究極大英雄の山田次郎かく闘えり!   作:うぃっちべーす

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第十七話『山田くん内堀が埋没す』

山田家の台所に食卓は無い。皆で居間でコタツを囲みながら食事を取る。

しかし今は夏。コタツには布団などは掛かっておらず、ただの机である。

 

そこには出来立ての味噌汁と揚げ物、そして何故かお赤飯が並んでいる。

囲むのは山田父、山田母、山田くん、そして何故か山田くんの仇敵の姿。

 

 

 

「君も忙しかろう、我が家の粗食になぞ付き合わずに帰っても良いぞ?」

 

「いいえー。家にはこちらでお食事を頂くからと連絡しておきました。」

 

「いいじゃない、折角だし食べていかれたらいいわ。ねえ、お父さん?」

 

「そうだな!次郎の胃袋の好みも知っておいて損は無いだろうからな!」

 

 

 

山田家の居間の主役はテレビである。コタツの一辺はテレビへと向かう。

残りの三辺に人が座るという配置で、左右には山田夫妻が鎮座していた。

そしてテレビの正面へと向かう特等席には山田くんと田中さんが並んだ。

 

 

 

「味付けが細やかなんですね。私はお料理苦手ですから羨ましいです。」

 

「なにを言っているんだ、普通にコース料理作ってたじゃないか君は。」

 

「それにお家も立派ですね。木造なのに土台もしっかりしていますし。」

 

「俺の部屋とココだけしか見ないで土台が見えるとかエスパーか君は。」

 

「山田くんって成績が良くて、私にも教えてくれて凄く助かってます。」

 

「塾に行ける金くらいあるだろうに。凄い金持ちの子じゃないか君は。」

 

 

 

お上品に箸を進める双葉さん。山田くんの両親との話も大変弾んでいた。

ただ、その隣では苦虫を潰したような顔でチャチャを入れる山田がいる。

双葉は綺麗に織ってあるハンカチを口元に当てて、山田へと頭を寄せる。

 

そして、ほんの数秒ほどだが、山田くんの耳元に向かって何かを囁いた。

蒼白になり彼女へ驚愕の表情を浮かべる山田。ただ優しげに微笑む双葉。

 

 

 

「先程は大変お見苦しい所を御見せしましたけど、清い間柄なんです。」

 

「そうそう、そのとおり!俺と田中さんはとても清い関係なんですよ!」

 

「ただ山田くんは優しくて、倒れた私を介抱してくれただけなんです。」

 

「そうそう、そのとおり!俺は田中さんにとても優しい男なんですよ!」

 

「けど、もちろん真剣に交際させて頂いてます。冗談では無いんです。」

 

「そうそう、そのとおり!俺と田中さんは真剣に……ぐぬぬ……交……」

 

 

 

そして再度、田中さんはハンカチを口に当てながら山田くんに寄り添う。

笑ったような泣いたような面白い顔をしている山田くんが横に首を振る。

田中さんの表情は変わらない。やがて意を決した様な表情で彼は叫んだ。

 

 

 

「そうそう!そのとおり!俺と田中さんは真剣に交際していますから!」

 

 

 

目を閉じたまま無理やり口角を上げた状態で山田くんが大声で宣言する。

山田くんの両親を見据えつつ、微笑みを崩さずに縦に首を振る田中さん。

そして両親はといえば、そんな山田くんの交際宣言に拍手で答えていた。

 

では、双葉嬢のハンカチの中で、山田くんに何が伝わったのであろうか。

 

 

 

『山田屋、枕の下にある御禁制の抜け荷、気が付かぬ越前と思うてか。』

 

 

 

田中嬢はハンカチ越しにして声を殺しながら、山田氏にそう伝えていた。

ちなみにその禁制の品とは、彼女が旅行の最後に渡していたアレである。

山田くんはそれを大事に持ち帰り、枕に隠して、その、抜け荷していた。

 

抜け荷ってなんなんだよ!と思われた方、詳しくは父兄にご質問下さい。

まぁ、その、とにかくその荷物が、その、何か抜いたりできるのである。

 

 

 

「田中さん、君から見て次郎をどう思う?冴えないメガネ餓鬼以上か?」

 

「映研の部長って文化系とはいえ本当に評価が高いんですよ、お父様。」

 

「でも『大学は経済に行く』の一点張りよ?映画学校だってあるのに。」

 

