究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第九話『山田くん窃盗が露見す』

山田次郎は倒れた。

 

ここで女性陣はある重大な事実に気がつく。男子は山田しか居ないのだ。

布団に寝かせようと、3人で比較的背の高い田中双葉嬢が挑戦してみる。

力の入ってない人間は重い。そして少し太目の山田に対し双葉は痩せ型。

 

顔どころか耳まで真っ赤に染め足首を持って必死に引っ張るマイハニー。

途中から人目すら気にしなくなったのか、ガニマタにまでなって大奮闘。

だが足を取り落とすほど手が疲れ、がっくりと頭を下げ阿形の手を叩く。

 

阿形直美は映研一の小柄な少女である。その身長は150cm程である。

驚いた事に阿形は山田の上半身を起こし、腕をクロスさせて持ち上げた。

糸で導かれる様に背に乗る山田。さらに阿形はゆっくり歩き出したのだ。

 

 

 

「ま、こんなもんかな?……山田センパイのお部屋ってどこですかね?」

 

「……………………………………」

 

「――田中先輩、阿形さんが質問しています。お返事は出来ませんか?」

 

「……あ、それなら、横の扉よ。」

 

「はいはい、了解しました。上の階だったらどうしようって思ったわ。」

 

 

 

田中双葉は呆然としていた。親子にすら見えかねない程の身長差の二人。

そんな親子風の二人なのに、背負ったまま平然とした表情で歩いている。

石川が阿形の前に回りこみ、椅子をよけたり扉を開けたりと動いている。

 

本来ならホストの双葉がフォローするべき。誘導くらいは出来るはずだ。

 

だが彼女は阿形の勇姿を、ただただ呆然と眺めることしか出来なかった。

理解に苦しむ、想定から外れた、そんな光景に双葉は動きを止めていた。

足が動かない。考えが纏まらない。だが山田次郎が視界から消えていく。

 

 

 

「―――阿形さん、重くない?かなり山田先輩ってデブなんじゃない?」

 

「あはは、そうでもないよのコレが。結構胸板が分厚くてビックリよ?」

 

 

 

談笑する後輩を見送る双葉。そして扉を出る寸前の阿形直美と目が合う。

それは、まばたきのタイミングか、光線の具合か、それとも後方確認か。

しかし双葉には見えたのだ。阿形の軽蔑を。役に立たぬ道具を見る目を。

 

扉を閉める音が響いて独りになった事を確認すると、呼吸を乱しだした。

顔をしかめ、シャツの首元を握り締め、少し屈む様な姿勢で数秒止まる。

わなわなと頬を震わせ、歯を食いしばって、目前にのみ焦点を合わせる。

 

 

 

「……大丈夫、ぜんぜん大したこと無いわ。私は『双宮』なんだから。」

 

 

 

その後すぐ背を伸ばし、両手で髪を手早くかきあげてサッと後ろに流す。

余裕を湛えつつ伏せがちな目元へ、そして、艶っぽい口角の上げ方へと。

ちなみに彼女が言った『双宮』とはペンネーム。姉は『一宮』と名乗る。

 

 

 

「そうだ、山田クンの為におかゆ作ろっと。……机の上が邪魔だわね。」

 

 

 

鼻歌まじりで部屋の隅に向かい、笑顔のまま大きな半透明袋を引き出す。

90リットル袋という奴だ。それを複数枚テーブルに並べ出した双葉嬢。

そして、誰の口にも入ることのなかったお手製の料理を放り込んでいく。

 

 

 

「……作ったのに食べてもらえないなんて。ホント駄目な料理だこと。」

 

 

 

スープ以外の料理を袋に詰め、彼女は二重に結んで縛り床に置いていく。

そして涼しげな表情を崩さぬまま、何度も袋を踏みつつ息を荒げていく。

頬に朱が入り始めた頃には、大袋の中身に料理の面影は残ってなかった。

 

そして彼女は食堂と裏庭を何度か往復し袋と寸胴の中身を全て片付ける。

また例のように大量の水で食器を洗い、全て元の状態を取り戻していた。

 

