魔法少女リリカルなのは―畏国の力はその意志に― 作:流川こはく
ふと、自分が今夢を見ているとわかる。
明晰夢だったか。普通では珍しいことでも、自分にとってはわりとよくある事象だ。
そしてここは……、高台の先の平原?
高台の共同墓地の先にある、人気のない静かな平原。ここからは壮大な青空と、雄大な海の両方を見ることができる。
そんな平原に、一人の男の子と女の子がいる。
(あれは、なのちゃん?)
女の子はなのはだった。でも隣りの男の子は見たことがない。
「なのはは、クロノ君と一緒にいる時間、好きだな」
「ぼくも、……なのはとの時間は楽しい」
二人の作り出す空気は甘い。
これは、いつの間に……。いや、確か前にアリサがなのはがラブレターを貰ってたと騒いでいた時があったな。
自分の妹分が、自分の知らないところで少しずつ大人になっていくのを寂しく思う。
場面が切り替わる。
夕焼けの空の下を、二人が歩いている。その二人の手は、互いの温もりを感じ合えるようにしっかりと握られていた。互いに求めあっているのがわかる。
ふと、なのはがクロノと呼ばれた少年の首に両手を絡めて抱きつく。
「ねぇ、なのははクロノ君にとっては普通の友達なのかな」
「……なのはは、ちょっとだけ特別」
「ちょっとだけ?」
「……ううん。ほんとは……とっても」
えへへ、とニヤけるなのは。その艶付いた姿を、今まで見たことがあっただろうか。
世界がぼやけていく。これは目が覚める前兆。
幸せそうななのはの姿を目に焼き付けながら、アイリの意識は浮上していった。
目が覚めてすぐ、アリサの部屋に突入してアリサを強く抱き締めたのは全くの余談である。
第八話『猫と犬』
本日は晴天なり。
なのはは今日、すずかの家でお茶会の予定が入っていた。兄の恭也とユーノと共に、バスですずかの家へと向かう。
「ようこそお出でくださいました。恭也様。なのはお嬢様」
迎えたのはメイド長のノエル。
後について屋敷にはいると、そこには今日集合するメンバーが既に全員揃っていた。
屋敷の主の忍にすずか、アリサにアイリ、窓際にはメイドのファリンが、そしてアイリの足元には一犬のシルバーアッシュの大型犬がいた。
既にいる面子は優雅に紅茶を飲んでいる。なのはと恭也も紅茶を頼んだ。
「みんなお待たせ~! あれ? えっと、その犬は……、ジョンソン?」
「うん、そうだよ。最近ユーノとか久遠とかとばっかり遊んでたから、連れてきちゃった」
「あ、ユーノ! こっちおいで~」
一緒にいたのはバニングス家で飼われている沢山の犬のうちの一匹、名前をジョンソンという。
アリサはユーノを見つけると、ユーノに構いだす。
ジョンソンが少し不機嫌になったのに気づいたのは、アイリとユーノだけだった。
ユーノは辺りを見回す。目の前には手をわしわしとさせているアリサが、下には不機嫌な感じの大型犬と好奇心旺盛の猫たちがいる。
(猫ってネズミを食べるけど……、イタチは大丈夫だよね? イタチもネズミを狩る側だから、猫がイタチを狩ったりしないよね?!)
ユーノはまたもやピンチだった。
その時ふと、ユーノはアイリの胸元にジュエルシードのペンダントがないのに気づいた。
いつも付けていたのに、今日は付けていない。一体どうしたのか気になり、なのはに尋ねてもらう。
「あの、アイリ君、。ジュエ……いつも着けてたペンダントはどうしたの?」
「あぁ、あれ? 持ち主に返したよ」
「へー、そうなんだ。持ち主が見つかってよかったね。……って、ええええーー?!」
予想外の返事になのはは驚愕した。
(ユーノ君! 返してもらったの?!)
(僕じゃない! 僕は返してもらってないよ! きっと誰かに騙されて取られちゃったんだ!)