「堅実な所が山田くんの長所ですわお母様。現実が見えていますもの。」

 

 

 

非常に面白くなさそうな表情で仇敵と両親の会話を聞いている山田くん。

そこで、彼の鼻腔に微かな臭いが入り込んだ。自分のとは違った汗臭さ。

隣に座る双葉嬢の横顔に目線を移すと、目元から首元に汗が滲んでいた。

 

それを見て彼女の額に手を当てる山田くん。びっくりして振り返る彼女。

 

 

 

「田中さん、まだ少し熱が残ってるな。洗面台ならそこのドアの先だ。」

 

「あ、ありがとう。……やっぱ山田クンってさ、本当は優しいのよね。」

 

 

 

そう呟き、彼女はドアの向こうに消えていった。そして両親も席を立つ。

父は息子の隣へと詰め寄り、そして母は彼女を追って扉に消えていった。

 

 

 

「いい女つかまえたな次郎!一生童貞で終わると思ってたお前がなあ!」

 

「そういう仲ではないでゴザルよマイファーザー!誤解でゴザルから!」

 

「中とか具合とかは他人に言うもんじゃないぞ次郎!うはははははは!」

 

「ちょ、凄く勘違いしてるでゴザル!彼女と俺はとても清い間柄ナリ!」

 

「うむ、清潔にはしとかんとイカン。揃って病院に行くとか大変だぞ?」

 

「だ、だから違うでゴザル!下品にも程が過ぎますぞマイファーザー!」

 

 

 

山田くんの父である大五郎氏は彼と違って豪放な体育会系の性格だった。

息子の頭を抱え込み、固く握った拳をぐりぐりとその頭蓋にねじり込む。

もちろん憎くてやっている訳ではない。彼の笑顔がそれを証明していた。

 

 

 

洗面所では田中双葉が何度も顔を上下させながら何度も顔を洗っていた。

そしてふと、目の前の大きな鏡に映っている自分の顔を凝視しはじめる。

その目はいつもの半目ではなく、大きく必死に見開いているものだった。

 

 

 

「田中の苗字を名乗ってウチに来るとはね。貴女は一葉さん?妹さん?」

 

「……お気付きだったんですかお母様。私は、妹の方の二宮双葉です。」

 

「あなたのお姉さんが次郎にした事を私はまだ許していませんからね。」

 

「……姉も謝る気は無いと言ってました。大変申し訳ありませんけど。」

 

「私もあの女から受ける気は無いわ。で、その罪滅ぼし貴女がするの?」

 

 

 

声の主である山田母に振り返りもせずに、ただ鏡を睨みながら話す双葉。

一方の山田母も、客人の前とは思えぬ様な腕組みをしながら話しかける。

 

 

 

「信じて貰えないかもしれませんけど、私、山田クンが好きなんです。」

 

「信じるわ、例え嘘でも。次郎の失った物を貴女が全て弁済しなさい。」

 

「二宮の家でも田中の家でもなく私が、ですか?それでしたら喜んで。」

 

 

 

二宮双葉は未だに鏡を見つめている。しかし自分の顔ではなく向こう側。

鏡に映る自分への背後の女性の表情。その氷のように冷たい蔑んだ眼を。

 

 

 

「充分よ。貴女の全てを捧げなさい、飽きられ打ち捨てられようとね。」

 

「4年間、準備をしてました。そして『完成』しました。大丈夫です。」

 

「なら、その『顔』はもう出さない事ね。次郎が気付いてしまうから。」

 

 

 

田中双葉は必死に開いていた目を閉じ、再びいつもの半目の微笑に戻る。

山田母も鏡からその変化を覗いていた。そして、優しげに鏡に微笑んだ。

 

 

 

「お父さんにも貴女のことは伏せておくわよ。墓まで隠し通しなさい。」

 

「ありがとうございますお母様。次郎く……山田くんは私にお任せを。」

 

「そうね、次に貴女が呼び方を変える時は『ダーリン』にでもなさい。」

 

「ふふ、もうそれは済ましてあります。私は『マイハニー』なんです。」

 

「期待してるわよ、妹さん。泣いて逃げ出さないことを祈っているわ。」

 

 

 

山田母に差し出されたタオルを受け取る田中双葉。そしてその顔を拭う。

タオルの下から現れた完璧な微笑に頷いて、山田母は彼女の肩を抱いた。

そして二人はすぐに離れて洗面台を後にし、男性陣の待つ居間へと帰る。

 

