して見なかった事にした。
「さっき知り合い見かけたから、ちょっと行ってくるね」
そう言って美由希はどこかへ行ってしまった。
――はーやーてーちゃーん! 久しぶり~!
――あ、美由希さん! お久しぶりです。
ページを捲る。探すのはイタチの項目。
最も代表的なのは、鎌鼬だろうか。
真空波で人でもなんでも切りつけるという妖怪だ。
切られた人は切られた瞬間に気付くことはできず、また不思議と痛みもないため、あとになって切られたことに驚くとのことだ。一説によると、スリーマンセルで行動しているらしい。
ユーノは、他の仲間と共に行動しているようには見えない。だから違うとは言わないが、一応心に留めておこう。
他には、……くだ狐。こういうのもいるのか。
名前は狐ってついてるけど、イタチなのか。
何々、人に取り憑きその精気を食らって祟り殺す力を持つ、と。
人間にとり憑いて意のままに操ったり、小物や富をかき集めてきたりとわりと自由自在……か。
どちらかというとこちらが近い気がする。水を操ってたり、水着を集めたり……。
割とおっかない力を持っているみたいだけど、普段は大人しい性格で人に懐くものが多いらしい。
ユーノもちょっとすけべなだけでそういう存在だとわかると、少し安心する。
ひとまずの情報収集ができ、本から顔を上げる。すると自分のそばに戻って読書していた美由希と目が合う。その隣では知らない女の子が読書していた。
車いすに乗っている、ばってんのヘアピンで茶髪の前髪を留めているショートヘアの女の子だ。
「あ、調べ物はどんな感じ?」
「うん順調だよ、姉さん。あとはもうちょっと細かく乗ってる本を探してみようかなぁ。それで、その子はどちら様?」
「この子は私の図書館友達。はやてちゃんっていうんだ」
「は、はじめまして。私は八神はやて言います。ひらがなみっつで、はやてです」
「はじめまして。僕はアイリアス=バニングス。アイリって呼んでね」
「うん。えと、アイリ……君? よろしくなー」
アイリははやてとすぐに仲良くなった。
アイリにとって年下の子は、アリサを連想させるためすぐに心を開ける対象だった。
はやてにしても、知り合いの美由希と親しい様子であるし、その雰囲気もやわらかいことから、すぐにアイリと打ち解けた。
はやては特殊な事情を抱えていることから、あまり人と知り合う機会が少なかった。そのために人との繋がりに飢えていたという事実も関係しているかもしれない。
「でも美由希さん、姉やんってどういうことなん」
「あぁ、アイリちゃんはうちの道場での弟弟子なんだ。もう六年にもなるかなぁ。今や家族の一員みたいな感じかな」
「あはは、恥ずかしぃなぁ。でももう六年かぁ。ちっちゃい頃に容赦なく山籠もりに連れていかれた日々が懐かしい……。今も時々連れていかれるけど」
「えぇっ!そんな昔から道場通いしてるん? うちとあんま変わんなそうなのに、すごいなぁ」
「へ? あ……、ごめんねはやてちゃん。ちょっと勘違いしてた。はやてちゃん中学生なんだね。どこの中学?」
「ほぇ? 私は小学生ですけど……、小学三年生です。こんな足だから、学校にはちょい今いけてないんやけど」
「あれ?」
「へ?」
場に静寂が訪れる。
何か認識が食い違っている気がした。
そこに、美由希が笑いながら補足する。
「アイリちゃんは中学二年生で、はやてちゃんは小学三年生だよ。まぁ、どちらかというと……アイリちゃんが小さいんだけど……」
「えぇ?! アイリ君そんな年上やったん?! さ、詐欺や!」
「詐欺?! ひ、ひどい……」
「大体そんな女の子みたいな顔して、髪も美由希さんとおそろいの三つ編みで仲良し姉妹みたいな雰囲気を漂わせてたから、男かどうかもわかんなかったんや!」
「そこから?!」
ガーン、とアイリはショックを受ける。
はやては大人しそうな子だったのに、仲良くなると容赦が無かった。一方で美由希は、仲良しと言われてどことなく嬉しそうにしていた。
暫し雑談を続け、本の話に話題が戻る。
「それでどんな本探してるん?」