 

 

「ふふふ、待っててね山田クン。――わたしもう、逃げないんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応接間と呼ばれた部屋にはベッドこそ無かったが調度品は豪華であった。

4人がけのソファーと、ガラステーブル、ガラスの灰皿。そして、広い。

本の並ぶ書架に挟まれた状態で60型テレビが中央に嵌め込まれている。

入り口の逆側には扉が2つ。一つは書斎、一つは寝室へと繋がっていた。

 

寝室の扉を開けると、大きなベッドと水差し置きの丸台が鎮座していた。

 

 

 

「―――ここが山田先輩の部屋?私たちの部屋よりも、ずっと大きい。」

 

「あはは、まぁ田中センパイの気持ちなんでしょ。好きみたいだしさ。」

 

「―――でも変。山田先輩の荷物が無い。ここには来ていないって事?」

 

「うーん、あの山田センパイが荷物ごと女子の部屋に押しかけたとか。」

 

「―――そう願いたいけど、なんか面倒な事に巻き込まれてるのかも。」

 

「もう十分面倒。大きな子供のお守りさせられるし、おなか空くしさ。」

 

 

 

最後に食事を取ったのは電車内。山田がグズってる間に買った弁当だけ。

グロッキーだった山田は食べなかったが、二人は箱鉄の車内で済ませた。

阿形は旅情満載の相模こゆるぎ茶飯弁当、石川は旅情粉砕の調理パンだ。

 

 

 

「―――山田先輩を片付けたら、アメ食べよう。喉用に持ってきてる。」

 

「え?ほんとに?さっすが映研一年期待の星だわ!愛してる!チュッ!」

 

「―――そのかわり、山田先輩の汗拭いてあげて。あと、着替えもね。」

 

「あはは大丈夫、こういうの慣れてるから。稽古中倒れる奴多いのよ?」

 

 

 

鼻歌交じりで山田の服を剥いでいく阿形。慣れてるのか、確かに手早い。

そして上半身を起こし、寝室に有ったタオルケットを使って器用に拭く。

2人は顔を寄せて相談し、ジーンズも剥ぎ取る。そこにはピンクの下着。

 

しかも明らかにサイズが違うばかりか、確実に女物のショーツであった。

 

 

 

「―――やっと判ったわ。山田先輩と田中先輩は、完璧な主従関係よ。」

 

「つまり山田センパイが田中センパイを襲って、パンツ強奪したとか?」

 

「―――違うわよ。田中先輩が昨日の夜に、山田先輩を支配したのよ。」

 

「し、支配?!なんかマンガみたいな展開ね。で、どうやって支配を?」

 

「―――きっとこのパンツがアイテム。コレで山田先輩は操られてる。」

 

「じゃあさ、コレ脱がせちゃえば山田センパイは正気に戻るって感じ?」

 

 

 

ショーツ姿で倒れている山田次郎を挟んで、阿形と石川は雑談していた。

もちろん彼を気遣い小声で話している訳ではない。むしろ大声であった。

ここで起きたら起きたで楽しそうだ、彼女らの認識はそんな程度だった。

 

 

 

「―――ゴー。」

 

 

 

親指を立て手を握り、阿形に合図を送る石川。意味する所は通じている。

しかし意図が通じたからといって実行するかというとそうでは無かった。

空手畑に身を置いてて男の肌も見慣れた彼女といえど、恥じらいはある。

 

 

 

「ゴー。じゃない!いくら私でもそんなの慣れてないって石川ちゃん!」

 

「―――大丈夫、減ったりしないって、たしか昔の偉い人が言ってた。」

 

「いやいや、減らなきゃいいってもんじゃないから!増えても困るし!」

 

 

 

山田くんはショーツ姿のままタオルケットに巻かれて布団を被せられた。

何も見なかった。それが一番。そう結論付けた後輩達は隠蔽を決断した。

ちなみにこの行為が保温効果と揮発防止効果となり病状は回復していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田は、じめついた空気が満ちるジャングルで木を背にして座っていた。