 

 

「ど、どうだった母さん?もしかして山田家に新メンバー参入なのか?」

 

「残念ですけど、彼女ツワリじゃなかったみたいですわね、お父さん。」

 

「ツワるわけ無いでゴザル!山田家のメンバーも一切増えんでゴザル!」

 

「そうでもないぞ。出せば生る、出さねば生らぬナニごともって奴だ。」

 

「げ、下品が過ぎますぞマイファーザー!田中双葉並に品性下劣ナリ!」

 

 

 

豪快に笑いつつ息子の背中を叩く山田父、そして赤面して睨むその息子。

口に手を当て笑う双葉嬢。そしてその光景を優しく見守っている山田母。

しかし何故かその場の女性陣の目だけは少しも笑っていなかったという。

 

 

 

 

 

藤沢市街では見慣れぬ改造作業服の大型バイクが市内を走り回っていた。

その先には肌側が少しだけ黒くなっている金髪の少年が逃げ惑っていた。

狭い街路を抜けて振り切ろうとする金髪少年。だが易々と回り込まれる。

 

 

 

「逃げられるわけねーだろーがバーカ!俺ら丸太の上でも走れンだよ!」

 

「ひ、ひぃぃ!もう逃げねえって!金か?!金だったら作るからさ!?」

 

「カンパるなってお達しなんだよ!ちょっとツラァ貸せやコラ、おお?」

 

 

 

バイクから降りた改造作業服の少年が、全く隙も無く金髪少年を掴んだ。

降りるスキをついて逃げ出そうとしていた金髪だが、その早業に驚いた。

広く開いたシャツの首根元から持ち上げて、改造作業着は金髪を睨んだ。

 

 

 

「テメエん所のヘッドがやられた日によ、見慣れねえ奴がいた筈だぜ。」

 

「知らねえって!ウチの集会はギャラリー禁止のオンリーだっつーの!」

 

「ウチのヘッドの写真撮ってた奴が居たんだよ!早く思い出せやコラ!」

 

 

 

金髪少年は立っていない。つま先は宙を浮き、地面を求めて揺れるのみ。

逃げられないと判った時点で金髪少年には反抗しようという意思は無い。

更に片手で持ち上げられているのだ、まさに彼は今『掌握』されている。

 

 

 

「ケツ持ちとか張り役とかいんだろが!そいつらから聞いてねえんか!」

 

「あ、わ、判った!張り役の名前教える!そいつに聞いてくれよ!な?」

 

「おーけーおーけー。素直な奴ってなー、その分長生き出来っからな。」

 

 

 

改造作業着は金髪少年を投げ捨て、彼の写真の裏にその情報を書かせる。

もし嘘だった場合には、写真は標的情報として回覧される事も伝達した。

金髪少年は思い知る。一方的な暴力による要求の理不尽さ、そして怖さ。

 

それを理解し彼はやっと大人になり、少し遅れたスタートを切れるのだ。

 

 

 

「この名前は……写真あったぜ!いよっし!こりゃ俺が一番乗りかぁ?」

 

 

 

三の隊の8人は、こうして手持ちの情報を駆使しながら獲物を追い込む。

無論大半は空振りに終わる。しかし彼らは決して諦めたりはしなかった。

諦める事は自分の立場の喪失になり、三狩屋からの折檻を受けるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして二宮と一之瀬はすっかり『アルテマオンライン』にハマっていた。

もちろんネットカフェ等には行かない。一之瀬の部屋が主な戦場である。

部屋の主である一之瀬は26インチモニターを繋いだ少し大き目のPC。

 

二宮はノートパソコンだったが、ケーブルを部屋のテレビに繋いでいた。

 

 

 

「イチ、普通の喰らいモーション後のディレイって強制回避だからな。」

 

「一瞬ピヨり演出が出るやつか?コンボでイケるんだったよな?確か。」

 

「そうだ。けど演出がたった2フレームだぞ?見切って出せるかイチ?」

 

「別に普通に見えんだろ。見切り避けも誰だって出来るんじゃねーか?」

 

「そんな化け物がホイホイいてたまるか。ま、俺はギリいけるけどな。」

 

 

 