(そ、そんな~。せっかく一つは場所がわかってたのに……)
(それよりも暴走の危険があるよ! アイリが持っていたときはなぜか封印状態にあったけど、いつまた暴走するかわからない)
(そっか。じゃあ騙して持っていっちゃった人のことを聞いておかなくちゃだね……)
「えと、その持ち主ってほんとの持ち主だったのかな? アイリ君って単じ……素直だから、騙されて取られちゃったりしたんじゃないかな……」
国語の苦手ななのはには婉曲に聞くということは難しく、かなり直接的な質問になってしまった。
アイリはいきなりな話に少し驚きながらも、気にせず返す。ただ、その内容はなのはとユーノにとって驚愕のものとなる。
「あははっ、それは無いよ。ちょっと興味を持ったって感じじゃなくて、始めからペンダントが目当てだったみたいだし。……まぁ、確かにちょっと物騒だったけど……。それに、あの宝石のことをよく知ってるみたいだったしね。ジュエルシードって名前なんだって、あれ。宝石の種だなんてセンスいいよね」
「…………え?」
突然の話に戸惑いを隠せない。
アイリは今何て言った?
なぜアイリがジュエルシードの名前を知っている?
いや、ジュエルシードのことを知っている人間がいる?
(ユーノ君……他に一緒に探している人って、いないんだよね?)
(いないよ……。それに、あり得ない……。ジュエルシードは僕がたまたま運んでいただけなんだ。それが偶然事故に遭って、無作為にここにばら蒔かれてしまった。そのことを知る人間なんて、いるはずか無いんだ……)
言い様のない不安が二人を襲う。正体の見えない何者かが、この地に潜り込んでいる。
だが今の二人に出来るのはなるべく早く全てのジュエルシードを集めることだけ。警戒はすれど、他にできることはなかった。
「じゃあ私と恭也はあっちの部屋にいるから」
「あ、うん。わかったよ、お姉ちゃん」
「あぁそれと、アイリもこっちに来てくれないか? ちょっと話しておきたい事があるんだ」
意識を戻すと、恭也たちが別の部屋に行くらしかった。アイリは普段は自分達と遊んでいるのに、恭也たちと一緒とは珍しい。
「え、兄さんと忍さんの中に僕を放り込ませるだなんていじめ? 僕に対するいじめ?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……。というか、いい加減忍とぎくしゃくするのをどうにかしろ。さっさと普段通りに戻せ」
「あ、いやその……。あはは……」
「いいから行くぞ」
そう言って三人は別の部屋へと向かった。
しかし、残された者たちは出ていった三人に興味津々だった。
「修羅場?! 修羅場なの?! 今あっちで忍さんを巡って壮絶な戦いが起きてるのかしら?!」
「あはは、それは無いと思うけど……、お姉ちゃんは一応ちゃんと恭也さんと付き合ってると思うよ?」
「じゃあすずかがあたしの家族になる可能性は薄そうね。むー、お姉ちゃんが欲しいのにー。なのはにはもうお姉ちゃんがいるじゃない!」
「えーと、お姉ちゃんが後からできるのってかなり大変なんじゃないかな」
「にゃはは、忍さん自分のことをお兄ちゃんの内縁の妻って言ってるしね。そ、それに! アリサちゃんがお姉ちゃんが欲しいっていうなら、その……なのはのことお姉ちゃんって思ってくれてもいいよ!」
「へ? ……いや、なのはがお姉ちゃんとかはちょっとあり得ないわ……。想像すらできないわよ……」
「にゃあああ!! なんでーー?!」
なのはは上半身をテーブルにもたれかけてふてくされた。
「というか、やっぱり気になるわね。ちょっと覗きに行ってくるわ」
「ダメだよ、アリサちゃん! た、確かにちょっと気になるけど……」
「あ、なのはも行く!」
「なのはちゃんまで……」
三人はそのままこそこそと部屋を出ようとした。が、その場にはファリンがいることを失念していた。
「ダメですよ、三人とも! 私がちゃーんと見張ってますからね!」
両手を広げて通せんぼするファリンを前に三人は仕方なく諦める。ただ、なのはには魔法の力があった。マルチタスクを駆使して、普通に振る舞いながらも奥の部屋の様子を探るという器用な事をしていた。
意識を傾け、耳を澄ます。中の会話が聴こえてきた。
「それで、最近のなのはのことなんだが……」
「なのちゃんの?」
「最近だいぶ忙しそうにしていてな、それに黙って夜中に出かけてもいるようだ」
「夜中に? それは確かに心配かも……。あ、でも心当たりはある、かも」
「本当か!」
(にゃー! 夜に出かけてるのばれてるー! っていうか心当たりって?! もしかしてばれてる?!)