軍服も擦り切れて水筒には中身が無い。背嚢も放棄してしまったらしい。

歩き出そうにも足が動かない。だが足はある。体力が残ってない模様だ。

 

 

 

「ねぇ大丈夫なの山田クン?とりあえずさ、お水でも飲んでたらどう?」

 

 

 

彼の顔の横から小さなキャップに入った水が現れる。水を持つ手は白い。

背中の大きく空いた袖なしシャツ、いわゆるマッチョタンクを着た少女。

少女の名は知っている。田中双葉。山田の頼れる参謀のSS将校である。

 

 

 

「……ちょっとまて田中双葉、この水って、いったいどこから出した?」

 

「大丈夫、水筒からよ。腐ってないはずだし、飲んだって平気の筈よ。」

 

「……俺の水はカラだ。つまりこの水は君のだろ。だったら飲めない。」

 

「水に名札はついてないわ。誰のだって飲めるはずよ?大丈夫だって。」

 

「……水の管理は個人の責任だ。俺が飲み干したんだ。だから駄目だ。」

 

「私の水はどうしようと私の勝手じゃない?私はそう思うんだけどな。」

 

「……そうはいかん。共倒れになる。君に余力を残すのが最善だろう。」

 

 

 

会話の区切りが短い。それは山田に余裕が無いという事を意味していた。

双葉が不機嫌そうな顔をして手に持った水杯をあおったのを山田は見た。

安心して下を向く山田。しかし何故か耳が引っ張られ、下顎が掴まれる。

 

そして憔悴しきったその顔は、田中嬢の方向へと強引に向けられていく。

 

 

 

「んっふっふ。」

 

 

 

抵抗しようとするが、腕が上がらない。鼻を摘まれ、口が開いてしまう。

そこへ視界一杯の黒い影が現れる。彼は顔を見てやろうと目を凝らした。

 

目を血走らせて見開き、そして頬を引きつらせ唇を突き出す必死な少女。

いつもの知的で澄まし顔の彼女の姿は無く、無様で情けない少女だった。

山田の眼光の焦点に気がつくと、その表情は崩れ泣きそうになっていく。

 

そんな少女の姿に何故か異様に興奮し、山田次郎は引き寄せて唇を奪う。

 

 

 

「ねえ、次郎くん、ないしょだからね?おねえちゃんにもないしょよ?」

 

「わかってる。これは秘密だよ。ぜったいに秘密だってやくそくする。」

 

「ほんとにおねえちゃんには内緒よ?おねえちゃん、すごくこわいの。」

 

 

 

周囲は広い部屋だった。ピンクの壁にアニメのポスターが貼られている。

ポスターは黒基調のデザインで剣を持った男子学生の絵が描かれている。

その紙面の左下には、大きく『X』というロゴがプリントされてあった。

 

 

 

「ねえ、もういっかいちゅーしようよ。いまの、すごくどきどきした。」

 

「だめよ、きっとなんどもしちゃだめなことだって思うわ、次郎くん。」

 

「だいじょうぶ、たいしたことないって、だって、きみは―――だろ?」

 

 

 

そして泣きそうな小さな女の子の唇を、小さな男の子は再度強引に奪う。

 

その次の瞬間に目の前の光景が歪み、世界が崩壊しそうな衝撃を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田は簀巻き状態でベッドに転がされ、上からは布団を掛けられている。

良く見えないが、どうやら彼は唸り声を上げながら苦しんでいる様子だ。

そんな異様な光景が広がる部屋で、後輩達がアメを口に談笑をしていた。

 

 

 

「―――田中先輩の桃色パンツには、刻印があるってのはどうかしら。」

 

「え、まだその話を引っ張るの石川ちゃん?いいかげんに止めようよ?」

 

「―――これを、アニメ班の作品の原案にしようかって、思ってるの。」

 

「ぶっ!生物太郎さんが女物のパンツはいてる絵を、私らが動かすの?」

 

「―――意思を持つ昆虫娘、乗っ取られる班長、そして、謎のパンツ。」

 

「どう聞いても最後がおかしい!それにパンツ男の資料なんか無いし!」

 