アルテマオンラインは初心者向けではあるが、利用者は日本最大である。

その運営を支える高課金ユーザーはコアな人間であり、初心者ではない。

運と作業経過時間だけの勝負であればコアなゲーマーは見向きもしない。

 

プレイヤーによる決闘、『PVP』の出来栄えというのが重要な要素だ。

 

 

 

「そういやニノ、俺らレベル上げしねえでいいのか?皆レベル上だぜ?」

 

「例の新人担当の彼女がいるだろーが。そろそろ案内してくれんだろ。」

 

「彼女ぉ?!ありゃ男だろどう見ても!名前だって強そうなんだしさ!」

 

「いや、確実に女だ。しかも俺らくらいの若い女だって。間違いない。」

 

 

 

雑魚モンスターを相手にして仮想のPVP訓練をしていた一之瀬と二宮。

二人のキャラがいるフィールドに、突如背の低い亜人間キャラが現れる。

それは二宮が予言していた通り新人育成担当の『豪炎寺流星龍覇撃』だ。

 

 

 

【豪炎寺流星龍覇撃:楽しそうだね二人ともwでもここでレベル上がる?】

 

【姫宮アンジェリカ:・イマイチ狩場わからなくって、実は困ってます。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:すぐレベルの上がる狩場あるよw一緒に行こうかw】

 

【姫宮アンジェリカ:・まだレベル低いし困らせちゃうかもしれません。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:けどレベル低いとつまらないよ?フォローするしw】

 

【姫宮アンジェリカ:・ドラゴンとか来たら私ら即死しちゃうんですが。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:手ごわ過ぎるわwwwそりゃ私でも即死だってばw】

 

 

 

二宮は頭の中でアナグラムを組み立てながらチャットを打ち込んでいる。

向こうの少女は『た』『す』『け』『手(て)』と言ってきているのだ。

そして『い』『ま』『ド』まで書き込んだ。しかし『こ』が浮かばない。

 

 

 

【絶対超無敵豪快丸:・コマンドー大好き!来いよベネット!怖いのか!】

 

 

 

ウィンクしながら親指を立てる一之瀬。彼にもアナグラムは教えていた。

自分がいない時に豪炎寺が話したら、一文字目を書き残せと伝えたのだ。

だが二宮は教えた事を後悔する。彼は『自然に』アナグラムを使えない。

 

それは画面の向こうの彼女にとっても困難な状況を作ってしまったのだ。

 

 

 

「なんだぁこの馬鹿。何でいきなりコマンドーなんだ。変じゃねえか?」

 

「え、あの、判んないです……でも、多分この子、小さい子だから……」

 

「子供がコマンドー見るかよ!なんかチャットの癖も変だぞコイツラ。」

 

「わ、判ったわ。もうそろそろ、何処に住んでるかとか聞いてみるね。」

 

「そうそう、その情報待ってたぜ!無茶して逃げられるんじゃねえぞ?」

 

 

 

【豪炎寺流星龍覇撃:みんなどの辺に住んでる?私は飛行機が見えるよw】

 

【姫宮アンジェリカ:・似たような場所かも?東京の立川に住んでたよ。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:らっきーかもw私もそのへんw前に会ってるかもw】

 

【姫宮アンジェリカ:・今はもちろん内緒です。だって変な人怖いしね。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:例のストーカー殺人って奴かw信用ないなー私はw】

 

【姫宮アンジェリカ:・ルート検索で家来られたってニュースで見たの。】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:ていうか、別にそこまで知りたいわけじゃないしw】

 

【姫宮アンジェリカ:・ノート持ってウロウロしている豪炎寺さんが……】

 

【豪炎寺流星龍覇撃:ルート検索でPC持ち歩かないよw馬鹿にするなw】

 

 

 

二宮は画面を見て情報を整理している。彼女はこの辺と言っているのだ。

しかし彼女は『み』『ら』『例(れ)』『て』『ル』とも警告している。

山田ならば『面倒なことになった』と落胆する所だが二宮くんは違った。

 

笑顔を崩さず画面を見ている彼。自分から動いての面倒は大好きなのだ。

 

 

 

「うぉっほん!雄大、今日も出かけずにいたんだな。喧嘩は懲りたか?」

 

「げ、お、親父!見たら判るだろ!ニノと部屋でゲームしてたってば!」

 

「では二宮くんに本当の所を訊いてみるとするか。来なさい二宮くん。」

 