「妖怪が出てくる本かな……具体的にはくだ狐っていう妖怪なんだけど」
「あ、私そんな感じのが出てくる本読んだことあるかも。本と言うか、漫画なんやけど。えーと、確かあっちの棚に……」
「え、本当? それは助かるかも!」
喜んで、はやてに着いていこうとするアイリ。
だがその時、地面が揺れた。
「わ、地震?! 大きい!」
「はやてちゃん、私に掴まって!」
「あ、はいっ!」
しばらく地震が続く。
こんな大きな地震は生まれて初めてだった。
しっかりと耐震加工してある図書館の設備も、悲鳴をあげている。本棚から本がバサバサと地面に落ちていく。
たっぷり一分ほど経っただろうか、ようやく地震がやんだ。
「スゴい地震だったね。アリサ大丈夫かな……」
「今ので恭ちゃんの盆栽村が全滅したんじゃないかな……。私、今日家に帰りたくない……」
「外も大混乱なんじゃないやろか」
その言葉につられ、ふと窓から外を眺めてみる。
窓から見えた光景は、異常の一言だった。
所々コンクリートがはがれ、地面から植物の根がむき出しになっている。植物の根が所々の建物に絡みついている。何よりも圧巻だったのは遥か天高くそびえ立つ一本の木だった。何十メートルあるのか、いや何百メートルかもしれない。付近の建物よりも遥か高みに、その木は突然に現れた。
「姉さん、事件です……」
「さすがに、私もこんな時はどうすればいいのかわからないよ……」
「あわわ、なんやあれー?!」
普通ではあり得ない光景、あまりにも突拍子もない事が起こるとかえって冷静になるらしかった。
「とりあえず、あれを切り取って持ち帰れば兄さんの機嫌も良くなるんじゃない?」
「いやぁ、あれは確かに不思議な木だけど盆栽としてはどうだろう……。私は全然わかんないんだけど、いい感じに曲がってるやつじゃないと恭ちゃん喜ばないんじゃないかなぁ」
「はわわ、もう世界は終わりや……。せめて、死ぬ前に家族が欲しかったなぁ」
全員現実逃避をしていた。
一人とても切ないことを言っていたが。
「それで現実問題、あれはどうにかしないと……。アイリちゃん何とか出来るんじゃない?」
美由希はアイリが特殊な魔法を使えることを知っていた。それは修行の際のちょっとした事件でばれてしまったためである。海鳴でアイリが魔法を使えることを知るのは、士郎と桃子、恭也と美由希、那美と久遠の五人と一匹。わりと高町家にはバレバレであった。
「へ?あれって個人で何とか出来るレベルじゃないんじゃ……? 自衛隊とか呼ばな……。自衛隊って110番で来てくれるんやろか」
「急に変なこと言い出して……姉さんは少し疲れてるんだよ。何か最近気苦労が絶えないって言ってたし。…………あわわ! あ、いや、疲れてるのははやてちゃんだよ! あんな木がいきなり生えてくるわけないでしょ! 常識的に考えて!」
アイリははじめとぼけようとしたが、美由希からの無言の圧力が段々大きくなってきたので、矛先を変えた。何が美由希の怒りに触れたのかはアイリにはわからなかった。
「いや、あんなってゆーてるやん。アイリ君もめっちゃ見えてるやん」
「うぐぅ。それは盲点だった……。じゃあ三人で同じ夢を見てるんだよ。これなら何もおかしいところは無いでしょ」
「じゃあ夢でいいから、アイリちゃん何とか出来ないかな」
「夢でいいなら、何とかなるかも……」
「何かこの会話おかしくないやろか」
三人は外に出て、見晴らしのいい場所に移動した。
そこからは町が一望できた。そして、巨大樹が街を侵食している様子がよく見えた。
「それで、どうするんや?」
「うん。こんな時のために、練習してたセリフがあるんだ」
そう言ってアイリはどこからともなく、三つの赤色の砂の入った筒を取り出す。
巨大樹に向かって指差し叫ぶ。
「お前に相応しいソイルは決まった!」
「そ、そのセリフは! 最後の幻想物語アンリミテッドの……!!」
それは火曜日の夕方18時30分に放送されていたアニメで、主人公がよく口にする決め台詞だった。
主人公はこの台詞と共に銃を撃つ。