「―――そこに、転がってる。それに今だったら、何とタダで見放題。」

 

 

 

B4ケント紙と筆記用具を手に山田の元に向かう石川、付いていく阿形。

石川は迷うことなく布団を剥ぎ取り、巻きついたタオル地も引き抜いた。

現れるパンツ山田。そして椅子に腰かけ、軽い音を立て絵を描き始める。

 

 

 

「―――山田先輩のお尻って大きいのに硬そう。結構いい参考になる。」

 

「い、石川ちゃん、参考って……一体どこに向かおうとしてるのよ……」

 

「―――BLとか耽美とか拘る時代じゃない。何でも描けなきゃダメ。」

 

「どんなに頑張っても尻出しパンツ男の寝姿が必要な時代は来ないよ!」

 

「―――だったら、黙って見てて。私はチャンスを、逃がしたくない。」

 

 

 

石川は鉛筆を握り締め、そして滑らせ、こすり上げ、画紙を入れ替える。

もしかしたら石川のジョークなのかと彼女の背後に立って覗き込む阿形。

しかし本気だった。尻のえくぼや窪み、筋や張りまでスケッチしている。

 

やがて石川は筆を置き、山田の足を持ってひっくり返して仰向けにした。

そこには男子特有の特徴である女性には無い器官が大きく主張していた。

本来フィットすべく作られている筈のパンツの端々に隙間が出来ていた。

 

そこで更に近付こうと山田に向かう石川。だが、それを阿形が制止した。

 

 

 

「あ、あの、山田センパイ一応病人だしさ!ちょっとは休ませないと!」

 

「―――もう顔色戻ってるし、熱も下がってる筈。大丈夫よ、どいて。」

 

「いや、ちょっと待って!ちゃんと確かめないと!私が調べるからさ!」

 

 

 

そう言うが早いか、山田の股間を隠す様にしながら阿形はベッドに乗る。

確かに顔色は戻ってきているが荒い寝息と低い唸り声を出し続けている。

とりあえず熱がある事にしよう。そして布団をかぶせて隠してしまおう。

 

石川が悪の道に染まっていくのを見るのが、阿形には耐えられないのだ。

 

 

 

「……熱い!熱いよ山田センパイ!もっと暖かくして寝かせないとさ!」

 

「―――あ、そのまま。動かないで阿形さん。今すごく、大事だから。」

 

「ふぇ?何が大事なの?まさかスキマから山田センパイの見えてるの?」

 

「―――もっと大事な事。私、本物のキスシーンを見るの初めてなの。」

 

 

 

阿形は仰向けの山田に馬乗りになって、オデコを付けて検温をしていた。

そこで会話が始まった為、顔の向きだけを石川の方へと曲げていたのだ。

阿形の視界外で、山田の手がゆっくりと持ち上がり阿形の顔を挟み掴む。

 

注意を向けておらず不意打ちとなった阿形は、為すがままに顔を向けた。

 

 

 

「え?!山田センパイ?!?!なにやって、る、ん――――――――。」

 

 

 

山田の顔が少し角度を倒した、冷静に阿形が認識できたのはそこまでだ。

唇に広がる柔らかい肉の感触を感じたとたんに、阿形の感情が爆発する。

幼い頃から様々なシチュエーションを夢見てきたファーストキスだった。

 

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――。」

 

 

 

阿形の眼が光る。まず山田の手を払いのける。しかし唇はまだ離れない。

そこで阿形は拳を握り締め、右拳を山田の胴体の中央部分に押し当てた。

そしてほんの少しだけ、押し当てていた右拳を持ち上げ、動きを止める。

 

 

 

「せぃっ!」

 

 

 

胴体の中で脆い、肋骨と胸骨に守られていない所に拳を打ち込んでいく。

一撃、二撃、三撃、容赦なく無防備な相手に打つ。無論これは暴力行為。

だが今の阿形には『それをするだけの権利が自分にある』と感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双葉の料理シーンの描写はしていない。何故なら爆発したりしないのだ。