「疑り深いな親父!今一番イイトコなんだから!早く済ませてくれよ!」

 

 

 

扉を開けてやってきたのは一之瀬の父。相変わらずの鬼瓦の様な表情だ。

背筋をピンと伸ばし、腕を組んで、仁王像のように室内を睥睨している。

二宮はその場を抜けるとタイピングをして、鬼瓦仁王と共に部屋を出る。

 

 

 

「にのみー、雄大きゅん大丈夫?本当にケンカとかして怪我してない?」

 

「そこは大丈夫です。でも、もしかして厄介ごとに巻き込まれたかも。」

 

「なになに?おじさんに出来る事なら相談して?正義に反しなきゃね。」

 

 

 

鬼瓦仁王は、息子の事では眉が下がりっぱなしでソワソワするお父さん。

立川署長の一之瀬雄二郎のバカ父姿を知るのは、奥さんと二宮くんだけ。

特に二宮は一之瀬父に毎日のようにメールしての報告を日課としている。

 

 

 

「実は一之瀬くんのゲーム仲間の女子が、厄介事にあってるらしくて。」

 

「ほう……だけどゲームしてるんじゃないのか?特に平気そうだがな。」

 

「気のせいなら問題ないんです。でも一之瀬くんって正義の味方だし。」

 

「そうだね、雄大きゅんの正義感はパパ譲りだしね!かっこいいよね!」

 

「怪我とかさせない為にも、何か有った時にはおじさんが頼りですし。」

 

 

 

ピカレスクと言うほどではないが二宮は利用できるものには遠慮はない。

自分に仇為す暴走族の違法行為を彼に送ったりと、幾度か活用している。

だが彼は決して嘘を教えたりしない。情報を絞り印象を操作するだけだ。

 

二宮は被害少女が立川飛行場近辺にいる事と、同世代という事を伝えた。

 

 

 

「判った、にのみー。雄大きゅんには出来るだけ遊びに集中させてね。」

 

「ありがとうございます。一之瀬くんの事は俺に任せといてください。」

 

 

 

安心が出来たのか、二宮に大きく手を振りながら部屋を離れる一之瀬父。

そんな親友の父親に清潔な笑顔で小さく手を振りながら会釈をする二宮。

ドアノブに手をかけて部屋に戻る前のホンの一瞬、彼は悪い笑顔を出す。

 

 

 

「また俺を見張れって言ってたろ!ホント信用してねえんだよな親父!」

 

「そう言うなイチ。親父さんだって立川の正義と平和で忙しいんだぜ?」

 

「ま、そ、それはそうだけどよ……あーもう!早くゲームに戻ろうぜ!」

 

 

 

少し拗ねたような顔でゲーム画面に向かいマウスを持ち直す一之瀬くん。

苦笑しつつノートパソコンに二宮が向かうと初めて見る表示が出ていた。

通常の色のチャットメッセージではない。派手な色のメッセージだった。

 

 

 

[豪炎寺流星龍覇撃:買物行った!ねえ見えてる?!見えてるでしょ?!]

 

 

 

受信キャラ指定チャット、『ささやき(ウィスパー)』と呼ばれる機能。

二宮はこの時が来るであろうと、使用方法はヘルプ機能で確認済だった。

あらかじめ考えていた文を手早く打ち込んでいく。動きには淀みが無い。

 

 

 

[姫宮アンジェリカ:ロガーが入ってるかも。落ちついて、気をつけて。]

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の映研部室では最下級生だけのまったりとした時間が過ぎていた。

アニメ班の阿形と石川でさえ班長抜きでは出来る範囲には限界があった。

色々初心者な榎本と宇佐美では、茹で上がるほど頑張っても無理である。

 

 

 

「アガっちゃぁぁぁん!榎本くんと私だけじゃ無理だよー!助けてー!」

 

「二宮センパイって本当に何も残さない人なんだね。困ったもんだわ。」

 

「――でも確かにずっと一年だけじゃ無理があるわ。アニメ班も、ね。」

 

「もうさ、受験諦めさせて山田センパイ呼ぼうぜ?多分あの人来るぜ?」

 

「馬鹿いってんじゃないの榎本。ホントに来てホントに浪人するわよ。」

 

 

 

そんな特別教室校舎2F端の社会科教室に、突如招かれざる客が現れる。

勢い良く開いたスライドドアから見慣れない男女が二名覗き込んでいた。

映研の4人は首をかしげながら地味目なその二人をじっと見つめていた。

 