「なのちゃん、最近学校でラブレターもらったみたいだよ」
「なんだと……」
(な、な、な、なんで知ってるのー?!)
「だからその子と遊んでるんじゃないかなぁ。兄さんとか、家族に話すのはちょっと恥ずかしいんじゃない?僕 もちょっとその男の子に心当たりがあるし。確か名前はクロ……、いや、僕が言うのはフェアじゃないか……」
「なのはが……いつの間にかに、彼氏を……」
(あの話はちゃんと断ったの! っていうか心当たりって誰?! 名前! 名前を教えて!)
「だが、夜遊びというのはいただけない……」
「ん~それは僕も初耳だなぁ、なのちゃんだからおかしな事はしていないと思うんだけど……」
「とりあえず一度顔を合わせておく必要がありそうだな。それと、お前はいいのか? アイリ」
「結構寂しいけど、悪い子ではなさそうだったし大丈夫じゃないかな……。っていっても、面識は無いんだけどね。なのちゃんの彼氏に変なことしたら嫌われるよ?」
「そういう意味で聞いたんじゃないんだが……。それに、たとえなのはに嫌われようとも、あいつに相応しくない男を側に置かせるつもりはない。それが兄の使命というものだ」
「かっ、カッコいい……!! さすが二人の妹を持つものは威厳が違う……!」
「実質三人みたいなものだが……まぁそういうことだ」
「何か大切なことに気づけたよ、兄さん! 僕もアリサの付近をうろついている男をチェックしておかないと……。いや待てよ、確か前入れ替わったときに妙に僕に絡んできたやつがいたな……。……ダメだっ! 興味が無さすぎて顔を思い出せない!」
(は、話がとんでもない方向に進んでるー?! 誰?誰なのクロ何とか君! そしてアリサちゃんの友達、お兄ちゃんのせいでごめんなさいー!)
――キィィィィン――
(この感じはジュエルシード?! そんな、今アリサちゃんもすずかちゃんもいるのに!)
(なのは! 僕がひとまず先に行って結界張ってるから後からついてきて!)