もちろん異臭騒ぎで倒れたりしなければ寄生生命体が誕生したりもない。

女の子の料理は大失敗で黒焦げになってこそ花。だが双葉は上手なのだ。

 

だが折角なので、彼女のパーフェクトさを感じて頂く為にも見て貰おう。

彼女はおかゆを作ろうとする。すると、まず携帯電話を手に取り始める。

もちろん調理器具として使う訳ではない。誰かと通話をする為であった。

 

 

 

「あー、おかゆ作るんだけどさ、作り方教えてくれる?」

 

 

 

そして首で電話を固定しながら、器用に話を聞きつつ食材を集め始める。

今回のオーダーは『おかゆ』である。それならまずは米と調味料である。

彼女はパタパタとスリッパを響かせてテーブルに次々と材料を並べだす。

 

米、水、オリーブオイル、旨味調味料、こんぶ、ゴルゴンゾーラチーズ。

更にミルクや野菜、そして何故か魚や貝などの海産物まで出てくる始末。

 

 

 

「え?なに?違うの?だって、おかゆってリゾットの和名でしょ?」

 

『―━―-―━━―――!――!―━-―━━-━――――!』

 

「わ、判ったわよ。で、話変わるけどさ、何もやってないわよね?」

 

『―━―-―━━―――?――、―━-―━━-━――――。』

 

「もし違ったら恨むわよ。山田クン、熱出して倒れたんだからね。」

 

『―━―-―━━―――。――、―━-―━━-━――――?』

 

「冗談よ。また困ったら電話するわ。……ずっと好きよ、ジュン。」

 

 

 

電話している間に下拵えが終わり、材料がステンレス製の調理台に並ぶ。

オリーブオイルで炒めたご飯が、大きなスープ用の鍋に入れられていた。

そこで双葉は鍋に他の材料を放り込む。海産物、旨味調味料、水、等々。

 

どう見てもリゾットである。結局双葉は、決めた道を曲げなかったのだ。

 

 

 

「今度こそ胃袋つかむわよー。……そうだ、ヒヨコさんを忘れてたわ。」

 

 

 

スリッパがパタパタと音を立て、その後巨大な冷蔵庫の扉が開いていく。

中には外観の偉容に負けないほどに、様々な材料がぎっしり並んでいる。

スリッパがパタパタと音を立て、その後巨大な冷蔵庫の扉が開いていく。

中には外観の偉容に負けないほどに、様々な材料がぎっしり並んでいる。

スリッパがパタパタと音を立て、その後巨大な冷蔵庫の扉が開いていく。

中には外観の偉容に負けないほどに、様々な材料がぎっしり並んでいる。

 

これは表示のトラブルではない。別荘には冷蔵庫が3台並んでいるのだ。

その全てが開け放たれた光景は食堂だと言われても誰もが信じるだろう。

そして扉は閉じられない。そのままの状態を双葉はじぃっと眺めていた。

 

 

 

「めんどくさいしサラダでいっか。ヒヨコには野菜がお似合いだしね。」

 

 

 

山田次郎と田中双葉には意外な共通項がある。それは『面倒くさがり』。

その方向性はともかくとして、何をするにも手間を惜しもうとするのだ。

そんな二人だからこそ昨日の様にニアミスをしてしまうのかもしれない。

 

そして彼女はサラダを作り始めた。もちろん作るからには手は抜かない。

『手を抜く』のと『面倒くさがる』のは似ているように見えて全く違う。

無駄を嫌うのが面倒くさがりなのに対し手抜き屋は単にサボタージュだ。

 

無駄はしたくない。しかしやるからには完璧を目指す。これも共通項だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その山田くんは地獄のような苦悶によって強制的に目を覚ました。

なんせ十分に呼吸が出来ない。ジャングル戦は現実ではないとは気付く。

しかし状況は余り変わらない。殺意の眼光を放っている戦闘民族がいる。

 

馬乗りになったまま自分に最後のとどめを刺そうと拳を振り上げている。

謝ろう。理由は不明だが謝ろう。恐らく命乞いが最後の手段の様だから。

 