 

 

「まだ人が居るじゃないか土屋。ここは空いたハズじゃなかったのか?」

 

「申し訳ありません郷田部長。私の情報では確かに無人になったと……」

 

 

 

限界に挑戦しているのかと思わせる、乱れの無い正確な七三分けの少年。

限界に挑戦しているのかと思わせる、乱れの無い正確なおさげ頭の少女。

映研の誰もが心の中で確信していた。こいつら勉強が大好きに違いない。

 

 

 

「すみませんけど、貴方達どなたです?ここは映研部室なんですけど。」

 

「我々は郷土研究部の者だ。ここが我々の部室になったと言われてね。」

 

「――間違えたのでなければ、確認ミスですね。ここは映研ですから。」

 

「映研は部室を手放すと聞いているぞ。部員を手放さない見返りにな。」

 

 

 

4人が4人とも互いに向かい振り返り、互いに目線で何かを訴えている。

4人が4人とも互いに向かい頭を振り、互いに与り知らぬ事を確認した。

そして榎本と阿形が立ち上がり、そんな二人の前にツカツカと歩み寄る。

 

 

 

「こちらの顧問からそんな話は聞いておりません。お引取りください。」

 

「ま、そーいうこったな。いきなり来て『よこせ』じゃ無理だろ普通。」

 

「し、しかし、もう我々の部室になるはずだし、下手に汚されても……」

 

 

 

そこで二人が視線で合図をする。阿形が空手の型を構え榎本が向き直る。

阿形がすばやい運足で榎本に近寄り、正拳突きからの鋭い足払いを打つ。

鈍く激しい音が部屋に響くが、受ける榎本は平然とその場で立っていた。

 

そのやりとりを見て、線の細い七三分け少年とおさげ少女が気色ばんだ。

 

 

 

「映画では殺陣とかあるんでその練習です。せっかくだし見てきます?」

 

「俺はゼンゼン平気だがな、あんたら巻き添え食らってもしらねえぜ?」

 

「な、何が映像文化だ!文化なんて何も無い、ただの脳筋じゃないか!」

 

「――それはちょっと私も同意したり。でも真面目に映画もしてます。」

 

 

 

郷研の二人は口々に毒づきながら部屋を後にした。腹を抱えて笑う4人。

ただし郷研部員らの指摘が全て間違っているのかと言えばそうでもない。

実際に今いる4人のうち3人は言葉より先に体が動いてしまうタイプだ。

 

 

 

「――先生が何も言ってこない。つまり決断を山田先輩に任せたのね。」

 

「でしょーね。もしかして、山田センパイが3人を退部させるとか……」

 

「ないかなー。あの山田センパイじゃー、後輩を切るとか無理かなー。」

 

「チームの為にメンバー切るのって珍しかーねーんだが、しかしな……」

 

 

 

彼らの脳裏に浮かぶのは、いつも妙にカッコつけてニコニコとする部長。

そして、その脇でおどける一之瀬、呆れる三狩屋、ニヤついている二宮。

しかしその光景は社会科教室にあった。他の場所でなく常にココだった。

 

 

 

「榎本くん、あのねー、部活機材ってさー、どこに置くか知ってるー?」

 

「なんだよ宇佐美急に……えっと、やっぱ普通は部室なんじゃねえの?」

 

「部室が有るところはねー。もし部室がなかったらさー、どこかなー。」

 

「どっか適当に置けばいいだろ。体育館倉庫とかに空いてるじゃんか。」

 

「ぶっぶー。答えは『捨てられる』なんだー。部室って大事なのよー?」

 

 

 

宇佐美は一年部員の中で唯一、映研以外の部活事情を知っている人物だ。

もしも部室以外に部の機材を置くと、紛失時の管理責任上の問題になる。

無論責任者が認めれば置いてもいいのだが、基本的には許可はされない。

 

部室のない部活は機材を持てない。だからこそ部活は活動場所を求める。

 

 

 

「でも待てよ、この教室は確か3年主任の瀬田ヶ谷の管理教室だろが。」

 

「そうだよー。普通に考えるとさー、先生の許可下りないんだよねー。」

 

「――じゃあ、どうして郷土研究部の人は、あんな事いったのかしら。」

 