ジュエルシードが放つ独特の波動。
それを二人は感じ取り即座に動き出した。
「あ、ユーノ! どこいくのよ!」
「わ、私探してくるね!」
「大丈夫? 一緒に行こうか?」
「大丈夫! すぐ済むから二人はここにいてー!」
なのははユーノの後を追って、林の中を進んで行った。そしてそこで見たものは、超巨大な子猫だった。
「ユーノ君……、これはいったい……」
「多分、大きくなりたいっていう願いが発動されたんだと思う……」
にゃあああ。
「とりあえず、いつもみたいに封印しよう!」
「え、いつもみたいに? でもいつもと違ってこの子には実体があるよ? ……痛いんじゃないかな」
「少し痛いかもしれないけど、レイジングハートが非殺傷設定にしてあるから命には別状は無いはずだよ。それに、放っておくともっと酷いことになる」
「なら、やるしかないのかな……。よし。リリカル、マジカル……」
だが、なのはの魔法よりも先に割り込んできたものがあった。
空から電撃が子猫に降り注いだのだ。
「雷?! こんなに晴れてるのに?!」
「違う! これは魔法攻撃だ!」
ユーノはそう言って、空を見上げる。
二人の遥か上空には、金髪の髪をなびかせた少女がいた。何か喋っている。
(綺麗な髪に、綺麗な瞳。でも、どこか寂しそう……)
なのはは、一瞬その少女の瞳に心奪われた。
「同型の魔法使い……。目的は不明。脅威かは、わからない。手には……インテリジェントデバイス」
少女は一瞬なのはたちに目をやったが、すぐに子猫へと向き直した。
「いくよ、バルディッシュ。フォトンランサー」
《Photon lancer full auto fire.》
雷が子猫に容赦なく降り注ぐ。それを見てなのはは硬直を解いて動き出す。
「ダメ!! なんでこんなことするの?!」
「ジュエルシードは……頂いていきます」
「え、だってあれはユーノ君の……。なんで……、なんでジュエルシードを集めてるの?!」
「話しても、きっとわからない」
そう言い放ち、雷撃をなのはに放つ。
「邪魔するなら、容赦はしない」
「なんで、こんな……!」
なのはは少女に向かってレイジングハートを向ける。
しかし、戦おうという意思は沸いてこない。ただ、知りたい。なんでこんなことをするのか。なんで……、そんな寂しい目をしているのか。
黄金の魔力刃が迫る。
レイジングハートでとっさに防御する。空中に飛び立つも、すごいスピードで魔力弾が次々とやってくる。
逃げて、回避し、ひたすら飛び続ける。牽制に桜色の魔力弾をばらまきながらも動きは止めない。
今までの敵はみんな大型で動きもそれほど大したことはなかった。だから基本的に魔力任せの攻撃で全て済んでいた。たが、この少女は……。
(はやい……!! それに何より、うまい。私の行動が先読みされてる。私より、ずっと戦い馴れてる!)
思えば、才能は飛び抜けていようとなのはは魔法初心者である。まだまだ知らないことも多いし、自分で出来ることですらよく把握できていない。魔法に出会ってから特訓は毎日欠かさずしていた。でもそれは、ジュエルシードの思念体を想定してのこと。対人戦なんて考えたことすらなかった。
それに対してこの少女はどうか。そのスピードも然ることながら、数多くの魔力弾を巧みに操り自分を追い詰める手腕は見事としか言いようがない。次の行動を相手に読ませる事もない。なのはは終始後手に回った。
その戦いも、長くは続かない。
「あっ!」
ちょっとした気の緩み。死角からの攻撃にも驚異的な空間把握能力で対応していたなのはだが、フェイントを織り混ぜた攻撃で致命的な隙ができる。
そして少女はその隙を見逃さなかった。
「アークセイバー!」
《Arc Saber.》
「ぐっ…うっ…!!」
飛んでくる刃を辛うじて防御する。だが、その至近距離にある魔力刃が爆発し、直撃する。
《Saber explode.》
「か、はッ!」
なのはは空中から地表へと叩きつけられる。ろくに受け身もとれずに背中からぶつかった。
痛みを堪えつつ、上空にいる少女に目をやる。そしてその視界には、少女ではなく巨大な黄金の魔力塊が映った。
「あ………………」
「――――――――ごめんね」
砲撃が迫る。
避けないと……!
だが体が動かない。電撃で体が麻痺していた。
視界の全てが、黄金で染まる。
「きゃあああああッッーー!!」
意識が……飛ぶ……。
最後に見たのは、やはり寂しそうな瞳。
(どうして……、そんな寂しそうな顔をしているの?)