 

 

「ぎ、ギブアーップ!降参です!謝るから待って!殺さないでほしい!」

 

「はぁ?!舐めてんじゃねえよ!確実にいま殺す!絶望に身をよじれ!」

 

「―――ほら、私の言うとおり。やっぱり山田先輩、元気になってる。」

 

 

 

戦闘民族がどうも阿形嬢なのは確認できた。そして凶器がその拳なのも。

その凶器は、すでに自分の頭上にあり抹殺命令を待っている状態である。

たぶんあれがラストシュートだ。小指どころか手足の指が全て動かない。

 

比喩や冗談などではなく、恐らく高確率で致命の一撃となるのであろう。

 

 

 

「待ってくれ!頼むから要求を言ってくれ!!当方に懐柔の用意あり!」

 

「―――じゃあ、映研を絶対辞めない、ってのはどうかな?阿形さん。」

 

「……山田センパイ、田中センパイに言われたら映研辞めるんですか?」

 

「何故!?俺がいつ辞めるなんて言った?しかも田中双葉に言われて?」

 

「―――じゃあ、そのパンツの持ち主に言われても、辞めないですね?」

 

 

 

山田はここでほとんど脱がされパンツだけになっているのに気がついた。

そして指がかろうじて動き始める。仰ぎ見る阿形の表情も和らいでいる。

余裕の出た山田は咳払いを数度して、阿形に向かい優しく微笑んでみた。

 

 

 

「実は替え持ってくるの忘れててさ、寝てる間に、箪笥からパクった。」

 

「ちょっ?!そっ、それ、単なる下着泥でしょ?!何やってんのよ?!」

 

「いやー、まさか後輩にここまで脱がされるとは想定外だったんでさ。」

 

「―――『幽霊の正体見たり枯れ尾花』意外と単純な事件だったわね。」

 

「いや、石川ちゃんもおかしいよ?何で普通な顔してるの?窃盗よ?!」

 

「大丈夫、被害者が許すから。山田クンにだったら幾らでもあげるわ。」

 

 

 

ここで現れる手に何かを持った女。窃盗の被害者が判明した双葉である。

その手には湯気が立った出来立てのリゾットの乗った大き目の皿がある。

空気を察した石川が数歩下がり、阿形も山田から降りて下がっていった。

 

後輩により出来た道を悠然と歩き、田中双葉は山田次郎の隣へと座った。

山田には立ち上がって逃げる事は出来ない。双葉が許していないからだ。

 

 

 

「あ、いや、あの、決して悪意とか困らせようとかじゃなくてですね?」

 

「だから大丈夫、あげるんだから。好きなだけ持ってって、山田クン?」

 

 

 

表情を変えずに、慈母のような微笑で彼の鼻先に吐息をかける田中双葉。

 

だが、彼女には手があった。しかも一本ではない。二本の手があるのだ。

視線を外さず、山田氏にあげたパンツを引っ張るのが右手の役目だった。

視線を外さず、手に持つ皿の中身を全て流し込むのが左手の役目だった。

 

 

 

「??? ?!臣鞁臣?臣?!℡・ソ譁・ュ怜喧縺代@縺ヲ縺・∪縺・!!」

 

「おいしいでしょ?私一生懸命作ってたのよ、元気になるようにって。」

 

「・ソ譁・ュ怜喧縺代@?!縺ヲ縺・∪縺・ハクサ嵂ス、ア、キ、ニ、 、、゙、ケ!!!鏤炊サ・」

 

 

 

皆さんには山田くんの発する悲痛な叫び声が良く判らないかもしれない。

まるで文字化けでも読んでる様だな、なども思ってしまうかもしれない。

正しく発音すると外宇宙の神が気付くかもしれない、そんな悲鳴なのだ。

 

素手でも憚られる熱々リゾットがデリケートな急所に襲い掛かっていた。

しかも彼女は自分の指が熱くなるのを承知の上で、ゆっくり擦りあげる。

張り付いた笑みは全く崩れない。盗まれたパンツに触れる手も止らない。

 

 

 