「判ったわ宇佐美ちゃん、そんだけ郷研の顧問が偉いってことなのね?」

 

 

 

阿形は新入生歓迎式典の時に貰ったクラブ紹介の冊子をカバンから出す。

郷土研究部の項目には、榎本にさえ有名なとある人物の名が記してある。

『@郷土文化研究部…………<顧問:明石屋鶫(あかしやつぐみ)>』。

校内の誰もが知るその名は都立国立国分寺立川高校の教頭先生であった。

 

 

 

「ウチも学年主任が顧問ってかなり凄いと思ってたけど、上がいたか。」

 

「――山田先輩がいれば、こういうの、嬉々として教えてくれるのに。」

 

「お話だけでもさー、しにいこうよー。受験だって息抜き必要かもー。」

 

「だけどよ、山田センパイんちってしってるか?俺しらねえんだけど。」

 

「大丈夫ー。山田センパイんちだったら、アガっちゃんが知ってるー。」

 

 

 

頭を抱えうずくまる阿形。それを聞き険しい表情で阿形を見つめる石川。

実は石川は合宿の帰路の途中で、阿形に山田の住まいを訊いていたのだ。

阿形は山田との約束があり、自分には全く判らぬと即座に返答していた。

 

 

 

「だってー、山田センパイんちとアガっちゃんちー、超ご近所だしー。」

 

「あ、あの、教えるからさ、それ以上は言わないで、宇佐美ちゃん……」

 

「――――よく、判ったわ。阿形さん、別に私、ぜんぜん怒ってない。」

 

「いや、あのね?別に意地悪してたとかじゃなくてね、心配してて……」

 

「どーでもいいから行こうぜ?センパイんち何処か判ってんだろ阿形?」

 

「どーでもよくないわよ馬鹿!氷柱代わりに足二本とも叩き折るわよ!」

 

 

 

必死に頭を下げて何とか機嫌を取ろうとする阿形。そして無表情の石川。

なんで渾身のローキックを何発も受けているのかさっぱり判らない榎本。

そんな不幸な榎本の頭を微笑みつつ撫でる宇佐美。そして歩き出す4人。

 

映研部の一年生は、なんだか不思議な団結を見せつつ山田家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

『写真の元が判ったッスよ三狩屋センパイ!』

 

「よくやった。判った事全部聞かせてくれ。」

 

 

 

そして立川駅近くのインターネットカフェに併設されている、ダーツ場。

プレイの区切りが付き、椅子に腰掛けて一服しながら休んでいた三狩屋。

そこでまさかの吉報を受け、遊戯部屋を出て電話が出来る場所に移った。

 

 

 

『集会から結構離れた所で、でっけーカメラ持った奴が居たそうッス。』

 

「そいつは誰かって所が聞きたいんだが、そこは判んなかったんだろ?」

 

『申し訳ねッス。ただ、ジイサンの話だとあの辺のモンじゃねえとか。』

 

 

 

それを聞き目頭が熱くなる三狩屋。隊員達の苦戦が目に見える様だった。

せいぜい近所の不良に声をかけて脅すくらいで彼は終わると思っていた。

まさか町のおじいさんに声をかけてまで情報を集めるとは思わなかった。

 

 

 

「爺さんにも聞いたのか。もしかして、ご飯食べたの忘れた系じゃね?」

 

『いや、ジイサン地元じゃかなりの、えーと、地引網?らしいんスよ。』

 

「爺さん投げて魚取るとかキチクだろ!それを言うなら『生き字引』!」

 

『そ、それッス!なんか、すげえ化粧っ気のない地味な女らしいッス。』

 

「この短時間でよくも調べ上げたもんだな。三の隊はやっぱ優秀だわ。」

 

 

 

部下をねぎらって作戦の終了を伝える三狩屋。無論終了は隊員にとって。

ダーツの矢を3本ほど右手で弄んだ後、器用に一本づつ放り上げている。

やがて横殴りにする様に3本とも手中に収めると、一気に的へ投げ放つ。

 

 

 

「ウチのジョシ子ちゃんたちも、センパイ用の女も、箱根だったよな。」

 

 

 

ダーツの的から電子音が響く。三狩屋が遊んでるのはオンラインダーツ。

刺さり位置で仲間とモメたりすることはない。センサーが全て判断する。

獲得点数は的上のモニターに表示され、誰とも知らぬ相手と勝負できる。

 