独自の銃と各々特色のある魔弾を三発組み合わせることにより、様々な召喚獣を呼び出す力を持っていたのだ。
「灼熱の牙、カーディナルレッド」
そう言って筒の一つを指先で上空へ弾く。
「紅蓮の疾風、ダーククリムゾン」
もう一つ、弾く。
「そして、鋼の力……バーントシェンナ」
最後の一つを弾く。三つの筒は空中で砂を絡めあい、砂は一つに混じり合う。
「この組み合わせは……まさか、イフリート?! でも、魔銃もないのに召喚できるんか?!」
はやては緊張してその様子を見守る。
空中を舞っていた砂が、暫く上空を漂った後重力のなすがままに地面に落ちる。
何か起きる気配はない。
静かな風が吹き、雑然と地面にばら撒かれた砂をどこかへと巻き散らかしていった。
場には静寂が満ちる。
はやては一瞬でも信じた自分が恥ずかしくなって赤面した。アニメの話を信じてしまうなんて自分もまだまだ子供だったと再認識してしまった。
「うぅ、騙された……。アイリ君もいたいけな女の子を騙すなんてひどいやん」
そう言ってアイリを睨むが、アイリの反応はない。まだぶつぶつと何かを呟いている。
なんでかはわからないが、その顔は真剣なものだった。
「アイリ君、もういいんや。もう十分騙されたから、素直に私に怒られよーな」
その言葉にもアイリは反応しない。よく見ると、額には汗が浮かんでいる。
一体何が?
訝しがるはやての目に、突如光が飛び込んできた。
「な、なんや?!」
とっさに閉じた目を開いてみると、アイリの体を中心に白い光の魔法陣が展開されていた。
「な、一体……?」
はやてには目の前の事象が理解できなかった。
まだアイリのいたずらが続いてる?
そう思い込むには、目の前の出来事はあまりにも非常識過ぎた。
「創世の火を胸に抱く灼熱の王……、
目の前の巨大樹を灰塵に帰せ!」
大地から炎が吹き出す。
巨大樹の根に被さるように街の至るところから炎が立ち上がっている。
「いでよ召喚獣……焼き尽くせ、イフリートォォ!」
ウオオオォォォ!!!!
一際大きな火柱が上がり、中から巨大な炎の精霊が現れる。口からは炎が溢れ、その姿は全てを焼き尽くす炎の化身そのものだった。
「な、な、な、なんやこれ……」
はやては腰を抜かして只々目の前の光景を眺める。
さっきまでは、笑い話だったのに、途端に笑えなくなった。炎が街の植物を焼いていく。本体の巨大樹に、炎の精霊が飛び込んでいく。
あり得ないほどの火柱が上がり、それが消えたときには巨大樹が無くなっていた。
ふと、空からゆっくりと光の塊が地面にゆっくりと落ちていっているのが見える。遠すぎてよく見えないが、中に人影が見えた気がした。
巨大樹の消滅を確認してから、炎の精霊が姿を消す。街にはいつも通りの光景が戻った。多少地面が壊れたりしているが、そこには巨大樹も炎の精霊もいない。
「ふぅ、疲れた。姉さん、後でシュークリーム奢ってね」
「はいはい、何個でも奢ってあげるよ」
「ほんと!? 姉さん大好き!」
「あはは、直接言われると結構恥ずかしいかも……」
「何をほのぼのしとるんやー!!」
何事もなかったかのように振る舞う二人を前にはやては吠えた。
「はやてちゃんどうしたの?」
「はやてちゃんは図書館で急に眠りだして、今起きたんだよ?」
「そ、そーかー。どうりで……って騙されへん! なんなん今の! イフリートか?! イフリートなんかッ?!」
「はやてちゃん、アニメと現実をごちゃ混ぜにしちゃダメだよ。しっかりしているようで、まだまだ可愛いところもあるんだね」
「えへへ、そんな恥ずかしいな~。……ってだから騙されへん! なんなん今の?!」
さすがに、無かったことにするのは無理があったようだった。仕方なしに、アイリはちょっとした召喚魔法が使えることだけを説明する。
「世の中広いなぁ。魔法かぁ……。まさか実在するとはなぁ」
「ん、はやてちゃんもなんかしらの超常現象に関わりがありそうだけど?」
「へ? なんのこと?」