「だから『許す』わよ、何度だって。気にしないで盗んでていいのよ?」

 

「………………いや、やっぱり、事前に承諾を、いただき、ます、ね。」

 

「あらそう?やっぱり山田クンって紳士よね。ますます好きになるわ。」

 

 

 

やっと田中嬢による熱圧の呪縛の手から離れ、急いで下着を脱ぎ捨てる。

だが何故か自分のシャツどころか、ジーンズすら探しても見当たらない。

タオルケットを肩から掛け、周囲に目を凝らし、そして何とか見つけた。

 

 

 

「あのー、田中さん?その足元に踏んでるのは、もしかして私めの服?」

 

「洗濯するのもホストの役割なのよ。大丈夫、大した事じゃないわよ。」

 

 

 

リゾットまみれの下着も普通につかみあげ、それをジーンズで包み隠す。

汚れた手を山田のシャツでぬぐい、それも一緒に丸め、手に抱えこんだ。

そしてタオルケットにも彼女の手が伸びる。泣きながら首を振る山田氏。

 

 

 

「―――阿形さん、もしかして田中先輩って、実は怒ってるのかしら。」

 

「そりゃまー怒るでしょ。どう見ても山田センパイの犯罪行為だしね。」

 

 

 

二人を覗きこんでいる石川を押しながら、部屋を後にしようとする阿形。

そこで再び皿が現れる。今度は阿形直美の目の前に、豪華なサラダ皿が。

そしてタオルケットと山田氏を引いて移動中の、田中嬢の笑顔も現れる。

 

 

 

「ごめんね、おなか空いてるでしょ?明日BBQするから我慢してね?」

 

「あ、ありがとうございます!本当におなか空いてて!助かりますっ!」

 

 

 

皿を受け渡す際に、田中双葉は阿形直美の背に合わせて低い姿勢をとる。

そして当然の様に、阿形もその高さにあわせようと少し高い姿勢をとる。

そこで、ほんの一瞬だが阿形の耳元と田中の口元が交差、そして離れた。

 

阿形はそこで硬直してしまう。田中は皿を渡して、山田ごと去っていく。

不思議がる石川が阿形に、二人だけに聞こえる様にこっそり声をかけた。

 

 

 

『―――どうしたの阿形さん?もしかして、うっかり腰でも痛めたの?』

 

『あ、う、ううん?なんでもない。サラダ食べよ?おなかぺこぺこよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キスひとつで山田クンを獲るのは無理よ。諦めなさいヒヨコちゃん。』

 

 

 

そんな言葉が阿形の耳には届いていたが、彼女は余り気にはしなかった。

どれくらい気にしなかったかと言うとサラダが阿形の予想外に美味しく、

 

『山田センパイとか全くどうでもいいんで、サラダおかわりください!』

 

と、双葉に向かって眼を輝かせて叫んでしまう程に気にしていなかった。

ご機嫌の双葉嬢から大盛のおかわりを受け取って、とてもご満悦な阿形。

双葉の『胃袋をつかむ』という目標は思わぬ相手に叶ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく。




先日、SSの神様が久々に光臨しましてね。
未熟者としては意見を聞くわけなんですよ。

「山田くんシリーズどうしたもんすかね。」
「制服物だっけか。エロ、エロしかねえ。」
「いや、R18じゃないんですよ今回も。」
「制服物でR18じゃねえとかナメすぎ。」
「何かいい知恵を頂ければ助かりますが。」
「じゃあギリまでエロ。ガチエロが理想。」
「いや、淡い青春群像思い出路線なんで。」
「そんじゃ淡いガチエロ思い出路線だな。」
「どうにもガチエロは外せないんか貴様。」
「SSだろ?エロなきゃ即バックだろが。」

この後神様は買ってきたサークルKのモモ皮3本と発泡酒2本で腹ごなしをした後に寝落ち、
私が寝てる間に起きだして勝手にPCを立ち上げ春画を描いた挙句に壁紙にして帰りました。

というわけで今回はちょっとエッチにこだわってみました。

では、また次のお話でお会いしましょう。
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