その訳を知りたい。ちゃんと、話をしてみたい……。
無意識に手を伸ばすも、途中で力尽きる。
かすかに残された意識も、すぐに闇へと沈んでいった。
◇
ピクン、と体を揺らす。
何か嫌な感じがする。かつて経験したことがあるような、不吉な予感を感じる。
「誰? ドアの向こうにいるのは?」
アイリはその元凶が扉の向こうに隠れていることを感じ取った。
「へ? 誰か来たのかな。ファリンに引き留めといてって頼んでたんだけどなー」、
「確かに気配を感じるな。だが、これは恐らく……」
扉をコツコツと叩く音が聞こえる。
しかし、その打点が異様に低い。地面すれすれの所が叩かれている。
「ノエル、開けてみて」
「かしこまりました。お嬢様」
ノエルが扉を開けると、銀色の物体が勢いよく飛び込んできた。そのままの勢いでアイリに覆い被さる。
「うわわ、何事?! って、ジョンソン?」
その正体はアイリの飼い犬のジョンソンだった。
アイリに甘えながらも、口から何かくわえていたものを取り出してきた。
「あれ、何だろうコレ?」
「何やら人為的な形のようだが、宝石か?」
「ん~、何か見たことあるような……。あぁ! あの嫌な感じがする宝石だ! あれ、でも確かにあの子に渡したはずなのに……。ん? よく見ると中に書いてある番号が違う」
アイリが前に手にした宝石の番号はⅩⅥ。今回のはⅩⅡ。仮にその番号の数だけ宝石があるとしたら、少なくとも16個の宝石があるということか。今回何個無くしてしまったのか知らないが、この嫌な感じのする宝石がばら蒔かれているというのは案外問題なのではないだろうか。
思考していると、青い宝石が輝きだす。
「ま、またー?!」
咄嗟のことで反応が遅れる。すると、宝石はジョンソンの中へと消えていき、ジョンソンからボフンっと煙が上がる。
煙が消えた後に出てきたのは、銀髪の姿の青年だった。何故か服は着ていない。
「あらら、これって何事?」
「この気配は……、先ほどの犬だな。まさか人化出来るとは……」
「いやいや、ジョンソンはそんなこと出来ないから! 普通の犬だから!」
わぉーん。
一鳴きして、アイリにのし掛かり顔を嘗め回す。その行動は、犬が飼い主に甘える普通のしぐさ。だがこの場合、中学生に襲いかかる裸の大人にしか見えなかった。アイリは涙目になった。
「た、助けて……、兄さん」
「む、しかし……。その男はお前の飼い犬なんだろう? あまり手荒な真似はな……」
「……ゴクリ。ノエル、お願いね」
「了解しました」
そう言ってノエルはどこからともなくビデオカメラを取り出す。主に忠実なこのメイドは平常運転であった。
男にのし掛かられて涙目のアイリだったが、ふと足に何やら熱いものが押し付けられているの感じた。
一体何が……? そう疑問に感じて視線をやったアイリだったが、それを見て固まる。それは予想だにしないもの。ジョンソンのいきり立った一物であった。
大人の人間サイズにしても大きなそれが、アイリの足の間で脈打っている。
ハッハッハッ……。
ジョンソンの息遣いは荒い。
「へ、あ、……、ジョンソン?」
理解が追い付かない。ひょっとして、ジョンソンは発情してる? そしてその対象は……自分?
かつてない恐怖がアイリを襲う。ここまで貞操の危機に直面したことがあっただろうか。
「だ、ダメ! ジョンソン待てッ! マテ!!」
ジョンソンは言われた通りに、アイリに体を擦り付けるのをやめる。ただ、その顔は酷く切なそうである。
「そ、そんな切なそうな顔をしたってダメなものはダメだから!」
くぅん。
「だ、ダメだから……。そんな……悲しそうな顔しないで……」
ワン!
「え、自分に任せてればいいって? でも、やっぱり僕は女の子が好きかなーなんて。あ、そんな顔しないで……。うぅ……」
アイリはその性格と容姿から学校では人気者であった。
学校は男子部、女子部と分かれているため女子との交流は薄いが、男グループで勝手に集計されている「土下座して頼みこんだらやらしてくれそうな人ランキング」において、女子をさしおいて一位に輝くという本人としては非常に不名誉な称号を持っていた。
そんなアイリが、愛犬にこんなに本気で攻められてその気持ちを無視するなんてことは出来るはずが無かった。
目からポロポロと涙を流しながらも返答する。
「その、お手柔らかに……」
その言葉を契機に、ジョンソンがアイリの上に飛びかかる。あわや大惨事か、という時に妨害の手が入った。
「アホかーー!!」
キャウーーン!!