「その足……、多分なんかの呪いかよくわかんないものに取りつかれてるから動けないんだよ」
「……なんやって?」
「スゴい強力な呪い。まるで産まれたときからついてたみたいに体と一体化してる。素人が下手に手を出せないよ。それに、何て言うか丸いナイフみたいだ」
「丸いナイフ?」
「そう、本来傷つけることだけが目的のはずなのに、それをよしとせずに刃を丸くして抵抗している。だけどそれがかえって痛みを伴ってしまっている。うまく説明できないけど、そんな感じがするな」
「……本当は私を傷つけたくないけど、どうしようもないから傷つけてしまっているってこと?」
「そんな気がする。何か心当たりある?」
「……心当たり……あるような、無いような……」
「まぁ、最悪の事態になるようだったら、僕が無理矢理にでもなんとかするよ。その時は連絡ちょうだい。できれば時間経過でよくなるのが一番なんだけどね。それに、ただの呪いだけじゃなくて祝福のような気配も感じるんだ」
「なんとか……うん。どうしようもなさそうな時は連絡する。ありがとな、アイリ君。少し気が楽になったわ」
そうして三人は解散した。
巨大樹から出てきた光りに桜色の光線が向かっていくことに気づくことはなかった。
◇
巨大な揺れとともに、ジュエルシードの発動をなのはは感知した。
(まさか、やっぱりあの男の子が持っていたのはジュエルシード! 私、気づいてたのに……。発動を阻止できたはずなのに……)
なのはは昼間応援していた少年サッカーの男の子が、ジュエルシードらしきものを持っていたことに気がついていた。しかし、疲れていたこともあり、勘違いかと思い直して家に帰って寝てしまったのだった。
なのはが目にしたのは街のあちこちから飛び出している巨大な植物の根。そしてそれらの根源である巨大樹だった。
「ユーノ君、あれはどうすればいいの……?」
今までにない規模のジュエルシードの発動。なのはには正しい対処法がわからなかった。
「多分あれは人間が発動させてしまったんだ。あれほどの規模となると……、どこかに核となる部分があるはずだから、そこをなんとか探して接近してから砲撃を打ち込むんだ!」
「探して、撃ち込む……」
《Area Search.》
レイジングハートがなのはの意思を汲み取り、探知魔法を発動させる。
その時であった。街のあちこちから火柱が立ち上った。
「ユーノ君! これは?!」
「わからない! でもこれはさっきのジュエルシードとは別ものだ! 始めのジュエルシードに共鳴して、他のナンバーも発動したのかもしれない!」
「そ、そんな……。海鳴の街がボロボロになっちゃう! ユーノ君! 結界は張れないの?!」
「ゴメン、なのは……。魔力が全然回復してないんだ。少なくとも明日にならないと結界は張れない」
悲壮感を漂わせる二人に、更なる驚愕が走る。一際大きな火柱の中から、炎の巨人が現れたのである。
「な、何あれ……」
「あれは……、何て純粋で暴力的な魔力の塊だ……。それでいて生命力に満ち溢れている。まさか……幻獣? ……実在したのか……」
「ユーノ君幻獣ってなに?! あれはなんなの?!」
「あれは……お伽噺の中の存在だよ。強力な単一能力を司った魔力の塊の生命体。僕らの世界の外に存在するらしいということだけが確認されている存在……。存在そのものがあやふやだけど、歴史上何度か確認されたことがあることから、幻の獣って呼ばれてるんだ……」
その圧倒的な威圧感に、なのはの体が自然と震える。初めて戦ったジュエルシードの暴走体とは比較にならない、恐ろしい存在感を感じる。
この巨人と戦う? 無理だ、とても敵わない。でも、このままじゃ海鳴の街が破壊されてしまう。
なのはは震える手を押さえつけ、杖を炎の巨人へと向ける。
この街にはなのはの大切なものがたくさんある。決して引くわけにはいかない。
「なのは、逃げて。君だけなら転移魔法で今のうちに逃がせる」
「冗談! 私は引けないよ。私の後ろには大切なものがいっぱいあるんだから!」
勝てるとは思えない。それでも、二人は前に進んだ。