 

 

「まさかの新キャラ登場って奴か。面倒くせえ事になってきやがった。」

 

 

 

彼の投げた矢は真ん中を全て外しており、綺麗な正三角形を描いていた。

命中箇所は円の径の中央に描かれた細い帯。所謂トリプルリングである。

それを正三角形に並べて命中させる事は中央に集めるより遥かに難しい。

 

 

 

「しゃーねえ、女絡みならニノにでも相談するか。手柄はお預けだな。」

 

 

 

ダーツの矢を刺さったままにして鼻歌交じりで部屋を去っていく三狩屋。

飲みかけのジュースのコップも吸殻だらけの灰皿も置き去りにしたまま。

これはネットカフェでは重大なマナー違反であるので真似しないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして映研部新入生組は、やっとこさ山田家の前へとたどり着いていた。

国立国分寺立川高校はE電やバスとのアクセスが良すぎる学校であった。

生徒の殆んどは交通機関の利用であり、山田家は歩くには少し遠かった。

 

 

 

「山田センパイんちって、けっこうデカイ家じゃん。ちょい意外だな。」

 

「そうねー。山田センパイって、貧乏な係長っぽい雰囲気だもんねー。」

 

「山田センパイのお父さんって、ムキムキでかなり強そうなんだよね。」

 

「――しっ。みんな、ちょっと隠れて。中から、誰か出てくるみたい。」

 

 

 

ガチャリと音を上げて扉がゆっくり開く。そこから現れたのは長い黒髪。

ピンク色のカチューシャ、大きめのメガネ、半笑いの微笑、そして美女。

山田家の玄関から出来てた人物は、美術部部長である田中双葉嬢だった。

 

 

 

「これからはいつでも好きな時に来ていいぞ!家主たるこの俺が許す!」

 

「ありがとうございますお父様。という訳で山田クン今後とも宜しく。」

 

「ヨロシクじゃないっ!然るべき外交ルートを通じて根回しして来い!」

 

「気にしないで来ていいのよ双葉さん?あなたは他人じゃないのだし。」

 

 

 

両親と客との間でピョンピョンと飛び跳ねつつ必死に反論する山田くん。

そんな彼を無視して笑みを浮かべる双葉、豪快な山田父、微笑の山田母。

そして、たった一目で今ここで起きている状況を全て把握した新入生達。

 

 

 

「(あー、山田センパイとうとう落城ね。堀がぜーんぶ埋まってるわ)」

 

「(田中センパイ本当に素早いよねー。何か野生動物じみてるよねー)」

 

「(情けなさすぎるぜ山田センパイ……ありゃ完全に負け犬じゃんか)」

 

 

 

そこで阿形は自分の右脇から飛び出した人影に気がつき、手を伸ばした。

しかしその緩慢な動きの影に反射神経の優れた彼女が止められなかった。

その影の正体は石川。気がつくと彼女は山田次郎の前に辿りついていた。

 

 

 

「――――山田先輩、私、大事な、お話があって、今日は、来ました。」

 

「おおっ!石川さんじゃないか!よく俺んちが判ったね!ささ中へ……」

 

「――――――私、今日で、映研を、辞めさせて、もらいます、から。」

 

 

 

硬直する山田次郎。

睥睨する田中双葉。

困惑をする山田母。

把握できぬ山田父。

 

 

 

 

閑静な住宅街の夕暮れ。緩慢に流れる関係者の時間。

夏の黄昏はとても長い。夜の帳が降りるのはまだ先。

しかし山田くんの目の前には真っ暗な緞帳が見える。

 

 

 

 

 

映研の夏、終幕が見えるのはまだまだ先の様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく。




田中さんが暴走してるように見えるかもしれません。
気のせいです。気のせいですから。絶対にキノセイ。

あと、後輩が有能すぎる様に見えるかもしれません。
気のせいです。気のせいですから。絶対にキノセイ。

そして、更新ペースが遅くなってるかもしれません。
気のせいです。気のせいですから。絶対にキノセイ。

SS書きとは深謀遠慮でSSを完璧に組み立てる存在なのです。
何か疑問に感じてもSS書きによる意図が有っての事なのです。
信じるのです。信じてください。信じるものは救われるのです。

決して恋姫無双を今頃買って遊んでいる訳じゃ有りませんから!




では、また次のお話でお会いしましょうw

ではではw
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