忍がジョンソンを蹴り飛ばしたのだ。
「じ、じの゛ぶざ~ん゛!!」
アイリは溢れ出る涙をそのままに忍に抱きつく。
「おーよしよし。怖かったんだね」
「じの゛ぶざん゛!!ごわがっだよーーっ!!」
「押しに弱いっていうのは考えものだね……。自分の体は大切にしないとダメだよ? それと、恭也はあとでお話しがあるから」
「何が言いたいかはわかるが、それは俺のせいなのか?」
「兄妹にちゃんと貞操概念を教えてるのか不安になっちゃったよ……。美由希ちゃんは大丈夫として……、なのちゃんにはきちんと教えてるの?」
「なのはには、男に言い寄られたら俺に報告するように言っている。それに、なのはには多分好きな男が……、いや、違うか。他の男と付き合っているんだった。だが俺は聞いてないぞ。一体いつの間に……。まさか、言い寄られたから仕方なく付き合ったりなんかしてるんじゃ……」
恭也は話しながら段々と不安になっていった。アイリの例がある。まさか言い寄られて断れなかったんじゃ……。嫌な予想に顔が青くなる。
「確かめた方がいいんじゃない?」
「今夜にでも確認しよう……」
二人が顔を引き攣らせている間に、アイリの意識は回復した。そして気になるのは吹き飛んでいった自分の愛犬。何だかんだでやっぱり愛犬の様子が心配だったのだ。
吹き飛んだ先に行ってみると、ジョンソンは元の犬の姿で伸びていた。側には先ほどまで無かった青い宝石。どう考えても、この青い宝石のせいでジョンソンが変身してしまったのだろう。発情の件に関しては……、急に同じ種族と認識してしまったからに違いない。性別のことは置いておいて。
アイリは以前よりも念入りに封印処理をした。
ひょっとして、あの時のユーノもこの宝石のせいでおかしくなったんだろうかとも思ったが、やっぱりユーノのケースは少し違う気がした。
勘でしかないのだが、ユーノ自体が何か特殊な気がしたのだ。
「これどうしよっかな……。明らかに危険物質ってわかったし、どう処理したものか」
「あ、私それ凄く気になるな。出来れば忍さんに託してくれると嬉しいかも!」
「あ、うーん……どうしよう。……やっぱり、ダメ。これは何か結構嫌な感じするから、僕が持ち主に返すまで保管しとく」
「ガーン」
アイリはあの少女に渡すまで自分で管理しておくことに決めた。いつ会えるかはわからないけれど、渡す際には小言の一言でも言ってやろうと思いながら。
その時である。部屋にファリンが駆け込んできた。
「お姉様! なのはちゃんが……なのはちゃんが倒れちゃったんです!」
それは突然の知らせ。急いで駆けつけると、既に手当てはされていたがなのはが起きる気配はない。
体には、不自然な泥のあとと打撲痕。
「なのはに聞くことが増えたな……」
恭也は心配しつつも、そうこぼす。
その後、無事回復したなのはだが、その口から真実が漏らされることは無かった。
それはユーノと魔法を洩らさないように約束したためか、自信の信念のためか、それとも……、今日出会った少女と再び会い、話し合ってみたいがためか。
その心の内を知るのは、本人のみである。
圧倒的戦闘力のフェイトそん。
映画版とかの二人の戦闘見るとガンダムレベルの戦闘ですよね。空中での爆発とか。
機動力とかみるとガンダム超えてますが。
冒頭の夢はリリカルおもちゃ箱の世界です。
ロストロギア級を自分で作り出すことのできるクロノ君の物語になります。