その時である。炎の巨人が動きを見せた。巨大樹に突っ込み、灼熱の炎を立ち上らせて巨大樹を消滅させたのである。
「な、仲間同士で戦ってるの?」
「いや、多分あれは敵同士なんだ。始めに出てきた巨大樹を倒すために炎の幻獣が現れたんだと思う……」
「じゃあ、私たちの仲間って思っていいのかな……」
「それは……、わからない……」
言葉通り、ユーノにはなにもわからなかった。ただわかるのは、あの二つの存在が敵対していたということ。その次の矛先がどこに向くか、それがわからない。
息を飲んで展開を見守っていると、炎の巨人は用は済んだとばかりに消えていった。
何事も起きなかったことに二人は深い深いため息をついた。
「消えてくれて本当に良かった……。とてもじゃないけど、今の僕たちじゃ太刀打ちできない」
「あ、ユーノ君! ジュエルシードが落ちてってるよ! あれは……、中に二人の人がいる。やっぱり誰かが発動させたんだ」
「回収しよう! ……でも、一つだけ? 炎の幻獣を呼び出した分が無い……。いや、そもそもジュエルシードで幻獣が呼び出せるんだろうか……」
思考にくれるユーノ。しかし、いくら考えても答えは出なかった。
手に入れたジュエルシードはこれで五つ目。徐々に手に入れるのが難しくなってきているのを感じられる一戦だった。
◇
心臓がバクバクとうるさいくらいに鳴り響いている。平然とした様子で別れたつもりだけれど、ちゃんとできただろうか。
――魔法。
何と魅力的な響きか。
今まで自分の中の世界は非常に狭かった。
自宅と、病院と、図書館と。狭い世界の中の、更に狭い範囲でしか活動していない。
それがどうだろう、今日の出来事は。
今までの常識を、まるで紙を破るかのように簡単に破壊していった。
今まで狭い狭いと思っていた世界が、無限の広がりを見せている。
興奮が冷めやまない。今日の日のことは当分忘れられそうになかった。
それに……、自分の身に宿っていると言われた呪い。
言われてみれば、原因不明と言われ続けた足の病。陳腐だが、なにか医学的な要素以外の面で――呪いのせいで動かないと言われてしまったら、少し納得してしまう。
なぜ自分にそんなものがかかっているのかはわからない。だが何もかもがわからないでいる状態からは一歩前進だ。
そして何より……祝福。アイリが言うには、呪いだけじゃなく、加護もかかっているという。
そして、それには少し心当たりがあった。自分が物心ついたときから側にある一冊の本。
鎖で閉じられていて中を見ることが出来ないが、不思議と無視できない吸引力がある。
自分にもこれから何か良いことが起こるのだろうか。いや、仮に起こらないとしても、起こるかもしれないと思い続ける事ができるだけでも日々を大切に過ごせる気がする。
今日は本当に良い一日だ。
八神はやてはそっと家路についた。
◇
その日の夕方。
神社に寄り久遠と遊んだ帰り、アイリは道端で一人の少女と遭遇する。
「すみません、その胸のペンダント……」
「ん、どうしたの? 僕になにか用?」
癖のない金髪をツーテールに纏めた、綺麗な赤色の瞳の少女。だが、その瞳はどこか寂しげに見えるのは気のせいだろうか。
「やっぱり、ジュエルシード……。それを渡してもらいます」
その言葉と共に、どこからともなく取り出した黒く頑強な杖を向ける。杖の先から黄金の魔力光が刃を形作っている。それはまるで鎌のような形をしていた。
そしてその少女の瞳は実直だった。曲がることを知らない、素直で不器用な性質の様だった。
「この宝石のことを知っている? 君は一体……」
少年は一足先に異界の少女と出会う。この出会いが、この先の運命を変える一端となるのだった。
一応この世界では、ファイナルファンタジーアンリミテッドのアニメはあってもファイナルファンタジーのゲーム自体はありません。
そしてこの世界でもFFUは打ち切られます。全て映画が悪いんや……。
ちなみにユーノ君は素で物知りです。学者だから?
ユーノ「何でもは知らないよ。知ってることだけ」